【第88話】SかMか?
いつもお読みくださってありがとうございます。
週中ではありますが、書き溜めが意外に順調ですので、嬉しくなって投稿です。
これが後になって響かなければいいのですが。
シンコを目前に一晩を過ごし、翌朝にはシンコへと馬車を乗り入れた。
時が止まったかのように外国の風情をとどめおき、異国情緒が目を楽しませるこの街は以前に訪れた時と何ら変わることのない通りや建物、イウロペやアイアメリカの方から来たと思われる風体の外国人やアジア、中東から来たかのような面立ちの人達が当たり前のように暮らしている。
そのほとんどが貿易に携わる人だという事だが、輸出入を営んでいる人が多く暮らしているだけあって、ちょっとした店に入っても神国の物ではない製品を取り扱う店舗がとても多く、見ているだけでもこれも目を楽しませる。
フィアは早速と俺たちの生活を潤すような小物や、妻たちで使うための雑貨の類を他の妻たちを連れて買い漁っているらしい。
シロップとアニエスは異国に触れる機会もなかったからか、とても楽しそうにフィアの後をついて歩いている。
足を止め手にとっては意見を述べあい、フィアと一緒に財布の紐を緩めているらしい。
如月はと言うと、子供服を探しているようで、出たり入ったりする店で必ず衣料関係のコーナーを物色しているのが面白い。
他の三人が雑貨や飲食物を楽しんでいるのに、抱いた睦月に合うような服を見繕ったり、自分の衣装を軽く吟味しているように見えたのだ。
「フィア、ちょっと如月を借りてってもいいかな?」
「どうされたんですか?如月ちゃんがなにか?」
「いや、何かあった訳じゃないんだ。みんなと違って人の姿になってからが短いから持ってるドレスとか少ないだろ?もうちょっとだけ買い足しておこうかなと思ったんだよ。」
「いいですね。じゃぁ、如月ちゃんとお出かけされますか?」
「シロップとアニエスを任せてもいいか?」
「ええ、もちろんです。でも、私たちと合流はどうしますか?」
どうもこうも、どこにいるかもその時に見ている光景も判るんだから、こっちから迎えに行くにきまってる。
「俺が迎えに行くからどこに居ても大丈夫だ。」
三人の嫁たちはそれが判っているからこその惚れ惚れするような笑みで如月と俺を送り出してくれた。
「あなた、私別に服が欲しい訳じゃなかったんだけれど。」
それは嘘だ。見ていれば判るだろうに睦月と自分の着るモノしか見ていなかったじゃないか。
それなのに遠慮する如月が可愛いとしか言いようがない。
「どんな場所でそれが必要になるかは判らないだろ?睦月だってこれからたくさん運動するようになるよ。
ちょっとぐらい買い足しておいた方が良くはないかな。ついでと言ったら如月に申し訳ないんだが、色々な場面で如月の着るモノが足りていないと思うんだよ。綺麗でいてほしいのは勿論なんだが、他の妻と同じように都度に着替える衣装を準備しておいてほしいと思ってる。
俺の妻に性格の違いはあってもいいが、それ以外の差は認めたくないんだ。
どんな場所でも全員の持ってるポテンシャルと言うモノが等しくないと俺が嫌なんだよ。」
言ってることが判ってもらえたのか、頬を少し染めて俺のシャツの袖を摘まんできた。
「あなた、私そこまで見ていてもらえるって思ってなかったの。でも、あなたがそう言ってくれるなら、フィアちゃんやシロップちゃん、アニエスちゃんのようにしていてもいいのかしらね?」
「如月、何を遠慮してるのか知らないが、そう言う遠慮はナシにしてくれないかな。ちょっと考えればわかるだろうが、俺が天寿を全うしたならフィアも同じ日に死んじゃうよ。アニエスもシロップもそう何年も変わらずにヴァルハラに居る俺のところへ来るだろう。
如月、お前はいつ俺のところへ来てくれるつもりなんだ。」
「そ、それはだって、私は人ではないし。」
「うん?人でなければなんだって言うんだ。如月は俺の嫁で俺が死ぬまで俺の妻だ。何か違うところはあるかな?」
