表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
7章.港街を取り戻せ!(主人公視点:サクヤ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/663

#9-3.災厄を振り撒く者

「……デトネイトブースターか。炎系の魔法使いなら強いんだろうけど、水氷系がメインのサクヤにはあんまり意味がないかな?」

しばしドロップ品を見た後、ほら、と、投げ渡してくる一浪さん。

「わわっ……な、なんか、悪趣味なネックレスですね……」

デトネイターがつけていた訳でもないのだけれど、小さな骨がついていたり、歯のような飾りがついたいたりと、かなりキワモノめいた装備品。

正直こんなのをつけて街中は歩きたくないなあっと思ってしまう。

「実用品なんですか?」

「炎系ならな。特にメギドとかファイヤーレーザーとかが大幅強化されるんだ」

「どっちも使えません……」

名前くらいは聞いたことがあるけど、どちらもすごく上級用の魔法だった気がした。

「メイジの魔法だしな。他の炎系破壊魔法の威力も底上げしてくれるけど、サクヤってあんま炎使わないだろ?」

「ええ……クラッシュバーン位です」

そういえば、と、炎系魔法のバリエーションが乏しいのを思い出した。

一浪さんの言う通り、私は結構水と氷の魔法に偏ってるのだ。

なんとなく相性がいいような、そんな気がしてよく使っているのだけれど。

「誤差程度の威力しか変わんないからあんま意味ないな……後でラムネに預けて売ってもらう方がいいかも?」

「そうしましょう。ちょっと残念ですけど……」

「折角のレアだけどなあ。でも、まあ、骨折り損じゃないだけマシか」

無事でよかったよかった、と、責めもせず岩場に座り込む一浪さん。

戦いそのものは短かったけれど、でも、確かに疲れたのだ。私も同じように腰掛けた。


「その……さっきはすみませんでした。逃げればよかったのに、私、迷ってしまって」

そうして、今更のように自分のミスを悔いた。

開き直って戦いを選択して、美味く生き残れたからよかったものの。

あれで私か一浪さんか、どちらかが死んでしまったら、目も当てられなかったのだから。

最初に逃げろと言われたのに逃げなかったのか、私の過ち。

「ああ、次は迷わず逃げてくれよ。デトネイター位なら俺一人でも時間かければ倒せるけどさ……俺はともかく、サクヤはあいつの攻撃喰らったらほぼ即死だからな。水弾アーチャーみたいになってたぜ」

