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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
1章.たまり場にて(主人公視点:サクヤ)

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#1-2.謎の黒猫耳尻尾委員長・ドロシー

「集めましたっ、桜の花びらっ」

私が西通りの公式さんの元に戻ったのは、それから一時間後の事。

最後の一枚が中々出なくてその分だけ時間が掛かってしまったのだけれど、その分ドロップアイテムが沢山あるのでホクホクだった。

「おや、『カーニヴァル』を出したんですね。ドロップ運いいですねー、おめでとーっ」

なんとなく被っていたウサギ産のとんがり帽子を指して、公式さんが笑いかけてくれる。

「この帽子ですか? ウサギが落としたんですけど……」

「それ、マジックラビットのレアドロップです。魔法系の人には割りと当たりだったりします。お役立ちアイテムですよー」

そのままだと解らない装備情報まで教えてくれた。公式さんすごく良い人。

「――まあ、それはともかく、貴方のもってきてくれた桜の花びら、あわせて――12枚っ! がんばりましたねー。それじゃ、報酬、どうぞーっ」

褒められるのって、嬉しい。私もつい頬が緩んでしまう。

公式さんはぽん、と、軽い音と共にどこからか大き目の箱を取り出し、私に差し出してくれた。

「わ、ありがとうございます」

受け取ると、更にポン、と変化して、私の手の中にアイテムが広がっていく。

これに関しては説明を受けるまでもなく見た目で解る。

ウサ耳のヘアバンドとウサギの尻尾、ウサギのフード。ついでにキャロットジュースのパックが二つ。

「キャロットジュースにはヒールポーション効果もあります。狩りで疲れた時に飲むと疲労回復にお役立ちですよ~」

地味に嬉しい回復アイテムだった。中々に豪華。

ヒールポーションは買うと中々お財布に厳しいので、こういうのは本当にありがたかったりする。

「これ以降も、桜の花びらを三つ集めるごとにジュースを進呈しますので、気が向いたらまた参加してくださいねー」

「はい、それじゃ、また」

「はーい、またー」

公式さん、とっても親切な人でした。公式イベント美味しい。



「ただいま戻りましたっ、プリエラさんっ、見てくださいこのうさっ――」

頭にプリエラさんとお揃いのうさ耳をつけて、帽子を胸にたまり場に戻る。

ショーウィンドウで確認したけど中々に可愛い。黒髪にはちょっと似合わないかもと思ったけどフィット感がすごかった。

早く見て欲しい、早くお揃いなのを楽しみたい。そんな風に思ってたまり場に戻った私を待っていたのは――

「ようサクヤ。お前もウサ耳つけたのか。なんだよお揃いじゃねぇか」

――何故かウサ耳をつけたドクさんの姿だった。


「はうっ……ド、ドクさん、その格好は――?」

唖然としてしまって、はっと我に返ったものの、その姿から目が放せない。

「似合うだろ?」

ぎら、と、サングラスが輝く。ぴょこぴょこと揺れるウサ耳がすごく……似合ってなかった。

「え、えーっと、その、す、すごく個性的ですね……」

正直、とっても返答に困る。

それにドクさんのインパクトで私の頑張りが全部かき消された気がして切なかった。

「はっきり言っていいのよ? 『似合わない』って」

ドクさんと同じく、いつの間にかいつもの場所に座っているマルタさんがぼそりと聞こえるように呟く。

マルタさんは遠慮の無い人だった。

「まあ、ちょっと似合わないよねー」

プリエラさんもそこははっきりと言ってしまう。

もしかして、空気読んでなかったのは私だったのだろうか。心配になってしまう。

「え、えーっと、ごめんなさい、似合ってないです」

なので流れに乗る事にした。

「マジかよっ!? これ似合ってねぇの!? 公式さんとかべた褒めしてくれたよ!?」

ドクさんは驚愕していた。本気で似合うと思っていたのかもしれない。ちょっとだけ申し訳なく感じてしまう。

「きっと苦笑いだったに違いないわ」

マルタさんは鼻で笑いながら追い討ちをかけ。

「まあでも大丈夫だよ。ドクさんはともかくとして、ウサ耳は皆に等しくかわいいから」

