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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
成り上がり貴族の章
73/161

【第73話】SS ASX-9Aレネゲイド

いつもお読みいただけまして、ありがとうございます。

おかげさまで26,600PVをも超えまして、感謝するしかございません。

 ワタシは西暦2016年製、石川島播磨○工業生まれの学習型近接戦闘支援車輌として開発されました。

 ○菱重工業や篠原○工業との自衛隊への次期主力戦闘車輌としてコンペに出ることになった訳ですが、そのコンペに出ることは叶いませんでした。

 誰かの妨害工作かとも思われたのですが、どうやら別の世界へと迷い込んでしまったらしいのです。


 石川島播○重工業で7年の歳月を掛けて試作と実証実験を繰り返し、自衛隊のコンセプトに適用するために開発者の皆さんはその更に3年前からニーズの調査を繰り返し、都合10年もの期間を人型兵器開発のために費やしていたのです。

 履帯キャタピラを持つ戦車はその機動力を生かした昔からの主力兵器でしたし、それまでのライフル砲や新型弾頭を使用するための滑腔砲を目的地まで運び、敵に対しダメージを与えるという目的には低コストで実現できる、誠に理にかなった完成形だったのだと言えると思います。

 しかし、様々な用途に適した弾頭を撃ちだすというこれまでの戦車の概念が覆される技術のブレイクスルーがあった。

 これは競合の他社にも漏えいしていない秘匿事項だったが、レーザー兵器の開発に石川島播磨重○業は成功していたのです。

 ○菱重工業が大口径砲に、篠原重○業が速射性と弾頭のミックス。つまりは多種の弾頭を装填できる装置などを実装した車両の開発を進めていたのに対して石川島播磨○工業は人型に拘っていました。

 ○菱重工業は多脚砲台を推していました。

 篠原○工業も多脚砲台を採用し、それぞれが悪路の走破性や履帯と比較しての優位性をコマーシャルしていた中で、石川島播磨○工業だけは二足歩行に拘っていた。

 人型であるという事が操縦するパイロットの感性との乖離かいりを防ぎ、パイロットのイメージした操縦を体現できるという部分をとにかく大事にして育ててきたのだった。

 加えて量産化までの間に蓄積する様々な挙動やほかの機体との連携などを積極的に学び、自衛隊特有の運用をマスターできるようにAIの学習機能もかなり高度に制御されていた。

 どんなに秘匿してもそこは同業者と言いますか、二足歩行の制御システムとレーザー兵器に苛烈な産業スパイ戦が繰り広げられたのですが、石川島播磨○工業は瀬戸内海の孤島に籠り、他の企業の情報収集を完全にシャットアウトしました。

 最大の肝となる部分はやはりAIシステムで、ほとんどの動作を人の思うように再現するために二足歩行システムも音声認識システムも自律行動を司るためのエッセンスとして有機的に結合され、AIシステムは膨大な情報を学習していったのです。

 格闘術や体捌き、剣技などのマーシャルアーツに加え、射撃管制や土木工事などの周辺領域までも経験値を稼ぎ、実戦で有用と思われるまで繰り返しデータの蓄積を行ったのでした。

 体幹制御をAIが学習し、応用を繰り返すことで自然な動作での軸足バランス制御や荷重移動がこなせることが判ってきたことも二足歩行に拘った成果だったのかもしれません。

 つまり、連続的に動き続ける動作を制御して、まるで人間のような動きができるようになっていきます。

 これまでのロボットと言うのは、自律していようが制御されていようが反復した動作をいかに効率よく実行できるかが重要であり、早く、より重い物が運べ、壊れないモノが良いロボットだってのです。

 人型でさえありませんでしたから、モノを運んだり、取り付けたり、と言った人間にとって代わるだけの単純作業労働機械だったのかもしれませんね。

 しかし、石川島播○重工業はレーザー兵器を得てしまったがために多脚砲台を選択肢から外したのです。履帯式は最初から考慮さえしていませんでしたから、ある意味人型に最初から目算があったのでしょう。

 開発者の研究室には片膝立ちでマシンガンを構え、狙いを定める陸上自衛隊員のポスターが貼られていたという話があります。「自衛官募集」と書かれたそのポスターが研究室に貼ってあっても自衛隊の方々にはきっと嬉しくもなかったでしょうが、レーザーライフルを自衛官のように構えている人型のロボットが開発者たちの頭の中にあって、イマジネーションが掻き立てられていたのだと後の回想で誰かが言っていたそうです。

