【第91話】ネコミミの少女
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
GW始まりましたね。はりきってまいりましょー!
ダイタクヤの俺の館に入り、三日が経った。
屋敷の中の雰囲気は驚くほどに変わり、言葉遣いも気安くなっている。
毎晩俺の作る夕食を楽しみにしてくれており、何が好きだったとか旨かったとか、盛んに話しかけてくる。
調理師たちもかなりの部分を学び取ってくれたらしく、手際よく手伝ってくれるようになってきて頼もしい限りだ。
食材のあしらい方や味の付け方など、こっちとは違うことが判ったらしく楽しそうに更なる味の追及に余念がない。
俺の味をトサンでも味わえるとなれば、また友好関係を広げる役に立ってくれるかもしれない。
子爵様に明日にはここを発つことを告げて妻たちにも準備をさせた。
メイドたちはたいそう残念がったが、次を楽しみにしてくれと言うと全員がいい返事をくれる。
妻たちもここの広いベットが気に入ったようだったが、トウトを空け放しておくわけにもいかないし、フィアの里の手入れもしておきたい。
翌日からフィアの里に行く予定を告げ、それぞれに肉体労働を期待してくれと言うと、意外にも喜んでもらえた。
Mなのか?そう思ったものだったが、自分たちの屋敷の立つ場所が雑草に埋もれるのを看過できないらしい。
翌朝、皆に見送られながら新しい屋敷を出発した。
いい天気ではあるが、少し暑いようだ。
ダイハンで銃器を取り締まっている間に梅雨も明け、暑い季節がやってきて、それも随分と経ったのだが、9月と言えどもまだ暑い日が続いている。
フィアの里は標高が高い訳ではないが、一級河川がすぐ谷の底を流れているために他と比べて幾分かマシなようだ。
昼過ぎには里にたどり着き、どれだけの雑草が生えているだろうかと覚悟を決めていたのだが、実際にはそれほどでもなかった。
確かに結構な雑草が生えてはいるが、南側の斜面が結構伸びているだけでそのほかの斜面には多くは無かったのだ。ホッとする部分もあるが、あとは家が無事なら100点だ。
フィアたちが家を確かめに行っており、俺たちは絶賛草むしり中である。
まぁ、扉の施錠は壊れていなかったので埃の具合だけ心配すればいいのだろうが。
「ソウタさん!」
家の二階の窓を開け放し、アニエスが大声で俺を呼ぶ。
何かあったのかと慌てて走ると、入り口ではシロップが心配そうな顔をしているのだ。
「シロップ!みんな無事なのか?」
「はい、無事は無事なんですけど、二階の方が結構大変ですよ。」
二階がどうだというのかは判らないが、誰にも怪我などはないようだ。とは言うモノの、アニエスに呼ばれてシロップも少なからずの動揺を見せているんだから、何かあったのは間違いない。
一階に居たのはシロップだけで、フィアとアニエスと如月は二階にいるようだ。
その二階に何があったかは俺が三段抜かしで階段を駆け上がり確かめる。
二階に上がり、見る限りでは何事もないようだが、廊下には誰もいない。手前の部屋から扉をちぎる勢いで開け放し、中を確かめるものの一番手前のご両親の部屋には誰もいなかった。
その一つ隣、クローゼットのような両方から出入りできる衣裳部屋に入るも不発。
いよいよの一番奥。フィアの部屋だったところへ飛び込んだ。
「みんな大丈夫か!?」
「「「しーっ!静かにしてください。」」」
あきらかに、それってりふじんですよね?
扉を開けて身を乗り出した姿勢で固まってしまった俺は、とりあえず三人の無事を確認した。
フィアはベットの側で膝をついて布団を覗き込んでいる。
アニエスは俺を呼ぶために開けた木製の窓を閉じようとしている。
如月はフィアの肩に手をついてフィアと一緒にベットを覗き込んでいる。
そして四人の娘たちはベットの上に上がりこみ、フィアたちと同じようにベットの枕の辺りを覗き込むために集合しているのだ。
全員が一点に集中しているのは見ているだけで可愛いのだが、いったい何を見ているのか?
