【第77話】安寧の終り
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巡航ミサイルのようにレネゲイドは地形を避け、音速を10倍上回る速度でトチノキに急行する。
流れる景色はもう、流れると言うよりも切り裂かれると言うほどの速度だ。
レネゲイドの性能としてはまだまだ巡航速度の範囲内だが、割り飛ばされる大気の咆哮と衝撃がコクピット内に伝わって、本意ではない高速な異物に対して怒りをあらわにしているようだ。
「レネゲイドさん、レーダーに反応が出ています。方位修正は11時方向10度です。」
「了解。方位修正左10度。会敵まで40秒、バスターランチャー初撃充填完了しています。」
「よし、状況確認するぞ。レネゲイド、ズメイが判別できるか?」
「出来ています。初撃照準固定、いけます。」
「高度調整、水平射撃で仕留めろ。」
「了解。2秒後にトリガー、今です。」
「発射します。」
マッハ10で飛翔中のレネゲイドから光速のレーザーが、周辺をプラズマ雲に変えながら発射される。
号砲と共に伸びていく光の矢は正確にズメイを貫通した。
すでに接敵状態にまで距離を詰めた俺たちの足元にはプラズマに中てられたミノタウロスの大群が電子レンジで加熱されたように内側から破裂し、屍を晒している。
その後方には両足だけを残して腹部から上半身と三つ首の全てが蒸発してしまった伝説の竜が佇んでいた。
体長20mの三つ首の竜は伝説によればメスである。オスのズメイは人との共存を望み、イウロペの北海で周辺の人族に暖かく迎え入れられているという。
メスの方は人を忌み嫌い、事あるごとに災厄を撒き散らすことからオスに追われ世界を放浪していると聞いた。
であればバスターランチャーに撃ち抜かれ、蒸発した方はメスのズメイだろうか。
足しか残っていないからな、もうわからないだろう。
北西方向からトチノキに侵入したらしい視界一面を埋め尽くすような魔獣の群れ。
これもオラニエ伯爵と黄泉越えの翼の連中が引き起こしたことなのだろうか。
どこかに贄となった人がいるのかもしれないと思うとまた、頭が焼き切れそうになるが、今は冷静さが必要だ。
シロップの実家のある辺りまではまだ距離がある。
家族は無事でいてくれると思うが、片は早くつけるに越したことは無いだろう。
「引き続き掃討戦だ、範囲攻撃に切り替えるがレネゲイド、問題ないか?」
「飛行形態では上空旋回時間が無駄になります。戦闘形態に戻って滞空状態で攻撃はいかがでしょう。」
「最適解で頼む。行動時間はどれだけある。」
「全力射撃で12時間戦闘継続できます。」
「フィア、体調は?」
「はい、ありがとうございます。まだまだ魔力はいけますよ。」
「ユイ、気持ち悪くないか?」
「じょぶぅー。」
ダメだ、顔がにやけるのを止められない。
ユイが可愛すぎる。
全力射撃で12時間とか、誰の魔力量がもうどれだけあるのかも考えなくても十分だ。
「よし!全員でやるぞ。」
気合一閃、レネゲイドは瞬時の変形でいつもの姿に戻り、前で組んだ腕が左手は右肩の。右手は左肩のバニシングライフルを引き抜いた。
中央のバスターランチャーが左肩にオフセットされ、肩で折れるように前方へ砲身を伸ばした。
範囲収束が拡散状態になった特大のレーザーが魔獣たちを北西方向へ押し返すように群れの中央を薙ぎ払う。
レネゲイドの頭部四方向に装備されているフェーズドアレイレーダーによって全周囲の索敵が行われ、同時に1,000の標的を認識する。
マルチタスクで脅威度順に攻撃対象が選択され、個別対象(20体前後の群れ毎)はバニシングライフルが両手それぞれに狙いをつけて発射されている。バスターランチャーに比べればエネルギー総量は決して高くないが、5,000℃を越えるルビーレーザーは牛のバケモノにとってはバーベキューどころではない。
塊として認識された群れごとに焼きすぎた牛肉になっているようだ。
