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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

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#10-1.鋼の死神

 バリバリを連れ、二人と一匹でのダンジョン探索。

『鋼の死神』が何なのかは解らないけれど、他のパーティーも大変な目にあっているらしいし、慎重かつ迅速に進まないといけない。

幸い、バリバリにとっては自分の家のようなものなので、道案内をお願いしている。


『この先だ……』 

ひょこひょこと短い足で私たちの前を駆けるように歩くバリバリの姿にちょっと癒されたけれど、ぴたりと足を止めたところで、また緊張が走る。

道の先は曲がり角になっていて解らないけれど、少しずつ道が広がっていた。

『ちょっとした広場になっている。気を付けてくれ――いるぞ』

ごくり、息を呑みながら、バリバリは手に持ったゴブリンシールドの取っ手を握りしめる。


 剣撃の音はまだ続いている。

プレイヤーのものらしき叫び声も。

まだ両者の戦いは終わっていないのだ。なら――


「よーし……行くよ、サクヤ!」

薄緑色のショートソードを手に、エミリオさんがバリバリと一緒になって前を歩く。

「……はい!」

何が出てきてもいいように。何が出てきても驚かないように。

そして、どうなっていてもいいように、私はゆったりとした歩調でその後ろを進む。

エミリオさん達を囮に、というと聞こえは悪いかもしれないけれど……いざという時は、一番前にいる二人よりは、一歩後ろにいる私の方が冷静に状況判断ができないといけないから。



 曲がり角を一気に抜け、広場へと躍り出る。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

『―――beeeeeeeE!!』


 まず見えたのは、スチールグレーの無機質に見える……ロボット?

六脚型の異形な下半身とは裏腹に、上半身は人を模しているのか、腕が二本、顔の位置にはモニタのようなものがついている。

人の腕にあたる部位なんかはパイプ状で細長く、腕の先には剣が直接マウントされていて、それで戦っているみたいだった。

サイズは縦にも横にも人よりかなり大きめ。うん、ゴブリンから見たらすごい化け物に映るかも知れない。


「死に晒せぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 そんな化け物が、今は戦士風の男の人と激戦を繰り広げていた。

双方とも傷だらけ。どちらが優勢なのか解らない状態だけれど。

赤い斧を手に、一気に駆け寄り全力で振りかぶる戦士の人。

鋼の死神は、それを腕先の剣で受け、斧の威力に弾かれて仰け反る。

足が多いだけあってバランスはいいのか、仰け反ってもすぐに姿勢を建て直し、剣を戦士の人に向ける。


「どっ――せい!!」


 同じように戦士の人からも放たれた返しの一撃に、がきん、と小気味いい音が鳴り、死神の剣がへし折れる。

あれ、これ助け必要ないんじゃ……?

「いい加減にくたばりやがれぇぇぇぇぇっ!!!」

『giS!? bsssS……』

繰り出された追撃を手で受けようとして――へし折られ、勢いのまま、胸のあたりに斧が突き立てられる。

直後、死神は「ボシュウ」と奇妙な音を立てて、その場で崩れ落ちる。

まるで抜け殻のように。さっきまで戦士の人と切り結んでいたとは思えないような、なんとも間の抜けた格好で動かなくなったのだ。


「やるなあ。あたしらの出番、なさそうだよ?」

エミリオさんも緊張が抜けたのか、軽口を叩きながら振り向いてくる。

戦士の人の勝利。

やっぱり大したことのないモンスターだったのかな、なんて思いながら洞窟を見渡すと……奥の方に、血まみれの女の子と、それを介抱する男の子が見えた。

「エミリオさん。怪我をした人がいるみたいですから、ちょっと見てきますね」

「うん、じゃ、私は戦士さんの方行くわ」

とりあえず、戦闘は終わったみたいなので救助優先。


 速足で女の子のところに歩き、声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

見た感じヒーラーらしいクリーム色の修道服を身にまとったその女の子は、くったりとしながらもなんとか意識があるらしく、私の問いかけに無言のまま頷く。

「すまない、ポーションが尽きてしまって……」

「解りました、手持ちがありますからお分けしますね。飲めますか?」

近くにいた男の子が困ったようにこちらを見てきたので、腰のポーチからポーション瓶を取り出して差し出す。

「大丈夫だ……ミーア、今飲ませるから」

私から瓶を受け取った男の子は、なぜか自分でそのポーションを口に含んで――

「あっ――」

そうして、私の見ている前で、ミーアと呼ばれた女の子の顎をくい、と持ち上げ、口づけをした。

(えっ、ちょっ――なんでこんなところで!?)

まさかのキス。人前で、そんな、大胆な!!

ちょっとパニックに陥りそうになったけれど、女の子の口の端からポーションが零れ落ちたのは見えたので、きっと救護の為に必要な事なんだろう、と割り切ることにした。

いやでも……ちょっとロマンチックすぎる。


「大丈夫かミーア?」

「……唾液の味がする」

なんとか喋れるようになったらしいミーアさん。

最初の一言は本当にそれでいいのだろうか。

折角のロマンが台無しすぎた。

「――っていうか何どさくさまぎれにキスしてんのよこのセクハラ剣士!!」

「し、仕方ないだろ! 無理にでも飲ませなきゃやばかったんだから!! そうだよな!? な!?」

そして痴話喧嘩が始まる。いくら戦闘後とはいえこれはちょっと……というか私も巻き込まれていた。

「え、えーと……まあ、その、返事を返せない位まずかったのなら、手段は選べなかったんじゃないかなあって……」

見れば二人とも顔真っ赤だし。ミーアさんもなんだかんだ本気で嫌がってるようには見えないし。

きっと恥ずかしがってるだけなんだろうと思う。照れてるだけかなー、なんて。

(……喉奥にポーション瓶突っ込まれた私と比べるとずいぶん優しい起こし方な気がするしなあ)

