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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
ノブレス・オブリュージュの章
98/161

【第97話】綻びの端

今日もこちらにいらっしゃいましたね。

ありがとうございます。

GW毎日企画、終盤に差し掛かりまして読んでくださる方も疲れてませんか?

 陛下からの呼び出しがあったのは今日の朝のことだった。

 世界の綻びに関する統計調査が終わったそうだ。

 「みんな、朝食が済んだらお城に行くから準備をしておいてくれよ。」


 妻たちが正装を整え、娘たちが可愛い衣装に着飾ったころに馬車の準備も整ったらしく、アリスさんが知らせに来てくれた。

 シルファは今日はセーラー服だ。どういう訳か気に入ってくれたようで、外に行くときにはこのスタイルが多い。

 オウスガでシルファのために買ったセーラー服は半袖の方は濃いグレーの襟で、グレーの膝よりずっと短い丈のプリーツスカートと一緒に使う。

 秋の始まりのこの季節は朝と日暮れには肌寒さも感じられるようになってきたからシルファには明るいベージュのカーデガンも羽織らせた。

 「パパ、これ似合ってるかにゃ?」

 俺の前で得意げに一回りして見せるシルファに微笑んでやり、髪を撫でると気持ちよさそうな表情になり、フィアの所まで駈けて行った。

 妻たちがセーラー服を着てくれるのは夜だけだが、シルファにこそ似合っているかもしれない。


 馬車に乗って登城するのは僅か数分のことだが、小さい娘たちには好評だ。

 御者席が特等席で四人が上がってくると結構大変だ。

 これがウィングと旦那のペアならば急発進など子供たちの危ない事になりそうな挙動もしないので安心だが、白い方のペアは子供が増えると興奮するので気を付けなければいけない。

 森を抜けて車宿りに入る頃にはユンカーさんが迎えに出ておられ、御者席から挨拶を交わす。

 「ユンカーさん、おはようございます。」

 「良くいらっしゃいました。皆様お揃いのようですね。」

 最近は私用で訪れた時だけでなく、公用の時も陛下の私室へと案内されるようになり、アマーリエ様やゲオルク様が気易いという理由でほとんどの用事を私室でお伺いするようになってしまった。

 ユンカーさんにアンニさんとの新婚生活などを伺いながら廊下を進むと、すれ違うメイドさんたちも気さくに挨拶を頂けた。

 城の雰囲気も随分と明るくなってきたように思うが、より洗練されて上品と気安さが融合したようなベクトルに進化しているようだ。

 これも我が家とは違った気持ちの良さがある。

 陛下なりに頑張っていらっしゃるのだろう。

 そう妻たちと話しながら陛下たちのいらっしゃる私室へとたどり着き、ユンカーさんがノックと共に扉を押し開く。

 「やぁ、よく来てくれたね。さあ、皆さんも掛けてください。」

 陛下がすぐに妻たちにソファーを勧め、子供たちは日向になっている窓際の遊び場スペースへと駆けこんでいった。ゲオルク様と仲良く遊び始めたようだ。

 アマーリエ様がシルファのために準備してくれたのは絵本や物語を集めた本棚。

 この世界の書籍は所謂手書きなんだ。

 印刷技術が発達しておらず、大量に同じものを作ることができないからこそ本の一冊も高価で替えの利かない貴重な品物である。

 それを惜しげもなく数え切れないほどの量を蔵書しており、シルファにとって宝箱のようなモノである。

 いずれゲオルク様も利用するであろうし、ユイや睦月たちも楽しめる。その次にはクレイオもカーリオも読ませてもらえるだろう。

 そしてゲオルク様の弟か妹も。

 ゲオルク様が2歳になる前でお兄さんになることが判った。

 アマーリエ様の懐妊が判ったのが先週のことで、今は6週目だという事だ。

 陛下もヤルものである。

 俺の妻たちに二人目の兆しはないが、神国はこれからも安泰らしいし、今日はお祝いも持ってきている。

 如月と切り伏せたエンシェントドラゴンの牙と爪で作った魔除けだ。

 前歯と爪を切り出して、尖りがないように削り加工を施したうえで、徹底的な研磨を行った結果、表面が虹色に輝くツヤとテリを纏う、真珠の様な綺麗な状態になった。

 内包するエネルギーを調整して凝縮させると、霊力を穏やかに染み出させることができるようになったので聖魔法の浄化クリアを結合させると自然界にある邪霊をも寄せ付けない効果を永久に持続させることができる。

