表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
ノブレス・オブリュージュの章
79/161

【第79話】オラニエ伯爵の最期

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

近日のうちにブクマしてくださった皆様にもお礼申し上げます。

32,000PVをとうに超えまして浮かれております。

皆様のおかげでタイピング速度の上がること!本当にありがとうございます。

 「学舎であるか。今までその様な発想は確かになかったかもしれぬな。して、その仕組みを整えるとどれほどの設備が必要となるのだろうな。」

 今はフィアと一緒にユイとアリエッタを連れて、陛下の元を訪れている。

 控えの間に集った陛下とお妃様とゲオルク皇太子に我が家で企画した学舎の話をしに来ているのだが、話をしているのは陛下と俺だけで、ゲオルク皇太子とユイが楽し気に遊んでいるのをお妃様とフィアが愛でており、どうしたら良いのか判らないアリエッタがこっちの話を聞いたりあっちの遊びを手伝わされたりして、一人だけ忙しそうだった。

 「こっちはいいから、ゲオルク様とユイの面倒を頼むよ。」

 話の合間にアリエッタに仕事を明確にしてあげると、俺たちに一礼して子供たちの方へと意識を向けたようだ。

 陛下が手帳に何かをメモっているのが気になる。

 「いや、気にしないでくれ。ヤマノベ公爵の処世術を学んでいるのだ。私だって、この城に暮らすメイドやたくさんの家令たちにそなたの屋敷のようになってもらいたいと思っておるのだよ。

 そなたの屋敷のメイドをくれと言っても公爵は首を縦には振らんだろう?しからばそなたを参考にして自分で何とかするしかないではないか?」

 そんな当たり前のことを聞かないでほしい。

 いい感じになるたびに陛下に取られたのではたまらないじゃないか。

 「恐れながら、我が家のメイドたちはお互いを切磋琢磨し、高め合うことで存在感を増しているのです。それでもなお、普段から色々と考えながら暮らしているので、仰られるようなご評価を頂いているのです。

 譲るとか、もらうとかそう言うモノではありませんので、さすがに陛下と言えどもメイドの融通をするわけにはまいりません。ご理解をお願いいたします。」

 「そうであろうな。いや、ただ単に羨ましいと言うだけでな、いずれは追いついて見せるとも。」

 「テオ、ムリばかり言いますと将来にユイちゃんも来てくれなくなりますよ?」

 「そ、それはナシだ。ゲオルクの迎える妃はユイ殿しかないのだ。ソウタ殿、おかしなことは考えてくれるなよ?」

 「それに関してはこちらのお願いしましたことですので、改めてお願いするしかございません。」

 この国の最高権力と掛け合い漫才が行われる様子を確かめ、アリエッタは深くうなずいている。

 陛下とお妃様を前にして、様子を窺いつつ世話を怠らない辺りが頼もしいメイドになるのではないかと言う片鱗を見せている。物怖じせず、ゲオルク皇太子にもユイにも変わらずに目を配り、危ないことがないようにもできていることに、本人には言わないが感心している。

 それからしばらくは楽しい話題ばかりを交換していたのだが、学舎の話題に戻るにあたってオラニエ伯爵の件にたどり着いた。

 「ソウタ殿、どうして私はこのような詮のない問題を先送りにしていたのだろうな。過去に囚われ、ナッサウ家の無体を見てみぬふりをしたばかりにそなたの心にまで傷を負わせてしまった。

 伏して詫びさせてもらうよ。どうか、ナッサウ家の悪夢からこの国を救い上げてはもらえぬだろうか。私掠免状しりゃくめんじょうを用意した。これを以って全てのナッサウの幻影を打ち払ってくれるか?」

 「心得ましてございます。全ては陛下のお望みのままに。」

 私掠免状。古くはイングランドが始まりと言う国家公認の海賊を正当化するための免許証であったのだが、神国では所謂いわゆる殺人許可証である。

 元々「断罪」の責を負う身ではあるが、好きに殺して回ることまで許されているわけでは当然ない。しかし、この私掠免状によって、係累や関係者の全てを好きにしていいという国家公認の殺人者となることが許されるのだ。

