【第82話】イノベーション
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アスナの父親に正直ベースな言い渡しを行った。
「賭け事に精を出すようではアスナさんが勤めで得た給金が益体もない連中の懐に入るだけでしょう?あなたの通い詰めた賭博場は今まさに摘発を受けている最中です。それは、アスナさんが我が家に勤める際に懸念されるような不測の事態を排除するために行われていることです。
神国で賭博に興じることを許した覚えはありませんので私もこれまでに相当の賭博場の運営者を「あの世」に送っては参りましたが、その際には賭博場に出入りする者にも厳しい処罰を背負わせてきています。
お父さんがその仲間入りをしていないことを願っておりますよ?
私の勤め上、陛下のご威光に沿えない者たちに生きる権利を与えることほど度し難いモノは無いのです。
もう一度言いますが、お父様が通われた賭博場はもう、この世に存在しません。今からそこに行かれましても、残っているのは焼け野原でしょう。
私の申し上げました意味がお分かりいただけておりますよね?」
コクコクと縦に首を振るお父様の顔色が蒼白になっている。
十分にその意味が分かってもらえたことであろう。
今回は見逃してやるが、娘が公爵家に奉公に上がっているのに、まさか国の決めたことに逆らうようなことはしないよな?と言う意味である。
オブラートに包んだ恐喝を済ませ、準備の整ったアスナを嫁たちと同じ馬車に乗せて屋敷へと戻る。
小さなバック一つしかもっていないアスナだが、屋敷で暮らすうちに持ちきれないほどの荷物と思い出を作っていってくれたらいいと思う。
馬車の中では妻たちから色々な事を聞き、全てが驚きと共に受け入れられている。
屋敷のこと、妻たちのこと。それにこれから世話になるだろうメイドのそれぞれに俺のことも。
「アスナちゃん、私たちの旦那様は色々な意味で世の中の常識が通用しないのよね。だから、他のお屋敷の常識が我が家では全然違ったりするの。」
「そうね、メイドと言って最初に思いつきそうなのは何かしら?」
「そうですね、お屋敷のメイドさんたちがお館様に揃ってご挨拶したり、お客様がいらした時にはお迎えして、ご主人様の元へたくさんのメイドさんがご案内したりとか?他にはご主人様がお食事を頂かれるときにその周りで食事されるお世話をしたりとか。
あとは、ほとんどのメイドさんがお館様の夜のお世話をされると聞いたこともあります。」
最後の方は俯きながら小さな声で答えていた。が、俺はそんなことをした覚えはないぞ?
「そうですよね、華やかな世界を周りで支えているようなイメージが想像できるものね。」
シロップやアニエスが色々と情報を与え、コミュニケーションを図っているようだ。
「でも、その情報のほとんどがうちの屋敷では違っているわよ?お客様がいらして迎えに出るのはソウタさんだし、食事の時はメイドもみんな一緒に食事するわよ。
夜のお世話だって、そんな物語や吟遊詩人の詩のようなことは無くて、私たちがソウタさんと一緒の部屋で寝るからメイドさんがそんなことをするなんて一度だってないわよ。」
「一緒に暮らしてみればすぐに判りますよ!」
如月が他との違いを説明してくれているのにフィアは来れば判るとばかりに話を終わらせてしまった。
「それよりアスナちゃんは男の子を生むことができますか?」
「ひぇ?何を仰っているのでしょうか?」
「私はサキュバスなので元々女の子しか生めないんです。シロップちゃんもアニエスちゃんも、如月ちゃんも女の子しか生みませんでした。
お婿さんを迎えるのでもいいのですが、できれば男の子を生んでくれそうなお嫁さんも欲しいのです。シロップちゃんやアニエスちゃん、如月ちゃんはまだまだ男の子を授かることもあるかもしれませんが、私たちの中では女の子の方が多く生まれちゃうんじゃないかって話してるんですよ。」
