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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
プロローグ.シルフィード (主人公視点:ドク)
2/663

#1-2.行き倒れる初心者(後)

「――という訳で連れてきたんだ」

両腕に少女を抱えながら。ギルドのメンバー二人の前で、俺は弁解していた。

『始まりの街リーシア』から徒歩五分ほどの南の岩場。

ここが俺の所属しているギルドの『たまり場』なのだが、丁度今日はプリエラとマルタの二人がガールズトークなどに勤しんでいたらしい。

女二人キャッキャうふふしているのを見るのは悪いものでもないのだが、生憎と、俺が現れた事によってその華はぶち壊しになったようだった。

「どうしようマルタさん。ドクさん、とうとう女の子さらって来たよ――」

茶髪茶眼。鮮やかなストレートのプリエステスが、信じられないような眼を俺に向けながら呟く。

「あーあ、とうとうやっちゃったわね」

赤髪赤眼。ショートヘアーの女ハンターが、呆れたようにため息をつきながら、俺から眼を背けていた。

――こいつらの中の俺って一体。


「とりあえずその女の子は誰?」

どうしたもんかと途方に暮れていた俺に、マルタが眼を背けたまま聞いてくる。

「拾ったんだ」

「返してきなさい」

マルタの即答。どうやら上手く伝わらなかったらしい。

「狩場で倒れてたんだよ。なんか叩いても起きなかったから連れてきたんだ」

「叩いたら起きなくなったから、の間違いじゃないよね……?」

マルタと違い、何か信じるように上目遣いで見てくるプリエラ。

「当たり前だろ。俺を何だと思ってるんだ」

当然、否定するが。

「ああ、よかった――ドクさんって時々良くわかんないことするから、また変なことして偶然その場に居た女の子にーとか、色々考えちゃった」

考えちゃったらしい。安堵のため息まで漏らしていた。おのれプリエラ。

「……すまんが、話が進まないから強引に進めるぞ? いいな?」

俺としては、いい加減この女の子を肩から降ろしたかったのと、寒すぎるこの空気をなんとかしたい気分であった。

「うん、いいよ」

「進めるなら進めて頂戴」

こくこくと頷く二人。心底ありがたかった。素直万歳。


「とりあえず、下手に触って後からハラスとか叫ばれても困るからよ。お前らがいてくれてよかったぜ」

抱えたままなのもアレなのでいい加減、と、二人の前にそっと寝かせる。

「ていうか、意識失ってるならリカバリー使えば良いじゃん。なんでわざわざ?」

プリエラは不思議そうに首を捻っていた。マルタも頷く。

「奇跡、使えないからな」

「……うん?」

「えっ?」

何それ聞こえなかったー、とでも言いたげに、二人とも固まってしまう。

「半年位教会いくのサボってたら、なんか使えなくなったんだ」

参っちまったぜ、と、照れ隠しに頭を掻くのだが、二人は唖然としていた。

「サボりすぎだよ!!」

そしてまずプリエラが立ち上がりながらツッコミ。

「半年って!? 奇跡使えない聖職者って!?」

マルタも同様に突っ込んでくる。二つもだ。さすがマルタ鋭い。

「ドクさん、聖職者である意味あるの……?」

プリエラ、呆れたようにため息。

「ないな、全くない!」

そんな事は気にしないので、俺は胸を張ってやった。ドヤ顔で。


 俺やプリエラのような聖職者枠のジョブに就く者は、教会だの何だので神様にお祈りを捧げる事によって『奇跡』の発動が可能になる。

奇跡の種類は多岐にわたり、こうしたゲームにありがちな傷の回復(ヒーリング)精神の安定化(メンタルエール)身体能力の向上(ブースト)、そして混乱や呪いなど、一部状態異常の治癒(リカバリー)もこれによって可能になる。

意図して発動させるアクティヴスキルなのでその都度祈る必要があるのだが、魔法と違い奇跡を発動させる事による本人のデメリットは特に存在しないと言われている。

ただ、その効果や祈りから発動までの速さは、一般に神様に対し祈る頻度やその質によって増減すると言われている。

いわゆる『信仰システム』と呼ばれるモノなのだが、つまり、俺のような生臭坊主はろくに恩恵を受けられないし、逆に毎日のように祈りを欠かさない敬虔な信徒には神様もその分眼一杯微笑んでくれるという事なのだろう。


