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【第9話】一計

 翌日、たっぷりと睡眠もとれ、野営とは違った安心感を堪能してから目が覚めた。

 本当なら旅を続けるにあたって昨日のような煩わしいことに悩まされないように何らかの対策を立て、背後を気にしないようにしていきたいものだ。

 まあ、喫緊の課題としては、後ろよりも俺の上を解決しないとな。

 なんでこいつは俺の上に乗り上げて寝るんだろうか。

 昨晩布団に入った時にはいろいろと戦闘行為もあったが、いつもと変わらずにフィアは俺の右側にいて、腕を抱えるようにしながら眠りについたはずだ。

 目が覚めるころには俺の胸の上に乗り、自分の体を俺の股の間に割り込ませている。

 仰向けに大の字になって目覚めるのが日課になりつつあるが、どうだろうか。


 幼さは残るが、整った顔立ちのフィアはルビーレッドの双眸を閉じ、長い睫毛を伏せ、気の緩んだ表情で惰眠をむさぼっている。

 涎まで垂らして。

 「フィア、そろそろ起きてくれないか?」

 髪をなでながら起床を促すと、少し縮むように身をこわばらせ、ゆっくりと弛緩しながら瞳を開く。

 「おはようございます。」

 返事だけはいいんだが、涎を拭いてまた眠りに着こうとする。

 「フィア、おい!」

 「ふぁあい。」

 もぞもぞと動き出し、ようやく目が覚めたようだ。

 「いつまでそこにいるつもりだ?」

 「ソウタさんに降りろと言われるまでです。」

 「じゃあ、降りろ。」

 「・・・」

 なぜ目をそらして聞こえないふりをする?


 身支度を整え、朝食のために階下に降りて食堂に向かうと、食堂には相変わらず様々な種族、様々な風体の人たちが銘々に朝食を頂いているようだ。

 夕べと同じ席に着き、品書きを頼もうと見渡すと二人の給仕の女性が膳を持ってやってきた。

 「おはようございます。昨夜はゆっくりとお休みになれましたか?」

 一人の女性が挨拶をしながら俺の前に膳を置く。

 もう一人はフィアの前に膳を置き、もう片方の手に乗せていたお盆から熱い茶の入った湯呑を二つそれぞれの前に置く。

 「ああ、ゆっくりさせてもらえたよ。もう一晩世話になるんだが、昼間は外に出たいんだ。商業ギルドはどこにあるだろうか。」

 夕べから考えていたことを実行するためには商業ギルドに行く必要がある。

 「それでしたら・・・」

 朝食は珍しくご飯に味噌のスープ、山菜と焼いた魚と言うさっぱりとしたメニューだった。

 冒険者稼業が長くなると、一日に消費するカロリーの都合から朝から肉があって当たり前で、大量に詰め込むのが普通のことだ。

 この世界は昼食をとる概念がなく、陽が昇れば朝食を食べ、日中は労働なり冒険なりと毎日の用事をこなし、陽が傾けば夕飯となりそのあとは寝てしまう。

 「随分シンプルなメニューですね。品数は多いのでしょうが。」

 フィアも同じようなことを考えているようで、このコメントには俺も素直に同意した。

 「はい、この街では観光や商いに訪れる人も多く、長く逗留される方が比較的たくさんいらっしゃいます。城下の街並みや花見のできる公園などに茶屋もありまして、散策がてらにつまむものも結構おいしいのですよ。そちらも楽しんでいただければ幸いです。」

