【第80話】里帰り
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アリエッタが贄となるハズだった子たちを世話し始めて4か月ほどが過ぎた。
季節で言えば春も盛りを過ぎ、穏やかな気温と好天が続く季節である。
農家の人達にとっては稲の苗を耕した田に植える忙しい時期であり、酪農に勤しむ人たちにとっても畑を準備している人たちにとっても忙しい時期である。
収穫やさらなる発展のために色々なことを盛んに行い、額に汗を流し体に鞭を打って収穫を夢見て努力を続けている季節でもある。
目覚めの時間に寒さを感じなくなり、妻たち、娘たちに囲まれて幸せな目覚めを堪能して噛みしめている季節でもある。
相変わらず俺の上で眠るフィアの艶々とした銀の髪を撫でると、指の隙間を遊ぶように潜り抜ける感触が何とも言えずに心地よい。
左側で眠るシロップを見ると肩よりは長くなり、茶色が鳶色にも見える髪を触ると満面に笑みを浮かべながら擦り寄って来てくれる。右を確認すれば、見事なグラデーションを描く銀髪を背中まで流し、俺の腕をいつも抱きしめながら眠っているアニエスが居てくれる。
そのコンパクトな身長を生かし、俺の枕元に丸くなるように眠る如月は俺の髪に顔を埋めるように眠っており、毎日の洗髪が欠かせないものとなっている。
これだけの美少女たちに囲まれてさらに、それぞれの胸元やお腹辺りに埋もれて眠る俺の娘たち。
フィアと俺の胸元にはユイが挟まって涎を垂らしており、シロップと俺の腹の間にはカーリオが埋まっている。アニエスが俺の腕に腕枕をさせてもろともに抱きしめているクレイオもカーリオに負けないほどに涎を垂らしており、俺の髪の中には睦月が埋まっている。
髪の毛も涎で湿っており、朝から風呂場へと行かねばならない。
それも毎朝のルーチンワークになっており、側付きのアリスさんやキョウコさんによって沸かしてもらっている風呂で、短い時間で身支度を整えられるようになっている。
公爵と言う貴族としての贅沢なのかもしれないし、幸せの形なのかもしれないが、それに甘んじることなく精力的に活動すると、付いてくる評価も悪くなく。隣近所の貴族様たちとも良好な関係を築けていると思うのだ。
例の俺のうちでご飯を食べたいという奴だが、セントラルキャッスルで出会った貴族様方に誘いを掛けるととても喜んでいただけ、奥様といらっしゃっては楽しんで帰って行かれた。
それを聞いた貴族様たちが俺を城で待ち構えるようになり、何とかして誘われようと行ったり来たりしているのがとても平和で和んでしまう。
年配の大人たちが、陛下に用事もないのに城に屯しており、俺が見えるや否やご機嫌を伺い、今夜の予定を聞こうとするのだから、それを微笑ましいと言わずして何を微笑ましいというのか?
陛下さえもその様子がおかしいと仰り、時としては乱入されることもある。
ご家族でいらして我が家のもてなしを堪能しようというところに陛下がお妃様と皇太子殿下をお連れになって「やっほー」といった感じで供も連れずに遊びに来るのだ。
仰天する貴族様たちを他所に皇太子様とユイが大声で戯れに興じたり、お妃様が妻たちと楽しげにされる様子を見て、同席することになってしまった貴族様たちは陛下御一家の楽し気な一面を見ることになり、驚きとともに親しみをも感じたと更なる忠誠心を高まらせていたのも良い傾向だった。
相変わらず、俺が壊れた魔力灯を交換する様は我が家の風物詩になっているらしく、それを見てしまった貴族様たちは「これがメイドたちの心をつかむ奥義か。」などと言われるものだから、それを否定するのもまた大変なものだ。
女性が高いところで作業をして万が一、落ちたりしたらと言う気遣いだけだったのだが。
メイドたちからはとても評判が良くて、いつの頃からか俺の役目になったというだけなのだが、思慮深くそうしたと勝手に想像力を逞しく働かせ、納得していらっしゃる方々を説得するのは早々に諦めた。
春の日差しを堪能しながら外出用の馬車をゆっくりと走らせ、トチノキを目指している俺たちは、シロップとアニエスのそれぞれのご両親をお爺ちゃん、お祖母ちゃんと呼ぶためにこうして季節を選んで里帰りを実行に移した訳だ。
