【第89話】世界の綻び(ほころび)
もう、48,000PV越えてますよ。
本当にたくさんの方に目を通していただけて嬉しいです。
現在、数話先行して書き溜めが進んでいます。
こんなこと、初めてです。舞い上がっちゃいます。
俺の嫁たちを欲しがるバカやろうと、それを手伝うボケたちを金星で燃やした翌日から街に出回ってしまった銃火器の回収が大変だった。
公爵と言うカードを切った俺は領軍にも動員をかけ、一軒一軒を本当に虱潰しで家宅捜索した。どこの家で怒鳴られようと、どこの夫婦に嫌われようと、ベットの裏から畳の裏まで引っ掻き回してやった。
突入の度にペットに吠えかけられ、頑固爺に追い回されても最後は公爵のカードで黙らせた。
そんなこんなで3週間ほどをシンコで過ごし、ダイハンに取って返して4週間。ヘイコで2週間と、二日。不評と抗議を山ほど頂いて500丁を越えるハンドガンからガトリング砲までの回収に成功した。
この後もサンコウまで数週間ずつと言う膨大な時間をかけて西進し、クレハさんのところにたどり着いた時にはとっくに当初予定の3か月を過ぎてしまっていた。
まぁ、事の次第は週に一度の屋敷へのテレポートでアンニさんにもユンカーさんにも伝えているので、陛下からも追加の路銀にとこれまた大量の大金貨を賜った。逆に、取りこぼしのないようにとのお願いも頂き、時間を気にせずにやりたい放題となっている。
陛下の元へと苦情も上がってきているらしいが、各領地の領主へ勅命としてボトムアップに対してトップダウンが厳命された。
これを請けて随分と仕事がやりやすくなり、更に270丁ばかりの銃を回収することができた。貴族たちにとっても土産物として重宝がられていたようで、珍しさと実用性から領軍で使用したいとの正式な申請も上がってきているという事だ。
一丁でも行方不明にならないという条件付きではあるが、領軍に限ってのみ所有を許されることとなった。
「お久しぶりですね、みなさん。あれ?随分とお疲れの様子ですが。」
いつもの緋袴に白い着物で迎えに出てきてくれたのだったが、やつれたようにも見える俺たちを見て心配そうに尋ねてくれる。
「実はここに来るまでに随分と仕事をさせられましてね、この3か月余りと言う物、大変だったんですよ。」
説明を大部分端折ってしまったが、間違いはない。
「あら!?こちらのお子さんは?」
「はい。私の娘でユイと言います。クレハさんとは初めてですね。」
「まぁ、本当にフィアさんのお子さんですね、とっても似てらっしゃいます。あれ?そちらのお子さんは?あれ??他にもたくさん居らっしゃいますよ!?」
「はぁ、実はトウトに行きましてから公爵位を頂きましてですね、屋敷で暮らすうちに妻が増えて今は、フィアを入れて四人いるんです。それぞれが一人ずつ娘を産んでくれましてこのようなにぎやかな事に。」
「あらあら、ソウタさんも逞しいこと。・・・・・・って、公爵様?ですか?」
「ええ、一応。」
冒険者カードをフィアのと合わせて二枚、クレハさんの手に乗せる。
「す、すみません!」
クレハさんが大慌てで女性の礼を取る。
「や、やめてください。私たちの知り合いにはそんなことはさせてません。クレハさんもやめてください。」
疑問形の表情で俺を見るクレハさんは「そんなことでいいの?」という顔をしている。
「ソウタさんに聞いています。巫女様のクレハさんですよね。私、ソウタさんにお嫁さんにしてもらいましたアニエスと言います。元はソウタさんのお屋敷のメイドでしたが、大事にしていただけて娘のクレイオと一緒にフィアちゃんと一緒に居るんです。よろしくお願いします。」
「私もお館様にお仕えするメイドでした。シロップと言います。ソウタさんに貰ってもらえて娘のカーリオを産むことができました。私の知らないソウタさんのことなんかを聞かせてください。」