ばちんばちんと水面を飛び石のように弾けていった水弾アーチャーの姿が浮かび、その姿に自分が重ね合わさってゆく。

……うん、想像すると洒落にならない。

「き、気を付けます……」

「怖かっただろ? だから、それを忘れんなよ。怖いと思ったらすぐ逃げるんだ。恐怖ってのは、人を生かす防衛本能だからな」

「はい……」

確かに、それは大切なもののはずだった。

最初の「不味い」と思った時に逃げの手を打てていれば、きっと二人とも無傷で逃げられたのだから。

「ま、これ以上は文句はないよ。それよりさっき落とした転移アイテム、拾えたか? 水弾アーチャーのドロップも忘れないようにな」

「あ……すっかり忘れてました」

そういえば、と、アイテムを落としたあたりをライト・ウィスプで照らし、じ、と見つめる。

うん、まだ落ちたまま。水が澄んでいるので良く見えてありがたかった。

そのまま転移アイテムを拾い、同じように水弾アーチャーが跳ねていった辺りも調べて、見事『水色アロー』をゲット。

「やりましたね」

「ああ、逃げなかった甲斐があったな」

二人して笑い、ぎゅっと拳を握りしめてぶつけあう。

「これで後必要なのは二つか……そういえばグランゲのドロップ見てなかったな」

「そういえばそうでしたね」

何か落ちたような気もしたけれど、すぐに水弾アーチャーの攻撃が来て解らなかったのだ。

一浪さんがグランゲを倒したあたりを探ると、手先を濡らしながら、一浪さんがにや、とこちらを見て笑う。

「やったぜサクヤ」

その手に持っていたのは……青い色をしたグランゲの牙。

多分求めていた『青い牙』なのだろうけれど……グランゲって赤いモンスターじゃなかったかな、と、首を傾げる。

「グランゲは興奮状態だと赤くなるけど、基本青いからな」

「ああ、なるほど……」

興奮色かあ、そういうのもあるんだなあ、と、感心。

このゲームのモンスターって、本当に生きている生物みたいに色んな生態があって面白い。


「これで後は黒い鱗か。こいつは割とドロップ率高いから、クロコさえ倒せればすぐだと思うが……」

あと少しで目標達成、と、喜んでいるばかりではないのか、一浪さんはキッ、と、洞窟の奥を見据えていた。

何があるのかな、と、私も目を凝らすけれど、よく見えない。

「……」

「気付いてるんだよ。さっきからこっち見てるの」

沈黙の中、一浪さんの独白のような声だけが洞窟に響いていたような、そんな時間だったけれど。

「――なんだ」

やがて、高い女の子の声が聞こえて、ようやく私にも人の気配に気づけた。

居るのだ。確かに居る。デトネイターが居た部屋の、壁の影。

「気付かれてたんだ。つまんないの」

水音と共に現れたのは……ショートパンツルックの、緑色の髪の女の子。

「うん……あれ?」

そうして、見覚えのある子だった。

確か、とげ角族の洞窟でも見かけた――

「……なんだ、またあんたか。今度は男連れ? いいわねー魔法職は、PTメンバーに恵まれててさ」

ふん、と、つまらなさそうにそっぽを向かれてしまう。ちょっと傷つく。

前の時もそうだったけど、なんだかこの子、感じが悪いというか。

「友達かサクヤ? そうじゃない事を祈りたいんだけど」

「いえあの……前に、とげ角族の洞窟で見かけた人です。それだけですけど」

「ふぅん……こないだの、マシンロボに襲われた時の……」

私の説明を聞いてから、一浪さんの眼が女の子へとじっと向けられていた。

水弾アーチャーの時のようなちょっとやらしい視線ではなく、注意とか警戒とか、そういう感情の混じった、油断ならないものを見るような眼で。

「なあにお兄さん? 女の子の身体をじろじろ嘗め回すように見ちゃってさ。悪いけど、あたしそういう商売やってないんだけど?」

「……よくデトネイター相手に生きられたな」

そういえば、と、私も女の子をよくよく見つめる。

傷らしいものもないし、疲れた様子もない。

さっきまですぐ近くにデトネイターがいたのにこれは、なんだろう、変な気がする。

そういえば、マシンロボの時もこの子が何かから逃げていて、そのあとにバリバリと出会ったり、マシンロボと遭遇したりしたのを、今更のように思い出した。

そう、あの時(・・・)もいたのだ。この子は。

「ハイドしてたもん。あんなデブいモンスターなんかに見つからないわよ」

「デトネイターは悪魔種族だ。ハイディングやシャドウウォークは通用しないはずだぜ」

「……っ」

「指にはめてるそれ(・・)、『災厄の指輪』だろ? それ使ってモンスター呼び出して、どうやってかモンスターけしかけてきたんだろ。違うか?」

「な、何言って……」

「違うか?」

「……」

一度目の指摘をなんとか誤魔化そうとした女の子に、さらに強調して、威圧的に問いかける。

女の子は押し黙ってしまった。

だけれど、かばう気にはなれない。


 さっき戦ったデトネイターは、間違いなく危険なモンスターだった。

マシンロボの時だってそう。命がけで戦ったのだ。

バリバリの仲間はマシンロボの所為で死んでしまったらしいし、私達だって死んでもおかしくないくらい危ない状況に陥っていた。

それも含めて考えると、もしこの子がそれをけしかけたんだとしたら……笑って許してあげることは、できそうにない。


「それにしても、アーチャーかレンジャーかと思ったけど、シーフだったんだな。もし君がモンスターをけしかけたんだとしたら、MPKの疑いで運営サイドに訴えることになるけど――」

