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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
8章.イベント・ライブラリ(主人公視点:ドク)

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#2-3.大武闘・前日


「――それで、本日はどのようなご用件ですか? 顔を見に来ただけとか、おしゃべりしたいだけ、とかでも私は大歓迎ですが!」

テンション高めにティー・テーブルに手を向け「どうぞお掛けになって」と案内してくれる。

サクヤと、それからどさくさ紛れにエミリオも一緒に席についていた。さぼり魔め。

「ああ、今日はな……サクヤとお姫様の顔を見に来た、というのも勿論あるんだが……これだ」

席に着きながら、テーブルの上に懐から取り出したポスターを置く。

皆の視線が集まり、やがてミルフィーユ姫がそれを手に取った。

「大武闘……武闘大会ですか?」

「ああ」

どれどれ、とエミリオやサクヤが席を立って一緒になってポスターを覗き込む。

「わあ、すごいですねこれ。優勝賞品は『精霊王の羽衣』ですか。ブレス攻撃無効化できますね」

「参加賞も出るんですねぇ……楽しそうだなあ」

「なになに……期日は――って、明後日じゃん!? 急だなあ」

三者三様。

ミルフィーユ姫はツワモノらしく優勝賞品の価値が解るのか、しきりに感心している。

サクヤはというと、タクティクスで見せたように目をキラキラとさせて幸せそうだ。

楽しいイベント観戦ができるという期待があるのだろう。

エミリオの反応はどこかセシリアのそれに似ていた。

というか、やはり告知期間が短すぎると思うのだ。せめて一週間あればと思うと惜しく感じてしまう。

「運営さんのイベントだ。どのようになるかは解らんが、俺やマスターは出る……と思う。ただ、やはり急なイベントらしくてな。参加者が集まらんらしいのだ」

「そりゃまあ、こんなに期間短かったら集まらないよねぇ」

「面白そうなイベントだけど、明後日じゃちょっと……予定がつかない人もいるでしょうしね」

人が集まらないというのはこの手のイベントには致命的過ぎる。

運営さんはいろいろ議論に費やしすぎたとか言っていたが、恐らくは開催日を先に決めてしまったのが問題だったんだと思う。

「ほとんど突発イベントに近いですものね。あれ、ではそうすると……ドクさんは、参加者を募る為にこちらに?」

「そういうこった。運営さんに泣きつかれてな。今、マスターやプリエラも似たように方々を回ってるはずだ」

それでも、参加者が増えてくれるならとは思うが。

蓋を開けたら全然集まりませんでした、では運営さんとしても辛かろうし、イベントとして考えるとかなり切ないものもあるので、そこは大成功で終わらせてやりたい、というプレイヤー根性もあった。

