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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
8章.イベント・ライブラリ(主人公視点:ドク)

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#2-1.復興の街ラムにて


「おお、すごいな……」


 運営さんの手伝いの為別れた後、俺はまず、そういう(・・・・)情報が回っていないであろう箇所から回る事にした。

真っ先に向かったのは、『ナイツ』の拠点、ラムの古城だ。

ミルクいちご同盟と同時期に街の復興が始まったとは聞いていたが、ラムに到着するや、その進捗(しんちょく)の速さに驚かされてしまった。

廃墟マップらしく寂れていた以前と比べ、瓦礫(がれき)やなんかは片付けられ、道も大分綺麗になっていた。

それでも広大な廃墟は完全にはなくならないが、転送で到着した街の中心部――古城前の地域は、もう大分整地化されていると言える。


「はーい、疲れた身体を癒やすためのヒールポーション! 筋肉痛や腰の痛みなんかの状態異常を癒やせるキュアポーションもありますよーっ」

「お腹の空いたあなたの為に、街からういうい亭出張サービスでーす。美味しいパン、ありますよーっ」

「転送やってま~す。リーシアとカルナス、それからアンチラやメイガスの塔への転送もできます。料金は一律金貨50枚となってまーす」


 ところどころ露店商も現れ始めたし、転送NPCや倉庫NPCといったサービスも開通し始めている。

そうかと思えば、簡易ながらも家屋がすでに建ち始めており、そこから緑色の復興作業員の制服を着た連中が頻繁に出入りしている。

復興の仮拠点、作業に従事するメンバーの休憩地点か何かなのかもしれない。

コーラル村の復興組しか見たことがないので他とは比べようもないが、始まってそう経たないにも関わらずここまで復興が進むというのは、かなりスピーディではないだろうか。

何より、それを実行できるだけの人材の確保、継続して続けられるだけの資材の確保、それが可能な財政や中心人物の人徳などがあってのものなのだろうが……

そう考えると、バケツ姫のカリスマ性というか、復興が急ピッチで進むなりの何かを持っているのだろうな、と、考えさせられる。

サクヤやエミリオがずっと居つくのも無理はないな、とも。思わず苦笑していた。


 しばし街の様子を眺めていた俺だが、用件は別にあるのを思い出し、古城へと急ぐ。

既に平和な状態の元廃墟は、作業に従事する連中も、商品やサービスを提供する連中も安心して過ごせる、安全な街となった、という事だろうが。

古城の方はというと、相も変わらず荘厳な雰囲気をそのままに、城門の前には鎧姿の――うん? 何かちょっとおかしいような気がする。

「――お前ら、兜取ったのか?」

バケツ兜が特徴的だったロイヤルガード集団『ナイツ』のバケツ騎士たちが、皆してそのバケツ兜を取っていたのだ。

その下にあったのは、トーマスよろしくあまり騎士と言った感じのしない――今一ぱっとしない顔だちの中年男たちだった。

「おや貴方は……えぇ、まあ。その、姫様が兜を外されましたので」

「もう姫様に負い目を感じる事もなく、姫様の前で素顔を晒すことができます」

聞けば、どうやらバケツ兜が取れなくなっていたお姫様に申し訳なく感じていて、その為に被っていたのだという。

勿論バケツ姫とお揃いの格好でいたかった、というのもたぶんにあったが、それだけではなかったのだ。

「そうか……なんか、個性……? いや、集団としてのまとまりがなくなっちまった感じだな」

「それは言わないでもらいたい」

「我々も、時々寂しくなるのだ。あれは、我々の一体感の象徴でもあったからな……姫様とのお揃いが……はぁ」

どうや彼らとしても、多少なりとも未練はあったらしいが。

まあ、あれも一種のペルソナのようなものだったのだろう。

騎士団としての一体感を演出する小道具としてなら、確かに有用に作用したのかもしれないと思うと、奇妙にも思えたあの集団にも、一応の意味はあったのだな、と、感心した。

「とはいえ、やはり素顔で、素顔の姫様とお会いする事が出来るのは嬉しい事です」

「ああ、バケツ姫の兜が取れたっていうのは俺も聞いてる。良かったな、本当に」

「はい」

良かったよかった、と、小さく頷きながら朗らかに笑うバケツ騎士らの横を抜け。

壮大な扉を開いてもらい中に入ると、そこもやはり、以前とは若干異なる空気になっていた。


「いらっしゃいませ」


 まず、城内に入って最初に目についたのは、見慣れないメイドの格好をした――エミリオだった。


「ようこそカトルカール城……へ?」


 愛想よく頭を下げていたエミリオは、にこやかぁな笑顔を解くや、急に真顔になって俺の顔をまじまじと見つめていた。

「……転職したのか?」

「ちがっ、これはその……アルバイトでっ!!」

見慣れた剣士娘のメイド服に思わず噴き出しそうになってしまう。

小豆色のショートヘアーにブリムが申し訳程度にのっかっているのだが、ツンツンとした髪質の所為でこれがうまく収まりきっていなかった。

いつもは剣士用の分厚いスカートなのだが、これが長めのひらひらとしたエプロンドレスになっただけでなんとも違和感が凄まじい。

「うぅ……サクヤにも笑われちゃったしさぁ。あんまり見ないでよぉドクさん」

若干涙目になってる辺りは可愛かったが、まあ、快活な剣士娘のそんな仕草は新鮮ではあった。

「しかしバイトとはまた……冒険者やってた方が金にならないか?」

下世話な話ではあるが、タウンワーカー職というのは危険を冒さない分、ある程度の熟練の域に達したり、お得意客を獲得できなければ冒険者ほどには金を稼げないのが常である。

