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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
ノブレス・オブリュージュの章
78/161

【第78話】ラビオリ?

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

お蔭で31,000PVイッキ越えです。ありがとうとしか言えません。

後半まで緊張がもちませんでした。バカ話もつけてしまいました。

 「急げ!ここにも侵入者が来る可能性があるぞ。」

 「はい!」

 「フィア、発光信号頼む。」

 「了解しました。」

 発光信号は実際にはフィアのファイヤーボールだが、土系統の魔法を同時に使用することで炎の色を変えられるのだ。上空で破裂させることで意思の疎通ができる信号弾となる。

 「レネゲイド、火災の一番近い場所へ急行する。水魔法と風魔法を併用するが稼働時間管理を任せたぞ。」

 「了解。現状8時間の稼働が可能です。」

 「よし、いけ!」

 窓から水平に離れたレネゲイドは貴族街の砦を越えたところで猛加速を始める。

 上空から見る限りは発火点と延焼地域は相当に遠いようだが、油か何かを使っているようで舐めるように這いずり回る火の手はその速度が無視できない。

 キシャ―――――!

 西側からプラチナのような輝きを全身に纏わせたデカいドラゴンがレネゲイドめがけて突っ込んでくる。

 バハムートか!?面倒な。

 水魔法と風魔法を併用しつつ、デカい雨雲をトウト上空に発生させる。

 「大瀑布グレートフォール!」

 ファイヤーブレスを吐こうとしたらしいが、急に発生したバケツを返したような大雨にバハムート自身が飲まれて落ちて行く。

 初撃をかわせたのは一石二鳥だった。

 西側から南側に掛けてのほとんどの火災が鎮火した。一度に大量の水が降り注ぎ、油も流されたのだろう。

 バハムートの落下した場所を注視しながら、雨雲をトウト外周に沿って周回させると消し漏らした部分もあるが、大部分の火災は鎮火の方向に向かっている。

 魔法で発生した雨雲は自然のモノとは違い、いつか消えるモノでもないので周回軌道を定めて数回まわれば油も流せるだろうし、火も収まるだろう。

 領地貴族の街並みが広がるエリアから火の手が上がる。

 バハムートが息を吹き返したのだろうが、延焼を助けるような撒かれた油はすでに雨によって流されているおかげか、被った水分のおかげか大火になる様子はない。

 気に入らないとばかりにバハムートはレネゲイドめがけて急上昇を見せるが、翼の生えたトカゲくらいで俺がビビるとか思うなよ?

 「バニシングライフル、当てろよ!」

 「了解。」

 淡々とした事務的なレネゲイドの返答から俺は自信を深める。

 機動予測も演算され、両手のバニシングライフルが咆哮を上げる。

 二条のレーザーがデカい竜の行動を予測したようにその身を貫いていく。

 ギョエウォ―――――!

 胸と肩を貫かれ、バハムートがご立腹だ。

 「バスターランチャー!」

 「了解。」

 グンと高度が下がり、地上への被害を考慮しての処置だろう。

 地上と水平になった瞬間にバハムートに対してバスターランチャーが発射された。

 上から落ちてくるような勢いのレネゲイドを迎え撃とうとしたバハムートがすれ違いざまにその勢いを緩めてしまったのが命取りになる。

 その身を包むような8,000℃のオーロラがバハムートを翼の先の鉤爪一つ残さずに蒸発させた。

 俺からは赤にしか見えないレーザーは赤方偏移しているからで、横や正面から見ると黄色に近いオレンジのレーザーなのだそうだ。

 それが翼竜の身を包んだ瞬間に塵のように消え去った。

 背後に花火のように撃ちあがったファイヤーボールは本当の花火のように青や紫、黄色に赤と言った様々な彩りの光を振り撒くように弾けた。

 次に上がってきたファイヤーボールがハート形に弾け、ピンク色の火花を煌めかせながら夜空を彩った。どうやったらあんなのが出来るの?

 顔が緩んで笑い出してしまうのは仕方がないだろう?



 火災の鎮火した後を確かめて回ると人的被害はないようで、農家の建物や倉庫、橋梁や農耕地に被害は見られたが焼け出された人たちについても非難が完了しているようで安心した。

 復興はもちろんこれからだが、死傷者が居なかったのはありがたいことではある。

 ゆっくりと周回しながら被害の程度を探っていると、トウトから離れるように馬車の一団が北へと急いでいるのが目に入った。

 如月?

