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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

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#3-2.もふもふパンはサクヤの常識を変えた

「基本、うちのギルドでなんかあったら、俺かセシリアが対処する事になってるからよ。問題が発生したら、迷わず居る方に教えてくれ」

「はあ……その、問題が発生することって、多いんですか?」

その問題というのがどんなことを指すのか解らないので今一イメージできないのだけれど、そんなに気にするほど起きるものなのかな、と、気になってしまう。

「んー、普通に暮らしてりゃそうそう頻繁にはないと思うけどな。たださ、俺らって狩場でほかのギルドの奴らや、在野のパーティーと鉢合わせになったりする事があるんだ。そういう時に、問題ってのは発生し易いよな」

「あー……獲物の取りあいとか、ドロップの取得権利とかのお話ですか? ゲーム始めたばかりの時に受けた講義で教えられたような……」

「ああ、一番サクヤに関係しそうなのはその辺りだな。特に後衛・魔法職はそういうので問題になりやすい」

これが結構面倒なんだ、と、人差し指を立てながらに説明してくれる。

「白夜の平原みたいな平地マップなら視界が開けてるからそんな事はないんだが、西の森みたいに視界が限られる場所だとな、魔法で攻撃した敵が、実は他の奴が攻撃していた敵でしたー、という事もあったりするんだ」

「横殴り……?」

「うむ。獲物の横殴りは、かなりイラっとくる奴が多い。しかも、それがトドメになったりしてると、取得権はトドメ刺した奴に優先されるからな。頑張って削った敵が他の奴にとどめを刺されてドロップまで奪われましたー、なんてのは、削ってた奴にとっちゃたまらんだろう」

俺だってキレる、と、指をしまいぎゅ、と拳を握ってみせるドクさん。

なるほど、確かにそう考えると、今までは結構適当に魔法を飛ばしてたけど、その辺り注意が必要なのかもしれない。


「基本的にそういう事になってしまった時は、すぐ謝ってドロップを譲れば大体の奴は悪態位はつくだろうけど許してくれる。でも、たまにすげぇ性質(たち)が悪い奴ってのがいるからな」

「どんな風に性質が悪いんですか?」

「色々居るぜ。金銭要求してくる奴、怒りのまま殴りかかってくる奴、身体を触るとか、そういうハラスを受け入れさせようとする奴」

「……」

確かに性質が悪い。というか、普通に犯罪行為も混じっている気がする。

素敵なゲームだと思ったけど、そんな人と狩場で遭遇する恐れがあるなんて、ちょっと怖くなってしまう。

「中でも一番性質が悪いのは、その時は許した風で笑って済まして、実際には後をつけ回してくるような奴だな。ギルドを特定して仲間と一緒に直接乗り込んできたり、笑いモノにしたり、それをネタに脅してきたり――狩場で、復讐しようとしてきたりな」

「ふ、復讐……?」

「強いモンスター引っ張ってきて押し付けたり、消耗してる所狙って襲い掛かってきたりな。とかく、人の恨みってのは面倒くせぇ」

思わず息を呑んでしまう。怖い。このゲーム結構怖い。

そんなところまで作りこまなくても良いのに……


「んでだ、そういう時に、ギルドの力ってのは役に立つ。ボディガードをつける事もできるし、相手がギルドに所属してるなら、そっちに直接抗議する事も可能だしな」

だからそうなっても一人で悩むなよ、と、ニカリと笑ってくれる。

ちょっとだけ不安が薄れた気がする。私はもしかして単純なのかもしれない。

「特に俺は多方面に顔が利くからな。沢山頼って良いんだぞ。沢山な!!」

怖がってた私を気遣ってなのかもしれない。

もしかしてドクさんは、場の空気を和らげるためにこんな冗談みたいな言い回しをしてるんじゃ、なんて。

ちょっとだけそんな気がして、笑ってしまう。

「――ふふっ」

「うむ、それでいい。怖い事を言っちまったが、基本そんな深刻な事になる事はあんまりないからな。やらかしたら『ごめんなさい』とすぐに言える(いさぎよ)さがあればそれで大体は片付くのだ」