馬車の中にも暖かな日差しが降り注ぎ、抜けるような青空の下をぽくぽくと進むと御者席の後ろにある寛ぎの空間では妻たちもうつらうつらと昼寝を楽しみ、抱いた子供たちもおっぱいを貰った後で抱かれた姿勢のまま幸せそうに眼を閉じている。
ユイだけが俺の隣に掛け、付き合ってくれているのだ。
ウィングと旦那が並んで馬車を引き、馬と馬車をつなぐ轅に仔馬も繋がれている。
こげ茶に近い栗毛色の体毛と艶のある黒い鬣はサラサラとして愛嬌のある顔つきをしているが、好奇心が旺盛でちっともいう事を聞かないらしい。
この夫婦も娘に恵まれ、仔馬はフィアによって「ユニコ」と名付けられ、その出自が何であるかは言わない方がいいと思うのだ。
三頭に引かれる馬車は夕方前にはシロップの実家へとたどり着いた。
「おとうさーん!」玄関先から大きな声でカーリオを抱いたまま母屋へ入っていったシロップたちは続いて入っていったフィアたちと共に歓迎されているようで、お母さんが馬車を一人で片付けている俺の元へと迎えに来てくれた。
「ソウタさん、長旅ご苦労様でしたね。あの子ったら旦那様を放っておいて勝手に入って来ちゃって申し訳ないです。」
「お母さん、こんにちは。そんなことはいいんですよ。先に入ってもらわないと他の嫁たちも入れませんからね。馬屋を借りますね。」
馬車からウィングや旦那を外すと、ユニコが自分もとせがむように前足を上げる。
ユニコは俺のことは気に入っているらしく、小さな体を摺り寄せてくる。首や鼻面を十分に撫でてやり、旦那の元へと連れて行くと旦那に毛づくろいされながらウィングにも甘えている様子だ。
親子三頭を馬屋に連れ、飼い葉やナトリウム岩塩をたっぷりの水と一緒に準備する。旦那が俺の肩口を甘噛みし、礼をくれるのも楽しいものだ。
旦那とウィングに丁寧にブラッシングし、ユニコに藁束でマッサージしてやるとそれぞれが寛いだ表情を見せる。飼い葉を食み、疲れを癒してくれるといいなと思うよ。
シロップのお母さんは俺のしていることをずっと待っててくれたようで、振り返ると優しい笑みを浮かべてこちらを伺っていた。
「どうされましたか。」
「いえ、人だけでなく馬からも信頼を得ている様子が何とも言えず自然でしたよ。シロップが好意を抱き、思いを伝えようとしたのが良く判るんです。」
改めてそう言われるとちょっと恥ずかしい気持ちになるよ。
頭を掻きながら「そんなたいそうな者じゃないです。」とだけ言い、お母さんを母屋の方へ誘った。
家に上げてもらうとお父さんがカーリオを抱きしめており、カーリオはお爺ちゃんをぶっ叩いていた。
「し、シロップ止めさせないと!」
「え~?だってお父さんがカーリオを離さないから、嫌がってるんだよ?」
「ああ、そうなんだろうけど、叩くのは見過ごさないでくれ。それがいいと思われても困る。」
「はぁ~い。ほら?カーリオ、叩いちゃダメよ。」
「すまん、すまん。ママに返すから許しておくれ。」
お父さんも俺がシロップに言ったことを聞き、険悪になる前にと孫を渋々に手離してくれたようだ。
まぁ、俺たちがケンカしたところで俺が嫁たちに反省させられるだけなんだがな。
そうこうして孫とお爺ちゃんが戯れていると、畑仕事に精を出していた兄弟たちが戻ってきたようだ。
「ソウタさん、お帰りなさい。お!?今日は皆さんでいらしてたんですね。いらっしゃい!」
長男が気さくな挨拶をくれる。
次男も嫁たちに挨拶をした後にシロップの抱いているカーリオの頬を突いたりして気に入られようとしているらしい。
カーリオが喜んで次男の指を握ったりしているのがまた可愛い。
アニエスや如月は自分の子が三男と四男に構ってもらえて、話し相手になっている。
ユイは俺が目に入るなりに俺の膝に登り、自分の居場所を定めている。
フィアはシロップのお母さんと夕食の準備を始めており、全員がこの家に受け入れられている。それをユイを抱きながら感慨深げに眺めていると長男が酒瓶を持って俺の側へとやって来た。
「今日は泊まって行ってくれるんだろ?」
そう言いながらたくさん持ってきたぐい飲みをテーブルに並べて行く。
「妻たちには飲ませないでくださいね。母乳が飲めなくなります。」
「そうなのか。残念だが仕方ないな。その分、ソウタさんに飲んでもらうさ。」
おいおい、そんなには飲めないからな。
