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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

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#6-1.リアルサイド2-とある女子中等学生の場合(前)-

「平和ですねえ」

「平和だねえ」

たまり場にて。プリエラさんと二人、のんびりまったりとしていた。

空はもうすぐ暗くなるかなっていう頃。リアルなら、そろそろ起きなきゃいけない時間だけれど。

「今日は何処にもいかなかったけど、サクヤは退屈じゃなかった?」

プリエラさん、ちょっと気を遣うように私の顔を覗き込む。

いつもたまり場に来る前に狩りをしていた私だったけど、今日はなんとなく最初にたまり場に行って、そのままプリエラさんと二人、延々お喋りしていたのだ。


 合間合間で他のメンバーの人が来る事はあったけれど、私とプリエラさんだけはずっと一緒だった。

ご飯も一緒。プリエラさんがパンと飲み物を持ってたので、二人してくつろいだりした。

お風呂も一緒。なんだか姉妹になったみたいな気がして、ちょっと年上のお姉さんぶるプリエラさんが可愛い。

そうして夜風に当たりながら、たまり場に戻ってお喋りして、今に至る。

星空なんかを眺めながら、ゆったりとした気持ちで時間を過ごして……多分、もうすぐログアウトの時間。


「プリエラさんは、いつもたまり場でログアウトするんですよね」

「うん、そうだよ。ログインしたらすぐに誰かに会いたいなーって思って。誰も居ない時もあるけど」

私の黒髪を弄りながら、プリエラさんがちょっと気恥ずかしそうに答える。

「大体はドクさんがいるかなあ。それかマルタさん。一浪君は地味にタイミングがズレる事が多くって、ラムネ君はログイン場所そのものが街中だから、ログイン直後は滅多に会わない」

指で数えるようにしながら、視線を上に、ゆったりとした口調で話してくれる。

「誰も居ないとね、寂しいから友達のギルドに行くの。『ブラックケットシー』とか、『聖堂教会聖歌隊』とか。街中をうろついたりもしてるかなあ。最新のファッションとかチェックしたり、美味しい新作のデザートが出てないかお店を見て回ったり――」

プリエラさんは結構色々やってる人だった。

私はまだまだ狩り中心になりがちで、街歩きとかはそんなにしてないので、参考になるところは多いなあ、と感心させられる。

「最近は、サクヤが結構早い時間にログインするから、寂しい事はあんまりないかな。一人ぼっちだとする事も限られちゃうから大変だよー」

困っちゃうよね、と、眉を下げながら困り顔。

「プリエラさんは、あんまり狩りってしないんですか?」

その様子に、なんとなく前々から抱いていた疑問を、直接聞いてみたくなったのだった。


 私達冒険職は、職ごとのプレイスタイルの違いこそあれ、その多くが狩場でモンスターを倒して、ドロップアイテムを売ったり、他者からの依頼(クエスト)をこなしたりして稼ぎを得て、日々の生活しているのだけれど。

ギルドの人達はなんだかんだ狩りに行く時間とかタイミングとかがあって、私みたいな単独(ソロ)狩りとか、他のギルドの人を伴っての狩りとか、ギルド外の人と一緒にパーティーを組んで狩りに出かけたりするのだけれど。

プリエラさんがそういう風に出かけていく所は、今まで一度も見た事がなかった。


「んー、狩り? 滅多にしないかなあ。月に何回かくらい……?」

「えっ、それだけなんですか?」

ぽやーっとしながらの返答に、私は驚かされてしまう。

私なんてほぼ毎日狩場に足を運んでるのに。そうしないと生活が苦しいのもあるけど。

「うん。私、誰かが傷つくのってあんまり見たくないからね。モンスター相手でも嫌な気分になるから、攻撃とか絶対しないし」

事も無げに言うけれど、結構すごい事を言っていた。

狩場にいる限りはモンスターは襲い掛かってくるし、毎度逃げてばかりもいられない。

攻撃される前に攻撃しないとこっちが痛い目にあう。痛い目にあいたくないから攻撃する。

これが普通……だと思っていたのだけれど。

「だから、前に出て攻撃に耐えるくらいしかできないの。他の人の攻撃でモンスターが倒されるのを見るのも嫌だけど、それは仕方ないかなって、なんとか割り切って我慢してる」

それから、同時にドクさんが出会ったばかりの頃に言ってたことを思い出していた。

――天使だ。この人天使だ。

にへへ、と少し困ったように笑うプリエラさんだけど、そんな顔がどこか眩しく感じてしまって。

ちょっと、身体が震えてしまった。

「……? どうしたの、サクヤ?」

「あ、いえ、なんでも――ふぎゃっ!?」

身体が震えるほど感激を――と思ったら何事か、突然身体がびくん、となった。


「……サクヤ?」

「えっ、これ何……なんか、今、びくんっ、と、身体が勝手に――」

感激したからじゃなかった! 明らかに変だった! なんかこう、物理的に揺れた!!

