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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
9章.ミルフィーユ・クライシス(主人公視点:サクヤ)

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#11-1.事件後、ドクさんと


 数日の間、私とエリーは、互いに普段から親しくしていた人達に自分の身に起きた事の説明する為、忙しない日々を送っていた。

異世界の同一人物同士だったんです、なんて言っても信じてもらえるか心配だったけれど、幸いにして皆真剣に聞いてくれたり、ある程度の理解を示してくれたりしてくれたので、心が軽くなったような気持ちになる。


(でも、まさかトーマスが泣き出すとは思わなかったわ……)


 お城での話し合いを終え、今はリーシアを歩いていた。

たまり場に戻ろうとしていたのだけれど、そこで不意にエリーが呟いたのだ。

さっきまで『ナイツ』の人達と、これからどうするのか、という相談をしていたのだけれど。

やっぱりというか、私がエリーと一緒になってしまった以上、ずっとお姫様として彼らの上に立つこともできず、「解散すべきなのでは」という結論に至ってしまった。

私は私として今まで通りの生活をしたいと思ったし、エリーもお姫様として、今まで程お城にこだわりはなくなったのもある。

そもそもエリーがお城にこだわっていたのも、今はもう見る事の出来ない本来の自分のお城と同じつくりの、恐らくはデータだけが模倣されたものだったから。

その辺りの迷いも、街がある程度の復興を見せ、また、この世界に降り立ってからの願いが、私との対立、それから対話によって薄れてくれたらしく、今のエリーは振りきれているらしい。

ただ、トーマスさん達は完全に巻き込んでしまった形になるので、ちょっと申し訳なく思う。

まあ、実際にトーマスさん達と話したのは私じゃなくてエリーの方なのだけれど。


(私としては、これからは君臣ではなく、お友達としてお付き合いしましょうっていうつもりだったのだけれど……解散は、言い過ぎだったかしら?)

「うん、まあ……もうちょっと言い方っていうものがあったと思う」


 わざわざエリーが解散なんて言葉を使ったから、ナイツの人達も困惑してしまっていた。

トーマスさんが号泣していたのだって「もう私に尽くしてくれなくてもいいので」と言われたから。

今まで姫様姫様言って尽くしてくれてた人達にそれは、「貴方たちなんていらないわ」って突き放されたように受け取られても仕方ない気もする。


(……そんなつもりじゃないのに)


 こちらの思ってる事は当然見透かされる。

本当、不便な身体になってしまったもの。

ある意味では便利なのだけれど。少なくとも自分同士で誤解しあう事はなくなった訳だし。


「私もそうだけど、エリーも結構口下手だよね……」

(言わないで……ずっと親しい人としか接してこなかったし、それ以外とは君臣の関係だったのだから)


 私もたまにどもったり噛んだり変な言い回しになっちゃったりするけど、トーマスさん達との接し方を見るに、エリーは単純に思いやりというか、相手の反応をイメージする能力が乏しいように感じられた。

それでも、ナイツの人達は結構長い事一緒に居たんだから、もうちょっと考えてあげればいいのにと思うのだけれど。

でも、それができる子だったなら先日の一件はなかったようにも思える。


(……反省してます)

「それならいいんだけどね」


 今更蒸し返すのも可哀想だし、この話題はこれで終わりに。

それより、と、たまり場への道。

すれ違った人たちが私に変な視線を向けているのに気づく。

一人どころじゃなく、皆が。


(周りから見たら、ミリィが独り言をしゃべってるようにしか見えないものね……)

「これが目下一番の問題なんだよなあ」


 エリーとの対話中の私は、他の人から見たら痛々しい子にしか見えないらしい。

おかげで道行く人がみんな「何やってんだこの子」みたいな顔で見てくる。

これがここ数日の悩みだった。

プリエラさんは「慣れてくればスムーズに心の中で話せるようになるから」とさほど気にせず笑い掛けてくれたけれど。

いつになったら慣れられるか解らないし、慣れるころには「あの子は独り言の激しい子」みたいなレッテルが張られてそうで怖い。


(早く慣れることができると良いのだけれど……私も、自分に切り替わった時に同じことをしていそうで怖いわ)