 そんな訳で、俺は奇跡を扱えない。

聖職者の多くはこの奇跡によって他の職業群との差別化がなされており、一般に聖職者が求められる需要はここにあるので、それを満たせない俺には聖職者としての意味はほとんどない。いや、全くない。


「そんな事で胸張らないでよもう……ドクさん、今度一緒に教会にいこ? ね?」

「まあ俺の事は良いとして、とにかく今はこいつだろう」

プリエラは何か哀れむような眼で見つめてくるが、問題はそこじゃないのだ。

今大切なのはあくまでこの意識が戻らない少女のはずだった。

「あ、そうだった――」

プリエラも思い出したようにぱちん、と手を叩き、再び座り、少女の顔の上に手を重ねる。

「それじゃ、私が起こすね」

言いながら、プリエラは眼を閉じ、静かに息を整える。

俺もマルタも、黙って流れを見守っていた。


『傷つき倒れた小鳥よ、やむなく眠った子羊よ、目を醒ます時です。起きましょう――』

呟きと共に、プリエラの指先、そして手の全てにぼんやりとした光が宿ってゆく。

『闇は貴方を癒したはずです。貴方は既に起きる事が出来る。さあ、起きましょう。光が、声が、貴方を(いざな)いましょう――』

眼を開くと同時に、光は一際大きく膨張し――そして弾ける。

『リカバリー』

すう、と、弾けた光が少女の頭へと吸い込まれるように収まってゆく。

そうして光は薄れ、消え、奇跡は成った。


「……ふぅ」

問題はここからだった。

リカバリーは成功。意識はまだ戻らないが、少女の表情にはやわらかみが見え始めていた。

奇跡に出来るのはここまで、後必要なのは――

「朝ー、あさだよー、おきてー」

ひたすらに声をかけること。プリエラは口元に手をあて、少女の耳元で優しく(ささや)きかける。

「あさごはんのじかんだよーっ、おきないと、たべちゃうよーっ?」

「んぅ……あ、さ……?」

少しだけ意地悪に、しかし優しさは忘れずに。

少女が『つい』意識を取り戻してしまうように、それっぽいことを囁き続ける。

自然と、少女もそれに反応し、口元や身体にも動きが見られるようになってきた。

「あっ――もう遅刻だよっ、早く起きないと、ちこくちこくっ」

そうかと思えば早口でまくし立てる。若干不意打ち気味だった。

「――遅刻はだめっ!!」

そればかりは許せないとばかりに。

びくん、と、少女は飛び起きた。



「……あれ?」

そうして周りをきょろきょろ。

やがて首をかしげながら『なんで?』といった様子で固まっていた。

「ようやく起きたか」

「やっぱり遅刻って怖いよね。つい起きちゃうよね」

「随分手間取ったわねー」

俺も含め、三人で少女を囲んで笑っていた。

思ったよりは深刻じゃなさそうというか、餓死寸前みたいな命に関わるような状況ではないらしいのは僥倖(ぎょうこう)