「そ、そ、そんなのは判りません!それより奥様はサキュバスなのですか?私、人以外の種族に初めてお会いしました。うっとりするほどお綺麗なんですね。」
「ありがとうございます。如月ちゃんも人ではなくて魔剣です。剣の姿の時はそりゃぁ強いんですから。ソウタさんと二人でスパスパとなんだって切り飛ばしちゃいますよ!」
アスナは自分よりも背の低い紫髪の少女を見つめ驚いている。
「奥様は魔剣でいらっしゃるのですか?こんなに可愛らしいお姿なのにですか?こちらのお二人の奥様方もとてもお綺麗です。他の種族の方なのでしょうか?」
「あら、褒めていただいてありがとう。シロップとアニエスはとっても綺麗だけれども、アスナと同じ人種でしてよ。それと私が魔剣の姿になるときはソウタさんが仕事で危険と立ち向かわれる時だけです。
元はずっと剣の姿だったのですが、睦月を産んでからはソウタさんがこっちの姿でいて欲しいって言うから、屋敷ではずっとこの姿なの。」
「アスナちゃん、アニエスちゃんと私は元々お屋敷のメイドだったんだけれど、お館様が大好きになることがたくさんあったの。それでどうしてもお嫁さんになりたくて一生懸命努力したのよ?
アスナちゃんもこれからずっとお屋敷で暮らすんだからすぐに判ると思うけど、ソウタさんは誰とでもどんな身分の人とも仲良くするから、お知り合いがすっごくたくさんいるのね。陛下やお妃様もおいでになられるし、ライカン族のご夫婦も仲良しよ。種族も偉い人もメイドもみんなソウタさんにとっては大事な人なのよ。
この間まで神国と戦っていた国も今ではソウタさんのお友達。陸軍の皆さんと敵だった国の兵隊さんたちが両方揃ってソウタさんが来るのを待ってるんだから。
どんな人たちもお互いを思いやれればきっと、争いなんてどこにもない世界が来るんじゃないかってみんな信じてるの。それはソウタさんが居るからそう思えるようになったんだし、今では陛下だってそれを信じていらっしゃるわ。」
「シロップちゃんの言う通りなんだけど、その反面、誰かを傷つけたりするような人には容赦もないの。ちょっと前には解放の光と言う悪い人たちを残らず成敗したわ。そのあとにも黄泉越えの翼と言う宗教団体を壊滅させたのよ。
ただ優しいだけじゃなくて強い心もあって、正しくない事をする人を許しておけないのね。アスナちゃんは心配ないでしょうけど、お父様が賭け事をするといつかきっとソウタさんにすごく怒られちゃうわ。」
「はぁ、なんだか凄いんですね。でも、さっきあれだけ叱られましたからお父さんもきっと大丈夫です。貴族様に睨まれてまだ良くない事をするほどの度胸なんてありませんよ。
これでお母さんも一安心です。私も一生懸命働きますのでうちもきっと大丈夫ですよね?」
「それはもう、心配なんていらないわ。でも、一言忠告しておくわね。外で給金の話をしちゃダメよ?他のお屋敷のメイドさんに聞かれても”たくさん”としか言っちゃダメよ。」
「どうしてですか?」
「如月ちゃん、それだけじゃわかりませんよ。いいですか、普通メイドの給金って一か月で頂けるのは銀貨3枚(約9万円)ほどがいいところです。でも、ヤマノベ家のメイドは頑張る人たちばかりなので大体、大銀貨一枚(約30万円)を頂いてます。
ソウタさんはそれでもまだ足りないって言ってくださいますが、他とは大きく違ってますので、他家のメイドに知られちゃうと大変なことになります。ソウタさんが他の貴族の皆さんに叱られるかもしれません。ですので正確な金額は言ってはいけないことになっているのです。」
そうだったのか。みんなが気にしてくれていることを初めて知ったよ。
後ろの話を聞いていて初めて有用な情報を聞くことができたな、いつも俺を甘々に甘やかすから聞いていて恥ずかしいんだよ。