 これをブレスレットに仕立てたんだが、アマーリエ様に大層喜ばれた。

 陛下の分もゲオルク様の分もちゃんとある。

 生まれてくるお子の分もちゃんとある。

 オートで、向けられる呪や邪霊の強さに反応するようになっており、エンシェントドラゴンより強い暴力か、俺より強い魔力でなければこれを着ける者を害することはできないだろう。

 当然だが、妻たちも娘たちもエンシェントドラゴンの牙で作った物をネックレスやブレスレットに仕立てて着けてくれている。

 これが本当のイージスの盾だ。


 子供たちが遊びに夢中になり、シルファが読書に熱中している間に陛下より報告が始まった。

 「ソウタ殿、調査の結果についてだが、調べると非常に面白いことが判ったんだ。これを見てくれるか。」

 テーブルの中央に置かれた日本地図。いや、神国全図となっていた。俺にしてみればどちらも一緒なんだが、それに重ねるようにピン留めされたメモがある。

 クノエにふたつ。

 「神創10年 1名」

 「神創593年 14名」これは親爺たちだ。

 トウコンに一つ。

 「神創821年 1名」

 そこから始まった迷い人はチョウシュ、ヘイコ、フセイ、セキセンと日本海側を北上するように記録が移り変わり、最新のメモは神創1622年とある。今から5年前だ。

 つまりは俺のことだが、フセイに現れた中島は俺が殺した。奴がこっちに来たのは俺より4年早く、その間にダイハンまで移動して俺たちと出会ったのだろう。

 チョウシュに現れた日本人は俺が調べたことのある広島の建築家だった人だ。

 ヘイコに現れた日本人は解放の光に取り込まれていたようで、俺がいつかの虐殺を行った際にテロリストと共に死んでいる。

 セキセンに現れた日本人は所在が確認されているが、街中の寺院で出家して神仏に仕える身分になっているそうだ。

 木彫りを得意としており、見事な神仏像を彫り上げることで有名なんだそうだ。

 迷い人の現れるタイミングは全く規則性が無く、100年以上間が空いたり、5年と経っていなかったり。

 次のタイミングを計ることも難しそうだ。

 だが、次はシンカタなのだろうと推測だけはできる。

 「神国の北側を北上しているようには見えますが、迷い人がやって来る時期は読めませんね。」

 「そうなんだ、数学者に聞いてもみたのだが連続性や関係を見極められそうになかったよ。」

 「伝承や記録に気候の変化や天変地異のことなどがあったりすると、予兆を知ることもできそうですが、余り古いと判らないかもしれませんね。」

 「それについてはちょっとした書付が見つかっているんだ。実はソウタ殿が神国にいらっしゃったその年にトサンで大きな地震が起こっている。

 セキセンでも大きな地震があった年に迷い人の記録もある。フセイもそうだ。これはさすがに無関係とはいえないと思うがどうだろうか。」

 「つまりは大きな地震に伴って迷い人が来ていると考えられるという事ですね。」

 妻たちもアマーリエ様も一言も発せずに陛下と俺の話を聞いている。

 フィアも途中で紅茶を一口飲んだだけで、口を開こうとはしない。

 アニエスとシロップは重要なことを聞いたという表情で手を取り合っている。

 如月はと言うと瞑想でもしているかのように群青の瞳を閉じており、自分が生きてきた1000年を陛下の話と共に思い出しているようだ。

 「そう言えば私も聞いたことがあるわ。」

 ゆっくりと群青の瞳を開き、俺の方を見た如月はここ数百年の話を聞かせてくれる。

 「地震には特徴があってね、地面から天に向かって雷光が走るのを見た人が多くいるそうよ。その直後に地震が起こり、地面が割けたそうよ。

 地脈が割ける時に雷光が天に向かって走るそうだから、その時にあなたの世界と繋がるのかもしれないわね。」

 俺の記憶の中に新潟県で発生した中越地震が思い起こされる。

 あれは確か西暦で2004年、内陸で起こった断層のずれによる直下型地震だった。

 日本と神国の時系列が判らない以上、シンカタで地震が起こるのがいつのことかは判らないが、次元の裂け目が起こるときに地震が発生しているのは間違いがないらしく、メカニズムの究明が成されれば地震を防ぐことができなくても次元が開くことぐらいは止められるかもしれない。

 いずれにしても今すぐに何かが出来るわけではないことは分かった。

 しかし、シンカタで起こるであろう大地震への備えはやっておかなければいけないだろう。

 それからしばらくは雑談と言うか歓談が続き、アマーリエ様が産むお子にまた我が家からお嫁さんをねだられたりとか、夕食に誘われたりと丸一日ここで楽しく過ごすことになった。

 夕食後のお茶の時間に思い出したかのように陛下から新しい情報を頂けた。

 「そうであった、朝の話で思い出したことがあったよ。言い伝えとか噂の類としてしか判らないんだが、預言者がいるそうだ。」

 「預言・・・者、ですか?」

 「ああ、預言者だ。地震の起こる時期を預言し、地震の起こる場所に現れるそうだ。どのような者かは判らないが、それを告げてから間もなく地震が起こり、迷い人が現れるんだそうだよ。

