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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
2章.取り巻く世界(主人公視点:ドク)

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#2-2.『暴れ猫』ローズ

「――そしてお前か」

立ち上がれなくなったサクヤを背負いながら声の主の方へと歩いた結果。

少し開けたところで、癖っぽいグレーのショートヘアーを手で煽る、赤眼の女バトルマスターが一人。

大量の毛皮の上で腰掛け、退屈そうにあくびをしていた。

「うん……? あーっ!? あんたっ、ドクじゃないのっ!!」

ライトアーマーにショートパンツルック、兜も盾も持たず、毛皮の横に置かれた二本の斧。

相変わらず好戦的で、自信と余裕が窺えるスタイルのそいつは、俺の顔を見るや驚いたような顔をし、わざわざ立ち上がってこっちを指差し声をあげる。ちょっと失礼な奴だった。

「お知り合いですか……?」

背負われ役のサクヤがぽそぽそと俺に聞いてくるが、耳元に息が当たるのが妙にこそばゆく、ぞくりと震えてしまった。

耳元や首筋が自分の弱点だったのを新人に気付かされるなんて、複雑な気分だ。

「う、うむ……『ブラックケットシー』の奴だよ。ローズっていう。会う度に俺に突っかかってくるからきっと俺に惚れてる」

「惚れるかっ!!」

早速ローズは真っ赤になりながら噛み付いてきた。解り易い奴だった。

「はあ、ローズさん……ですか?」

突然のご登場と突然の突っ込みにサクヤは困惑気味だった。

ローズがもっとノリが良い奴ならこんな事にはならなかっただろうに。

「ていうか、なんであんた女の子なんて背負ってるのよ? しかも見たことない子だわ。そっちの新人?」

そして当のローズはというと、やはりこの状況は異様に映るのか、背中のサクヤに興味が向いているようだった。

まさか「お前のクライで腰が抜けてるんだよ」なんて可哀想なことはサクヤの名誉の為にも言えないし、どうしたものかとわずかばかり考え。


「俺が背負いたいから背負ってるんだ。ギルドの新人の温もり万歳」

「降ろしてくださいドクさん」

「最低ねあんた」


 頑張ってひねり出した言葉は、ローズはおろかサクヤにまで冷たい返しを喰らう始末だった。


「その、ドクさんの名誉の為に説明しますと、こちらのほうからすごく怖い叫び声が聞こえてきて――情けない事に腰が抜けてしまいまして」

挙句サクヤに俺の名誉を心配されてしまっていた。俺って一体。

「怖い声……? えっ、も、もしかしてそれって――」

途端、ローズが困惑げに眉を下げる。

「当然、お前のバカでかいクライの事だ」

「えっ? この人が――? もっとこう、すごい人が出した声だったんじゃ――」

お前だよお前、と指摘してやると、サクヤが追い討ちのように声をあげる。

そう、あんな馬鹿でかい恐ろしげな声を出すのが、こんな普通の――普通と言うにはちょっとばかしでかい気もするが――女の子なのだ。

そりゃ驚く。恐らくサクヤは筋骨隆々なマッチョウーマンでも想像したのだろう。

実はその想像はある意味あってるのだが、見た目の上では全くの的外れであった。


「あちゃー……その、ごめんねぇ? まさか他に人がいるとは思わなくって。腰、大丈夫?」

癖っぽい髪を後ろ手に掻きながら、ローズは申し訳なさそうに近づいてきて、サクヤのすぐ傍まで顔を寄せた。

当然、俺の顔にも近づくが、俺のことなんざ微塵も見ていなかった。

「あ、いえ……ちょっと驚いちゃっただけですから。それに、その、討伐もまだだから、頑張らないと」

サクヤはというと、謝ってきたローズにはそれほど怒っている様子も無く、むしろまだ終わっていない討伐の事を考えているようだった。

恐ろしい化け物のような声に対しての恐れは、大元の本人を見ることによって解消されたらしい。


「討伐って?」

それで話は終わりかと思いきや、そこから更に繋がるのだ。

まあ、折角会ったのにそれだけで別れるのもつまらないからそれはそれでいいのだが。

「ハウンドキメラの討伐依頼だよ。運営さんから頼まれてたんだ」

「ああ、そういう……あんた達もその依頼受けてたんだ」

やはりというか、運営さんは俺達以外にも依頼していたらしい。浮気者め。


「まあ、そんな事はどうでもいいわ。ここで会ったが百年目!! 今日という今日こそは――」

「よーし行くぞサクヤ。ローズちゃんなんかの相手をしてる暇はねぇ」

何かローズが言おうとしていたが、ちょっと遠くの方で犬の遠吠えのようなものが聞こえたので後回しにする事にした。

「なっ、ちょっ、ちゃん付けとかやめてよっ! ていうか無視して逃げるなーっ」

討伐目標が近くにいるとなればこれ以上無駄話する事もあるまいと走り出した俺だが、何故かローズが後を追いかけてくる。

「なんでついてくる……まさか本当に惚れたのか?」

「えっ? そういうアレなんですか?」

俺とサクヤ、首をかしげながらもローズを見てしまう。

「そんな訳あるかっ、私の話はまだ終わってないって言いたかったの!! あっ、待てこら行くなぁっ」


 だが俺はそれ以上構わない。無視した。

ローズは走りながらでも好き放題言えるようだが、俺は違うのだ。

サクヤは軽いと言えば軽いが、それでも女の子一人背負ったまま走っているのだ。しんどい。息切れする。

それでも、俺達の方は後十頭分敵を見つけなくてはならないのだ。

ローズがさっきやったように大暴れして一網打尽になどされれば、当然探す手間は増える。

ゲームの中でも時間は流れていく。それもリアルに連動したものだ。

こんな程度の依頼に二日も三日もかけていたくはない。さっさと終わらせてたまり場でしゃべくりたかった。

社会人には、癒しが必要なのだ。


「見つけた、死ねぇぇぇぇっ!!」

そして駆け抜けた先、草むらを越えた先にいたハウンドキメラの群れに飛び込み――その内の一頭に蹴りをかました!!



「――ふう、なんとか討伐終わったぜ」

「終わりましたねー」

ほっと一息つきながら、俺とサクヤはのんびりとその場でしゃがみこんでくつろいでいた。

尻の下にはハウンドキメラの毛皮。必ず落とすので十枚分か。

サクヤを背負ったままでは蹴りしかできなかったが、俺の機動性と背中からのサクヤの魔法という全く新しい戦闘スタイルを確立した事により、先ほどよりも殲滅速度はアップしていた。魔法すげぇ。