 金の箔押しをされた厚い表具で三つ折りになっている縦長の免状には、「ナッサウ家の全てを打ち伏せるために必要な措置はすべてが神国の責任で認められている。」と書かれており、「その手段を講じるのはヤマノベ公爵家に一任したものである。」と添えられている。

 神国の旭日旗の背後にリーパーサイズ(死神の鎌)が一振り描かれており、鎌は銀で箔押しされている。

 私掠免状には有効期限がなく、随時問題が発覚する都度に過去に遡って死刑対象者かをあらためられ、これまでに発行されたリストに該当する場合は申し開きや裁きを受ける機会もない。見つけ次第、捕食者が喰ってしまえという訳である。

 今日、本日をもってナッサウと言う名と血を持った者たちの生きる権利が喪失した瞬間でもあった。

 それだけの事をしているわけだし、本人たちの責任は回避し得ない。




 翌日から死神リーパーとして俺と如月はレネゲイドを駆り、神国の南北両端から教団を締め上げて行った。

 各地に存在する教団の地方本部を急襲し、信者も含めてピン止めしていく。

 レネゲイドのマップに連動させながら、俺が関係者をオーバーレイし、幹部連中の集まりを狙うようにして襲い掛かる。

 クノエの南端にある本部には6人の幹部が居るらしく、信者と言われるような人物は20人にも満たない様な小規模な組織ではあるが、殲滅対象であることは間違いない。

 こじんまりとした本部の玄関からノックもなしに建物に乗り込むと幹部と言う6人の密会している部屋へそのまま上がり込む。

 「だっ、誰だ?」

 普通の信者でも入ることが許されない場所なのか、幹部たちは寛いだ様子だったが、挨拶もなく入ってきた俺に気色ばむ。

 「ああ、気にしないでくれ。おっと、見せるモノがあるから待ってくれよ?」

 懐から取り出したのは私掠免状。

 「ちょっと見てくれ。ナッサウ家に関係するすべての者たちを自由に殺していいとある。黄泉越えの翼の関係者については好きにしていいと神国親王陛下より許可を頂いたのでな。死んでもらおうと思ってきたんだ。」

 キン!という鞘走りの音と共に手近の一人を紫に光る閃光でなで斬りにする。

 「うお!?ば、バカな?」

 「だから免状を見てくれって言っただろうが。」

 左手に私掠免状を捧げ持ち、右手に如月を携えて近づき、最初の一人を左肩から右腰まで斜めに切って捨てた。

 切り口が斜めに出来上がると上半身は重力に引かれて滑り落ちる。まだ生きている上半身が見ている景色が自分の下半身と言うのは一生の記念になるだろう。

 その数秒後には生きてはいないので、もう思い出すこともないだろうが。

 言い訳も申し立ても一切を無視して切り捨てた。

 6体のむくろを作り上げ、一般の信者がいる礼拝堂と名付けられたホールに戻り、10人ほどの信者と思しき大人たちに声高こわだかに宣言した。

 「この教団の幹部6人をたった今、切って捨てた。黄泉越えの翼という教団が神国の害になると親王陛下が判断され、私、ヤマノベ公爵が私掠免状に基づいて断罪を行ったものである。

 未だ、この教団の教義に拘る者がいるのであれば申し出てくれ。俺が直々に切って捨ててやろう。」

 全員がポカンとした表情で俺が言っている意味が分からないという顔をしている。

 まぁ、当然だろう。

 「お前、この奥の部屋を検めて来い。そこの女、この免状を読み上げろ。」

 多分夫婦だと思われる若い男女に如月の切っ先を向け、居丈高になるように指示を出す。

 それでも何のことだか判らないという表情のみんなだったが、奥の間から聞こえてきた驚愕の雄叫びを聞き、女の読みあげた公式文章を聞くにあたってその意味を理解したようである。

