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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
2章.取り巻く世界(主人公視点:ドク)

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#1-1.ムカデゲジゲジクモヒトデ

 今日はサクヤと二人、まったりと狩りをしていた。

ギルドに入ってからというものすくすくと育ち、今では一人(ソロ)で『白夜の平原』で狩りをしているのだというサクヤ。

初めて見かけた時のおっかなびっくりはそのままに、それでも経験というものがついてきているのか、敵の動作なんかをきちんと見て行動を選択している……ように見えていた。ついさっきまでは。


「うぅ、す、すみません……」


 くったりと花の絨毯(じゅうたん)の上に寝転がっているのは、もちろんサクヤだ。

何故こんな事になっているのかと言えば、魔法の詠唱中に背後に湧いたモンスターへの反応が遅れ、バックアタックを喰らったから。

魔法は高位になればなるほど、詠唱中断の際の逆流ダメージが大きいらしい。

モンスターの攻撃そのものは大した事無かったのだが、完璧な形で入った不意打ちのショックと魔法の逆流のダブルダメージを耐えられるほどには、サクヤはまだ強くなっていなかったのだ。

不意打ちを仕掛けてきたモンスターは、まあ、俺が倒したから一大事にはならなかったが。


「背後の注意を怠るとは、未熟者め」


 ギルドに入ったばかりの頃に口を酸っぱくして言った事だが、慣れてくるとこういった油断があるのも知っていた。

幸い、バックアタックを喰らったからと死ぬような場所でもなく、その辺りは安心なのだが。

今回の件は、サクヤにはそれなりに大きな出来事として、小さな傷として記憶してもらえればと思う。


「はう……油断がありました」


 色とりどりの花の上、くったりと横たわったまま、細い腕が目を隠す。

恥ずかしいのか、悔しいのか、それとも悲しいのか。

何にせよ、未熟なマジシャン殿には日々経験値を積んでいってもらいたいものであった。



「――でも、こんなところがリーシアのすぐ近くにあったんですね。平原とも森とも違って、ちょっと新鮮かも――」

少しは精神疲労が抜けたのか。

花が綺麗だからそれで癒されたのかもしれないが、幾分顔色も良くなり、サクヤは寝転がったまま、ちらちらと周囲に視線を向けていた。

「悪くないだろう? これで湧くモンスターがもうちょっとメルヘンチックなら良かったんだがな……」

「ふふっ、そうですね……」


 この狩場――チェルナの丘は、花舞い花びら踊る可憐な世界が広がっている。

この一帯全てがこんな感じに色とりどりの花で埋め尽くされているので、女子人気は結構高い。

街でもデートやピクニックなんかで行きたい狩場の上位に入る位には需要がある。あるのだが。


『しぎぁぁぁぁぁっ!!!』

モンスターが湧いた。何せ聖域が乏しいこの丘は、結構モンスターの出現頻度が高い。

「うるせぇ!」

巨大なムカデ『バーナード』。

俺もそれなりに背が高い方だが、こいつは俺の背丈の五倍近い体躯を誇っている。

だが、弱い。俺の釘バットの相手ではなかった。

『ぐぎぃっ!?』

そんな馬鹿な、とでも言いたげにびくん、と震えながら、フルスイングの直撃を喰らって――爆散。

まあ、出オチみたいな死に方をすればそんな顔をしたくなるのも解かるが。


「あ……また、モンスター出たんですね。ここ、リスポーン率高いんですね……」

「うむ。結構湧くんだよな。だからサクヤにはお勧めしなかった。一人で来ると苦戦するのが目に見えてるからな」

モンスターの出現頻度が高いと、どうしても攻撃までに時間がかかりがちなマジシャンには厳しい。

狩場のランクそのものは白夜の平原とそんなに変わらないはずだが、ここはどちらかというと近接地に湧いてもすぐ対処できる前衛職向け。

「それと、さっきから見てれば解るだろうが、虫系モンスターばっかだからな。苦手な奴が踏み込むと絶叫モノだ」

ロケーションは抜群のロマンチックなマップなのだが、このチェルナの丘は今のバーナードのような虫っぽいモンスターで溢れかえっている。

リアルなゲームとはいえ倒したモンスターの体液でどろどろに……という最悪な事には流石にならないが、虫がこちらの攻撃で砕けてパーツが飛び散るのは見ていてあまり良い気分がしない女子も多いだろう。

