【第94話】三つの結婚式
GW企画四日目の投稿をさせていただきます。
本日もお読みくださって、ありがとうございます。
好天は今日までらしく、明日から数日は家の中のようですよ。外出の予定は本日中ですね。
慌ただしくシゲさんとシノブさんの結婚式の準備が進められ、あっという間に一週間が過ぎて行った。
そして式の当日までマチルダさんにこき使われて式場の準備に余念がなかった。
式場になる食堂の魔力灯の交換や高所のすす払いなどをこなし、披露宴の料理を手伝い、館の主とは思えないほどに働かされた。
そうこうする内に教会の神父さんも到着され、ゴーランド公爵もナノハさんを伴って待合室に入られた。
ナノハさんはもう、興味津々と言った表情で館中を散策しており、ハルシゲさんやキヨシゲさんを引きずり回していたが、それぞれに仕えるメイドなどが付いてくることさえも驚いていたようだ。
そしてやはり護衛も連れずに現れる陛下とご家族。
ゴーランド公爵も驚いていたが、ナノハさんの驚きようは大変なものだった。
「あわわわ、親王陛下でいらっしゃいますか?」
待合室でかちあったナノハさんは俺が連れてきた貴族は誰なんだという表情だったので、「陛下もご出席になられますので、もう少しだけここでお待ちいただきます。」と伝えた。
ひれ伏すナノハさんにも気軽に声を掛けていらっしゃるお妃さまなども綺麗に着飾っておられ、ゴーランド公爵とエイゾに派遣しているシシオご夫妻の話などをしておられた。
陛下から招聘に応えてくれたことに関する礼も述べられ、フィアがユイを連れてきたことで待合室が楽しげな雰囲気になった。
フィアたちの準備も済んでいるようで間もなく式となるだろう。
メイドたちの献身的な準備もあり、完璧な式となった。
新婦入場の際によくぞあの胸が収まるドレスがあったものだと感心してしまったが、俺が父親役のような役割でシノブさんを引率し、シゲさんの所までエスコートした。
この際にシルファは新婦のドレスから伸びるベールを持ち、立派に役割を果たしていた。
新婦とお揃いのような綺麗なドレスに身を包み、すました顔で俺たちの後ろをついてきたものだ。
すまし顔に似合わずネコミミが忙しそうにあちらこちらの音を拾っているのか動き回っているのは誠に可愛い。
シロップやアニエスが心配そうに見ていたが、フィアはすっかり母親の目で微笑ましそうにシルファの仕事を見守っていた。
披露宴も良かったが、陛下の来た理由が判った。
また我が家の料理が食べたかったのだろう。次々と運ばれる繊細な料理や美しい飾り付けをとても楽しんでおられた。
友人代表でもないが、ゴーランド公爵から挨拶もあり、最後は陛下からのお礼の言葉もあり、とてもいい結婚式と披露宴だった。
式の間中ユイとゲオルク皇太子は楽しそうに遊んでいるだけだったが、フィアとアマーリエ様が食事に集中させるのにとても苦労しているのは、子育てママの共通の苦労するポイントらしく、二人の話も弾んでいたようでこれも良かった。
シゲさんとシノブさんは俺たちの最初の馬車を借り受け、新婚旅行へと旅立ったのは式の翌日のことだった。
俺から祝い金を渡し、近い場所ながら景勝地を巡るようなコースをたどる旅行をプレゼントしたのだ。二人っきりでというのもいい物だろうと思う。
一週間の休養と旅を満喫して戻った二人の生活も落ち着いてきたころにメインイベントが始まった。
また俺はマチルダさんに屋敷中の高所に登らされ、半月ほど前にやった作業をまたやらされていた。
アンニさんはユンカーさんの準備したお屋敷に住むようになり、シゲさんたちの結婚式ぐらいから通って屋敷に勤めるようになっていた。
夕方の7時ごろには勤務を終え、子爵家が手配した馬車に乗って帰っていく。
翌朝はユンカーさんと共に出勤し、7時ごろに屋敷へと到着する感じになっている。
ユンカーさんがそのまま城へと登城し、それぞれが夕刻までそれぞれの主に仕える勤務形態となっている。
陛下の方でも時間管理をなさっているようで、毎日夕方の同じ時間に迎えが来る辺りも大したものだ。こちらの要望通りになっている。
