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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
10章.NPC・クライシス(主人公視点:ドク)

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#7-1.トリステラは今日も穏やかに微笑む


 空腹を満たす為の食事だが、折角なら美味い店で、という事になり、以前プリエラと一緒に入った店へ向かった。

街の南側にある……確か、『ブルー・ブルー・マウンテン』という店だった気がするが……なかなか見つからない。

「ドクさん、もしかして店を探してるのかい?」

「ん……? ああ、以前プリエラと来た事がある店でな……そういえばサクヤもいった事がある店だって言ってたな」

「私が……ですか?」

「ああ、あいつはそう言ってたが……」

もしかしたら色んなところに入った事があるから特定できないのかもしれない。

サクヤは左右に首を傾げ、数秒、考え込むように口元に手をやっていた。

「あ! もしかしてブルー・ブルー・マウンテンでしょうか? この辺りだとそこが一番印象深いです」

「お、それだそれ。ちょっと場所が思い出せなくてな。サクヤ、解るか?」

「はい。大丈夫ですよ。こっちです」

情けないことながら、俺が無理に探しながら歩くよりは、サクヤに先導してもらった方が確実である。

苦笑する一浪をよそに、先頭をサクヤに代わってもらい、先を歩くその小さな背を追いかける事にした。




「いらっしゃい……あら、貴方たちは」


 古びた白レンガ造りの喫茶店。

その扉をくぐると、木造カウンターの向かい側、例によってあの店主が、グラスを磨きながら迎えてくれた。

カウンター奥の棚の上の人形も、不思議とこちらを見て歓迎しているように微笑んでいる。

「こんにちは。また来ちゃいました」

「よう」

「ども~」

サクヤは何度か来た事があるらしいが、一浪は初めてながら緊張した様子はない。

この辺り、プリムローズみたいに入るだけで胸がバクバク鳴るような造りではないのが幸いしているのだろう。

俺自身、こういうシックな造りの店というのはむしろ隠れ家のような感じで、落ち着けるものだと思うのだ。

「確か、サクヤだったかしら。そちらのバトプリさんともお知り合いだったのね。意外なつながりを見た気がするわ」

「同じギルドの人達なんですよ。今日はまだ、大丈夫ですか……?」

「ええ、もちろん。ゆっくりしていって頂戴」

サクヤの問いかけにも愛想良く微笑んでくれる。

常連には優しい店主なのかもしれない。



 渡されたメニューを眺めながら、あれやこれや決め、お冷を飲みながら一息つく。

空腹だったのもあるが、方々を探し回って結構疲れていたのだ。

勿論ミズーリの事は気にはなるが、だからと限界を超えて動き回って、戦闘にでもなって力が発揮できなくなっては本末転倒というもの。

休むべき時には、しっかり休まなくてはいけない。

「……」

一浪も、メニューを決めてから少し、落ち着かなくなっている気がするが、それでも無理に急ごうとはしていないのだから。



「お待たせしたわね。ブラックブラックカレーとシナモンティー、アムレンシスのきのこパスタとエンドスフィアのストレート、それからオムライスとオレンジジュースよ」

「カレーは俺だな」

「わぁ、きのこパスタ、相変わらず美味しそうですねえ」

「オムライスは俺ね」

それぞれ出された皿を受け取り、食事が始まる。



「~♪」

特別雑談などは挟まず、空腹のままに次々口に入れていたのだが、中々に美味い。

サクヤなどは幸せそうにくるくる丸めたパスタを口に入れているが、その度にほっぺたに手を当ててニコニコ笑うのだ。

とても可愛らしい仕草だった。

やはり可愛い女の子がやる仕草というのはどれも可愛く見えるモノなのだろうか。

この子の場合、リアルでやっていても可愛く見えるだろうから反則じみている。

「サクヤのソレ、見慣れないキノコが入ってるけど、美味い?」

「美味しいですよ~。なんて言いましたっけ、毒キノコが入ってるんです!」

「うぇ」

「マジかよ、大丈夫なのか……」

毒キノコと聞けば心配になってしまうが、サクヤは幸せそうである。

「別にそのまま入れてる訳じゃないわよ。きちんと毒抜きしてあるわ」