如月の右の瞳から一滴だけ涙がこぼれた。
顎にまでたどり着いたその涙を俺が人差し指の背中で掬い取ってやる。
「そうよね、あなたってそう言う人だったわ。私の正体が何かなんて関係ないんだったわね。」
「それについては異論がある。如月の正体が何であるかを必要ないのは俺だけじゃないぞ。フィアもシロップもアニエスもそんなことを問題だとは思ってない。さっきの嫁たちの態度を見てれば判るだろ?」
「ははは、そうだったわね。私、なんだか様子見してたのがバカみたいじゃない。」
「実際そうなんだよ。」
お互いを揶揄い合って、キスをすればそれで気持ちが通じる。
それが妻ってモノだろう。
「じゃあ、私と睦月の洋服を一緒に探してくれるかしら?」
「仰せのままに。我が姫。」
二人で笑ってしまったが、それからは俺が睦月を抱き、如月と睦月に似合いそうな衣料品を求め、手をつないだまま練り歩くことになった。
如月のドレスを3着と睦月の可愛い衣装を2着に妻たち全員の分のナイトドレスをそれぞれのイメージに合わせて俺が選んでみた。
気に入ってくれるといいのだが。
その後は俺たちの馬車だけでなく、生活車両でも使ってほしいアロマグッズや補充したかった馬車の寝室用のシーツにフィアが探していたユニコの鬣につける髪飾りなども手に入れることができた。
唯一俺が買ったのは輸入品で、マーケットでしか手に入らないと思っていたいつもの紅茶だ。
何気に立ち寄った香りを専門に扱うお店で普通に売っていたのが嬉しかった。
如月と2時間ばかりのデートを楽しみ、睦月を俺が抱いたままフィアたちの元へと戻った。
「ソウタさん、お帰りなさい。」
アニエスが満面の笑みで迎えてくれた。
アニエスたちが居た場所と言うのがドライフルーツを扱っている店舗で、三人が探してくれていたのは俺が疲れた時に口に入れたらいいと思う甘みなんだと言う。
昔の童話にあるように、妻へのプレゼントに髪を梳く櫛を買う夫と、夫の懐中時計に似合う鎖を探す妻がそれぞれのプレゼントを買うために鬘に使う人毛として髪を切って売り、櫛を買うために懐中時計を売ってしまう夫みたいにならずに済んで嬉しかった。
以前に寝物語としてその話をフィアに聞かせた時に、フィアに号泣されてしまい、シロップとアニエスに可哀想だと俺が責められ、如月にたいそう怒られたことがあったんだがそれをつい、思い出してしまった。
お互いにお互いを思いやることが我が家では当たり前になっていることに深い満足感を覚えてしまった。
その間に仲間たちが何をやっていたのかと言えば、女性たちは身装具に化粧品の類など自分への投資に余念がなかったし、男たちは趣味の世界へと走り回っていたらしい。
キヨシゲさんが書店から出てこなかったように、タケヨシさんが西洋のマインゴーシュを買い求めていた様に、それぞれがひと時を楽しんだと聞いた。
気になったのはタケヨシさんが新しい片手半剣を求めて入った武具店で、配られていたチラシで「画期的な殺傷兵器をお求めではありませんか?」と書かれた一文のみのカードサイズのもの。
連絡先もなく、店主に聞いても誰がそこに置いたのか判らないというのだ。
そのカードを得た客がどうやって「画期的な物」を買う事が出来るのか全く分からないチラシだったのだが、俺の引っ掛かりを聞いていたタケヨシさんはもしかしてと言う疑問だけでそのカードを持って帰ってきてくれていた。
その店の店主と接触するメンバーを増やさないように注意しながら、シンコの宿で長期逗留することにし、腰を据えて「殺傷兵器」探しをすることにしたのだった。
神国の日常を乱す可能性がある全く新しい不安要素を排除したい。
この世界にやって来るのは良いが、それが制御できない状態になるのは兵器の場合は全くいただけないのだ。
そして、今、その可能性に近づきつつあることからも、タケヨシさんを毎日その店に通わせて謎を解くために色々を探る探偵のような真似ごとを毎日繰り返している。
