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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
2章.取り巻く世界(主人公視点:ドク)

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#2-1.討伐ハウンドキメラ!

「サクヤっ、そっちに一匹行ったぞ!!」

始まりの森は、戦場と化していた。

「わぅっ!? ク、クラッシュバーン!!」

俺の横を抜けていった犬型モンスター『ハウンドキメラ』に戸惑いながらも、サクヤは詠唱を終えた魔法を展開していく。

『グバウッ!!』

そうしている間にも、ハウンドキメラは二転、三転跳びまわって距離を詰め――サクヤへと襲い掛かった!!

「――っ、シュート!!」

それを、なんとか正視しながら杖を前に突き出し、迎撃する。

掛け声と共に高速で飛翔する炎の飛礫(つぶて)

『ウギャンッ!?』

既に飛びかかっていたハウンドキメラは方向を変える事もできず、飛んできた魔法の直撃を喰らう。

顔面へとまともに当たった飛礫、三発。

更に首筋や腹にも数発当たったらしく、そのままサクヤの真横へと顔面から着地した。

『ギギ――グ、グル――』

「ひっ――ロックシュート! シュート! シュート!!」

すぐ近くに転がりながらもまだ死んではおらず、なおも立ち上がろうとするハウンドキメラを前に、サクヤは半ば恐慌状態に陥りながら、魔法を連射していた。

『ギッ、ギャッ、ギャウ――』

魔法が身体に次々とぶち当たると、やがて痙攣(けいれん)し、動かなくなる。

人とそう変わらないサイズの犬っころは、そのまま灰色の毛皮を地べたに残して消えていった。


「ふんっ」

『ギャインッ』

とりあえずサクヤが無事なのを安堵し、目の前の犬を殴り倒す。

大した敵ではないのだ。ただ数が多いのと、動きが速いので回りこまれやすいのが面倒だった。

「おーいサクヤー、大丈夫かー?」

青ざめた顔で地面に落ちた毛皮を見ながら杖先で突っついていたサクヤに声をかけてやる。びくん、と背を震わせていた。

「あ……は、はい、大丈夫、です……」

うわあ、と、毛皮を突っつく手を止め、俺の方を見る。

どうにも焦点が合っていない。よほど怖かったのだろうか?


「……うらっ」

このままでも仕方ないので、近づいてデコピンを喰らわす。

ぺちん、という小気味良い音が森に響いた。

「ひゃうっ!? な、な……?」

涙目になって俺の顔を見るサクヤ。「どうして?」と、困惑しているようだったが。

「休むぞ。お前も座れ」

その場にどかりと座り込み、勝手に休憩タイムに入る。

まだまだ犬っころはいたるところにいるのだろうが、今はサクヤを落ち着かせるのが優先だった。

「えっ? で、でも、まだ討伐が――」

「気にするな。俺が傍にいる。怖い事なんて何もねぇ」

バットを地に立て、掌で支え。「俺がいるから大丈夫だ」と、はっきりと言い切る。

「……はい」

それでようやく少しだけ落ち着いたのか、サクヤは言われるまま、腰掛けた。

俺が教えてやったのと同じ、樹を背にしながら。



 なんでたまり場に戻ったのにまたサクヤと狩りをしているのかといえば、運営さんの依頼をサクヤが受けたからだ。

結局あの後、運営さんはサクヤに『始まりの森に居付いてしまったハウンドキメラの討伐』を依頼してきた。

ハウンドキメラ自体は、実際にはそれほど危険なモンスターではない。

初心者からすれば集団で襲われれば死が見える位にはヤバいが、今のサクヤは白夜の平原にいける程度には動ける初級者だ。

魔法の属性も三種類。扱い方も上達してきているし、この位のモンスター相手なら十分な火力を持っている。


 ただ、ハウンドキメラは見た目が非常におっかない。

前後左右、どこからどう見ても同じようにしか見えない2D的な生物なのだが、目つきは鋭く、牙はギザギザで犬歯なんかは一噛みで殺されそうな位だ。

サイズも人間の大人とそんな変わらない位で、これに襲い掛かられればかなり怖いだろう。


 そして、何より厄介なのはその数と連携能力だ。

初級狩場あたりからたまに見られるようになるのだが、同一種族間で連携行動を取るようになってくるモンスターがいる。

ハウンドキメラもそれで、元々群れで活動する所為か一頭と戦っていると二頭三頭と次々に襲い掛かってくる。

まるで人間のパーティーのように連携して隙を突いて攻撃してくるので、ソロで狩りをしている不慣れなプレイヤーは、その見た目の怖さからくる迫力と合わさって必要以上に恐れてしまい、実力を発揮できずに倒される事もままある。


――運営さんめ、俺がいるからって無茶振りしやがって。


 そんな訳で、俺は全力でサクヤのフォローをしている。

前衛として敵の注意を引いたり、サクヤが不意打ちを喰らいそうな時は身を(てい)して庇い、怪我すればポーションを浴びせてやり、腹が鳴っていたらとっておきの携帯食料を振舞ってやった。