「ほえぇ、皆さんそんなに頂いているんですか。私、お屋敷の馬車を世話させてもらって小銀貨一枚と大銅貨二枚(合計21,000円)くらいでしたから皆さんすごいんですね。それじゃ、他にいう訳にはいかないのは判ります。気を付けます。」
こうして様々な情報をすでに仕込まれたヤマノベ家専用のメイドが出来上がっていた。
自分の家に戻り、アスナをアンニさんに預け、他のメイドたちへのお披露目も行った。
アスナが主に担う仕事は買い物で、いつものマーケットへ行くのは彼女と付き添いの誰かであること。その誰かはアリスかキョウコさんを中心に、掛売のレジに顔が通る者であることなどを周知してメイド生活をスタートすることになったのだ。
その最初の日のこと。マーケットへアスナが最初に出掛けることになった日。
アリスとアスナが我が家の下働きの人が使っている馬車でいつものマーケットを訪れた。
馬車の世話をしに駆け寄った子供たちがアスナを見てギョッとしたという。
「な?なんでお前が乗ってるんだよ!?」
そう言った子供たちが多くいたらしいが、アスナは落ち着いた言葉を返した。
「私、今度からヤマノベ家で買い物専用のメイドになったの。悪いんだけどこの馬車と公爵様の馬車は私が面倒を見ることになるのでごめんなさいね。」
アリスが買い物を済ませるためにマーケットに入っていったが、アスナはそのまま馬車の世話を焼き始め、馬を労わり、馬車の調子を確かめ始める。
毎日訪れるとそう多くの買い物をする必要もなく、食材や日用品をわずかに買い足すのみとなる。手早く、メイドが重い物を持たなくていいように毎日買い物をすることが、結果的に負担を減らすことにつながるのではないかとみんなと相談の上にそれを、実施してみることとなった訳だ。
昨日は俺たちが買い物に来ており、アスナはアンニさんに見聞きするメイドの所作などについて習っていたのだが、今日は早速にも二人体制を実行してみた訳である。
アリスは豚肉のブロックと白菜のような葉野菜にネギやニンニクなどの野菜類を中心に買い物をしたようで、量こそはそこそこあるが、品数は少なかったらしい。
30分と経たずに戻ってきたアリスの持っている荷物を手早く馬車に積み込み、御者まで務めるのがアスナの仕事となる。
二人が御者席に並んで座るのは、どちらも後部の箱に乗る身分ではないという証なのだそうだが、俺はそれを交互に勤めたらどうなのかと提案した。
「私たちは貴族でもありませんし、特別な身分ではないのですが。」
アリスとキョウコさんはそう言うのだが、じゃぁ、箱を用意して買い物に行く意味は何かと尋ねると、荷物を積んで帰るためだというのだ。
平ボディーでもいいのかと言うと、貴族家の馬車としての荷車のような覆いのない馬車は農家の作物を運ぶ馬車と変わらないので使いたくないというのだ。
それと、買ったものが見えるのは食材から何を調理しようとしているのかを類推させるために良くないという。
なんでこのようなマーケティング調査をしているかと言うと、俺が使う馬車のほかに今回のような用途に使うための馬車が数台あるのだが、俺や妻たちが一緒に行かない限り、買い物をした品々以外が馬車の箱の部分に乗らないのに、無駄に立派になっていてデカいために二頭立てになっていることを何とかしたいと考えているからだ。
貴族だからどのような贅沢も許されるのではなく、ちょっと食材を追加するためにわざわざ二頭立ての馬車で出かける必要が有ったかを見直そうとしているためだ。
では、一頭立ての馬車ではどれほどの可搬能力があるのかという事になるのだが、箱の部分が機能的であれば、多少の荷物と二人のメイドが乗るくらいなら十分な馬力があるのだ。
アルファードやエルグランドで買い物に行っても、N-BOXで買い物に行っても出来合いの総菜を数点買うような奥様は持って帰って来れるだろう?という訳だ。