「私は如月と言うの。ソウタさんの使う魔剣なんだけど、この人と一緒に居ると成長しすぎて今ではこんな姿もできるようになりましたの。娘は睦月と言いますが、この子も魔剣です。今に剣の姿になってソウタさんのお役に立ちますわ。
聖霊のようなモノなのだけれど、ヤマノベ家を永く守って見せますわ。」
「凄いんですね、公爵様は。」
「だから、それ止めてもらえませんか?今まで通りで良いですから、遠慮したような感じはやめましょうよ。」
「そんな失礼なこと、いいのでしょうか?」
「クレハ殿、お久しぶりですね。私たちも家令となりましたが、シゲ殿などいまだに呼び捨てでございます。それでも、それがいいと仰ってくださいますのでそのようにしてあげてください。
フィア殿もそちらの方が喜ばれますから。私は元からこう呼んでおりましたので、そうさせていただいておりますが、直せるものでもありませんからね。みんな昔のままの呼び方でやらせてもらってます。」
「はぁ、ではソウタさん?」
「はい、なんでしょう。」
「中で休んでいかれませんか?」
「嬉しいです。クレハさん、夕食を作るのと引き換えに一晩泊めていただけませんか?」
クレハさんは嬉しそうな表情で招き入れてくれた。
「また、美味しい物をお願いしてもいいでしょうか?」
「お任せください。」
皆で笑い合ってクレハさんのお社に入れてもらうことができた。
例の卓袱台の部屋に入ると、子供用の寝台が置いてあり、中には生後半年ほどの赤ん坊が「ウヤウヤ」なんて言いながら俺たちを眺めている。人見知りしないのか、「うぅ、うっ!」なんて盛んに如月にアピールしている。
たじろいでいる如月の髪を撫で、「どこの子にもモテモテだよな。」と囁くと、「当たり前でしょうに。」と照れていた。
ふわふわの紫髪が口調とは裏腹に妖精のような雰囲気を出しているし、幼い顔立ちも幼児には親近感が持てるのかもしれない。
妻たちの全部の娘も最初から如月は大好きだったしな。
「クレハさん、娘さんですか?」
「はい。一年ほど前にようやく私を気に入ってくれる方に巡り合いまして、ここを手伝ってくれているのです。
娘はカリンといいます。夫は今、港に行ってて、魚を買ってきてくれると思います。」
「では、ご挨拶は後ほどできますね。クレハさんおめでとうございます。昔の事を知る者としてはとても嬉しく思いますよ。」
「はい。そうですね、私も頑張った甲斐があったと言う物です。」
「本当にその通りですよ。お二人のお蔭で50年の軛から解放され、こうして当たり前にやって来れているのも全てフィアさんとソウタさんのおかげなんですもの。」
「フィアちゃん、クレハさんとどんなことがあったのか聞かせなさいよ。」
「そうですね、最初にクレハさんとお会いしたのは・・・
しばらくは昔話に花が咲き、日も暮れるころに旦那さんが帰ってこられた。
「うわ!たくさんいらっしゃいますね。初めまして、クレハからよく話は聞いています。私はクレハの夫でクレーヴ=ヌヴェールと申します。ヤマノベ公爵様、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。私のことは名前で呼んでください。クレハさんにもそうお願いしました。それと、ヌヴェール様は貴族の方なのですか?」
「いえいえ、貴族などと。数世代前にはデクラウドの方の地方男爵家だったらしいのですが、祖父の代には既に廃嫡されていましたから、名前だけが残っているにすぎません。
お気遣いなくワタシのことも名前でお呼びください。」
クレハさんに俺たちを任せ、クレーヴさんは魚の入っている籠を持って台所へと入っていった。
