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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

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#10-2.リンクスタート

 向かった先は更に奥の通路。

私たちが進んできた道より、少し狭くなっていたように見えたのだ。

こっちなら、私たちの何倍も横幅があるあのロボは、簡単には入り込めないはず。

「ミーアさん、ここで支援お願いします。絶対に前に出ないでくださいね!」

通路まで連れて行って念を押す。

「サクヤさんはどうするの……?」

振り返れば、エミリオさんと戦士の人……それからミスリル君がロボ相手に健闘していた。

「皆が時間を稼いでくれてる間に、魔法でダメージを狙います」

幸い、まだ誰も傷ついている様子はないけれど……ロボもロボで、その姿が大きく変化していっている。


 ボディに受けたはずの斧のダメージはまるでなかったかのように綺麗になっていて、松明の炎がつやつやとした光を照らし出す。

二本だった腕は四本に増えていて、上腕の左右には長剣を、下腕の左右には斧をマウントしている。

一番変化が大きいのは顔のモニタ部分で、さっきまで四角かったのが、今では球体、水晶のように光っている。

そうして、そのモニタの中に、さっきまでは見えなかったゆらりと揺れる顔のようなものが見えたのだ。

二次元チックな、ちょっと可愛い顔が。


「そ、それなら、ちょっと待っててね! えっと……」

「……?」

剣や斧だと回復される様なので、とにかく魔法の詠唱を、と、杖を前に突き出したのだけれど、そこでミーアさんに止められる。

『秘められたるその者の力、眠り往くままなる才覚の色、今ここに解き放ちたまえ――』

そのまま、ぶつぶつと何かを呟き始める。

これは……うん、多分『奇跡』なんだと思う。

プリエラさんとかが使っているソレと似ているし。ヒーラーだから、支援の奇跡か何かを発動させようとしているのかな、と、納得して、そのまま見守る。


『――クエド・ヘスティア!!』


 胸の前で手を組んでお祈りのポーズ。

声高らかに紡がれたその言葉は――しかし、何の奇跡も生むことはなくて。

ただ、シーン、という、虚しい空気の流れだけが私たちの間をすり抜けていった。

「あ、あれぇ……?」

「え、えーっと……?」

これ、どうなの? と、ちょっと不安になる。

それまで「ちょっと神々しいかも」なんて感心してただけに余計に虚しい。

「あっ、そうか……」

ぽん、と、手を叩いてミーアさんが立ち上がる。

『クレド・エスティア!!』

そうして、また手を組んで、さっきとは微妙に違う言葉を叫ぶ。

数秒経過。また、間が空く。

「あ、あれれ……?」

なんともお寒い空気が流れそうになって、ミーアさんが首をかしげながら、ちょっと涙目になったあたりで。

「――ふあっ!?」

ぽわん、と、突然薄青色の光が私の腰あたりから頭のてっぺんまでせりあがってきて、キラキラと光る(しずく)を振りまいてくれた。

「あ、よかったあ……ちゃんと発動してたぁ」

どうやら失敗ではなかったらしい、と、ミーアさん、安堵のため息をつく。

それから、キリッ、と私の顔を見て、一言。

「これで、一回分魔法の威力が上がる……はず!」

「なるほど……では、行きます!!」

折角なので、今使える中で最強の魔法で挑もうかなあ、と。

気合が入ったところで、今度こそ杖を前に突き出し、詠唱に入る。


『水泡の結晶よ、矛となって敵を討て――』


 結構使い慣れてきたので、『クリスタル・シャワー』も大分詠唱部分を短縮できるようになっていた。

これも日ごろの鍛錬と、たくさんの敵に使う機会が増えたから。エミリオさんのおかげともいう。

そうして、これからが『魔法』というスキルの真骨頂!!


『――クリスタル・シャワー、収束!!』


 収束してゆく魔力の光。やがてそれが、無数の氷のクリスタルとなって私の周囲に展開されてゆく。

それに気づいてか、ちら、と私の方を見たエミリオさんが小さく頷くのが見えた。

流石相棒。解ってる。


『……シュート!!』


 杖で、エミリオさん達と戦っている死神を攻撃するようにクリスタルたちに指示する。

鋼のボディはまだ傷一つついていないけれど……これなら!

