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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
7章.港街を取り戻せ!(主人公視点:サクヤ)
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#11-4.黒騎士バルバス・バウ

 ポータルから出たのは、お城の廊下。

階段が見えたので、恐らくは2Fか3Fなのだと思うけれど。

朝私が下りた中央階段とは違うらしく、正確な場所が解らなかった。

「こちらは西区2Fの階段前ですわ。ここからまっすぐ進みますと中央階段前。さらに進んで東区の突き当りに、3Fへの階段があります」

後から現れたアムリタさんが、やや早い口調で説明を始めるのを聞いて、ちょっと疑問に感じた。

「ここからは上に上れないんですか……?」

見た感じ、目の前の階段にも上に上る為の階段がある。

これを使えば3Fまでは早いんじゃないかな、と思うのだけれど。

アムリタさんは首を横に、神妙そうに私をじ、と見る。

「残念ながら、この階段の上は、モンスター対策で閉鎖されているのです。中央も同じく。なので、姫様のいらっしゃる3Fに通じるのは、現状東区のみとなっています」

「なるほど……」

「城内はモンスターが多く、ナイツの面々はそちらの駆逐にも回っているはずです。サクヤさん一人で向かうのは厳しいはずですから、私も途中までご一緒します」

護衛はお任せを、と、どこからか取り出した杖を手に、きっと、緊張めいた表情になるアムリタさん。

上位職の人だし、心強くはあるのだけれど……なんとなく、不安も同時に感じてしまうのは、この人がプリエステスだからだろうか。



 駆け抜ける城内。

確かにモンスターがところどころで湧いているらしく、朝と違い、至る所で戦闘が始まっていた。


『クカカカカカッ!!! メギドォッ!!』

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!! 『マジックシールド』!!」

真っ黒なローブに身を包む骸骨魔術師と互角の戦いを演じる人。

『……!!』

『……っ』

『……っ』

「ふははっ、喰らえ『スタンバッシュシールド』!!」

伍長みたいな鎧を着た、赤や青のモンスターの集団を相手に、一人渡り合う人。

「ぐぉっ、これ以上、は……やべぇっ」

『グガァァァァァァァァァァッ!!!』

巨大な赤いドラゴンのブレス攻撃を受け続け、じりじりと追いつめられていく人。


 色んな人が戦っていた。

色んな人が頑張っていた。

その横を、すり抜けなければならなかった。

「ヒーリングっ! グロリアス・エンゲージ! ヒーリングっ! セント・バレスティナ!! ヒーリング!!!」

走りながらに、できる限りの支援を、戦っている人たちに振り撒いてゆくアムリタさん。

すごく器用だけど、でも、アムリタさん自身、歯を食いしばるようにして戦っている人たちから離れていくのだ。

きっと、悔しいんだと思う。

幸い、まだ(・・)倒れている人はいない。

ロイヤルガードの人たちはすごく堅くて、すごく強いんだというお話だし、今のところ、モンスターの迎撃もなんとかなっているっぽかった。

だけれど、モンスターは無限に湧くのだ。

今は防げても、いずれは押し切られてしまうかもしれない。

「黒騎士さえ倒せれば、モンスターはリスポーン・ブレイカーの影響でこれ以上出現することはなくなります。今さえ、今さえ持ちこたえられれば、きっとトーマスさん達が……!」

「急ぎましょう。とにかく、バケツ姫を逃がさないと……」

事態の不味さは、直接きて痛いほどに解った。


 このままだと、バケツ姫が危ない。

それだけじゃない。最悪逃げれば死にはしないけれど、多分トーマスさん達は、バケツ姫が逃げなければ逃げられないのだ。

街の再興を、という意味では振り出しに戻ってしまうかもしれないけれど、それでも、この人たちが無事なら、時間をかけてでも黒騎士を倒せれば、また再興の為考えることはできるのだ。

だから、ここで死者が出てしまうのは、非常に不味い。

これくらいの事は、私にでも解っていた。解ってしまっていた。


「あっ――」

中央階段まで来て、ぴた、と、先を走るアムリタさんの足が止まってしまった。

何事か、と、アムリタさんの見ていた階下を見つめる。


 大きく開けた、正面城門への広場。

そこでは、トーマスさんを始め、七人のバケツ騎士の人たちが、巨大な赤馬にまたがった、おぼろげな姿の黒い騎士と対峙していた。

その黒騎士の巨大さたるや。

大柄なはずのトーマスさんですら小柄に見えてしまうほどの巨体で、手に持った大剣も、人ひとり分よりよほど大きいほどで。

何より、そんなものを片手で担ぎ上げ、馬に乗ったその姿が、その勇壮さが、敵でありながら、とても格好良く見えてしまうのだ。

『ふふふ……ははははははっ』

そんな黒騎士が、高らかに笑いながら、馬の手綱を引く。

『ブルルルッ……ヒヒィィィィィィンッ!!』

同時に腹を軽く蹴るのだ。走り出す赤馬もまた、主人の笑い声に合わせるかのように高らかに鳴き、疾走する。

目掛けるはトーマスさん達の元。盾を構える前方の騎士に、構わず体当たりしていくのだ。

「やらせんっ! 『ガードリンク』!!」

後方のトーマスさんが声をあげ、盾を構える。

同時に、一様に盾を構えるバケツ騎士の人たち。

トーマスさんを中心に、青い光のラインがその場にいたバケツ騎士の人たちに繋がり……その身体が光り出した。

『むぅっ!?』

――衝突と同時に繰り出される大剣の突き。

だけれど、光に包まれたバケツ騎士の人たちは、誰一人としてひるまず、その一撃を盾で受けきっていた。

「貴様の攻撃など、我らには通じんぞ、バルバス・バウ!!」

先頭のバケツ騎士の人が、盾を一気に前へと押し切る。

『ぐむぅっ、やるなっ』

即座に馬を下がらせる黒騎士。

上からなので表情は解らないけれど、その声はちょっと悔しそうだった。

「往くぞ皆! 『ガーディアスマーチ』!!」

次に叫んだトーマスさんの声によって、今度は盾を構えた全員が、赤い光で結びつく。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「うおりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「てりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