「クレハさん、フィアたちをお任せしていいですか?俺はクレーヴさんに代わって夕食の支度をします。」
「はい、楽しみにさせていただきます。」
俺とハルシゲさん、チズルさんで厨房に押しかけ、クレーヴさんから仕事を奪ってしまった。
恐縮するクレーヴさんをクレハさんのところに押し付け、三人でいつもの「俺料理」を大量に作り、クレハさんには懐かしい。クレーヴさんには初めての異世界料理を堪能してもらうことができた。
どこにあったの?と言う量の食材を惜しげもなく使用していることにクレーヴさんは不思議がっていたが、俺のことを知るクレハさんには疑問も無いようで、旦那さんに色々な事を説明していた。
ユイと睦月のために唐揚げ弁当を作ってやり、クレイオとカーリオのためにミルク粥を。
クレハさんたちの娘さんのカリンちゃんにも一緒に食べられるようにしてある。
三人の幼児には好評で、カーリオもクレイオもカリンちゃんもすごい勢いで食べさせろとねだっていたよ。
エイゾで入手した魚介類の干物などを提供したのだが、こことは魚の種類が違い、これも喜んでもらえた。
夜の更けるまで妻たちとご夫婦の歓談が続き、それぞれの時間を埋める楽しい話が続いた。これにはシゲさんはじめ、仲間も参加して俺のことを出汁にして大層盛り上がっている。初めて聞く陛下やお妃様の話も珍しいだろうし、俺の屋敷のことも珍しいと喜ばれた。
ただ、これまでにあった出来事には良い話ばかりでもなく、神国もたくさんの出来事が起こりつつあることに不安を覚えたものだ。
深夜遅くにあてがわれた部屋に戻ると、今日の話をもう一度思い出しながら、フィアの食事とシロップやアニエスの夜の楽しみを満喫してもらった。
で、結局睦月と一緒に眠ってしまった如月は俺に起こされてしまい、控えめに嬌声を上げながらやっぱり怒っていたのだった。
寝てる如月を可愛がるのはなんでこんなに楽しいのだろうか?
それぞれにと買ったナイトドレスはみんなにとても喜ばれたのだが、実は脱がさなくても一戦交えることができるワンピースタイプで、下から攻めて行くと簡単に下着も脱がせられるし、たくし上げて楽しめる。前を開けることもできるし、すぐにオムネにたどり着けるために俺の楽しみが捗ってしょうがないのだ。
だからこそ、うっかり眠ってしまう如月は寝てるうちに可愛がられてしまい、俺と結ばれて目が覚めるといきなり快感に襲われるという、なんとも理不尽なことになっているわけである。
だって寝てる如月が可愛いんだもの、しょうがないでしょう。
翌朝。寝てるフィアを起こし、服を着せると全員で朝食を頂き、出発となった。
今では海峡も穏やかになり、渡しの船もたくさんある。
これらも俺たちの頑張った成果だと思うと、乗り込むフェリーさえも感慨深い物がある。
朝食の後にクレハさんたちと別れを告げる際には帰りに寄ってくれるのでしょう?とあっさりとしたものだった。
次がいつかも判らないという訳でもないからか、フィアたちもあっさりと「またあとで。」くらいのノリであいさつを交わしていた。
旦那さんには昨夜のお礼などと言われ、とても感謝していただいたが、戦友のようなモノだと思うと礼には及ばないとしか言いようもない。
互いの理解もできて、港から乗り込んだフェリーは快適そのものだった。
誰かさんを除いては。
約一時間の船旅を終えると、いよいよクノエの地へと帰ってきたと思わせる。
しかし、長く訪れることのなかったクノエの各地はどこも復興が進んでおり、一人前の街としての様子を整えているところもたくさん目にすることができた。
シゲさんが後方支援を絶え間なく行っていたそのおかげもあるだろうし、ゴーランド連邦共和国初代代表の努力も大きいに違いないが、フィアの作った道もその後にさらに整備されており、路肩の排水路や歩道、中央分離帯の植生など整備が進んでいることが伺える。