 〔どうしたのよ?〕

 ヒマだったろうが、ちょっと仕事ができたよ。力を貸してもらうかもしれないから眠っていたら起こそうかと思ったんだ。

 〔あら、心外ね。あなたが戦っている間に私が呑気に寝てるとでも思ったの?〕

 すまないな。最近妻たちの信頼が厚くてさ、安心しきってたら困るだろ?

 〔あははは、それはあるかもね。でもね、屋敷に居るならともかく、ここには何があるか判らないのよ。〕

 ああ、その通りだな。いや、すまない。

 〔さぁ、そんなことばかり言ってないでお仕事して頂戴。〕

 馬車に穏やかに接近していくと8両の馬車が脇道にそれて身を隠そうとしている様子が判る。ズームしているレネゲイドの視線から魔法使いが詠唱を始めたことも判るが、レネゲイドの周囲にデストロイウォールをアクティブ状態で展開する方が早い。

 馬車の進行方向に立ちはだかるように降り立った俺たちに対して縦列で停車した一団は、先鋒に魔法使いを立ててきた。このまま相手の魔法を受けると自動反撃するのだが、一応伝えておこうと思う。

 「レネゲイド、外部拡声。」

 「了解。どうぞ。」

 「ごきげんよう。私はヤマノベ公爵です。自動反撃を行う障壁が張ってあるので、余計なことはしない方がいい。警告だけはしておくので、あなた方が”黄泉越えの翼”というチンケな詐欺師集団であれば攻撃してくださって結構。手間が省けるので遠慮なくやって下さい。

 そうでないなら身分を証明できるものを用意して私の検閲を受けなさい。

 問題がなければすぐに私は立ち去りますので、選んでいただけますか?」

 様子を見ている限りでは詠唱をやめるようなつもりはないようだ。「チンケ」な新興宗教集団で、嬉し恥ずかしおもしろ集団という事が確定したので、背もたれに寛いで詠唱が終わるのを待っている。

 「そのファイヤーアローの魔法、いったい何時まで詠唱しているつもりなんだ。」

 バカにしたような独り言を外部拡声をオンにしたまま呟いている。自分の性格もなかなか悪い物だと反省しながら、まだ待っている。

 ようやく詠唱が完了したと見えて、一本、二本と燃え盛る矢が空中に浮かび上がり、俺たちに向かって飛んでくるようだ。

 「レネゲイド、迎撃は必要ない。障壁に任せておけよ。」

 「了解。」

 飽きが来るほどに待たされて、飛んでくるのがファイヤーアローとか。眠ってしまうかと思った。

 一本目の火矢が障壁に当たると障壁から逆手順でファイヤーアローが発射された。

 しかもゼロタイムで。

 来た道を帰るように飛ぶファイヤーアローは来た時の5倍ほどの速度で戻っていった。

 「ぐあぁ!?」

 はい。一人目。

 次の火矢も同じようにまるで、反射したように戻っていった。

 「ぎゃぁーーーー!」

 二人目、五月蠅うるさい。

 その後も一人、またひとりと反射されたように見える火矢で討ち取られていく。

 手持ちの駒が切れたのか、剣士が馬車を守るように中から走り出てきた。

 「汚いぞ!」

 なにが?

 ののしられた意味が分からないのだが、どうやら俺の魔法は汚いらしい。

 ふむ。とりあえずご対面と行こうか。

 「レネゲイド、降着姿勢へ。」

 「了解。」

 静かにしゃがみ込んだレネゲイドの胸から飛び降りると、相手方には緊張が走ったことが判る。俺は鼻をほじりそうなほど気が緩んでいる。

 「公爵、お前は神を越えたいとは思わないのか?俺たちの教義を信じれば必ず神をも超えることができるようになるのだぞ!」

 まったく意味が分からない。

 「お前ら聞いてないのか?俺はもう、自分の力で二柱殺してしまったぞ。これ以上神を越えてどうするんだ?」

 「ばっ、バカを言うな。人が神を殺すなど。」

 自分で言ったことさえ忘れたのかこいつらは?

 「いやいや、お前たちは神を超えるんだろ?先に越えた奴が居たら驚くのか?」

 自分の失言に気が付いたらしい。

 明らかな狼狽の上に誤魔化そうという気が満々なのだろうか。いきなり集団で切り掛かってくる。

 行くぞ、如月!