静かにしろと叱られたことをちゃんと覚えている賢い俺は、そろそろとベットへと近づいた。
フィアの肩に手を突く如月の腰に手をついてベットを覗き込む。
9月の残暑厳しき折、いかがお過ごしでしょうか。そう言いたくなるほどに暑いのに、布団を被り潜り込んで寝ている者がいるようだ。
って、戸締りしてあったのに誰がどうやって入ったんだ?
「ソウタさん、アニエスちゃんが開けた窓に鍵がかかっていませんでした。きっとここから入れたのでしょう。」
そうは言うが、ここは二階の窓。しかも、屋根伝いに入れる場所の窓ではなく、小屋根もない壁側の窓なのだが。
そして布団からはみ出ているネコミミ。
カチューシャでもはめてるのか?濃い紺色の髪の上に同じ色のネコミミが見える。
耳の内側にはシルバーともグレイとも取れる色合いの毛が生えており、実物のネコミミを忠実に再現しているようだ。
布団の上に登っている娘たちに圧迫されているだろうに、全く動じることもなく熟睡中らしい。
「誰なんでしょう。」
後から追いついたシロップが俺のお尻に掴まりながら覗き込んでいる。
シロップの声に反応したようにぴくぴくとネコミミが動いた。
ものすごくリアルだ。
動く仕組みが知りたいと、思わず如月の腰から手を離して耳を摘まんでしまった。
「ミギャー!」
猫のような怒った声が響き、布団から何かが飛び出してきた。
耳を摘まんだ右手はそのまま反対の手で布団から転がったカーリオとクレイオを支える。
睦月とユイは背中からうしろに転んだだけで、ベットの上だから何ともない。驚いた表情をしてはいるがそれだけだ。
そして、布団から飛び出した猫は本が3冊並んでいるだけの作り付けの飾り棚に飛び退いたようだ。
2mを跳躍したその猫を全員が目で追ったが、背中を丸めて威嚇する猫はネコではなかった。
小学1年生くらいに見える女の子が緊張した表情で俺を睨んでおり、油断のない様子を見せている。
バステト族なのだろう、太いまっすぐな尻尾と頭の上にある立派なネコミミは本物なのだろうな。
俺たち全員があっけに取られていると、背中を丸めたままのバステト族の少女はほんの少しばかり驚きが収まったらしく、冷静な視線で俺たちを観察している。
「あんたたちは誰ニャ?」
”にゃ!”がでた。
「にゃ、キター!!!」
俺が破顔して喜びをあらわにすると、妻たちに睨まれ、バステト族の少女にも睨まれた。
カーリオとクレイオは、俺の話を聞いてか、「ニャ!ニャ!」と真似を始めているが、録画しておきたいほどの可愛さを振り撒いている。
瞬時に事の本筋を忘れてカーリオとクレイオの手を取り、一緒に「ニャんだよ。ニャんて言ってみて」
「ニャん?ニャ、にゃん。」二人が俺のリクエストに応えてくれるものだから、涎が出そうになる。可愛い。
「フィアもニャん、って言ってみて?」
「ソウタさん、二人が可愛いのは判りましたが、私までそれを言わないといけませんか?」
久しぶりにフィアに半眼で睨まれた。
そうだった、少女のことを忘れていた。
「い、いや、それは今晩にでも。」
頭を掻きつつ誤魔化しながらバステト族の少女の方へと向き直った。
「あ~、ごめんな。なんにもしないから落ち着いて聞いてほしいんだが、先ずは自己紹介をするよ。
このうちの持ち主でソウタ=ヤマノベと言う。こっちは俺の妻でフィアだ。こっちも俺の妻でシロップ。窓のところに居るのも俺の妻でアニエスだ。この子も俺の妻で如月と言う。
細かいのはそれぞれの娘で、俺の可愛いユイと、睦月とカーリオとクレイオだよ。」
俺たちが何もしそうにないのは判ってくれたようで、本棚からゆっくりと降りてきた少女は一歩だけ近づいて来てくれた。
「ここはお前たちの家だったのか?こんなに家族が居るのに狭い家だな。」
余計なお世話だと言いたいところだが、せっかく縮まりそうな距離を再び開けてしまうのも頂けないな。
「ああ、元々はフィアの生まれた家でね。フィアと一緒に暮らすだけの家になるハズだったんだよ。
でも見てくれよ。こんなに可愛い嫁さんが他にも増えてさ、それぞれにこんなに可愛い娘も産んでくれただろ?だから部屋とかをもっと増やす予定にしてたんだ。
いつもここに居るわけじゃなくて、ちっとも工事できてないんだけどさ。」
「ふぅん。じゃあさ、悪かったよ。って言ったら許してくれるだろ?」
そう言ってぺこっと頭を下げた少女は俺の様子を探るように見ている。
「許すなんて、そんな偉そうなこと。部屋だって大事に使ってくれてたじゃないか、鍵をかけ忘れたのは俺なんだし、君はそれで助かったんだろう?