 「わ、わたしたちもこの免状にあるように切り殺されるのですか?」

 年配の男性が視線を泳がせつつ伺いを立ててくる。

 「たった今、この時以降も黄泉越えの翼の信者であろうとするなら、俺が許す訳はない。俺は今、自分の運命を決めろと言っているのだが、お前たちの脳細胞は考えることをやめてしまったのか?」

 こんな高圧的な物言いをされて首を縦に振る奴がいるとは思えない。

 ころげ出るように我先にと教団の本部から逃げ出していった。それを追う訳はないが、この教団本部内に人がいないことを確かめてから、レネゲイドに建物を破壊させた。

 飛び道具を使うまでもなく、こぶしひとつで建物を完全に破壊し、遺体も何もあったものではない。

 陛下より頂いた情報を元に各地の教団本部を壊して回る。

 次々とマップに非アクティブとなった教団の建物が灰色で塗り替えられ、トウトへと向けて挟み撃ちにするように包囲網を絞り込みつつあった。


 幹部と言われるような教団の運営に携わっている連中は完全に問答無用と切って捨てるか、崩落に巻き込まれて建物と一緒に地に還るか、レーザーで焼き払われるかして、一般の信者と区別した扱いをしてやっている。

 一般信者の中にも妄信と言うより狂信と言った方が適切な者たちは居たので、そう言った信者たちには情けも容赦もなく、幹部と同じ扱いとさせてもらった。

 一か所に掛ける時間を短くし、数をこなさなければいけない上に、妄信者や狂信者は説得にも耳を貸さない上に、理論崩壊していることにも気が付いていない。新興宗教に傾倒している段階で”終わっている”と言うのが正解なのだろうが、厄介でしかないのでその扱いはぞんざいにならざるを得ない。

 新しい神がどうのと言ってる段階で、俺が酌量の余地もないと判断している。

 日本でも経験のある人は多いだろうが、電話勧誘などのあの聞く耳を持たないセールストークは許されるなら、あいつらを殺してみたいと思うだろう?

 二度と口がきけないようにしても世の中で困る人もいないわけだしね。

 群馬、茨城、新潟辺りまで北から攻め降りて、静岡、岐阜、石川と言った処まで南から追い立ててきたのだが、セイトには今は人が住んでいないので抵抗らしい抵抗は無かった。

 解放の光を殲滅した際にはセイトに暮らすほとんどの成人が俺の手に掛かったため、黄泉越えの翼を討伐する際には無人の土地として楽をさせてもらった。

 古都として文化遺産のある日本の京都は学ぶべきことも見るべきものも多いのだが、この世界のセイトはテロリストとその予備軍しかいなかったためにこのような処分となり、今は人が暮らしてはいない無人の土地となっている。

 神国の中央に追い詰められた教団の面々は、トウトに近づこうともせずにトサンとシンカタを分ける国境の方へと逃れるように移動していることも判っている。

オラニエ伯爵も最後の集団と共にあるようで、トサンよりはシンカタよりの海岸線を選んで北上を続けている。


 そこからどこに行けるわけでもないというのに、まだおよそ80人ほどの幹部連中と信者を引き連れて逃避行を続けている。

 俺たちはレネゲイドの稼働限界もあることから毎日の行動時間は概ね8時間と言うところだろうか。

 毎晩屋敷に戻り、妻たちと一緒の時間を夕方から十分に過ごし、陛下にご報告を差し上げることもほぼ毎日の日課となっている。

 その後に夕食を取り、アリエッタのその日の活動内容をアンニさんから報告してもらう。アリエッタ本人と妻たちもいる席で報告を受け、反省会や上手くできたことに対しての更なる激励などをしたりもする。