バスターランチャーは相変わらず中央突破をメインの作戦として、徐々に左右に溝を広げるような射撃になっている。
この分でなら掃討戦も長時間にはならないだろうと思うが、俺の目はミノタウロスなどもう見てはいなかった。社のありそうな神社仏閣の類を探していたのだ。
トチノキの教団本部に関する情報はまだ得られていないので、贄が居るかもしれないという疑いを持っているし、それを処理しなければ安心できないからだ。
「ソウタさん、あそこにあるお寺のようなモノが見えますか?」
北西に向かって2時の方向、ほぼ北向きの少し向こう。3kmほど先になるだろうか、そこに小さな小さな鳥居が見える。
町に埋もれるようにして昔から地域に大事にされていた道祖神を祀るような、そんな社が見える。
周辺の敵性勢力の確認を行うが、バニシングライフルがいい仕事をしてくれたようで、隅々に逃げ惑うミノタウロスをピンポイント射撃して取りこぼしが無い。
何万頭いたかは判らないが牛の丸焼きが量産されて、ほぼ押し返した状態だ。
攻め込まれた方向が不幸中の幸いとでも言おうか、被害に遭った田畑は広大な面積に登るが、家屋やインフラ設備にはほとんど被害が出なかった。
まぁ、俺たちのせいで無くなった橋や倉庫などはいくつかあったが、民家は全部残っていると思いたい。
追撃に移ってしばらくすると牛の丸焼きももう終わりの様だった。
ドラゴンの足を次元断層にしまい込み、さっき見つけた社を確かめに戻る。
また先にあったような状況を想像してフィアとユイをレネゲイドに残したまま、社に踏み込んだ。
確かに、社はあるが人が中に入れるような大きさではなかった。
周囲も確かめたが鳥居をいくつか囲むように置かれている灯篭があるだけで、人が閉じ込められるような大きさの建物は無かった。
少しばかりの安堵を覚え、社の中をのぞき込むと驚きの展開だった。
そこにあったのはタヌキ。大きなタヌキの置物。
設楽焼は栃木じゃないよね?と言うかタヌキを祀るという意味が分からない。
まぁ、見たくないモノを見てしまうよりは余程いい。そう思いここを離れる。
帰りにシロップの実家の無事さえ確かめられれば今ミッションは完了かとレネゲイドが離床し、ゆっくりと高度を取る。
ここからシロップの実家まではゆっくり飛んでもすぐだろうから、低空を街の様子を確かめるように移動していく。
一般家屋への被害は見受けられないと思う。しかし、街の外柵は随分と傷んでしまい、その周辺に広く作られていた畑などには踏み荒らされた痕跡と俺たちが焼き払った跡が広がっていた。
多分だが、今年の収穫は望むべくもないかもしれない。
その分の生活保障は国が非常事態宣言を受けて保証してくれるだろうが、裕福に心配のない暮らしとはいかないかもしれない。
「もう一度、実り豊かになるまでにはどのくらいかかるのでしょう?」
心配そうなフィアの物言いでちょっとだけ試したいアイディアが浮かんだ。
それを確かめるためにもシロップのお父さんに会わねばならない。レネゲイドにシロップの実家まで急ぐように言うと、大気が割れた。
いや、音速を越えるほどの距離じゃないんだけど。
1分もせずに減速し、シロップの実家へとたどり着く。
外見上は被害もないようだし、実家の管理している畑へも牛が踏み入ったような痕跡はなさそうで一安心だ。
玄関先に相変わらずの轟音を轟かせてレネゲイドが着地すると程なく元気そうなお父さんとお母さんが息子たちと出てこられた。
レネゲイドが降着姿勢になり、先にフィアがユイを連れて飛び降りる。
続けて俺がその後ろに立つと、お父さんたちはユイを見て目を細めている。
息子たちがフィアを見つめてため息をついているのは頂けないがな。
咳ばらいを一つして、フィアへの視線を切り、お父さんに話を切り出す。
「こちらは被害はありませんでしたか?」
「ああ、お蔭でミノタウロスも居なくなったんだろ?畑も大丈夫だったし家族にも親戚にも被害はないよ。相変わらず頼りになる婿殿で私たちは運がいいよ。」