俺たちの家が役に立って良かったよ。」
良かったと言われたのが余程心外だったのだろう、ぽかんとして俺たちのことを見回している。
俺の言ったことに誰も異議が無いらしく、妻たちも「良かったね。」なんて言ってるし、フィアも微笑んで頷いてくれた。
「おれさ、バステト族なんだ。」
「うん。見たらわかるよ。」
「怒ったり、追い出したりしないのか?」
「なぜそんなことをする必要がある?こうして会話もできてるし、互いの距離も近づいた。それが悪いことじゃないと俺たちは思っているんだが、君はそうじゃないのかい?」
「あなた、あなただからバステト族の少女を見てもそう言う態度なのよ。他の人が見たらそうじゃないのにってこの子は言ってるのよ。
お嬢ちゃん、他の人はあなたに酷いことをしたのね。
でも、この人はどうしてしないのか?不思議だったんでしょう。この人の大事なお友達にライカン族のご夫婦もいるわよ。
フィアちゃんも人ではなくサキュバスなの。私も聖霊族よ。
この人は種族なんて全く気にしないし、あなたにだって酷いことなんてしないわよ。」
そう言う事か。
この子は人種でないばかりに迫害を受けたこともあったのだろう。
「そ、そうか。疑って悪かったな。おれはシルファって言う。本当に勝手に家に上がりこんで悪かった。じゃあ、これで行くからさ。」
「どこに行くんだよ。今まで寝てたんじゃなかったのか?行く宛があるのか?」
「いや、だってうちの持ち主が帰ってきたのに居られないじゃないか。」
困惑の表情を見せるシルファだが、確かめたいこともあるしご飯ぐらい食べて行けばいいのにと思った。
窓際に居たアニエスがシルファに語り掛ける。
「シルファちゃん、ソウタさんはお話がしたいのよ。多分だけれど美味しい物を作ってくれるわ。もう、お昼も過ぎてるから私たちもお腹がペコペコよ。一緒にお昼を食べましょう。」
「い、いいのか?おれなんて邪魔じゃないのか?」
「どうしてそんな風に思うの?せっかく仲良くなれそうなのに。他のみんなにもシルファちゃんを紹介したわ。」
シロップもいい笑顔でシルファを誘っている。
「おまえたち変わってんなぁ。でも食べさしてくれんなら付き合うよ。ありがとうな!」
すっかり警戒も解けたようで俺たちとの距離はもうまったくゼロだ。
「そうだ、シルファ、頭撫でてもいい?耳に触りたいんだがダメかな。」
欲望全快のお願いに妻たちは生暖かい目を向けるが、俺としてはどうしてもネコミミを触りたい。とても触りたい。
「いいけど、触ってもそんないいもんじゃないと思うぞ。」
素直に頭を差し出すあたりが性格を現しているのだろう。
「じゃぁ、ちょっとだけ。」
乱暴にならないようにそっと頭に掌を載せる。
ちょっとビクッとはしたようだが、そのまま髪を撫でるとフィアたちのような絹の感触ではなく、フワフワとしたひたすらに軽い滑らかさが伝わってくる。
ああ、これは至福の時間かもしれない。
ネコミミに触れると、ピクピクと逃げるように動く。条件反射か触ると逃げるし、可愛い。
「ソウタさん、シルファちゃんがえらいことになってますよ。」
フィアに言われるまで夢中になって髪を撫でていたが、我に返ってシルファを解放すると今度はシルファの方から抱き付いてくる。
「止めちゃダメにゃぁ。もっと。」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら俺に絡みついてくる。
目が怪しくなって、呆けたような表情をしているが、小さいからか色気は無い。
本当にじゃれついてくるような感じで、これはこれで可愛いかもしれない。
ネコミミメイドになってくれないだろうか。