 毎回そうだったか、どのような風体だったか、情報を集めている最中だがそのような話もあるという事だ。参考にもならないかもしれないが忘れないうちに伝えておくよ。」

 「ありがとうございます。参考にさせていただきます。」

 今夜はこれで解散となり、アマーリエ様は楽しかったと大満足の様子だった。

 子供たちも夜まで城に居られ、ゲオルク様と過ごせたことが嬉しかったようだし、ユイなどはすっかり嫁気取りでゲオルク様を顎でこき使っていたのが可笑しかった。

 陛下もアマーリエ様も将来が楽しみだと太鼓判を押して笑っていらした。

 屋敷に戻り、みんなで風呂に入るとユイはたいそうご機嫌で、俺に頭を洗われながら今日の出来事を伝えてくれている。

 カーリオの頭を洗い、クレイオの頭も洗って、睦月の頭を洗う間もみんなが今日の面白かったところを伝えてくれた。

 といっても、カーリオとクレイオは何を言っているのかは良く判らないが。

 聞いていると、どうやらゲオルク様と仲良くできたことが嬉しかったようだ。

 シルファも頭を洗われに俺の上に登ってくる。

 もはやそれが当たり前になっているのだろうが、11歳から何歳までこれをやるつもりだろうか。

 もう何年もしないうちにエライことになりそうなんだが、妻たちはこれをどう考えているのかも一度聞いてみたいと思う。

 泡立てた石鹸をシルファの髪になじませ、全体に泡が回ったところで一度湯を掛けて泡をゆすぐ。

 シルファの髪はツルツルとフワフワ、両方の特徴があり、一度目の洗いは髪に浮いた汚れが吸い込まれないうちに流してしまわないといけない。

 その後で二回目の洗いを行うのだが、二回目はたっぷりの泡を用意して髪の先までしっかりと洗う。強く軋ませないように指で梳くようにしてやると痛くないし、喜ぶ。

 耳の後ろや頭皮はちょっとだけコシコシと細かく洗うとうっとりと目を細め、全身を弛緩させて成すがままになっている。

 俺がいつも気になっているのがシロップだ。

 シルファの洗髪をしているときはいつもこちらを見ている。

 シルファの髪を洗い終わると湯船に行かせ、シロップを呼ぶ。

 「シロップ、お前も洗ってやるからここにおいで。」

 「わ、私ですか?そんな面倒を掛けてもいいのですか?」

 いつも見てるくせに何を遠慮してるんだか。

 「いいからおいで、そのうち湯冷めをしてしまうよ。」

 顔を真っ赤にしながら俺の側に来たシロップはまるで甘えん坊みたいにして俺の膝に頭を載せる。

 椅子に掛けさせて俺の膝に仰向けになると見つめ合う事になる。

 オムネやらなにやら色々とヤバいことになっているのだが、そこは夫婦の特権であるだろう?

 湯をかけ、石鹸の泡を作るとシロップの髪を梳くようにする。

 最初は恥ずかしさで真っ赤になっていたシロップも髪を洗ってもらうという心地よさにうっとりとした表情で「気持ちいいです。」と素直な感想を聞かせてくれる。

 後頭部や耳の後ろを頭を支えながら洗うと、本当に気持ちがいいのだろう目を閉じて吐息を漏らすような呼吸をしているようだ。

 おでこまでくまなく洗って湯を掛けるといつものシロップだ。

 「シロップ、終わったよ。」

 「はぁ、ありがとうございます。とっても気持ち良かったです。あの、またいいでしょうか?」

 「ぷ?毎回かい?子供たちみたいだな。」

 「だって、だって気持ちいいんですよ!?」

 「シロップちゃん、本当?」

 アニエス?なんで「次は私」みたいな感じなのかな?