「……ねえ」

そして、そんな俺達を上から見下ろすローズ。

むつかしい顔で腕を組んで、何か言いたそうだった。

「それはそうとサクヤ、もう腰は大丈夫か?」

「あ、はい、おかげさまで。なんとか立ち上がれそうです」

ぐぐ、と、腰を伸ばすように背伸びするサクヤ。とりあえずは安心か、と、ここでようやく気が抜ける。

「人の話を聞けぇっ!!」

そして何故かローズが怒っていた。


「どうしたんだローズ? 俺がサクヤとばかりお喋りしてるから嫉妬したか?」

ここまでしつこいといい加減何かあるんじゃないかと思えてしまう。

「あっ、ごめんなさいローズさん。私、ローズさんの気持ちも考えずに――」

サクヤも本気で申し訳なさそうに謝りだす。

「だからなんで私があんたに惚れてる前提で話すのよ! 違うから、そんなんじゃないから!!」

言葉だけだとツンデレにも思えるが、実際惚れてる訳でもないのだろう。

心底迷惑そうにツッコミを入れてくる辺り、嫌われてるかどうかは別としても愛されてないのはまあ、解る。

「大体私あんたの事嫌いだし! 大嫌いだし!!」

嫌われていたらしい。大嫌いらしい。ちょっと傷つく。

「そんな事より、そこの毛皮の数、数えてみてよ」

「毛皮? なんでそんな――」

「……犬の鳴き声、聞こえなくなってるから。私の討伐、後一頭残ってるし」

俺達の尻の下に向けて指差しながら、ローズは森の向こう側をちらちらと見ていた。

「……いちまーい、にまーい」

なんとなく嫌な予感がした俺は、素直に立って枚数を数え始める。


「――じゅうまーい」

最後の毛皮をぱっと落として数え終える。

良かった。嫌な予感なんてなかったんだ。ちゃんと十枚きっかり。これにて俺達は無事依頼達成だった。

「うく……」

ローズは少し悔しそうだった。なんか恨みがましそうに俺の方をじろじろ見ている。

「ローズ」

「な、何よ……」

まあ、俺達のことを疑ったのは別にいい。

こいつはこれからこのでかい森の中、一人で一匹しかいない(と思われる)犬っころを探さなくてはならないのだ。

その苦労を思えば、わざわざいじめてやる事もあるまい。

「ラスト1、頑張れっ」

だから、追いたててやった。

「ちょっ、まさか帰る気!?」

何故かローズは信じられない物を見るような眼で俺を見る。

意味が解らん。

「当たり前だろ。俺達だってさっさと運営さんに達成伝えて休みたいんだ。いつまでも狩場になんていられるか」

狩場はまだ封鎖されたままだ。

他に討伐をやっている奴を見ないあたり、ローズが最後の一匹を狩るまではそれは終わらないだろう。

だが、だからとそれを待っていてやる義理も手伝ってやる義務も俺たちには無かった。


「ま、そういう訳だ。そろそろ行こうぜサクヤ」

「あ、はい……ローズさん、お先に失礼しますね」

「だから待ちなさいよ! ドク、私と決闘しなさい!!」

さっさと帰るべく再びサクヤを背負おうとしていた俺に、ローズはズビシィ、と指を向け睨みつけてきた。

「決闘……?」

そして具合の悪い事にサクヤが喰いついてしまう。

こういう時、好奇心旺盛なのも考え物だ。

「そうよ決闘!! まさか新人の前で逃げたりはしないでしょうね!?」

「いや、面倒くせぇから逃げるぞ、じゃあな」

「きゃっ」

構っていられない。付き合ってもいられない。

あたふたしていたサクヤを強引に背負うや、一目散に駆け出した。

「えぇっ!?」

振り向くと、ローズにとってはまさかの選択だったのか、「なんで?」という表情のまま俺達を見ていた。

完全に棒立ち。すこし可哀想だったか。

「あっ、ちょっ、だから待ちなさいって――」