「あなた、それ責任取りなさいよね。」
如月から鋭いお言葉を頂いた。
「ネコミミメイドにしたい。」
素直に欲望が口から出てしまったが、フィアが溜息をついてヤレヤレのポーズをする。
「やっぱりそうじゃないかと思いましたよ。幼女組に入ってもらったらどうですか?」
その手があったかと、フィアの髪を撫でる。
フィアを撫でるその手をシルファが奪い、自分の頭に乗せようとするのだ。
「ママ!強敵だにゃ。」
むむむと言う表情のフィアにぴったりな表現をユイがする。
と、とりあえず昼ご飯を作ろうかな?
俺の肩に駆け上がったシルファを貼り付けたまま妻たちと娘たちを連れて家の外へ出た。
「なによそれ?」
やはりと言うか、早速チズルさんがシルファに興味を示す。
「家に入りこんでいたんですが、悪い者ではなかったですしご覧の通りの状態なんです。よろしくお願いしますね。」
フィアから紹介があり、スタッフのみんなも興味を持ってくれたようだ。
「シルファ、ちゃんと自己紹介してごらん。」
俺に勧められてシルファは俺の肩の上からみんなに挨拶をした。
「シルファにゃ。勝手に家を使って悪かったにゃ。」
「それでソウタよ、この子はどうするつもりだ。」
「本人さえ良ければこのまま連れて帰りますが。」
「おれはどこへ行くんだにゃ?」
「トウトだよ。今はそっちにいつもいる屋敷があるんだ。遠いから家があるんだったら連れて行かないけどシルファはどうする?」
「そこで何をするにゃ?おれがいてもいいのか。」
「メイドとして俺を手伝ったり、妻たちを手伝ってくれるとありがたいんだ。同じ年の頃のメイドたちも5人いる。その子たちと一緒に暮らせば寂しくもないぞ。」
「おお?だったら行く!おれもトウトに連れてってくれよ。おとうもおかあももう居ないし、ここにいても食べるのも大変にゃ。」
「そうか、じゃぁ、ここにいるみんなとも仲良くな。」
「わかったにゃ。」
言うや、俺から飛び降りたシルファはチズルさんやシゲさんの元へとちゃんと挨拶しに行っている。
挨拶もできるし、人見知りもしない。
スタッフのみんなからも可愛がってもらえそうで一安心というところだ。
俺はフィアと一緒に昼飯の準備を始め、シロップたちは他のスタッフたちとテーブルクロスを広げたり皿の準備をしたりと忙しくしている。
いつの間にかシルファも手伝いに来ており、椅子を広げて並べる作業を繰り返していた。
どうやら俺のネコミミメイドが居てくれるという願望が叶えられそうである。
準備が整い、配膳が始まるとみんなの様子と皿の中身の両方に興味があるようで、人一倍に忙しそうに視線を動かしている。
「シルファ、沢山食べなさい。それじゃみんな、頂きます。」
全員が頂きますを言い、それを見たシルファも「いただきますにゃ?」と真似をしてから食事を口へと運び始める。
「うまいにゃ!」
一口目から大声で感動を伝えてくれる。
フィアも嬉しそうに微笑んでおり、自分の作った料理がものすごい勢いで食べられる様を温かい目で見守っている。
そのフィアの髪を撫で、食べよう。と誘う。
何が美味しいとか、どう美味しいとかスタッフたちにも喜びと共に伝えており、スタッフたちにもシルファは気に入ってもらえたようだ。
イクオ君たちが盛んに餌付けしており、唐揚げやパンをお裾分けしているようだ。
それにもちゃんとお礼が言えているシルファは、沢山の量を腹に納め、目つきが虚ろになっているようだ。
俺たちで片づけをすまし、また草むしりに取り掛かるころ、如月が娘たちの子守りをしてくれており、その中にちゃっかりとシルファも混じって休んでいた。