フィアも御者席からその復興の具合を興味深そうに眺めているようで、アマクサまでの2泊の道中はあちこちの復興に興味を持って視線を向けていた。
「あ!あれってフィアちゃんじゃないですか?」
シロップが俺たちに聞こえるようにと大きな声で伝えてくれる。
ビックリしてシロップの指さす方を見ると、蒸気機関による鉄道網の駅舎が見えるのだが、その駅舎の前広場にブロンズ像のフィアが居た。
「本当だ!あれはフィアだな。すごいなぁ。救国のヒロインはあんな風にして語り継がれるんだ。羨ましいなぁ~」
「やです。ソウタさん、恥ずかしいのでアレをどうにかしてください!」
「任せろ!ピカピカに磨いて来てやろう。」
「あ~ん!意地悪ですぅ。」
冒険者の衣装に身を包み、身長と同じ大剣を右手に下げ、左手で民衆を鼓舞するように前を指さすその少女のブロンズ像は背中から蝙蝠のような翼を広げ、フランス革命当時のジャンヌダルクのような気高さと少女の美しさを強調しているようだ。
毎年秋には「リリースバイフィア」の祭典が行われ、1000年以上の長きに渡って苦しめられた巨人から解放された喜びを祝っているはずだ。
役場の前広場にも一際大きなフィアの像が建っており、各都市の主要な建造物の前には必ずフィアのブロンズ像が建っていた。
誰が原型師なのかは知らないが、俺としては一つ欲しい。
フィアに言うと、泣いて何とかしてくれと懇願されたが、サキュバスが人を救った美談としてクノエの地全てに残されているのだから、自信をもってほしい物だと思わずにはいられない。
アニエスやシロップはわざわざブロンズ像を見に行き、胸の大きさが違うとか腰の縊れは今の方が美しいとか、訳の分からない感想を口にしている。
フィアはもう、寝室で布団をかぶっており、恥ずかしくて顔を出せないと駄々をこねている。それは俺にとって嬉しい出来事でしかなかったし、クノエの地のサキュバスが今後、人との距離を縮めるきっかけになればいいのにと思うのだ。
アマクサの要塞砦に着くと、もう、空いた口がふさがらなかった。
あちこちで見たフィアのブロンズ像は等身大と言うサイズで台座が2mほどの高さで、その上にフィアと変わらない背丈のサキュバスの少女が乗っていたわけであるが、要塞砦にあったフィアの像は5mを越える特大の台座の上に15mほどのフィアの像が屹立していた。
そしてそのフィアは大剣を足元に突き立て、柄に上から右手を添え、左手は「いっちば~ん」という感じで天を突きさしていた。
美しい衣装を纏い、女神か天女だろうか?そう言う気高さと美しさを表現したのだろうが、俺が見てもやりすぎである。
フィアなんてもう、泣き出してしまい手が付けられないことになっているよ。
しかし、その偉業はアニエスやシロップの琴線に触れたようで、如月共々歓声を上げて喜んでいた。
「凄い!すごいですよ。ソウタさん!フィアちゃんがしたことってこんなに凄いことだったんですね。」
「ち、違います!全部ソウタさんがやったことなんです。私なんて、隣に居ただけなのにぃ、いや~!」
自分で特大サイズの自分を見て絶叫している。
いいじゃないか、フィアがみんなの役に立ってるんだから。
俺の馬車を先頭に砦の衛兵の元へと近づくと、衛兵が馬車を止める。
「どのような用件か?」
「えっと、これの里帰りです。」
俺は捕まえたフィアを両手で差し出し、衛兵の前に両脇に手を入れて猫のように差し出した。
この衛兵はフィアの実物を知らなかったようだ。
「こ、こちらの方は!?」
「ええ、そのデカい像の実物ですが。ゴーランド殿はおられますか?」