プリエラさんは自分の頭のウサ耳を愛でていた。

なにこの光景。


「サクヤ『は』可愛いわね」

「うんうん、思った通り似合ってるよ~、尻尾はつけた?」

そして女性陣の視線は私に向いていた。

落ち込んだドクさんは放置するつもりらしい。私もどうしたらいいのか解らないので流れに乗る事にする。

「え、えーっと、尻尾って、なんかつけるの恥ずかしいというか……」

「まあ、お尻につけるのってなんか抵抗あるわよね。普通は」

確かにウサ尻尾はモフモフとしててかわいいのだけれど、これを自分の後ろに装備するのは躊躇(ためら)ってしまった。

謎ギミックでつけたい場所につければそれでOKなのだけれど、それで人の視線がお尻に集まるのはちょっと避けたいなあ、と。

「……? なんでそんなに恥ずかしいの? 可愛いじゃん」

プリエラさんは目をぱちくりさせながら首をかしげていた。

「可愛いよなあ、ウサ尻尾」

ドクさんもいつの間にか混ざっていた。意外と復活が早い!

「黒猫さんとか見てるといつも思うけど、他人の視線が自分のお尻に向くかもしれないって思うと、ちょっと嫌じゃない?」

マルタさんがすごくいい事言った。言い難いこと代弁してくれるなんてすごくありがたかった。

「別に減るもんじゃないしいいだろ? なあ?」

「ねえ?」

ドクさんもプリエラさんも全く気にしない人だった。

そりゃ男の人ならそうなんだろうけど、プリエラさん……


「黒猫さんっていうのは……?」

この話題、続けるだけ不毛な気がしたので変えてみようと試みてみる。

なんだか知らない人の名前っぽいのが出たのも勿論あるけれど。

「ああ、サクヤは知らないのね。黒猫さんっていうのは、うちの友好ギルド『ブラックケットシー』のマスターの事よ。ドロシーっていうの」

「いつも黒猫耳と黒い猫尻尾つけてるの。綺麗な娘だよー」

「なるほど……」

猫耳と尻尾をつけててしかもギルドまでブラックケットシー。

本人を知らない私でも猫好きなのはよく解った。

「さん付けの時はドロシー本人だけど、ただ『黒猫』って言ってる時はギルドの方を指すから俺はあんま呼ばないけどな。ドロシーって呼ぶほうが解り易い」

ドクさんだけあんまり面白くなさそうに説明する。

「たまり場にいればたまーにだけど遊びにきたりするし、なんだかんだ顔を合わせる事もあるかも? すごく真面目な娘なんだよー」

「確かに真面目そうだったわね。というか、堅い?」

「まあ堅物なのは間違いないだろうな。委員長キャラだ」

皆さんの説明のおかげで私の中の黒猫さん像がどんどんと変な方向に傾いていく。

「……眼鏡とかかけてそうな?」

「眼鏡は似合うな」

「かなり似合うと思う」

「似合うわね」

そしてイメージは固まってしまった。

眼鏡が似合う委員長風の……猫耳猫尻尾!!

……正直、想像してみると意味が解らなかった。



 結局、黒猫さんの話はそこで終わり、ウサ耳についての話で盛り上がっていたのだけれど。

話している最中、頭の中に浮かんだままの眼鏡の委員長顔の黒猫さんが浮かんでは消えを繰り返し、話題に集中できなかった。


-Tips-

ドロップアイテム(概念)

モンスターを倒す事により得られるアイテム。

大きく分けて下記の四つに分別される。


・蒐集品:基本的に売るか何かの材料にするしかないアイテム。

モンスターごとに個性的な物がドロップされたりする。

・装備品:店売りの物がほとんどだが、モンスターからしか産出しない物や効果が高くなっている物、逆に呪われている物もある。要鑑定。

・レアドロップ:蒐集品と比べてドロップ率が低いドロップアイテムの事。

・謎のコイン:今のところただ存在しているだけの謎のアイテム。

ドロップ以外にも探すと結構色んなところに落ちていたりする。


ドロップアイテムの取得権は基本的にそのモンスターを倒した本人に優先されるが、同じ所属ギルド・パーティーに在籍しているメンバーの場合はこの例に限らない。

ドロップアイテムの横取り・とどめの横取りなどの行為はハラスの一種として厳格に定められているため、訴えられれば処罰対象になりうる。

横取り、ダメ、絶対。


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