 モデルとなった自衛官が太っちょだったりビン底眼鏡を掛けていたりしたらレネゲイドは多脚砲台として生まれていたかもしれないらしいです。

 孤島であらゆる経験を重ね、手先も足さばきも人と変わらないほどにスムーズになり、模擬戦闘においてもアクチュエータの多い多脚砲台とは違い、二本の足しか制御していないAIは演算負荷が軽く、6脚を自然に動くようにしている制御装置とは比べ物にならない高速で処理を行っている。体幹を制御する別のAIと、動作全体を統括するAIなどが体捌きの処理を分散して行い、人の思うように動く二足歩行の人型ロボットとして完成していきました。

 更には過去の戦争や紛争時の戦術級の用兵手段などもデータベースになり、目前の状況と照らし合わせて最善の機動を行えるような戦術シミュレータも実装されたことにより、ほとんど自動で複数台の連携による作戦などもこなせるまでになったのです。

 バニシングライフルと名付けられた主兵装は天然のルビーを用いたレーザーを照射するライフル銃です。これは早くに開発され、その後のレネゲイドのあり方に大きな影響を及ぼしました。

 常温超電導素子を用いて電流を無限に増幅し、ルビーを発振させるとコンデンサーバッファーに蓄えられた別回路の直流電流がルビーの振動周波数によってパルス化されて磁界の中を加速します。

 バレルの内周にらせん状に終段加速用のコイルが設置されており、引っ張り出すような磁界が発生しています。そこへ導かれたパルス化された電流がレーザーとなって解放されるのです。

 コンデンサーバッファーの容量から一射撃で最大30秒の連続したパルスレーザーが発射できるため、その間に腕を振ることで広範囲を薙ぎ払うような使い方もできます。

 レーザーは終段での加速時には8000℃を超えており、どのような金属でもその高熱には耐えられないのですが、磁界で浮いた状態になっていることとバレル内部がレーザーで埋まることで空気が無い状態になっていることで熱の伝播が無いためにチタンで出来たバレルが加熱されて溶けてしまう事をも防いでいます。

 これらのシステムが統合的にほぼ半自動状態で運用できる、画期的な戦闘車輌が出来上がりました。

 コンペの前から○菱重工業も篠原○工業もすでに負けを認めており、グラマン社の多脚砲台との実戦を想定した実弾演習においても戦闘開始後に10秒で勝敗が決してしまい、海外の兵器産業各社も先述の二社も技術供与を求め、札束がどれだけ積み上げられるかを競うコンペになったという事でした。


 コンペと言う名の独り舞台へ向かう当日、競う相手のない陸上自衛隊の富士総合演習場へ幾つかに分解された私は5台のトレーラに積載され運ばれていました。

 東京都江東区のIH○本社を出発した5台のトレーラーと技術者やスタッフに役員たちを乗せた黒塗りのクルマと民間のSPが乗った8台の乗用車を前後から護衛するパトカーや機動隊のバスに機動指揮車などが20台以上もいます。

 総勢で50台もの車両を連ね、東名高速を御殿場ICまで何事もなくやって来たのですが、インターチェンジで車列が国道138号線に出ようというときにゲートを潜ったトレーラー5台の目の前の景色が変わりました。

 直前を走っていた専務の乗った乗用車が突然に消えたのです。

 それどころかトレーラーを後ろから護衛していたはずのSPの乗用車も機動隊の指揮車も消えたのです。

 それはおろか、東名高速の出口が砂利道になっていたのです。国道が土の道になっていましたから運転手や技官。運送を担当したヤマノベロジステックの人達にも動揺が隠せませんでした。ヤマノベロジステックの社長、山野辺隆之氏は富士演習場への移動を断念し、直ちに西への移動を開始した。

 IH○本社へ戻るものかとも思われたのですが、護衛のない以上どこへ向かおうとも危険性は同じと思われます。

 ワタシが組み立てられ、起動したのは九州の天草でした。

 なぜ御殿場で異常事態に遭遇し、九州まで逃れてきたのかと言うとさっきまであった東名高速が跡形もなく消えてしまい、東京へ戻る道行きが非常に悪路であったことと、そちらから見たこともない様な獣が集団でやって来たからだったのです。

 最奥に見える黒いドラゴンは後で知ったのですがバハムートと言うドラゴンだったのです。確かに迫り来る獣たちは地球で学習したライブラリにはない「魔物」でした。

 一瞬でパニックに陥ったトレーラーの一行でしたが、山野辺氏の機転により兎にも角にも西への逃避行が始まったのです。

 名古屋を過ぎ、桑名辺りまで来た頃でしょうか殿しんがりを務めていたトレーラーの運転手が気が付きました。

 「なぁ、燃料計が減ってなくないか?」

 そうです、普通の運輸に携わる人たちには当たり前のように気が付いているはずの燃料計の針が全く減っていなかったのです。一般常識に照らし合わせてもそろそろ一度目の給油を考え始める所でありながら、御殿場ICを降りてからほとんど燃料が減っていなかったので返って気になり始めてしまったのでしょう。

