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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
10章.NPC・クライシス(主人公視点:ドク)

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#3-4.捧げられし祈りの本質


 赤の世界は、白一色へと染まる。

奇跡とは、神々への祈りによって発動させる、簡易的なコマンド。

祈るという行為を神という超越者に向け行う事により、人知を超えた力を発揮できるというもの。

ミゼルは教会の神が商業の神フランチェスカであると言っていたが、では、別の神に祈ればどのようなことになるのか。

これがその、一つの結末である。

神とは、決して一元的な存在ではない。

祈りを捧げる相手が異なれば、当然ながら、効力も異なるのだ。

フランチェスカを凌駕する奇跡の効力。

絶大な白の超奇跡は、全てを吹き飛ばし、山肌を白へと変幻させた。


『……あ、あぁ……ふ、ぅっ――』


 熱でケロイド状になっていた全身が修復するまでの十分ほどの間に、フェニックスも意識を取り戻したらしく。

少女を通り越して幼女のような外見になってしまっていたが、それでも流石『命』の属性だけあって、浄化されきった身体が瞬く間に修復されていくのが見えた。


「よう幼女。随分可愛らしい顔になったな」

『あん……ど、ドク。こんな、隠し玉を持っていたとは、思いもしなかったぞ……?』

「そりゃそうだ。ギリギリまで使わねぇから隠し玉って言うんだ。お前はそれを俺に使わせたんだぞ。誇りに思え」


 正直に言うならば、あんな奇跡は俺としても使う気は更々なかった。

使わないとどうしようもないから使っただけで、本当ならいつも通りさっさと転移して締め落とすなり地べたの中に転移させて窒息させてやるつもりだった。


 あの奇跡――『キリエ・ラウトルギア』は危険すぎる。

少なくとも他人がいる状況では使えないし、今のところ失敗はしていないが、失敗した時にどうなるのかが解らない。

発動にリスクが伴わないのが奇跡と言われているが、それはあくまで女神フランチェスカを奉じている場合に限られるのではないかと、俺は思うのだ。

そういう意味では、これは思い付きで使った奇跡がたまたま上手くいっただけで、本当は知らず知らずの内にそのリスクを背負い込んでいる可能性もある以上、迂闊に使うのは避けたかったのだ。

少なくとも、処罰対象にならない以上はゲームの仕様範囲内のスキルだと思いたいが。


『……悔しいのう。挑戦者はお前だったはずなのに、いつの間にか我が挑戦者の側になっているようじゃ』

「勝者は俺だからな。それでも、転移妨害されたのは驚かされたがな」

『……我とて、成長はするのじゃ。いつまでも子供のままではない』

「確かにさっきの大人バージョンは色っぽかったが、本体がこんな幼女じゃ欲情もできねぇって」


 こいつの本来の姿は、こんな感じの幼女っぽい姿である。

完膚なきまでにぼこぼこにして初めて見る事の出来る姿なので、ゲーム内でも数人しかお目にかかっていないと思われる姿ではあるが。

こうなるともう、ただのツンデレ幼女にしか見えないのでどれだけ愛されても(なび)く気にもなれない。

一人称もいつもの『我』に戻ってしまっている。

完全に二人だけの世界にならないと『私』にならない辺り、実はすごくシャイなのかもしれない。


『むぅぅ……悔しいのう。こちらの世界では若々しくありたいと思っておったが、まさかこんな幼女の姿になるとは思いもせなんだ。本来は色気ムンムンで見た者が振り向かずにはいられぬような妖艶な美女で――』

「それはいいけどよ。実際問題さっきの奇跡喰らってどうだった? 前に使った時は一瞬で何もかも吹き飛んじまって、俺自身も気が付いたら全部片付いてたみたいな感じだったからよ、喰らった側の貴重な意見が聞きたい」

