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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

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#4-1.水も滴る新人マジ子

「ロックシュート!!」

『ぴぎゅっ!?』


 狩場・始まりの森にて。

いつもより早めにログインしたのは良かったのだけれど、たまり場には誰も居ず。

それならちょっとでも多く狩場に出て、戦い方を覚えながらお金を稼がないと、と、いつもの森で戦う事に。

流石に毎日のように通ってると、この森のモンスター位ならある程度の慣れが前に出てきて、最初の頃に感じた怖さとかは大分薄れていた。


「ウォーターボール!」

マジシャンなりたての頃なんて複数同時にモンスターが出たら泣きそうになりながら逃げ回ってたのに、今では冷静に対処できる。

『ぎぃっ』

前方のマジックラビットにはロックシュートを当てて撃破。

後方のゴーストモルフィンにはウォーターボールを浴びせて、動きを鈍らせる。

「――シュート!」

そして、軸足をずらしながら追撃のロックシュート。

『ぎぴぃぃぃぃっ!!』

直撃。ゴーストモルフィンは大きな紫の羽をばたつかせながら地面へと落ちて、そのまま消えていった。

多分システム的には最初から出来たんだと思うけど、左手でウォーターボール、右手でロックシュートっていう風に使い分けてると、間にウォーターボールを撃った後でもすぐにロックシュートで追撃できる事に気づいた。

このおかげでかなり効率よく魔法での連携(コンボ)が可能になって、戦闘面でもかなり楽になっていた。


「――うく……」

だけど、魔法の連射は私自身のメンタルも消耗させる。

戦闘中は気を張り詰めてるからそこまで気が回らないのだけれど、敵が居なくなってほっとしてしまうともうダメ。

視界がちょっとずつグラついてきて、足に力が入らなくなってくる。

(休まないと……)

ドロップアイテムを拾い、ふらふらとする頭で周囲を見渡す。都合よく近くに大きな樹があった。

そのまま樹を背にして座り、膝を抱える。


『休む時は聖域で、それが無理なら樹や岩を背にしとけ。気が抜けてる時のバックアタックは洒落にならんからな』


 これは、たまり場でドクさんが教えてくれた事の一つ。

人間っていうのは油断してる時に攻撃を受けると、実際のダメージ以上に精神面でショックを受けやすいのだとか。

頭上からの不意打ちはどうしようもないけれど、障害物を背にする事で背後から攻撃を受ける事は無くなるので、その分だけ安全に休めるのだとか。

言われてみると「なるほど」と納得できる事だけど、戦い慣れてない私には教えてもらえないと解らないことだったりする。

だって、普通に現実で生きてて誰かに襲撃される事なんてまずないし、疲れて休むのに背後を気にする必要性なんて全くないのだから。


(ああ、なんか、ちょっとだけよくなってきたかも――)


 少しの間ぽけーっとしていると、段々と視界が定まってくる。

こういう時に攻撃を受けると危険なんだろうけど、幸い近くにモンスターはいない。

がんばって近くにいたのを狩り尽くした。結構達成感がある。

ふわふわとした気持ちになりながら、モンスターから回収したドロップアイテムが満載の袋を見てニマニマ。

(強くなっちゃったなあ)

そろそろ、初心者向けの狩場から出ても良いんじゃないだろうか。

初級者向けにランクアップしてもいい頃合なのでは? なんて。

お金もこつこつ地道に貯めていって、もうそろそろ火属性の魔法の魔術書(グリモア)も手が届きそう。

水属性と火属性の二つがあれば、白夜の平原のモンスターにも遅れは取らないらしいし。

そこでもうちょっと実践的な戦い方というのを身につけて、安定した生活を目指しても――


「……ふぁっ!?」


 ひた、という背筋に当たる冷たい感覚に、思わず間の抜けた声が出てしまう。

何かが落ちてきた――かと思えば。

「うひゃぁっ」

水。シャワーみたいな水が大量に、どざーっと降り始める。

まるで器の中身をひっくり返したようなどしゃぶり。大雨。

「なっ、なっ――うわぁぁぁぁぁぁぁんっ」

樹の下だっていうのに容赦なく降り注ぐ雨。とてもじゃないけど狩りなんて続けられない。

びしょ濡れになりながら、雨を吸ってより重くなった袋を泣きそうになりながら抱えて、私は狩場から逃げ出した。



「う、うう……」

リーシアにたどり着いた時にはもう上から下まで水っぽくなっていた。

汗なのか水なのか解らない位にジトッとしていて、肌着がぴっちりとへばりついて気持ち悪い。

(お風呂……お風呂入らないと――)