店に通う道すがらと、店の中の客の識別、店員それぞれの出勤までと退勤後の様子など、メンバーを総動員して事の解決に当たった。
囮となったタケヨシさんが店に日参する傍ら、その道中で不特定の中から毎日の変化を濾し取り、共通項を日数を掛けて調べたのだ。
それぞれのメンバーが色々な場所から定点観測したり、周辺を探ったりとできることを積極的にこなしたおかげで、幾人かの怪しげな通行人や客、店員を浮き上がらせていた。
タケヨシさんが武具店に通う時間を完全にランダムとし、すれ違う通行人を定点観測していると必ず後ろに立とうとする男を発見することができた。
そして、店内に入るとタケヨシさんの行動を把握しようとする客。
この客はタケヨシさんの居ない時間にもチラシの枚数を確認したり、タケヨシさんが来店すると興味を示した物を確認しているようなそぶりを見せる。
これで店員にも挙動のおかしなものが居れば監視対象にしようと思ったのだが、店員に規則性や交友関係のおかしなものは見当たらず、通行人と客に的を絞って入れ替わりで尾行を続けた。
そんな作業を続けて五日ほどが過ぎたころにようやく動きが現れた。
「あなた、毎日チラシを持って行ってくれてますが、人を殺める計画がおありですか?」
とうとう、タケヨシさんに店の中に居た客が声を掛けた。
この客も皆勤賞で店に顔を見せており、様子の確認が終わったのか接触を図ってきたのだ。
「ん?このチラシを置いているのは君なのか?どうやって連絡を取ったものかと随分と苦労したよ。」
「ははは、すみませんね。仕事柄、慎重にやっていかないと長く続けられないモノでしてね。」
俺がどこでこの会話を聞いているのかと言うと、実はタケヨシさんの真横でタケヨシさんと一緒に並んで聞いているのだ。
それで疑いもなく話しかけてくるこの男には、俺は見えていない。
正確には視界には実際の景色として俺も映ってはいるはずなのだが、俺を人として認識していない。
可視化不可という魔法の効力により見えていても注意を払おうとしないのだ。
故にタケヨシさんが一人でいるようにしか見えず、周りに監視が無いと思い込んで話しかけてきたという訳だ。
この数日の間、ずっとこのように可視化不可魔法の効力を発揮したままタケヨシさんの真横に居たのだった。
「それでお客さんはどんな種類の武具を探してるんでしょう。」
「そうだな、俺は魔法力はそう強くないからな、できれば魔力を節約できて殺す相手に近づかなくて済めばなおありがたい。
しかし、そんな都合の良い武器なんてあるかい?」
「大丈夫ですよ。たくさんの種類もありますから、中には相手に気づかれないほどに遠くから命を奪う方法もありますので、お任せください。
この店の中で取引を行うとやばいんで、店を出ませんか。」
言われて、タケヨシさんを先導するように男は店の出口へと向かっている。
タケヨシさんの肩をポンと一つ叩き、二人並んでその男の後をついていくことにする。
男は身長は高くなく、170㎝ほどだろうか。顔立ちから神国の人ではないようだが、どこの国の人かまでは判断できない。
あえて言うなら欧米人だ。
非常に流暢な日本語で、ラフな出で立ちなことから地元に長く暮らす者なのだろうと推測することができる。
周囲への警戒感もただならぬモノがあり、もう一人マークしている歩行者との関係にも注意しておこうと思う。
ビジットファルスの魔法を効果範囲を拡大しながら常時発動させ、周辺2kmは俺を認識することはできないだろう。
表の通りに出て、道の端を縫うように歩く男に遅れないように付いていき、海辺へと歩を進めると港に近い訳ではないが、海からの距離がとても近い雑居ビルへと連れられて行った。
さほど新しいビルでもないようで、上にあがる階段の壁面には所々にヒビが入り、それを補修した跡と更に刻まれたヒビが模様のようになっている。