「ほんとにねえ」


 これも一つの課題だなあ、と思いながら、人が振り返る道をのんびりと進んだ。



「ようサクヤ」

「こんにちは。ドクさん」


 たまり場にはドクさん一人。

一応たまり場の人達とエミリオさんには私の身に起きたことは説明したのだけれど、この人はいつも変わらないなあ、と思う。

いつもの席に腰かけ、コーヒーを飲んでいるのだ。

私もいつもの場所に座り、じ、とその顔を見る。


「……」

「うん? どうした? 何かあったか?」

「いえ、何も」


 何というか、この。

先日の事もあって、ドクさんには私の事はもうバレてるし、私もドクさんのリアルを知っている事を打ち明けているので、お互いにリアルで面と向かって座っているのと変わりないはずなのだけれど。

不思議と、リアルで感じられたような胸の高鳴りというか、一緒に居るだけで幸せになれるあの(・・)感覚がないというか。


(多分、身体の方が私自身だから、リアルでミリィの感じていた感覚がこちらには反映されないのでは? ドクさんも、多分身体の方はリアルとは違うのでしょうし)

「ああ、そういう事……」


 新説。恋心とは身体に依存するものだった。

もっというなら魂的な何か依存なんだろうか。

つまり、身体が違うとリアルで好きな人を、好きな人だと認識できない、みたいな。

それが本当かはともかく、実際にこの人の前でリアルのそれと同じように想おうとしても、かなり違うように感じてしまう。

多分、こっちでの私はドクさんを大好きな先生とは認識できないし、ドクさんっていう全くの別人扱いで認識してるのかなあって思う。


「何に納得してるのか解らんが……その後、調子はどうだ?」

「あ、えっと……はい。いろいろ混乱もありますけど、なんとか」

「そか」


 何かに納得するように再びコーヒーを一口。

ずず、とパックのコーヒーを飲み干し、ごみをぽい、と投げ捨てる。

中身の無くなった容器はそのまま消滅していく。


「俺も正直、サクヤがサクラだとは思いもしなかったぜ。ミルフィーユ姫の方がサクラで、エミリオがナチバラなんじゃないか、ってな。いずれにしても、身近に顔見知りが現れる確率なんてすさまじく低いはずなんだがな……」

「そうみたいですね……その、最近は、色々驚かされてばかりです」


 エリーが異世界のもう一人の私だった事に始まり、エミリオさんがナチだった事、そして今度はドクさんが先生だった事と続いたのだ。

相当混乱していた。

プリエラさんは、まあ、最初に会った時にうっかりリアルの名前を教えちゃったので、その関係であの時呼んでたんだと思うけれど。

どれくらいの確率でそれが起こるのかは解らないけれど、ちょっと近しい人多すぎない? とも思う。


「まあ、リアルがばれたからってどうってもんでもないんだけどな。俺は教師としてある時は教師として振舞うし、ドクさんとして振舞う時は強くて頼れるドクさんであり続けるつもりだぞ」

「ドクさんのそういう所、格好いいですよね」


 リアルでの先生を知っていると、ドクさんというキャラも作られたものなのかと思ってしまったけれど。

でも、多分違うのだ。

どっちもこの人の本当の姿で、どっちも、この人の偽らない本音なんだと思う。

それは、先生を好きな私が、ドクさんを尊敬する私が、勝手に肯定的に受け取っているだけなのかもしれないけれど、少なくとも私にはそう思えたのだ。

だから、素直に格好いいなあって思う。普段は三枚目だけれど。


「……なんとなく、教え子と解ってる奴に言われると照れちまうな。ま、ゲーム世界でどう思っても、リアルには持ち出さないでくれると助かる」

「はあ……持ち出せるような事もないと思いますけど。そもそも、あんまり覚えてないですし」

「ああそうか。君はまだ(・・)そういう歳だったか。脳内メモリーにも残らんのか」

「……はえ?」


 何かに納得するように一人頷くドクさんに、よく解らず首を傾げる。


「15になって、高校に行けば解るようになると思うが、少しずつゲーム内の出来事や人物なんかを記憶できる量が増えていくはずだ。このゲーム、実年齢が高いほどゲーム内での記憶をリアルでも持ち越せるようになるからな」

「そうだったんですか……全然知らなかったです」

「外部の攻略サイトなんかもほとんどがそれによって作られる訳だしな。リアルでの心が受け付けられないような出来事と遭遇した際に、リアルに影響を及ぼさないようにっていう配慮からそうなってるらしいが」

「心が受け付けられないような出来事……?」

「大切な人が目の前で死ぬとかな。後は、仲間に裏切られるだとか、モンスターに追い詰められて死にそうになるだとか、セクハラに遭うだけでも相当ショックがでかいだろうから、そういうのもな」

