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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
10章.NPC・クライシス(主人公視点:ドク)

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#5-1.楽園に至る道


 夜の花園門は、この辺りではトップクラスに危険区域に設定されている地域の一つだ。

巨大な蜂型モンスターを無数に連れた女王バチ『マザーミストレイア』や無数の猛毒棘を付けた蔓植物『ベラドンナ』など、ボスクラスの夜行性巨大雑魚モンスターがうようようろついている。

目に見えている門をくぐり、次のマップへのワープゾーンに入りさえすれば後は楽なものだが、そこに至るまでが生半可ではないデンジャラスゾーンだった。


「ドクさんっ、足下!」

「うぉっ」


 走りながらだが、普段単調な口調のマルタが、珍しく声を大に俺の足元を見ていた。

確認などする暇もなく、まずはその場から真横へ飛び退く。

マルタもさっとそれを避け、俺とは逆側へ。

直後、『ズン』と、地面から巨大な針が数本、突き出してきた。


「……フレッシェントモールか」

「動き続けないとまずいわね」


 互いに頷き、すぐに飛び退く。

再び、二人のいた場所から突き出る針。

まともに喰らえば一撃で即死か、そうでなくとも重傷と麻痺と気絶という最悪なコンボが待っている。

その場にとどまるのは危険とは思いながらも、一直線に走る事も出来ず、蛇行したようにあちらこちら、進んだり戻ったりしながら地中からの攻撃を避け、その隙に少しずつ前に進む。


「ちくしょっ、面倒くせぇっ」

「魔法職さえいればこんな奴なんとでもなるのに……っ」


 幸い、俺もマルタも手痛い一撃を浴びることなく、回避には成功しているが。

こいつの所為で急がなくてはいけないのを足止めされてしまい、焦りばかりが募ってゆく。


 この『フレッシェントモール』という巨大な針モグラは、基本的に地中からの攻撃以外はしてこようとしない。

地上ではただでかくて素早いだけの敵なので土中に居るのを暴きさえすればどうにでもできるのだが、そもそもほとんどの攻撃が届かない深さに居るので、魔法でもなければ引きずり出す事すらままならないのだ。

