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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
7章.港街を取り戻せ!(主人公視点:サクヤ)

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#7-1.クエスト:蒐集品を集めよう!

 翌日、ログインすると、目の前にいたのはバケツ姫一人だった。

エミリオさんはまだなのかな、と思いながら、もう見慣れたその人にぺこりとお辞儀。

「おはようございます。バケツ姫」

「はい、おはようございます。サクヤさん」

のんびりとモーニングティーを楽しんでいたらしいバケツ姫は、私を見つけるや同じようにぺこりとお辞儀する。

からん、と音が鳴るのも慣れたモノだった。心持ち嬉しそうにも見える。

「エミリオさんはまだなんでしょうか?」

ちちち、と、小鳥がバルコニー傍の樹の上で歌っているのを眺めながら、ぽつり。

「エミリオさんでしたら、サクヤさんより大分早くいらしたので、先に用事をお願いしましたわ」

結構待っていらしたのですが、と、口元に手をやりながら、若干申し訳なさそうに答えるバケツ姫。

どうやら私は随分遅かったらしい。

これでも結構早く来たと思うのだけれど。

案外、エミリオさんはリアルでは寝るのが早いのかもしれない。


「……髪の手入れ忘れてた」

立ち話もなんだから、と一緒にお茶に誘われたのだけれど。

唐突に、昨日のうちにやっておかなきゃいけなかったことを思い出す。

結構時間ぎりぎりだったのだ。もう目が覚める数秒前って位に朝が迫っていたから、うっかり忘れてしまっていた。

「あら……そういえば昨日は慌ただしかったですものね。なんだか申し訳――あ、そうですわ! サクヤさん、どうぞ我が城の浴場を使っていってくださいな」

「あ、いえいえ! 街に戻れば宿がありますから……それより、昨日言っていた用事って、エミリオさんと一緒のものでいいんですか?」

お城の浴場、というのは魅力的だったけれど、さすがに一人で入るのは抵抗が強すぎた。

お城で使ってるシャンプーとか気になるし、ちょっともったいない事をした気がするけれどここは我慢。

出された紅茶にできるだけ品よく口をつけてから、昨日の話の続きを問う。

「そうですか……いえ、エミリオさんにお願いしたものは、エミリオさんお一人でなんとかできそうな範囲のものをお願いしたのです。本当は、サクヤさんと二人でこなせそうなものをお願いしようと思ったのですが……」

