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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
8章.イベント・ライブラリ(主人公視点:ドク)

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#6-1.運営さんとの戦いにて


 大会直前。

もう試合開始間近なのだが、確認と整理の為、倉庫を軽く見渡し、忘れた物はないか確認していた、そんな時の事だった。

「うん……? これは……」

よく考えずにとりあえず倉庫に放り込んでいるからか、存在すら忘れていたモノが倉庫にしまわれていた、という事は今までもよくあったのだが。

「おいおいおい……マジかよ。まさかこれ(・・)が倉庫に入ってるとは」

一人ごちりながら、倉庫に入っていたそれ(・・)を手に取り、広げ……苦笑いしていた。



挿絵(By みてみん)

『――お待たせいたしました! 大武闘、決勝戦! ドク選手VS運営さんの試合を始めたいと思います!!』


 会場にて。

対峙するは見慣れたいつもの白づくめスタイルの運営さん。


「いやー、まさかドクさんと戦う事になるなんて。よろしくお願いしますね~」

「ああ、全力で行かせてもらうぜ」


 俺は、武器として空間破壊兵器『エアロクラッシャー』、防具に対風対策の『法皇のマント』、そして矢避けに『狩猟神のタリスマン』を装備。

火力重視なら準決勝同様不死鳥の杖を使ってもよかったが、今回は火力は二の次で、まず運営さんの周囲の風をどうにかしなくてはならなかった。


『両者準備はよろしいですね……? では――試合、開始!!』


 ごぅん、と、今までよりひときわ大きく荘厳(そうごん)な鐘の音が鳴り、試合が始まる。

皆が息を呑む中、俺は軽く深呼吸し……目の前の、線目の運営さんを睨み付けた。


「では、行きますよ?」

「ああ、いつでもいいぜ」


 微動だにしない運営さん。

俺も動かない。

いいや、わざわざ駆け寄る必要なんてなかった。


『――~~~~♪』


 不意に、どこからか歌が聞こえてきた。

どんな歌詞なのか、誰の歌なのかも解らない。

(手の込んだ演出だな……っ)

イベントの決勝戦としては、今一盛り上がりに欠けると思っていたのだ。

そんな矢先にこれである。素晴らしい、まさに『強敵との決闘』のような、いかにもな歌であった。

ざわめく会場。観客らも、突然の演出に戸惑っているようだったが……すぐに顔を見合わせ、会場へと目を向け、俺達を凝視する。


 転移。運営さんの背後に回り込む。

新たに見えた視界の先には、自分が今までいた場所に向け降り注ぐ氷の矢の雨。

運営さんの周囲にはやはり暴風が吹き荒れるが、俺はものともせず、至近距離からエアロクラッシャーを振りかぶる。

見た目こそそこら辺の安物の杖と大差ないが、これは兵器扱いできるほどに凶悪な特殊効果が付随されていた。


「――不意打ちですね?」


 背後からの奇襲。

しかし、運営さんは即座に対応し、何か(・・)で俺の杖を防ぐ。

だが、それは予想済みだったのだ。

俺の攻撃は、運営さん本人には届かなかった。

そも、届かせる必要がなかった。杖は、運営さんの近くにあれば、それでよかったのだ。

「――『ニードルアロー!』」

穿(うが)ち壊れろ! 『エアロクラッシュ!!』」

俺に向け、何やら手を揺らし迎撃の構えに移る運営さん。

俺は構わず杖の封印を解き、『兵器』としての真名(まな)を叫び、空間を直接攻撃する。

「なっ――これは、エアロクラッシャー!?」

驚愕する運営さん。波及してゆく0と1の波。

当然、至近距離にいた運営さんも、その攻撃も空間の波に巻き込まれ、その姿は歪にブれ、歪み、覆い隠していた魔法(・・)を解除させていた。

そう、強力なバフ解除能力を持った杖だったのだ。


「――油断していました。まさか、幻覚(ミラージュ)を見破られていたとは」


 そこに立っていたのは、腰の下までの金髪を風にたなびかせる、耳の尖った……そう、耳の尖った少女であった。

ぱっちりとした紺色の眼を細め、楽しげに微笑みを湛える。

服装も緑色のミニスカートとシャツで、線の細さはいつもの(・・・・)姿の時よりも華奢に見えるほど。

これこそが、運営さんの真の姿だった、と言えるのだろうか。


「こないだ見た姿が本体かと思ったのに、騙しやがったな?」

「何を言ってるんですかドクさん。乙女はたくさんの顔を持っているものですよ? ですが、見られてしまった以上は仕方ありませんね?」


 その手に持つのは巨大な弓。

そうして、彼女の周囲には三体の緑色の少女が、やはり守るようにぷかぷかと浮かんでいた。


「――亜人種族『エルフ』。私は、ずっとエルフになりたかったんです。人で居たくなかったんです」

「そりゃまた……随分と業の深い願いだなっ」

「ええ、本当に、ねっ!」


 何かヤバい気配を感じて、即座に離れる。

直後、俺の転移先に(・・・・・・)肉薄する運営さん。

速い。半端なく速い。目と目が合う。笑っていた。

(まさか亜人になりたがる奴がいるとは……ていうか、なれるんだな)