 〔任せなさい。〕

 キン!という心地いい抜剣の音と共に鞘から刀身が抜き出てくる。それを握り込み、水平に構えながら魔力を注ぐと明るい紫の灯りが灯る。

 「死ねや!」言いながら雑な振り被りで雑種剣を振り下ろしてきた。

 「勘弁な。」そう答えて薙ぎ払うと全く手応えもなく、その剣ごと斜め上に切り飛ばす。

 剣も真っ二つになり、剣先が宙を舞う。

 そのまま走り込んで次の剣士も真横に切り飛ばす。振り返ってこちらを向いたばかりの剣士も斜め下へ鎧ごと、持った剣ももろとも切り伏せる。

 あとひとり。

 「どうする?まだやっちゃう?」

 「バケモノか?」

 「烏合の衆の集団心理の方が化け物じみていると思わないか?人を贄にまでして何がしたいんだ。」

 「我々は神を超えるために貴重な犠牲を得て、超常の力を呼び込もうとしているのだ。お前のように何もかもが簡単にできてしまうような奴には判るまい。」

 〔こいつら救いようのない愚か者じゃの。〕

 ああ、間違いないな。

 「馬車には誰か残っているのか?」

 「お前には関係ない。」

 「じゃぁ、自分で確かめるよ。どいてくれ。」

 片手で如月を振りぬいて馬車へと向かう。

 背後に生首が落ちた音がしたが、獣の良い餌だろう。

 先から順番に馬車の中を確かめると3両目までは空っぽだったが、4両目から8両目までの5両の馬車にはそれぞれに死に装束を着させられた幼い少女たちが乗せられていた。

 全員が猿轡をされ、手と足を縛られている。

 貴重な贄と言う割には逃げられないようにしている辺りもいい根性をしている。

 どの子も俺を見て怯えたような表情をしている。涙を流している子もいて、心に刺さる。

 中でも一番年長に見える子の縄と猿轡を解き、話しかける。

 「俺はトウトの貴族でヤマノベと言う。お前たちをどうこうしようという気はないが、求められれば助けてやる。お前はどうしたい?」

 信じられないという目で俺を見るが、如月を剣から嫁の姿に戻すとさらに驚いており、恐怖はどこかへ行ってしまったようだ。

 「あなた、喋ることはできるかしら?」

 「は、はい。剣?剣が人になりましたか?」

 「ええ、私は魔剣如月きさらぎと言うのよ。エンシェントドラゴンをこの私の旦那様と切り伏せてから人の姿になれるようになったのよ。私たちが居ればドラゴンからも守ってあげられるんだから、心配しないで頂戴ね。」

 「は、はい。あの、助けていただいてありがとうございます。」

 「あなたたちは黄泉越えの翼の信者なの?」

 「はぁ、そうかもしれません。お父さんとお母さんがその宗教に入ってて、神を超えるために私たちを差し出せって。それでお父さんたちは喜んで私たちにこの衣装を着せて馬車に乗せたんです。」