「そうでしたか。その、色々とすみません」

別に夜更かししたわけでもないのだけれど、なんとなく悪い気になってしまう。

「ああいえ、サクヤさんが悪いわけでは……そういう訳ですので、サクヤさんにもお一人でこなせそうな用事を考えておきました」

「なるほど……」

胸元からはらりと、紙を一枚取り出すバケツ姫。

あんまり気にしてなかったけれど、結構スタイル良いなあ、と、ちょっと羨ましくなってしまう。

背も高いし、バケツ兜が取れればかなり美人さんなんじゃないかなって思う。

まあ、気にはしながら素振りには見せないように気を付けて、出された紙を手に取るのだけれど。

「これは……?」

紙に書かれていたのは、何かのアイテムらしきものの名前と、その個数、それからマップ名らしきもの。

「あの後、団長さんが私に『海の取り戻し方』の考察をしてくださったのです。その為には必要なアイテムがいくつかあるらしく……」

「アイテム蒐集ですか……結構多いですね」

「ええ。そのうち、いくつかでも集めていただければそれで結構ですわ。足りない分は、こちらで用意するようにしますので」

ずらりと並ぶアイテム群。確かに一人で集めるにはちょっと骨かもしれない。

というより、場所的に一人で集めるのが無理っぽいアイテムもあるので、私が集められそうなのは限られている。

だけど、それはあくまで私が自力でこだわったらの話。

「あの、これって、人の手を借りても大丈夫なんでしょうか? ギルドの人の力を借りられれば、結構集められるかもしれません」

私のギルドには、心強い人たちがたくさんいる。

頼ってばかりなのも悪い気もするけれど、友達の為なのだから少しでも多くこなしたいという気持ちもあった。

「それは……ええ、もちろんです。多くこなしていただけるなら、その方がこちらとしても助かりますもの」

「それじゃ、一旦たまり場に戻って、それから考えてみますね」

急がないと、と、残った紅茶を飲み干して席を立つ。メモを腰のバックルにしまうのも忘れない。

たまり場は、行けば誰かしらいるかもしれないけれど、時間が経つと狩りに出てしまうかもしれないから、あまりのんびりもしていられないのだ。

「では、行ってきます」

「はい。どうぞお気をつけて」

見送るバケツ姫にぺこりと一礼して、バルコニーから城内へ。



 お城の中は、ちょっと慌ただしい感じだった。

バケツ兜の人たちがばたばたとあっちに来てこっちに来て、手に武器を持っていたり土嚢(どのう)袋?のようなものを持っていたりと落ち着かない。

「いそげぇー! 『黒騎士』の被害を城の外に出さんようにするのだ!! 出たモンスターは即刻我らで叩き潰す!! そのための準備を怠るなぁぁぁ!!」

階段を下りた先に居たトーマスさんが、大声で指揮を執る。

誰もそれに応えようとはしない。というより、聞いたうえで応えられない位に忙しいらしかった。

「トーマスさん、おはようございます」

「おう、サクヤか。早いな」

そんなだから、ちょっとだけ挨拶するのをためらってしまうけれど、下りた目の前にいるのだから無視はできなかった。

トーマスさんも、お城中に届くくらいの大声を出した後だというのに、喉が枯れた様子もなく元気に挨拶してくれる。

うん、やっぱり私、遅くないよね。

「どうかなさったんですか? その、黒騎士がどうとか」

色々気になるところがあったので、雑談程度でもいいので、と、話を聞いてみる。

たまり場に急がないといけないはずだけど、これはこれで気になるのだ。

だって、昨日まではお城の中、静かだったし。

「うむ……そろそろ黒騎士めがリスポーンする頃合いだからな。姫様がお力を取り戻すまでの間、我ら『ナイツ』が総力を以てこれを抑え込まなければならん……ただ、同時に城内にリスポーンする雑魚モンスターをどうにかせねばならなくてな。これも考えると、少しばかり手が足りんだ」

「へぇ、なるほど……あれ? でも、今まではナイツの人たちでどうにかできてたんですよね?」

「これまでは被害が城の外に及ぼうと、そこは廃墟の街並みだったからな。だが、今はそうはいかん。わずかなりとも、城の外の、復興作業に協力してくれている者達に被害が出ては不味いのだ」

その為の手立てを今やっているのだ、と、トーマスさんは視線をバケツ兜ごと城内に向ける。

城内の警戒に当たる人たち以外にも、修繕作業で穴埋めをしたり、土嚢袋を積み上げたり。

「廃城だったとはいえ、修復すればそこからモンスターが這い出る事はなくなる。少しでも通りにくくすれば、モンスターもより通りやすい場所から通ろうとする。このように、あらかじめモンスターの移動経路をこちらで制御し、特定の場所に集めてしまおうと、そう考えているのだ」

「モンスターも、通りにくいところは通りたがらないものなんですか?」

「そうらしい。これはあくまで団長殿の案なのだがな。まあ、これに関しては私もそこまで疑念はない。モンスターとて生きているのだ。上級・上位ともなれば我々ほどの知性がある敵すらいるのだから、無理に壁を壊して通るようなものはそうはいまい」

