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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
2章.取り巻く世界(主人公視点:ドク)

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#1-2.運営さん現る!

「ただいまっと」

「ただいま戻りましたー」

適当に拾ったものの清算を済ませてたまり場に戻ると、丁度座ってガールズトークに華を咲かせている二人組がいた。

「あっ、おかえりなさい二人とも~」

片方はプリエラ。俺達の帰還に気付くや、すぐにこっちを向いてにこにこ顔で出迎えてくれる。可愛い。

そしてもう片方は――

「あれっ、この間お風呂でご一緒した――」

そいつがいつもの台詞を言う前に、隣に立ってたサクヤが驚いたように声を上げていた。

「あら~? あっ、この間の――えへへ、その節はどうも~」

相変わらずの線目をそのままに、プリエラの正面に座っていた白ずくめの金髪ポニーテールはにこにこ顔と猫なで声でサクヤに反応していた。

どうやら知り合いらしいが、これがこいつの意図したものなのか、それともただの偶然なのか……

「ううん? どうしたんですかぁドクさん? そんなに見つめちゃって~」

何か裏があるんじゃ、と、それとなく視線を向けていただけだったのだが。茶化されてしまった。

「……サクヤ。こいつとは?」

なんとなくバツが悪いので、サクヤに振る。

「えっ? あ、えっと……この間大雨だった日に、お風呂でご一緒した……えーっと?」

サクヤも関係そのものが薄いのか、ちょっと困った顔でチラチラとポニーテールの顔を見たり見なかったりする。

「はい。名乗りもまだでしたね。それではちょっとばかし自己紹介をば――」

こほん、と、わざとらしく(せき)をついて立ち上がる。


「こいつは『運営さん』といって、『非公式公認組織』とかいうよく解らんのに所属してる奴だ」

その様がなんとなくむかついたので横から不意打ちを食らわせてやった。

「うわん!? なんで私が自己紹介しようとしたのに横から説明しちゃうんですか!? もーっ、もーっ!!」

なんてことを、と、涙目になる『運営さん』。してやったり。

「うぅ……概ね、ドクさんが説明した通りなんですけどー。まあ、その。運営サイドの手が足りない所なんかをフォローする、ユーザーの有志集団、みたいに思ってもらえると解り易いかなあって」

なんとかくじけず、俺の方を恨みがましそうに睨みながらも説明を続ける。健気な奴だった。


「つまり……えーっと、プレイヤーの方、なんですか? 『運営さん』っていう響きだけだと運営サイドの人たちみたいで……『公式さん』と似てるなあって思っちゃいましたけど」

「プレイヤーですよー。公式さんとは違いますねー。あちらは完全に運営サイド。『公社』の息がばりばりに掛かってますし、イベントの時とかよっぽど切羽詰った時にしか表に出てきませんが、私達は割と日常に溶け込んで色んなところにいたりします」

どこにでもいるんです、と、いつもの調子に戻りながら指先をちらちらと振る。

「私達『運営さん』は、主には狩場や街のパトロールをしていまして。問題発生時にはそれによって得た情報や通報等を元にして、こちらのシルフィードさんのようなギルドの方にお手伝いをお願いしたりしています」

これすごく重要、と、ぴん、と、サクヤの顔の鼻をそっと突っつく。

「わっ」

鼻を押されたサクヤは、すとん、と、そのまま座り込んでしまう。

きょとんとしていたが、運営さんから目を離せなくなっているようだった。

「まあ、ちょっと長くなるので座っててくださいな」

私も座りますから、と、サクヤの正面に座り込む。上手い事考えたものだった。


「まず、想定される問題の種類としては、モンスターが本来の狩場から離れて別の狩場に移動してしまったり、異常発生・変異・強化された結果手がつけられなくなった場合なんかが、割と緊急度が高い問題としてよく発生しますね~」

ぴ、と、人差し指を立てながらに運営さんの講義が始まる。

サクヤはいわずもがな、プリエラもぱっと見真面目な様子で付き合っているようだった。

「これらの問題の解決方法として、先ほども言ったように協力していただけるギルドの方にお願いして、これを討伐して頂くのが一般的ですね」

「つまり、普通に街で受ける討伐依頼と同じ……だったりするんですか?」

サクヤが中々良いところに気が付いてくれた。

「ふふん、そうなのです! 勿論報酬は運営サイドから出ますのでご心配なく! むつかしく考えてしまいそうですが、単純に考えましょう。受けたければ受けて欲しいですし、ちょっとでも嫌なら無理せず断っちゃってオッケーですから~」