そして寒かった。こんな時に限ってびゅーびゅーと風が吹き始めて、濡れた肌がどんどん冷たくなっていく。

スカートから滴る水滴が私の靴をどんどん重くしていくのも嫌な感じ。

とりあえず、そう、とりあえず宿屋へ。


 こんな雨の時は、メンバーはたまり場ではなく契約している宿屋に集う事になっていた。

まだギルドに入る前に、やっぱり同じようにびしょ濡れになって寒かった時に、プリエラさんに教えてもらったのだ。

宿屋には契約さえしていれば無料で入れるお風呂がある。大浴場で、ぽかぽかなのだ。

濡れた服の代わりに替え着を貸してくれるサービスまである。

更に洗濯・乾燥サービスやマッサージ機やドライヤーっぽいアイテムまで。割と至れり尽くせり。

(い、いそご――)

肩を震わせながら、宿屋へと走る。


 突然の雨だったからか、街の人達は皆が皆傘を差してるわけでもなく、いくらかは私と同じようにびしょびしょ、スケスケになっていた。

女の人なんかはかなり危ない状態になってる人もいる。

だけど、人目なんて気にしてる暇は無いのだろう、やっぱり泣きそうになりながら走っていた。

悲しい。大自然の前に人間は無力なのだ。

現実なら人工的に天候を操作してるのに、ゲーム世界ではそんな事はできないらしい。

これには勝てないなあと思いながら、プリエラさんと入った宿屋へ。



「いらっしゃい。大変な時にログインしちゃったわねぇ」

入る前に、最低限絞れるだけ服を絞って水を落としてから宿屋に入ると、女将さんが気だるげに頬杖を付きながら迎えてくれた。

女将さんなんて言っても赤髪の若いお姉さんだけれど。

ロビーを見ると、やっぱり突然の雨の犠牲者が多いのか、濡れたまま呆然と立ったままの人とかが何人かいる。

「あの、シルフィードの者なんですけど。お風呂、貸してもらって良いですか? それから、替えの服も――」

お腹をちらっと見せてギルドのメンバーだというのを確認してもらいながら、女将さんに出された帳面に名前を書き込んでいく。

「はいよ、ていうか、あんたこないだプリエラに連れて来てもらってた娘よね。入ったんだ、シルフィード」

「あ、はい。あの後入れてもらって――ちゅんっ」

女将さんが顔を覚えてくれてたのは嬉しかったのだけれど、だからとお話なんてしてたら本当に風邪をひいてしまいそうで。

「す、すみません――お風呂……」

「ああごめんごめん。はい、タオルと替え。早く行っといで」

「はい、その、また後でっ」

女将さんからふかふかのタオルと替え着を受け取り、急いで一階奥の大浴場へと向かった。


-Tips-

天候(概念)

『えむえむおー』世界内部では、季節や土地ごとの気候に応じた気象変異システム『ウェザーハーモニー』が採用されている。

現実世界における気象管理システム『ディザスター』と異なり、こちらはその状況に即した天候を用意するものであり、都合に沿って変られている訳ではない。


現実世界の公式情報サイト『えむえむおーでぃすかばり』におけるゲーム世界向け天気予報サービスも、このウェザーハーモニーを基準として構築されているが、ウェザーハーモニー自体はかなりユニークかつ非常に曖昧な思考回路をしており、人間でいう『適当な判断』を下す事が得意なシステムとなっている。

このため、予報される天候内容が外れる事も少なからずあり、現実世界の予報と異なり明確にいつごろ、どの程度の変化が起きるかなどがはっきりとしていない。


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