表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/663

#10-3.絶望を観る者

――ゲームの中で死んじゃったらどうなるんだろう?

ふわふわとした感覚の中、そんな不思議な事を考えていた。

真っ暗な世界の中、私一人がそこにいる感覚。

どうしてか痛みは全然なくて、だけれど、身体は動かない。

リアルの方なら、死んだ後は一つ下層の世界に転生して、そこで次の人生を送るらしいのだけれど。

ゲームの世界がどうなってるのかすらよく解らないので、考えるほかなかった。考えても、答えなんて出ないのだろうけれど。


『あれれ、ずいぶんあっさりと、またここに来ちゃったねー。もうしばらくはここに来ないと思ってたのに』

私一人のはずの真っ暗闇に、どこか聞き慣れたような、それでいて全く知らないような声が響く。

『ここにきた理由は……うーん、倒れた仲間の姿を見てマジ切れして身の丈に合わない魔法を扱ったせいで魔力途絶――完全に無防備な状態で相手の最後の一撃を受けて吹き飛ばされて、壁に激突、かあ……なんか、救われないなあ』

声の主の姿は見えないけれど、なんとなく呆れられてるような、笑われてるようにも聞こえて、ちょっとムッとしてしまう。

だけど、反論の声をあげようにも、発音できない。

そもそも、声なんて出せなかったのかもしれない。

『でもまあ、らしいといえばらしいのかなあ。うーん、前に行き倒れになってた時は偶然(・・)がキミを救ったけれど……今回はどうしようかなあ? 一応絶望に抗ったっていう扱いにしてあげようかなあ? ううん、迷うなあ』