 「ああ、そういう趣向だったのか。ありがとう、楽しみにしてみますよ。」

 「ご出立になる日にはそれなりのメニューになりますからご安心ください。」

 そういって給仕の女性は離れていった。

 逗留中は朝は控えめに、昼に色々と外で口に入れられるように考えているようだ。

 チェックアウトの日には俺たちの思うような朝食になるという事らしい。実におもてなしの行き届いたシステムだと思う。

 「フィア、昼は外で用事もあるから色々と店を回ってみよう。」

 「はい、楽しみです。」


 朝食をとり、給仕の女性に教えてもらった道を歩み、商業ギルドへとたどり着いた。

 間口の広い4階建てのレンガ造りの建物は、倉庫も抱え込んだ構造らしく、幅も広ければ奥行きもとんでもないシロモノだ。

 正面では何台もの荷馬車が後ろの荷台を建物内へつっこみ、荷物を降ろす者、積み込む者たちが大声でわめき合っている。ちょっとした祭りのようでもある。

 通りに向かって馬たちが暇そうな面を並べ、その世話を焼く下働きらしい小僧さんたちが飼い葉や水、ミネラル補給用の塩を与えたり、片づけたりしているのを邪魔している。

 「ちょっと凄いところだな。どこから入ったらいいんだ?」

 「ここは商売をする方たちの出入りするところでは?」

 「ああ、そうなんだが、昨日のことでちょっと思いついたことがあってな、ここで相談に乗ってもらおうと思っているんだ。」

 俺の考えが正しければ、あの刺客たちはウォルフ家の誰かの差し金に違いないと思うが、今のウォルフ家の状況を探る方法がないか思案した結果、商業ギルドを頼ろうと思った。

 下働きの男の子を一人捕まえ、ギルドマスターへの面会を取り次いでもらう。

 荷馬車への荷物の采配をしている若い男のところへ男の子は用件を伝えに走り、俺たちの要件を伝えてくれているようで、若い男は時々こちらを鋭い視線で見やる。

 若い男は何人かの部下と思しき男たちに大声で指示を出し、それからこちらへとやってきた。

 「ギルマスに用とはどういった内容だろうか?この時間帯はいつも忙しい時間なんだ、一刻ほど待たせることになるが構わないか?」

 相手に都合の悪い時間に来てしまったようで、自分の行動を反省する。

 「それはすまない。落ち着いて話をしたいので出直したいと思うが、その方がいいだろうか?」

 「そうだな。急ぎでないならそうしてくれると助かる。俺はミトと言う。一刻後にもう一度俺を訪ねてくれるか?ギルマスには話を通しておくから。」

 「そうか、恩に着るよ。俺はソウタ、ソウタヤマノベと言う。よろしく頼む。」

 「苗字もち?貴族様かい。」

 「まぁ、その様なものだがあまり気にしないでくれ。」

 「そう言うなら。とりあえず、そういう事だから。」

 軽く会釈を返し、ミトと名乗った男はまた大声で指示を出しながら荷物を捌くために戻っていった。

 「さて時間も開いたことだし、少し観光を楽しもうか。」

 二時間ほど時間をつぶすことになった俺たちは花見をする公園とやらを訪ねてみることにした。

 「ずいぶんと大きな公園ですね。色々な樹木もあり、落ち着きます。」

 きょろきょろと辺りを見回し、形よく整えられた庭園となっている木々の間を散策するあいだ、フィアは興味津々といった風でとても楽しそうだ。

 公園内には小川も流れ、小路もあり、昇り降りも含め見て回るために考えられたコースが整備されている。

 城主の住まう城へと続く正門までが観光のコースに入っているようで、門の中へは入れてもらえないが、衛兵の邪魔さえしなければ造りのしっかりした門まで近づくこともできた。

 ここを折り返しとして、別のルートで帰ることもできる。

 ちょうど更に小路を下ろうかという処に茶屋があり、甘味とお茶をもらえるようになっていた。

 ここに寄ることにし、俺は団子を。フィアは葛餅をもらう。

 渋さのないほうじ茶をお供にそれぞれに甘さを楽しんでいると、フィアが切り出した。

 「商業ギルドでどのような用件があるのか私にはわかりませんが、昨日ソウタさんが言ったように私が狙われているとして、私が狙われる意味とはどのようなものでしょうか。」

 これまでにどのような生き方をフィアがしてきたのかは判らない。

 しかし、人と大きな関わりを持つような暮らしぶりでなかったことは想像ができたし、そんな環境で誰かから隔意を抱かれるという事もこれまでにはなかっただろうから、多少なりとも不安はあるだろうし、納得のいかないこともあるのではないか。

 「うん。人にはそれぞれに自分の守りたい世界があるんだと思うんだ。それは何気ない日常であったり、地位であったり、将来への展望であったりするだろうな。ウォルフ家の人達にとっては俺と言う存在は自分たちの今後の計画に組み込まれるべき人材であったと思うし、フィアが現れたことによってその計画が成り立たなくなるかもしれないと言う風に考えるかもしれない。」

 「はい。」

 フィアにとっては自分の成長の過程で種族特性による本能を満たすために取った行動であることは、ある意味自然なことだと思う。

 ここまでの話の内容は理解しているようだ。

 「お父様は自分の事業を盤石なものにするために俺をウォルフ家に取り込みたかっただろう。お母様はお父様の考えを実現するために自分の娘と俺の婚姻を望んでいただろう。その娘も俺の正体を知ったうえで慕って、将来お嫁さんになることを疑っていなかった。そうすると、それぞれに思う処はあるんじゃないかと考えられるだろう?」