 聞いただけで最悪な集団だ。

 「今度は俺が聞いてもいいかな?君たちは自分がどうなるか知っていたかい。」

 「いいえ。でも、神を呼ぶためにとても重要な役目があると言ってました。でも、縛られて喋れないし怖くて恐ろしかったです。」

 「大変だったね。今から全員助けるけど、お父さんたちの元に帰りたいかな?」

 少女の瞳が恐怖に染まる。

 「い、いやです。またどこかに連れて行かれるかもしれません。助けてください!」

 ガタガタと震えはじめる少女を如月が抱いて慰める。

 「大丈夫よ。大丈夫。ヤマノベ公爵ならばあなたたちに怖い思いなんてさせないから安心しなさい。」

 「こ?公爵様なのですか?」

 馬車の中で土下座しようとする少女を如月が抱いたまま止める。

 「そんなことしなくていいの。こちらの公爵はあなたの知っているような怖い人じゃないわ。そうね、どっちかと言うとマヌケな公爵ね。」

 「え?俺ってマヌケなの?」

 俺のポカンとした顔を見てものすごく不思議そうな顔をする少女。

 「ぷふっ、あはははは、あ?ごめんなさい。公爵様になんて失礼なこと。」

 「あら?あなた笑うと可愛いわよ。」

 「ああ、ホントだ。俺がマヌケで良かったよ。」

 それから三人で少しだけ笑いあって、順番に馬車の中の少女たちを解放して回った。

 最初の少女が一緒についてきてくれたことでパニックになる子もいなかったし、全員が大人しく一つの馬車に乗り込んでくれた。

 「みんな、これからトウトに行くわね。そこで体を休めてもらって美味しいモノをたくさん食べてもらうわ。

 そのあとになってからどうしたらいいか一緒に考えましょうね。」

 「はい。」

 全員から返事が返ってきたのでレネゲイドを次元断層に帰らせて、俺が御者席に着くと如月がみんなのケアのために馬車の中で話をしている。

 一刻ほど馬車を走らせて国貴族の外壁東門までたどり着いた。

 少女たちが見たころもない様な立派な砦門を身を乗り出して観察していると槍や剣を装備した兵士たちが近寄ってくる。

 怯えを見せる子もいるが、ほとんどは身じろぎもせずに成り行きを見守っている。

 御者席の俺と会話をした兵士たちが俺に対して臣下の礼を取り、砦門が明けられたことで俺の身分が信じてもらえたようだ。

 それでも自分の身の上が心配なのだろう、本当に安堵の表情を見せているのは最初に助けた少女だけだ。

 そのまま、坂の上の方を目指し進む馬車が俺の屋敷に着いたのは10分ほど後のことだ。

 屋敷の車宿りに馬車を入れるとアンニさんを始め、20人ほどのメイドさんたちが迎えに出てきてくれた。

 「おかえりなさいませ、お館様。」

 20人の合唱で迎え入れられた俺たちは、少女たちを屋敷の中に招き入れ、ひとまずは食堂に集合した。あちこちを見回すようにする少女たちにとって、貴族の屋敷の中は初めて見るモノばかりなのかもしれない。

 夜も遅い時間になってきているので手短に済ませたいのだが、説明もなしでは5人の少女も安心して休めないだろう。

 外の騒ぎが収まり、火の消えたことも確認できたことからか、フィアたちも全員が屋敷に戻ってきていたので、同じように食堂に集まってもらっている。

 「さて、もうそろそろ眠い時間だと思うんだが、話だけは聞いておいてくれるか。まずは俺たちの自己紹介をしよう。

 俺はソウタ=ヤマノベと言う。ここの屋敷の持ち主だよ。それと俺の奥さんたちだ。みんな優しいから安心してくれるといいよ。

 こっちがフィアで、俺の子のユイだ。こっちはさっきから一緒に居た如月に、その娘の睦月だ。こっちの嫁はシロップで、娘のカーリオと言う。もう一人はアニエスで、娘のクレイオと言うんだ。どの娘も可愛いだろう?よろしくな。

 後ろに居るのが我が家の自慢のメイドさんたちで、みんなすごいぞ!こちらがメイド長のアンニさんと言って、我が家で一番頼りになる。

 他に美味しい料理を作ってくれる調理師が二人いて、馬の番をしてくれる人も5人もいてくれるんだ。みんな仲良くやってるから、判らないことは誰にでも聞いてくれ。

 そう言う訳でアンニさん、また迷惑をかけるがこの子たちは今のところ戻るところが無いんだ。どうするのが一番いいかは今後話し合っていかなきゃならないが、当面は心と体の回復を図ってから、メイドとして手伝いをしてもらう事にするよ。」

 「わかりました。ではしばらくは休養させることにしましょう。あなた方、それぞれに部屋を与えますからそこでまずはたっぷりと休んでください。明日の朝から公爵様や私たちと一緒に朝食を取りましょう。」

 今夜はこれで解散となった。

 なんだか、すごく疲れた気がする。

 せめて風呂でみんなと愛し合う事ができて良かった。

 フィアにも愛情を分けてあげることができたし、最低限のことはできているのかな。と思うしかない。


 「ソウタさん、お疲れではありませんか?」

 寝室に戻るとフィアが労ってくれる。

 「あの子たちがどういった子なのかはフィアちゃんと如月ちゃんに聞きました。」

 「本人たちが信者であればもう少し簡単だったと思うのですが、あれでは帰る場所はもうないかもしれませんね。」

 シロップもアニエスも同情は隠せないようだ。俺だってそうだし、フィアもあのままだったらあの子たちがどうなるのか判っている。如月ももう、聞いて知っているだろうし。

 「俺が宗教家を嫌う気持ちが判ってもらえるかな。1000年も昔から残っている信心深い気持ちとは違って、新興宗教と言うのは大体この手の不幸な者たちをたくさん生むんだよ。もっとひどい教団もあるだろうし、それでも表ざたにならないことがとてもたくさんあるんだ。