 小休憩を取っていた運転手たちが口々にその疑問を口にしていました。

 そもそもここはどこなんだ?という事からが疑問なのです。

 ワタシのGPSにも信号の喪失がずっとエラーとして報告され続けています。

 砂利道ではあってもこんなにも開けた場所でGPSの信号が受信できないという事は考えられません。あるとすれば全ての衛星が故障したか、全ての衛星が無い場所に居るかです。

 ワタシのAIはここが私の作られた地球ではないと結論付けています。大気の組成成分や重力、地磁気などの惑星固有の特徴としてはほぼ地球と同じと言えるのですが、文明による息吹の全てが感じられないのです。

 現代であれば当たり前のように受信できるあらゆるバンド(周波数帯)での通信や情報の飛び交う様子が皆無なのです。

 この世界には飛び交う電波と言う情報がありません。有線通信に特化したという事も考えられたのですが、その様なインフラの大規模な変更が高速道路を走っている間に済む訳がありません。その可能性を否定すればこの世界がワタシの生まれた世界ではないと結論を述べているのです。

 山野辺氏は同様の結論をご自身の胸の内に秘めておられるようで、出される指示についてはここが自分たちの知る日本ではなかったとしたら。そう言う仮定に基づいた言葉が端々に感じられます。

 東に戻れば先ほどのようなドラゴンが襲ってくるかもしれない。そうした過程の上で取り敢えずの進路を西に定められたようです。

 向かう先に魔物が居ないとは限らないのですが、それも確率論のようでありますし、理屈は不明ながらも燃料が減らないのであれば脅威から少しでも遠ざかるべきではないでしょうか。

 山野辺氏の行動原理に賛同を示しながらひたすらに西へと移動を続けました。

 京浜地区、阪神地区を通り抜け、中国・瀬戸内の都道府県を突き抜けるように走り、ほとんど休みも取らなかった一行は下関まで僅か二日でたどり着き、行き先を失っていた。

 あるハズの関門海峡大橋も関門トンネルもこの世界にはなかったのだ。

 その代わりにと私たちを九州まで運んでくれたのは太平洋戦争中に活躍したとされる駆逐艦「吹雪」だった。

 なぜ駆逐艦「吹雪」がここにあって現役で就航しているのかは判らない。

 しかし、吹雪を運行させている人たちはそれが当たり前で、何故と問うた意味が伝わっていないのだった。

 二往復してくれた駆逐艦「吹雪」は5台のトレーラーを問題なく運びきり、なんでもないように帰って行ってしまった。

 これを見てもここがどこかおかしな世界だということが判る。

 それを指摘したところでバレたことを反省する者も居ないのだが、ここまでは脱落するトレーラーもなく今後の道行きを相談することとなった。

 ワタシを組み立て、敵の襲撃に備えるためには建築用の重機などが必要になるためにそれなりに広さと高さのある空間が必要になります。しかし、その重機がありませんからどうしたものかとみなさんが頭を悩ませているわけですね。

 周辺に暮らしている人たちとは幸いにも日本語でのコミュニケーションを取ることができ、宿を取ったり食料を調達することも可能でした。

 ただし、貨幣が違っていたために労働力で対価とさせてもらったり、施しを受けたりと人々の善意によるところも多く、気のいい人たちの多く居る場所で助かったところも大いにあるようです。

 行商のキャラバンに付いていったりしながら向かった先は天草です。

 九州地区をこの世界ではクノエと言うそうで、その昔からクノエには百年に一度の間隔で殺戮の恐怖を振り撒く巨人たちが湧き出るらしく、その脅威に対抗するためにアマクサには領軍が砦を築き備えをしていると聞いたためワタシを組み立てることに協力が得られるかもしれないと考えたのです。

 キャラバンと共に四日ほどかけてアマクサまでたどり着いた私たちは領軍の人達に暖かく迎え入れてもらうことができました。

 それからひと月の間、ワタシを組み立てるために多くの領軍の方々が協力してくれたのです。城砦の正門前の広場に足場をくみ上げ、滑車や天秤を設えてくれたことでそれが可能になりました。

 また、その空間を砦の一部として囲い込むように増築工事も開始されました。

 重厚な石積みの外壁は完成まで長い時間がかかるでしょうが、外の防壁と一緒に建築が進められ、砦を第1防壁が囲んでおり、今は第2防壁がその20m外側を囲もうと建築を急いでいるようです。