ワンフロアが結構狭いこのビルにそれほどの在庫が置かれているとは思えず、更に背後に何某かの組織立った関係があると考えることができそうだ。
当たり前のように階段を上がり始めた男は、四階まで息も切らさず登り、勝手知ったる様子から、普段からここへ出入りしているのだろうという事もうかがえる。
タケヨシさんも俺も軟な鍛え方はしていないので、同じように息を切らすことは無い。
そうして立ち止まった部屋は表札も看板もない空き部屋とも思える部屋の前だった。
扉に嵌っている向こうの見えないガラスからも部屋の中が伺えないが、俺の視界にオーバーレイされた探知魔法には例のタケヨシさんの後ろを歩く歩行者が部屋の中にいるのが判る。
何らかの合図でも交わすのかと思えば、ポケットを探り、合鍵を使って無造作にも扉を開けてしまった。
「ここで取引を行いましょう。店長が居ればすぐにも商談が進められますんで、中でお待ちいただけますか?」
連れてきてくれた男はそう言い置いて、衝立の向こう側へと入っていった。
入れ替わるように見慣れてしまった通行人の男が衝立から出てきて、商談に入ろうとする。
「いらっしゃいませ。魔法力を使わずに済む兵器をお求めとか?」
「ああ、俺の魔力量は非常に心許なくてな、兵としてしばらくはやって来られたんだが、退役してからは冒険者としての道を選んだんだ。
兵としての実力が無かったんだろうが、魔物とやり合うときに結構大変だってことが判ってな、稼ぎを充てにするには辛くなってきてるんだよ。
それで俺に向いたのがあるっていうからさ、買えるモノか、使える物かを見せてもらいたかったんだ。」
「そう言う方はたくさんいらっしゃいますよ。こちらにお掛け下さい。」
そう言うとタケヨシさんを丸テーブルの置かれた隅の席へ掛けさせ、自分は二つのアタッシュケースを携えて戻ってきた。
一つ目のケースから現れたのはベレッタM92ハンドガンだ。
9×19mmのパラベラム弾を互い違いに組み合わせて15発も装弾出来る優れものだ。
反動も軽く、直進性に優れた弾を使えるという良い銃を持ってきたものだ。
「こちらは携帯性に優れたハンドガンと言いまして、両手でも片手でもイケる拳銃です。」
「拳銃と言うのはどのようなものです?」
「この握り手にマガジンと言う弾をいくつも詰めたものを差し込みますと、引き金を引くだけでこちらの銃口から勢いよく弾が飛び出し、敵を殺すことができるという相手に近づかずとも成果を得られる武具でございます。」
「今試せるのですか?」
「いやいや、結構大きな音がするのが欠点でしてね、ここでは他の住民に何事かと知られてしまいます。
試射をお望みでしたら別の機会に、別の場所へお誘いしますが。」
「他には?これは見るからには判りませんが、大きな魔獣とも渡り合えるのですか?」
「そうですね、多少不安があるかもしれません。それでしたらこちらの方がご安心いただけるでしょう。」
そういってもう一つのケースを取り上げ、テーブルの上で開いて見せる。
俺でさえも驚いたそれは、ソビエト製のカラシニコフAK-47自動小銃だった。
7.62mm弾を毎秒600発撃つことができる世界標準ともいえるベストセラー機だ。
マガジンは30発入れられ、7.62×39mmという膨大な火薬を薬莢に蓄えたタフな小銃だ。
田畑に埋まって一年経とうとも当たり前に稼働するというタフな構造とメンテナンスが容易であり、泥水に浸かっていても相手に弾を叩き込むことができるという恐ろしいまでの堅牢性を誇る。
こんなものまでこの世界にあるという事が驚きと言える。
中国製の粗悪品や第三国で作られたコピー品でさえも普通に使えるという恐怖の殺傷兵器は目の前にあり、純正のソビエト製だ。
「こちらはバラバラなようですが、使えるのですか?」
「もちろんでございます。簡単に元の姿に戻せますし、こうして格納すれば場所も取りませんから携行性にも優れているのです。
また、30発マガジンも5個ございますのでしばらくはお困りにならないでしょうし、私どもにお申し付けくだされば、いくらでも用意いたします。」
