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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
ノブレス・オブリュージュの章
84/161

【第83話】横浜(オウヒン)

フィアにチャイナドレスを着せたい。そのソウタの積年の想いを果たすべく、旅の最初の目的地は横浜でした。

先の話からブクマしていただいた皆様にも劣情を掻き立てていただければ幸いです。

読んでくださって、本当にありがとうございます。

 アリエッタが幼少の子供たちの面倒を見て、それぞれが気力と体力を回復している。

 幼年メイド組みたいなものが出来上がり、彼女たちは「メイドのためのメイド」みたいな仕事をし始めている。

 トウトの街に作る学舎についてもアンニさんはじめ多くのみんなで色々と考えがまとめられ、企画書のようになってきてはいるが、まだ時間は必要だろう。

 その間にできた幼年メイド組は草むしりから窓ふき、ほうき掛けなど小さい子でもできそうな仕事をメイドたちに貰って精力的に取り組んでいる。

 アリエッタを含めて5人の小さなメイドたちが屋敷内を駆けまわり、どこにいても目に入るのが何とも可笑おかしいじゃないか。

 玄関先での長い箒を持って掃き掃除をしている3人の幼女メイドを見たと思ったら、食堂に集まりテーブルクロスを苦労して取り換えている幼女メイドが4人ほどいた。俺たちの寝室のベットメイキングはできないが、シーツを回収して洗濯番のところへ行こうとする幼女メイドが二人いた。

 ちょっと待て!?5人だろ?目の前で雑巾とバケツを抱えて走る幼女メイド3人を足すと何人見た?

 気が付いただけで12人くらい居たような気がするんだが、俺が疲れているのか?

 気を落ち着けるためにと食堂へ来た俺は厨房へ紅茶を頼み、厨房のすぐ横にあるアンニさんたちがちょっと掛けてお茶を飲んでいくカウンターに腰を下ろすと、そこに5人の幼女メイド組が揃っていた。

 「うわぁ!?」

 「ど、どうされたのですか!?」

 アリエッタが俺の驚いた声に驚き、問いただしてくる。

 「お、お前さんたちは何人いるんだ!?」

 キョトンとした表情で幼女メイドたちが首をかしげている。

 「何人と仰られましても、ここにいる5人ですが?」

 それが何か?みたいな顔でアリエッタが不思議そうにしている。

 疑問に思ったら負けなのか?

 どうやら細かいのがうろちょろするのが俺の移動するペースを遥かに上回っているだけのようで、他に幼女は居ないだろうな?と問うと、より一層怪訝けげんな顔をされてしまった。

 彼女たちの仕事量と言うモノが恐ろしくなってきた。

 その幼女メイド組も我が家に慣れたのか、ついには学舎よりも我が家への就職を希望するようになってしまい、今月から給金を支払い始めている。

 まだお小遣いの域を出ない金額ではあるが、例のサルーン馬車にキョウコさんやアリスの買い物の時に同乗して自分たちの買い物を楽しんでいるそうだ。

 まぁ、学舎については通う必要は自分たちで決めればいいことだから、ここに居たいならそうすればいいだろう。

 アスナも他のメイドたちと随分仲良くなっており、掛売に顔の利くメイドどころか自分がマーケットでは馴染なじみだったからか、どのメイドが買い物に行ってもアスナが居ればヤマノベ家の買い物だと自然に取り扱われているらしかった。

 幼女メイドしかいない買い物でもアスナが居れば掛売レジへと導かれ、幼女たちが驚いている位だ。


 アンニさんに聞く限りは今のところ我が家はいたって正常稼働状態で、長期間留守にしても大丈夫そうだ。

 週に一度、俺が転移テレポートして戻ってくることを約束し、3台の馬車はクノエに向けて屋敷を出発した。

 出発の少し前にはユンカーさんも見送りに来てくださって、挨拶を頂いた。

 「クノエに公爵様のお父上の墓石ぼせきがあったとは存じませんでした。この国に一番なくてはならないお方の血脈をないがしろにしていたなど、陛下に於かれましても深く反省しておいでです。

 今度、国の責任において御父君の御廟ごびょうを整備するのだと仰られておりました。」

 本気ですか?そんなことしなくていいだろう?

