【第85話】大量雇用
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とうとう41,000PV頂いてます。また、ブクマが100を超えました。
これもとてもありがたいことです。
もう寝る時間に近いというのに、支配人を伴って領主が部屋に押しかけてきて感激に満ちた気持ちを伝えようとする。
いや、これからしなきゃいけないこともあるので、長いこと居られても困るんだが領主の伯爵様、口が止まらない。
来てくれた感謝と、従業員も聞いていた陛下のお気持ち。数々の耳にした武勇伝と俺の娘たちが可愛いという話。
たっぷり30分は喋り倒したと思う。支配人が気を利かせて喋っている伯爵様を喋らせたまま連れて行ってしまった。
伯爵様は自分が退場していることに気が付いていなかったのだろうか?
廊下の向こうからまだ我が家を賛美する声が聞こえるんだけど。
若干、気圧された感が残ってしまったが、お蔭でアニエスも恥ずかしさでぐずり始めたのも忘れてしまったらしい。
そして四人の娘たちは全く目も覚まさずに布団を縦横無尽に寝返りで移動しまくっている。最初に寝かせた場所に居る者が一人もいないことに驚きと笑いが起こった。
妻たちも一つため息をついてから気を取り直して夜着に着替え始め、すぐに脱いでしまうのにキッチリと浴衣の合わせを整えていた。
如月がちゃんと着られずゆるゆるに着崩しているのは仕様だろうからいいだろう。
部屋の灯りを半分落とし、捕まえた如月から可愛がることにした。
相変わらず小さな体は抱くと全てが腕の中に納まる感じで、それでもメリハリのあるボディーはとても楽しませてくれる。
次にシロップを剥いて楽しんだが、体重が増えないように気を付けているというシロップの体は柔らかさと温かさに思わず抱きしめてしまう楽しみがある。
我が家一の姫様も華奢な体躯ではあるが、そのオムネはけっして寂しくはない。着やせするタイプだから浴衣が肌蹴るとなかなかに悩ましいことになってアニエスを可愛がるのはとても気持ちがいい。
そして、フィア。何年も連れ添って、毎晩必ず抱くこの子はそれでも恥ずかしそうにキスをねだって来てくれ、戦闘もこなす体は誰よりも引き締まり、完全に美乳となりつつあるオムネも手に零れるほどに美しい。
毎晩必ず一緒に気持ちよくなって、一緒にフィニッシュとなるのも俺をとても満足させてくれる。
それぞれの妻たちにそれぞれの特徴があり、飽きることのない夜の生活が楽しめている。
やはり毎晩充実したこの時間を楽しんでいると、これより多くの嫁は必要ないなと実感もする。
体力的なものからすればこの倍の嫁が居てもどうと言うことは無いのだが、タイプの違う四人だから毎晩楽しめているのであって、一人増えて誰かと似たような感想を持つとしたらどうだろうか。
きっとその似た嫁たちを俺は比べてしまうのではないか?
そうした時きっと先からいたこの四人を重用するだろう。後から増えた方が寂しい思いをするかもしれない。
そうだとすれば俺はとても失礼な奴に思われるかもしれないし、万が一、後の方の嫁を重用するようではこの四人にまとめて愛想を尽かされるかもしれない。
やはり、俺の嫁と言えるのはこの四人なのだろう。
自分で自分の考えに納得がいき、気持ちよく眠ることができた。
翌朝、目を覚ますと俺の頭に如月が埋まり、左腕にシロップが絡まり、右腕にアニエスがしがみついていて、俺の胸にはフィアが俯せのまま乗っている。
そしてその娘たちも全くいつもの位置に挟まっており、いつもの朝がやってきたようだ。
それじゃぁ、涎を洗い流すとしようか。
きっと、これ以上の贅沢を望んじゃ後悔するような事になると思うんだ。
誠実に生きよう。
昨日の曇天から今朝はさわやかな青空になっている。
相変わらず国道1号線を西へと向かう旅だからか、背中に朝日を浴びながら三台の馬車が駆け抜けて行く。
朝食の時の話し合いで静岡の焼津まで行けないかという事になった。
毎度宿に泊まるのも実際、不経済ではあるし野宿は冒険者の基本だからと焼津にある朝比奈川を目標に突き進んでいるわけである。
セイリョウは前の魔獣騒ぎでも来たばかりだが、政治的にも安定しており比較的安全度も高い。
