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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
8章.イベント・ライブラリ(主人公視点:ドク)

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#1-1.黒猫娘とのひと時1


 エント討伐を終えて復興村からリーシアへと戻った俺は、相も変わらずなリーシアの平和さに、ほっと一息ついていた。

やはり、住み慣れた街というか、最初の街というのは愛着が違う。

ホームシックになっていた訳じゃあないが「たった一晩他所で過ごしただけでも随分懐かしく感じるものだ」と、可笑しく感じて笑っていた。


 行き交う人々は、今日も楽しげにおしゃべりをしていたり、露店を眺めていたり、気になる女の子に声を掛けたり、ギルドへの勧誘をしたり――様々な賑わいを形成し、街に温かな空気を作り出していた。

広場を歩けば、今日は演奏会なのか、自作の楽器を楽しそうに吹いたり鳴らしたり弾いたりしているグループの姿。

聞き惚れるというよりは一緒に楽しんでいる様子の聴衆が、リズムを形作るように手を鳴らし、奏者がそれに合わせ即興の曲を演奏していくスタイルがここでは一般的だ。

そうかと思えば、道端では食い物の屋台なんかも出ていて、美味そうな串焼き肉や可愛らしい形に焼かれたクッキーなどの香りが鼻先を優しく刺激する。

なんとなく、花壇の隅に腰かけ(つくろ)いでいた。


 家族連れの姿も、わずかではあるが見る事が出来た。

このゲーム世界では、子供だって作ることができる。

NPCと結婚して子供を作ったプレイヤーもいると聞くし、その辺り割と何でもありなんだと思うのだが、ゲーム内であってもレゼボア人は奥手な奴だらけなのか、はたまたゲームに夢中で恋愛どころではないのか、結婚までいくプレイヤーも少ないし、実際に子供を作ったプレイヤーなんて俺の知ってる範囲でも二人位しかいないほどだ。