「あー、家の人とかがサクヤに触れたんじゃないかな? リアルの方で身体に触れられたり近くで大きな音がするとそうなるんだよ。安全装置的な何かなの」

よくあるんだよねー、と、苦笑するプリエラさん。

よかった、私が変なことになってる訳じゃないらしかった。

忘れがちだけどゲームだし、とんでもないバグか何かだったらどうしようかと悩みそうになってたけど、近くにプリエラさんがいてよかったと思える。

「私達がゲーム世界にいる時って現実では無防備だからね。何かあったらすぐに目が覚めるようにはなってるけど、それを自覚させてくれるようになってるの。強く揺すられたりすると強制ログアウトされるから、そうなる前に落ちといたほうがいいかも?」

そんなに心配する様子もなく、あくまでゲームのシステムだから、と、説明してくれるプリエラさん。

私も安心して、ほっと一息。立ち上がる。

「その、それじゃ、私、落ちる事にします。また」

「うん、またね!」

二人、手を挙げて、そうして私は目を瞑る――



「……うん?」

――そうして、現実へのログイン、というか、ゲーム世界からのログアウト。

目を醒ますと、目の前にはふっくらとした布地が広がっていた。

鼻先が触れる。やけにふわふわしている。弾力があって、だけれどふにゃふにゃだった。

「……姉さん」

意識が覚醒しきると、それが何なのかはっきりしてくる。

姉さんだ。姉さんの胸だ。やたらふくよかなのが私の顔に押し付けられてる。正直鬱陶(うっとう)しかった。

「もう、また勝手に私の隣で――」

制服にエプロンをつけたままな辺り、きっと私を起こしにきて、そのまま眠ってしまったに違いない。

仕方ないなあ、と、思いながら、私は姉さんをそのままに、パジャマのまま部屋を出る。


 1Fへ降りて廊下へ、リビングを抜けてキッチンへ。

冷蔵庫から水差しを手に取り、コップに注いでうがい。そのまま歯を磨く。

今度は卵と生クリーム、青菜を冷蔵庫から取り出し、固形食パンを二枚、トースターにセット。

フライパンに少量の油をセットすれば準備完了。

生クリームと一緒にかき混ぜて塩で味付けした玉子をフライパンに落として、固まってきたら細かく切った青菜を入れて、火が通るのを待つ。

一分くらいで玉子がぷちぷちとおいしそうな音をあげ始める。可愛い鳴き声だった。

それを箸でちょちょっと巻いてあげて、もうちょっとだけ待つ。裏返した部分も程よい色になったら出来上がり。

これを六つほどに切って分けて、棚から取り出したお皿に盛り付けていく。二枚分。

お皿一枚につき、玉子焼き二つ。残りの二つは、お弁当用にとっておく。


 トースターを見れば、まだもう少しかかるのか、パンはようやく薄い色がついた頃合。

待っている間に冷蔵庫をもう一度見る。

上の方の棚には、昨夜姉さんが作ったマカロニのクリーム煮と、ボイルしたウィンナー。

それから定期的に作るポテトサラダがボウルに一杯。

リンゴなんかもある。素敵だった。

それぞれ取り出して、お弁当箱を用意して詰め込んでいく。

リンゴは綺麗に皮を剥いて小さく切って、楊枝(ようじ)を斜めに指して、イッカクにする。

焼いてないパン二枚に、さっき焼いた玉子焼きとポテトサラダを少々。

これを小さく切って箱につめたら、お弁当の完成!

