表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/663

#2-1.『眠り姫』セシリア

「ロックシュート!!」

リーシア西の森にて。毎日定例の修練の時間中だった。

対峙したモンスターはゴーストモルフィン。

人の頭位ある紫色の蝶々。

動きが早くてふわふわ浮いてるので、狙いがつけにくい。

私が放った破壊魔法もその動きでかわされてしまう。

『くきーっ』

「わわっ」

そして反撃とばかりに灰色の毒液を吐いてくる。

メイジ大学で聞いた限り酸性の液体で、これを受けると服が溶けたり肌が荒れたりするらしい。

意外と実害は少ないようなのだけれど、虫が吐いた液体を身体に浴びるとか冗談じゃないので避ける。

「この――ウォーターボール!!」

お返しに、杖を前に水弾を発射。

『ぴきっ!?』

これは直撃。全身が水浸しになって羽の力が弱まったのか、さっきよりも飛ぶ力が落ちていた。

威力がかなり心許ないウォーターボールだけど、こうやって使う事によって相手の動きを鈍らせたり、驚かせて隙を作ったりと役に立つ面も多くて、使い勝手が良い。

「――シュート!!」

『ぎぃっ――』

追撃のロックシュートが直撃し、ゴーストモルフィンが落下する。

ピクピクと痙攣するけれど、そのまま動かなくなり、やがて消えていった。

後に残ったのは小さな布袋と可愛い赤い花のブローチ。

布袋の中身はゴーストモルフィンのリンプン。

何に役立つのかよく解らないけど露店商の人とかに高値で買い取ってもらえるのをドクさんに教わった。

花のブローチはレアアイテムらしい。

もう何度もゴーストモルフィンを倒してるけどこれを見たのは初めてだった。

「やたっ♪」

うきうきしてしまう。それにさっきの魔法の連携(コンボ)も悪くなかった。

今まではロックシュートを何度も使って無理矢理倒していたけれど、今度からは効率よく倒す事ができる。

まだまだ勉強すべきところは沢山あったけど、日ごとに戦い方が洗練されていっていると自分でも感じられて、これが嬉しかったのだ。



 その日の修練を終えて街に帰還。

蒐集品(しゅうしゅうひん)を売り払ってリンプンは買取りを呼びかけていた露店商の人に引き取ってもらった。

ブローチは可愛いので髪につけてみた。可愛い。


「……あれ?」

そうしてたまり場に戻ったのだけれど、見慣れない女の人が岩陰にもたれかかっていた。

赤いローブに身を包んだ魔法使い系っぽい人。目元はフードに隠れていた。

「すぅ――」

そして、眠っていた。

「……えぇぇ」

唖然としたというかなんというか。

このゲーム自体眠っている間にやってるはずなのに、そのゲームの中でまで眠るなんて。

というかそんな事ができるのに驚きだった。

眠っているこの人は一体どんな状態なのだろう、と。

「じー」

顔を見る。丁度風が吹いて、フードに隠れていた部分が露になる。

「……ふわあ」

――すごく綺麗なお姉さんだった。つい、声が出てしまう。

なんというか、お世辞の言葉も浮かばないくらいに素直に「美人さんだなあ」と思えるような。


 ゲームのキャラなんて女の人は大体美人さんか可愛い系なんだろうけど、この人はかなりレベルが高い気がする。 

こっちの世界での私達の容姿はリアルでの理想とか願望とかがかなりの部分反映されるのだけれど、本人の美的感覚や容姿の自己評価次第でかなり補正が左右されるらしい。

だから、現実でそうじゃない人がどれだけ美人な自分を想像しても、現実の自分を自覚している分だけマイナス補正が掛かってしまってある程度のレベルに落ち着いてしまうのだとか。