なんて緊張感のない人なのだろう。

何について悩んでるのかもわからないけれど、なんとなく、「今日の晩御飯何にしよう」くらいのつもりで悩まれてるようにしか聞こえない。

多分私の事なんだろうけど、夕飯のおまけ扱いはちょっとなあ、と。

『……なーんてね! 実は最初から悩んですらいないのでした! だって私がここにいる時点で、絶望に抗い続けたという証左なんですからね』

なんとなく、ニコニコ顔で話しかけてくれるお姉さんが頭に浮かぶ。

あの人。えーっと、誰だっけ。なんでか思い出せない。

そういえば、現実に戻った時も、ゲーム世界の人の顔とか名前とか、思い出せないことが多いなあ、なんて今更のように思う。

『さあ、いつまでも寝てたらお友達が泣いちゃうよ! 早く目を覚ましてあげるのです。ホーリーデバイス――リザレクション♪』

謡うようによく解らないことを言いながら。

可愛らしい声のその人は、私の耳元で、ぞくりとするような優しい言葉をささやいた――気がした。



「――はっ!?」

気が付けば、壁際で呆然としていた。

ひんやりとお尻を冷やす地べたの感覚。

今まで何が起きていたのか――ああそうだ、ロボと戦っていたんだった。

あやふやな頭のまま、ロボのいた方を見る。なにもいない。なんにもいない。

「う……サクヤ、大丈夫……?」

意識を取り戻したのか、頭を押さえながらエミリオさんがフラフラとこっちに歩いてくる。

「んん……なんとか、無事みた――痛ぅっ!?」

立ち上がろうとして、背筋からくる鋭い痛みにビキリと身を(すく)ませてしまう。

「大丈夫ですか二人とも? すぐにヒーリングかけますね!」

ミーアさんが私の元に駆け寄ってくる。

見れば、私の前に吹き飛ばされたバリバリは先に癒してもらったらしく、元気そうにぴょこぴょことロボのいた辺りを見て回っていた。

うん、勝利。私たちの勝利。


「ドロップアイテムはサクヤさん達のでいいよね」

「当たり前だろ。この人達いなかったら俺たち全滅だぜ、全滅」

「異論はないな」


 さっきのロボが倒れたあたりに落ちていたのは、銀色の大きいネジが数本と、青白い刀身の長剣。

バリバリが発見して持ってきてくれていた。

「んじゃ、ありがたくもらっておくね。剣の替えも必要だったし」

「うん……それじゃ、ご厚意に甘えて」

それがどういった価値のあるものかは私にはわからないけれど、メタルバウのネジみたいに蒐集品として高く売れるかもしれないので、ネジもありがたくもらっておく。

そのころにはもう、ミーアさんのヒーリングのおかげで痛みも大分ひいていた。


『お前たちのおかげで仲間や家族の敵討ちができた。感謝するぞ!』

元気まんまんなバリバリは、その場でぴょこりとお辞儀して、私たちにお礼を告げる。

「ううん、バリバリのおかげで助かってた部分もあるし、お互い様だよ」

少なくとも、何も知らずに洞窟を進んでいたら、今回の勝利はなかったんだと思う。

敵としてバリバリを倒してしまっていたらと思うと、最初に助ける方向で進めたのは正しかったんだと思える。

『あの死神を召喚した緑髪の人間の子供と仲間だった人間たちは死んでしまったようだが……お前たちは良い奴らだったからな! ぜひ、また来てくれ! 歓迎するぞ!!』

「か、歓迎だってよ」

「い、いいのかなあ」

「まさか、ゴブリン狩りにきたつもりがゴブリンと仲良くなっちまうとはな……」

三人とも困ったような複雑そうな顔をしていた。

私も多分そんな顔。エミリオさんは嬉しそうにニコニコしてるけど。


『うおー、これが新しい世界かー』

『すごいな、とてもかっこいい洞窟じゃないか!!』

『とってもきれいな洞窟だわ! 新生活にはもってこいね!』


 そうこうしているうちに、洞窟の各所から自然とゴブリンたちがリスポーンしてくる。

何やら口々に感嘆の声をあげながらの登場。ちょっと騒がしい。


『あっ、人間だ!』

『敵か? 味方か? どっちなんだ?』

『そもそも誰がリーダーなんだこの洞窟!?』


 新しく現れたゴブリンたちは、私たちの姿を見つけてどうするかごにょごにょと話し合っている。

リスポーンされたモンスターって、いつもこんななんだろうか。

今までは話せないモンスターばかり倒してたから解らないけど、実はみんなプレイヤーの姿に驚かされてるだけだったりして。

それはそれでなんとなく……狩りがしにくくなってしまうのだけれど。


『案ずるなお前たち! 俺様がこの洞窟のニューリーダー、バリバリだぞ!』


 そして、バリバリがゴブリンたちの前に立って何やらアピールする。

テンガロンを指でずらしながら謎のポーズ。


『そしてこの人間たちは俺様の仲間だ! かつてこの洞窟に訪れた全滅の危機に駆けつけてくれた人間の勇者たちだぞ!! 称えろ、そして歓迎するのだ! 他の人間は敵だから攻撃していいがな!』

『おお、人間の仲間ができるとはやるなリーダー!』

『私たちの未来は明るいわねっ』

『伊達に変な帽子被ってないなリーダー!』


 やんややんやとバリバリを称えるゴブリンたち。

うん、なんか、すごく可愛らしいです。癒されました。


「それじゃ、私たちはそろそろ……」

今更のように戦闘の疲れがどっと出てきた気がしたので、帰りたくなっていた。

もうこんな雰囲気になってゴブリンを狩る訳にもいかないし……仲間扱いだし。

『おお、もう帰るのか! ではまた来てくれ!! とげ角族式の歓迎ぱーちーをしてやるかんな!!』

「おお、なんかすごそう! サクヤ、また来ようね!!」

「う、うん……それじゃ」

「俺たちも失礼するぜ」

「またなー」

「ありがとうねー」

便乗して、他の三人も別れの言葉を告げる。

さよならは突然なのだ。

だけど、まあ、エミリオさんもまた来たいって思ってるみたいだし。

また来てもいいんじゃないかなあ、なんて思ったのです。



 こうして、初めてのゴブリン狩りは全くの予想外な結末に終わって、たまり場にちょっとしたお土産話ができた気分でした。


-Tips-

ゲーム内での死について(概念)

プレイヤーは『えむえむおー』世界内において死亡した場合、それまで得たあらゆる知識・知恵・財産・能力・記憶・交友関係などを失い、0から全く別のスタート地点にて再スタートすることとなる。

プレイヤー本人も死んだ時点で自分が死んだ事を忘却させられており、次のスタート時には『初めてこのゲームに降り立った』と認識してしまうこととなる。

その外見や性質も初回プレイ時とは全く異なるものとなる為、仮に以前のプレイヤー時代の仲間と再会できたとしても当人同士がそれに気づくことはないようになっている。


非常に意地の悪いシステム構成であるが『またプレイできるだけありがたいと思え』というのがシステム構築責任者の言であり、死んだ本人は一切の苦痛などが無い為に苦情も全く存在していない。

唯一、死んだプレイヤーと親しかった者・関わった者の心にだけ消えない傷が残るが、システム構築責任者はそのような細かい事は一切気にしていない。


尚、ここで言うシステム構築責任者とは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