俺と差し向かいになった長男は小さな声で俺に問いかけてきた。
「なぁ、どうやったらこんなに可愛い嫁さんたちが集まるんだよ。俺は一人で良いから自分で選んだ嫁を見つけたいよ。」
「さぁ、そればかりは俺にも良く判らないです。何が俺を選んでくれたポイントなのかも判ってませんし、直接お聞きしてみたらいかがですか?」
「そ、そんなこと恥ずかしいじゃないか。」
うん?俺には恥ずかしいポイントが判らないんだが。
「アニエス、ちょっと聞いてくれる?」
「うん?待ってね。」
俺の横に来てクレイオを抱いたまま座った。
「アニエスは俺を気に入ってくれたポイントって何かなと思ってさ、お兄さんたちも参考にしてアニエスたちに負けないお嫁さんを探すんだそうだ。」
「そうですか、私たちがソウタさんを選んだのってあまり参考にならないと思うんですよ。メイドの学舎で貴族と言うのはこんなものだって習っていたでしょ?でも、ソウタさんって習ったような貴族と違っていつもメイドのことも真剣に考えてくれていて、誰も蔑ろにしないじゃないですか。
メイドって空気のように扱われて、認められるとか言う以前に奉仕することが当たり前って習ってきたんです。シロップちゃんもきっと同じことを言うと思うんですけど、ソウタさんは最初から私たちを家族として扱ってましたし、二日目には80人のメイド全員を名前で呼んでましたよ。
重い物は代わりに運んでくれて、私たちの仕事が終わればお礼を言ってくださって、朝の挨拶もいつもご自分からされてました。自分で調理してメイドにご飯を食べさせる公爵様なんて居るわけが無いじゃないですか。
それが目の前にいつもいてくれて、私たちのことに心を砕くんです。自由にさせてもらって、助けてくれ、この国で一番強くて陛下から信頼を得てる人。
憧れたり、好きになったりするのにそれ以上の人っているとは思えないですよ。」
身の置き所が無い。
べたべたに褒められると居心地が悪くてしょうがないんだが。
「一言で言うと”思いやり”なんじゃないですか?」
アニエスが締めくくってくれた。
「お兄さんが80人のメイドを抱えているわけじゃなくても、誰か一人でも思いやりを持って接し続ければ好きになってくれる人は必ずいると思います。
ソウタさんはいつも気を付けて見ててくれて、言いにくいことも言われるんですが、その代わりどんな時でも守ってくれます。それに絶対に嘘をつきませんし、秘密も持たないんです。それがどんなに信頼を得られるかソウタさん自身は判ってないみたいですけど。」
そう言って、俺の頬を突いてくる。
フニフニと突くと、クレイオまで真似し始めた。両方から突かれて変な顔になるとクレイオが大喜びして、笑っている。
「うちの話なんて参考になりますか?」
聞いてみるとお兄さんは眩しそうに俺たちを見やりながら、うんうんと頷いている。
それなりに中身はあったらしい。
「アニエス、これからも良い旦那でいられるようにするよ。」
「十分ですから。」
そう言ってニコニコと俺の隣に座っている。
お母さんとフィアが支度が済んだようで「食事ができました!」なんて言いながら誇らしげに呼びに来てくれた。
ユイとクレイオが俺の頬を突きまくって爆笑している傍らでアニエスが微笑んでおり、三男と四男が睦月と遊んでいる。
次男がカーリオに指を掴まれて、逃げられなくなっている。
それが俺の幸せの形なのかなと思えた。
全員が食卓を囲み、夕食をすますと順に風呂を頂いて用意してもらった寝床へと引き上げた。五つの布団が準備してあったが、結局いつものように全員が俺の布団に集まって来ていつものポジションに収まろうとする。
それには布団がちょっと狭いのだが、シロップが布団を二組くっつけて解決しようとする。この場合、俺が合わせ目になっているのだが。
全員と愛情を確かめ合い、いつものポジションに全員がいつものように収まる。
シロップはフィアを載せている俺の方へ体を向けて、お腹辺りにカーリオを収めてから嬉しそうな笑みを浮かべて話しかけてくる。
「ソウタさん、私、この家で誰よりも早く”親”になっちゃいました。でも、お父さんやお母さんの顔を見ていると嬉しそうで安心しました。
学舎に送り出してくれた両親もこんな風に里帰りが出来る身分になって帰ってくるなんて思ってもみなかったって。