 そもそも、このゲームの中での子供の概念という奴が中々複雑で、現実と違う部分がいくらかあるのも難点だった。

一つは、これは当然だが『リアルには存在しないNPCである』という事。

どれだけ愛しくとも、ゲーム世界にしか存在していないのだ。

まあ、この辺は仕方ないだろう。

ゲーム世界で愛し合っていたとしても、リアルではそれは持ち越されるわけでもなし。

赤の他人同士のはずのリアルでまで子供が生まれてしまったら悲劇しかない。


 もう一つは、生まれた子供の成育速度。

そもそも、このゲームにはプレイヤーもNPCも時間の経過による加齢・身体的な成長や老化といったものが存在しない。

理論上は何年経っても子供の奴は子供のままだし、若い子は永遠の若さを保てる。

だが、実際にゲーム内に生まれた子供というのはそういった特性がなく、一定の年齢になるまでは成長するのだ。

その成長速度もリアルとは明らかに異なり、生まれたばかりの子供も三日ほどで言葉を話せるようになり、一週間もすればよちよち歩きで両親について歩けるほどになる。

当然身体の方もそれにあわせてスクスク育っていく為、大変手間がかからないらしい。

そうして、10代前後になった辺りで成長が緩やかになり、大体14から16くらいで完全に止まるのだという。

なんとなく、ファンタジーか何かで設定されている異種族のように感じてしまう成長スタイルだが、これがこのゲーム世界での子供というものである。


 成長した子供にも当然自我が存在し、多くは両親を慕って一緒に冒険したりするようになるらしい。

リアル以上に両親の外見的特徴を受け継ぐらしいので、母親似なら多くの場合美形に、父親似なら大体は優男か筋肉達磨になるという。

他のゲームでいうところのペットシステムに近いのだろうか。

親子連れは幸せそうに寛いでいるが、その自由な幸せはリアルでは中々に味わえないものに違いなかった。



「あら……ドクさん?」

しばし広場で(たたず)んでいた俺に、誰かが声を掛ける。

親子連れを眺めていたので近づかれていたことに気づかなかったが、ふと意識を向けると、そこには見慣れた顔の子が立っていた。

黒い猫のワンポイントのついたワンピースに猫耳猫尻尾。鈴がついた首輪つき。紛うことなきドロシーだ。

手には小さな紙袋を持っていた。

「家族を、眺めてらしたんですか?」

ちりん、と、風に揺れる鈴。

長い黒のロングヘアーが、スカートと一緒にさわさわと流れるように浮き……そうして、可憐な指先に抑えられる。

「ああ、なんとなくな」

隣に腰かけるドロシー。

俺は視線を再び家族に戻し、それからまた、ドロシーを見た。

「ああいう、幸せそうな家族を見ていると癒される」

「そうなんですか……?」

「ああ」

別に、不幸な生まれな訳でもないのだが。

リアルに不満がある訳でもないが、なんとなく。

そう、ああいうの(・・・・・)は、一度も体験したことがなかったのだ。


 両親と一緒に出かけた事なんてなかったし、そもそも出かける先なんてなかった、ように思えた。

買い物なんてそれこそ家の外に出なくともできるし、子供は義務を果たしたらもう寝る位しかできることなんてないのだ。

毎日やることが決まっていて、食事や風呂やトイレすら世界に管理される日々。

それが俺たちの世界では当たり前で、そこから外れることはとても恐ろしい事なのだと、幼少のころから教えられていた。

だから、俺は両親に対して笑顔で話しかけたことなんてないし、笑顔の両親にああやって(・・・・・)頭をなでてもらって喜ぶなんて事、一度も経験したことはなかったのだ。


 そんな精神的に豊かな生活、というものを経験できなかった所為か、ああいったものを見るたびに、それがとても神聖な、温かなもののように感じられるようになった。

他人を羨んで、というより、自分の知らない何かがそこにあるような気がして、心が満たされるのだ。

「私も……リアルでは、あまり両親とは話したりできませんでしたから、ああやって楽しそうにしてる家族を見ると、確かに癒されますね」

「解るか」

「ええ」

にっこりと笑ってくれる。可愛らしい笑顔だった。


 まあ、俺の感じていたものなんて、恐らくはほとんどのレゼボア人が無意識のうちに感じている事のはずだった。

最上層で暮らすごくごくわずかの例外的な生活をしている者を除けば、そのほとんどがそうなんじゃないかとすら思える。

それが悪い事とは思わない。当たり前なのだから。

だが、その当たり前とは違う光景が少ないながらも存在するこの世界が、愛おしく感じる。

「ドクさんは……その、結婚とか、しないんですか?」

視線を逸らしながらも、そんな聞きにくそうなことに敢えて踏み込んでくるドロシー。

「結婚なあ……」

言われてみて、改めて考えてみる。

結婚相手として見ている相手は今まで一人もいなかったが、仮に結婚するとしたら、誰がいいだろうか、と。

試しに、ギルドの女連中で考えてみる。


――プリエラだったなら。

まあ、すごく平和な日々が続く事だろう。

何せ狩りの上では相棒だし、なんだかんだよく遊んだりしてるし。

少なくとも好かれてはいると思う。

「ドクさん大変だよっ、すごくかわいい子見つけた!!」

「マジか」

「うん! 私とドクさんの子供! 超かわいい!!」

うむ、プリエラとだったらかなり幸せそうな結婚生活をイメージできる。ありかもしれない。


――セシリアだったなら。

こいつとはプリエラ以上に長い付き合いだが、何故か恋愛とかそっち方面に繋げようと考えることはできなかった。

だが、もし付き合い、結婚したとしたら……これはリーシア最強の夫婦になってしまうのではなかろうか。