カウンター向こうの店主が、特に声色を変えるでもなくこう言ってくれたので安心はするが。

それにしても、毒キノコとはまた。

「毒キノコ、おいしーです!」

「いいなあ……今度来たら試してみよう」

「チャレンジャーだな一浪」

「いや、だって、話題性あるじゃん」

多分、その『今度』はミズーリと一緒に来る前提なのだろうが。

それが当たり前になっているくらいには、一浪にとって、ミズーリは大切な存在になっていたのかもしれない。



「一浪のオムライスはどうなんだ? なんか変なモノ入ってたりしてるのか?」

「俺の方は特には……ただ、中のシーフードケチャップライスが良い感じに美味い」

「ほう」

俺的に、オムライスはちょっと子供っぽい食い物のように思えたのだが、案外ありなのかもしれない。

時にはこうして子供心を取り戻すのも、男には大切に思えた。

「一浪さんは、紅茶は飲まない人なんですか?」

「ああ、俺はジュースとか栄養飲料メインだなあ。紅茶とかコーヒーとかは、ちょっと気取っちゃってて苦手っていうか」

「ほう」

「なるほど……残念ですね」

コーヒー党の俺達にとって、その一言はなんとも複雑な気分にさせられるものであったが……苦手ならば仕方ない。

「サクヤ、今度一浪にプリムローズのコーヒーパフェ食わせようぜ」

「おお~、いいですねえ。きっと価値観が変わると思います」

「何企んでるんだよお前ら……」

ノリノリで一浪をコーヒー党に洗脳しようとしていた俺とサクヤに、一浪は苦笑ながらのツッコミを入れてくれる。

大分、ノリが戻ってきた気がする。



「ドクさんのカレーは美味しいですか? 変に激辛だったりしませんか?」

「ああ、俺のカレーはかなり美味いな。甘みの中にほどよい辛さがあって、どこかコーヒーっぽい香りも感じられて……良い」

何故かちょっと心配そうに俺のカレー皿を見ていたサクヤだったが、出された大盛りカレーはかなりの逸品だった。

勿論味も良い。これならいくらでも食えてしまいそうで、既に大皿の半分近くは腹に収まっている。

「……ふふん」

見ると店主が少し自慢げにドヤ顔をしていた。

カレーを褒められるのは嬉しいのかもしれない。

「そうですか……良かった。以前一緒にきた人は、激辛だったらしいので……」

「アレはあいつに対しての当てつけなだけで、普通のお客さんに出すようなモノはちゃんとしたカレーよ」

「あはは……そうでしたか」

サクヤの説明に横から入ってくる店主は、どこか楽しげであった。

対してサクヤは苦笑い。

一体サクヤが来た時に何が起きたのだろうか。



 三人が三人、この店の美味に満悦し、食後の飲み物を楽しむ。

それほどのんびりとしている時間はないが、それでも食後はゆったりとしたい。

思い思いに、窓の外を眺めたり、店内を見て回ったりしながら時間を過ごした。


「ごっそさん。美味しかったよ」

「ごちそうさまでした」

「ああ、美味かった。ごちそうさまな」


 店を出る時にはもうそろそろ陽が落ち始める頃。

すっかりリフレッシュした俺達は、美味い料理と飲み物を提供してくれた店主に礼を言いながら会計を済ませ、店を出る。

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしているわ」

物静かながら、丁寧な最後の一言に、「また来よう」という気になってしまう。

今回は場所を忘れてしまったが、きちんと覚えておこうと、店の場所を目に焼き付ける。


-Tips-

オムライス(アイテム・食品)

炒めた飯を卵焼きで包み込む料理。

卵料理に分類され、コカトリスの卵やハクリュウの卵、猫の卵などが利用される事が多い。

中身に該当する炒め飯は、主にはケチャップを使用したチキンライスであることが多いが、調理人によっては普通のチャーハンやドライカレーなどが入る事もある。

一手間掛かる料理ではあるが子供や女性が喜ぶ逸品であり、カレーほどではないが広い層に支持される料理であるとされている。


尚、回復アイテムとしての効果自体は高いものの、食品カテゴリーの欠点そのままに完食までに時間がかかる事から回復効率はそれほど高くないと言われている。

空腹を満たす意味では品質に関係なく満腹状態にまで回復する腹持ちの良さを誇る。


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