『人を覚えたてのスキルの実験台にするな!? 我は仮にも魔神だぞ!!』

「その魔神を倒したのが俺だからな。感想を言うのは敗北者の義務だぞー、ほれほれ」

『う、うぅ……なんというむごい扱いじゃ。我にも魔神としてのプライドや、乙女としての尊厳というものがあるというに。なぜこの男はこんなにも鬼畜なのじゃ。悪魔じゃ、悪魔より悪魔じゃ……』


 悔しげに涙をぽろぽろこぼしながらも、その場に座り込み、恨みがましそうに下から見上げてくる。


『無茶苦茶、痛かった。我は命の属性故死ぬ事はないはずだが、それでも死ぬかと思ったぞ。ちょっと怖かった』

「なるほど、一応ダメージ判定的なものはあるのか」

『恐らく浄化的な効果を発生させる類の奇跡なのだろうが……地形諸共の浄化など聞いたこともないぞ。お前、一体何に(・・)祈りを捧げたのだ……?』

「んー? ああ、女神リーシアだな」

『なんてものに祈り捧げとるのじゃお前は!?』


 信じられんわ、と、勢いよく立ち上がりツッコミを入れてくる魔神。

俺としてはそんなに驚かれるのは心外というか、不思議である。


「だってよ、リーシアってフランチェスカより上の女神様なんだろ? だったらそっちに祈った方が強い奇跡になりそうじゃんよ。そもそも俺はずっとリーシアに祈ってたつもりだったしな。生臭だったけど」

『意味が解らん……フランチェスカ如きとリーシアでは比べるべくもないわ……お前の祈りがリーシアに届いた事そのものも驚きじゃが、その適当過ぎる解釈も信じがたい……』


 両手で頭を抱え「ううう」と呻き始めるフェニックス。

どうやら俺は中々に大それたことをやってしまっていたらしい。


『というか、そんな程度の理解力であの奇跡を行使したのかお前は……その内それが元で死ぬぞ』

「やっぱリスクとかデメリットとかあるのか?」

『解らん』

「うぇ?」

『女神リーシアなど、我からしてみても天上の存在過ぎてどんなものなのかよく解らんのだ。我がリアルで暮らせし世界の主ですら、とても及ばぬ存在だと聞くし……』

「つまり、この奇跡を使い続けても死ぬかどうかすら解らんのか」

『ああ、知ったかぶって悪いが、どうなるのか全く予想もつかん。ただ、お前自身はダメージらしいものは受けておらぬのか……? 我は奇跡の発動直後、お前の身体も浄化され消滅したのを目の当たりにしたのだが……』

「ああ。俺もそう感じたが、なんか、自然と修復されたぜ? 浄化って、人間には効果ないんじゃねーの?」

『そんなはずは……いや、しかし、そうか……』


 何やら俯いてぶつぶつと呟きだしたので、その場に座り込み、一休みする。

考えるのはこいつに任せておけばいいだろう。

前に倒した時にも戦闘後、こんな感じに話していたが、こいつはこれで俺なんかより遥かに長命な存在なのだという。

俺とはまた別の方向性で物事を考える事が出来るかもしれないのだ。



 しばらくすると、考えがまとまったのか、じ、と俺の顔を見る。

俺もどんな答えが出るのか気になっていたので、同じようにその金色の瞳を見つめ返してやった。


『お前はもしかしたら、生まれついて命の属性が強いのかもしれんな。あるいは、人でありながら神属性、あるいは完全なる無か……』

「属性の話か?」

『うむ。逆に属性が絡んでいないなら、後はリーシア個人が何故かお前に加護を与えておるとか、リーシアとは全く別の、至高神クラスの何か強大な力が影響を及ぼしているとしか……我にもこれ以上は解らぬ』