 アンニさん曰くは結構呑み込みも早く、先輩メイドたちにも可愛がられているという事で、将来有望なアンニさんの部下になりそうだ。

 そのようにアンニさんに伝えると、次代を担うメイドとして自らが特に目を掛けて育てたいというのだ。それ程ならと、全権をアンニさんに預けて本格的に雇用することにした。

 アリエッタも自分のこれからを真剣に考えているらしく、色恋は当面お預けにしていると妻たちにも話しているらしい。フィアやシロップは見込みもあると言って炊き付けているらしいが、アニエスも如月もそれは十分にアンニさんに認められてからでも間に合うと俺に話している。

 残念なことだが、俺の本心としてはアリエッタを妾にするつもりもない。

 それよりは自信の持てるメイドとして成長を遂げて欲しいし、アニエスと約束したようにこれ以上妻を増やすつもりはない。アニエスと如月にだけそれを伝えており、煽るシロップとフィアには秘密にしておくように言いつけてある。

 一度に全ての妻が態度を変えるのもおかしいものだし、アニエスと如月はそれを望んでいないこともあり、俺の考えとも一致しているので、程よく距離を取って見守ってほしいと言い含めた。

 アニエスはその件に対し、シロップとフィアに秘密を持つことをとても嫌がったのだが、少しの間で良いと言って、10日ほどしたら俺の考えをフィアとシロップに伝えるように許可を出した。

 妻たちと過ごす時間を減らしたくないので、これ以上分母を増やさないようにしたいものだ。俺が妻たちに望むモノは全員に与えてもらっている。

 そう告げると、如月もアニエスも快く承知してくれた。

 獣系のフィアとシロップに納得してもらうのは一苦労かもしれないが、みんな俺の可愛い妻たちで、俺は十分に癒されているし愛情を全員に平等に注いでいるつもりもある。

 これ以上増えるとバランスが崩れそうで怖いのだということにした。

 如月たちにはタイミングを見計らって俺がそうこぼしていたと伝えてもらうことにした。


 翌日からの追い込みも順調に進んでおり、囮や欺瞞を工作しようとしているようだが、伯爵にマーキングしているので、俺の目を欺くこと自身が無駄骨になっている。

 赤黒いドットがオラニエ伯爵。黄色のドットが幹部連中。白のドットが同行している信者たちだ。

 東に分かれる囮の連中と西に進む大きな一団を本隊と思わせたいらしい欺瞞工作を全く無視してレネゲイドは北上を続ける本体を追い詰めていく。

 示威行動によって本体が逃げ惑い、トウトへの帰路で囮や欺瞞活動を行っている連中を始末する。翌日はまた本体を追い立て、心の余裕を奪っていく。

 既に15人ほどの小集団になっており、ここまで少なくなると逆に怖くて手離せなくなるらしい。

 神を越えた教祖が指導している割には超人的な抵抗を見せない。

 陛下からも捕縛の必要はないと言いつけられているので、どのタイミングで引導を渡すべきか計っている状況が数日続いている。行く先々の教団支部はすでに瓦礫の山になっており、オラニエ伯爵が逃げ込もうとする場所はことごとく居住不可能な状態にしてある。

 集団の大きかったころにはまた、贄を用いた大規模な魔獣による騒動を企てたりもしていたのだが、工作部隊を徹底的に潰したおかげで手駒も既にないらしく、ひたすら逃げ惑うこと五日間。

 肉体的にも精神的にもそろそろ限界らしく、毎日リフレッシュしている俺とはモチベーションの差が歴然としているだろう。

 移動速度が目に見えて下がり、脱落する一般信者も多数に上り始めている。

 五日前は15人ほどの集団だったが、今は5人ほどになってしまった。

 一般信者はもうおらず、伯爵と四人の幹部が居るばかりである。鬼ごっこも潮時と如月から釘を刺され、終わりにすることにした。


 五人が向かっていたのは新潟の柏崎に当たるハクキと言う長い海岸線を持つ景勝地の福浦八景。この地に観光名所と言える自然公園と洞窟があり、そこに身を隠すつもりらしいのだ。