なんだかんだ、俺達は安堵していたのだ。


「あ、あの、えーっと……ここは……?」

しかし、状況が理解できないのか、少女は固い顔のままぎこちなく問うてくる。

「リーシア南の岩場だ。『エルダーの森』からは転送二回分の場所な」

「リーシア……あっ、『始まりの街リーシア』ですかっ?」

「うむ。森の中倒れてたのを俺が見つけてここまで連れてきたんだが、お節介ではなかったか?」


 一応、聞くだけの事は聞いておく。

勝手に倒れてて放置すればどうなったかわかったもんではないのだから文句を言われるいわれも無いが、あくまで助けたのも俺の勝手だったからだ。

乞われて助けた訳でもないのにそれをやれば、押し付けがましいと感じる奴も中にはいる。

仲間の救出を待っていた可能性もあるのだから、俺のやった事が一概に正しいとは言い切れないのもある。

その辺り、気持ちの上で保険として聞いておこうと思ったのだ。


「あ、はい……その、リーシアに戻りたいなあって思ってたので助かりました」

どうやら助けて正解だったらしい。おかげで俺も一安心だ。

「そりゃよかった。しかしなんだな、見た感じ初心者にしか見えんが、なんであんなところに居たんだ? それも一人で」

ついでに疑問に思った事も口に出してみた。

中級狩場の奥の方、初心者未満の装備で一人倒れていたのは、ちょっとどころじゃなく謎過ぎた。

「えーっと、その……これには深い事情があるというか――」

少女はというと、ちょっとだけ話しにくそうに視線を逸らしていた。

「んじゃいいや」

「あっ、いえ、話しますっ」

別にそんな固執するような事でもないので切り上げようと思ったのだが、その態度がショックなのか、自分から説明すると言い出していた。

案外、場の空気に流され易い奴なのかもしれない。


「その、私、実はマジシャンになりたくって。それで、職に就く為にメイジ大学を探してたんですけど」

ふわふわとした声で説明を始める少女に、みんなの視線が集まる。

「それで、どこへいけばいいか解らないまま街をうろうろしてたら、何か、地面が光ってたのを見つけて――」

「出しっぱなしのポータル?」

「たまにいるのよねー、依頼されて出しはしたものの消し忘れちゃうの」

思いあたりがあるのか、プリエラとマルタは苦笑い。

「ポータルって言うんですか? 良く解らないんですけど、面白そうだったからその光の中心に立ってみたんです」

「面白そうだからで立っちゃったんだ……」

「はい。そしたらその……カルナスっていう街に出ちゃって。それで、近くにいた兵隊さん? に聞いてみたら『マジシャンになるにはリーシアに戻らないと無理だぞ』って言われちゃって――」

なんとなくの代償としては、初心者には中々に厳しいものがあったらしい。

「お金は無かったんですけど、幸い親切に道を教えてくれた人がいまして……それで、徒歩で歩いてきたんですけど、あの森の中でとうとう食料が尽きて、限界近くなったあたりでモンスターに吹き飛ばされちゃって、そのまま――」

「――なるほど、事情は良く解った」

とりあえず話を聞いて感じたのは『こいつ何も知らなすぎ』というのと『こいつ強運過ぎ』という二つ。


 カルナスとリーシアは、街の有料転送サービスを使えば転送一回で移動可能だった。所要時間一分で行き来できる。

初心者で金が無いのだろうが、別にカルナス周辺で初心者でも倒せるような適当な雑魚を一時間も狩ってれば転送費用に困る事は無い。

だが、徒歩で移動しようとすると途方も無く遠い。

まず、直線距離で進もうとすれば大河に阻まれ渡し舟なしに進む事は不可能。

その為河を避けるように迂回して進む事になるのだが、そのルート上はほとんどが森林地帯か丘陵(きゅうりょう)地帯。

合間に休憩を挟めるような町や村はないし、当然物資の補給も現地調達で行うほか無い。

幸いルート上はところどころ街道のようになっているので道に迷う事だけは避けられるが、そんな面倒なルート一々通る奴もいないので人の手を借りる事すら難しい。

正直、知っているからと初心者が歩ける道とは思えないし、『そんな道を初心者に教えた奴が本当に親切な奴だったのか』という疑問も残った。


「とりあえず、街で見かけた『光る床』は踏むな。『放置ポータル』と言って、転送はしてくれるが、術者本人にしか飛ばされる先が解らんからな。飛ばされたのが街や村ならまだいいが、狩場の奥地に飛ばされでもしたら即死もんだぞ」


 割と洒落にならないのがこのパターンだった。

術者本人が出しっぱなしにして放置し、それをうっかり踏み抜いた無関係の奴が狩場、それもモンスターハウスど真ん中に放り出され、何も出来ないままぼこられ死ぬ、という不幸な事故が極稀にだがあったりする。

特にこの少女のような何も知らない、好奇心ばかりが旺盛な時期に陥りやすい罠のようなもので、街では注意喚起が広まっているはずなのだが、初心者にそんなことは解るわけない。

だからあえて今、きちんと教えておく。


「それと、金が無いならまず街の周辺で雑魚狩りでもして金を稼ぐんだ。冒険職目指してるなら、街の周辺の雑魚位は倒せるようになってから街から離れた場所にいくようにするんだ。初心者がいきなり街から街まで徒歩で移動ってのは無謀通り越して無茶苦茶だ」