昨晩の宿での忠告を気に留めながらもこの辺りはそのような貴族も居なかったし、俺たちに隔意を持つような連中は居ないと思われる。
そのあとにはきっと気の張る旅がしばらくは続くだろうからと、この辺りは俺たち的にも気が緩められる前半戦最後のセーフティーエリアだと思っている。
翌日は浜松まで。その翌日は岡崎の矢作川河川敷まで進んだ。
この二日間も何事もなく、快調としか言えない馬車旅だった。
天気にも恵まれていたし、梅雨時期の少し前という季節がら、日中の気温も暑くない程度だったからかくだらない話をしながら、アニエスを笑わせながら、シロップや如月も馬鹿な話に笑い転げながら時間を潰していた。
フィアはユイに英才教育を施すとかで文字を教えるのに一生懸命になっていた。
ユイはと言うと一時間ぐらいは集中力も続くのだが、そのあとは飽きが来てしまいフィアの言う事など右から左だ。
ついには御者席へ逃げ込んで、俺の膝にうずくまっている。
「もう、ソウタさんがそうやって甘やかすから、ユイが真剣に勉強してくれないんですよ!?」
ユイを追いかけてフィアも御者席に上がってきてしまったが、二人並んで御者席に座るとつい、髪を撫でてしまう。
それで気持ちよさそうにされるがままになっているフィアは、思い出したようにまた小言を言おうとするが、俺はそれを遮る。
「フィア、子供の集中力っていうのは長くは続かないモノなんだよ。無理にやらせてもそれは記憶に残らないし、習う事が嫌になってしまいかねないんだ。
学舎でもそうなんだが、集中的に勉強したら次は休む。勉強したら体を動かす。そんな風に切り替えながら学ぶんだよ。
ユイだってずっと習っていたら飽きちゃうよな?」
俺を見上げてコクコクと首を縦に振るユイ。俺はフィアの髪を撫でているが、フィアはユイの髪を撫でている。
「ソウタさんがそう言うのであれば、今日はここまでにしましょう。ユイ、明日もまた頑張りましょうね。」
「ママ、ありがとう。明日またがんばろうね。」
簡単な会話はずいぶんとしっかりしてきたと思う。それだけでも大したものだと思うよ。
「パパは何歳まで勉強したの?」
「俺か?う~んと、大学を出るまでだから22歳までかな。」
「え~、そんなにしなきゃいけないのぉ。ママは何歳まで?」
「ひぇ?私は14歳までですよ。15歳にはパパに出会って結婚してもらいましたからね。」
う~んなんて唸りながら、ユイが考えている。
「じゃぁ、ユイも14歳まででいい?」
フィアもそれでいいと思っているようで、笑いながら頷いていた。
2歳を前にしてずいぶんとしっかりしているような気がするんだが、サキュバスと人では知能の発達具合に差があるのだろうか。
そんなことをフィアに聞くと、昔にそう聞いたことがあると言う。
「父に聞いたのですが、5歳くらいまでの知能の発達は人よりも早いそうです。でもそれは15歳の成人までに精神年齢が大人にならなきゃいけないからで、成人後は人と変わらないそうですよ。
ユイが喋るのが早いのもきっとそうした理由があるのではないでしょうか。」
生き急いでいるというのとも違うだろうが、種族による特性ってあるんだなと思わせられる。
御者席から振り向いて、如月にも聞いてみる。
「如月、魔剣の情操教育って人と同じで良いのかな?」
「うん?どういうことかしら?」
「ユイは今から勉強を始めたりしてるだろ?カーリオやクレイオは人種だから喋りがしっかりするのや勉強を始めるのは2歳過ぎか3歳くらいからだと思うんだ。性格がはっきりしてきて、喋り出すとかって他と比べてどうなんだろうかと思ったんだが。」
「ああ、そう言う事なら人と変わらないわ。私たちは聖霊に近いの。自然にある聖霊に人の想いが加わって人格を持つようになるのね。
だからって事なんだろうけど、成長の過程は全く人と変わらないのよ。睦月も普通に喋るのは2歳くらいからだわ。お勉強は3歳くらいで良いんじゃないかしら?」
魔剣の寿命がどのくらいあるかは知らないが、きっとそこからが長いんだろうな。如月だって1000歳くらいって事はわかるが、1000と何歳なんだってことは既に本人にもわからないんだから、睦月も我が家は何代にも渡って世話になるのだろう。