シロップやアニエスもそれを見守っており、手伝いましょうか?と申し出てはくれたが、フィアが草むらに土魔法を掛けて雑草ごと土を反しており、スタッフ連中も自分たちの土地を手入れしているだけなので必要はないと子供たちを見てもらうことにした。
娘たちもシルファも二時間ほど仮眠を取ったところで起きだしてきて、紅茶などを飲んで過ごしていた妻たちと仲良く話し始めている。
それを横目で確かめながら、俺も魔法を使いながら村となる敷地の中の通りになる部分を除草していた。
全力でやると村全部がひっくり返ってしまうので、チマチマと幅4mの道をもう二度と草が生えそうにないくらいに締めて固めていた。
長さ10mほどずつを一度起こし、雑草を下に埋め込んでからハイコンプレッションを道路に掛ける。
5cmほど地面が沈み込み、コンクリートを上回る固さに引き締めるのだが、いつの間にかシルファやユイに睦月が横に来ていた。
「お前たちのおとうやおかあはすごいなぁ。魔法がこんなに凄いなんて驚くばっかりだ。」
「うん、パパもママも魔法が世界で一番強いんだって。いつもはもっとバーンってやっちゃうんだけどね。」
「パパすごい。フィアママもすごいねぇ。」
睦月も何となく喋り始めており、三人が揃うと歳の離れた姉妹が集まっているようだ。
睦月は妻たち全員に「ママ」をつけるようで、ユイに習ったらしい。
ユイもシロップママ、アニエスママ、如月ママと呼んでいる。
フィアは「ママ」だけらしく、睦月も如月は「ママ」だ。
そのうちにカーリオやクレイオもそう呼ぶのだろうと思うと、なんだか微笑ましい。
「レネゲもすごいよね。」
「すごいね!」
「なぁ、レネゲってなに?」
「ああ、レネゲイドっていう大きな騎士が仲間に居るんだよ。出して見せようか?」
「出すってなにさ?」
「見ててごらん。」
言うや、途方もない大きさの次元断層が開く。
「なんだこれ!?」
「近づくなよ。落ちるぞ。」
そう言い、シルファの肩を掴む。覗き込もうとするんだもん。
今度こそ驚いたようで、飛び上がったシルファは急いで俺の上に駆け上がってきた。
「わぁ!なんだよこれ?」
完全に怯えている。そりゃぁ、目の前に全高18mの巨大な騎士が現れ、陽の光を浴びて光り輝いているんだからな。
おお!シルファの瞳が縦長に細くなってる。
肩の上から俺を覗き込んでくるその目が正に猫の目だ。すぐに見上げ、レネゲイドを呆れた顔で見てからまた俺を覗き込んでくる。
忙しい奴だ。
「あれ、お前のか?すげーな。」
「ああ、どんな敵でも簡単に討ち取ってくれるぞ。シルファも絶対に守ってくれるから安心したらいいよ。」
「つ、強そうだもんな。おれも守ってくれっかな?」
「マスター、新しいメンバーが増えているようです。保護対象でしょうか。」
「しゃべったぞ。」
「ああ、新しい仲間だ。シルファと言う。レネゲイド、この子も守ってやってくれるな。」
「お任せください。シルファ様、ASX-9Aレネゲイドです。よろしくどうぞ。」
「シルファ様?よしてくれ、呼び捨てにして欲しいにゃ。レネゲイドも呼び捨てにするからさ、よろしくな。」
「では、シルファ、なぜマスターに登っているのですか?」
「れ、レネゲイドに驚いたからにゃ。そんなに大きいなんて知らなかったにゃ。」
微笑ましい会話が繰り返され、なんで「にゃ」と語尾に付くのかとか、その耳はなんで動くのかとか子供のような質問をレネゲイドがすると、シルファが真面目に答えているのが可笑しくてたまらない。
レネゲイドとシルファが仲良くなったころにフィアの作業も終わったらしい。
「あれ?レネゲイドさんはどうしたのですか?」
「フィア様、私はこのシルファと仲良くなりました。シルファが気に入ってしまいましたので、これからも仲良くしようと思います。」