それでも広範囲に渡って畑に被害が出たことを告げ、今後の収入を失った近隣住民が多く居ることを聞かせる。
それをお父さんに助けてくれという訳ではないが、俺だけでもできないので助言をくれるとありがたいのだ。
「大蒜だと?」
「ネギでも白菜でもいいです。今から種から植えて短期に収穫まで導きたいのです。商品単価が低くとも収穫が得られ、収入につながるようにしたいのです。それで、この辺りの土壌に向いた耕作物がほかにあればと、聞いてみたのですが。」
この辺りの主だった耕作物は基本的には米と麦なのだが、どちらも種もみから発芽を促し、苗床を作る時間が足りないハズだ。
年も明け、雪解けも近づいたこの時期から秋までに収穫できる畑を作るとすれば限られたものしか作ることは出来ないと思うのだ。
「ソウタさん、目の付け所は良いとは思うがよ。葉物野菜やネギ、大蒜と言った奴は基本的に土地を痩せさせるんだよ。次の年に麦や米が育つような土地にはならねぇんだ。
俺たちは昔からこんな時にはクローバーを植えるんだよ。生い茂った葉っぱは家畜のえさになるし、土地が肥えるんだ。
確かに収入は大したこっちゃねぇが、翌年の麦や米の実りは良いモノになるんだ。
心配はありがたいが、心配はいらねえよ。耕地整理は村全体で手伝うし、ソウタさんが差し入れてくれる保存食や海産物はこの辺り全体を飢えから凌いでくれてる。
気が回る婿殿で俺は鼻が高いよ。」
そう言ってくれるならいいのだが、自然を相手にする人たちって言いうのは逞しい物だなと思わざるを得ない。
しかし、お父さんは眉をひそめて声を落とす。
「それより、知ってるかい?町の南の外れにおかしな連中が集まってきているらしくてな、やれ神がどうの、それを超える必要が有るとか言ってよ。若い連中に盛んに取り入ってるんだよ。」
ようやく出てきたかと情報提供に感謝する。
「黄泉越えの翼ですね。陛下からも色々と懸念を示されており、策を練っております。基本的に耳を貸さないことが一番いいと思います。息子さん方にもあらかじめ言っておきますが、近づいていいことはありません。
いずれ証拠固めが済んでしまえば私が潰しますので、それまで近づかないようにしてください。」
俺の真剣な表情を読んだのか、兄弟そろって頷いていた。
「やはり、良いモノじゃなかったんだな。」
お父さんの言葉に深い頷きを返しておく。
「お前たちも聞いたな。近々にソウタさんによって摂り潰される連中だそうだ。街に行っても絶対に耳を貸すんじゃねぇぞ。」
「ああ、判ってる。そんな話を聞いて関わり合いになりたいなんて思うわけが無いじゃないか。」
長男も恐ろしい話を聞いたという表情だ。次男からも一番下の弟からも同様な頷きが返る。三男は頷きながらも別の意見をくれた。
「ソウタさん、俺が聞いた話じゃ、強い魔法力を持っているからどんな奴らが来ても教団だけは生き残れるし、報復も簡単だと吹聴していたんだ。俺たちはシロップの立場も考えてるからソウタさんに迷惑をかけるなんてことは無いけどさ、気を付けた方がいいぜ?」
「ありがとう。肝に銘じておきますよ。」
「ご安心ください。教団が神をも殺めたという話はありませんが、ソウタさんは既に二柱の神をこの世から消してしまいました。陛下の統治に問題を投げかけると、神と言えどもソウタさんの前から逃れることはできませんでしたからね。
人が嘘で塗り固めた邪神など、ソウタさんの殺めた二柱に及ぶものではありませんよ。」
「・・・・まじっすか?」
「・・・マジです。やむなくそうしただけで、神に手を掛けたくてやった訳じゃないんですよ。」
全員の目が痛いほど突き刺さってくる。
「シロップの婿殿は神をも殺せるのか。」
お、お父さん、別の生き物を見るような目はやめてください。
兄弟のみんなも神殺しの義理の兄弟が恐ろしくなったようで、全員が口を閉じてしまった。