サクヤなら大丈夫さ、と、にかっと笑ってくれる。

なるほど、ドクさんの言いたいことは解った気がする。

相手も同じ人間なんだから、それを無視した対応はしないほうが良いって事。

素直に謝って、それでもダメならこじれる前に場慣れしたギルドの人に間に入ってもらうのが大事なんだと思う。多分。

人間関係、すごく大事。コミュニケーション能力ってどんな場面でも求められるものなんだなあっていう。



「そういえば、セシリアさんもそうでしたけど、ここのギルドでまだ私が会えてない人って居たりするんですか?」

その後なんとなく雑談タイムとなっていたので、私もコーヒーのパック片手にまったりと質問。

この先も色んな人に会えるのかなあと、ちょっとどきどきしながら。

「んー、いや、うちは少人数だからな。ここで後会えてないのはラムネ位か」

「ラムネさん……?」

なんだか可愛らしい名前でそれだけ聞くと女の子っぽくも感じられる。

どっちなのだろう、とわくわくしながらドクさんの説明を待つ。

「ちっこいガキだぜ。見た目10歳位のな」

「女の子ですか?」

「男の子だよ。んで、人見知りが結構激しいのな。商売関係しないところだと慣れない奴とはあんま話さない」

それはそれで個性的というか。

私が言うのもなんだけど、ここのギルド、少人数ながら個性的な人ばかりが集まってる気がする。

このドクさんもそうだけど、すごく特徴的というか、「こんな人他には中々いないよね」っていう感じの人ばっかりなような。

そう考えると、人見知りが激しい位はそんなでもないかなって思う。

「俺達と違ってラムネは職人(スミス)志望の見習いだからな。街で商人やってる関係上たまり場に顔を出すのは週に一、二回ってとこだ」

「あんまり会える機会がないんですね……?」

セシリアさんやマスターとは違う方向性で中々会えない人らしかった。

「街に行けばいくらでも会えるけどな。結構通りで露店開いたり商品リサーチしたりしてるし。ギルドメンバーが依頼して売ってもらう事も結構あるんだぜ」

「それ、すごく助かりますね。売りたいものがある時に買い取りしてくれる人がいるとは限らないですし……」


 私達冒険職は、レア・蒐集品に限らずアイテムの売り払いは買い取りしている人にお願いするのが基本なので、これはとてもありがたい気がする。

ドクさん位に慣れた人ならそうでもないのかもしれないけど、私みたいな初心者上がりには選択肢が少ないのだから、それが増えるのは素直に助かる。

見知らぬ人だと、中には足元を見る人も居そうだし。


「言えばいつでもやってくれるから、まあ、会ったら気軽に頼んでも良いかもな。愛想あんまり良くないからコミュニケーションとるの難しいかもしれんが」

それだけが欠点なんだよなあ、と、苦笑するドクさん。

「じゃあ、まずは会うところからですね。毎日ここで待ってれば来るんでしょうか?」

「まあ、時間的には俺らとそんなに変わらんから、待たなくても毎日顔出してればその内会えると思うぜ? 来る日は特に決まってないから、狙った時に会えるかどうかは完全に運だけどな」

気長に待ってやってくれ、と、ドクさんは立ち上がる。


「どこかに行かれるんです?」

「ああ。ちょっと街にな。そろそろ店が開く頃だ」

ちらちらと空を見ながら、どこか落ち着かない様子で、ドクさんが街の方を向いた。

「お店……?」

「おう、可愛い女の子が看板娘やってるパン屋があるんだ。ちょっと遅めでな、この時間帯に焼きあがると同時に、店が開くんだよ」

絶品なんだぜ、と、にやりと笑いながらドクさんは親指を立てていた。

「そんなに美味しいんですか……いいなあ」

ちょっとだけお腹が空いた気もするし、そんな話を聞いてしまうとどうしても興味が向いてしまう。気がつけば手がお腹をさすっていた。

「よし、サクヤも来いよ。おごってやる。あの味は覚えておいたほうが良いぜ。リアルの固形食パンなんぞ二度と食いたくなくなる」

ドクさんがここまで言うのだからすごく気になるけれど。

でも、リアルで食パン食べる気しなくなっちゃうのは困っちゃうなあ、とも思う。

「うぅ……どうしようかなあ」

迷ってしまう。すごく迷ってしまう。

「なあに、焼きたての香りを鼻に入れれば、もう何も考えられなくなるさ!」

良いから来いとばかりに、ドクさんは私の手を取り、そのまま駆け出す。

「わっ、わっ――ひゃっ!?」

ものすごい力だった。男の人の力ってすごい!