「こちらが7.62mmで、ハンドガンが9mmと言うことでした。9mmの方が威力がありそうですが。」
「そうではございません。弾丸の直径が大きい方が威力はもちろんありますが、薬莢の長さが違います。これは籠められた火薬の量が大幅に多くなっていますので、弾の直径を上回る威力となって相手を仕留めるチカラになります。」
「ほう!それは頼もしいですね。」
そうでしょうとも!と、揉み手でタケヨシさんににじり寄っている通行人だが、案内してくれた店に居た男も油断ならない。
先ほどから気に掛けてはいるが、衝立の向こうからずっと様子を探っているうえに、懐にベレッタと同じ9mmパラベラム弾を装填したワルサーP38を装備し始めた。
初弾を供給済みのようで、安全装置も外しているようだ。何かあればすぐにも対応できるんだろうが、それをそのまま許すわけにもいかない。
テレポートして男の背後に立ち、頚椎を突きながら麻痺魔法をかけ、懐のワルサーの安全装置を掛けながらマガジンを抜き、弾を全て抜き取った。
初弾もコッキングを手動で引き上げ、発射前の状態で排莢した。
全てを元に戻し、懐にワルサーを仕舞ってからテレポートと同時に麻痺を解いておいた。
自分に何かあったと思いもしない男は、相変わらずタケヨシさんの商談の様子を確認し続けている。
「それで、お客様はどちらをお気に召されましたでしょうか。」
「もちろんこちらの大きい方です。こちらの方が殺傷能力が高いのでしょう?」
「それは間違いございませんが、その分お高くなっています。お支払いの方はいかがなさいますか?」
提示された金額は200万円ほどにもなる。
「大丈夫です。その金額で譲ってはいただけませんでしょうか。」
「それは大したものですね。本日お引き取りになられますか?」
「いえ、本日はお金の用意がありません。どうしましょうか?あと、予備の弾も欲しいのですが、一緒に準備してくれませんかね。」
「そうですか、ありがとうございます。それでは三日頂けますでしょうか。その間に準備しておきましょう。三日後のそうですね、今の時間ごろにもう一度お越しいただいても?」
「判りました、これでまた冒険者稼業を続けられそうですよ。いい商品をご紹介くださって、ありがとうございます。では、三日後に。」
タケヨシさんが席を立つと男は入り口のドアまで見送りに来てくれた。
互いが別れの挨拶を告げ、タケヨシさんが外に出ると男はあの武具店に居た客に話しかける。
「随分と上玉が釣れたな。個人でこれを買おうなんて奴がいるとは驚きだろうに。おまえ、今日からあの客を見張れ。どこのどいつかを確かめるんだ。万が一神国の貴族につながってでもいてみろ?俺たちは間違いなく消されるぞ。」
「へい、判ってまさぁ。こんなにうまい商売をそうそうナシにはできませんからね。」
フォーセスコンフェッシオンを発動し始める。
俺がどこに居るかと言えば、通行人の男の横だ。店に居た客の向かい側に当たり前のように立って、話に参加していたのだ。
「今までに何丁ぐらいの銃火器を販売したんだ?」
「この二年くらいの間で800丁は売れただろう?」
「どこに?」
「ほとんどはこの辺りを中心にサンコウまでの西側だったよな?」
「じゃぁ、仕入れ先に案内してくれるかい。」
「いいともさ、さっきの客の予備の弾も随分と持って来なきゃなんねぇしな。」
まるで当たり前のような会話を交わしながら、この二人は疑問に思いもせずにこれから出掛けようとしている。
「じゃぁ、暗くなる前に行こうか。」
俺の言葉に二人が賛成し、三人で出かけることにした。
いつもなら聞くだけ聞き出したら始末しているが、今日はこの後が重要だ。
フォーセスコンフェッシオンを発動したままでビジットファルスも効かせつつ、三人で戸締りをして出掛ける。
物陰に隠れているタケヨシさんに目だけで趣旨を伝えると、頷いてくれた。
