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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

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#11-1.リアルサイド6-年期試験・準備期間-

 一年ぶりのことだった。

静寂に包まれる学校。静かに教科書を読み漁る生徒たち。

学年内の順位決め。生徒間の序列決め。

そして何より大切な、私たちの進路を確定させる『年期試験』が、今年もまた、始まろうとしていた。


 私たち学生は、日々の生活、とりわけ学校の出席日数や獲得単位、授業態度やテストの点数などによって月ごとに割り振られる報奨金が決められる。

そして同時に、こういった試験での成績や素行は、上位の組織――高等学校に割り振られる際にも大きく影響を受ける。

例えば私の通う『私立ウメガハラ学園』は、一層の中でも最上級の高等学校である『私立ユリガオカ女学院』に毎年生徒を数名、輩出している。

この数名の枠に選ばれる為には、常時学年上位数名に入れるくらいの成績優秀者であったり、生徒会などの組織に率先して参加して率いる位の功績が必要になる。

当然苛烈な競争が起きる……訳でもなく、恐らくのところこの枠、今年はもう確定していると生徒間では見られている。


 その理由はいわずもがな、復習をしている私の隣でくーすか幸せそうに居眠りしているナチの存在から。

……うん、多分、復習とかしなくても問題ない位の次元なんだと思います。

私も頑張ってはいるけれど、まあ、そこそこの学校に入れたらいいかなあ、位。

とても残念な事だけれど、恐らくこの中等部生活を最後に、ナチとはお別れになるんだろうなあ、と思うとちょっと切なくもあるけれど。

ナチはあんまり気にしていないのか、お気楽なのがなんとなく恨めしい。

――数少ない親友なのに。滅多に言わないけど。


 そして、枠が埋まってる理由のもう一つは、生徒会長さんの存在。

常に学年二位の才媛さん。

更にナチと違って授業態度も問題ないだろうし、生徒会長なんて誰もやりたがらない役を三年間やってるのでほぼ内定済みだと思う。

中等部までは生徒の進路は学校側が決めるので、基本的に生徒側に選択権はない。

だから、生徒会長さんともお別れかなあ、と思う。

――ちょっと寂しい、かな?