語っていた運営さんの眼が一瞬だけ哀愁に染まっていたのに気づけたのは、恐らくは間近で見ていた俺だけだろうが。

その瞬発力、剣士系にも劣らぬ速度、恐ろしいものがあった。

不意に、腹に鈍い痛みが走る。


「――ぐふぁっ!?」


 今大会、初めて貰う、まともな一撃だ。

鋭い蹴りがみぞおちにまともに入り、意識が一瞬ぐらつく。

なんとか持ちこたえ転移、距離を置き、運営さんを見る。

やはり、笑っていた。笑いながら、巨大な弓を俺に向け、矢をつがえていたのだ。

「やべっ――」

「全力で来るのでしょう? なら、これ位はいいですよね?」

転移、間に合わず。

俺が意識を転移先の座標に移すより先に、運営さんの矢が俺の両腕を穿つ。

「ぐぅっ! あぁっ!?」

「フリーズアローです。驚きました? 『エルフ』は矢に魔法の属性を付与できるんです。貴方の腕は、これでもう使えない」

射抜かれた関節から凍り付いてゆく腕。杖を持つ手先はもうまともに動かせず、その重さにだらりと下に垂れてしまう。


 圧倒的な不利。

相手はこちらの移動より早く速射が可能で、更に転移に対応できるほど反射神経が優れている。

体術スキルも高い。さっきの蹴りの一撃が、未だに俺の下っ腹を鈍く苦しめている。

ローズの時も一撃を喰らったらアウトだったが、この運営さんの場合はそれどころではない。

喰らったらアウトの攻撃を、かわすことができないのだから。


-Tips-

エルフ(種族)

亜人種族の一種。

長い髪と華奢な体型、長くとがった耳が特徴的な種族で、男女ともに美形である事で知られる『亜人種族』のスタンダードとも言われる存在で、ゴブリンに次いで全世界で個体数が多い。


『えむえむおー』世界内においては基本的にはNPCやモンスター扱いされる事の多い亜人種族ではあるが、稀にプレイヤーとしてこの世界に降り立つ者も居る。

この場合、特殊なケースとして扱われ、人間に対しPK行為を行っても罪に問われることはないが、逆に同族に対しての攻撃はPK行為と取られるようになる。


身体能力は極めて高く、華奢に見えるが全身の筋肉がしなやかなバネのようで、とりわけ瞬発力と脚力が高い。

また、先天的に聴覚・視覚が人よりも優れている。

見た目に反してスタミナもタフネスも戦士系職業と同等でかなりしぶといが、戦闘スタイル故か重装が出来ず、闇属性に対しての耐性はとことん低い。


武器としては主には弓を得意とし、弓矢に魔法を付与させて魔法の矢として射出する技法『アローマジック』を主な武器として扱う。

弓術適性が高い為か、特別な鍛錬などなしに弓の扱いはマスターしており、並の弓職などよりはるかに速い速度で速射・連射する事が出来るなど、弓に関しては完全に上位互換である。

ただし、クロスボウやボウガンなどの弩・機械弓の扱いは苦手で、扱うためには人間同様の修練が必要となる。

また、森林地形と山岳地形に適性があり、これらの地形では視野と聴覚が更に研ぎ澄まされ、結果弓を扱う能力と運動能力が更に飛躍する。


その他、風の精霊ともナチュラルに契約しており、風を自在に操る事も可能で、強風によって相手を吹き飛ばしたり、自身がこれにより長時間滞空する事も可能である。

この為、疑似的に空を飛んだり、高い瞬発力と併用して瞬間移動めいた速度で行動したりすることもでき、死角が少ない。

追い風により弓矢の威力や飛距離を増加させる事も可能で、利便性は高い。

また、空を飛べることを利用しての真上からの攻撃などの三次元的な戦闘もできる為、かなりトリッキーな戦い方ができる種族であると言える。


このように非常に強力な種族であるが、反面弓の全く活かせない地形(入り組んでいて狭いダンジョンや人工物の多い屋内など)では弓職の人間と同じく力を発揮できず、また、防具の選択肢が乏しい為に耐性や防御力をあげることができない為、人間のように冒険者であろうとするならば、後半になるにつれ辛くなってゆく、上級者向けの種族であると言える。


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