イベントは、皆で楽しむものなのだから。


「その……こういうイベントって、強い人じゃないと出られないんですよね?」

参加者枠として興味があるのか、サクヤがまず、質問の声をあげる。

「いや、誰でも参加OKらしいぞ? ただ、戦闘方法とかに特に指定がないらしいから、割と何でもありの戦いになるかもな」

運営さんも「プレイヤー同士のガチの戦闘イベントです」とか言ってたし、まあ、そういう事なのだろう。

「むぅ……なんでもあり、かぁ。ちょっと怖いかも」

対人初心者なサクヤにとっては、相手がどんな奴なのか解らないというのはかなりしんどいはずなので、サクヤを誘うのはちょっと可哀想な気もする。

まあ、その辺無理に気にすることもないだろうが。

何せこいつは自分で考えられる奴。なんだかんだ、もう巣立ちは近いように思えたのだ。

「サクヤ、一緒に参加しよっ。それでー……美味しい賞品ゲットしよう!!」

エミリオは早速賞品に目がくらんでいるらしかった。

何を目当てにしているのやら、キラキラと眼を欲望に輝かせ、サクヤを巻き込もうとしている。

「うぇっ!? い、いや、私はそんなに強くないし――」

「大丈夫だって! サクヤならいけるいける!! 私も頑張るしさー」

押されると弱いサクヤ。

ちょっと困ったような顔で「えぇー」と迷いだしてしまう。

「楽しそうではありますが……私は参加できそうにありませんね」

楽しげに湧く二人とは裏腹に、ミルフィーユ姫は少し困ったように眉を下げながら、ポスターをテーブルへと丁寧に置く。

「あれっ? 姫様こういうの無理?」

「参加はできそうにないですか……?」

ちょっと意外そうに、そして残念そうに顔を見るサクヤとエミリオ。

どうやらサクヤも乗り気になったらしく、だからこそ姫君が参加しないのが残念らしい。

「お城を離れる訳にはいかないので。それに、あまりお城の外で剣を振るうというのも――」

「まあ、城から離れられないって言うなら仕方ないな」

「一応、ナイツの皆や復興を手伝ってくれている方々にも広めてみようとは思いますが――私自身は、ちょっと」

残念ですが、と、申し訳なさそうにポスターをこちらにそ、と戻した。

「解った。それだけでも十分だよ。ありがとうな」

無理を通すつもりもない。

このお姫様は、トーマス曰く実力者らしいしその戦いぶりにも興味はあるのだが。

だからと無理にイベントの場に引きずり出すのはナンセンスというもの。

イベントっていうのは、やはり自ずから参加しようと人が集まり、それが湧くからいいのだ。


「折角のお誘いで申し訳ありませんでした」

それから、ひとしきり雑談を楽しみ「じゃあここらで」と席を立ったのだが。

去り際、俺の教え子によく似た顔だちで頭を下げる顔が、今まで見たことのなかった表情だったからか。

何故だか「やっぱあいつとは違うよな」と、可笑しくなって笑ってしまっていた。



 翌日も同じようにいろんなところに顔を出しはしたが……「さすがに翌日は突発的過ぎて無理」と断られるケースが多く、断念。

午後からは当日に備える事にした。


 倉庫前にて。

俺は今、大武闘につけていく装備品のチェックと準備をしていた。

「なんか、大変そうだねー」

傍らにはプリエラ。

菓子パンなんぞをもふもふと食べながら、俺のやる事をぼーっと見ている。

「太るぞ」

それとなく出たであろう言葉がなんとなくイラッとしたので、プリエラが一番怒りやすい一言を聞こえるように呟く。

俺も性格が悪いのかもしれない。

「むぐっ!? ふ、太らないもん!! 最近ちゃんと運動してるし!!」

「マジかよそれじゃいくら食っても心配ないじゃんガンガン食えよ」

「うっ、そ、それは……そのっ――もー、ドクさんの意地悪!!」

言い返す言葉が見つからないのか、「なんでそんな事言うの」と涙目になってしまう。

ちょっとだけ気が晴れたのと、涙目になったプリエラにドキっと感じてしまったのを抑えるため、再び装備品の手入れをしようとしたのだが――


「……相変わらずコントみたいな事やってる」


――今度はローズが現れた。

何やら可愛らしい白い髪飾りなんかをつけて、オシャレな街娘風だ。

「ようローズちゃん。久しぶり」

「ローズ、こんにちはー」

以前決闘して以来となると、もう大分会ってない気がしてしまう。

ドロシーとはよく会うのだが。

「ちゃんづけで呼ぶなっ!!」

「こんにちは~だよー?」