「ふぃ、フィア様だ。フィア様が凱旋なされた!、誰か、だれかぁ!フィア様がお戻りになられたんだ。や、や、ヤマノベ公爵様でいらっしゃいますか?ちょ、ちょっとお待ちください。だれか~!」
一目散に走り去っていった衛兵はずっと向こうに居るにもかかわらず、声が聞こえる。
「フィア様がお戻りになられたんだ!フィア様が~!」
フィアは恥ずかしさのあまりに滂沱の涙を流しながら俺を恨めしそうに首を回して睨みつける。
「わたし、もうお嫁に行けません。」
「うん。もう行かないで良いから。」
「ちがいます。もう表を歩けません。」
「そんなことは無い。どこに行ってもきっと大歓迎だ。俺たちも歓待してもらえるぞ。」
「ソウタさん、なんでこんなことになっちゃったんでしょう。」
「フィアが可愛いからに他ならない。」
「・・・ぐすん。」
だって、本当のことじゃないかよ。
「ああ!フィアさんじゃないですか。お久しぶりです。相変わらずラブラブしてますか?」
どうしてナノハさんはこういう聞き方しかできないんだろうか。
「ナノハさん、久しぶりですね。大丈夫ですよ、俺とフィアは毎日ラブラブですから。」
「やっぱり、ツヤッツヤですもんね。」
一言多いっちゅうねん。
砦の脇から中に入ると、各層の回廊に1000人じゃきかないだろうたくさんの人達が集まっていた。
一目でも実物のフィアを見たいという事なんだろうが、すごいことになってる。
誰の声か判らないほどの賑やかで雑多な会話が溢れかえっており、レネゲイドが居た広場の中央に俺たちの馬車が止まり、続いて二台の馬車が停車した。
ゴーランドが満面の笑みで迎えに出てきてくれて、俺も久しぶりの再会を楽しんだ。
ゴーランドへの挨拶のために他の嫁たちと一緒にフィアが馬車から出てくると、爆発的に歓声が上がり、フィアコールが巻き起こる。
1000人を超えるフィアの名前を呼ぶ声に広場が揺れるようだ。
もう、ビビりまくっているフィアの肩を抱き、ゴーランドに会わせるとゴーランドも相好を崩して喜んでいるようだった。
「フィア殿、ソウタ殿、よくぞ参られた。シゲさんたちは元気でやっていたか?」
「俺たちゃぁ、どこに居ても大概元気なもんだよ。ゴーランドも息災なようだな。」
「おお!シゲさん。久しぶりだな。他のみんなも元気そうだ。ん?そちらのお嬢さんはどなたかな?」
さすがゴーランド、シノブさんの存在にすぐにも気が付いたようで、ガキ大将のような表情をしている。
「察しの通りだよ、俺の嫁だ。どうだ?綺麗な人だろうに。」
「お初にお目にかかります。ヤマノベ公爵様のお屋敷でこの人のメイドを勤めておりますシノブと申します。よろしくお願い申し上げます。」
「こちらこそ、よろしくお願いするよ。俺たちの親爺をよろしくお願いする。さあ、みんな中に入って寛いでくれよ。明日にはそれぞれのうちにも行くんだろう?今日はここに泊まって話を聞かせてくれないか。」
スタッフや護衛班の一人ひとりにも労いの言葉をかけ、肩を叩いたり握手をしたりととても嬉しそうにしている。
フィアの16歳の誕生日を祝った食堂にまずは集まり、簡単ではあるが食事をご馳走になった。
とは言うものの、そこは軍の食堂だからか、品数とボリュームは大変なものであり、シゲさんを気遣うシノブさんの甲斐甲斐しい世話に周り中が感心し、伝説のフィアに食堂に来た兵たちは感嘆を漏らすしかなかった。
ブロンズ像よりもはるかに成長し、美しくなったフィアはゴーランドでさえも驚いたほどなんだから初めて見る兵たちにとっては別世界の人なのだろうか。
近くもなく、遠くもない距離から愛でるばかりで、話しかけるような者はいない。
ナノハさんを始め、馴染の兵たちも多く、フィアも楽しんでいるようだったが、他の嫁たちを紹介したり食事を串に刺したりととても忙しそうにしていた。