「ああ、確かに……」


 実際問題、目の前でドクさんが倒れた時は相当ズキリときた。

リアルでの私はそんな事ほとんど忘れ去っているので「何か嫌な夢みたなあ」くらいにしか思わなかったけれど。

そんなのがリアルにまで反映されていたら、そのショックは計り知れないと思う。

そして、その人がリアルでは当たり前のように白衣を着て学校に居るのだ。混乱するに違いなかった。


「ま、歳食っても幼稚な奴ってのはいるから、一概に効果があるとも言えんが……15の誕生日を境目に、記憶できる量が変わるという説があってな。だから、君も15になったら、そうやって覚えられるようになると思うぞ」

「私、今日が誕生日なんですが……そっか、覚えられるんだ……」

「マジかよおめでとう」

「あ、はい、ありがとうございます」

(ちなみに私の誕生日も同じ日だわ。私は14歳だけれど……)


 やっぱり私は生まれた日も同じだったらしい。

ドクさんに祝われたのは嬉しいけれど、それよりも気になる事が一つ生まれてしまった。


「エリーも、同じ誕生日らしいです。その、一年違いで」

「へえ……ていうか、君らって同一人物なのに生まれた年が違うのか」

「そうみたいですね……史実の私の方が、一年早く生まれてる事になりますけど……」

「そう考えると、エリーの生まれた世界ってのは、重複世界の中でも遅いところだった訳か。いろいろ興味深い点も多いが、そういうのは流石に専門外だな」


 なかなか難しい問題だぜ、と、顎に手をやりながらしきりに頷くドクさん。

うん、こういう好奇心というか、考えるの好きなところはドクさんっぽい。


「……だが、思ったより気に病んだりしてはいないようで何よりだ。二人は、これからも二人で居続けてくれるようだし、な」

「はい。いろいろありましたが、これからもお願いします」

「勿論だぜ。何かあったら迷わず相談してくれ」


 ぺこりとお辞儀して、それから。

エリーに「代わってください」と言われたので、明け渡す。

直後、フォームチェンジ。エリーの身体になる。


「ふぅ……ドクさん。私からももう一度。これからも、お願いしますわ」

「ああ、よろしくな」


 それだけで満足したのか、「もういいです」と切り替わるエリー。

ドクさんに私を襲っているところを見られたところとか、ドクさん自身を殺そうとしてしまったところとか、彼女なりに思うところがあったのだと思うけれど。

その辺りの謝罪はもうしてあるけれど、それでも一言何か言いたかったのかもしれない。


「しかし、そうなるとアレだな……もう君も卒業か」

「そうですねえ」


 こうやってゲーム世界に居れば毎日のように顔を合わせるはずの人と、リアルではもう会えなくなる。

それはとても不思議なことで、そして、寂しく感じる事でもあった。

これは、リアルでもゲームでも一緒なのかなって思う。

寂しさの理由は、違うのだろうけれど。



 結局その後、ドクさんと雑談をしてその日はログアウトする事になり。

私は、卒業する為に目を覚ますのだ。現実へと。


-Tips-

ソードメイデン(職業)

剣士系上位職の一つ。希少職で、呼び名などは存在しない。

剣士とブレイブとをマスタリーした者のみが到達できる特殊職。


剣士になる者の多くはソードマスター志願であり、また、他の職業系統ならともかく同じ剣士系別系統下位職であるブレイブをマスタリーできるような者はわざわざ剣士への道を選ばない為、なり手が非常に希少な職業となっている。


ソードメイデンの名の通り剣に全てを捧げた女性のみが就く事の出来る職業で、進む道に穢れが生じたり、その心が穢れるにしたがって全力を発揮できなくなるなどのデメリットが存在する。

反面この『えむえむおー』の前衛職としては他に例のない『魔法と奇跡を同時に扱える物理前衛職』という性能の為、非常に幅広い、自由度の高い立ち回りが可能になっている。


特徴的なスキルとして、その精神が清廉であればそれだけ剣の切れ味が増し、逆に精神が穢れればそれほどに劣化していくパッシブスキル『ソードメイデン』、

劣勢に陥れば陥るほどに身体能力が強化されるパッシブスキル『追いつめられた乙女』、

長剣を両手に持ち、踊るように相手を翻弄し、斬りつける技『ソードダンサー』、

自らの剣を代償に、一撃必殺の大ダメージを狙う大技『バニシングソード』なとがある。


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