 奥行きだけで80mほどもあるので、逃げ込まれると引っ張り出すのに骨が折れるかもしれない。

 如月からは遊びすぎたせいだと叱られ、レネゲイドからは海岸線は近づかないと嫌われて、内陸部から徒歩で洞窟の側まで来させられた。

 春の麗らかな日差しに満ち、暖かな気温と心地よい海岸線の景色を楽しみながら目視距離でテレポートを繰り返す。もうすぐシロップとアニエスの子たちも生後半年を迎え、里帰りが実行に移される予定にもなっていることだし、手間は掛けられないかもしれない。

 俺の見ている先で五人の死刑囚たちが洞窟への階段を降り始めていた。

 入り口付近は海岸に面しており、潮の干満で海水に浸かるが奥まで進めば広大な空間もあるので隠れ住むには適しているかもしれないのだ。

 蝙蝠が数万と言う数で生息しているので、糞害はあると思うがな。

 日本と一緒かは判らないが、地形的に空間があるのは同じだろう。

 苦労して階段を降りきったらしく、断崖の上から見下ろしても姿は見えなかった。

 俺は視界に入った回廊のような場所へ瞬時に降り立つことができたが、一生懸命やって来たのだろう、伯爵たちは息を乱しながら来てくれた。

 「お?おまえ!?どうやって先回りしたのだ。」

 「やぁ、お疲れのようですね。神を越えたというオラニエ伯爵様のお顔を拝見しようかと急いできたのですよ。少し早すぎたようで、申し訳ない。」

 「バケモノめ。さぁ、お前たち、この若造に神罰を下してやるのだ。」

 「はい!教祖様。やるぞ!」

 幹部たちが気合を入れ、魔法の詠唱に掛かる。

 詠唱の始まりと同時に俺のデストロイウォールが展開を完了し、またひたすら待つばかりの時間を過ごした。

 「私の魔法障壁が展開するまでに1秒とかからないのに、神の力を得た魔法のなんと遅いこと。待ちくたびれてしまうのですが?」

 「うるさい、爆裂魔法エクスプロージョン。」

 一人から爆裂魔法が投げ出され、俺の障壁にぶつかる。

 ずうんんん、と言う地響きと共に周囲が土煙に包まれる。遮られた視界の向こうから「やったぞ!」などとマヌケな感想が聞こえる。

 カウンターアタックを自動にしておらず、ぬるい衝撃に思わず頬を掻いてしまう。

 ゆっくりと土煙が収まり、向こうからもこちらが見えるようになると驚きに満ちた表情の連中がこちらを見やっている。

 「終わったか?」

 俺の緊張感のない声にさらに驚きを深めた二人目の魔法が発動する。

 「魔物め!ウィンドカッター!」

 爆風と共に真空刃が障壁に激突した。激突はしたがそれでどうなると言うモノでもないが儀礼上、驚いておく。

 それだけで二人目の幹部は満足したらしいが、俺はどこも痛くないぞ?