が、その顔は嬉しそうで来てよかったと思わざるを得ない。
如月もアニエスもシロップも自分たちの娘共々たくさんの人に囲まれ、楽しそうにしていた。
それぞれが俺の嫁だという事がわかり、更に人気者になっていた。
ユイや睦月も話せるようになってくると、話題の中心になってとても楽しそうだった。
久しぶりの里帰りスタッフも旧交を温めたり、土産物を振る舞ったりと楽しそうでそれぞれに良い時間を過ごしてくれたようだった。
翌日は自由行動となり、次の日の昼頃に砦で集合という事になった。
各自が土産を俺の次元断層から受け取り、楽しそうにそれぞれの会いたい人が居る場所へと向かっていったのだ。
サチさんとシノさんも実家に向かっていったし、シゲさんとシノブさんは以前に亡くなったというシゲさんの前の奥さんのお墓に向かっていった。
俺たちもゴーランドやナノハさんを始めとした砦のみんなに膨大な量の土産を吐き出し、みんなで分けてくれるように言い置いてからレネゲイドの案内で親爺の墓へと向かった。
シロップやアニエスの実家で参らせてもらった先祖の墓のように、俺の親爺の墓を参ればあの時に感じた寂寥感は解消されるのだろうか。
レネゲイドにはフィアとユイが乗り込み、片道が1時間ほどと言う道のりを馬車でついていった。
何かの合戦か災害でもあったのか、同時期に作られたと思われる墓石がまっすぐに並び、整備された共同墓地なのだろうことがわかる。
その一番奥に親爺の墓があった。
他と比べて特別立派と言うことは無いが、一番奥にあるからか他と並びが違い、通路正面を向くようにあったんだ。
「山野辺隆之之墓」と書いてある。神国の言葉であってもそれは構わない。
誰かがこうしてくれたことに感謝の念が絶えない。
街で買った墓参用の花を献花台に供え、墓石に触れてみる。
「お前も立派になったものだな。そちらのお嬢さんはお前と契約してくれたのか?後ろの皆さんもお前のお嫁さんかい。」
親爺が語り掛けてくる。驚きはしたが、不思議とは思わなかった。
「ああ、久しぶりだな。みんな俺の嫁と俺の娘だ。父さんも立派なお爺ちゃんだな。」
「はははは、そうか俺はお爺ちゃんか。それはいいもんだ。しかしな、ソウタ、いろいろ経験してきただろうがこの世界は不思議だ。
向こうから色々流れてくるだろう?この世界がどんな世界なのか知りたくはないか?」
「どういうことだ。ここは別の世界じゃないのか?」
「ああ、別の世界だ。それは間違いないだろう。文明も同じ発達の仕方をしていないし、魔法もある。お嫁さんのような種族もいるだろう?夢物語の別世界じゃないんだ。
確かに存在し、ここで生まれて死んでいく人たちの暮らす世界だ。しかし、この国は間違いなく日本だと思わないか?地理と言い、地名と言い、特色も俯瞰してみると良く似ている。何か目的があって私たちの世界と非常に近い距離にできた別の世界なのだろうと思うんだ。
颯太、旅をしなさい。
この世界はきっと何かの作為的なもので発生させられた人工の世界だ。私たちのような人が作ったとは思わないが、近しい者が何かをするために作った世界に違いないだろう。
向こうの世界にある神話や伝説、向こうの世界の文化の残り香のようなモノがありすぎるんだよ。
そうしたものを追う事が出来ればきっと何かが判るだろう。」
「言う事は判るが、それが判ったところでどうにかしなきゃいけないのか?このままここで老いて、死んでいくのでも構わないんじゃないのか?」
「もちろんそれでもいい。しかしな、お前のお嫁さんたちが悲しい思いをしないようにだけはしておくべきだ。この世界の人は向こうの人の成長に比べると穏やかなものだ。お前の魔力量を見ても判るだろう?