 オラニエ伯爵には近いうちに消えてもらうよ。この教団を残すとこの家が家族の元に戻れない子たちで溢れてしまうからな。」

 「私もシロップちゃんもアニエスちゃんも同じ気持ちです。今までにそれほど神を信じる機会もなかったですから。如月ちゃんはどうですか?」

 「みんなと一緒よ。刀鍛冶たちは火の神を崇めたりするけど、それは一種の精神集中なのよ。良い剣が打てますようにって。それ以上のことをする人たちも今までには居なかったしね。私が信じるのは旦那様ソウタさんとこの家族だけ。それ以上は必要ないわ。」

 「手を汚すのは俺だけでいい。ただ、帰る家があるから俺は正気でいられるんだ。だからみんなには迷惑をかけるかもしれないが協力してくれ。」

 「それは今更ですよ。ソウタさんに協力したい人しかいないんですから、心配なんていりません。しっかりとお勤めを果たしてきてください。」

 フィアが自信に溢れた顔で俺を励ましてくれる。それにアニエスもシロップもいい笑顔で頷いてくれた。

 如月は違うようで、じっと俺を見つめている。

 「私は一緒に行くわよ。なんでも一人でやろうとしないで。」

 「ああ、一緒に行ってくれると心強いよ。ここの守りにはフィアがどうしても必要だしな。」

 「あなた、ここがまだ狙われると思ってるの?」

 「それが無いとは思ってない。直接ここまで来るかは判らないが、用心が無いと安心できないんだ。」

 俺の言葉を聞いて、フィアは自分の役割を理解してくれたようだ。

 如月も自分の仕事を十分に理解してくれている。

 シロップとアニエスは今日かくまった子供たちの今後をアンニさんと一緒に心配してくれるらしい。

 あの子たちが我が家のメイドとして育ってくれるならそれでもいい。

 贄としてその命を散らす必要が無くなっただけでも俺と俺の家族たちには良かったという想いしかないのだ。

 夜も十分に更けて、日が変わるころにようやく俺たちもベットに入ることができた。

 そのまま疲れた体を癒すように眠ればいいのに、シロップとフィアが寒い時の猫のように纏わり付いてくるものだから、劣情が抑えられなくなり、アニエスも被害者になった。

 頑として目を覚まそうとしなかった如月は最後には眠っているにも拘らず俺に犯されるように愛情を注ぎ込まれて、快感に苛まれるように嬌声を上げながら怒っていたのは、心からすまないという気持ちだった。