一応、このように突き出す針を攻撃すれば折る事くらいはできるが、折った直後からすぐに新しい針が生えてくるらしく、折り続ける事に意味はあまりない。

ダメージにもならないし、追撃を喰らうリスクも高くなるので、基本、魔法職以外は回避し続ける事しかできないのだ。


 一面針が突き抜けた後の穴だらけになってゆく。

走り難く足を取られやすくもなり、焦りばかりが前に出てくる。


「……最悪の状況だわ」

「うん……?」


 加えて。

何かに気づいたマルタが遠くを見ているのに気づき、針を避けながら視線をそちらに向けると……黒い霧の様な何かが目に入った。


「ミストレイア……」

「おいおいマジかよ。マルタ、こいつはちょっと……」

「……やだ、何これ。すごい」


 驚愕と共に襲い来る絶望。

女王蜂『マザーミストレイア』が、配下の巨大蜂を引き連れこちらに向かってくるのが見えてしまった。

俺も勿論そうだが、マルタも対単体攻撃しかできないので、こいつらだけでもかなり不利な相手だ。

少なくとも、足元を気にしながら戦う事が出来る相手ではなかった。


「こんな事が起こるなんて……ふふっ、ドクさん、素敵ね!」

「笑ってる場合かよ!?」


 そして、そんな状況でありながら、最悪の状況と理解しながら、マルタはとても楽しそうであった。

――畜生サイコパス女め。すごくいい笑顔になりやがって。

そんな事を考えていると、また足元から針が突き出てくる。


「うひっ――」

「走り抜けるのも難しそうね。全く、どうやって私たちの居場所を地下から探り出してるのやら……」

「まずったなあ。ミストレイアくらいならダッシュで逃げ切れるかと思ったんだが……モグラまでいるとなっちゃ、逃げるに逃げられねぇ」


 何の準備もなかったのが痛すぎた。

急ぐならば尚の事、きちんと準備を整えてから向かうべきだったのかもしれない。

それだけ俺達は焦っていたのだろうが、それにしても、これはお粗末すぎる。


 フレッシェントモールは、土中に居ながら人よりも早く動き回り、確実に人の足元に来るように止まる。

多少の衝撃など伝えもしない地中にありながら、一方的に正確な攻撃を繰り出してくるのだ。

やってくることはワンパターンで一定間隔でしか攻撃してこないが、足が速いので直線で走って逃げようとすると確実に先回りされて『ズドン』とやられる。

だからフェイントも込みで逃げ回らなくてはいけない、というのにミストレイアの登場である。

一種類ごとなら何てことないと思っていた俺達も、二種同時湧きとなると色々覚悟が必要になってきた。


「……仕方ねぇ。マルタ、俺は一撃わざと喰らうから、お前はその隙を見て先に抜けろ!」

「ドクさんが喰らう役なの? 私ならすぐに撤収もできるけど……」

「お前だと即死しかねねぇだろうが。俺なら見切って大けがで済むからよ」

「……まあ、いいけれど」


 もう羽音まで聞こえるほどの距離に迫ってきているミストレイアの軍勢。

これをどうにか振り切るなら、今のうちにモグラの攻撃をどうにかしないといけない。

一撃くらいさえすれば、モグラの追撃はそちら一極に傾けられる。

その間にマルタが離脱してくれれば、少なくとも一人は楽園に送り出せるという作戦だ。


(……見切れる訳ねぇけどな!)


 大見栄を切った形になるが、英雄願望で言い出したことではない。

ただ、軽装で手足の露出も多いマルタよりは、幾分衣服が厚ぼったい俺の方が、まだ生き延びる可能性が高いというだけの話だった。

暑いからとアロハシャツをきたりしてなくてよかったと心底思う。

マルタも俺が見栄を切った事くらいは理解しているのか、回避に専念する。

とにかく、マルタがかわせなくては意味がない。


「来るわよっ」

「おうっ」


 こういう時、マルタの勘の鋭さはありがたい。

モグラに気づけたのもこいつのおかげというのが大きいが、来ると解っているなら、多少は身構えができるのだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ドクさん耐えてね!」


 ザクリと、足元から突き出された針を、かわしそこなった風に見せて脇腹に喰らう。

脇腹だけでは済まず左腕もぶっ刺されるが、幸い串刺しにはならずそのまま勢いで真上に弾き飛ばされていた。

痺れる左腕。落ちながら、マルタが一直線に駆けてゆくのが見える。

流石ハンターだけあって足は速い。すぐにモグラの攻撃圏内から外れていった。

追撃は、俺の真下から繰り出される。マルタはもはや眼中にないらしい。

この、『確実に仕留められる奴から仕留める』というモグラの習性は、このような状況下、大変ありがたかった。


「――死ぬつもりなんて、ないけどなぁ!」


 落下しながらの転移。

直後、頭を貫くような一撃が目の前に広がり、紙一重で成功したことを理解する。


「……うぐ」


 激痛に歯を噛みながら、動く方の手で横っ腹を押さえて飛び退く。

気絶しなくてよかった。していたらここでサヨウナラだった。

ここからは、マルタに向いていた分まで俺に向くようになる。

更に、ミストレイアが接近。俺の上にブンブンと羽音を立て、巨大なその姿を見せつけていた。


(ここは逃げとくか)


 捜索に加われないのは無念だが、集団相手に足元の不自由を感じながら戦うのは容易ではない。

俺にとっては、フェニックスの様な無茶苦茶強い単騎よりは、このミストレイアのようなそこそこ強い奴が無数にいるという方が辛いのだ。

どれだけ潰してもキリがなく、だというのに相手は攻撃力を下げずに襲い掛かってくる。

俺は盾役でも何でもないので、どんな軽易な攻撃でも喰らい続ければ紙切れのようにずたずたにされてしまうのだ。

なので、無理せず退こうか、と思っていたところだったのだが――


-Tips-

花園門(場所)

ゴディバの花園へと続く道の終着点にある、巨大な門が幾重にも連なるマップ。

花園の入り口だけあって緑豊かではあるが、それ以上に門の威容には見る者が圧倒されると言われている。


直接花園に転移・転送する事はできない為、このマップが花園に入る為の転移・転送限界点となっており、昼の間は花園目当てのプレイヤーの姿を多数見ることができる。


昼の間は花園同様平穏なマップで、比較的モンスターも弱いものしかいないが、陽が落ち始めると一変し、強力な巨大モンスターが多数活動し始める為、危険区域となっているなど、昼夜の落差が非常に激しい。


このマップは昼夜で出現するボスモンスターの種類も変わり、昼の間は初心者向けボスモンスター『生ハムライダー』が、夜の間は上級ボスモンスター『クリスタルバウ』が出現する事で知られている。

クリスタルバウは非常に凶暴だが、希少なクリスタル系素材を多数ドロップする為、装備製造にこだわりのある上級者にはよく狩られている。


主なモンスター(昼):プチモール、まるキノコ、メタルバウ、生ハム、ポイズンバイパー

ボスモンスター(昼):生ハムライダー

主なモンスター(夜):フレッシェントモール、マザーミストレイア、ジャイアントハニー、ベラドンナ、シャドウパイパー、エンドシーカー

ボスモンスター(夜):クリスタルバウ

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