「俺、絶対にソウタさんに迷惑は掛けないっすから。」
三男の言葉がすべてを物語っているようである。
「フィアの言ったことはすべて本当ですが、今の陛下の統治が良い物であり続ける限りは私も協力を惜しまないという考えです。
シロップや皆さんが苦しい思いをしないで済むようにと陛下が腐心しておられるので、それを可能な限りお助けしたいのであって、陛下が独裁者になればいいと思っているわけでもありませんから、難しく考えないでくださいね。」
「なんか俺、今度からシロップを揶揄ったりできない気がする。こんな旦那を持ってるなんてちょっと、尊敬してしまうかもしれん。」
長男が率直な感想を述べてくれ、シロップの株が上がったようで良かった。
「フィア、街の南側を確認してから戻ろうか。」
「はい、教団本部に挨拶だけはしておきましょうか。」
レネゲイドで脅してから帰ろうという事だ。
また寄らせてもらう事を約束して母屋から離れてから離床した。
ゆっくりとしたスピードでトウトへの道を戻るのだが、南下してすぐに教団本部のある大きな街へとたどり着く。
この街でどれほどの勢力を固めつつあるのか判らないが、その勢いを削ぐことは後に不幸になる人を減らすことにつながると信じている。
教団本部の前にレネゲイドを下ろすと、人相の悪いいかにもな法衣を纏った連中が飛び出してきた。
「誰に断ってこのような場所に邪神を降臨させたのだ!」
「フィア、絶対に顔を出すな。」
コクピット内でそれだけ伝えるとレネゲイドを降着姿勢にし、俺が降車したと同時に直立姿勢へと戻した。家族の顔を見られたくない。余計な危険を呼びこまない。と言う考えがあってそうしている。
強面の連中に臆することもなく相対する俺に対し、胸に光っているメダル入りミスリル製の冒険者カードで誰だかが判ったのだろう。
レネゲイドを見てすぐに判れと言いたいのだが。
中でもひときわ逞しい身なりの男が進み出て、俺の正面に立った。
「ヤマノベ公爵殿ですな?本日はどのようなご用件で。」
「いや、先にチーバーでイピリアを掃除していた時にな、年端もいかぬ少女を贄とした呪言を見つけたのだよ。私の怒りも相当なものなのだが、陛下のお怒りも相当なものでな。その様な無体を行う可能性がある宗教団体を確かめて回っているんだ。」
「まさか、このご時世に人身御供を使う呪法など余程の恨み辛みがございますのでしょうな。」
「そう思うよ。それでね、そのような考えを持つようなお方がいっそ、この世から消えてしまえば本人の心も乱されないだろう?」
ぎょっとした表情を見せる背後の連中とは別に、俺の前に立つ男は片眉を上げただけで堪えたようだ。
「ずいぶんと穿ったものの見方ではございませんか?」
「そうかい?俺はね、この世界の人間じゃないしさ、魔力量もこの世界最高だし、コイツのような一国を消せるような兵器も持ってる。遠慮なく言わせてもらえばこの世界の宗教なんて無くても構わないと思ってるんだ。必要なのは家族の暮らしが健やかであること。
遠巻きにでも間接的にでも、迷惑をかけるようならこの建物も5秒後には消えてなくなるよ。」
わざと炊き付けるような上から目線で、横柄に言って聞かせる。
気後れがしたのだろうか。
男も額に汗がにじみ始めている。
「こちらも当然自重してくれるよね。ナッサウ家の札を削ったのは俺だ。未だにナッサウと縁のある者がのうのうと日の下を歩いているのが我慢できないんだ。
ラビオリ伯爵?いや、マカロニ伯爵ちがったっけ?いいや、その旨そうな伯爵が来たら伝えてくれないか。
チーバーの贄になった少女は俺が供養した。トチノキにも贄を隠しているならすぐに供養しろと。そうでなければ燃えて死ぬか、破裂して死ぬか、砂になって死ぬか、空気のないこの星の外で凍えて死ぬか好きな奴を選ばせてやると。
それがどんなものだったかは、俺が殺した二柱の使えない神にでもあの世で聞くがいいとな。」