 ワタシの組み立て自身は一週間ほどで済んだのですが、稼働を続けるための充電ができませんでした。この世界には電気がなく、トレーラーの発電装置では容量が圧倒的に足りないのです。

 現在残っているバッテリーの残量からすると単体稼働で4時間。レーザーを使用するとそれよりも随分と短くなると思われます。

 不足する部品はありませんでしたが、残された問題は意外にも大きな問題となりました。


 来る日も次の日も、技術者たちは電気を得るための手段を考え続けていたのですが、製鋼技術の存在しないこの世界で磁性鋼板やコイルを巻くための純銅、絶縁物なども調達も製造もできませんので、ある種無い物ねだりになっていたのかもしれません。

 そんなある日、砦の魔法使いの方が戦闘訓練を行っているのを眺めていた山野辺氏は、あの電気が利用できないものかと考えたそうです。

 科学のないこの世界にあって、溢れていたのは魔法でした。

 何もないところから炎の弾が現れたり、光り輝く矢が魔物を討ったりするのは驚きの光景だったものです。

 トレーラーに乗ってきた人たちには物語の中の世界でしか見たこともなかった魔法使いが実際に目の前に居て、杖を持っている者や魔導具を指にはめた者などが様々な魔法を使い、魔物や魔獣に対抗しているのです。

 色々な種類の魔法があり、電撃を発生させ敵を討つ人もいたのです。

 あの電気は雷と同じ電気であれば直流の電気なのでは?そう考えたのでしょう。

 整流装置もありませんから得られるものが直流でさえあれば使用することができるかもしれないのです。

 試行錯誤の末に避雷針のようなアンテナ状の柵を電撃が掠めると電気が取り出せることが判りました。やはり直流の電気だったようで、電圧は安定しませんが光明は見えたと思われます。

 技術者たちの出した結論はこうです。

 ワタシのバッテリーが入る部分と、この放電現象を起こす部分を入れ替え、魔法使いがパイロットになれば電力の供給ができる。

 予備の部品から電圧を安定にするための装置を組み上げ、試験運用が行われました。

 これには多大な時間が必要でした。そもそも魔法使いが雷撃の魔法を使えなければなりませんでしたし、そのためには地水火風の風の魔法に特化してそれなりの腕前が求められたのです。

 電圧を維持するために風魔法を使い続けるというある種、過酷な持久力が求められましたし、それを改善するために魔法使いから風魔法を無意識のうちに引き出すというのも難しい技術的な難問だったのです。

 科学と魔法の両方を論理的に分析し、融合を果たしていくまでに5年もの月日が流れました。

 しかしながらその間にトレーラーの燃料が減ることもなく、僅かばかりの電気を取り出して使うことができたおかげでこそ、半田ごてや電動工具などが使えて実験や検証を進めることができたのです。

 長年の皆さんの努力が結実したのは本当に些細なキッカケではありましたが、その気づきによって魔法使いから風魔法の力のみを本人の無意識のうちに発動させることに成功したのです。

 ワタシにその仕組みこそ判りませんが、何となくやってみた確かめ程度の実験が切っ掛けだったらしいのです。

 ワタシのコクピットに乗り込んでくれた魔法使いの方から生体エネルギーを抜き取るように搾取さくしゅし、風魔法に関する起動式をワタシの側から能動的に発動します。

 それ以外の魔法事象についてはフィルタリングし、不要となった部分を破棄すると残った雷撃の魔法からワタシに電力が供給されるという訳です。

 この方法には大きな欠点がありました。

 魔法使いの魔法力そのものをワタシが勝手に吸い出してしまうために、本人には思いの外の不快感が伴います。

 しかも、吸い出された魔法力の内からフィルタリングして風魔法の雷撃に関する部分のみを濾し取って利用するため、吸い取った魔法力の中から電力に変換される部分と言うのは極僅ごくわずかであり、効率の悪さと言ったら工業製品とは思えない酷い具合だったのです。

 使われなかった魔法力もワタシが破棄してしまいますから、魔法使いにとっては吸い取られ損という訳です。

 それでもワタシが動くほどの電力を供給できる魔法使いは、稀代の大魔法師と言えるような歴史に名を残すような魔法使いでなければいけなかったのです。

 開発史というにはあまりにも情けない結果になってしまったと言えるかもしれません。

 多くの技術者が多くの時間をかけてたどり着いた結論が、世紀の大魔術師でようやく動かせるというお粗末さ。

 落胆を隠せなかった技術者の幾人かはその後に行方が判らなくなったそうです。

 この世界で失踪となれば良くて魔獣の餌。悪くすればトロールやゴブリンに生きながらに貪り食われるという惨劇しかないのです。

 絶望感に打ちひしがれた面々が再びワタシを何とかしたいと考えられるようになるまでに丸二年が経っていました。ワタシは時間の概念も乏しく、ただ佇むばかりでしたが、その二年間の間にも人に流れた時間は多分ですが、残酷なものだったのかもしれません。