 「次は?」

 バカにしたように問いかけると三人目も雷撃魔法を撃ってきた。

 「サンダーボルト!」

 紫煙が立ち込め、真横に走る雷撃が四方から俺の障壁に降り注いできた。

 空気を割るような衝撃と共に轟音が轟き、デストロイウォールに振動が伝わった。

 「おお!すごいものだな。」

 感想を述べるにとどまったが、四人目の仕事を邪魔しても申し訳ない。

 「最後は何かな?」

 「ヒュージエクスプロージョン!」

 バカなのか?この空間でそれを使ったら俺以外・・・が吹き飛んでしまうじゃないか。

 もう一つデストロイウォールを展開し、ヒュージエクスプロージョンで撃ちだされた光の弾を取り囲んでやる。

 逃げ道が垂直にしかなく、盛大な爆発音と共に地表と洞窟の天井に向け爆発のエネルギーが解放された。

 「ほれ?神を越えた五人目が居るだろう?最後にきつい奴を頼むぜ。」

 俺は既に座り込んで胡坐をかいており、片腕を膝に縦てその上に顎を乗せている。

 本気でバカにしていると思ってもらいたい。

 ついに教祖が前に出て来てとっておきを披露してくれた。

 「次元断層!」

 それを聞いた瞬間にデストロイウォールが足元にも展開され、俺はその上に乗っているような状態になる。俺以外で初めての次元断層を使う奴が現れた訳だが、足元に直径1mほどの空間がぱっくりと口を開けて現れた。

 俺の障壁で蓋をしたようになっているので、断層が開いたと言ってどうにもならないのだが、それでもこのサイズは立派なものだ。

 「全員一通りを披露してくれたことになるのか?もう一巡付き合ってやってもいいが最初からやり直すかい?」

 「き、キサマ!本当に魔物なのではあるまいな!?」

 「何を寝言いってるんだよ。そんなわけないだろう。お前さんたちより魔力に優れているだけだよ。」

 言い置いて懐から私掠免状を引き出し、良く見えるように向こうに見せてやった。

 「見えるだろ?ここに書いてある通りだから、伯爵も生きている必要はなくなった。前にも伝えた通り、燃えるのがいいか?破裂するか?砂になるか?星の外で凍えて死ぬか、どれにする?」

 「たかだか二柱を屠った程度で大言壮語も大概にせい。」

 「なんだ、ちゃんと聞いているんじゃないか。で?どれにする。耐えられたら見逃しても良いぜ?」

 「どこまで愚弄するつもりか。」

 とことんまで。と心の中で呟き、次元断層を幹部の足元に開いてやる。

 虹色の別次元が直径5m以上に渡って口を開け、3人が飲まれていった。

 瞬時に口が閉じたおかげで五月蠅い声を聞かなくて済んだ。

 伯爵とその側に控えていた幹部はすでに言葉を失い、消えてなくなった仲間たちのいた場所を見つめているようだ。

 「このバケモノが!」

 短縮詠唱で撃ちだされたファイヤーアローが俺の障壁にぶち当たり、俺が障壁の自動攻撃機能をオンにした瞬間にお返しのファイヤーアローが撃ち返された。

 「ギャー」

 10倍返しになったこちらからのファイヤーアローは、ほとんどは残った幹部に命中したのだが、流れ弾が伯爵にも命中してしまった。

 伯爵の腹部に一本、右腕の手首より上の方に一本。

 命中精度に自信があっただけに全部が幹部に刺さらなかったことは今後の反省材料にしたい。

 吹っ飛ばされるように幹部は背後に倒れ込んで動かなくなった。

 腹部を庇うように押さえ、座り込んでしまった伯爵は唸り声を上げるばかりで最早強がりを言うどころではなくなったようだ。

 俺は障壁を解除し、伯爵の元へと歩み寄る。

 ただし、如月は勝手に俺の手の中へと現れたため、抜剣した状態となったが。

 如月は俺から魔力を吸い上げ、とうに紫の輝きを身に纏い低い唸りを上げている。

 「伯爵殿、これでもまだ神を越えたと申されますか?」

 ようやく恨みの籠った視線でねめつけるように視線を寄こしてきたが、顔色は悪い。

 「お前のように全てを持つものに判るわけが無いだろうが、この世界は欺瞞に満ちておるのだ。聖銀の巨人然り、お前の作って見せた空を飛ぶ機械に大国を上回る戦闘車輌。

 元々無かったものが今の世に溢れておる。海を走る戦舟もほとんどがどこかの世界からやって来たものだ。どうしてそのようなものがこの世界だけに流れつくのだ?