学舎に送り出した時に今生の別れかもって思ってたって言ってました。
何もかもがソウタさんのおかげなんです。
またいつかここへ連れて来てもらえませんか?」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、里帰りなんていつでもすればいいじゃないか。
こっちには祖父母や先祖からのお墓もあるんだろう?」
「それはそうですが、そんなことしていいんですか?普通は家を出た娘は二度と帰ってこないものだそうですよ。」
「こっちではそうなんだ?俺のいた世界では、年に何度か先祖を敬うような時があってね、その都度に親戚が集まったり、先祖の墓をお参りしたりするんだよ。
だから嫁に出た人たちもその時を楽しみにしたりするものなんだ。シロップもアニエスも俺の嫁なんだから俺の世界のしきたり通りに先祖を敬う時期には孫の顔を見せに来るもんだぞ。」
「へぇ、ソウタさんの世界ではそんな風習があるんですね。でも一年に何度もなんてソウタさんの負担になってしまいますよ。」
陛下のクエストでこんなに外出する機会が多いのに何を遠慮してるんだろうね。
「冬の寒い時期以外に年に三回はお墓をお参りするものだよ。先祖を敬うというのは自分の存在することを感謝したり、考えたりする機会にもなるんだ。
俺なんかはこっちに先祖の墓なんかもないからシロップやアニエスの先祖のお墓と、フィアのお父さんやお母さんが眠る墓にはちゃんと手を合わせておきたいよ。先祖の人達がそれぞれの家を守り、子供たちを大事に育てたからシロップと俺が出会えたんじゃないのかな。
そうした気持ちはずっと大事にしないといけないものだと思うよ。」
「私、ソウタさんはそんな信心深いことを言う人ではないと思ってました。」
「どうしてそう思ったの?」
「う~んと、この間の黄泉越えの翼でしたっけ、宗教活動化をすごく嫌っていたじゃないですか。先祖の話とかお墓の話とかはしちゃいけないのかなと思っていたんです。
でも、今日はそう言うのをすごく大事にしてらしたので、どっちなのかなって思ったんです。」
「先祖を敬うのは宗教とは関係ないよ。亡くなられるまではちゃんと生きていた人たちだし、その人たちがシロップを産んでくれるお父さんやお母さんを育ててくれたんだろう?俺の嫁になってくれてカーリオを産んでくれたシロップが俺の横に居てくれるのはそうした人たちがいてくれたからだと思うと、自然と感謝が出来ないかな。
それは、あんなバカげたことをしでかす宗教家なんかとは全然違うよ。」
「ちょっと難しいかも。先祖様を大事にするのは宗教とは違うんですね。でも、先祖様じゃない神様や何かを信じているのは宗教でいいんでしょうか。」
「そんな感じで良いともうよ。」
うんうんと頷いているシロップの頭を撫でて、「お休み」というと、カーリオの寝相を確かめてからシロップは俺の腕を枕にして幸せそうに眼を閉じていた。
右腕に抱き付いているアニエスも「嬉しいです。」とこれからも里帰りできることに安堵の気持ちを現してからより強く俺の腕を抱きしめて眠りについた。
頭の上では如月が睦月が墓を守ってくれるのよね?と不安がっているようだが、それが当たり前だと告げると、「安心したわ。」とだけ呟いて俺の頭に顔を埋めてしまった。
如月は俺たちと同じモノサシで寿命を心配しなきゃいけないのかな?と心の中だけで突っ込みを入れてみる俺は、フィアを抱きしめて目を閉じた。
フィアの涎が一番たくさん俺の胸を濡らしているのは、死ぬまでこうなんだろうなと悟りを開くほどに思わされる。
翌日、たっぷりと寝坊させてもらい、午前中のうちにシロップの祖父母が眠るお墓を訪ね、家族全員で手を合わせてきた。
畑からたくさんのお土産を貰い、屋敷に帰ってからみんなで頂きますと別れの挨拶を述べる。
シロップに夕べ話したことをお父さんに伝えておいでと言うと、喜びながら両親の元へと伝えに行っていた。喜んだ両親から感謝の言葉を頂き、また直ぐに来ますねと約束して二日を掛けてセキまでの道程を楽しんだ。
アニエスの屋敷にも大きな変化があり、俺たちが訪問すると馬車で来ることからか、正面玄関に立派な車宿りが完成していた。
その奥にも馬屋が新設されており、居心地のよさそうな厩舎となっている。
そこまでしてもらえるとは思ってもいなかったので、ちょっと驚きでもある。