「ふはははははっ、いざ戦場へっ!! 往くぞぉぉぉぉぉぉっ!!」

私は宙を浮いていた。ドクさんとの身長差もあるけれど、それ以上に勢いがすごい。

まるで漫画か何かのように引っ張られ、そのまま高速でマップを移動していった。


-Tips-

プレイヤーキル(ルール)

プレイヤー本人の何らかの意図によって、他のプレイヤーを殺害せしめる行為。

基本的に殺人は重度のハラスと同レベルに重い行為の為、特に理由もなしに行えば公式さんの手によって即刻追放される事となる。

プレイヤーキル(PK)には複数種類あり、以下のようになっている。


ソロキル:一般的な殺人。

暗殺や喧嘩など、意図して殺そうとした結果殺してしまう行為。

一般的に街人職タウンワーカーよりは冒険職の方が、ソロプレイヤーよりは大手ギルド所属者の方が物理的・あるいは社会的な力が強い為、これらに乗じて行われた場合は相応に罪が重くなっていく。

パーティーキル:リンチや謀略など、意図して複数人が関わる殺人行為。

首謀犯と実際に殺害に加担した者の罪が最も重いが、意図して協力した者、知っていたのに通報しなかった者(見てみぬふりをした者)なども公式さんの処置対象となりうる。

ギルドキル:ギルドにより行われる組織ぐるみの殺人。

組織全体で隠蔽しようとした結果、メンバーに全く良識が無い場合表に出にくい事もある。

ギルドの管理責任はギルドマスター及びサブマスターにある為、事件への関与の有無に関係なくギルドマスターとサブマスターはその事件において与えられうる最も重い処置を受ける事となる。

事件が起きたギルドは、残ったギルドメンバーのモラルやギルドそのものの評判がよほど高くない限りは即時解散となり、メンバーも公式さんの監視対象になる。


モンスターによるプレイヤーキル:『MPK』と呼ばれる、狩場マップでの特殊な殺人行為。

狩場のモンスターを引き連れて他のプレイヤーに押し付けての殺人、及びそれによって殺害しようとする行為を指す。

基本的にこれを行うプレイヤーは現実でも人格面や精神面を疑われる社会の癌となりうる可能性が高い為、ゲーム内での罪は財産没収・記憶と知性の没収・存在感の抹消・街周囲20マップからの追放と立ち入り禁止処分という極刑よりも重い罰を与えられる他、現実世界でも社会不適合者として処罰デリートの対象となる。


ミスキル:自衛や不慮の事故など、やむなく、あるいは意図せず他プレイヤーを殺害してしまったケースはこれにあたる。

酌量の余地のあるケースの場合は無罪となるが、本来避けられたのに本人になんらかの落ち度があってそうなった場合は社会奉仕など軽い罰を受け、財産などが一部没収される事もある。


決闘死:唯一ゲーム内ルールで認可されている殺人行為。

双方立会い人を用意した状況下、予め致死ルールである事を宣言し、双方同意の下で決闘し、その末に決闘したプレイヤーが死んだ場合、プレイヤーの権利『決闘の自由』の結末の一つとして許されている。

当然殺したプレイヤーは何のお咎めも無いが、立会人不在のまま決闘を行ったり、致死ルールである事を伝えずに殺害したりと、ルールに基づかない行為がわずかでも見られた場合は通常の殺人となる為注意が必要である。


以上。決闘に関してはルールに基づいている場合に限り認可を受けているものの、それによって殺す側も殺された側の周囲もゲームライフに過大な影響が起きる事が想像に容易いため、可能な限りは避けるのが望ましいとされている。

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