 次どうぞみたいにシロップが湯船に浸かりに行って、アニエスが椅子に掛けた。

 そのままポテンと俺の膝に頭を乗せると目を閉じて待ってる。

 それをそのまま見つめているといつまでたっても始まらない洗髪に目を開ける。

 「ソウタさん、どうしましたか?」

 それはこっちのセリフだろうに。

 こみ上げる笑いを抑えられなかった。

 「始めるよ。」

 結局妻たち全員が俺の膝に頭を乗せて洗髪をしてもらった。

 アニエスの銀の髪は背中の真ん中まで届くほどの長さがある。石鹸の泡立てる量もそれなりにあり、長いがゆえに毛先まで丁寧にしないと傷み易いはずだ。

 二回の洗髪で堪能したとばかりに如月に俺の膝を譲った。

 如月は照れもせずに俺の膝に頭を預け、さっさとやれと言わんばかりに目を閉じている。

 フワフワと広がる紫のウェーブが掛かった髪も湯を掛けると素直にまとまる。

 その髪にたくさんの泡を含ませて梳くようにはせずに揉みこむようにすると如月の大事にしているウェーブの掛かった髪も喜んでくれているようだ。

 湯をかけ、次の泡で頭皮を洗うと「ふふふ」とその表情が緩む。

 「あなたにこうしてもらうのは格別なモノがあるわね。大事にしてもらえる実感があるのよ。シロップちゃんがいつも見てたのが良く判るわ。」

 「き、如月ちゃん、気づいてたの?」

 「シロップちゃん、みんな気づいていました。」

 フィアに言われてその表情は真っ赤だ。

 「だって、見てるとカーリオも気持ちよさそうでね、うっとりしてるのよ?私だってやってみてもらいたいなぁって思うじゃない。」

 「間違いなかったわね、これをされたらもう、自分で髪を洗うなんてバカバカしくなっちゃうわよ。」

 「はい。クレイオを見ていれば判ります。自分で洗わせるととても嫌がるのにソウタさんの膝の上には飛び乗っていくんですもの。興味はありました。」

 如月にもアニエスにも興味はあったらしい。

 フィアはどうだろうかと目を向けると、爛々と輝く朱金の双眸が早く順番を代われと言ってる。

 「ソウタさん、フィアちゃんが限界のようよ。私は湯船に入るわね。」

 如月も十分に満足したらしく、俺にお礼を言いシロップたちと一緒に湯船に浸かる。

 フィアは満面の笑みと共に俺のうえに上がりこみ、跨ってしまった。

 「おい、それじゃみんなのように洗えないぞ?」

 「そんなんだけじゃ、満足できません!」

 言うが早いか、俺の口にむしゃぶりつく。

 「んが!?んん!ぷはっ、ま、まて!まてまて。やりすぎだ。」