俺もこれがあるからと、午後7時を超える時間になるような城での打ち合わせなどはしないようになり、お二人の生活を応援しているような形だ。
アンニさんの帰った後を任されるようになったマチルダさんは、全く普段と変わりなく脚立を持って屋敷を闊歩している。
最近は俺が上らなくてもシルファも高いところが得意なようで重宝しているという。
簡単な作業だと俺ではなくシルファを探すようになっているらしい。
この間は作業着としてシルファにもメイド服を支給したために、長年見たかったネコミミメイドを拝むことができた。
白いエプロンとヘッドドレスも気に入ったと言い、それからは他所に行かない場合はメイド服をよく着ているようだ。
幼女組とも最近仲良くなったらしく、6人でいる姿を見ることもよくある。
アリエッタに聞くと、一応は俺の娘だからと他のみんなも気を使ってくれていると聞き、世話になるとお礼を言っておいた。お礼の品は5人それぞれに唐揚げ10個券を10枚綴りにしたモノだったのだが、めちゃめちゃに喜んでもらえた。
シルファにしても日がな無為に過ごすことが無くなり、とても喜んでいるようだ。
ちょっとだけ自立した娘を微笑ましく思うよ。
専門的な部分についてはアニエスママとシロップママが教えてくれるとシルファは意外にも真剣に取り組んでいるようだった。
様々なことを聞きに来るとアニエスが褒めていた。
式の当日は結構大変だった。
陛下たちがいらっしゃるのももちろんだが、ユンカーさんのご実家からもいらっしゃるし、アンニさんのご実家からもご両親がおいでになり、初めてお会いする60過ぎのご両親二人にとても感謝された。
陛下が待合室に入られると両家のことごとくが緊張に包まれたが、またフィアがユイを連れてきたことで幼稚園の遊戯室のような雰囲気となり、楽しく待ってもらう事ができたと聞いた。
俺は参加者が多いことから、厨房に入って式の前にできる調理を全力で手伝っていた。
時間も迫り、神父さんのごあいさつで式が始まるとユンカーさんが祭壇に進み出て、アンニさんが入場するのを待つ。
ご両親がいらっしゃるにも関わらず、地位と言うか立場上の都合で俺がまた新郎の所まで新婦をエスコートすることになった。
見たことのないほどに美しいドレスで着飾ったアンニさんに「綺麗ですよ。」と告げると真っ赤になってしまったが、それも記念すべきレアな表情だ。
再びのシルファによるベールガールも一度経験したからか、堂に入っており、すまし顔も耳がキョロキョロして台無しにすることは無かった。今日のドレスも純白で可愛い。
また新調しているなんて思っていなかったが、妻たちの誰かが力を入れているのだろう。
神妙で華やかな曲に導かれて新婦がバージンロードを進む間に想いがこみ上げてきたのだろうかアンニさんは既に美しい涙を流しており、俺のエスコートでユンカーさんの元へとたどり着くと小さな声で「ありがとうございます。」と告げてくれた。
俺も「嬉しいですよ。」そう伝えると今までに見たこともないほどに華やかで美しい笑顔を見せてくれた。
シルファがベールを整えるのを待ち、シルファと二人で手をつないで下がると、神父さんの言葉が始まり、誓いの言葉を交わしたユンカーさんとアンニさんが誰もが羨むようなキスを見せてくれた。
照明がスポットで当たっており、参加者の方は明るくはないのだが参加したメイドたちの中にも涙を流している者が多かったのが見えた。
自分たちの将来を重ねてみてくれているのならいつかここで同じように式を挙げてくれるだろうか。
精いっぱいのおもてなしをしてやりたいと思うよ。
俺の勧めでユンカーさんの用意した結婚指輪を二人が交換し、互いの指にはめると一層盛り上がる。
もう、アンニさんはグシャグシャに泣いてしまってえらいことになっているが、そうなることを予感していたのかナチュラルメイクに抑えていたからなのだろうが、マスカラが流れたりせずに美しい涙になっていたのが印象的だった。
打って変わって披露宴はとても楽しい物になった。