「狩場で決闘なんて冗談じゃねぇって。そんなにやりたいなら日にち見てたまり場にこいよたまり場にっ」

なんか追いかけてきそうだったので適当な言葉を捨て台詞に、その場から走り去る。

「――それでいいの?」

それはそれで驚きだったのか。

その声を最後にローズが追いすがってくる事はなく、やがて見えなくなった。



「ふぅ、やっと、たまり場――だぜ……っ」

なんだかんだ、サクヤを背負いながらたまり場まで戻ってしまった。

まだ二人でお喋りしていたらしく、プリエラと運営さんが驚いたように俺達を見ていたが、俺は気にしない。

というか、息切れが酷くてそれどころじゃない。

「街に戻っても背負われたままだったのは、ちょっと恥ずかしかったです……」

原っぱの上に降ろしてやったサクヤが、うっすら頬を赤く染めていたのがちらっとだけ見えた。

すぐフードに隠れてしまったが中々に可愛いポイントだ。

「いやーおつかれさまでしたー。すみませんね大変な依頼をお願いしてしまって」

運営さんは悪びれもせずニコニコ顔で俺の顔を覗き込んできやがるが、正直くたびれて睨み付ける余力も無い。

そのままへばっていつものところに座ってしまう。


「……いきなり、新人にやらせる依頼じゃねぇよな、手伝った俺が言うのもなんだが」

くったりとしながら、なんとか抗議の言葉を呟く。ようやく少しずつ落ち着いてきた気がする。

やはり運動不足だろうか。ゲームの中でまで歳の所為だとは思いたくないが。

「勿論、ここのギルドの人がサクヤさんを手伝うのを加味した上での難易度設定ですよん? なんとかなったでしょう?」

「確かに、ドクさんのおかげでなんとかなりました……私一人じゃ無理だったかも」

さっきまでの狩りの反省から、サクヤは小さな身体を余計に縮こませてしまっていた。

膝なんか抱えて、それが妙に似合ってるのがちょっと卑怯に感じてしまう。

「大丈夫ですよー。ハウンドキメラ位なら、慣れればサクヤさん一人でも討伐は可能になってきますからー」

運営さんはその程度では動じないらしく普通に慰めていたが、俺も、そして黙ったままだがプリエラもにやけそうになるのを我慢するのでいっぱいいっぱいだった。

うちのギルドは、可愛いものには弱い奴が多いのだ。


 結局そのまま運営さんから報酬を貰い、その場はそれで収まったのだが。

運営さんが去ってから、サクヤからローズについての質問攻めにあい、俺はロクに落ち着く事もできないひと時を過ごすハメになってしまっていた。


-Tips-

バトルマスター(職業)

戦士職系上位職の一つ。特にこれといった呼び名はない。

完全に前衛特化、攻撃重視の職で、特に洞窟やタクティクス(通常戦)、屋内など、狭所での戦闘において力を発揮する。


正面に対する突破力は現存する上位職の中でも最強クラスで、特にタクティクスでは欠かせない存在として重宝されている。

反面搦め手は苦手で、ハンターの罠やメイジの『マンイーター』などのトラップスキルには手も足も出ない。

また、基本的に遠距離攻撃が不得手な職でもあり、装備品の重量の都合上鈍足になりがちな為、広いフィールドではその攻撃力を活かせない事も多々ある。


最たる特徴として両手に重量武器を持つことができるようになる『両手武器修練』、

戦闘開始時に大声を張り上げる事によって自身の力を増幅させ聞く者の精神に影響を与える『バトルクライ』などのパッシブスキル、

重量のある武器を一気に振り下ろし強打撃を加えながら次の攻撃へと繋げる『エリアルバッシュ』などのアクティヴスキルがある。


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