 「・・・はい、私のとった行動は貴族の方々のお考えに反することになっていたのですね。」

 自分の行動の影響というものを理解したようで、フィアは俯いてしまった。

 「フィア、貴族への影響と言うのは確かにあったかもしれない。だがな、フィアが忘れていることがある。」

 「私にはわかりません。」

 「俺の気持ちだよ。」

 「!?」

 「フィアが、俺を契約対象と考えてもいいと思ったように、俺もフィアが側にいることを望んだんだよ。知らなかったのか?」

 僅か15歳の少女がたとえ生きるためとはいえ、大剣を振り回し、仲間も作らずにモンスターと対峙してきた人生。種族特性に縛られ、厭が応にも人族に精を求めなければならない身上。意に沿うか否かではなく生きるかそれを諦めるかという選択肢の中で俺を選んだという事実。

 これだけの迷いを乗り越えて俺の元へやってきたこの少女をその時点では受け入れるしかなかった。

 その時は打算や同情があったのかもしれないが、今はそうではない。

 フィアは、俯いたまま何かを堪えるようにしている。

 「ソウタさんはそれでよかったのですか?私はソウタさんに断られればただ、別の契約対象を探しに行くだけでした。でも、ソウタさんとその、最初にキ、キスをしたときに思ったんです。“絶対にこの人だ”と。私を生んでくれた母や、守ってくれた父とも違うとても不思議な何かを感じました。それはご迷惑なことだったのでしょうか?」

 俯いたままそこまで語ったフィアは、顔を上げ縋るような目で俺のことを見た。

 「フィア。人と言うのはね、感情で生きていく生き物なんだ。自分の納得できていないことには真剣に取り組むなんてことはできないし、自分を賭けるなんて絶対にできないよ。フィアには悲しい思いをしてほしくないし、怪我なんてさせられない。俺が自分のすべての力を使って守れるならどこまでも俺の側にいればいい。だから、自分の居るべき場所をもう二度と不安に思うのはやめてくれ。」

 また俯いてしまったフィアだったが、並んで座った俺の膝に握りしめた自分の手を置き、いろいろ我慢しているようだ。

 俺はその手に自分の手を上から重ね、お互いの体温を感じられるように包むようにした。

 「ぐぅ」

 腹が鳴る音だ。

 「すみません!蕎麦を二人分貰えますか?」

 おれは茶屋の主人に大声で注文を飛ばす。

 フィアは俺をぽかぽかと殴る。

 シリアスが似合わないのはどう見ても絶対に俺のせいじゃないだろう。


 俺の分の蕎麦もたいらげて、フィアはようやく落ち着いたようだ。

 時間もいいようなので商業ギルドへと戻ることにした。

 商業ギルドも朝の繁忙期を過ぎ、今見る限りでは2頭ほどの馬車しかいないようである。

 正面の出荷場を掃いたりして清掃している下働きの子にミトを呼んでくれるように伝えると、先ほどの若い男がすぐに表れた。

 「ようこそいらっしゃいましたね。」

 「ミト、どうしたんだよ?」

 いきなり態度がよそよそしい。

 「貴族様に失礼があっちゃいけないんですよ。ギルマスが待ってますんでこちらにおいでください。」

 ギルドマスターに何か言われたんだろうか?

 「こちらです。」

 ミトは俺たちを4階まで案内し、一番奥の突き当りの部屋で扉をノックした。

 中から返事があり、扉を引いたミトは俺たちを中へと誘う。

 この世界では珍しく、絨毯敷きのかなり大きな空間だった。

 外が良く見える大きなガラスの窓を背に、大柄な壮年の男性が執務机に着いていた。

 決裁書類のようなものを片付け、俺たちをソファースペースへと案内する。

 ミトは入り口の扉を閉め、そこに直立の姿勢だ。

 「どうぞお掛け下さい。」

 低い声でソファーを進められ、フィアと並んで片方に掛ける。

 「私はこのギルドのマスターを務めておりますフロウトと申します。以後お見知りおきを頂けますよう。」

 「今日は忙しい中も時間を都合していただき、申し訳ない。ソウタヤマノベと言います。こっちはフィアです。」

 「さて、本日はどのようなご用件でしょうか。」

 「私はトサンのウォルフ家に縁があり、クノエに向かう旅の途中なのです。」

 昨日からの出来事をどこまで話していいものかわからないのだが、自分たちの身に危険が及んでいることと、危害を加えられる意図が判らないこと。降りかかる火の粉を振り払う手段がないことなどについて話した。