「……よし」

ぐ、と、掌を握る。ちょっとだけ気合が入る瞬間だった。

丁度パンが焼けたのか、「ちーん」という気の抜ける音が部屋に響いたのも、キリが良い。



「姉さん、朝ごはんできたよ。起きて」

立場の逆転。私を起こすはずの姉さんが寝てて、起こされる側の私が姉さんを起こして。

これじゃどっちがお姉さんなのか解らない。

解らないけど、姉さんは寝起きが悪いから、こうやって起こさないといつまでも寝てたりする。

「んん……んぅ……っ」

ちょっと色っぽい声を出しながら寝返り。

声だけじゃ起きないのはいつもの事だった。

「起きてって」

揺する。遠慮しない。肩に手を置いてグラグラ。

おなかに手を置いてグラグラ。

手を持ち上げて落としたり、色々する。起きない。

「――姉さんっ」

流石にイラっとしてしまう。

私は自分では結構寛容(かんよう)な方だと思うけど、身内にはその寛容さが働く事は少ない気がする。

それというのも姉さんが悪いのだ。寝起きが悪い姉さんが。


 仕方ないので、最終手段とばかりに、頭の下の枕を引き抜く。

こう、ぐぐっと。

頭が乗ってるのでちょっと重いけど、両手で精一杯力を込めるとなんとか抜ける。すぱっと。

がくん、と、頭がシーツの上にズレ落ちる。

「――ふあっ!?」

流石にこれにはびっくりしたのか、姉さんはぱっと目を見開いて、何事かとうろうろ、上身を起こして目を白黒させていた。


「……ミリィ?」

そうして、ぽかーんとしながら間の抜けた一言。

「寝起きの一言がそれなの?」

あんまりにも呆れてしまって、つい突っ込みを入れてしまう。

「あ、そうだった。ミリィを起こそうとして、寝顔がかわいいからつい『もっと見てたいなあ』って思って、ちょっとつっついたりして遊んでたら……うとうとしちゃって」

「人の寝顔を見る悪癖をいい加減直してください」

姉さんの悪い癖だった。何が楽しいのか、子供の頃から私の寝顔を見にきて、変に弄って遊んでるのだ。

目が覚めたら隣に姉さんが寝てる、というのは本当に昔から多くて、ちょっと迷惑していた。

「えー? 昔はミリィだって、『お姉ちゃん一緒に寝て!』って、泣きそうになりながらお姉ちゃんのベッドにもぐりこんできたのにー」

ちょっと衣服がはだけただらしがない格好のまま、姉さんはふじゃけた事をのたまった。

「いつの話よ……もう、私だって子供じゃないんだから、そういうのはやめてよね」

人は成長するのだ。いつまでも子供扱いされたら、私だって怒る。

「あっ、ご飯忘れてたっ! 作らないと――」

そうして、私の苦言は姉さんのうっかりにあっさりスルーされていた。

「……はあ。ご飯なら、私が作ったから。もう、代わりに洗い物とか姉さんがやってよね!」

当番制。どちらかが作る時は、もう片方が片付ける役。

洗濯物もそうだし、掃除なんかはどちらかがゴミ片付け担当だったりする。大体三日交代。

そして今日は、姉さんが作るほう。だった、はずなのに。

「はーい。ミリィは気が利くからいいわあ。お姉ちゃん、大好き♪」

ふわあ、と、抱きしめてくる。

動きはゆったりとしているし、ドン臭い私でもかわせる位にトロいのだけれど。

それをかわすともれなく姉さんがベッドから転げ落ちるので、我慢して受けることにした。

――抱きしめるのは良いけど。

お願いだから避けたら顔を打つような無茶な抱きつき方はやめてほしい。卑怯すぎる。


-Tips-

食品(用語)

レゼボア世界において食品とは、食事の場で消費する為に1と0とを操作して精製された物資全般を指す。

基本的に人手を用いた農業を意図して行わないレゼボアでは、これらの物資は全て公社の食品製造施設より支給あるいは販売されるものであり、全てのレゼボア市民はこれを人体の栄養補給や精神的な充足の為に摂取している。


食品として流通しているものとしては、魚や肉類、野菜、乳製品などの『生物由来の食品に見える何か』と、固形食パンや流動食パン、液化栄養剤やカロリーライスなどの『加工食品に見える何か』。

瞬時に栄養補給が可能なリミットアンプルや体内の数字そのものを組変えて『食事』や『栄養』を取った事にする形質変換剤などの『薬に見える何か』の三種類に大別される。


味などは見た目に準じた極めて平均的なものとなっているが、これを調理する事によって一定以上の味に昇華させる事も可能であり、料理技能はレゼボアにおいてかなり需要の高いスキルとなっている。

尚、全ての食品は何もない空間から生み出した物質に過ぎないため、消費期限などは存在していない。

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