「良かった。そうですか、レネゲイドさんはシルファちゃんを気に入ったのですね。シルファちゃん、いいお友達ができて良かったですね。」
「うん。おれもそう思うよ!」
日も落ち始め、それぞれがまた馬車に集まり始める。
大概の者たちは一日働いたこともあり、汗を流すために順に風呂へと入りに行っている。
男性たちが風呂を頂き、湯を取り換えてから女性たちが入り始める。
我が家は俺も含めて一番最後になる。
子供たちも多く、妻たちも俺と入りたがることもあってそうしている。
子供の世話が楽になるし、会話の機会にもなる。今日のことや明日のことを話しながら風呂に入ればそれは楽しい時間と言うモノだ。
俺はユイを連れて先に入り、ユイの髪を洗ったり背中を流してもらったりしながら他の子たちが入ってくるのを待っていると、次に入ってきたのはシルファだった。
「お?おい!?、シルファも一緒に入るのか?」
「だって、フィアママが入れっていうし、アニエスママやシロップママもそれがいいって言ってたぞ。それにほれ。」
そう言って抱えていた睦月を差し出してくる。
如月に持たされたらしい。
妻たちがそうしたいならいいだろう。
ってか、フィアママって?あいつらはそれでいいのか?
仕方がないと割り切ることにした。いきなりこんなデカい娘ができたような気分だが、それが悪いという訳でもないし・・・
「そころでシルファ、歳は幾つなんだ?」
「おれか?誕生日は10月20日だ!覚えやすいだろ?もうすぐ11歳になるんだ。」
まぁ、だいたい見た目通りという事だろうか。
石鹸を泡立てて睦月の体も泡まみれにしながら、もう一つのスポンジにも石鹸を泡立ててシルファに自分で洗うように渡してやる。
表は自分で十分に洗えるようで安心した。背中を洗うからとスポンジを受け取り、小さな背中をコシコシと擦ってやるとまた、気持ちよさそうな顔をする。
睦月を俺の膝に仰向けに寝かせて髪を洗うと、ユイの髪も同じように洗ってやったのだが、気持ちよさそうにするんだ。
これだと目に石鹸が入ったりしないし、女性が美容院で髪を洗ってもらうようにリラックスできるらしい。
それを見ていたシルファも俺の膝に乗ろうとする。
「シルファも俺がやっていいのか?」
「だって、ユイも睦月も気持ちよさそうだったから。ダメか?」
「だめかと言われれば別にいいんだが。」
ユイと睦月は湯船に浸かり、立ったまま興味深そうにこちらを見ている。
仕方なく、シルファも膝に仰向けに寝かせ、ユイたちと同じように髪を洗ってやった。
随分軽いなぁという感想を抱きつつ、11歳程度の体ならそんなものか。身長は120cmくらいで、ちょっと低いか?髪は肩よりも長い程度だが本当にフワフワと軽い感じだ。
十分に髪についた石鹸を流し、梳くようにすると気持ちよさそうな表情が一段と嬉しそうにも見える。
「終わったぞ。」そう伝えて体を起こし、背中から湯を掛けるころになってようやく妻たちが風呂に入ってきた。
「あらあら、シルファちゃんったらすっかりソウタパパに懐いちゃったのね。」
「髪も洗ってもらったの?」
アニエスとシロップがそう言いながらカーリオとクレイオを俺に寄こす。
「ああ、気持ち良かった。毎日風呂に入るのか?」
「そうよ、汗をかかなくっても毎日入るわ。ソウタさんに背中を流してもらうのも気持ちいいしね。」
ソウタパパって。養子にでもするのかよ。
俺は黙ったままクレイオの体中を泡まみれにして横に立たせ、カーリオも泡まみれにする。
クレイオをシルファにやったように膝に仰向けに寝かせて髪を洗い、体の泡も流してからシルファに任せた。