 だって、止まらなかったんだもん。


 翌朝、屋敷全体が昨夜が遅かったこともあってスロースタートとなった。

 調理師の二人もいつもなら朝の6時には朝食の準備をスタートするのだと言うが、今朝は8時スタートだった。実は俺たちはまだまだ夢の中なのだが。

 アンニさんたちも屋敷の掃除や洗濯などの雑事を始めたのは7時を過ぎていたそうだ。

 俺たちはまだ寝ていたが。

 9時ごろにようやく昨日保護した子供たちが目覚め、アンニさんたちに着るモノや洗顔、身だしなみなどの世話を受けていたと後から聞いた。

 10時ごろに腹をすかせた娘たちが母親にちょっかいを掛けだして、俺がユイに起こされたのは10時半を過ぎたころだろうか。

 「パァパ、ごあんなにょ!」

 ぺしぺしと俺の頬を叩いていたのは睦月だが、母親たちの策略なのだろうか全部の娘が俺の枕の周りにいて、俺の鼻に指を入れる者や、瞼をめくる者が後を絶たなかった。

 拷問かと思って目覚めると、周りを子供たちに囲まれて幸せなことになっていて、全員の頬にキスをして回ることになった。

 さすがに俺の子だと思うのは、キスを受ける様子がどの子も誠に可愛くて、喜んでくれていることだ。

 幸せをかみしめて体を起こすと、妻たちがニヤニヤと俺を取り囲んで眺めていたが、「おはよう」とあいさつすると、全員が挨拶を返してくれた。

 「随分、幸せなお目覚めでしたね。」

 アニエスにからかわれる。

 「ああ、夕べに負けないくらいに幸せだったぞ。」

 俺も負けじと感想を返すと、如月に叱られた。

 「あなた、疲れた体で無茶しないでちょうだい。あなたはこの国にとって今一番大事な存在なのよ?」

 「うん。判ってる、ありがとうな。」

 そう言って如月を抱き上げ、少し強いくらいに抱きしめた。

 「ちょ?それがいけないって言ってるのに。あっ、あさから、ああっ、んん。」

 抱きしめたらキスするだろう?如月は背が低いから、俺が抱きしめてしまうと足が地についていない。

 持ち上げてしまって唇を奪うと如月は逃げられないから、俺の思うままにされている。

 火照った顔で床に降ろされると「今朝はこれぐらいで許してあげるわ。」と強がりを言っているが、その目は満足したようにしか見えないのだが。

 ピョンピョンと飛んでせがんでいるのはフィアとシロップだ。二人も同じように抱き上げて当たり前のように舌も入れる口づけを交わした。

 赤い顔をした二人を成敗すると、ちゃんとアニエスが順番を待っているのがなんともいじましい。

 「おいで」と耳元でささやき、両手を広げて迎え入れる。

 抱き付いてくるアニエスをふんわりと抱きしめて、おとがいを摘まんでこちらを向かせ、映画のようにキスをすると満面に喜びを現して身を任せてくれる。

 これまでの倍ほど長いディープキスをプレゼントしてしまったせいでアニエスの目が怪しいことになっているわ、嫁たちの視線が痛いやら、めずらしく朝からもう一巡のサービスをしてしまった。

 そんなことをしていれば昼も間近い11時ごろになってしまい、朝食なのか昼食なのか区別のつかない時間に食堂に一堂が会した。

 「昨夜は皆さん遅い時間までありがとうございます。とりあえずご飯を頂き、空いたお腹を満たしましょう。

 それから今後のことを考えるためにミーティングに入りますので、全員参加でお願いしますね。」

 それだけ言うとメイドさんも庭師さんも、厨房から顔を出した調理師さんたちもちゃんと返事を返してくれた。

 「いただきます。」を合図に全員が食事を始めると、ぶかぶかのメイド服を着せてもらった子たちが周りを見回しながら同じように食事に手を出し始めた。

 「ふわぁ、おいしい。」

 「卵焼きがふわふわだよ?」

 「ねえ、パンが温かいのよ?」

 それぞれに驚くポイントがあったようで、会話しながら食事を進めているようだ。

 「みんなちゃんとお腹いっぱいになるまで食べるんだぞ。」

 「公爵様、こんなにしてもらって構わないのですか?」

 夕べの年長さんが心配顔で訪ねてくる。

 「周りを見てご覧よ。みんな楽しそうだし、遠慮なんてしてないだろ?体調を整えたり、元気に暮らしたり、弱った心を癒すためには美味しいモノをちゃんとお腹いっぱい食べるのが一番の近道なんだよ。」

 俺が上座に座って、いつもなら妻たちが長テーブルの両側に適当に座るのだが、今朝は左側に妻たちが並び、向かいに連れてきた子たちが並んで座っている。食堂に入った時はどうにも緊張が解けなかったようだが、美味しい食事には勝てなかったようで今は活き活きと食事を楽しんでいる。

 妻たちに食べ方や料理の名前を教えてもらったりしてコミュニケーションが成り立っていることにも安堵するね。

 それぞれがお腹いっぱいになるまでの食事を楽しみ、食後に紅茶と甘みを頂いたところでミーティングとなった。

 随分向こうの方で手が上がり、そっちに笑顔で視線を向けてから発言を求めた。

 「お館様、その子たちは今後、どのようになさるおつもりですか?」

 いきなり革新に触れる発言だが、結局そこから始めなければいけないしね。

 「基本的には本人たちが望むようにするつもりだよ。ただ、ご両親が黄泉越えの翼の信者だから、そのまま返してもまたどこかで贄に使われる。

 それを考慮して相談をしてい行きたいんだよ。誰か、いい案は無いかな。」

 5人の子たちは自分たちのことが話題になっているのは理解しているようで、発言するメイドや嫁たちを真剣に見つめている。

 本人たちにも話を聞きながら調整を進めたのだが、貴族街の外に学舎を作ってはどうかと言う意見が出てきた。

 ちょっとお姉さん(30歳くらいか?)のメイドさんが言うには、トウトであってもそれなりの教育を受けられているのは家のしっかりした者ばかりで、孤児や浮浪者の子供たちは教育を受ける機会がなく、身を立てる術がないのだと言う。