ここまでくるともう父親にでもなった気分だが、今も虚ろな眼でぽやーっとしているサクヤをみると、どうにもこの年頃の女の子の扱いというのの難しさを実感させられた。

いや、リアルでも嫌と言うほど実感しているのだが。

サクヤの場合、親しみを感じている所為で余計に、というのがある。



「とりあえず、あんな感じのをあと十頭だ」

「あんな感じのを、十頭ですか……」

依頼された討伐数は二十。さっきの襲撃で半分倒した事になる。

どうやら群れ単位で獲物を求めて周辺の別マップから移動してきたらしく、森ではマジックラビットやらまるキノコやらがなす術も無く襲われ喰い散らかされていた。

あいつらは結構見境なしなので、冒険者相手でも構いもせず襲い掛かってくる。

幸い今、この森へは討伐依頼を受けた者以外入れないよう、入り口や転送サービス前で運営さんがガードしているらしいのだが。

依頼された二十頭を狩っても、恐らくそれ以上はいるのだろう。そこかしこで犬の遠吠えらしきものが聞こえていた。


「ま、のんびりやろうぜ。なあに、慣れちまえばどってことねぇよ」

確かにソロではしんどい相手だが、今は俺がいるのだ。サクヤには安心して欲しかった。

「……はいっ」

サクヤもサクヤでそんなに悪い方には考えないようにしたのか、きり、と頬を強張らせ、立ち上がる。

「私が受けた依頼ですし。私、頑張ります!」

どうやら恐怖に打ち()てたらしい。我がギルドの新人殿は、中々に心強かった。


「さあ、行きま――」

『うぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

「はひぃっ!?」

頬をぱちんと叩いて気合を入れ、さあ行きましょうと俺の方を見たサクヤであったが。

その後ろから聞こえてきた、身の毛もよだつような叫び声に、そして直後の地響きに背筋をびくん、と震わせて変な声をあげていた。


「……誰かいるようだな」

モンスターの鳴き声ではない。間違いなく人の声であった。

人型のモンスターも声は発するが、これはそういったものではなく、俺達と同じプレイヤーのモノだろう。

何にしても馬鹿でかい声だった。聞いた俺自身、空気がピリピリと痺れていくのを感じる。

こんなのは普段ならボスモンスターでもなければ感じる事の無いものだ。


 空気が震え、恐れているのだ。

これはバトルマスターのパッシブスキル『バトルクライ』。

叫び声によって相手を威嚇し、震え上がらせ、自らを鼓舞(こぶ)し、時として魔法や奇跡すら打ち消す魂の鳴動。

勿論、並のバトルマスターでは到達できない域に達していなければ、ここまで恐ろしげな事にはならない。

「あ……く――っ」

事実、サクヤは先ほどよりも青い顔でがちがちと震えている。本能レベルの恐怖らしい。

「あー……安心しろサクヤ。これは敵の声じゃない。バトルクライと言って――」

少しでも平静を保てるよう、声をかけはするが。

サクヤは俺の声なんて聞こえていないのか、声のした方を見ないように、少しでも離れるように、ふらつきながら歩きだす。


『これで――どうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』


「わひぃっ!?」

そして、再度聞こえた背後からのクライにびくん、と、震え、その場にへたり込んでしまった。

「大丈夫かおい?」

「あ……ド、ドクさん、に、逃げなきゃ――逃げましょうっ」

ふらふらと視線を彷徨わせながら、やがて近づいた俺の袖を引きながら涙目になって訴える。ちょっとキュンとしてしまいそうな小動物っぽさだ。

「落ち着け」

だが、いつまでもこんなのではちょっと困るので、心を鬼にしてデコピン。

「きゃっ――ドクさん?」

「アレはバトルマスターの『バトルクライ』だ。恐らく俺達と同じで、ハウンドキメラ狩りを依頼された奴だろ」

「……え? プレイヤーなんですか……? なんか、すごいボスモンスターでも出る前触れなんじゃ、って……」

やはりというか、俺の言ってた事なんざ耳にも入っていなかったらしい。

「まあボスも居るにはいるが、不良野良ウサギみたいなもんだからな……あんな馬鹿でかい声は出さないし」

「……ほんとに、プレイヤーなんですね」

――化け物の 正体見たり ただの人。

ようやく落ち着きを取り戻したのか、サクヤはほう、と、小さく息をついて俺を見上げた。

「すみませんドクさん――腰が抜けちゃいました」

「そんなこったろうと思ったぜ」

ついてきてよかったと本気で思わされる。


-Tips-

ハウンドキメラ(モンスター)

リーシア付近のいくつかのマップに生息する人間大の犬型モンスター。

その体躯と同族同士での連携能力が脅威で、主にソロでの狩りを行うプレイヤーにとっての脅威となる事が多い。

攻撃能力や生命力自体はそれほどでもないが、俊敏な動きに翻弄されるプレイヤーも多く、マジックラビットに次ぐ『序盤の壁』とも言える存在である。


また、肉食動物である事から度々本来生息しているマップから足を伸ばし、他のマップにいる草食動物やノンアクティブモンスターを襲撃・捕食したりする。

この移動の範囲が結構広く、時として『始まりの森』などの初心者用マップに姿を現すこともある為、序盤における脅威度はかなり高い。


このように危険性ばかりが前面に出てくるモンスターではあるが、強さの割に必ずドロップする毛皮は防具や服などを作る上で欠かせない為需要が高く、また群れで行動しているために複数同時に狩れる事も多い為、金銭や素材アイテムを効率よく集めるのに向いたモンスターであると言える。


種族:動物 属性:闇

備考:同種族連携能力リンク

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