だけど、この人はそのマイナス補正みたいなのが全くないんだと思う。

むしろプラスに働いているというか、そんなだから多分現実でもすごい美人さんなんだと思う。


 なんたって顔の線が綺麗。鼻は高いし目元はすっとしてる。泣きぼくろもチャーミング。

まつ毛も長いし白い肌もやわらかそうだった。そしてそれが水晶みたいに透き通った青髪によく映える。

「いいなあ――」

思わず声に出てしまう。こんな美人さんに生まれたらきっと幸せだろうなあ、と。

私もこっちにきてからはこの黒髪だけは大切にしてるけど、それ以外はかなり適当なので、その綺麗な肌とかを見ると手入れの大切さを思い知らされてしまった。



「――誰?」

そして、ほうっと見ている私と目が合う。合ってしまった。いつの間にか起きていたのだ。

「ふわっ!? あ、え、ええっと、わたっ、わ、私はそのっ――」

流石に気まずい。まじまじと顔を見ていたのがバレたのだ。混乱してしまう。

「落ち着いて頂戴」

「はひっ」

髪の色と同じ青眼でじ、と私の眼を見つめてくる。お姉さんは落ち着いたものだった。

「貴方は、誰?」

そうして、とりあえずは黙った私に、静かに問うてきたのだ。

「え、えっと……その、私、ここのギルドの新人で、サクヤっていうんですけど。お姉さんも、こちらの……?」

「……そう。新人さんだったのね。なるほど、貴方が――」

どもりながらの返答だったけれど、お姉さんはさほど気にする様子もなくその場で腕を上に。

「ふわ――んんっ」

色っぽい声をあげながら脱力していた。


「んぅ……ごめんなさいね。リアルで疲れてて、ちょっとリラックスの為に眠ってたのよ」

涙目をこすりながら、お姉さんは自分の前に手を伸ばす。

座れ、っていう事なんだと思ったので、素直にその場に座る事にした。ぺたんと。

「私はセシリア。シルフィードではドクさんと同じく初期からいるから、解らないことは何でも聞いて頂戴」

優しげにはにかむ。良かった、すごく良い人そうだった。

「はい。よろしくお願いします、セシリアさん」

私も安心してぺこぺこする。本当、ここのギルドは良い人ばかりで安心できる。


「その……早速なんですけど、セシリアさん」

挨拶もそこそこに、私はさっきの疑問をセシリアさんにぶつける事にした。

「なあに?」

おっとりと首をかしげながら受けるセシリアさん。

仕草の一つ一つがゆったりとしていて、なんか、いい。

「えっと。ゲームの中で寝るのって、どういう状態になるんですか? 私達、リアルで寝てるからゲーム世界にいるんですよね? こっちで寝るとどうなるんです?」

さっきセシリアさんは「リラックスの為に眠ってた」と言ったけれど、つまりそれは、精神的な面で何がしか意味があるのでは、なんて思ったのだ。

気になると止まらない。止まらないから聞いた。

「ん……こちらの世界で『寝る』というのは、そうね……二つの効能が期待できるわ。一つはゲーム世界で、傷や体内魔力の回復が早くなる事。簡単に言えば気絶するのとそんなに変わらなくて、意識が落ちている間中、身体が肉体や精神の修復に機能を費やすの」

「ああ、なるほど……現実で寝るのとそんなに変わらないんですね?」

「そうね。そういう面では現実と変わらないわ」


 人は睡眠によって新陳代謝していく。

日々の成長や老化はこの睡眠がフラグとなって一気に進むのだと、保険の授業で教わった事があった。

多分、傷の治りとかも新陳代謝の内に入るんだと思う。

それプラス、精神的な部分でも癒されていって、それが魔力の回復に繋がるとか、そんな感じなんじゃないかなあってイメージした。


「そして、これはこちらで眠る事によって得られる特異な効能なのだけれど、現実世界での精神的な疲れというのかしら? そういうのが、より効果的に解消されるのよ。ストレスフルな状態に置かれてても翌朝には全快する位には効果が高いの」

素敵でしょ、と、セシリアさんは笑う。

「へぇ、そんな効果があったんですねえ……」

中々に奥深い。自然豊かだったり風景が綺麗だったりと、現実には中々お目にかかれない心癒される光景だとは思ったけれど、この世界で眠る事で現実にも効果があったなんて。

でも、これは言わないけれど、ゲーム世界でまで眠らなきゃいけないほどストレスフルな状態にはなりたくないなあ、とも思ってしまった。

「もしかして、かなりお疲れなんですか?」

そして、私がその安眠を邪魔してしまったのかもしれないと、今更に気づいて気まずくもあった。

「ん……眠る前まではお疲れだったけど、今はそんな事ないわよ? 眠気も飛んだし、ね」

セシリアさんは怒る様子もなく、ウィンクしてくれる。

私の心配に気づいたのだろうか。もしかしたら気遣ってくれたんじゃ、なんて思ってしまって。

「折角だわ。サクヤ、ちょっと付き合ってくれないかしら?」

だけどセシリアさんは気にする様子もなく立ち上がり、にっこり微笑んでいた。


-Tips-

ゴーストモルフィン(モンスター)

始まりの森に生息するモンスター。

人の頭ほどの巨大な蝶で、口吻から酸性の体液を吐きつけて攻撃してくる。

ひらひらと空を舞い、その動きも速いため狙いをつけにくいが、身体の構造は脆いため初心者でも当たりさえすれば容易に倒すことができる。


種族:虫 属性:風

備考:風耐性30%

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