カーリオも同じように髪を洗い、シルファに任せる。
二人を湯船に入れながらシルファもみんなと同じように湯船に浸かると娘たち四人は湯船に立つ格好で浸かり、シルファはみんなが溺れないように見張っている。
それを微笑ましく見やり、俺もシルファの背後に一緒に浸かった。
湯からシルファの尻尾が出ており、俺の目の前でゆらゆらと揺れているのが面白い。
触りたくなるのを我慢し、妻たちを見ると全員がこちらを見ていた。
「どうした?」
「いえ、そうしているのを見ていますとやっぱりシルファちゃんは養子にした方がいいのではないかと思うのです。せっかく懐いてくれていますし、私たちの娘たちも任せられそうです。
ソウタさん、シルファちゃんは私たちの娘という事にしませんか。」
「おれのことを言ってるのか?何の話だよ。」
ぐるっと回転してシルファがこっちを向いた。
「お前、俺の娘にならないか?そう言う話だよ。」
「にゃ?おれがソウタパパの娘?おまえはそれでいいのか?」
「そう言うシルファはどうなんだ?」
うにゃ、と唸ってしまったが、一生懸命何か考えているらしい。
「おれは・・・おれがソウタパパの娘になったらなんて呼べばいいんだ?」
ちゃぽん。
俺の顔が湯船に浸かる。悩んでたのはそんなことかよ。
「ソウタパパでいいんじゃないのか?そのままだと思うが。」
「そ、そうか。でもいいのか?今日あったばかりのおれなんかを娘にしてくれるのか?おれはバステト族なんだぞ、偉い人に何か言われるんじゃないか?」
「偉い人か。俺より偉い人はそんなに居ないぞ。親王陛下しか俺より偉い人はいないなぁ。」
「ほえ?本当か?ソウタパパより偉い人って陛下しかいないのか!?」
親王陛下がこの国で一番偉い人だという事は判っているらしい。
アマーリエ様も当然俺より偉い人だが、そこはご夫婦でいらっしゃるんだから一括りで良いだろう。
「トウトに帰ったら陛下にご挨拶に行かなきゃいけない。シルファ、娘になるなら今度から自分のことを”おれ”と言うのだけやめないとな。
俺からシルファにお願いしなきゃいけないのはそれだけだな。
じゃぁ、改めて言うぞ。シルファ、お前は今日から俺の娘だ。大変なこともたくさんあるだろうが、きっと守ってやる。だから安心して暮らしてくれ。よろしくな。」
「おr・・・私?もソウタパパの娘になれるなら嬉しい。でも本当にいいのか?」
「ああ、本当にそうなるなら俺もママたちも嬉しいに決まってる。」
ぽろぽろと涙を流し始めたシルファが俺に抱き付いてきた。
「私のこと、よろしくお願いします。」
「任せろ。」
背中を抱くようにぽんぽんと優しく叩いてやり、新しく娘となったネコミミの少女の髪を撫でる。
ギュッとしがみついてくる娘となった少女をしっかりと抱きしめてやると、人肌に安心したのだろうかはにかんだ様な表情を見せ、それでも嬉しそうな顔で尋ねてきた。
「お、私のママって誰になるんだ?」
はははと笑いながら答えてやる。
「ママは四人いるだろう?シルファのママはそこに居るママたち全部だ。お得だろう?」
「うん。凄い得した気分だ。」
フィアたちもいい笑顔でシルファを見ており、なんか成り行きと言うか行きがかりと言うか、突然に娘ができてしまったがこんなこともあるのだろう。
裸の付き合いの中で決まったことだが、面白いこともあるモノだ。と思うことにした。
お蔭さまで51,000PVいただいております。
読んでくださる方がいらっしゃると思うだけで嬉しくなります。
調子に乗ってまた、登場人物が増えましたが、お気に入りのキャラですので可愛がっていただけると嬉しいです。
また、ブクマ増えてます。ありがとうございます。