挨拶にとメイドたちが次から次へと暴露話をするモノだから、アンニさんの絶叫が聞けて可笑しいと言ったらなかった。
陛下たちもそれがおかしいと大層喜ばれ、式の途中だというのに陛下とアマーリエ様がが壇上に登られてどうしたのかと皆が注目したところでユンカーさんの暴露話を始めるものだから、陛下への声援も飛び出し、陛下やお妃様がノリノリでユンカーさんをおもちゃにしている。
話していらっしゃるのが陛下とお妃様と言うまさに異色のコンビであったことから、暴露大会が終わるとものすごい拍手が送られ、陛下のガッツポーズなどがみられるとは思いもしなかったものだ。
やってやった感満載で席へと戻られる陛下とお妃様に惜しみない拍手が送られ、ユンカーさんは顔面蒼白で開いた口が塞がらなくなっていた。
とても楽しかった時間はあっという間に過ぎ、最後の言葉をまた陛下から頂き、たくさんの思い出ができたように思う。
二人はユンカーさん自身の用意した新婚旅行へとその日のうちに旅立ち、約一週間の睦まじい旅へと出かけて行った。
翌朝には教会へお礼に行くと妻たちを準備させ、準備しておいた寄付金などを持ち、娘たちと馬車に揺られて近いながらも移動した。
実はフィアとシロップとアニエスには予めサプライズを伝えてあり、知らないのは如月だけだ。
教会に着くと何故だか如月だけが職員たちに連れられて控室へと移動する。
何のことか判っていない如月が成すがままに連れ去られ、俺も同じように控室へと着替えに向かう。
寄ってたかって女性職員に着付けられ、ウェディングドレスを纏った如月が訳が分からないという表情でバージンロードに乗せられていた。
俺はもう、祭壇の側に立ち、如月がやって来るのを待っている状態だ。
事ここに至っては、さすがの如月でも事情が判ったらしく、その大きな瞳から涙があふれ出しており、頬を伝っていた。
昨日我が家に来ていた神国教会最高司祭の神父が楽しそうに如月の手を引いており、バージンロードを歩む如月をエスコートしている。
横から入ってきたシルファが三度目のベールガールを勤めてくれ、如月が俺の妻になることを手伝ってくれている。
神父自らがエスコートするなんてことは普通は無いのだろうが、俺の所までやって来た如月は間違いなく最高に美しかった。
「やっぱり如月は最高に綺麗だな。」
「バカ。」
一言だけの賛辞をくれる如月の隣に立ち、神父からの宣誓を受ける。
「健やかなるときも病める時もソウタ=ヤマノベは妻を愛し、これを慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「如月=ヤマノベ、あなたは健やかなるときも病める時も夫を愛し、これを慈しむことを誓いますか?」
「はい、もちろん誓います。」
「それでは誓いのキスを。」
「如月、お前とだけ式を挙げてないのは俺が納得できない。今更って言わないでくれよ。それと、これからもよろしく頼むな。」
「当たり前よ。でも、こんなこと、嬉しいわ。ありがとう。」
如月の頤に手を添えて上を向かせ、俺の両手で如月の頬を包み込んでから心からの口づけをさせてもらった。
俺たちのキスシーンを被りつきから見ているほかの嫁たちがはやし立て、「もう一回!」コールをしている。
俺がそれに答えて如月を思い切り抱きしめて抱え上げると、ディープキスを始める。
「んん?んんん!んんんんん!?」
足が地面から離れてしまい、成すがままになっている如月は俺の舌に蹂躙され、恥ずかしさと何かが混ざり合って赤面したままえらいことになったようだ。
「ぷはぁ、もう!なんてことするのよ。ここは教会なのよ?ほどほどにして頂戴。っていうかおろしなさいよ!?」
「か、かわいい!」
照れる如月が可愛すぎて離すどころかもう一度キスしてやることになった。
神聖なる神の前で行われた破廉恥極まる愛情表現に、神父が可笑しいと笑い出し、聖歌隊がはやし立てるものだからここも俺や陛下に毒されて、堅苦しいだけの場所ではなくなっているのだろう。