先を歩く二人は俺のことなど全く意にも介さずに港の方へと歩き出した。
中に何も入っていないことを確かめた吊りカバンを肩に下げた客の方の男と、予備の弾を買うための資金を確かめている通行人の男のくだらない話を聞きながら後ろからついて歩いていると、会話に不穏な単語が混じる。
「そう言えば、いまシンコにトウトから公爵が入っているらしいぜ。その公爵の嫁たちがなんでも見たことが無いほどに綺麗どころを揃えているらしくてな、あのバイヤーも気になってるらしい。
別の人身売買系のブローカーに入手できないか話してるってことだ。
俺は見たことはねぇが、そんなにお綺麗なオンナ達なら世話になってみたいもんだぜ。」
「本当ですかい?俺はサキュバスが居るって聞いてますんで、そいつの世話になってみたいもんですぜ。
サキュバスと言えば、見目麗しいオンナしかいないっていうじゃないですか。きっと良いんだろうなぁ。って思いませんか?」
俺の中でこいつらを生かしておく理由がなくなった。そしてバイヤーと言う奴。個人か複数かは判らないが、何かが起こる前には消しておく必要が有るだろう。
人身売買の組織事な。
更にイライラさせる会話を続けながら波止場の倉庫街へとやって来た男たちは、今にも崩壊するんじゃないかと言う倉庫へとたどり着き、出入り口の鍵を開けて中へと入っていった。
俺も当たり前のように後について入り、ほとんど灯りの届いていない倉庫の中へと入ることができた。
「おう、お前たち久しぶりじゃないか。また銃の追加が欲しいのか?」
「へい、良い客がつきましてね。7.62mm×39mmの弾が欲しいんでさ。」
「あのAKが売れたのか。今日はいいことが続くな。人身売買組織の方からも良い話があってな、例の公爵の嫁たちを確保できそうだって言うんだ。今から気が昂ってしょうがないぜ。」
フィアたちにも危険が迫っているらしい。ここはゆっくりともできないようだ。
「俺の妻たちに手を出そうとしているんだって?余程命が要らないんだな。」
「なんだ!?誰だてめぇは?」
「次元断層。」
時間の止まった空間へ三人を確保し、一人になった倉庫内を検め始めた。
そしたら出るわ出るわ。段ボールの中も木箱の中も、コンテナの中にも軽火器から重火器まで相当量を持ち込んでいる。
次元断層の中を確認して、バイヤーと言う奴を鑑定した。
中島弘道、46歳の日本人。丸萬興業という有限会社に勤務している所謂暴力団構成員だ。
東西を問わずに武器商人をやっていたらしいが、何かの理由で荷物ごとこっちに来てしまったのだろう。
それらを元手にこっちの世界でもたんまりと稼いででも居たのだろう。
これが捕まえてはみたものの、こっちの奴だったりすると出所が判らなくなるところだった。幸いにいきなり主犯格を抑えることができて、後はフィアたちを守られれば完全勝利と言うところだろうか。
倉庫の中身をいつもの次元断層倉庫内に仕舞い、フィアの居る場所へとテレポートした。
「わぁ、ビックリするじゃないの。」
如月の真横に出てしまったらしく、たいそう驚かせてしまった。
俺はそれどころではなく、周辺を探知魔法で探る。
如月やシロップ、アニエスにフィアと言った俺の妻たちに視線を向ける奴らを探そうとしたが、道を歩くほとんどの連中が俺の妻たちを見てはほぅ、と、ため息をつきやがる。
そしてそれは探知魔法に現れる輝点を増やすだけの結果となり、的が絞れない。
全員が綺麗っていうのはちょっと今の場合には困ったことになりそうだ。
面倒の起こる前にと、妻たちと娘たちを範囲指定してまとめて次元断層のトンネルを抜けた。
「ちょ?ソウタさん、どうしたんですか?」
さすがにフィアも驚いたようで、俺の方を見つめてくる。
今いるのは俺たちの馬車の側で、何人かの仲間たちも残っているところへ、いきなり飛び出してきたようなものだ。
ここでも俺は妻たちに返事もせずに周辺警戒に入る。