 「いいえ、待てません!」

 いつもなら俺がフィアをもみくちゃにしているところだが、今だけは待たされたフィアにもみくちゃにされてしまった。

 一度無理矢理に絞られてからようやくにもフィアの髪を洗わせてもらえることになった。

 「ソウタさん?背中に何か当たるんですが。」

 おまえのせいだよ!


 妻が四人に娘が五人の洗髪が毎日の予定になるらしい。

 冬は風邪を引きそうで怖いよ。


 風呂も済み、寝室に引き上げると妻たちは娘たちの髪をタオルで拭い、スタッフたちの発明によるヘアドライヤーで髪を乾かしている。

 その間にシルファ、フィア、アニエス、シロップ、如月の順で俺もドライヤーを使って妻たちの髪を乾かして回る。

 シルファとシロップの髪質はとても乾きやすく、フィアとアニエスは長さゆえに時間がかかるのだが、ウェーブが乱れないようにブラシと併用しなければならない如月が一番大変だ。

 如月も睦月の髪にいつも苦戦しており、同じように時間がかかっている。

 俺は美容師ではないが、少なくとも如月よりは上手にできる自信がある。手際よく五人分の髪を始末して、どうにかすると睦月の髪もいじらないといけない。

 如月はさも当然と言う顔で俺にやらせているが、時々睦月の髪型が仕上がると如月からキスを貰える時もある。これは普通に嬉しい。

 毎晩5台のドライヤーが大活躍しているわけであるが、ブレーカーが飛んだりしないのは魔法様様である。

 持ち手に入っている風魔法の魔法石とヒーター部に入っている暖魔石のお蔭でコードレスだからな。

 旅にも5台とも持って行かないといけないくらいに重宝している。

 部屋の灯りの大部分を落とし、随分暗くしたが今日一日が楽しかったからか、子供たちが興奮して休もうとしなかった。

 それでも始めてしまうのは俺の標準仕様だ。

 子供たちも興味があればみているし、眠くなったら勝手に寝てしまっているから気にしてはいない。

 いずれそうしたことも覚えて行かないといけないわけだし、他人から聞いて間違って伝わるよりは自分たちの両親のしていることを見て判断した方が誤解も少ないと思うのだ。

 だから、性教育は毎日行われており、実技の見学は365日無料でできるようになっている。

 質問も受け付けているが、今のところ熱心に勉強しているのはシルファだけだ。

 真っ最中に聞かれても妻たちにも俺にも余裕はないが、他の妻たちがその質問に答えており、あれは何だ?これはどうしてだ?と聞くシルファに誠に懇切丁寧にレクチャーしているのだ。