アスナともう一人が乗っても狭くなく、見栄えも十分に貴族らしくて一頭の馬で十分な荷物が載せられる馬車はできないモノだろうか?馬番たちやメイドを巻き込んでプロジェクトが立ち上がり、中島みゆきさんのBGMが脳内に鳴り響いていたのは内緒だが、田口トモロヲ氏がナレーションを加えてくれていたのは秘密にしなくても誰にも聞こえていないと思う。
基本のコンセプトに二人乗りであることと、荷室が外から見えないこと。
悪天候でも御者(この場合はアスナ)が我慢せずに済むこと。
そして引馬は一頭で十分に足りること。
貴族が乗ったとしても格を疑われない程度にファッショナブルであれば更に高ポイント。
こんなところを網羅するようなデザインはない物だろうかと屋敷の住人に公募したのだった。
一人何点でも応募出来ることとし、「応募資格は屋敷に住む家族!」と手書きで俺が自ら書いたポスターを食堂に張り付け、徹夜して作ったデザイン用の方眼とPRポイントを書きこむコメント欄を備えた専用の応募用紙を山ほどポスターの前に置いておいたのだが、そこは我が家の連中だ。
あっという間に応募用紙が無くなってしまい、増刷することになってしまった。
順調に投稿が続き、投函するために用意したポストは俺が始末しないとあっという間に溢れかえってしまう事になった。
デザインを思うように描き殴った小学生のお父さん、お母さんの絵から、構造や仕組みについてまで図面のように緻密に書きこんだ物まで様々なものが集まってきた。
それこそ奇抜なものもたくさんあったが、その中にも光るデザインを持った馬車がたくさんあった。
高級な馬車でもリジットアクスルと言う右側の車輪と左側の車輪を一本の軸でつないだモノが当たり前で、これに板バネを噛ませて乗り心地を改善したものが精いっぱいであるのに対し、独立懸架と言う現在の自動車のような左右が独立した軸で出来ているリンク機構を有した車輪の取り付け方法を提案したものがあった。
リジットアクスルの場合、左右どちらかの車輪が障害物に乗り上げた場合、その車輪は跳ね上がり、地面と直角ではいられなくなる。
軸が一本しかないので反対側の車輪も同じ角度で傾いてしまうだろう。
この時に馬車本体の姿勢が乱れ、前輪側だけ上向いたり、後輪側が暴れたりするために乗り心地が悪くなるのは避けられない。
現在日本でも軽四や低価格帯のFF乗用車では後輪がリジットアクスル方式を採用しているのは構造が簡単で安上がりであることから仕方がないのかもしれない。
独立懸架の場合は、構造こそ複雑ではあるが、左右の車輪が別々の軸で回っており、リンク機構によって一つの車輪が障害物に乗り上げても、各車輪は地面との直角度を守り、反対側の車輪に影響を及ぼさないため、とても穏やかな乗り心地となる。
高級車の構造と言え、四輪ともこのような構造を持つ自動車はとても乗り心地がいいのだ。
舵取り装置にもいろいろな工夫が見られ、俺だけが楽しむことができた。
妻たちにしてみれば何のことかもわからないし、感心するポイントも判らない上に俺が熱く語るものだから若干引いている。
だって、男の子だもん。
馬が進行方向を変えて、馬が繋がれた轅の向きが変わると普通の馬車は前輪がリジットアクスルの機構丸ごとを進行方向に引きずられるように向きを変えて馬車が曲がるのは最近までは当たり前のことだったのだが、応募された中にステアリング機構を描いたものもあった。
独立懸架の仕組みを取り入れ、旋回方向にもリンク機構が取り入れられていることから、前輪が左右別々に自動車と同じように縦軸を中心に進行方向に首を振る仕組みだ。
これを使う事によって馬車を引く馬の負担が減るのだ。
車体構造にもたくさんの工夫が盛り込まれており、車体を前後に分けて、中央で折れるモノがあった。これは後方を荷室のみとしてあり、前方は御者と同伴者が乗車する部分としてあったため、製造に手間はかかるが合理的ではあった。しかし、独立懸架とステアリング機構が盛り込まれれば中折れの必要性はない。