俺を取り囲むようにして圧力を掛けていた連中が明らかに狼狽を始めた。
「お前が神を殺したと?」
「ああ、二人殺った。どういう訳だかな、神の力では俺には遠く及ばないらしいぞ。俺が大人しくしているうちに裁きを受けろとオラニエ伯爵に伝えろ。
お!?思い出したよ。オラニエだ、オラニエ。ああ思い出せてすっきりした。
お前たちにも言っておく。そろそろ首を洗っておけよ。俺は陛下ほど心も広くないし、優しくもない。要らないと思えば殺すだけだ。それが神であってもな。
無い知恵を絞って全員でよく考えておけ。俺に迷惑が掛かったら瞬時で教団員全員が死ぬぞ。解放の光がどうなったかは知っているだろう。
バレていないと思っても無駄だ。本人が解放の光に所属していることを知らなくても俺が知っていたから殺した。今は、係累の一人とてこの世には居ないよ。
ちょっと待っててよ。・・・・・」
脳裏でオラニエ伯爵を探す。
アイチ方面からちょうどこちらに向かっているようだ。
「おお!いいタイミングだ。オラニエ君はアイチからこっちに向かってる。明日辺りには来るんじゃないか?」
周囲に居る逞しそうな連中の顔色が真っ青だ。
悪魔を見るような目で俺を見ている。俺の前に立つ男ももう、こちらに目線を合わせようとしない。
「おい!」
「ひっ?なんでしょうか。」
「お前、俺の話を聞いていたか。」
「も、もちろんです。全て聞いていました。」
「じゃあ、一言も漏らさずにマカロニ伯爵に伝えておけよ。どこにも逃げられないとな。」
ラビオリを見たら腹が立ちそうだ。と言う俺の独り言にビビりまくっている目前の男の肩を一つ叩くと、くしゃりと尻餅をついた。
いい笑顔を投げかけて、周辺を睨みつけるとほとんどの強面君たちが我先にと教団本部に駆け込んでいってしまった。
「またな?」
そう言い置いてレネゲイドのコクピットに戻ると、フィアがニヤニヤと笑いながら迎えてくれた。
「まるでどっちが悪人か判らないような様子でしたよ。」
「本当だよな。でも役者になれるかも知れないぞ?」
「ぷっ、ムリですよ。」
そう言ってダメ出しするフィアに抱き付いてやると「きゃー、殺されます!」と言いながら抱き付き返された。
笑いながらレネゲイドを離床させ、今度こそトウトへと戻った。
夕食時にはちゃんと間に合い、みんな揃って食堂に集合するとシロップがまだ「いただきます」も言ってないうちから詰め寄ってくる。
「うちは、家は大丈夫でしたか?」
「おいおい、大丈夫じゃなかったら俺はここに居ないよ?」
ああそうか、そう言い恥ずかしそうにしている。
「シロップ、お父さんもお母さんも全く問題ない。兄弟の誰もケガしてないし、畑も全部無事だったよ。ちゃんと会って確かめたからな。」
「すみません。ありがとうございます。」
母親に抱き付いているカーリオもいい笑顔を向けてくれている。
食事が始まり、他の嫁たちからも今日の出来事などを聞いていた。みんな俺がフィアを連れてトチノキへ向かってから落ち着かなかったようだ。
如月は睦月と城へ上がって情報を仕入れていたようだが、経過報告はこれからだ。
食事の間にメイドたちも全員揃っているところで今日あったことを全部話した。いつも隠し事は無しだ。
この貴族街へは進出を果たしてはいないが黄泉越えの翼の噂はここにも届いているらしかった。
陛下との話し合いを伝え、ナッサウ家の関与があることを聞かせると、大半が「やはり」という顔だった。さすがうちのメイドの情報収集能力は違う。
ん?唐揚げが旨い。
だんだん調理師の腕が俺に追いつきつつあるようだ。
カラアゲを箸で持ったまま驚いた顔をしていると、アニエスがドヤ顔を見せてくれる。
「これはアニエスか?」
「はい、驚いていただけたようですね。最近調味液の配合が判ってきたのですよ。」
「驚いた。すごくおいしくなってるよ。」
漬け込むときの調味液の分析にアニエスは調理師の人達と励んでいたそうだ。