 もうそこにだって骨しかないよ?

 「それより、ユンカーさん。およそ3か月間の長旅になります。その間、アンニさんのことをよろしくお願いしますね。」

 「お!?お館様?何を仰っておられるのですか?」

 「そうです。お屋敷をお守りするのは陛下の御意志でもありますし、それで公爵様の旅が気安くなればと。」

 「はいはい、その通りでしょうね。それでも・・・・我が家の大事なメイド長を守って下さるのはユンカー子爵様しか私は認めませんからね。」

 ユンカーさんの肩をポンポンと叩き、アンニさんの手を取ってユンカーさんの手と一緒に重ねて取る。

 「帰ったら結婚式です。」

 「な、なんと!?」

 「ひええ?なぜですか!?」

 「あれ?おいやでしたか。私にはどう見てもお二人が引かれ合っているようにしか見えませんでしたが、ご迷惑でしたか。

 申し訳ないです。勝手に思い違いをしてしまったようで、本当にごめんなさい。」

 俺の手の上に重ねられたアンニさんの手。その上に重ねられたユンカーさんの手。ユンカーさんの目を射るように見つめ、俺は自分から口を開こうとはしなかった。

 その俺を見つめるアンニさん。でも誰もこの手を引こうとはしない。

 俺には確信があったんだが。

 この二人は互いを求めあっていると。


 ユンカーさんの大きな広い手がアンニさんの手ごと俺の手を握る。

 「ヤマノベ公爵様、私はお屋敷のメイド長でいらっしゃるアンニさんを妻にしたいと思います。公爵様に於かれましては大変なご迷惑かと存じますが、今を逃すと私はきっと後悔します。

 公爵様にお心があるならお願いします。お許しを頂けませんでしょうか。」

 「私ではありませんでしょう?同意を貰うのはアンニさんですよ。ねぇ、アンニさん?」

 「え?ええ!?そ、そのようなことは私ではなくお館様がお決めになることです。他の貴族家でもそうしていらっしゃいます。私などが決めていいはずがありません。」

 「本当ですか。私が決めていいのですね。」

 ユンカーさんが俺を見つめて頷く。

 アンニさんの目がバツが悪そうに泳いでいる。

 俺はもう一つの手でユンカーさんとアンニさんの手をサンドウィッチのように挟み、ひとつだけ溜息ためいきを吐いてから口を開く。

 「アンニさん、3か月の留守をします。その間に完璧にご自身の結婚式の準備を整えておいてください。式はこの屋敷で行いますのですべてに手抜かりのないように。

 それとユンカーさん、アンニさんはご結婚なさった後はここへ通うメイド長になります。暮らす場所とここへ通う手筈てはず、全てが私にとって不都合のないように幸せな家庭を準備しておいてください。勿論もちろんですがお二人ともできますよね?」