お嫁さんの魔力量は一般的だ。お前と契約したばかりにキャパシティーは特に大きいようだが、回復量などはやはりこの世界の人となりだ。ここでソウタが骨を埋めることに異論はないよ。ただ、そのあとに残るこれからの者たちが辛い目に遭わなくて済むように。
綻びを閉じて欲しいんだよ。
もう、誰もこちらに来ないように。何も流れ込まないようにな。
そうしてからこの世界を整えておけば、末永く安心できるだろうさ。」
墓石に触れてから始まった会話は、まるで生きている親爺と話しているようだったが、段々に声が遠くなり始めている。
「親爺、俺の嫁と話すかい?」
フィアに向かって手招きをする。
ただ手を合わせていたフィアだったが、不思議そうにしながらやって来てくれた。
同じように墓石に手を触れさせ、再び目を閉じる。
「親爺、俺と最初に一緒になってくれたフィアだ。判るだろうが、フィアはサキュバスで契約が済んでいる。産んでくれた娘はユイと言うんだ。」
「フィアさんと言うのか。フィアさん、ソウタが迷惑をかけてはいないか?」
ビクッとなったフィアは俺の顔を見るが、「親爺だ。」そう伝えると墓石に向かう。
「お父様ですか?私、フィアと言います。15歳の時にソウタさんに拾ってもらいとても幸せに恵まれました。お父さんのお蔭でソウタさんと出会い、沢山の人と知り合うことができました。
皆に言われるんです。こんなに幸せなサキュバスは見たことが無いって。私もそう思います。またここに来て、次の娘もできていたら紹介したいです。」
「フィアさん、あなたの血もほとんどがソウタと入れ替わったんだね。だから私とこうして話が出来るんだ。他のお嫁さんにも伝えてくれないか。
颯太をよろしくお願いするよ。みんな仲良くしてくれると私もとてもうれしい。また、来てくれるかい?ユイちゃんの妹が生まれていたらそれは楽しみだねぇ。お爺ちゃんがお小遣いの一つも上げられないなんて、残念で仕方ないよ。
他の孫たちも、なんて可愛いんだ。颯太には勿体ないくらいによくできた美しいお嫁さんたちだねぇ。
颯太、みんなを絶対に守り切るんだぞ。そして綻びを閉じなさい。ユイちゃんたちが困らないように。それがお前が死ぬまでの仕事だ。」
「判った。必ずその綻びとかを閉じてみせるよ。旅をすればわかるんだな。親爺もどこにあるかは判らないんだな。」
「すまない、そこまでは私にもわからないんだ。」
「お父さん、私たち四人できっとソウタさんを守って見せます。また来るまで待っててくださいね。」
「ああ、約束するよ。次も楽しみにしているからね。ありがとうフィアさん。」
そして声は聞こえなくなった。
話した内容を如月に、シロップに、アニエスにフィアと二人で聞かせた。
「この世界に綻びがあるんですか?それを閉じるようにお父さんに言われたと?」
「ソウタさん、神国の中にあるんでしょうか?世界のどこかって事になると大変でしょうね。」
「あなた、あなたの力量でなら世界のどこにあっても何とかなるわ。その時に私たちさえいれば大丈夫よ。」
まさか親爺と会話が出来るとは思わなかったが、そこから得られた情報もまた、重要なもののようだ。そして、それはユイや睦月、カーリオやクレイオが安心して生きていける世の中になるためには重要なものだという事も判った。
これはここまでの体験からも重要だということが判る。
フィアから嫁たちに伝えられたメッセージはそれぞれに感慨を覚えたらしく、再び手を合わせてくれていた。
これからも俺たちの馬車旅は忙しく続くようだ。
きっちりと親爺の言った仕事はしておこうと思う。それが後から効いてくるように思えるしな。
帰りはトサンを回って、俺の拓いた領地も見せてやりたいし、ダイタクヤにクノエの土産を持っていくのもいいだろう。
GWは皆さん何連休の予定でしょうか?
私の会社は不景気がたたり、10連休です。言う事で、10話以上先行しないと企画が満足できないのです。