最初の人格形成には慎重に取り組みたいものである。
矢作川にたどり着いたころには日も傾き始め、予定通りについてホッと一息と言った処だろうか。
明日にはアイチ圏内へと入るだろうから、ここからが本番と言う気持ちだ。
そう、俺たちにとっては明日からのつもりだったのだが、相手の方々は待ち焦がれてでもいたのだろうか、今夜からやる気が漲っているらしい。
キャンプの準備を始め、夕食の調理が始まるころには対岸に騎馬兵が200騎近く見て取れ、こちら側の岸にも上流側、下流側のそれぞれに同じくらいの騎馬兵と500人規模の槍兵や剣を抜いた連中が陣を築きつつある。
廃嫡された貴族家と言うにはあまりにも充実した軍事力に見えるのだが、どういった連中なのだろうか。
戦力的には大したものだが、俺やフィアの相手としては数の暴力と言うには少なすぎる。
レネゲイドを出してしまうとこのぐらいの数では戦にもならないし。
やることは変わらないにしても、話の通じる相手は果たしているのだろうか。
スタッフには夕食の準備を進めてもらっている。そして障壁も展開が終わっているので、矢でも鉄砲でも知ったことではない。
「誰か、話の出来る者はいるのかい?」
しばらくは全く動きもなく、待つだけ無駄だったかと諦めようとした時に、対岸から3騎の騎馬が川を渡って近づいてきた。
「私はヤマノベだがそちらももちろん、判っててこのような出迎えをしてくれているんだよな?」
「当たり前だ。お前たちのエイゾでの働き、立派ではあったのだろうがお蔭で私たちの仕える領主が税金を着服していたことまで明るみとなり、お前の知るように廃嫡となった訳だ。
八つ当たりであることは十分承知しているが、それほどの急激な改革が必要であっただろうか?返還させ、投資し直せばよかったのではないか?統治自身がダメなものであったのだろうか?そうしたことも考慮すべきではなかったのかと思わずにはいられないのだよ。
貴族一人に何人の家令が仕えているかお前に判るか?アイチの領主には屋敷に1000人、俺たちのような兵が1万人も居たのだよ。そのほとんどが職を失い食い扶持さえもない状態なんだがそれをどう解決したらいいのだろうな。」
「言い分は良く判るよ。ましてや一兵卒が領主の悪事なんて知る由もないからな。あんたが言うように何らかの手段もあったかもしれないよな。
でもな、納めた税金が本来の目的以外。貴族の私腹を肥やすために使われてしまった納税者の気持ちは誰が慰めてくれるんだ?どこに行ったか判らない税金を納め続ける国民の働く気持ちが殺がれるよ。
生産性が落ち込み始めると税収も当然減るよな。それでも横領する金額は早々減らないもんだよ。それだけの旨みに染まっているからね。差し引きがどんどん減っていくよな。それが国からのサービスの低下、質の低下につながれば国民は国に期待を持てなくなる。
そうした負の連鎖を止めるのは早い方がいいんじゃないか?」
「わ、判っておるわ。その様な事はお前ごときのような若造に言われるまでもない。それでもやり場のない気持ちもあるのだ。私たちにとってもどこかでケジメが必要だったのだろうさ。
だから、私たちは自分のやろうとしていることが間違いだと判っているんだ。それでもそうしなければならない。
私たちを止めてくれるのは貴様しかいないのだよ。」
何とも身勝手な話じゃないか?
自分たちがどうしようもない事をしようとしているのは判っているのに、それを止められないだって?
それで済む世の中であれば、誰もが困りはしない。
この手の輩と言うのは始末に負えないな。
他の場所でも同じようなことはたくさん起こっている。そして同じように自分で解決できない懊悩を誰かの所為にしようとするのだ。
確かに自分では知りようも無かったことなのだろうが、そのお蔭で無為になった働く人たちの捻出した税金は一時の快楽や贅沢に費やされ、それは本来働いた人たちの生活を潤すために還元されるべきモノだったはずだが、そうはならなかった。
自分が担いだ貴族がそれを享楽に費やし、ドブに捨てていたとしてそれを知らなかったから、暴かれ、放逐されたのは自分の所為ではなく、暴いた者や質した者の所為にするのか?