 「は、はい。ありがとうございます。」

 「公爵様に一片の不都合もないように取り計らって見せます。心より感謝します。」

 二人は深く腰を折り、ようやくにもまとまることを了承してくれた。

 ユンカーさんに耳を寄せ、小声で申し渡す。

 「若くはないのですから、ほどほどにしてくださいよ。」

 ボッ!と言う音と共にアンニさんが真っ赤になり、ユンカーさんの後ろに隠れる。

 ゴホッとむせたユンカーさんがそれでも持ち直し、「お任せください。」と頼もしい返事をくれた。

 ここはもう、任せてしまっても大丈夫だ。


 西へと向かう馬車の中ではユンカーさんとアンニさんの話で大変盛り上がっており、妻たちの全員が祝福のムードを盛り上げてくれている。

 「ソウタさん、お二人を前にかっこよかったです。これで帰ってくる楽しみも増えましたし、旅がより一層楽しくなりました。」

 「そうね、あなたのはからいが良かったのね。二人とも幸せそうだったものね。」

 「私、真っ赤になったアンニさんなんて初めてみましたよ。」

 「本当に。でも、アンニさんが通うようになったら二番かしらが必要になるんじゃないかしら?晩に何かあってもアンニさんがご不在でしょう。」

 それについては俺もすでに考えている。

 「それならマチルダさんにお願いしてあるよ。」

 マチルダさんは正確にはマティルド・フォン=フリースラントと言い、フリースラント子爵家の四女である。

 年齢的にはアンニさんより若く、まだ27歳なんだが、新規採用ではなくこの屋敷を守ってくれていたメイドの一人だ。

 この屋敷の不遇の時代もアンニさんやほかのメイドたちと耐え、今も家令付ではなく様々な用向きに力を発揮していてくれる。

 俺を一番こき使うのに長けているのがマチルダさんだ。

 フリースラント子爵家はマチルダさんが20歳の時に廃嫡になった貴族家らしく、男子に恵まれなかった上に長女から三女までが嫁に出て行ってしまったために四女である”マティルド”さんに子爵家の全ての期待がのしかかった訳だが、それを嫌ったマチルダさんはあっけなくも家を出て、陛下の弟君が住まうこの屋敷にメイドとして勤めに上がったそうである。

 その際に「マティルド」と言う名前をマチルダに改め、家名を捨てたと聞いている。

 彼女が脚立きゃたつを持って屋敷をウロウロするときは、たいていの場合は俺を探しているときだというのだから、俺としてはお役に立ててうれしいのだが、脚立が似合うメイドと言うのもどうなんだろうと思う時がある。

 アニエスとシロップも「ああ、マチルダさんなら。」と概ね納得してくれている。

 如月が「脚立の?」と問うているのに対してフィアが「そうです。ソウタさんを探しに来るメイドさんですよ。」なんて言ってるくらいだから、もう脚立のメイドとしてすっかり認知されているな。

 そうこう言ってるうちに国道1号線を西進し、国道16号線に入るとすぐに横浜中華街へとたどり着いた。

 もう二年近く前にここを通った時はお忍びの陛下を御者席に乗せ、沢山の兵たちに護衛されながらトウトのセントラルキャッスルへ向かっていたんだった。

 昼前には到着し、ちょっと早めの昼食を中華街で食べるのがふたつの目的のうちの一つ。

 この界隈は西華からの移民が多く住み、独特の文化圏を築いているのだが、豊かな食文化と華やかな風情に包まれており、神国の食文化への影響も決して小さくはない。

 しかし、それは良い意味での変革を遂げ、神国独自の食としても発展を続けているが、元祖としての誇りとゆるぎない高いレベルの西華オリジナルを提供し続けて、多くの美食家に足を運ばせている。

 「本物を喰いたければここまで来い!」そう言うスタンスを貫いているのである。

 故に支店の出店や遠隔地への出店はせずに、中華街だけでしか味わうことのできないメニューも数え切れないほどにあり、一度来たらまた来てしまうという病みつきになる店舗も数え切れないほどにある。

 ワクワク感がいやが上にも盛り上がるのがここ、オウヒン中華街だ。

 すでに女性陣はいつ買ったのかもわからないが饅頭を口に入れている。中華街に入ったばかりだというのに素早いことだと、ビックリが隠せない。

 ハルシゲさんがみんなに饅頭を分けて回っており、気が利く犯人が判った。

 「ソウタも一つ食べないか?」そう言って大きな饅頭を手渡してくれた。

 「ありがとうございます。」

 渡された饅頭は大きめだ。ずしりとした手応えがある。

 その饅頭の表の皮に「5963」と焼き印が入っているんだが、「ご苦労さん」じゃないよな?

 アツアツのそれは蒸し器に乗る底側につるっとした紙が貼られており、火傷に気を付けながら剥がして食べると、何とも言えないジューシーな肉餡がフカフカでもっちりした皮と一緒に口の中でとろけるようだ。