照れにてれて泣き出してしまった如月を本当に自分のモノにできたんだと実感をしつつ、ゆっくりと降ろしてから、振り返ると睦月が指輪を一つ載せた小さなケースを持って、ユイに連れられて来てくれた。
「如月、待たせて悪かったよ。受け取ってくれるかな。」
フィアとアニエスとシロップが薬指にはめている指輪と同じ、ダイヤモンドの嵌った結婚指輪を細い如月の薬指に通してみる。
今まで如月だけが指輪をつけていなかったが、如月はそれを一言も口に出したことは無い。
が、それがあってか事あるごとに遠慮をし、先にあったように泣いて見せたりもしていたのだ。
俺が指輪を贈りたくなかったのではなく、こうした式の時にこそ贈りたかったというつまらない理由なのだったが。
息がしづらくなるほどに感極まった如月は嗚咽のような、しゃくりあげるような泣き方になって俺にしがみついてくる。
たとえ1000年を生きてきていても、幸せをかみしめる時はただの女の子だったのだろう。
わんわんとなく如月を抱きしめ、髪を撫でるとフィアたちも当たり前のように泣いてくれていた。
神父さんが如月と俺の肩に手を掛け、嬉しそうに宣言してくれた。
「今日の佳き日に二人が永遠の愛を誓いました。ヤマノベ家に幸が続くことを神も祝福するでしょう。」
教会からの帰り道、如月は着替えたくないと駄々をこねてウェディングドレスのまま帰ることになった。
睦月を抱いて御者席の隣に腰掛けるものだから、もうさらし者である。
貴族街を歩く執事やメイドたちは華やかな馬車を見て笑顔を贈ってくれ、すれ違った貴族の乗った馬車は車を止めて挨拶や祝福の言葉をくれたのだった。
その一つ一つに如月は余裕を持って応えながら、恥ずかしさも見せていた。
「私、指輪のことはずっと不思議だったの。みんなが着けてて私が着けてない意味って何だろうってね。
そしたらソウタさんが式じゃなきゃ渡せないって。
何だかこれまで悩んでたのがバカみたいでね、遠慮してて損しちゃったわ。」
「本当にごめんな。準備はずっと前からしてあったんだ。フィアたちにも早く渡せって何度も叱られたんだけど、いいタイミングが欲しくてさ。
自分が格好つけるだけで如月に遠慮させてたって思うと本当にすまなかったよ。」
「いいの。これまでもみんなと一緒に愛してもらえてたから。睦月も居たし、ソウタさんが指輪が無いくらいで私だけ別扱いするなんて思っても居なかったしね。
指輪が準備されてたって知って、全部許せちゃったわ。私も元々あなたのお嫁さんだったって判ったから。」
「うん。最初から俺の妻だった。」
如月は今までで最高の微笑みをくれた。
四人の妻全員の薬指には俺の贈った指輪が揃ったことになる。
フィアの指輪には稲穂とカスミ草がミスリルで円を描くように彫金され、中央にダイヤが嵌っている。
最初に出会った収穫の時期を忘れないようにだ。
シロップの指輪にはヒマワリの花が太陽を向くようにデザインされた意匠の中央にダイヤが嵌っていて、俺がシロップに抱くイメージそのままを形にしたモノだ。
アニエスの指輪はシンデレラのガラスの靴のリボンの位置にダイヤが嵌り、いつか聞かせたシンデレラの話をうっとりと聞いていた姫様に合わせた意匠となっている。
そして今回如月に用意した指輪はラベンダーと桔梗の花をデザインしたもので、奥ゆかしさや如月の髪の色をモチーフにした花で飾った台座にダイヤが嵌っているものだ。
どれも普段着けたままでいられるように突起物やカドがないように苦労したので、三人もいつも着けていてくれる。
婚約指輪にデカいダイヤが付いていればそれは普段使いもできない物だが、結婚指輪としてつけっぱなしにして欲しかったので、苦労したのだ。
指輪の本体もミスリルで造られており、磨き上げられた表面はおいそれと傷のつくような材質でもない。
それが証拠にあの大剣を振るうフィアの指輪でも、手のひら側になる指輪に一筋だって傷はついていない。それどころか、大剣の柄に巻かれた滑り止めの革が薬指の部分だけ擦り切れて地金が出ており、そちらが擦られた傷になっている位だ。
ダイヤも四つともプロポーションが3EXと言う原石からの切り出し状態と、研磨状態、相対性の全てがエクストラクラス。