 もうシルファは耳年増どころか、何からなにまでを理解しているだろう。

 バステト族にしたって成人後は立派な大人として自立して生きてかなきゃいけないし、身体構造は俺たちと全く変わらない。

 耳がネコミミで、良く動く尻尾が可愛いだけで、女性として喜びを得るのはどの種族とも変わらないし、男性のことをよく知っておくことは間違いではないと思う。

 ユイたちに至っては、毎日繰り返されて単なる風景になってしまっているらしい。

 今夜もシルファの勉強は滞りなく済んだようで、妻たちが全員とろけてしまっている。

 フィアが俺の上で眠ってしまうとその横に遠慮がちにやって来て俺の上に乗って休もうとする。

 「シルファ、フィアの横で寝るのがいいのかい?」

 「うん。フィアママが横に居ると安心できるにゃ。でもパパの上に乗るのも一緒になるからかにゃ?」

 「ははは、フィアの横で俺の上なら一番って事か。」

 「そうにゃ、パパの上はあったかい。ママの横はいい匂い。ここだったら全部のママが近くに居てくれるにゃ。だから寂しくないしここに居てもいいにゃ?」

 「自分の一番いい場所を探すのが上手なのがバステト族の特徴だよ。好きなだけシルファの一番いい場所に居たらいいんじゃないか?」

 「パパ・・・ありがとう。」

 よほど眠かったのか、そこまででシルファも「一番いい場所」で眠ってしまったようだ。


 翌朝、朝食が済んで今日の用事を確認するも、人と会う約束は無いようだった。

 アンニさんに頼み、ユンカーさん経由で地質学者などの手配をお願いした。シンカタの地震がいつ起こるかは判らないが、中越地震のように内陸型の地震だった場合、中越沖地震のように沖合の地底で発生した場合などを考慮してシンカタの地質や断層帯などの調査をしたかったのだ。

 活断層を見つけたりするのは難しいだろうが、地層の断裂を把握してそれがずれ始めたり歪み始める前兆を捉えられないかと考えたからだ。

 今日、人と会う約束が無いか確かめたのは、見つけた断層を見張ることができる装置を作りたかったからだ。

 まぁ、今日一日で出来るわけではないが所謂基礎研究だけは済ませておきたかったんだ。

 ひとつは監視装置。

 地盤の歪や動き出しを正確に計測できる常時監視装置だ。

 もう一つは発報装置。

 ずっと人が付き添っているわけにはいかないから、変化を検知した時には自らが知らせてほしいのだ。

 この二つを組み合わせた監視機能を先ずはシンカタに張り巡らし、起こるだろう瞬間を捉えてやりたいと思うし、その時の次元に綻びが発生しないようにその瞬間、その場所に居たいのだ。


 基本的な構造を考える。

 使えそうなこの世界にある様々を吟味する。

 自分で出来そうなものと、誰かを頼らなきゃいけないモノに分けて考え、人にお願いする者に関しては詳しくどうして欲しいという仕様書を作り上げていく。

 そうすることで自分の中でもそれが正しいか確かめられるし、全体が見通せて完成する姿を予想して修正することもできるのだ。

 これから作る物はこれから俺がここに生きていくうえで面倒事を産まないために必要な物になるハズだ。

 神国のあちらこちらに置くことで俺のように迷い込む日本人を防ぐことができる。

 俺は奇跡的にもこの世界で大事なモノを得て、帰る必要もなくなったし、帰りたくもない。

 だが、こちらに来たときはやはり本意ではなかったし、帰りたかったものだ。

 なぜ向こうから人を呼び込む必要があるのか、明確な答えは無い。

 広島の建築家だった人はこちらに来て原爆病が元だろうか、早くに亡くなってしまっている。

 あの中島は持ち込んだ銃器を金に換え、何をするでもなかった。

 石川県から迷い込んだ人は若いとは聞いているが、仏像を作ったりしながら寺院で暮らしているという。

 そう考えると迷い人がこちらに来たからといって、必ずしもエポックメイキングとなっているわけでもなく、何のために呼び込もうとしているのかが判らないのだ。

 そして誰がどのような意思でそうしたいのかも謎だよな。

 俺は本当に稀な部類らしく、陛下にお会いしてこの世界に干渉しまくってるから、エポックをメイキングしてるつもりもないが、大概ではあるかもしれない。

 自覚はあるけど、反省はしてない。そんな感じだろうか。

 だって、成り行きが殆どなんだもん。

 それにしたって迷い込ませた奴にとって理に適っているのか、希望したことなのかも聞かせて欲しかったものだ。

 様々な魔石を机に並べ用途にあったものを探す。

 「ソウタさん、もうすぐお昼になります。」

 フィアが昼食に誘いに来てくれるが、今始めたばっかりじゃなかったか?