「――るさい」

「ん……?」

「うるさいっ、うるさいうるさいうるさいうるさい!! 黙りなさいよ!!」

拳を握りしめながら、一浪さんの言うがまま、だんまりを通していたシーフの子が、突然声を張り上げ、一浪さんを睨みつける。

「あんたに何が解るのよ!? あたしはね、あんた達みたいに和気あいあいとPTプレイしてる奴らが大嫌い!! 楽しそうに、おしゃべりしながら狩りして! 楽しげに挨拶したり、辻支援したり! ふざけんじゃないわよ!!」

「何言ってるんだよ君……意味が解んないぞ」

「あたしはそんな事できなかったのに! あたしの仲間は運営の所為で消されたのに!! なんであんたたちが良くてあたしたちはダメだったのよ!? 全部ぶち壊しになればいいのに!! 何もかも壊れちゃえばよかったのに!!」

叫びながら、シーフの子は洞窟の更に奥へと走り出す。

「今からだって遅くないわっ、この洞窟にきた奴らをみんなこの指輪で殺してやる! あたしならそれができる! さっきの奴らはあんたたちの所為で殺せなかったけれど、今度こそ――今度こそあたしがっ――」

淡い紫の光が、真っ暗な洞窟の中、遠ざかってゆく。

「やばいっ、あいつ逃がしたら面倒な事になるぞっ! サクヤ、追いかけて捕まえようっ」

「は、はいっ」

――大変なことになってしまった。

狩りどころじゃない。あんな、モンスターをけしかけてくるような子を放置したら、また、私たちと同じような目にあう人が増えてしまう。

もしかしたら、他にも洞窟内で狩りをしているプレイヤーがいるかもしれないのだ。その人たちまで巻き込んでしまうかもしれない。危険すぎた。

「あははははははっ、追いかけてくるなら追いかけてみなさいよっ! MPK祭りの始まりよっ!」

狂気すら感じる笑いが木霊する中、私達は洞窟を走り続けた。


-Tips-

シーフ(職業)

盗賊系職業と呼ばれる、いわゆるならず者が就くことになる職業の一つ。


様々な理由でタウンマップで生活する事ができなくなった者が暫定的に就く職業ではあるが、公式に認められた存在ではなく、彼らが生きる為にやむなく行う行為・あるいは他者を(ねた)んだ末に行う行為の多くは犯罪行為となる為、ほとんどの場合長期間シーフとしてプレイし続ける事は不可能である。


それでも常にそういった『デリート予備軍』のプレイヤーは日々増え続け、盗賊系に堕ちていくのだが、まだシーフの段階ならば辛うじて贖罪(しょくざい)し、一般プレイヤーとしてやり直す機会がある。

だが、シーフとしての活動を繰り返す事によって犯罪者としての罪業が増してしまい、やがて取り返しがつかなくなる。


盗賊系は盗み行為あるいは攻撃的な接触以外で一般プレイヤーと関わる事はほとんどなく、盗賊系同士で傷を舐めあうように寄り固まっている事が多い。

彼らは厳しい環境下で生き抜くために鋼の団結を持っており、時として家族としてかそれ以上に深い絆で結ばれている。

新入りに対しても比較的寛容で、助けになるべく様々な助力やならず者としての教育を施す。

反面一般プレイヤーに対しては強く敵視している為、基本的になれ合わない。

同様に運営サイドやそれに組する運営さんに対しても、「自分たちを容赦なく排除する敵」として蛇蝎の如く嫌っている事が多い。


このように一般プレイヤーに対しては攻撃的な面も目立つ職業ではあるが、攻撃スキルが乏しい為に他の冒険職相手では下位職相手ですらまともに張り合えない位にか弱い。


特徴的なスキルとしては、悪魔種族・ボスモンスター以外から隠れる事の出来るスキル『ハイディング』、

短剣を投擲してダメージを与えたり状態異常を付与するスキル『ダガーストライク』、

一定の成功率でダンジョン内や宝箱などのトラップを解除するスキル『盗賊の手』、

モンスターやプレイヤーの所持品を摺り取るスキル『スティール』、

モンスターやプレイヤー撃破時のドロップアイテムを普段より多く得られるパッシブスキル『スナッチャー』などがある。


また、上位職として『バンディッド』『アサシン』『パイレーツ』がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