まあ、私の時は相手も知らない人だったし、それで同じようにされたら多分色んな意味でショックを受けると思うので、そうならない相手とならいいんじゃないかなあと思います。

「むー……私としたことが……まさかゲーム内初キスをミスリルにくれてやることになるなんて……」

「ふんっ、どうせいつかもらう予定だったものが今になっただけなんだから気にするなよ!」

「だ、誰があんたなんかに――もう、人前でそういうのやめてよねっ」

とりあえずミーアさんもちょっと納得いかない部分はあったみたいだけど、剣士さん(ミスリル君?)の返しにムキになって真っ赤になるあたり、まんざらでもないんだと思う。

なんだろうこの人たち、面白い。


「と、とにかく動けるようになったみたいだし……ありがとうマジ子さん。その、私、ミーアって言います」

「俺はミスリル。ほんとありがとうな。あの変な奴の不意打ちで真っ先にミーアが倒れちまってさ……もうだめかと思ったぜ」

しばし微妙な雰囲気が漂ったけれど、少し経って落ち着いたのか、二人は私に向けて頭を下げてくれる。

なんとなく照れくさい。お礼を言われるの、嫌いじゃないんだけども。

「あ、気にしないでください。私も結構人に助けられること多いので、こういう時はお互い様です」

本当に助けられてばかりなので、実は人を助けられるのは嬉しかったりする。

助けた人とコミュニケーションを取るのはまだちょっと抵抗あるんだけども。

私はあんまり人付き合いが上手くないのかもしれない。

そんななのに愛想笑い出来てしまえる自分が少しだけ憎い。

「とりあえずボリスにヒーリングを頼む。お前が気絶してる間、あいつがなんとか敵を黙らせてくれたんだが……」

「あ、うん。わかったわ」

ミスリル君に促され、ミーアさんも急いで立ち上がり、さっきロボと戦っていた戦士さんの方へと駆け寄る。

「ボリス、大丈夫!?」

壁際で斧を地面に突き立てて座り込む戦士さん。

何やらエミリオさんが話しかけていたみたいだけど、ミーアさんが歩いてきたのを見て、戦士さんが――あれ? 急に目を見開いて何か叫――


「――来るんじゃねぇっ! まだ(・・)生きてるんだ!!」


「えっ……きゃっ」

急に立ち上がったと思ったら、ミーアさんへ向けて飛び掛かり――抱きかかえたまま私たちの方へ転がり込んできた。

直後。そう、直後に来たのだ。鋭い斬撃が。

倒れたはずのロボットが、ミーアさん目掛けて一撃を決めようとしていた。

戦士さんが飛び掛からなかったら、ミーアさんは真横から斬りつけられてたんだと思う。まさに間一髪。

「サクヤ離れてっ!!」

すぐにエミリオさんがロボットの脚目掛け剣を振る――けれど、細く見えるパイプ状の足は、エミリオさんの剣を容易くはじき返す。

鈍い鉄の音。なるほど、『鋼の死神』らしく堅い。

それでも気は引けたのか、死神はエミリオさん向け剣を振り始める。

私から見ればどちらも素早い動き。

だけれど、エミリオさん視点ではそうでもないのか、横薙ぎの一閃を容易くかわし、距離を取って引き付けてくれる。

「ちょっと時間稼ぎお願いしますっ」

「あいよっ!! でやぁ!!」

幸い、何が起きてようと覚悟が決まってる分だけ次の行動は迅速だった。

エミリオさんも威勢よく死神へと斬りかかり、援護してくれる。

私はというと、すぐに起き上がったばかりのミーアさんの手を引いて走り出した。

「えっ、きゃっ――」

「ごめんなさい、こっちに!」


-Tips-

ヒールポーション(アイテム)

『えむえむおー』ゲーム世界における一般的な回復アイテム。

ゲーム内においては『ヒーリング』などの奇跡による治癒、『アクアリウムプログ』などの精霊魔法による治癒、時間経過による自然治癒、アイテム使用による治癒の四つが負傷を回復させる主要な手段であるが、このヒールポーションは奇跡や精霊魔法を扱う事の出来ない冒険職にとっては数少ない、それでいて容易に負傷を回復することのできる手段として需要が高い。


一般的にはアルケミストに就いているタウンワーカーが製造・販売している為、一定数のプレイヤーが存在する場所ならば街の中に限らず入手が容易である。

ただし、容易に手に入るとは言っても初心者・初級者にはやや高価なアイテムであり、安定した収入を得られるまでは転移アイテムと同じくいざという時の緊急用として念のため持つ位しかできないことが多い。


その回復効果は品質や材料によって大きく異なり、また、効果の高い材料は必然的に材料を手に入れる為の原価(採集依頼や自前で用意する場合護衛の依頼料など)が掛かる傾向が強いため、一般的に効果の高いものを作れる販売者から買う場合、相応に価格が高くなっていく。


利用方法としては、内臓や骨などが傷ついた場合、また広範囲に負傷が見られる場合は直接飲み下すのが最も効果が高く効率的である。

部分的な外傷に限定される場合は塗り薬のように塗ると飲むよりも早く効果が出るが、サラサラの液状の為、ゼリー状の液体などと混ぜないとすぐに流れたり乾いたりして効果が薄れてしまう。

この為、治癒に時間のかかる負傷の場合はハンカチなどの布や紙、包帯などを活用して湿布薬として貼り付けるのが効果的と言える。


味は作成者によって無味・レモン風味・イチゴ風味・チョコレート風味・栄養ドリンク風味など多岐にわたる味付けがなされており、多くの場合同一の販売者から好みの味を選んで買う事が出来る。

尚、一番人気はイチゴ風味である。

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