それだけアニエスが存在を高めているのだろうが、今回の隠し玉は衝撃的であると言える。
車宿りに馬車が入ると刀鍛冶一門を下支えする下働きの女性や、門下に入り修行に励む若い男性たちがお迎えに出てくれた。同じようにアニエスのお母さんが迎えに出てくれ、俺たちが馬車から降りてくるのを労ってくれている。
「遠いところをありがとうございます。フィアさん、一段と美しくなられましたね。シロップちゃん、いつもアニエスと仲良くしてくれてありがとうございます。
こちらのお嬢さんはどなたですの?」
少しばかり警戒を含んだ声音で如月と睦月を探っている。
「お母さん、こちらは如月ちゃんと言います。抱いているのはソウタさんとの娘で睦月ちゃんと言うんですよ。私たちと同じソウタさんの大事なお嫁さんです。」
アニエスに紹介され、如月は睦月を抱いたままで深くお辞儀をする。
「あら?魔剣如月と同じ名前なんですのね。」
「お母様、私がその魔剣如月です。訳あってこのような姿で普段は暮らしております。ソウタさんが必要とされれば剣の姿に戻り、お役に立っております。」
「ええ?あなた、あの魔剣如月で間違いないのですか?」
「ええ、このような機会が得られるとは1000年もの間、想像もしていませんでしたが、ソウタさんのお蔭でこのような姿を得て、更には子を設けることもできました。
それで、私にとっても里になりますこのお屋敷に人の姿で来させていただいた次第なのです。」
まだ信じられないという表情をしているお母さんだが、話すならまとめてと思い、お父さんへの取次ぎをお願いする。
門下の男性が馬車を片付けてくれるそうで、ウィングたちをお任せしてお屋敷に入れてもらった。
話を聞いたからなのか、お父さんも急いだ様子で玄関先まで出てこられ、初めてみる如月と睦月を驚愕の表情で眺めていた。
「私が如月でございます。改めまして初めましてとご挨拶させていただきます。神棚で過ごした1000年は決して無駄ではございませんでしたが、ヤマノベ公爵に見初められて私を振るってもらうことで、ここまでの事が出来るようになりましてございます。」
「ほ、本当にこちらのお嬢さんが魔剣如月なのですか?」
「アニエス、睦月を頼んでいいかい?」
「お任せください。さぁ、如月ちゃんソウタさんの腕の中に!」
アニエスに背中を押され、睦月を預けた如月はドレスの裾をちょんと摘み上げて貴族式の挨拶をした後に紫の閃光を放った。
「なにぃ!?」
ご両親が驚嘆の声を上げて目を眩しい光から守り、再び目を開けた時には俺の手に握られた如月は薄い紫の光を刀身に纏わせ、濡れたような妖艶な輝きを辺りに漂わせる一振りの日本刀となっていた。
「ま、まっこと正真正銘の魔剣如月だ。どうすればこのような魔剣が出来上がるというのか。」
「娘さんの睦月ちゃんも魔剣なのかしらね。」
お母さんの疑問に首肯して答える。
「はい、お母様の仰る通りです。睦月も小太刀として生まれた訳ですが、まだ幼いゆえに自分の意思で日本刀の姿にはまだ成ることができません。
もう少し大きくなって、物事を考えるようになれば本人が望めば小太刀に姿を変えることができるでしょう。」
ほぉ、と感心することしきりのご両親の目の前で如月は再びドレス姿の可愛い淑女へと姿を戻した。
「ソウタ殿、あなたには本当に何から何まで驚かせられますな。如月がどのように成長すればこのような可愛いお嬢さんになるというのでしょう。」
お父さんはそう言いながらも屋敷に上げてくれて、お座敷に揃ったところで茶を勧めてくれる。
みんな日本式の正座には慣れておらず、俺以外はと、断りを入れて足を崩させている。
アニエスはさすがと言うか、背筋も伸びて格好の良い正座を見せているが、シロップやフィアにも真似をさせるのは後の始末が悪いのでやめさせている。
「してソウタ殿、如月のことなんだが?」
「お父様、アニエスとお孫さんのことは後回しですか?」
笑いながらそう伝えるとウムムと真剣に悩んでいる。
「ソウタさん、私のことなんかより如月ちゃんに興味津々なんですよ。刀鍛冶の人ですから如月ちゃんのことを先に話してあげてください。」
ユイとカーリオに挟まれてクレイオも楽しそうにしているので、如月に抱かれている睦月の頭を撫でながら話し始めた。