受け身であるがゆえにその様な選択肢を選ぼうとするのだろうが、現実はそうではない。
そのような甘い理論が罷り通るのであれば税金を納める者がバカを見る。
それは既に社会システムが成り立っていないのだ。
確かに本人にとっては与り知らぬ出来事ではあるし、同情もできるがそれを外側に暴力として発散したとして、誰に益があるというのだろうか。
やはり遣る瀬無い気持ちにならざるを得ないが、目の前の兵たちは自分でそれを解決する術を持たないのだろう。
「貴方の仰ることは良く判ったよ。どのような結末がそれを満足させる?俺やその家族を討てば気が済むのか?
全てが無かったとことになって、元の領主が元のように統治すれば納得するのか?その領主が私腹を肥やすためだけに汗を流した者たちの供出した金を無駄に使い倒していることを知りながらにな!」
「判っている。判ってるんだ、それを知ってしまってやり直せないことを。それでもな、一万を超える人間が明日をも知れない身の上に一晩で貶められたのだぞ?
それを甘んじて仕方なしと出来る者がどれだけいるだろうか。」
苦渋に満ちた決断。
そうとしか言いようのない表情を渋面に刻んだこの家令は既に覚悟が決まっているのだろう。生きて恥を晒すことをいさぎよしとしない己の矜持に基づいて、誰かに止めを刺してほしいのだろうな。
それが判るから、何とかできないのか?と、思わずにはいられないのだ。
騎士か侍としての生き様を持ったこの男を捨て鉢な気持ちのままに葬り去るのはとても容易いのだが、何となくそれが惜しい様な気がする。
理由は判らないながらにも、この男を無駄にしたくないと思わせられる自分が居る。
ゆうに2000を超える兵卒を一糸乱れぬように率いることができる男。
見る限りは40歳ほどだろうか。短く刈り込んだ髪に少しの白髪が混じり始めてはいるが、精悍な顔つきと意志の強い瞳の輝きはまだ、世の中を捨ててはいないと思える。
「貴方は自分の道を示されればまだ生きていけるか?」
俺の中に特別なアイディアは無かったが、このままその命を摘んでしまうのはただ無為に思える。
「何が言いたい!?俺は自分の命を惜しいと思ったことなどはない。今俺がしなければいけないことはケジメをつけることだけだ。」
「判った。お前の命は俺が買った。俺がお前を納得のいくまで負かしてやる。それで勝てないと思う事ができたら、この場に居る全員を俺の配下にしろ。」
相手の騎士から燃え上がるような怒気が発ち上がるのが判る。
「安く見るのはやめていただきたい。どれだけの技量があってそう申されるのかは判りはしないが、武技を試すために仰っておられるならば、そう簡単に口車に乗るわけにはいかない。」
「しかし、俺が本気を出してしまうとお前たちは瞬時に死んでしまうぞ?」
日は西に沈み、残照も失われる頃合いにも関わらず怒りに任せたこの男の顔面が朱に染まるのが判る。
如月を腰に佩刀し、男の前に歩み出る。
「取り敢えず理屈はいいだろう。まずは剣を抜けよ!?自分の無力を思い知るところから始めようじゃないか。」
「いいだろう、そこまで言われるのならお相手仕ろう。」
相手が河原から上がるのを待ち、足元のいい場所を選ぶ。
躓いて試合に泥を塗るのも後味が悪すぎるからな。
キャンプの側に誘ってやり、料理を進めていた我が家のみんなの近くへと場所を移した。
お蔭で妻たちも手を休め、観戦と洒落こんでいるようだ。
それぞれに俺の子を抱き、何やら語って聞かせている。
娘たちは俺にエールを送り、手を振り、いい笑顔をくれている。
スタッフのみんなも手を止めて、椅子に掛けながら一対一の試合観戦と決め込んでいるようだ。
シゲさんは既にエールを片手にヤジを飛ばしている。
俺の表情を見て、遊んでいるように見えたのかもしれないし、相手の顔を見て同情しているのかもしれなかった。
馬から降りた男は俺の家族たちを見て、何を思っただろうか。
全幅の信頼を越えた疑いの欠片もない嫁たちの明るい表情と、周りに居てくれる者たちの緊張の微塵もない顔に腹立ちを覚えただろうか、疑問を持っただろうか。
腰の大ぶりな鞘から抜き放たれたグレートソードは虹色の光を放ち、ただ鍛えられた剣ではないことが判る。
「ほう、あなたの剣も相当の業物のようですね。しかし、その剣を手折ってしまって構いませんか?」
「いらぬ心配は無用。貴方がどれほどの物をお持ちかは知らないが、俺には自信がある。ご自身の身を案じられてはどうか?」
ありがたい心配をしてもらって、嬉しくなる。
如月、あいつを一撃で切り飛ばす。出来るな?