ものすごい苦労したカットと研磨で、キューピットアロー(天使の矢)が表面にハッキリと8本見え、裏側からはハートマークが8個浮き上がって見える。
カラーグレードがD(完全無色)という最高品質。
クラリティーが通常市販品で手に入る最高品質と言われるVVS-1クラスを二つ上回るFLクラス。
顕微鏡で拡大しても表面に傷が無く、内包物が見えないという日本でだって、入手さえも困難な品質のモノだ。
そして重量だが、四つともが0.2gある。つまりは1ct。モノサシで図る大きさはカラットとはあまり関係はないものの、通常で言われるブリリアントカットの形状で直径が約6.5mmなので、みんなの細い指に載るとかなりデカい。
所謂4Cと言われるダイヤモンドの価値を決める部分のすべてに最高を求めた結果、台座もシルバーやプラチナのようなどこにでもあるような安い物が使えなくなってしまって、彫金するのも難しい様なミスリルを用いることになってしまったのだった。
まぁ、ほとんど自分の意地の様なモノなのだが、「恒久不変」一生涯に渡って俺の気持ちが変わらないと言い切るためだけに用意したようなものだ。
アマーリエ様が俺たちの結婚式の後に陛下におねだりして買っていただいた指輪も実は大層な代物だが、フィアたちが普段から着けているその指輪は陛下にも決して言えないが、アマーリエ様の指輪だったら100個でも200個でも買えるような価値がそれぞれの指に無造作に嵌っていることになるんだよ。
そのこと自身はフィアたちも知らない。
旅の間にシロップやアニエスが調理の時も洗濯の時も嵌めているその指輪。
フィアが戦闘の時に大剣と共に振り下ろしている指輪。
今日、如月の指に嵌り、睦月の体を洗うときに嵌められたままであろう指輪のすべてが日本で買うとしたら宝飾品を扱うお店にも店頭には怖くて置けない金額になる。
うん億円の札束をその指輪一つに五山から十山は用意しないと多分買えないであろう。
台座の金属を加工するのも、ダイヤの原石を掘り出すのも、それ以降の作業の全ても。
全部俺がやったのを三人の妻たちは見ているので、「手作りで嬉しい!」ぐらいの感想しか持っていなかったのだが、今日それを指に嵌めた如月はその指輪を嬉しそうに眺め、そのうち偉く真剣なまなざしで眺めるようになり、今は変な汗を流しながらまだ指輪を睨みつけている。
そう、如月も生まれる時はミスリルと和鋼から鍛えられ、ダイヤモンドと同じ産出された大地の一部から成った体を持つが故だろうか、指輪の価値に気が付いてしまったらしい。
「あ、あっ、あなたこれ!?」
「如月ちゃん?どしたのですか。」
屋敷に戻り、俺たちの部屋までウェディングドレスのまま帰ってきた如月は、アニエスに淹れてもらった紅茶を飲んで寛いでいる俺の横で椅子に腰かけ、指輪を眺めて喜んでいたのだが、プルプルと恐怖におびえるように震えだしていた。
フィアがそれを見て訝しんだわけだが、真実については如月と俺にしか判っていないだろう。
「ちょ?み、みんなの指輪、見せてもらっていいかしら?」
シロップが何のことかと疑問を浮かべた表情のまま左手を差し出し、如月がその手を取ると微に入り、細に入りシロップの指輪を眺めはじめた。
自分の指輪と見比べたりアニエスの左手を強引にとってまた比べてみたり。最後にはフィアの指輪も覗き込むように見てため息をついている。
「なんですか?如月ちゃんの指輪に問題でもありましたか?」
フィアがものすごく怪訝そうな表情のまま、如月の左手を取り、自分の指輪と如月の指輪を見比べて、結果、「判んない」という表情をする。
「如月ちゃんの指輪もソウタさんの手作りで立派ですよ?」
「はぁ?それだけ??」
如月の声が裏返っていた。
俺はそれが面白いという表情のままで如月の頭を撫でてやる。
「あなたって、本当にとんでもないことをするのね。みんなこの指輪の価値を全く判ってないじゃない。いいの?」
「ああ、それでいいんだよ。いつも着けてくれるものだから丈夫にしただけだよ。」