「は、はい――その、すごく危ない事してたんですね。気をつけます」

はっきりと言ってやったので嫌な顔の一つもするかもしれないと思ったがそうでもなく、若干落ち込んだようではあるが文句を言ったりはしてこなかった。

案外殊勝な奴なのかもしれない。

「でもあの、助けてくれたんですよね……ありがとうございましたっ」

さらにお礼まできちんと言える子だった。俺の中の好感度、うなぎのぼり。

「ああ、礼は俺より奇跡かけたそこの天使様に言うべきだな。そこの茶髪の天使様」

しかし照れくさいのでプリエラに振った。にやけそうになるのを誤魔化す為に。

「えっ、私っ!?」

突然話を振られビクリとするプリエラ。相変わらず不意打ちに弱い奴だった。

「天使さま……?」

俺の言葉に疑いも無くプリエラの顔を見つめる少女。素直な良い子だ。

「ありがとうございました天使さまっ」

「や、やめっ――私天使じゃないしっ、プリエラって名前があるしっ」

わたわたと手を振りながら赤面した顔を隠しているが、盛大に照れていた。

プリエラはこういうおだてにとことん弱いのだ。それが面白いところでもあった。

「もーもーっ!! 駄目だよドクさんっ、こういう純粋な子に変なこと教えちゃっ」

「照れるなよ天使ちゃん」

「顔が赤いわよ天使ちゃん」

「マルタさんまで言い出してるし!?」

プリエラは俺達の天使だった。


「ま、とりあえずメイジ大学まではその天使ちゃんが送ってくれるそうだから安心すると良い」

「道に迷わないようにねー」

「私っ!? 何時の間にそんなお話になってたの?」

我らの天使は振り回されっぱなしだった。

「あ、あの……いいのでしょうか……?」

当の少女はというと、遠慮がちにプリエラの顔を見上げていた。

「う、うーん……なんかハメられてる気がするけど、いいよ。連れて行く。ていうか、君はお腹空いてるんじゃないの?」

「あっ……そのっ――」

プリエラの指摘にあわせたように「グゥ」と、可愛らしい音が少女の腹から聞こえた。

「~~~~~っ」

赤面する少女。年頃の女の子にとって、これは中々にお恥ずかしいのかもしれない。

「その、なんだ……その辺りもプリエラがフォローしてくれるから安心すると良いぜ!」

だが面倒くさいのでプリエラに全て押し付けることにした。

「もー、ドクさんってば……しょーがないなー、もー」

プリエラは牛のようにもーもー言いながら立ちあがり、そっと少女の手を取った。

「それじゃ、まずはご飯食べにいこ。それからメイジ大学。はい、付いてきて」

「えっ、でも――」

「いってらー」

「迷子になるなよー」

困惑する少女を引っ張りながら街へと向かうプリエラ。

それを見ながら俺とマルタはてきとーに送り出す。

「あっ、あのっ、ありがとうございましたっ」

最後の最後、少女は聞こえるように大きな声で、俺達に向けお礼を言っていた。


-Tips-

バトルプリエステス/バトルプリースト(職業)

聖職者系上位職の一つ。通称『バトプリ』。

その他プリエステス/プリーストと呼び名が被る事もある。

支援職としてマジョリティであるプリエステス/プリーストと異なり、こちらはマイノリティ。

奇跡を使用する事ができるのは同じだが、こちらは他者に向けてというより自身に向けてのものが多く、前衛向き。

使う事の出来る武器も杖か鈍器系に限定されている。


自身が前に出て直接モンスターを倒す事を是とする職の為、装備できる武器の縛りが他の聖職者系と比べて少ない反面、

扱える奇跡の半端さが祟り支援職としての需要は満たせない事のほうが多い。

前衛としても狭所で前衛最強の『バトルマスター』、広所で前衛最強の『ソードマスター』と比べて攻撃能力も継戦能力も劣るため、

一般には不人気職の扱いを受けているが、扱える奇跡とプレイヤー本人の戦い方とがマッチすれば意外な強さを発揮する場面もあり、侮れない。


特徴的な奇跡として目に見えている範囲でランダムに転移する『ランダムテレポート』、

メイスやクラブなどの鈍器系武器の威力を数秒間向上させる『バスターフォース』、

瞬間的に武器の打撃力(攻撃力ではなく与える衝撃の強さ)を上昇させる『マグニム』などがあるが、

いずれもあまり使い勝手がよくない為、固有の奇跡でありながら習得している者は少ない。

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