この辺り、折角の素敵マップだというのに勿体無い。


「でも、やっぱりドクさん強いんですねえ。あんなに大きなモンスター、一撃で――」

だが、そんな中でもサクヤはさほど気にしていないのか、しきりに感心しているようだった。

意外と虫系かグロ系かの耐性が強いのか、虫がぐちゃっとなるシーンを見ても絶叫を上げたりしないし嫌な顔もしない。

まあ、それはともかくとして、その感心はとても心地よかった。

「ふふん、ま、俺は強いからな。あのくらいのモンスターならなんて事はねぇ」

思い切り胸を張る。何せ俺の方が先輩なのだ。

先輩ならば、強くなければならない。

見本として、お手本として、そして憧れてもらえるように在るべきだろう。

自信の無い奴が先輩になんてなったら、後輩は困惑モノだ。どうしたらいいか分からなくなってしまう。

だから先輩は、少しくらい自信過剰に見えてもいいから、胸を張って笑っているべきなのだ。

その余裕が、後輩を不安から救ってくれることだってあるのだから。


「でもまあ、そろそろ帰るか? 時間的にも結構すぎたし、そろそろたまり場にも誰かいるだろう」

サクヤの顔色も大分良くなっている。

今では起き上がって、ちょこんと座っている位だ。

時間の経過と共にメンタルの回復が進んでいくのはシステム上当たり前のことなんだが、サクヤの場合、これが少し早い気がする。

華奢(きゃしゃ)でおどおどしてる事もあるが、結構芯の部分は強いのかもしれない。

「んん……そうですね。また不意打ちで倒れても迷惑かけちゃうし……」

少し迷った風に視線を彷徨わせていたが、離れた場所にモンスターが見えてか、すく、と立ち上がり、俺に笑いかけた。

どうやら回復はしたらしいが、それなりにサクヤが気になる程度の出来事に収まったらしい。

遠くに見えたモンスターはこちらに気付いた様子もなく。

別に無理に狩るほど大したもんでもないので放置する事にした。

今はそれよりも、帰ってのんびりと雑談がしたい気分なのだ。

ログイン直後はサクヤしかいなかったたまり場だが、流石にそろそろ誰かしらいるだろう。

プリエラとかプリエラとかプリエラとか。


「うむ。では戻るか」

迷う事も無い。懐から転送アイテムを取り出し、地面へと投げつけた。

直後、足元に白く眩い光。明るい世界に溢れる白が、一瞬、俺たちの視界を遮る。

足元に生成された白はやがて転送陣となり、ふわふわとした光を湛えていた。

「入れ」

「あ、はいっ」

誰にでも使用可能な使い捨てアイテムなので、そんなに長くは保たない。

使ったらすぐに入らないと消えてしまう儚い代物だった。

「えいっ」

これもサクヤのトラウマになっていたのか、転送陣に踏み込む際、サクヤは声を上げて気合を入れないと中々踏み出せないらしかった。

ぐっと、目を瞑って入るのだ。中々に可愛い光景だが「これもその内治さないといかんなあ」と、声には出さず考える。

そうしてサクヤが光の中に消えたのを確認して、俺もその中に踏み込んでいった――


-Tips-

チェルナの丘:(場所)

リーシア南東2マップの位置にある初級狩場マップ。

特別なスキルや魔法を使ってきたり中~遠距離攻撃してくる敵がおらず、前衛職にとっては敵の攻撃を防御したり回避したりするのに慣れるのに最適な狩場である。

出てくるモンスターは虫系モンスターに限定されており、出現率が高く聖域が乏しい事もあり、いたるところで敵と遭遇する事となる。

このためバックアタックの恐れが常にあり、対処が遅れがちな後衛職にはやや不向きな狩場と言える。

主なモンスター:バーナード、セリヌンティウス、カルロス、ヒトデむし

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