 「アツっ!うま!!」なんて声が後ろから聞こえる。

 買い食いもいいものだなぁ。

 その後、腰を据えて食事を摂るために選んだ店はそう大きな店舗ではなかったが、店の入り口に吊るされたアヒルが俺たちを招いているように思えて選んだのだ。

 俺の選んだ店に入ると、店員の女性がチャイナドレスにエプロン姿で出迎えてくれた。

 「何名様でしょうか?」

 「ああ、大人が16人。子供はいいだろう?」

 「ソウタ、すまねぇが大人が17だ。」

 「え?」驚いて振り返った。そんなことは無い、11名のスタッフと俺を入れて家族が5名。それぞれに抱かれた幼児が4名のハズ・・・いや、戦艦武蔵がいた。

 今の今まで気が付かなかったが、シゲさんの隣にシノブさんが居るのだ。最初から居たっけ?俺はそう言う表情をしていたのだろう。

 初めて見るすまなそうな表情のシゲさんが、頭を掻きながら前へ出て来て説明してくれる。

 「いや、恥ずかしいんだが、こう言う事になっちまったんでな、自分の里を見せとこうかと思ったんだよ。迷惑は掛けないから頼まれちゃくれねぇか?」

 「店員さん、じゃぁ大人17名で席を頼むよ。」

 「かしこまりました。こちらへどうぞ。」

 みんなで案内された席に着くと、20人は掛けられる大きなテーブルの上に回転台が三つも乗っており、ワクワクが止まらなくなってきた。

 「ソウタさん、それを回して遊ぶのも見ていて微笑ましいんですが、今は他にすることがあるのでは?」

 シロップに落ち着いた声で言われて、無邪気に回転台を回していた俺は頭を掻く。

 「す、すまない。それで、いよいよ覚悟が決まったという事でいいんですね?」

 誰憚だれはばかることなくいつも一緒に居た二人なんだから、本人たちも隠す気はなかったはずだし、俺としては元々それを容認し、歓迎もしている。

 「そう言われるとよ、恥ずかしいんだがな。気が合うというか互いに信じ合えるんだよ。それでな、こんな娘みたいな歳のヤツなんだが嫁にすることに決めたんだ。」

 「ええ、見ていて良く判ってますよ。では、改めて言いますね。おめでとうございます。」

 フィアを始め俺の嫁たちからも、スタッフからも「おめでとう!」と言う温かい言葉が贈られた。

 「シノブさん、シゲさんのことよろしくお願いしますね。」

 「お館様、もちろんでございます。私たちのことをお認め下さってありがとうございます。」

 二人への祝福が済むと、それを待って居た様にいよいよ魅惑の中華料理の数々が登場してきた。

 全てが三皿ずつに盛り分けられ、各回転台に同じものが並ぶ。そして山と積まれた食材を小皿や椀に取り分けては回転台を回す。

 誰が回しているかは別にして、目の前にやって来る数々の美食を味わった。

 空いた皿が下げられ、また美味しさをその身に秘めた皿が運ばれてくる。

 我が家のフードファイターたちが善戦を繰り広げ、初参戦であろうシノブさんも如何なくその実力を発揮してくれていた。

 ただ、シゲさんへの気配りだけは忘れないようで、硬い物、油の強い物は量を少なくしたり細かくしたりして取り分けていた。

 全体の量も様子を見ながら取り分けているようで、メイドらしい気配りに愛情がプラスされた心配りも気が付いてしまえば微笑ましいとしか言えなかった。

 それに対して我が家はどうだろうか?