「まあ、俺にもよく解らんからな。それらしい理由を考えてくれただけでありがたいぜ。サンキューな」

『礼には及ばぬ。敗者の義務という奴なのだろう?』

「ははは、根に持つなよ」


 しれっと言い返してくるあたり、もう大分力を取り戻したと見えた。

俺も体の方は完全に元に戻ったし、これ以上長話をするのも、と、立ち上がる。


『もう行くのかや?』

「挑戦者は沢山いるだろう? 俺は時間が潰せたから、もう行くぜ」

『……一つだけ、忠告がある』

「なんだ?」

『お前は、命を粗末にしすぎじゃ。例えゲームであっても、自分を顧みないにもほどがある。さっきの奇跡もじゃが、溶岩にダイブする時も、微塵も躊躇(ちゅうちょ)しておらなんだ。あれは見ていて心臓に悪いぞ』

「俺は粗末にしてるつもりはないんだけどな。勝算の無い戦いはしない主義だぜ?」

『周りからの見え方にももう少し気を遣えと言うておる。怖いのじゃ、お前という存在は。レゼボアとは異なる我のリアルの世界ですら、お前の様な者はそうはいない。いても早死にじゃ』

「でも、だからこそ生きてる俺の事は気に入ってる、そうじゃないのか?」

『……否定はせぬ。無限の命を持つ我から見ると、刹那に在りながらその己を顧みぬ姿勢は美しくも映り……その儚さは愛おしくすら思えてしまう。だが同時に、不安にも感じてしまうのじゃ。それを知ってほしかった』

「ま、話程度に覚えとくぜ。ご忠告どうも。じゃあな」

『ああ、またな』


 ため息混じりの忠告を心底ありがたいと思いながらも、「そんな事言われてもな」と、少し困ってしまったりもする。

俺自身は自分という物はある程度大切に考えているし、死ぬつもりなんて更々ないのだが。

他人から見た俺という奴は、そんなに自分に頓着が無いように感じられるほど、無鉄砲なことをしているのだろうか?



 フェニックスから少し離れ、リーシアへと転移しようとしたところで、不意にめまいを感じ、立ち止まる。

振り向くと、鳥形態に戻ったフェニックスが不思議そうに首を傾げながらこちらを眺めていたので、にやりと笑って返してやり。

今度は女神フランチェスカに祈り、街へと戻った。


-Tips-

神々による祈り(ゴッドブレス)(概念)

人々の扱う奇跡は、本来神々に祈る事によって得られるものである。

だが、神々もまた、奇跡を祈る事がある。

祈る対象は、自分達よりもはるか高次元の存在。いわゆる『至高神』である。


至高神とは本来神すらも超越した存在であり、全ての神々を創造した絶対的な存在である。

神々はこれら至高神に祈りを捧げる事により、人が自分たちに祈った際に与える奇跡よりさらに純度の高い、オリジナルに近い奇跡を発動させる事が出来る。

これを『神々による祈り(ゴッドブレス)』と呼ぶ。


ゴッドブレスは人間の扱う奇跡と比べ制約が少なく、より広大な範囲に影響を及ぼす事が出来たり、より強大な効果を発揮する事が出来たりする。

多くの場合人間にとって不可能に等しい同時多数の生命の創造や再生などもこれによって簡易的に行う事が可能で、その恩恵は神々にとって計り知れない規模となっている。


その分だけ世界に及ぼす変化も大きい為、世界によってはその変化を嫌う『魔王』や熾天使といった神々の上位的存在によってその発動が妨害される事もある。

また、扱い的にはコマンドを簡略化したものに過ぎない為、コマンドそのものを扱う事の出来る至高神や『魔王』、熾天使、『魔王クラス』の存在などに対してはその影響下に置く事が出来ず、効果を成さない事が多い。


本来ゴッドブレスとは魔法や奇跡といった『簡易コマンドをより簡略・簡素化した概念』よりも一段階上の『簡易コマンドそのものといって差し支えない概念』である。

この為、それに類似した機能を持つ世界で生活する民にとっては、適合さえすればこのゴッドブレスは人の身でありながら扱う事が出来る事もあると言われている。


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