「魔法来るよ、皆離れてっ!!」

「お、おうっ」

「解った!!」

エミリオさんの指示で、他の二人も飛び退く。

射線上はクリーン。クリスタルたちは何に邪魔されるでもなく一直線に放たれ――爆散せずに大きな結晶体のまま、死神の胴体に、腕に、足に、次々に突き刺さってゆく。

これが収束クリスタル・シャワー。

本来爆散して広範囲にダメージを与えるところを、それをやらずに狭範囲に絞って威力を増強させた、今のところ私の最強の破壊魔法。


『gebebebebebE!!?』


 その衝撃、その威力。今まで私が使っていたクリスタル・シャワーとは比較にならない位の出来の良さ。

確かに奇跡の底上げを感じる、最高の一撃だと思う。

だって、その一撃で死神ロボは大きく吹き飛ばされ、体のパーツがばらばらになっていったのだから。

「すげぇ……あんなに苦労したこいつが一撃かよ」

「はえー、マジシャンの火力ってこんな高いのかよ」

ぐったりと倒れて動かなくなった敵。

ボリスさん達は感嘆の声をあげてくれているのだけれど……敵の体、まだ消えてないんだよね。

死んだらモンスターもプレイヤーも関係なしにそのまま消滅するのが常識なので、これは非常に怪しい。

「まだ敵は消えてませんから、起き上がってくる可能性があります、油断せずに――」

言ってる傍から、ぐら、と、穴の開いたボディのまま死神が動き出す。

ああまただ、と、油断せず杖を前に突き出し、次の攻撃の用意。

「サクヤッ、なんかボディの中光ってる! あれ、怪しくない!?」

敵の修復を近くで見ていたエミリオさん、何かに気づいたのか、敵の胴体を指さしていた。

穴の開いた先――確かに光ってる。何あれ怪しい。

『――ロックシュート!!』

すぐさま魔法を放つ。もしかしたら弱点なのでは? と思っての一撃なのだけれど……惜しくも間に合わなかった。

一瞬早く、ボディが修復を完了してしまったのだ。

ロックシュートがボディに直撃するも、ダメージにはならないのか、虚しく弾かれ消滅した。


『pusyuuU――zeS、baY……!!』


 奇妙な機械音声を発しながら、死神は修復が完了。立ち上がり……なんか、私の方を見ていた。

モニタの色が赤くなっている。それから、さっきは可愛く見えた顔が怒ったようになっている。

――あれ、これ不味いんじゃ?

そう思ってその場から離れようと後じさった瞬間、もう(・・)目の前に死神がいた。

「ふぇっ!?」

「サクヤっ!!」

エミリオさんが駆けつけてくるのが、ロボに隠れながらだけど見えていた。

だけど、間に合わないと思う。

だって、死神はもう私に向けて六本の――そう、六本に増えた腕を全部揺らしながら、私に向けて武器を振り回してきたのだから。

これはもう、助からない攻撃だと思う。だから、目をつぶって、頭を守る位しかできなかった。

(あっ――ご、ごめんなさい)

変なところで倒れちゃって、結局役に立てなかったのは悲しい。

ギルドの人たちになんにも言わずに死んでしまうのは、すごく哀しい。

仲のいい人だって少しずつ増えてきて、そう、最近じゃバケツ姫ともお友達になったのに……バリバリとか、ミーアさんとかとも、もしかしたら仲良くなれるんじゃ? なんてちょっと期待してたし――ああ、なんかいろいろ、すべてが虚しかった。