 嫁たちが取り過ぎた食材は直箸じかばしで俺の口に詰め込まれる。

 所謂いわゆる「あ~ん」ってやつだ。

 ただのあ~んであればラブラブな雰囲気と言えるが、次々に運ばれる美食の極みにすぐに箸を伸ばしたい妻たちが自分の皿を空けるために後始末を俺の口でやっているのだ。

 如月が黙って箸を伸ばして俺の口に食べかけの春巻きを突っ込むと、シロップが「食べて」と箸を伸ばして少し冷めたシュウマイを口に入れる。

 アニエスがまだアツアツの麻婆豆腐をあと一口しか残っていないのに「気を付けて。」と言いながらも蓮華れんげで俺の口に入れる。

 フィアに至っては「冷めちゃいました。」と自己申告しながらジェットストリームアタックな水餃子の三連串刺しをホレホレとばかりに俺の口に突っ込もうとする。

 串刺しにされておかに上がったうえに冷めた水餃子が旨いわけが無い。

 嫁四人に言いたいことがあるが、もう一つの目的のためにもここは我慢だ。

 温かいものも美味しい物もそれなりに口には入れたし、それが妻たちの為になるならば気分も悪くはない。

 乾いた水餃子が三つ連なっていても気にしない。

 俺の野望を成就じょうじゅさせるためならば熱い麻婆豆腐と冷めたシュウマイが一緒に口に入っても食べかけの春巻きでさえも旨いと感じてしまう。

 全員が満足するまで宴が続き、店主も驚くほどの食材が消えてなくなった。

 その支払いもごつい金額だったが、俺にとっては旨かった食事に対する正当な評価だ。

 「美味しかったです。」と「ごちそうさま!」が店を出る挨拶となり、俺たちはまた繁華街へと躍り出る。

 「みんな聞いてくれますか、この街では異国の土産が購入できます。クノエの皆さんに贈るための土産を最初はこの街で探しましょう。」

 俺の宣言に対して全員が肯定の答えを返してくれて、手分けして自分たちの土産を選ぶことになった。

 集合を一刻後(2時間後)と定め、全員がそれぞれに思う人への土産を選びに行った。

 「ソウタさん、自由行動という事はまた何か服を買おうとしていますね。」

 どうしてわかったんだろうか?

 俺の目が泳ぎ、フィアと視線を合わせられない。

 「ソウタさん、こっちを向いてください。今度はどんな衣装でしょうか。」

 「せ、西華の民族衣装だ。さっきの店で店員さんが来ていただろう?」

 「ああ、可愛かったですよね。あれを着るとまた愛情がアップするんですよね?」

 「もちろんだ。二年越しでフィアに着せたかった衣装だし、シロップにもアニエスにも如月にも絶対に似合うに決まっている。」

 「な?私も着るの!?」

 如月が頬を染めている。

 「ええ!あれ、可愛いですよね。」

 シロップは前向きな様子だ。

 「でも、横にスリットが深く入っていました。ちょっと恥ずかしくはないですか?」

 アニエスは興味はあるが下着が見えてしまいそうなスリットに心配があるようだ。

 「心配しなくていい、外出の時に着るモノじゃないんだ。就寝の時にたまに着てくれると俺が嬉しいっていう買い物だから、遠慮なく着てくれないか。」

 そう言い、ただの土産物屋ではなく地元の商店や住人たちが利用するようなマーケットへとやって来た。

 代わるがわる俺は娘を抱いて、妻たちの負担を軽減しながらその店を探した。

 衣料関係のコーナーへ行くと様々な色と模様をあしらったチャイナドレスが売られている。

 妻たちも他所行よそいきではないと知って大胆な衣装を選び始めてくれる。

 フィアは定番の鮮やかな艶をまとった赤。

 シロップはその陰影でボディーラインが鮮明になる黄色。

 アニエスは身が引き締まって見える鮮やかな青。

 如月はより小悪魔な雰囲気を強調するような濃い桃色を選んだようだ。

 試着してサイズを確かめ、すべてを精算して一つにまとめてもらった。それも俺がもち、本当の土産物を探すために繁華街へと戻ってきた。

 他のみんなも結構な量の土産物を買い求めたようで、中華街の入り口でグッタリとしているようだった。

 俺はそれぞれの荷物に名前を書いた札をつけて全部を次元断層へと仕舞いこみ、生鮮食料品まで買ってきたみんなを安心させる。

 「もう、買い漏らしはありませんか?」

 もう、全員が無言で頷くのみであった。

 遠足で疲れ切ったといった雰囲気になっている。

 今日は茅ケ崎か平塚辺りまで行って宿を取るのがいいだろう。みんな疲れているようだし、キャンプはやめた方が良さそうだね。


 馬車が走り出し、5時間ほどで茅ケ崎までたどり着いたがこの先に行くと宿が少なくなると地元の人に聞き、ここで宿を取ることに決めたが、大浴場のある宿を探すのがえらく大変だった。

 なにせ、全員がペース配分を誤って中華街で全力を尽くしてくれたものだから、動ける者が俺しかいないのだ。妻たちは全然平気なのだが娘たちも居るので消去法で俺が宿を探して歩いているわけだ。