もう一味、アレを足したら完璧に追いつかれるな。そう話し合いながら楽しく夕食を頂いた。
寝室に戻り、入浴の時間になると女性陣はみんなで浴場へと出かけていった。
気が付くと俺の膝にユイが残されており、置いてきぼりだろうか。
「パぁ~パ、ちゅかれ?」
俺の目をまっすぐ見てコテンと首をかしげるユイに頬が緩む。
「平気だよ。大丈夫。」
ユイを高い高いしてアピールすると、きゃぁきゃぁと喜んでいる。
もうすぐ1歳と半年になる。俺の子は濃い茶色のストレートの髪を肩より長くのばしてくりくりの大きな朱色の瞳で俺のことを見つめている。
ふっくらとはしているが、鼻筋が通ったとても綺麗な顔をしていて、将来が本当に楽しみでしょうがない。
大きくなるにしたがって輪郭もはっきりしてくるだろうが、その時にはフィアよりも美人さんになるかもしれない。そんなことを考えながら髪を撫でていると気持ちよさそうに撫でられている。
俺の膝の上で俺に背中を預けて落ちないように抱えている左腕に両手で掴まっているのも可愛さがいっぱいである。
フィアよりも体温が高いなぁとなんでもないことばかり考えていると、フィアが頭にタオルを巻いて現れた。
「フィア、普通は体にタオルを巻いてくるもんじゃない?」
「髪を拭いてないから床が濡れちゃうじゃないですか。どうせここにはソウタさんとユイしかいませんし。」
そう言いながら俺の膝からユイを抱き上げ、俺の手を引いて風呂場へと向かおうとする。
「あれ?俺も今入るのか?」
「もちろんですよ。先に子供たちとそれぞれの体を洗ったんです。同時に入ると誰もソウタさんの世話なんてしてくれませんよ?」
賢者モードの俺としてはあとでゆっくりとユイを風呂に入れるつもりだったのだが、妻たちは普通にハーレムモードのままだったらしい。
ユイと俺が服を脱ぎ、浴室に入ると全員がピカピカになって十分に温まったようで、ホッコリとした雰囲気に満たされていた。
「ソウタさん、きれいにしますから腰かけてください。」
アニエスがやって来て俺を椅子に腰かけさせる。
シロップもスポンジに泡を立て、左腕からこすり始めてくれている。アニエスが右から。
フィアはユイを洗っており、如月は睦月とカーリオ、クレイオが浴室で溺れたりしないように見張りという訳だ。
俺の全身が泡だらけになったところで、二人のサービスがヒートアップしたらしく、スポンジを放り出して生身で巻き付いてきた。
俺からのお返しもあり、二人は大満足の様だった。
選手交代となり、俺だけが泡だらけのまま如月とフィアからの熱烈な心の洗濯を受ける。二人を俺の手で泡だらけにしてやり、シロップとアニエス同様にお返しを注ぎ込むと、四人の嫁たちは泡を流して浴槽の中で呆けているようだ。
四人の子供の面倒は今は俺が見ている。
20cmほどの子供用の湯溜に四人も仲良く浸かっており、淵に腰掛けた俺は特に小さいカーリオとクレイオの背中を支えたり、立ち上がってひっくり返りそうになる睦月を受け止めたり忙しかった。ユイだけはさすがに堂々としており、俺の隣に腰掛けて見よう見まねで小さい子たちを手伝っているのが、これまた可愛いモノだった。
四半刻もすると如月が湯船から上がって、俺の元へきて役目を変わってくれた。
「さぁ、あなたもちゃんと温まってちょうだい。みんなもそろそろ上がるんだからベットで楽しみよね。」
「あ?今日はもうひと頑張りかな?」
「フィアちゃんに聞いたの。”お風呂で一回、お布団で一回”っていうと喜ぶって。」
「フィア!いつの話だよそれ?」
「私がいま19歳ですから4年前ですね。トウトのコウリョウで泊まったホテルで!」
また、細かいことを覚えているもんだ。
如月は耳元で声を落として囁いてくる。
「本当はお風呂で二回でしょ?、私たちはお布団で二回でもいいわよ?」
俺の頬にキスをして小悪魔のような微笑みをくれた。
シロップとアニエスも期待に満ちた目をしてピースサインを寄こしている。
ああ、ピースじゃなくて二回か?