〔心配するなんて見くびられたものね。エンシェントドラゴンを切り飛ばすつもりで私に魔力を籠めなさい。手応えなんて感じさせるわけが無いわ。〕
「俺の剣は魔剣如月と言う。俺の可愛い妻なんだ。これでエンシェントドラゴンも切り伏せた。いい試合を見せてくれよ?」
如月を抜いた瞬間から紫の光が唸りを上げる。
ヴウォン!
魔力は出し惜しみなく、最初から50000MP毎秒を越えている。
〔行きましょう。〕
如月の言葉を信じ、虹色の剣を断ちに行こう。
俺は正面に如月を構え、男を見据える。
ゆっくりと腰だめに剣に力を乗せた男は裂帛の気合を乗せて切り込んできた。
「どぉりゃぁぁぁ!」
斜めの剣筋が蒼でもない、赤でもない七色の軌跡を描いて俺を切り伏せるためだけに振るわれた。
迎え撃つように切り上げた如月。
討ちあう剣が剣戟を結ぶまでもなく、音もさせずに交差した。
互いが自分の剣を信じ、渾身の力を乗せて振るった剣が雌雄を決する。
虹色の光を引きながら男の剣が宙を舞った。柄は男の手に握られたまま、刀身だけが身の拠り所をなくし、根元から切り飛ばされていた。
如月の宣言通り何の抵抗もなく空振りしたかのように紫の閃光が暗闇を切り裂いてしまった。
「ばっ、ばかな!?」
「言ったろう?俺はお前を買うと。この剣をこの状態にするためにはそれだけのモノが要るんだよ。親王陛下のご期待に応え、列強各国の力を退けるだけの。他に見ない圧倒的な、恐怖さえも烏滸がましいような力の差が必要になるときがあるんだよ。
姑息な奴らにいちいち付き合ってなんかいられないんだ。自分たちの国を守るために、自分たちの生活を守るために、自分の大切な人たちを守るために絶対に誰にも負けないと言える力が必要な時があるんだよ。
力だけがすべてに勝るわけじゃない。愛情だけがすべてを救う訳じゃない。優しさだけが全てを慰めてくれるわけじゃないんだ。全てが無きゃいけないんだよ。」
己の剣があった場所、柄を見つめながら黙りこくってしまった男は言った。
「カール・フォン・ヘッセン=カッセルだ。」
「なんだって?」
「俺はヘッセン家当主のカール・フォン・ヘッセン=カッセルだ。ヤマノベ公爵殿、俺たちに生きる道は本当にあるか?」
「カールさん?あなたにとって守るべきモノとは何ですか?」
ハッとしたように俺を見つめるヘッセン家の当主はその瞳に揺れる光を迷いと取ればよいのか躊躇いと取ればよいのか数秒逡巡を見せ、俺を射抜くような視線に変えた。
「ヤマノベ公爵。私の命を買ってくれ。一万の将兵を助けてはくれないか?」
「自分たちの道を切り開くのは自分たちだよ。ただ、その道を妨げる者は俺が切り伏せる。貴方たちは自分で信じる道を歩んでさえくれればいい。
一万の兵と千人の家令、確かに買った。買った限りは役に立って見せろ。自分たちの存在を示せ。
投げやりになっても、腐っても腹は減る。腹を満たすために、自分が納得できるようにして見せろよな。」
2000を超える将兵たちが臣下の礼を取る。
ザッと言う大波が押し寄せるような音と共にヘッセン子爵に合わせて全ての兵が膝を折った。
どうしようかコレ?