 観光シーズンがある訳ではないのだが、どういう訳か春から初夏にかけては宿が少なくなる傾向にある。

 どうにか予約を入れることができた宿はグレードが高めの宿だった。

 そこから馬車の集合している場所まで戻り、全員を鼓舞こぶして宿まで引きずってくると夕食までのわずかな時間に全員が風呂へと出かけて行った。

 俺も一緒に風呂へと出かけたが、日替わりで男湯と女湯が入れ替わるこの宿の大浴場は今日は男湯が屋内風呂で女湯が露天の方だそうだ。

 ちょっと羨ましくもあるが、女性がいい思いをするのはこのパーティーにとってはポイントが高いはずだから、良しとしておこう。

 大きな浴槽は体の疲れがみ出すような効果があると思う。

 手足をくつろがせ、伸ばした先から温かな湯の中に疲れが溶け出す。代わりに染み入る温度が回復を図ってくれるようだよ。

 あの泡のかたまりはきっとタケヨシさんだろう。

 「目が!」とか騒いでいるのが泡の中から聞こえてくる。そしてシゲさんが相変わらずのタライに山と盛り上げた石鹸の泡を湯をかぶるタケヨシさんの背後から黙って掛け続け、いつまでも泡が消えない連鎖の地獄に陥っている。

 周囲ではそれを見てイクオ君たちが笑い転げており、コウレイさんがまた泡で転んで笑いを取っている。

 いつものように風呂を楽しみ、半刻ほどの後に食堂へと集合することになった。

 フィアたちも十分に温まったようで、立派な庭の中に浮かぶような庭園風呂を堪能できたそうだ。

 「周り中が木立に囲まれていて、本当の森の中に居るようでした!」

 フィアのホコホコの顔とツヤツヤとしたシロップの表情と言い、ほんのりと朱に染める頬の汗を拭うアニエス。

 若干着崩した感のある如月の浴衣をみると、みんなが満足していることも良く判る。

 如月の浴衣を着付け直していると、他の嫁たちがわざわざ着崩して、順番に並ぶ意味が分からないが、アニエスの浴衣を直し、シロップの浴衣を直すころにはフィアの浴衣の胸元にユイが入っており、もうすでに意味不明なことになっていた。

 ユイを胸元から引きずり出し、どさくさ紛れにフィアのオムネをひと撫でしてから帯を結い直すと、「ああ、その手があったか。」という三人にちょっと引いてしまった。

 フィアが「してやったり!」的なドヤ顔をしているのもどうかと思わないでもない。

 シノブさんはそんなことをしなくてもエライことになってるんだよ?


 それから贅の限りを尽くした夕食を頂き、食後の団欒を経てそれぞれが布団へといざなわれていった。

 「じゃぁ、着替えますね。」

 フィアの宣言に俺はもう深くうなずき、四人の嫁たちが賑やかにもそれぞれの選んだ土産を早速にも身に纏う。

 俺の元に現れた天女てんにょたちは赤に黄色に青と桃色の極彩色ごくさいしきの衣に身を包んだ本当の天女たちだった。

 天使ではない、天女。

 フィアやアニエスのスリットからのぞく素足は俺をゾクゾクとさせ、シロップの衣装から随分育ったオムネの妖艶な陰影がドキドキさせ、如月のメリハリのあるボディーラインが桃色に彩られて、満開の桜を想起させる。

 ドレスの裾から見える細い足首やスリットからのぞく神秘的な太もも、その奥がどうなっているのかと欲情を掻き立てる影と脇が形作る華奢な造形。

 どのチャイナドレスもノースリーブなために、光に当たる細い肩が色気と言う物を演出しているようだ。

 極めつけに細く絞られたウエストとヒップラインが魅惑をそれぞれの嫁に加えており、どうにも夜の生活がはかどってしまった。

 コスプレって絶対、いいよね。

フィアしかもっていないあの衣装を、ソウタは忘れてはいません。

如月に三本の線が入った襟を持つアレを着せられれば!?

シロップには丸襟のブラウスを基本に!

アニエスにチェック柄のスカートとブレザーがあれば!

お巡りさん、僕かもしれません。

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