どいつもこいつも元気で嬉しいよ。
昼間のささくれだったような気持が癒されるのは、この妻たちが居てくれるからなんだろうな。と、しみじみと考えさせられた。
心は癒されるんだけど、体は癒されないんだよな。
明日、だれかに腰を揉んでもらわないと・・・嫁たちだとまた始まりそうだからな。
他のメイドさんには頼みにくいし、馬番小屋にでも行こうか。
ウィングの子供も見たいしな。
旦那も頭のいい馬だし、ウィングも俺たちの会話に参加できるほど賢いから、仔馬も期待ができる。
一緒に旅ができるのはいつぐらいからなんだろうか。
シロップとアニエスの里へ行くときに連れて行けそうならそれは楽しそうだと思う。
全員が寝室に入り、ベットへいつものようにお姫様抱っこで上がると、遠くの方で半鐘がけたたましく鳴っているのが聞こえてきた。
トウトで火事なんて珍しいななんて話しながら木窓を開き、見えないまでも方角だけでもと身を乗り出した。
しかし、探す手間なんてありはしなかった。
目前に広がるトウトの南側、一望できる範囲の全てが火の海に飲まれていたのだ。
「な、なんだこれ!」
西側から東側までも相当の範囲で火災が発生しているようだ。
西側の森の向こうにあるハズのセントラルキャッスルからけたたましい防災サイレンが鳴り響き始めた。
トウトに対する非常事態宣言だ。
この分だと全周囲で火災が発生している可能性がある。
実際には距離は相当あるので、貴族街の近くではないようだが、トウト周辺の穀倉地帯や放牧域は所謂重要施設に当たるし、延焼が進めばいつここまで火の手が来るかは判らない。
昼間の意趣返しか?それにしては規模が大きいうえに早すぎる。
最初からこれを計画していたという事だろうか。
妻たちもベットから降りて来て他の窓から状況を見ている。
ただごとでないことだけは間違いないが、どこから手を付けたらいいのかも判らないほどだ。
考えろ。考えろ。この状況を産んだ連中は何をしたい?
「フィア!シロップとアニエスを連れて城へ行け!」
「子供たちは?」
「全員連れていくんだ。帯剣していけよ!」
それだけで事情を飲み込んだようだ。話が早くて助かる。
「如月!一緒に来い。睦月はみんなに預けて行くぞ。」
「判ったわ。みんな、睦月をお願い。」
「任されました。」
シロップがカーリオと一緒に睦月を抱いてくれている。
瞬時に紫色の光が部屋に満ちると、俺の腰に魔剣如月が装備される。
そのまま窓から飛び出すと、目前にレネゲイドがコクピットを開いて待ち構えている。
振り返って一言だけ別行動する皆に伝える。
「急げ!ここにも侵入者が来る可能性があるぞ。」
「はい!」
まだ緊張感のある展開が続きます。
ラビオリ伯爵・・・マカロニ?顔を合わせてませんからね。
どんなヒールにしようか思案中です。