 住む場所と教育を与え、就業を相談することでかなりの労働力の強化と生産性の底上げが出来るのではないかと言うのだ。

 俺は分母が大きいのであれば、捌き切れないのではないかと問うたのだが、回転率を上げるのがいいとたくさんのメイドから意見を貰った。

 つまりは短期で基本的な読み書きと算術を身につけさせ、丁稚奉公先を紹介する。

 最初の仕込みが済んでいることで労働力として使い物になるまでの時間が短くて済み、勤め先でも好影響が期待できる。

 それらを評価するシステムで寄付金などの寄贈額きそうがくをランク付けすると、雇い入れた側の格付けも評価できるというのだ。

 そこに俺が感謝状や優遇する何かを箔付けすることで大店おおだなの信用も上がるというのだ。

 公爵から公認を貰い、商売の信用が上がった店が学舎経営に寄付を出し、それを次の子供たちの教育に利用するというのだ。その間に衣食住を提供し、衛生的な暮らしを身につけるともう、不便で貧しい暮らしに戻りたくない一心で勤労が期待でき、そうした労働力を輩出できれば社会貢献と質の高い消費者の増加にもつながるし、経済活動にも寄与できるという仕組みだ。

 全体の詳細については陛下やユンカーさんたちにも協力してもらって進めるとして、この子たちに判りやすいように言って聞かせると、四人の目は輝きを増し、そこに通いたいという。

 年長さんだけはちょっと違ったようで、許されるならこの屋敷に留まり、アンニさんにメイドとして仕込んでもらいたいのだと言う。

 彼女はアリエッタと言い、今年14歳になったという。

 アンニさんは、彼女は多分メイドに向いているというのだが、注意力や観察力に優れているようで、所謂「気が利く」という類に才能が有りそうだという。

 「アリエッタ。学舎の準備が整うまでこの子たちの面倒を任せてみてもいいか。アンニさんに報告と連絡と相談をすること。俺たちに注意を払う必要はない。この子たちが学舎に行けるようになるまでは、この子たちの世話だけを立派にやってみてごらん。

 それでアンニさんに合格がもらえたらうちで雇う事にするよ。

 がんばってみるかい?」

 「はい、旦那さま。私、頑張ってみたいです。助けていただいて嬉しかった気持ちをちゃんとお返しできるように頑張ります。

 アンニさん、色々とお世話を掛けますが、よろしくお願いします。」

 元気よく頭を下げられるこの子は、いずれ立派な我が家のメイドの一員になってくれるのだろうかね。

 「ソウタさん、アリエッタちゃんはまだ成人してませんからね。」

 フィア、なんでそんな発想になるんだよ?

 ため息と共に悲しそうな目をフィアに向けると、オホンと咳払いしてから発言した。

 「だって、あの子はソウタさんに恋してますもん。」

 「はぁ?何言ってんの?」

 「うん。間違ってないわね。」「はい、ライバル出現です。」「私の方が愛してるんですけどね。」

 「俺は妻は四人で良い。」肩を落としながら意見してみる。

 「という事は、アリエッタちゃんは妾という事でしょうか。」

 「「「ああ、そうなるわね。」」」

 「おい!?」

 聞く耳を持たない妻たちの大声での意見交換で、他のメイドたちにもアリエッタにも筒抜けに伝わってしまい、アリエッタが茹でタコよりも真っ赤になってしまった。

 周りのメイドたちがアリエッタの肩を叩き、「ライバルは多いわよ。」とか、「抜け駆け厳禁だから。」とか、「今日の敵は明日も敵」とか同情のなのか威嚇なのか判らない言葉を掛けている。

 「え?え?え?」アリエッタが手荒い歓迎を受けて混乱し、とどめにアンニさんから「千里の道も一歩からですよ。」と、訓示めいたお言葉を頂いていた。


 勘弁してくれ。

茹でておいしい侯爵様が出てきません。

きっと、もっちもちの醜い奴になるハズです。

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