「はぁ。」と何とも言えない呆れを含んだため息をつかれてしまった。
アニエスだけは何となく言わんとすることが伝わったらしく、自分の指で盛大に輝いている指輪を見ながら「これってもしかして高価なものなんですか?」と感想を述べている。
「高価で済んだらいいわね。」
そう呟く如月の言葉を聞いてシロップがビックリした表情をする。
「だって、いつも着けていてほしいってソウタさんは言いましたよ?」
「そうよね、この人だったらそのぐらい言うわよね。」
アニエスも如月の雰囲気に変な汗をかき始めてる。
「ええ?もっと大事にしないといけなかったんでしょうか?」
「いえ違うわ、こう言う風にして欲しかったからこんな造りにしたんでしょうね。」
フィアは全然わかってないようだった。
「でも、いつも着けたままですけど、綺麗なままですよ?」
「ええ、判ってるわ。私だから判ったことよ。いい?この指輪ひとつあればこのお屋敷なんて幾つだって買えちゃうわよ。陛下のお暮しになっているセントラルキャッスルだってこの指輪一つで三つも四つも買う事ができるでしょうね。」
「ふええ?ど、どうしてです?」
狼狽したシロップが自分の左手を右手で捧げ持ってる。
「シロップ、今まで通りで良いんだ。そうしてもらうために作ったものだし、いつも最高でいて欲しいという俺の願いが籠ってる。如月、これまで通りで良いんだよ。この指輪は俺がみんなに対して思ってる気持ちが籠ってることの方が大事なんであって、その価値がどうこうって言うのはほとんど意味がない。
だから今まで通り、普段から着けてそのまま使ってくれたらいいんだ。」
「やっぱりそう言うと思ったわ。」
「知りませんでした。でも、なぜそのような貴重なものを無造作にも渡されたのですか?」
アニエスも心配そうな表情をしている。
「勘違いしないでほしいんだが、俺の妻であることを判りやすくするのは俺と一緒の指輪をいつも着けていてくれることだよ。ダイヤモンドは永久に傷つくことはなく、ミスリルは何者からも傷つけられない。
つまりは普段どんな風にしていても綺麗なままだろ?俺の妻は俺が思う最高の女性だからね。いつまでもどんな時でも綺麗で強く居てくれるお前たちにはこんなものの方が似合うんだよ。
ずっと一緒に居られるように、ずっと今のままでいられるようにね。最高な嫁には最高に似合う指輪だってだけだよ。」
「じゃぁ、いいじゃないですか。ソウタさんがくださって、いつも着けていてほしいって言ってくださったんだから、いいんですよ。」
「うん。フィアの言うとおりだ。価値なんて誰かが決めることで、俺がみんなにどうして欲しくてこれを贈ったのか判ってもらっていればいいんだよ。
如月だってこれをお金に変えてセントラルキャッスルをいくつも作りたいわけじゃないんだろう?」
「あたりまえよ!そんなこと考える訳ないじゃない。」
「そう、だからいつも着けてくれても傷がついたりしないようにしただけで、価値があるとかそんなのはどうでもいいんだ。」
「何度も言うけど、本当にあなたって桁違いよね。」
「三つか四つぐらい桁が違ってるか?」
「何言ってるのよ、天文学的に桁が違うわよ。アマーリエ様には絶対にこの指輪のことは言えないわよ。陛下が叱られちゃうわ。」
「ひやっ?本当ですか?」
「さっきもそう言ったじゃない。みんな絶対にアマーリエ様の指輪を見ちゃダメよ!?」
「そ、そんなこと出来るでしょうか?絶対見ちゃいます。」
「う~ん、じゃあアマーリエ様の指輪もこれで造ろうか?」
「それはだめです!」
「いやです。」
「だめに決まってます!」
「必要ないわ!」
女心は俺には判らないよ。
陛下の用意したお妃様の指輪の200個分。FLクラスのダイヤモンドなんて確かに店頭で見たことはありません。
クレイオやカーリオのおしめを取り換える時にそれが汚れたりすると面白いなぁ。くらいのつもりでした。
女性のしたたかさ?ソウタはみんなが困ると言うからお妃様にも指輪を作ろうかと、何気ないつもりだったのでしょうが瞬殺されてしまいましたね。