それでもワンボックスの乗用車とは違う合理性は感じられた。
他にも乗用車やレネゲイドのようにコクピットを持つものも描かれていた。
これならば御者も悪天候時に濡れる心配もないし、快適に移動できるだろうがその絵には「曲がるときは何とかして?」みたいなコメントが掛かれており、誰かに任せてしまったところが惜しい。
フィアの作品とシロップの作品がどちらもカボチャの馬車でしかなかったのは、どこから仕入れた知識なのか判らないが、笑うしかなかった。
最終的にまとめる必要が有るが、随分と質の高い応募がたくさんあって、うまく組み合わせるとセンセーショナルな馬車が作れそうである。
ボディーは2BOXとして、御者と同伴者が前側の区切られた区画に乗ることとした。
前側にキャノピーを設えて平面ガラスで風防を備えたことで御者が雨風から守られ、側面の登場扉から同伴者と乗り込むような造りにしてみた。
そして後方に荷室となるラゲッジスペースを独立して備えて、荷物を載せるトレーが地面近くまで水平に降ろせる機構も組み込んだ。
女性一人の力で荷物をトレーに乗せて片手でラゲッジスペースまで戻せるようなリンク機構を備え、ばねの力で軽々と仕舞いこめる。
四輪独立懸架を持ち、どの車輪も板バネで支えられて別々に路面の衝撃を吸収するために格別の乗り心地が期待できる。
操舵も轅の移動についてくるようになっているのでエンジンを載せれば普通の自動車のように見える。
試作車輌は塗装も何もなく、板をつぎはぎに試行錯誤の最中と言った趣だが、今はこれで十分だ。
アスナが御者を務め、いろんな連中が同乗し、乗り心地を体験した。
そして全員が今までになかった世界を堪能したのだった。
「雲に乗るような」と表現した馬番の頭が絶賛を惜しまなかった。俺も断言できるが、本当に素晴らしい乗り心地だった。
ユンカーさんには申し訳ないが、あの馬車でさえ遠く及ばない穏やかで上品な乗り心地な上に、軽量な車体は一頭の馬で引いても軽々と駆けて行くのだ。
それでいて車格は小さくはなく、二人が広々とした車内でくつろげるスペースがある。
毎日買い物に使うからこそ荷室を小さめにしているし、女性が重い物を持ちあげなくてもいい様な仕組みもある。
外観のデザインは貴族家らしい漆と磨き込んだ金や銀、アルミも併用して自由度の高い演出が出来る箱型2BOX仕様に出来上がった。
我が家用としてはアルミのヘアライン仕上げに拘って、非常に大人しい仕上がりとしてみた。
しかし、アルミの装飾が清潔な印象を引き立てており、アスナにもアリスさんやキョウコさんにも好評だった。
いよいよその馬車を使ってキョウコさんが買い物に出かけたその日、マーケットではとんでもない騒ぎになっていた。
石畳の影響を受けず、流れるように駐車場に滑り込んできた馬車は、中型でありながら一頭立て。ガラス窓を持ち、御者が外に出ていない独特のデザインが注目を集めたという。
アスナが馬車の留守を守っている間にもたくさんの貴族が取り巻き、覗き込み、手を触れていたというのだが、買い物を済ませたキョウコさんがラゲッジスペースを使うときにはどよめきさえ起ったという。
苦労もなく荷物を積みかえ、片手でたくさんの買い物がボックスに仕舞われると、拍手が起こったそうだ。
「どこで手に入れることができるのか?」
「価格は如何ほどの物か?」
「これを譲ってはくれないか?」
などなど、貴族やメイドに取り囲まれて帰ることもできなくなったそうだ。
全員を食堂に集め、アイディアが採用された人たちにコメントと共に金一封と賞状を授与してお祭り騒ぎにしてあげた。
そのあとで、これらを商品化するためにはどうしたらいいかとか、いろんな会話を楽しみながら俺製の食事を堪能してもらった。