「如月が私を主と認めてくれてから、私の片腕となって冒険に陛下のクエストにと随分と力を貸してくれたのです。
剣の姿のままでもそのうちにアニエスたちと会話ができるようになりました。それは如月が魔物を屠り、悪党どもを切り伏せるたびにその身に蓄えて行った経験値として自身を成長させることになり、力をつけたことによってできたことです。
あるとき、私の故郷への旅の途中で襲い掛かってきたのは翼竜のエンシェントドラゴンでした。
真性のドラゴンは如月の経験値を大いに上昇させ、最高の状態になった如月は1000年を経て自分の成りたかった姿になれたのだと聞かせてくれました。」
それを聞いたご両親は如月を温かい目で見てくれている。
「如月殿、そなたは私たちの力が足りないばかりに1000年もの間、悲しい思いをしていたのだな。お詫びしたら許してくれるのだろうか。」
思いもかけなかったお父さんの言葉に、俺も如月もびっくりしている。
「そんなことを言わないでください。私は誰の目にも触れようとせず、自分の殻に閉じこもっていました。ですが、それでも私を捨てたりせずに受け継いでくださり、大事にしていただいていたことは正直、感謝しています。
そのおかげでこのような旦那様と巡り会い、希望した子まで産ませてもらえたんです。
感謝こそすれ、謝っていただくようなことなどありはしません。」
「如月さん?あなたもこの家からソウタさんに嫁いだのであれば、私たちの娘に相違ないのですね?」
「私が娘ですか!?本当にいいのですか?」
「当たり前じゃありませんか、アニエスと一緒にソウタさんに嫁いだ私たちの娘なのでしょう。神国を背負うとまで言われている国貴族の公爵家へ私たちの家から二人も嫁いだなんて、とても晴れがましい気持ちですわ。そうでしょうあなた?」
「ああ、もちろんだとも。ソウタ殿、その様な解釈で間違ってはおりませんでしょうな?」
「そのように言っていただけるとはこちらとしても、願ってもないことです。如月、それで問題なんてないよな?」
静かに涙をこぼしている如月は、今までに見たこともない様な美しい涙を流している。
俺の隣に座って、胸の熱さに耐えられなかったのだろう如月は、俺の一張羅の上着の袖を掴んで握りしめていた。
誰かに認められるというのはどんな時でも嬉しいはずだ。
如月の背中にフィアの手が置かれ、シロップの手が添えられる。
如月の髪を撫でると声を上げて泣き始めてしまい、それも心の中が温かくなる涙であった。
アニエスも同じように涙していて、髪を撫でると如月の手を握りやはり声を上げて泣き出してしまった。
如月の「ありがとうございます。」と言うささやかな言葉がご両親にも伝わり、とびきりの笑顔で受け入れられた。
子供たちは何が起こったのかという顔で四人が四人とも俺の方を見る。
俺が嬉しそうに微笑んでやると、それで納得したのかどの子も泣きもせずにまた遊びに興じ始めた。
そんな様子を見ると子供とは不思議と判っているんだなと思わせられる。
悲しいから泣いているのか、嬉しいから泣いているのかが判るのだろう。
それから日が暮れるまで、これまでの色々な出来事を語り合って、花が咲いた話題にも一区切りがつき、家の人が食事ができたと呼びに来てくださった。
「ソウタ殿、今宵は少しぐらいお酒を勧めても宜しいでしょう?」
「いいですね。遠慮なく相伴にあずからせていただきますよ。」
そう告げてみんなが席を立つ。
ズダーンと言う物々しい音を立ててアニエスが転んだ。
「いた~い!そ、ソウタさん助けてください。」
格好良く正座していた割にはキッチリ痺れが来ていたらしい。
笑いながら背負って食事の席へ移動する俺にひたすら謝るアニエス。
それを微笑ましく見守ってくれるのはアニエスのご両親だった。
食事の準備をしていた門下の人達や世話役の女性の皆さんにはからかわれ、笑われてアニエスとしては不本意な結果となった里帰りだった。
第81話は読者の方からリクエストを頂きました登場人物のまとめを行います。
番外として投稿しますので正確には81話ではありませんね。
81話は里帰りしたアニエスの家での話からスタートする予定です。
番外編は明日の予定にしたいのですが、書くのはこれからですので温かい目で見守ってやってください。




