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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

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#3-1.スケアクロウとの戦闘にて

 ギロリとした複眼がセシリアさんを見下ろしていた。

その高さとは裏腹の細いフォルムがゆらゆらと揺れ――双鎌(そうれん)がセシリアさんに襲い掛かる!!

「逃げて――」

これは、まずい。見た目でわかる。強いモンスターだ。

セシリアさんが殺されちゃう。思わず叫んだ私の前には。

「大丈夫」

にっこりと笑うセシリアさん。逃げようともしない。


 杖を上に構え、襲いくる鎌を器用に弾いていく。

一歩も動かない。バランスすら崩さない。

『クシュルルル――ギシャァァァァァァァッ!!!』

カマキリも驚いてか、一歩後ずさりし、勢いをつけ再度襲い掛かった。

白銀の鎌が、今度こそセシリアさんの首を刈ろうと振るわれ――


『グラビトン』


――そうして、その巨体ごと、セシリアさんの展開した黒い魔法陣に巻き込まれていく。

『がぎぃっ!?』

カマキリはそれが理解できないといった様子で暴れようとしていたけれど、もう足一本動かす事もできない様子で。

そのまま、全身が地面にめりめりと押し付けられていき……やがてぐしゃりと潰れた。


「今のは『スケアクロウ』。一応、このマップで半日に一度位の割合で湧くボスモンスターよ。大きいから今みたいに横湧きすると驚くかもだけど、動きは緩慢(かんまん)で意外と攻撃能力は低いわ。魔法に対する耐性も全体的に見てとても低いし、魔法職にとってはカモだから、遠巻きに見つけたら積極的に狩ると良いかも?」

なんでもなかったかのように説明が始まる。

すごい。セシリアさん強い。

「今の魔法って、なんなんですか……?」

気になったのはスケアクロウを押し潰した黒い魔法。

セシリアさんがそれまで使っていた破壊魔法のように相手にぶつかったりしていた様子はなくて、色々不思議に感じられたのだ。

「物理制御魔法『グラビトン』よ。かなり高位の魔法だから上位の魔法職に就かないと魔術書(グリモア)を読むことすら許されないわ」

手に持った杖をとんとん、と、地につけながら、セシリアさんの説明は続く。

「グラビトンによって操る事ができるのは任意の周辺環境の『質量』と『重量』。さっきのはスケアクロウの頭上の空気の重さを変えて押しつぶしたの」

「な、なんかすごく難しそうですね……でも、上位職だとそういうのが使えるんだ……」

思わず息を呑んでしまう。物理制御とかまるでコマンドプログラミングみたいで難解だけど。

でも、そんな事まで『魔法』でできてしまうのが、すごく面白い。

「そう、魔法って、とっても面白いの。大変だけど、素敵なのよ」

に、と誇らしげに笑い、胸を張る。

それがとても綺麗で――格好良かった。



 それからほどなくしてたまり場に戻ると、ドクさんが一人のんびりくつろいでいた。

「戻ったか、おかー」

コーヒーの紙パックを手に、のんびりとした様子で迎えてくれる。

「ただいま戻りました」

「ただいま」

言葉を返して、いつもの場所に座る。

セシリアさんは岩にもたれかかれる場所にぺたん、と座り、ドクさんに「にぃ」と謎の笑みを向けていた。


「サクヤと狩り行ってたのか」

「ええ。『白夜の平原』に行ってきたわ。スケアクロウも倒した」

「マジかよ運が良いなあ」

雑談が始まる。さすが古参同士というか、話の流れも自然だった。

「サクヤはどうだったんだ? 行くの初めてだったんだろ?」

そして、二人だけで話が進まないのも嬉しかった。ちゃんと私に振ってくれる。その気遣いが温かい。

「はい。セシリアさんに色々教えてもらったので、火属性の魔法を使えるようになったら行ってみたいと思います」

杖を前に、できるだけ頑張って笑って見せる。

折角色々教えてもらったのだから、次からは自分一人で行けるようになりたいなあって。そんな期待も込めて。

「そりゃ何よりだぜ。ま、時間かければソロでも結構色んなところ回れるからよ。焦らず、じっくりと行くと良い。序盤は金集めと、装備品のランクアップに注力するこった」

「少しずつ魔法の扱い方を覚えていけば、その分だけ自分の限界みたいなのも解り易くなるしね」

先輩二人からのありがたいレクチャーだった。

私一人でやってたんじゃきっと簡単には得られないような、そんな教訓みたいなものなんだと思う。

私はきちんとそれを飲み込んでいく。

そんなに都合の良い世界じゃないのだ。なんでも思うまま動く訳じゃない。

だからこそこうやって誰かが教えてくれるのはありがたい事で、掛け替えのないことなんだなあって。


「んん……悪いけど、私、これで落ちるわ。またね」

「ふぇっ? あ、は、はいっ」


 タメになるなあ、と思いながら話を聞いていた中。

セシリアさんは突然そんなことを言い出し、手をひらひらさせながら消えていった。

「……相変わらずいきなりいなくなる奴だな」

ドクさんは慣れた様子で呟くけれど、私は唖然としたままだった。

「ああ、サクヤはセシリアと会うの今日が初めてか? なら知らんと思うが、あいつは俺達と比べてログイン・ログアウトの時間がかなりズレてるんだ。まあ、そんだけリアルがズレてるってこったな」