さすがにここまですると何かあったと判るらしく、フィアは同じように周辺警戒に入り、如月は睦月をシロップに預けている。
アニエスがユイの手を取り、フィアと如月が戦闘行動に入りやすくサポートし始めている。
「ソウタさん、数人の伝令が出たようです。かなりの人数が監視任務に就いているようですね。誰でしょう。」
「フィアやシロップ、アニエスに如月を攫って商売しようという奴らが居ることが判ったんだ。その客になる兵器ブローカーとバイヤーは確保したんで心配ないんだが、人身売買組織がまだ押さえられていないんだ、説明が足りてなくて悪いが今はそれどころじゃない。
伝令にはマーカーを討ったから、出会う奴全員にもマーカーを討つよ。
まとめてとんでもない奴は始末しておかないとな。」
アニエスとシロップはそんなことになっているとは思いもしなかっただろうし、自分の身の上を考えて身震いしていた。
「私たちを誘拐ですって?そんなことができると思っていたのかしら。」
「時と場合に依るよ、アニエスが真っ先に誘拐されてごらん。俺たちが手出しできなくなるのは間違いない。シロップが攫われても同じだ。
フィアだってユイを人質にされたら何にもできないだろう?
それは俺だって同じだ。
アニエスもシロップも自分が戦えないことを申し訳なく思ったらしいが、フィアへの話を聞いて改めて慎重にしなければならないと思ってもらえたようだ。
俺が二人に微笑んでやると、自分たちだけが弱者ではないという事が判ってもらえたようで、安堵の息をついている。
そう、全員が俺にとってかけがえのない宝物であって、全員が俺にとってのウィークポイントなのだと自覚してくれたようだ。
フィアや如月も自分たちの立場や場合によっては俺の足かせになることがあるという事に思い至ったようだ。
「それじゃ、今度からは私たちだけの行動は慎んだ方がいいようね。誰でもソウタさんの弱点になりうるわ。子供たちからも目を離しちゃダメね。」
「そうしたことは旅の間だけでいいよ。屋敷に居る時はどうにでもできるからね。貴族街に入れる賊と言うのも居ないだろうし、俺も含めて気を付けよう。」
「はい。」
皆が気を引き締めたところで相当の人数が取り囲むように寄せてきた。
しかし、兵でもないような者たちがそれなりに居たとしても俺の敵ではない。
雰囲気だけで全員にマーキングし、次元断層を開いてやった。
一人残らずの中島道弘に通じる連中を中島本人と共に金星の軌道上に放逐してやった。
500℃の熱と90気圧にも上る超高圧の金星に引き寄せられて温室効果ガスとの摩擦で燃え尽きるだろう。
最後まで確かめたのは中島が金星に落ちて行く姿だった。
すでに焼き殺されていただろうが、燃え尽きるまでその姿を追った。途中でその表情を見たが、信じられないという顔のまま焼けて行くのを確かめずにはいられなかった。
この世界にあって、自己研鑽を怠り、銃に頼った生活になっていたからだろうが、全く魔力が鍛えられていなかった。
当面の危機を回避できた俺は、馬車に戻り、危うかった妻たちの事を想うと昼間だというのにその身体を自分の物だと確かめるように、マーキングして回ったのだった。
フィアとシロップとアニエスに喜ばれ、如月に叱られたのは言うまでもない。
だが、それさえも俺の心の安らぎへとなりつつある。如月に叱られないと気持ちが悪いのは俺がM気質に変貌しようとしているのだろうか。
しかし、フィアとシロップとアニエスの事情も考えずに貪ってしまうのは俺のどこかにSの気質があってのことだろうか。そう思うのはたいていの場合は休んでいる如月を無理矢理頂くときにそう思うんだよな。
俺って複雑?
お蔭さまで47,000PV頂いております。
48,000PVまで半分を過ぎておりますので、さらに頑張りのギアを一段上げてまいります。
本当にありがとうございます。
また、ここ1~2話でまたブクマ登録をしていただけました。
新しくブクマいただいた皆様、ありがとうございます。