『――ぐはぁっ!』


 そして、全く変な悲鳴が、耳に残る。

私の最後の声、なんかすごく変じゃない? なんて思いながら。

だけど、いつまでたっても来ない痛みに、そろそろと目を開くと――私の代わりに、死神の武器を一身に受けている小さな姿。

「バリバリっ!?」

『は、やく、魔法を撃つのだサクヤ――俺様が、耐えてる、間に』

吹き飛ばされそうになりながら、無理やり武器にしがみついて、血まみれになって声を絞りだすバリバリ。

私を、かばってくれたのだ。私を。私なんかを。

「うおりゃぁぁぁぁぁっ!!」

ロボの後ろから、エミリオさんが一撃を加える。

だけれど、パキリ、と、それまで善戦していたエミリオさんの剣がへし折れてしまう。

もう、限界だったらしい。

「な――ちくしょぉぉぉぉぉっ」

『――zeS、baY。 zeS、baY。 zeS、baY――deS!!』

それでも腕を押さえようとしていたエミリオさんを、ロボが胴体をぐりん、と回転させて、殴り飛ばす。

「あっ――かはっ」

「エミリオさんっ!?」

「嬢ちゃん!!」

吹き飛ばされたエミリオさんはそのまま意識を失ったのか、動かなくなる。

「くっ――」

もう、ただ唖然とはしていられない。


――何かしないといけない。何を? どうすればこのすごく速く動く化け物を倒せるの?

頭は勝手に色んな疑問を生み出していく。だけれど、私の心はそんなものにまともな答えなど生み出さない。

身体は勝手に動いていく。杖を前に、今、バリバリをも吹き飛ばしたロボの懐へと迫る。


「おいっ、マジ子さんやめろっ!!」


 誰かの声が聞こえる。聞こえない。どうでもいい。そう、どうでもよかった。

目の前の敵が憎い。どうしようもなく憎い。

コレが何なのかは解らないけれど、それすらもどうでもいい。

ああ、そうだ、私はきっと、おかしくなってるんだと思う。

普段の私ならきっと、逃げてたよね……?


『amE……? zeS、baY!!』

「――れろ」

「サクヤさん、危ないっ!!」

『壊れろ……』


 イメージは神速で紡がれてゆく。こんなに鮮明にイメージできたのは初めて。

頭に浮かぶのはマタ・ハリが壊されたあの(・・)魔法。それが敵を穿つ。ボロボロに砕かれる敵。

貫通する光のライン。最速の魔法が、鋼の身体などものともしない物理の暴力が、今、敵を貫く――


『壊れてしまえ、シューティングスター!!』


 喉が裂ける位に、声が割れるほどに叫び。

私は杖を死神ロボのボディに接触させながら、魔法を放つ。

それは、グリモアにすら手が届かない高位の魔法のはずだった。

私なんかに発動できるはずのない、まして詠唱なしで発動できるとは思えない代物だった。

だけれど、イメージしていたのだ。

扱い慣れたクリスタル・シャワーではなく、一度も試したことすらない、セシリアさんの魔法を。

明確に、鮮明に、イメージの中の私は使いこなしていて――そして、敵を破壊していた。


 イメージ通りになったかは解らない。

だって、ほぼ相討ち。私が魔法を使ったのと同じタイミングで、ロボの攻撃が私に届いて吹き飛ばされていたから。

そのまま背中に強い衝撃が走って、何もわからなくなったから。


-Tips-

マシンロボ(モンスター)

本来は16世界の一つ『蹉跌(さてつ)の森』における主要生物。

鋼性の肉体を持ち、負傷・喪失するたびに新たな肉体を再構築・改修して立ち上がる『自己修復』『自己改良』の特性を持つ。


精霊や妖精などの住まう蹉跌の森は他世界とは異なり、人類が生存するに適さない、濃密すぎる魂の霧に覆われている為、発生した主要生物もこのように金属製の身体を持たねば活動することができない。

このマシンロボは外見こそレゼボアなどに存在している『ロボット』に酷似しているが、実際には自我が存在し、独特の言語、独自の文化や感性によって日々を生きている(・・・・・)生物である。


本来はとても平和的・穏健的な生物であり争いは好まず、蹉跌の森という平和すぎるほどに平和な世界の中、精霊や妖精などと共に『魔王』の支配を受け入れ、秩序による恩恵を享受している。

だが、ひとたび危機にさらされれば迎撃する手段は持ち合わせており、幾度倒れても中枢のコアが破壊されなければ甦り、そのたびに強く進化してゆく。

一種の人類の進化形の最終形態ともいえる存在だが、食性している魂が他の世界では薄すぎる為、他世界で生存することが難しくなっていて、あまり広がる事はなかった。


同系統種の上位互換生物として『マシンロード』や『スチールギガント』などが存在している。


種族:無機物 属性:無

備考:特殊能力(自己修復・自己成長)

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