「リアルの方の生活時間が違うってことですか?」

「多分な。じゃなきゃよほどのグータラって事だろうか。俺らがリアルで言う所の夜にログインして朝にログアウトするのに対して、あいつは昼間にログインして夜になりだした頃にログアウトする事が多いからな……」

かなりの夜型スタイルだった。今まで会えなかったのも頷ける。

「マスターも最初に会った時以外に会えないですけど、夜型なんですか?」

「いいや、あいつは単にこの辺りに居付かないだけだ」

もっと地に足つけてくれりゃなあ、とため息を吐くドクさん。私も「たはは」と苦笑い。

我らがマスターは、どうにも自由な人らしかった。



「セシリアさんも、初期の頃からこのギルドに居たって聞きましたけど、ドクさんと同じ時期に入ったんですか?」

セシリアさん本人からはあんまりセシリアさんの事は聞けなかったので、ドクさんに聞くことにする。

なんたって同じ魔法職の先輩のことなので、変なことじゃなければ知りたいのだ。

「初期って言うか、俺とマスターとセシリアの三人がギルドの創設メンバーだからな。ついで言うと、あいつは対集団戦でうちのギルド最強な」

洒落にならん位つえー、と、コーヒーのパックを握りつぶしながら笑う。

ぷぴっ、と、間の抜けた音を立てながら潰れて行く紙パックに、どこか可笑しさがあった。

「魔法に関しては間違いなくそこらの奴らより詳しいし、上級狩場でソロできる数少ない『バトルメイジ』だから、実戦での魔法の使い方にも精通してる。完全に真似ることは難しくとも、同じ魔法職なら参考にできることは多いはずだぜ」

「そうですね……お会いできれば、また色々と教えてもらえればと思ってます。セシリアさん、格好良いですし」


 私なんかは狩場での探索の際、おろおろとしながらおっかなびっくり歩いている。

敵を先に見つけられれば良いけど、先制された時なんかは泣きそうになるくらい混乱してしまう。

セシリアさんはその辺り、全く混乱なく冷静に捌いてたのが格好良い。


「ああいう落ち着いた大人の女性って感じの人、いいなあって思います!」

憧れる。たった一回の狩りで、セシリアさんは私の憧れの人になっていた。

「マジかよ、俺の方がずっと格好良いぜ!」

だというのに、ドクさんは変な対抗心を見せていた。

別にそんな、張り合わなくても良いのに。

「ドクさんは……まあ、ドクさんですし……」

良いところも沢山ある人だけど、今一本人が主張するような『格好良さ』は全然感じられなかった。

むしろ、変に主張する所為で余計に格好悪いというか、ギャグメーカーっぽくなってるというか。

恩人だし、すごく良い人なのだけれど。

「むう……サクヤには俺の格好良さがまだ理解できんようだな。まあいい、いつか解るようになるさ。いつかな!!」

ふははは、と、まるで悪役のような笑い方。サングラスの所為で余計にそれっぽく見えてしまうのが困るところ。

せめて大物みたいに見えればなあ、と思うのだけれど……


-Tips-

スケアクロウ(ボスモンスター)

白夜の平原のボスモンスター。

人の何倍もある巨大な体躯のカマキリで、腕でもある二本の鎌による薙ぎ払いと巨大な牙による噛み砕き、巨体を利用した上空からのプレスなどが主な攻撃手段。


初級ランクマップのボスの為索敵範囲が乏しく移動速度もやや遅め、魔法耐性もあまり高くないため、先んじて発見する事ができれば後衛職には格好のカモとなる反面、羽によって飛行ができる事、地形色によって体色を変化させる『同化』の能力を持っている事などから隠密性が高く、発見が遅れるといつの間にか接近され、不意打ちを受ける事もままある。


見た目に反して攻撃能力そのものは低いため、不意打ちを受けても即死する事はまずないが、精神的なショックからしばしトラウマとなるプレイヤーも稀に存在する。


種族:虫 属性:風

危険度(星が多いほど危険):★

能力(星が多いほど高い)

体力:★

筋力:★

魔力:★

特殊:★★

備考:特殊能力(同化)

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