生きているのだから、人と似たように考える事だってあるはず。

そういう考えもあるのだなあと感心しながら、小さく頷いた。

「勉強になります」

「うむ……君も、まだ何か姫様から用事を受けているのだろう? そういえばエミリオは一緒じゃないのか?」

「あ、いえ……エミリオさんは、お先に別の用事を受けたらしいですが……」

トーマスさんは見てないのかな、と、首を傾げる。

「む? そうだったか……まあ、私も下りてくる者全員を見ているわけではないからな。知らぬ間に通り過ぎたのだろう」

「そうかもしれませんね」

今私が下りたからトーマスさんがいただけで、トーマスさんがいない時にエミリオさんが通っててもなにも不思議ではないのだ。

考えれば当たり前の事なんだけど、なんでそんな事で不思議がっていたのか解らない。


「そういえば、指輪、つけるようになったのだな。『絆の指輪』か」

「はい。昨日バケツ姫に貰ったものです。可愛いですよね」

目ざとく私の変化に気づくトーマスさん。

結構色々見ているらしい。

「それは、つけている者同士が近くにいると、その交友関係次第で身体能力や魔力なんかにブーストが掛かるというマジックアイテムだ。姫様もつけておられるのを見たぞ」

「へぇ……じゃあ、バケツ姫と一緒に居るとブーストが掛かってるんでしょうか?」

「私はつけたことが無いから解らんが、リンク状態じゃないと意味がないらしい。どういった状態がリンクとなるのか……とにかく、それ次第で友情度が図れることから『友情を試されるマジックアイテム』と言われている」

「……なんか、ちょっと怖いですね」

友情を試されるのって、なんていうか、なんか。

別に私はバケツ姫の事嫌ってはいないけれど、それでリンクしなかったら、私自身かバケツ姫か、どちらかは本心からお友達だと思ってないみたいで、やな感じな気がする。

「まあ、それだけ姫様はサクヤの事を大切な友人だと思ってらっしゃるのだと思うぞ。それは、着ける方も怖いだろうが、プレゼントする方も相当に勇気が必要なモノなのだと聞く」

「そうですかね……うん、そうですよね」

だって、これの所為でお友達だったのがダメになってしまうかもしれないし。

そう考えると怖いけれど、でも、つけてリンク状態になれれば、本当にお互いにお友達だと思ってるって事になるんだから、これはすごいアイテムな気がする。

ううん、難しい。このゲームの人たちは、なんでこんなアイテム作ったんだろう。

「ははは、あまり考え込まない事だ。仮に今リンクが繋がらずとも、いずれ繋がればいい、という考え方もあるぞ?」

「あ……そうですね。そう思っておきます。ありがとうございます、トーマスさん」

「うむ。気を付けて」

私の不安なんて筒抜けなのだ。この辺り、(多分)年上の人には勝てないなあ、と、経験の差を痛感させられる。

同時に、だからこその安堵というか、落ち着けるのだ。

今ならもう、怖いと思っていた初対面のころの自分を笑える気がした。


 トーマスさんと別れ、そのままお城を出ようとしたところで、昨日の、バケツ姫に「アムリタさん」と呼ばれていたプリエステスの人に声を掛けられ、リーシアまで転送してもらった。

どうやら最近ナイツに入った人らしく、「これからもよろしくね」と、人当たりの良い笑顔で見送られ「いい人が入ったなあ」と思ったものだった。


-Tips-

エクソシスト(職業)

聖職者系上位職の一つ。通称としては『退魔師』と呼ばれることが多い。

アコライト系列の後衛職で、対魔・対霊・対アンデッド戦の奇跡面でのエキスパート。

一部除き、支援としてはバトルプリースト/バトルプリエステスに劣り、自己支援がやっとである。


主な使用武器は聖書や悪書といった概念武装や杖などの火力補助装備で、これらを用いての奇跡による除霊・魔滅(まめつ)を得意とする。

服装面の特徴として黒衣の僧服に身を包み、首に下げる十字架も逆十字、そして必ず白手(はくて)をつけている。僧服の下はもちろんブルマである。

この僧服は女性の場合僧服と思えないほどに華美な飾りのリボンが随所につけられており、男性の場合僧服と思えないほど腕や足が露出されている。

モンクほど髪型に制約はなく、むしろ黒であれば華美な装飾などは推奨されている。


特徴的な奇跡としてはアンデッドを一撃で仕留める奇跡『ターンアンデッド』、

広範囲の悪魔・下位魔族・霊種族を焼き尽くす奇跡『グラン・エクソシズム』、

一時的に周囲に霊種族やアンデッドが寄り付かなくなるフィールドを形成する奇跡『レクイエム』、

聖水を用いて悪魔憑きや悪霊憑きなどを防ぐ加護を授ける奇跡『ベネディクトゥス』などがある。


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