なので、プリエラのようにモンスターを自力で狩って金を稼げないプレイヤーを除けば、冒険者が街でバイト生活するのは本末転倒なはずなのだが。

「そう思うでしょ? これがさー、すごいお給金いいの。一日で街の討伐クエスト5回分くらいの報酬よー?」

すごいっしょ、と、指をわきわきさせながら真面目な顔になるエミリオ。

うむ、まあ、確かに報酬は破格だ。

エミリオ位の練度なら、討伐系のクエスト一回でも数日は食っていけるだろうから、一日でその5倍稼げるというなら相当な儲けのはずだった。

「最近は城内も忙しいらしくてさー。来客が多くなってきたから、簡単に用件別に案内できる人手が欲しいらしくって。アムリタさんに頼まれちゃったんだよねぇ。あ、アムリタさんって言うのはミルフィーユ姫のお付きの人で――」

「……ミルフィーユ姫?」

「うん。そだよ。あ、そっか、ドクさんまだ名前知らなかったのかー。私なんかはゲーム初めたばっかの頃に一度会ってるから知ってたんだけどねー」

そっかーそうだよねー、と、変に納得しながら花のように笑うエミリオだが、俺の驚きはそれとはまた別のところにあった。

ミルフィーユという単語は、妙に思い当たるところがあったのだ。


「ていうか、お前、あのお姫様の知り合いだったのか?」

意外な事実である。そんな事ギルドの誰も知らないのではなかろうか。

当たり前のようにさらっと言うから流しそうになったが、最初から顔見知りだったというなら、バケツ姫周りの事だってもう少し情報として知れたものを。

「うん、まあ。でも、本当に最初の頃だけだったし。ゲーム始めたばっかの頃に、面白半分で転送陣に乗ってみたらさー、偶然変な廃墟に出ちゃって。帰るに帰れなくなっちゃって困ってた所を、あのお姫様に助けられたんだよ」

「ほう……てことは、ラムに一度きたことがあったのか」

「そうみたいだねー。あの時はそこがラムの街だったなんて知らなかったし、あのお姫様も兜なんて被ってなかったから、サクヤと一緒の時は完全に初対面だと思ってたんだけどね」

まさか知り合いだとは思わなかったー、と、頬をポリポリ掻く。

「あ、ごめんね。それで、お姫様に用事? それともサクヤ?」

「両方だな。サクヤもいるのか?」

「うん。さっきまで仕事の依頼で一浪さん達と一緒に来てたよー。一浪さん達はもう帰ったけどね」

どうやら一浪やマルタとは入れ違ったらしい。残念ではあるが……サクヤがいるだけでもよしとしよう。

「それじゃ、バルコニーまでご案内だよー。どぞー」

ついてきてねー、と、フリフリとスカートを揺らしながら歩きだすエミリオ。

俺もその後ろにつきながら、歩調を合わせ歩いた。


-Tips-

アンチラ(場所)

リーシアから西に3マップ、北に5マップほど進んだ先にある宿場村。

アスミス、レイオス伯爵城、セントアルバーナなどへの転送ルートが存在し、特にレイオス伯爵城やコボルド村への直近拠点として冒険者に需要がある。

リーシア、セントアルバーナ、アスミスとは街道で繋がっているが、位置的にアンチラ寄りにある『とげ角族の洞窟』は街道を通る場合リーシアからの方が近い。


村の規模はそれほど大きくはなく住民の数も少なめだが子供が非常に多く、上記の通り転送交通の拠点として利便性が高い為、村の中心部では商人や転送屋などの各種サービスが充実しており、冒険者の数が多く昼は賑わいを見せる。

夜間は宿屋とバー以外は閉まっており静かではあるが、ひそかに村娘による有料特殊サービスなどが行われている事もあり、村娘フェチな冒険者にはたまらないサービスとして村から離れられなくなっている。


村の北側には無人の教会があり、女神像に祈る事で間接的にリーシアの聖堂教会のミゼルと交信を図ることができる他、女神像を通して奇跡を付与してもらったり簡単な怪我や毒などを治療してもらう事も可能である。

これらのサービスに対してミゼルは料金を取らないが、女神像を大切にする事、日常的にお祈りを欠かさない事などを要望される為、末永く活用するならばそれらを滞りなく履行できる信仰心が大事である。

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