そして速攻で切り返してくる。このツッコミの鋭さ。

「まあ冗談は置いといて、何か俺たちに用事か? 決闘はしないぞ?」

流石に俺もイベント出場控えてる状態で前日にローズと戦うなんてあほな真似はしたくなかった。

したくなかったが、ローズなら普通に言ってきそうなので牽制した。

「馬鹿ね、流石にこんな時まで決闘しろなんて言わないわよ」

「ねえローズー?」

何言ってんの、と、胸の下で腕を組んでふんぞり返るローズ。

だが、こいつに馬鹿と言われるとなんかすごく……いや、かなりイラッとする。

折角プリエラで憂さを晴らしたというのに。

「明日の大武闘! あんたも出るんですってね!! 運営さんから聞いたわ!!」

「ローズってばー、ねーねー」

目を見開き、じ、と俺を見つめてくる。

「なんだよ見つめちゃって。やっぱ惚れたのか?」

「そんな訳あるかっ! そうじゃなくて、あんたが大武闘に参加するっていうなら話が早いわ!! 私も参加する事にしたの!!」

「うぅ……なんで反応してくれないかなあ」

「マジかよお前すげぇいいやつだな」

参加者少ないイベントに自分から参加しようとするなんて、なんていい奴なんだと思ってしまう。

俺も色々走り回って疲れているのかもしれない。

「えっ、何その反応……」

俺の反応は、ローズ的にはまさに予想外だったらしく。

クエスチョンマークをいくつも浮かべながら困惑の表情になっていた。

「とっ……とにかく! 私も参加するから、私と当たるまで絶対に負けるんじゃないわよ! あんたを倒すのは、この私なんだから!!」

ズビシィ、と人差し指を俺に向けながらくわっと目を見開くローズ。

……ベタなセリフだが、それなりに格好いいから困る。

「まあ、参加する以上はどっかで当たるだろうしな。俺も負けるつもりはねぇよ」

ローズが出るという事は、少なくとも戦う相手にがっかりするような可能性は減るという事だ。

ローズが勝ち残るか、あるいはローズを負かすほど強い奴が上がってくるか。

いずれにしても楽しめそうだ、と、つい口の端が歪みそうになった。

「ふふん、いい顔ね!! 対戦する時を楽しみにしてるわ! でも優勝するのはこの私!! 私の勝利を、マスターに、ブラックケットシーに捧げるんだからっ!!」

見てなさいよ、と、勝ち気に笑いながら去っていくローズ。


「ふわあ……なんか、私無視されちゃったよ? 親友のはずなのになあ……はぅ」

いる間中ずっとローズに話しかけていたプリエラは、悲しそうに俯いて地面にののじを書いていた。

「まあそのなんだ……あいつなりの宣戦布告のつもりだったんだろう」

わざわざ俺の居るところまできてそんなことするなんて律儀な奴だとは思うが、おかげで明日が楽しみになったのも事実で。

俄然、やる気が湧くというものだった。

「あれ、ドクさん、すごいやる気? 装備整えてたからまあやる気はあったんだろうけど……」

「そりゃ、わざわざ宣戦布告までしてくる奴相手に適当な装備で相手したら申し訳ないだろうが。全力で叩き潰して泣かせてやる!」

当然、勝つのは俺だ。

プリエラは別としてもギルドの奴らも見に来るだろうし、知り合いにだって告知済みなんだから、観客の前で情けない戦いなんてできない。

ならば、強者として世に名を知らしめてやるのが俺の道という奴だ。

「うぇぇ……ドクさん、性格悪いよぉ」

「そう言うな。俺だって勝ちたいんだ。だってイベントだぜ?」

殺し合いならともかく、イベントなんだから楽しんで、そしてできれば勝ちたい。勝者になりたい。

俺はこんなに強いんだぞ、と、観客の前でヒールぶってやったっていい。

それはそれで胸のすく、なんとも楽しそうなひと時じゃあないか、と俺は思うのだが。

「ま……明日が楽しみになったな」

明日の開催が実に楽しみだった。


 大武闘、準備完了。



-Tips-

精霊王の羽衣(防具)

炎属性・氷属性を無効化する事の出来る薄緑色の羽衣。

その他高い魔法耐性も持ちブレスを無効化する事が出来るため、対上位ボス・対上位狩場用装備として非常に有用である。


強力な装備ではあるが、現状この装備を手に入れるためには複数の高難易度クエストを攻略した上で作成するためのクエストをこなさなくてはならない為、「いい装備だけど労力に見合う事はない」と敬遠され、所持している者は少ない。

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