一夜にして90人ほどしかいなかった従業員が一万数千人になってしまった。
この場合にすべきことは奴らを養うための箱を用意することだろうか。
ギーフとトサンの国境から僅かトサン寄りの北アルプス北側にレネゲイドで広大な平野を築いた。大沢野と言う人の住めない山間地にバスターランチャーを広範囲に撃ち放して終いだ。
焼け爛れた土地が高低差をなくし、なだらかな傾斜を伴ったトサンの平野部へと続く土地を設えた。
それを新しい家令たちは開いた口が塞がらないと言う表情で眺めていたよ。
高い山、低い谷、起伏に富んだ地形が僅か数秒後にはなだらかな土地に変貌を遂げていたのだから、その強大な力と言う物を目の当たりにしてくれたのだろう。
「ご領主、私たちは最初から神をも超える存在に拳を振り上げ、己が未熟を知らずにいたのだろうか。」
「ああ、神様は二人ばかり殺っちまった後だよ。だって、役に立たないんだもん。」
ヘッセン子爵を始めとして側で話を聞いていた連中は、聞いてはいけないモノを聞いたという顔をした。だって、ホントのことだもの。
「ここから山側はどこまで行っても俺の領地だから、木を伐り出し自分たちの生活を整えてくれるか?それからこの下のトサンの住人の往来も自由にさせてくれ。
トサンの公爵様との約束でな、この山の恵みは自由にしていい事にしているんだ。屋根の準備はするが、この季節だからほとんど野宿でも大丈夫だろう?梅雨時期から暑い季節の間に全員が寝泊まりできるようにしてほしいんだ。
領主は俺だが、統治は子爵に任せる。しょっちゅう来るから問題点を都度にまとめておいてくれ。」
「それは構いませんが、ご領主はここでのお住まいはいかがなさいますか?」
いつの間にやらヘッセン子爵は俺のことを「ご領主」と呼んでいる。
まぁ、何と呼ばれようと構いはしないが大した時間も置かずに態度が随分と変わったものだ。
土魔法のクレイを拡張して大規模な土木工事と例によってガラス質化してしまった土地を耕す作用をダイタクヤに行った。
何もないところから湧き出るように三方を土壁で拵えた長屋が次々と出現し、表側を塞ぐだけで簡易の宿泊施設になった。いたる所に風呂やトイレ、手洗い場などのインフラを作り、手桶で簡単に水が汲めるような自噴式の井戸を準備する。
そして畑にするところも道路になるところも全部耕した。どう利用しようと構わないと告げると、長く暮らすための市街地化を皆が考え始めた。
この人たちにとっての第二の人生の始まりを俺が手掛け、これからを前向きに考え始めてくれた人たちにトサンとの共存をもう一度念を押して旅の続きに戻ることとした。
アイチの行き先を失おうとしていた人たちを仲間にすることはできた。しかし、ダイハンの方はどうだろうか。商魂逞しいあの地方の人種は俺とは反りが合わない。
騎士や貴族崩れが同じかどうかは分からないが、計算高く、実利を求め、成り上がることがなにより己を試す価値だと考えているならば、やはり俺と考えを同じくすることは叶わないだろう。
正直、あの本気なのか適当なのか判らない気質を持つダイハン人を俺は心底信じられないのだ。
地域同士、心を割った者同士は固い結束を見せ、互いを思いやる姿も見せるが余所者からは遠慮なく搾取する。
単なる偏見でしかないような気もするのだが、俺が反省する材料が無いのだ。
ちゃんと付き合えば、あの豊かな食文化やその気質の面白味を感じられるのかもしれないが、今のところその恩恵に預かったことは無いんだよ。
俺の考えが間違っていたと、考え直す機会を得られるかもしれないと期待を込めて翌日から西への旅を再開する。
毎晩、妻たちを可愛がるのはサボってないからね。
如月を胸に納めて芯のある心地よさを堪能したり、どこまでもぴったりと吸い付くようなシロップと肌を合わせて満足したり、折れそうな雰囲気を醸し出すアニエスを十分に気を付けて抱きしめ、血の一滴まで交わし合ったフィアから愛情を分けてもらわないと俺の一日が終わらないからね。
思わぬことから大量に人を雇い入れちゃいました。自分の領地を世話させることにしましたが、これからどうするんでしょう。
あと、関西に対して若干の差別的な発言をしているソウタですが、関西圏に対して思うことのある地方人は意外と多いんですよ。多分、あの熱い情熱について行けないだけなんでしょうが、それを素直に自分の非として認められないんでしょうね。
作者自身もそうですから。そのくせ大阪の粉物文化は大好きなんですけど。