 そのうえで、ウォルフ家とのつなぎを作りたい趣旨についても話している。

 「ウォルフ家当主は信用に値します。彼に協力を求めつつ私たちはクノエまでの移動を続けたいのですが、移動を続けながらの連絡の手段を提供していただきたいのです。」

 「ウォルフ家当主はとおっしゃいました。それ以外はその限りではないと?」

 このフロウトと言うギルマス、かなり核心まで判っているようだ。

 話の前後にそれ以外の登場人物もいないから容易に想像できてしまうのだろうが、大丈夫だろうか。

 「はい、お察しの通りです。」

 「いいでしょう。ソウタ様のおっしゃることについておおよそのところは了承しました。しかしながら、ギルドの活動として捉えますとさて、段々に距離が離れていくあなた方とトサンの貴族家をつなぎ続けるのはいささか骨の折れるご依頼と考えざるを得ません。我々にはどのような見返りが期待できるのでしょうか。」

もちろんこんな面倒事、多少の金で解決できる仕事ではないだろう。

 どのようなメリットをご所望だろうか。

 「一つのアイディアがあります。これを聞いてご判断いただき、商機とみれば私の依頼に対する正当な対価としてお受け取り下さい。」


 この世界にもモノの流れが存在し、狭い範囲ではあるが荷馬車などによる輸送が行われている。

 これらを利用することを前提に「宅配便サービス」の有用性について話した。

 また、手荷物を預かるための窓口となる営業所の拡充と、それが十分な数に達した際に次の手として「お取り寄せ」などの二次展開の可能性についても説明した。

 郵便事業が個人経営的な規模でしかなく、飛脚と言われる特定の多くない職業人のみによって行われているところも美味しいチャンスになる。

 同じ物流ルートを使うことで「メール便」も簡単に実現できる。これからの物流と情報の移動を集中して取り仕切ることで商業ギルドの専売制を国や地方領に先駆けて制度化することで大きなシェアを独占することが可能となる。


 「ううむ。お伺いするにつけ私どもにとっては初期の投資も大きくなく、先を見据えても大変な商機となるでしょう。商圏を拡大するという事を踏まえてあなた方にお力添えするには十分な対価と言えそうです。しかし、よろしいのですか?聞いてしまったからには商業ギルドではソウタ様抜きにしても実現できてしまうのですが。」

 「それは構いません。いずれ誰かが考えることでしょうし、今お話ししましたことについても採算性などについてはギルドの方々でなければ見当はできません。あくまで私の話したことは単なるきっかけだと思ってください。」

 「ありがとうございます。良いお取引ができそうですね。」


 商業ギルドを辞し、古い街並みが並ぶ観光地へとやってきた。

 先の時代から続く老舗の商家が軒を並べ、土産物を扱う店や郷土の料理を振る舞う店なども多くみられ、小腹に何か入れたい時間でもあることから、フィアと共に餅を食べさせる店へと入っていった。

 「ソウタさん。先ほどのお話し合い、私にはほとんど理解できなかったのですが、どういうことになったのでしょうか。」

 「うん。俺は、お父様についてはこの件とは全く関係ないという風に考えている。それを大前提に今までのことをお父様にそのまま伝え、貴族の体面を維持するために家族の状況に目を配ってもらおうかという事なんだ。」

 「それと商業ギルドとはどのように?」

 フィアにはまだ、お父様に全容を伝える意味が伝わっていないようだ。

 「貴族はね、たとえ身内のことでも刃傷沙汰が表に知れると味方ではない貴族に有もしない風聞を広められてしまうきっかけになり、それが権勢に影を落として収める領土が乱れてしまう原因になることもあるんだよ。」

 「はい。そう言われると判りやすいです。」

 「だから、当主の目の届かないところで要らぬ画策を図る者たちが居ないようにしなければならないし、その可能性を示唆する周囲の計らいも必要になるんだ。当主が知る機会があれば、それの是非を問う事もできるし風聞になる前に沈静化を図ることもできるだろ?」

 続けて聞かせる。

 「俺たちからいつ、どのようなことがあったという事を商業ギルドの伝手を利用してお父様に知らせ、その時期に疑わしい行動を執っていた者を見つけ出すことができる。また、逆にお父様から俺たちにまで疑わしい者の行動が速やかに届けば、危険を予め知ることができるので容易に対処することができるようになるんだ。」