応募者全員に参加賞として投稿一件につき一枚の唐揚げ券を進呈した。
券を一枚行使すると俺が揚げた唐揚げが10個もらえるといういつ使ってもいいチケットとなっている。
アンニさんが20枚くらいゲットしていたのはちょっとした驚きだったものだ。
ユンカーさんに半分上げたらいいのにね。
我が家の馬車については俺たちが親爺の墓参りを済ませてから本格的に取り組むことにし、しばらくは羨ましがらせておこうという事にした。
クノエへの里帰りの最中にも関わらず、ウチのエンジニアたちは工業的に理にかなった物へとブラッシュアップを続けているようで、作りやすいように仕組みが洗練されていった。
そのうちにリンクを支える部分にゴムブッシュが嵌め込まれたり、コイルスプリングが実用化されたりすれば更に上質な乗り心地となるだろう。
戦車などに採用されているディーゼルエンジンや昂暉などが採用しているガソリンエンジンから民生用の小型エンジンが生まれてくれば、自家用車の時代が来そうである。
自分で推し進めてきた近代化がもうすぐ民生の分野に転用されて来れば、ソナー技術を採用した衝突安全レーダーなどを装備した馬車や乗用車が走り回るかもしれない。
クノエに行くのに馬車を三台並べなくても観光バスみたいな乗り物ができれば、短時間で旅行もできるようになるだろうか。
それらが発展を続ければいずれは電子部品なども生まれてくるかもしれない。
そしてパソコンのような製品が生まれるようになれば・・・チカゲさんが引きこもる未来しか見えないな。
もう暫くはいいや。
エンジンが民生用に降りてこない理由は大きく分けて二つ。
ひとつは他国への技術の流出を恐れての機密事項であること。旭北に使われているディーゼルエンジンについても1260馬力V8と言う現代に通用するメカを持っており、高出力化のための排気ガスを利用したターボチャージャーやエンジンを小型化するためのV型レイアウトなど実はたくさんの技術が詰め込まれている。
民生に卸すと全部の把握ができなくなるために、敵性国家に持ち去られても気が付かないという危険がある。
それで技術が流用されて自分たちの立場が危うくなるようでは意味がない。
もう一つの理由は加工の大変さにある。
鉄を磨くと言っても汚れを取るために拭いているわけではなく、表面の粗さを整えて限りなく鏡面に近づけたい。平坦に、滑らかに、直線的に。
現代では専用の加工機械があるので自動車部品はものすごく簡単に量産されているが、この神国ではエンジン一つをとってもすべての部品が手作りなのだ。
同じ部品を同じようにいくつも作るという大変さは、簡単に民間でできるような仕事ではないという訳で、例え出来たとしても農家の人や商人が買える値段で出来るわけが無いのだ。
貴族が道楽で買う分には出来ないこともないであろうが、陛下の治める世の中でその贅沢をしようとする貴族は居なかった。
いつかプレス機や鍛造設備、焼き入れ設備なども実用化されて来れば、旋削加工設備に研磨装置などもいろいろと出てくれば、価格も下がり農家の人達がトラクターで田を起こし、行商人がトラックで出前店舗を商ってくれるだろう。
油圧ショベルやブルドーザーが山を切り開き、安全な旅路や便利な生活道路もできてくるはずだ。
そんな夢を見ていると、まだまだ頑張るところはあるんだなと自分を鼓舞することもできる。モチベーションが続く限りは堕落せずに生きる道を探せると思う。
四人の妻とたくさんの仲間と家族がいる今は、今日も明日さえも楽しみでしょうがない。
読んでみて「なんじゃこの話は?」と言った処でしょうか。
少し、ソウタの頭の中をのぞいたような構成となっています。彼が常日頃思っているような事を普段の生活の中に具現化しているという設定で、難しいことを言っているフリをしているようです。