運営さんのノリはかなり軽いが、それが相手を安堵させる事もできるのだ。これは中々強い。

実際今サクヤはぎこちなくではあるが運営さんに合わせて笑顔になっているし、その説明にもしきりに頷いている。

その様が微笑ましくて、思わずニヤリと口元を緩めてしまった。


 確かにこの手の依頼というのは割と何処にでも転がっていて、街を歩いてるだけで遭遇したりする。

それを受けるかどうかは本人次第なのだが、受ければ当然報酬としてアイテムや金銭、そして知名度が稼げたりする。

多くは普通の狩りよりも効率よく得られるので、これらの活用はプレイヤー本人の都合とあわせて、できるだけ上手く捌いて行きたいところ。

運営さんの依頼もこれに準じており、更に難易度はプレイヤー本人の能力に極力沿った内容のモノがあてがわれる。

酒場なんかで張り出された依頼を受けるのと違って依頼そのものの選択権はないが、当然断ることもできる。

断る事によるデメリットは特に無いので、やはりこちらも本人の都合次第で受けるべきか否かは変わって来る筈だ。


「それで、討伐依頼はそんな感じですが、他にも困っている誰かの為に探しモノをお願いしたり、強力なボスモンスターに挑む人たちの為に足りない人手を斡旋したり、危険な狩場に無理に足を踏み入れようとする方に警告したり、という事もお願いしたりします。まあ、結構アバウトな基準で一まとめに依頼という扱いにしています」


 運営さんの説明は続く。

今話していたのは、つまるところ『やや特殊な依頼』のケースだ。

探しモノなんかは言われた通りのモノを見つけて持ってくれば良いだけなので単純だが、ボス狩りの増援なんかはそのボスとの戦いに精通していたり、相応に戦闘経験を積んでいる奴にしか依頼してこない。

運営さんはその辺りきちんと実力を見てお願いしてくるのだが、当然受けられる者を選ぶという事は相応に人数が限られてくるので、これに関しては俺は極力受けるようにしていた。


「色々ありますけど、なんだか大変そう……討伐とかなら私にも解るんですが」

サクヤも一度に説明を受けた為か、どこか不安そうだった。

「まあ、初めてやるような事は一人でやらせたりはしないだろうし、大体はギルドの奴と一緒にできることだから問題ないだろ。そうだよな?」

何も知らない奴なのだ。これくらいのフォローはしてやらないと可哀想だ。

無理に一人でやらせてはろくなことにならんだろうし、と、運営さんをじーっと見て牽制する。

こいつは、たまにそれをやるからだ。わざとではなく、うっかりで。

「え? あ、う、うん、そうですね! えへへ、解ってますよ~ドクさん、そんな、怖い顔で睨まないで……?」

別に睨んだつもりも無いのだが、表情として表に出ていたのかもしれない。

「うむ。まあ、こいつはこんな適当なやつだがちゃんとその辺りは考えてくれるらしいからな。安心して良いぞサクヤ」

運営さん周りのことはギルドに所属していると嫌でも関わる事になる事柄の一つだ。

多少面倒でも、サクヤにはこの辺り、できるだけやんわりと受け入れて欲しかった。

「あ、はい……その、お手柔らかにお願いしますね」

幸い先ほどまでの不安は消し飛んでいたらしく、多少ぎこちないながらもサクヤは明るい笑顔を見せてくれていた。

「はい! お願いします! それで、早速の依頼なんですけど~」

「ふぇっ!?」

そして、運営さんは容赦の無い奴だった。


-Tips-

運営さん(組織)

「えむえむおー」の非公式公認組織。

運営サイドとは別軸の、プレイヤーによるプレイヤーの為の組織である。

基本的に運営サイドの対処が追いつかないローカルかつ瑣末な問題の解決と被害の抑制が主な活動内容であるが、人助けになるようなことなら割とどんなことでも手を出してくる傾向が強い。


構成人員の全員が『運営さん』であるが、これは組織としてかぶっている一種のペルソナでしかなく、運営さんとしての活動は個々のプライベートには何ら関係が無い。


主な運営さんの受け持つ仕事は以下の通りである

1.配置異常が起きたモンスターの討伐を協力ギルドに依頼する事

2.1の際に何も知らないプレイヤーなどに対して街や狩場の入り口などで告知したり侵入を止めたりする

3.明らかに異常な状況が起きた場合(またはそれが予想される場合)の運営サイドへの通報

4.困っている誰かの為に探しものをする為の人員を斡旋する

5.分不相応に強力な敵に挑もうとしている者を止めたり、それに叶う有志戦力を他のギルドから募る

6.達成した依頼の難易度や内容に応じた協力者に対しての報酬の提供

7.その他運営サイドの宣伝告知のお手伝いやイベント企画などの雑用

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