 「はぁ、貴族様と言うのはそのように色々な面から物事を考えなければいけないのですね。」

 フィアの言うとおりである。

 周りを信用できず、別の伝手を使って探る。実に面倒で非効率的な種族だと思う。

 餅を炙り、醤油をからめ海苔を巻いたモノと、大豆を乾燥させ粉にひいたものに砂糖を加えた「きな粉」をまぶした二種類の焼いた餅を堪能することができた。

 「商業ギルドは見返りに新しい商売の方法を知ることができたし、お父様は不穏な動きをする者を警戒し、世間体の悪いことが起こらないように見張ることができた。そして俺たち二人は全国に張り巡らされた情報網を使わせてもらえることによってウォルフ家が原因の危険を知ることができるというメリットがあるんだ。」

 「すごいことが話し合われていたんですね。全てが判ると私なんかのために頭の下がる思いです。ありがとうございます。」

 「うん。確かにフィアのためにってところが最大の理由だけれど、フィアと居る今を容認してくださったお父様のためにも大事なことだったんだよ。だから、そんなに気負う必要なんてどこにもないからな?」

 それでもこの子は気に病んだりするんだろうなと、思うんだがどうだろうか?


 その後、もちゃもちゃと餅を咀嚼したフィアを伴って店を後にし、観光を続けたのだが、始終静かだったものだ。

 宿に戻り、夕食を済ませ、貸し切りの露天風呂に入っても静かすぎるフィアが段々こちらを不安にさせる。

 とうとう、布団に入るまでほとんど口を開こうとしなかったフィアは、俺の右腕にしがみついたと思ったら怯えるように震えていた。

 「おい!?どうしたんだ。」

 それでも一言も発しようとしない。

 本気で不安が伝播してきた俺は思わずフィアを両手で包むように抱きしめる。

 それでも震えの収まらないフィアは腕の中でとても小さく思える。

 その小さな体を完全に抱え込んで10分もしたころ、ようやく落ち着き始めたフィアは俺の懐から出ようともせずに胸に顔をうずめたまま小さな声で話し始める。

 「私、今まで誰かに恨まれるとか命を狙われるとかそうした経験がありません。モンスターは一期一会でその時に怒りを向けられますが、恨んだりはしないと思うのです。」

 ああ、そういう事か。

 いま、フィアの心の中を理解した。

 人との関係が薄かったこれまでの生活で、誰かと深くかかわったり感情をぶつけられたりしたことはなかったのだろう。

 今になってはっきりとした殺意を向けられる恐怖を完全に認識し、その相手が見えないことのもどかしさや得体の知れなさが生む抗いようのなさに戦慄しているのだろう。

 俺はもっときつく抱きしめ、怯えを含んだ表情を見せるフィアに強引にキスをした。

 「ん!?」

 体が硬直するのが判る。しかし、そのまま口づけをつづけ髪をなで、抱くことをやめなかった。

 予想外だったのだろうフィアは、どうしたらいいかわからない表情のままされるがままになっている。

 恐怖に揺れていた瞳に戸惑いが混じり、困惑に囚われたことを見計らって開放する。

 「フィア、冒険者はモンスターだけを相手にするわけじゃないんだ。長く続ける過程で冒険者崩れの盗賊や、凶作に見舞われた農夫などが近隣の村を襲う場合にも依頼を受け、討伐をすることもある。こうした際にはどうしてもその背後にある理由や関係を犯してしまう。後でわかることが多いがそれで悲しみを負ってしまう人たちが居たりしてな。当然誰かはその冒険者を恨むことになるだろう。」

 一語一句を聞き漏らすまいとフィアはこちらを見ている。

 「もっと言えば、今まで一緒にいた仲間が何かをきっかけに仲違いすることもあるだろう。次の日も顔を合わせなければならないというのにその気まずさは夜も寝られないほどだ。それでも次の日は来てしまうし、逃げ出せない状況もあるよ。きっと相手は俺のことを恨んでいる。自分一人で立ち向かうには心細いったらないよな?」

 フィアは真剣な表情で頷いた。

 「でもな、フィアに限ってはそうはならないんだ。」

 「なぜでしょう?」

 「相手が誰でも、俺が絶対に守るからな。」

 「ふぁ?」

 キョトンとした表情になったところで、もう一度キスをする。

 「う、んん!」

 「お前は一人じゃない。しかも完全に守ってやる。だから、人から向けられる殺意があったとしてもそれはどうあってもお前には届きはしない。だから一人で悩んでも仕方がないんだよ。」

 「ソウタさんの前に立つのは私だったはずです。」

 「生意気な!それは俺のこの攻撃を耐えきってからもう一度言ってみろ!!」

 「やっ、あんっ。つぅ。はぁあん」


なんか、パターンができそうな気がします。

でも、ストックがないのは最初からです。

初期設定と言うやつでしょうか。


ソウタがダメになって行ってる。

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