「もうこのあたりのボスは狩りつくしちまったな……次は何を狩る?」

「じゃあ、レッドラインでもいきましょうか? ふふっ、踏破しちゃう?」

「レッドラインへごー、だよパパ! ママ!!」

うむ。間違いなく最強だ。伝説の親子になるかもしれん。レジェンド過ぎる。


――マスターだったなら。

こいつともセシリア並に長い付き合いだ。

ただ、ギルド結成から今に至るまで中々たまり場に来ないし、来てもすぐどっかに行ってしまうしで正直恋愛どころではない。

というか、性格はともかく外見が子供っぽいからあんまり恋愛対象に感じられないのだが……

「くっ……こんな格好、恥ずかしい……しかも街中でだなんて」

「ぐへへへへっ、普段は全然欲情できんが、メイド服を着たお前なら余裕で――」

……特殊性癖的な? うむ、まあ、ないな。


――マルタだったなら。

ないない。こいつとだけは絶対にない。絶対にないが……何かの間違いであったとしたら。

「あの、マルタさん」

「何かしら?」

「なんで俺の飯、トラばさみなんですかね?」

「浮気したからよ。またほかの女に色目を使ってたわよね? 一浪君がトラばさみが好物だったなんて知らなかったわ」

「いや他の女見ただけでトラばさみとか」

「食べなくてもいいけど、食べなかったら殺すわ」

「ははは、その冗談おもし」

「冗談じゃないわよ?」

「へ……?」

「冗談じゃ、ないわよ?」

「……」

……何故一浪で想像した俺。

だがこのマルタは普通にありえそうだから怖すぎる。

あいつは人の命を本気で何とも思ってなさそうだから洒落にならないのだ……


 後は……サクヤだが、サクヤに手を出すところは流石に想像であっても考えるのはいけない気がする。

リアル年齢とか次第でもしかしたらOKになるかもしれんが、現状サクヤは外見相応の年齢の子と考えているのだ。

あの純真な笑顔を穢してはいけない。


-Tips-

キッズシステム(概念)

『えむえむおー』世界においては、プレイヤー同士、あるいはプレイヤーとNPC、もしくはNPC同士や魔族相手でも子供を作ることができる『キッズシステム』が採用されている。

仕組みそのものは単純で、性交する事によって子供が生まれ、その子供を育成できるというものであるが、詳しくは以下の通りになっている。


・出産までの過程

プレイヤーが異性と性行を行い、それによって妊娠・出産の手順を踏まえて子供を作成する。

リアル世界と異なり妊娠から出産までの期間はおよそ一週間ほど。

子供ができる確率は種族によって異なり、人間同士では一回ごとに2%、魔族相手では5%、亜人種族相手では3%ほどとなっている。

妊娠期間中、プレイヤーは身体的には何ら変化は存在せず、ただ妊娠したという状態異常が課せられている状態になり、日数の経過により目に見える形でカウントダウンされ、カウントの終了と共に自動的に子供が母親の目の前に出現する(これをこのゲームの『出産』と定義する)。

尚、妊娠したプレイヤーが死なない限り、仮に病気や呪いなどにより意識がなくなっていたとしても一週間後には必ず出産が成功する。死産や流産などは存在しない。

ただ、石化していた場合は母体もろとも石となっている為実質死産となる。

その他、稀に双子や三つ子が生まれる事もある。


・生まれてから

生まれた子供は、リアルと異なり三日ほどで(つたな)いながらも言葉を話すようになり、一週間で親についていける程度には歩けるようになり、約一月で8歳程度に成長する。

この期間中、親は常に付きっきりでいなくてはいけないなどの制約は存在せず、極端な話両親が傍にいて世話をしなくてもある程度までは勝手に育っていく。

子供の扱いは特殊NPCであり、成長も老化もしない普通のNPCやプレイヤーと異なり、一定の外見年齢(13歳ほど)までは高速で成長し、それ以降成長が緩やかになり、15歳~19歳ほどで完全に止まる事となる。


・育成するメリット

生まれた子供は、NPCとしてきちんとした自我が存在する。

両親が全く関わらずとも勝手に育ってゆくが、両親の育成方針やスキンシップの度合いによって性格や能力、性向などが大きく変異する。

一般に両親に愛され大切に育てられた子供ほど博愛的に、そしてコミュニケーション能力が高くなり、両親への愛情度や憧れといった感情が強くなりやすい。

反面両親に望まれない子供は狭量になりやすく、コミュニケーション能力も低くなりがちで両親への反発や社会への抵抗といった感情が芽生えやすくなると言われている。

子供は一定の年齢に達する事により冒険に連れ出すことも可能であり、PTメンバーとして一緒に狩りをしたり、タクティクスなどのイベントに参加する事も可能である。


・その他

生まれた子供は基本的に親のどちらか一方がログインするまではゲーム内には出現しない。

ただし、両親とも死んでしまったりデリートされた場合、一般的なNPCとして書き換えられたうえでゲーム世界で一人で生きたり、他のNPCやプレイヤーに保護されるようになったりする。

子供もゲーム世界のルールを破れば罰則を受けるため、両親が消えた時点で子供も親の罪に加担していた場合は子供も同様の罰を受ける事もある。


寿命などは存在せず、一定年齢を迎えた後は基本的に殺されるか罪を犯して罰せられるかしない限りは不老不死である。

また、子供もある程度の年齢にまで成長すれば結婚し、子供を作成する事が可能であるが、ここまで至ったケースは今のところ存在しない(ゲームがそれほどの年数を経ていない為)。



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