バケツ兜の人たちが、一斉に黒騎士に向かい、盾を突き出し――そのままタックルしてゆく。

『ヒヒヒーンッ!?』

『くっ……おのれ』

その一撃がよほど重かったのか、ぐらついてしまう赤馬。

黒騎士にもダメージが伝わっているらしく、馬から飛び降り、剣を片手に構え直した。



「なんか……優勢、じゃないですか?」

城内でモンスター相手に戦っている人たちはともかく、トーマスさん達は黒騎士相手に結構頑張っているように見えた。

やっぱり、トーマスさん達は強いのだ。

バケツ姫を逃がす必要があるのか、ちょっと疑問に感じてしまう。

「そんなことはありません……いつもなら、黒騎士が馬を降りる事なんて、ほとんどないんですから」

だけれど、アムリタさんは首を横に振りながら、その様子を見つめる。

「……ううん」

本当にそうなのかな、と、私も併せてトーマスさん達の戦いを眺めていた。

というより、それ位しかできることがないのだ。

アムリタさんが足を止めてしまっては、進みようもないのだから。



『貴様ら如きにここまで手を煩わされるとは……こんなことでは、我ら(・・)の恨み、あの娘で晴らすどころではない。邪魔者には、早々に消えてもらうとしよう――』

赤馬が悲鳴のままに消え去っていくのを見ながらに、黒騎士は、低い声のまま何事か呟き、剣を床へと突き刺す。

「馬から降りたなら、後は持久戦に持ち込めば……むぅ、奴は何をするつもりだっ!? 警戒しろっ! 迂闊に近づくな!!」

「はっ、はい!」

トーマスさん達も見たことのない動きらしく、油断なく盾を構え、黒騎士の出方を(うかが)っていた――そう、窺ってしまっていたのだ。

『くははははっ、貴様らのその慎重さ、見事に仇になる様を焼き付けながら固まるが良い――』

黒い影の騎士が、高らかに笑う中。

地面へと突き刺された大剣は、やがてどんよりとした黒い霧のようなものを、その刀身から溢れさせ――やがて、それが黒騎士の周りに、まるで彼に従うかのように渦巻き、漂いはじめる。

『石化せよ、ストーン……カース!!』

そう、それは呪い。物理にまで達する凶悪な呪い。

渦巻いた呪いの塊は、黒騎士に命じられるがまま、指さした相手――トーマスさん達へと向けられ、放たれた。

「なっ、うぉっ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

まず先頭のバケツ騎士の人が。

「ぎゃぁぁぁぁっ、か、身体がっ、身体が動かな――」

次々に呪いはバケツ騎士の人たちへと。

盾など何の意味もないかのように貫通してゆき、その分厚い鎧を容赦なく貫き。

「ぐふっ……ば、馬鹿な、こんな、呪い――」

そうして、最後列にいたトーマスさんもその呪いからは逃れられず……膝をついてしまう。

『ふははははははっ、貴様らはここで、石のオブジェとして飾られるがよかろう! 貴様らとあの姫君に苦しめられた我ら(・・)の、その復讐の証としてなあ!!』

高らかに笑う黒騎士。

次々と意識を失い、倒れてゆくバケツ騎士の人たち。

「うあ……あ、ぁ……」

トーマスさんも動けなくなり、そして最後の最後、偶然なのか空を仰ぐように見て……こちらと、目が合ってしまった。

それで気づいたんだと思う。

「……たの、む……」

「……っ」

最期の一言が、私たちを走らせた。



 黒騎士は、間違いなく私たちの後ろを走っていた。

がちゃり、がちゃり、と、鎧のきしむような音が、私たちの後ろから聞こえて。

それでも、バケツ騎士の人たちはモンスターと戦っていて、その横を通り抜けなければいけなかった。

通り抜けた回数が、黒騎士が、足を止めた回数。

ちょっとの間だけ聞こえなくなって、またすぐに、私たちのすぐ後ろを、まるで追い回すかのようにあの鎧のこすれる音が聞こえるのだ。

恐怖よりも先に全身を突き抜ける生存本能。

走らなければならないと感じたのは、マタ・ハリ以来だろうか。

止まったら、きっと殺されてしまうから。

あるいは、トーマスさん達のように動けなくされて……石化させられてしまうのだろうか。

それは、怖すぎる。死ぬのと同じくらいに、怖い。

きっと私一人なら、泣いてしまっていたかもしれない。

走るのをやめて、どこかに隠れようとしてしまうかもしれない。

転移アイテムを使って、一人街に逃げてしまったかもしれない。

だけれど、それはできない。

私の前にはアムリタさんがいて、そして、とても辛そうな顔で走っているのだから。


 こうして、黒騎士との恐怖の追いかけっこが始まった。

-Tips-

ストーンカース(スキル)

モンスターの扱うスキルの中では最上位に忌み嫌われている、石化の呪い。

メディウサなどが扱うことで有名で、コカトリスやバジリスクの扱う石化の呪いと異なり、超広範囲に対しての高速発動が可能な点で脅威である。

本来ならば黒騎士バルバス・バウはこのスキルを扱う事が出来ないはずであるが……?

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