「……はぁ」

おさらいもそこそこに、ぱたん、と、教科書を閉じてしまう。

ため息が尽きない。

今回の試験が終われば三学期も終了間近。

特にイベントもなく、卒業式を迎えてしまうことになる。

意外と、そう、意外と短かったのだ。そう感じてしまった。そう感じてしまっていた。

「なんかあったの?」

そして、そんな時に限って見ているのだ、隣の黒髪の親友は。さっきまで寝ていたはずなのに。

「もうすぐ卒業だなあ、って。ちょっと寂しい気分に」

「ふーん……」

なんとも気のない返事。

自分から聞いてきてこれはちょっとないんじゃないかなあって思う。

「サクラさー、なんか学校で面白い思い出、あった?」

そうして、唐突に関係のない事を聞いてくる。

多少不意打ち気味というか、多分ナチの中では繋がってる事なんだと思うけど、こういうのがたまにあるのだ。

こんな時は、どうしても唖然としてしまう。

「え……なに、急に」

「いや、毎日毎日サクラの顔見てるけどさ、『辛気臭い顔してるのは変わんないなあ』って思って」

「……それは流石に失礼だと思う」

「だってサクラってあんまニコニコ笑わないし。笑ってる時って大体愛想笑いか半笑いじゃん?」

中々に鋭い指摘。悔しいけど、間違ってないという。

だって、言うほどに学校での生活は楽しくもないし。

友達だって少ないし。変な視線受けるから教室にいるのもあんまり好きじゃなかった。

一つの理由を除けば、必要だから通ってるだけ、というのが私が学校に通う理由になっている。

「卒業だから寂しいなんて言うけどさ、言うほどに学生生活エンジョイしてないじゃん。気にするだけ無駄なんじゃないのー?」

結局言われるままなのだ。ナチは言いたいことをはっきりと言う。

だけど、はっきりと言ってる事は間違ってないし、きっと本心でそう思ってる事なのだ。

「……ナチの意地悪」

だから、まっとうな返しなんてできるはずもなかった。

確かに、それまでの生活が楽しかったわけではないのだけれど。

でも、言い返せないのはそれはそれで悔しいのだ。「そんなはっきり言わなくても」って思う。

「えへへ、サクラに睨まれちった。でもサクラ、あたしはいつも思うんだ!」

そしてナチは勢いに乗る。なんか『ガバッ』て起き上がってやる気に満ち溢れた顔をしてる。

嫌な予感しかしない。そして多分当たってる。

「一応聞くけど、何を?」

「サクラは、笑顔のが可愛い。そして、私は笑ってる顔を見たい!」

なんか、大きな声でまくしたててくる。

何事かと周りのクラスメイトがこちらを見てくるのが解る。恥ずかしい。

元々静かな教室だったから余計に目立つのだ。だけどナチ、気にしない。


「サクラッ、あたしの彼女になってください!!」

「全力でお断りだよ……」


 ナチの告白、私の即答。

このネタ、何度目だろうか。

ナチはこうやって私をからかう、というか、ダシに使ったりする。

クラスの人たちも「なんだいつもの事か」と視線を教科書に戻していく。静かになる教室。

「ちぇー、またフられちゃったよ。あんた、ほんとにあたしの親友なの?」

「親友なのは否定しないけど愛せるかと言われるとちょっと……」

正直、同性にそんな気を向けられても困るし。

ナチは冗談だからいいけど、姉さんとか本気で女の子に襲われそうになってたのを見てしまったので、その影響もあって全力で拒絶に走ってしまう。

だって、なんか違うし。


「まあ、冗談は置いといてさ。今みたいなセリフを男に言われたら、ちょっとキュンとこない?」

「うーん……」

ナチに言われるまま、誰ぞかにそれを言われるシーンを想像してみる。

まあ、告白されるとしたら校舎裏とか放課後の教室だとして。

実際にそれが起きたと考えると――

「ちょっと無いかなあ……」

どのパターンでも正直微妙というか。

想定がいけなかったのかもしれないけど、ナチが言うほどにキュンと来るようなものではなかった。

「無いかー……そっかー、うん、まあ、そだよねー……頑張れっ!!」

「……?」

なぜか明後日の方向に向けて手をあげるナチ。

すぐにおろしたけれど、何がしたいのか解らない。


「サクラ、ちょっとニコっと笑ってみてよ」

そして(やぶ)から棒にこれ。意味が解らない。

「ナチ、何か悪い事企んでない……?」

流石に何かあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

もしかしたら違うのかもしれないけど、違うならそれはそれでナチが変な子過ぎる。

いや、ナチは確かに変な子なんだけど。

昔から突拍子もない事を言ったりやったりしてたし。

「悪い事なんて企んでないよ。たださー、サクラって笑い忘れちゃったんじゃないかなって思うんだよねー。愛想笑いばっかしてるせいで、普通の笑い方、忘れてない?」

「普通の笑い方って……」

「そんなだと、いざ好きな人の前で笑おうとしてもさ、ぎこちない顔になって笑われちゃうかもよ?」

「……」

なぜだろう。多分ナチは変な事考えてるんだけど、妙に納得できてしまうものがある。

というか、確かにそれは困る。好きな人の前で変な顔は見せたくない。

「という訳で笑ってみるのだよサクラ君! 自分の考えうる最高のスマイルを見せるのだーっ」

「それ、何のキャラ?」

よく解らない口調で煽ってくるナチ。つい笑ってしまいそうになる。

「あ、惜しい……もう、ほら、普通に笑ってってば」

「そんな、普通に笑えって言われても……こ、こう?」

とりあえずニコっとしてみる。

鏡の前で練習するといいらしいけれど、そんな事は一々してないし。

自分の笑顔がどんなのかなんて、確かに自分ではよく解らないのだけれど。

愛想笑いじゃない笑顔になれてるかなあ、なれてたらいいなあ、と、ナチを見る。

「……うん、まあ、OKかな」

OKらしい。ちょっとホッとする。

「ていうかあんたは笑っちゃだめだわ。笑顔の安売り、ダメ」

「なんか、さっきと言ってる事違わない?」

真顔で手を前にバッテンを作るナチ。ダブルスタンダードにもほどがあった。

「反則過ぎる。ていうか勘違いされるからやめなよー。危なくあたしがキュンと来るところだったわ」

何かとんでもない事を口走ってる気がするけどスルーしておく。

ナチの言う事は全部真面目に聞くと疲れる事が多い。

適度に聞き流すのがイラつかずに長く付き合えるコツなのだ。

「やめるも何も、必要がなければ笑わないし……」

私にとって、笑顔になれるほど楽しい事なんて数えるほどしかないのだ。

することが無ければ、それこそ早く家に帰って眠ってしまいたいくらい。

夢に落ちてしまえば、そこはもう楽しい世界が待っているはずなのだから。

「……はぁ、枯れてるなあ」

そしてナチはというと、今度は皮肉げに口元を歪めながらため息。

なんか、すごく呆れられてる気がする。


-Tips-

年期試験 (イベント)

公社の意向によって行われる、学生の総合的な能力を審査するための全体試験。

就学中の全科目で筆記もしくは実技の試験があるほか、それまでの生徒の全行動ログを調査し、

それまでの行動からの次年度の報奨金額や昇学の有無、更に中等部までの学生は進学先・就職先の割り振り範囲などが決められる、

全ての学生にとって最も重要な試験である。

これが控えている三学期には期末テストは存在せず、その役割も担っている。


試験内容は、どの教科においても筆記の場合は選択肢の全く存在しない試験形式の為、当人の運や偶然が左右することは少ない。

また、実技の場合与えられた項目を制限時間内に達成することを求められる形式である。

これらの試験内容は事前に教師により範囲指定されることはなく、その年に学習したあらゆる範囲から選定される為、学生は広大な範囲を予習するため、テスト前二週間は準備期間として、この期間中は登校の義務こそあるものの、放課後までの間、好きな教科を復習すること・試験に備えコンディションを整えること(=仮眠やストレス発散など)が可能である。


教師は事前の一定期間内の間に監督する担当機関に試験内容を提出後は、同機関から採点済み答案用紙を受け取るまでの間、一切することがなくなる。

テストに直接関係するもの以外での生徒からの質問などは答える義務が発生するが、原則何をしていても自由であり、多くの場合、教師にとっては平和な日々が続く。


試験の際の監督・採点・評価はすべて担当機関から出向した係官が行うため、極めて事務的に行われる。

全ての不正行為はデータログを通じて即座に発覚してしまうため、カンニングなどの不正は一切まかり通らない。


原則すべての学生が受験することを前提としている為、遅刻・欠席などは一切許されない。

一部の例外を除き、事情により試験ができない場合も酌量の余地などは存在せず、「与えられた期間中にコンディションを整えないのが悪い」という扱いの元、成績などとは無関係に最悪の評価を与えられるようになっている。


尚、試験結果はすべてのレゼボア人が閲覧できるように構内に張り出され、各教育機関の公開データログ上にも載せられる為、ある種の生徒間序列がこれにより確定されるようになる。

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