 そしてお前たちのような別世界の人間。なぜこちらに来られる?こちらから向こうへは行きようがないというのに。この世界は誰が作った?どうしてあちらこちらから人やモノが集まってくる。何をしようと言うのだ。

 それを知りたくて、その力を身に付けたくて調べ、探し、試した。

 そして俺は何かを掴みかけたんだ。」

 伯爵の話に引き込まれた。

 俺が疑問に思っていたことをこの伯爵も同じく疑問に思っていたのだ。

 「これがその成果の一つだ。」

 「うぉお?」

 伯爵の体が突然に膨らみ始め、額や肩から大ぶりの角が。

 背中や腕も膨れ上がり、体表を鱗が覆い始める。醜く太っていた体が更に大きくなり、デカい尻から長く太い尾が生えてきた。

 顎が前に突き出、乱杭歯が凶暴な尖りを持つ牙になって数センチの長さに伸びたんだ。

 デストロイウォールを展開するタイミングが遅れていたらなぎ倒されていたかもしれない。

 伯爵だったものが立ち上がりざまに振り返り、長い尾を横薙ぎに振るってきたのだ。

 距離を取り、如月にさらに魔力を籠める。

 〔気を付けなさい。あいつの表面にも障壁が発生しているわ。〕

 「俺が神を超えるというのはこういう意味だ!」

 聞き取りにくいノイズの混じった低音でがなり立てる伯爵だった何か。

 体高が3mほどにもなり、逞しい筋肉の隆起がすさまじい。まともに組み合う訳にはいかないだろう。

 飛び掛かるように襲い来るソレは、俺の障壁に衝突し、自動攻撃を喰らう。

 あのクノエの巨人が消し飛ばされた攻撃だ。

 まばゆい閃光を発し、化け物の体表を覆う障壁と干渉した。

 ぎりぎり化け物の障壁が耐えきったようで、押されて後ずさったものの物理的なダメージは喰らっていないらしい。

 これには俺も驚いた。

 初めて俺の攻撃が通らなかったのだから。

 もう一段、如月へ籠める魔力量を上げ、障壁を解除してテレポートを併用しながら切り掛かる。

 「うぉぉぉ!」

 唸りを上げる如月の紫の閃光が闇を切るように一閃した。

 ぐうぉあー?

 これは化け物の障壁さえも打ち負かしたようで、背後に回り右腕の付け根を切り飛ばした。

 〔かったいわね!でも、私が通るなら勝ち目はあるわ。どんどん行きなさい。〕

 ああ、キッチリ仕留めてやる。

 再度、テレポートして正面に回る。

 下から切り上げた如月を視界にとらえられなかったようで、目算通りに首元に刀身が吸い込まれた。

 ヒュー、カハァ!

 呼気が漏れる音をさせ、化け物の首が落ちた。

 切断面から真っ黒の血飛沫が上がり、瞬時に距離を取る。

 如月を確かめると、一滴の血液も貰ってはいなかった。

 〔大丈夫、あなたの魔力量なら直に私があいつに触れることは無いわ。〕

 それを聞いて安心したよ。

 異常があったら必ず言ってくれよ?

 〔もちろん。こんなところで終わるわけが無いわ。〕

 もう一度のテレポートで再接近し、縦に刃を通す。

 バケモノから返る言葉はなく、障壁も消えた。

 2000℃の炎を渦巻かせ、洞窟の天井に着いた血液さえも残さずに燃やし尽くしてやる。

 得体が知れなさ過ぎて何も残したくないと思えるのだ。


 それにしても今回は情報量が多かったように思わないか。

 〔そう言えばそうね。伯爵は何を掴んだのかしらね。自分が変化へんげしてしまうなんて、並大抵のことじゃないわよ。〕

 うん。伯爵の足取りを辿る必要もあるかもしれないな。

 とりあえずはレネゲイドが文句を言わないところまで内陸側に行かないと飛んで帰れないからな。

俺TUEEEに初めて待ったがかかりました。

伯爵は何を得てこんなことになったのか?世界観にも少し触れてきましたね。

意外と伯爵からのヒントが後の展開につながっていくのではないかと・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