 「先に食べててくれる?魔石も出しっぱなしだからさ。」

 フィアが「片づけたら来てくださいね。」と言い置いて食堂へ行ったらしい。

 地震の前兆になる断層のずれを知ることは多分可能だと思う。

 でも、ずっと見てるわけにもいかず、それを知らせてくれるとありがたいのだが、その方法が思いつけない。

 向こうで言うところの無線装置がないんだよな。

 センサーの真似ごとをするために必要なものはそのほとんどが魔石の類で代用できるんだが、遠く離れたところと信号を交わす術がないんだ。

 魔石の特徴をおさらいするように魔力を注いでみたり、起動させたりしていると如月が部屋へと入ってくる。

 「あなた!さっきフィアちゃんが呼びに来たでしょう?もう、みんなお昼を食べちゃったわよ!?」

 プリプリと怒る如月が可愛い。

 「ああ、悪かった。ちょっと問題の解決方法が判らなくてさ。あとで頂くからそのままにしといてくれる?っと、メニューなんだった?」

 「天むすとお漬物。」

 「じゃぁ、冷めても大丈夫か。ありがとうな。」

 如月がプリプリのまま「一緒に食べればいいのに。」と小言を言いつつ部屋を出て行った。

 なんか、妻たちに不評を買っているようだ。時間には気を付けよう。

 昼を食べ忘れたが、午後に入りあれやこれやの魔石に魔力を注入しながら、なんとか離れたところへ信号を伝えられないかと強く魔力を充填してみたり、風魔石を冷やしてみたり。

 今までに知られていない特徴が出てこないかと一つ一つを手に取って様々にトライを行った。

 無線装置は基本的に電波を飛ばして受信する。

 「電波、でんぱ・・・電波。英語でRadio Waveか?伝わる波は光と同じ種類の物で、周波数が様々に違うだけだよな?」

 光魔石を手に取り、魔力を注ぎ入れても光るだけ。

 柔らかな明かりが灯り、強く魔力を注いでも明るくはなるが、白くなった瞬間に砕ける。

 パリンと軽快な音を立てて魔石が砕けてしまう。

 何個かの光魔石が砕け、テーブルの上に砂の小山が出来上がったころにシロップとアニエスが夕食だと呼びに来た。

 有無も言わさず、俺の耳をシロップが引っ張り、俺の手をアニエスが引っ張って強制連行される。

 「お仕事も大事ですが、根を詰めすぎです。フィアちゃんや如月ちゃんもとっても怒ってますよ?」

 「うぇ!?もうそんな時間なのか。ってか、シロップ痛いよ!」

 「ソウタさんが悪いんですよ?お昼の天むすも放っておかれて、調理師の皆さんにも失礼じゃないですか。」

 アニエスもきっちり怒っているようで、容赦がない。

 「わわ!待てって。」

 「知りません。」

 シロップも我慢していたのか俺の話を聞いてくれない。

 カーリオとクレイオがついてきており、「パパ、わるぅぃ!」と叱られてしまった。

 廊下に連れ出されると確かに日が暮れてしまっており、辺りはすっかり夜の様子だ。


 食堂へ着くと、すべからく叱られ、「ほどほどに。」とフィアにもう一度念を押されてしまった。

 「放っておいたら、私が食事を貰えずに餓死してしまうかもしれません。」

 フィアの食事と違って、自由に食べられる調理師二人の力作を前にそう言われると、頭を掻くしかない。

 「あ~、みんなごめんな。」

仕事に夢中になるときってあります。それで家族が上手くいかないなんて、なんのために仕事してるんだかって事です。

会社が一番大事なのは社長さんだけでたくさんですよね。従業員は家族の方が大事なんです。

「仕事の鬼になれ!」なんて言われても「ごめんなさい。ムリです。」です。

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