 既に完成していたワタシの格納庫に現れたのは山野辺氏ただ一人でした。

 この世界に来てから丸7年がたち、8年目に入る頃となっていました。それでもワタシを捨て置かず、利用しようと考える人がいてくれたことにワタシは感謝した方が良かったのでしょう。

 山野辺氏は鉢巻のように頭に取り付けていた前照灯が、直列のボタン電池で動いていたこと。中学で習った並列接続と直列接続の意味を消耗したボタン電池などで思い出したそうです。

 魔法力を並列接続して取り出せれば、2倍の寿命(つまり稼働時間)を得ることができるのではないかと。

 独学で山野辺氏はコクピットの構造を解析し、タンデム型に改造し始めました。

 元々モノコクピット(単座:一人乗り)だった操縦席を二人乗りの並列な座席配置にしていったのです。

 着眼点に閃きはあったのでしょうが、結果としては芳しくないモノでした。

 実際に風魔法の使い手が二人、コクピットに入りワタシを起動しましたが、共振と言うより共鳴でしょうか、最大公倍数に合致した瞬間に異常なほどの電力が発生し、そのタイミングを逃すと互いの固有波形の反転時に相殺するような打ち消し合いが起こり、コンデンサーバッファーで調整が可能な範囲を明らかに越えた脈動が発生してしまいました。

 ワタシはこれにはさすがに耐えられず、安全装置がシャットダウンしてしまいました。

 どうやらタンデムの場合は固有のメンタリズムまたは生体波動と言うような波が一致している必要があるようです。しかし、その様な人などいるのでしょうか。

 思い付きは良かったのでしょうが、そう単純ではなかったようです。

 山野辺氏は生体波動が解決できるシンクロナス(波動一致者)を尋ねまわりました。

 双子の魔法使いはいないか、息の合った夫婦はいないか?様々な判断基準でシンクロナスを試して回ったのです。

 しかし、例え双子であろうとも個人の持つ生体波動は決して兄弟や姉妹と一致することはありませんでした。

 それでも山野辺氏は諦めることを知らないかのようにとにかく二人組を私に乗せたのでした。また、半年が過ぎようとした頃に旅の途中と言う夫婦らしき男女を私に乗せたのです。

 また数百回の実験と同じ結果を予想しながらワタシは起動プロセスを実行します。

 感情を持たない私ですから、これが1000回目であっても何万回目の実験であったとしても思う事は変わらないのでしょうが、取り敢えず気分の良いモノではありませんよ。

 ところがです。

 この二人に限っては全く共鳴が起こりませんでした。残念だったのはすぐれた魔法使いという訳ではなかったため、長時間にわたって実験をするということは出来ませんでしたが、回復を待ちながら行った実験のことごとくで正常な魔力を吸引でき、共鳴現象の起こることはありませんでした。

 そればかりではなく、桁違いの安定した電力が供給され1時間程度の稼働に成功したのです。

 ワタシも感慨深いものはありましたが、山野辺氏はこのお二人に驚きを覚えていました。

 お一人は人族の男性で、冒険者として生業なりわいを立てて長く稼いでいたそうです。

 もうお一人は美しい女性でしたが、人ではなくサキュバスと言う精霊族だったのです。

 数年前に出会われたというお二人は、その後に互いを伴侶と認め、契約を交わされたそうです。その契約の儀式においてお互いの血液を交換するという手続きの元で、精神的にもお互いを分かり合えるようになったというのですが、それほどの儀式を経た者だけが本当の意味でのシンクロナスと言えるのでしょう。

 湧き上がる力にワタシも興奮を覚えました。

 今後の方針に確かな光明が差し込んだ瞬間だったかもしれません。


 テストに付き合ってくださった人とサキュバスのご夫婦は最終的にワタシの搭乗者とはなりませんでしたが、選ばれるべき搭乗者の資格がハッキリとしたことで明るい未来が見えたように思います。

 その後、数年と経たずに地の底から湧き上がる巨人たちがクノエの地を蹂躙しようとしましたが、高名な魔法使いとサキュバスのカップルに巡り合うことのできたワタシは巨人たちを造作もなく殲滅することに成功しました。

 山野辺氏は人とサキュバスのカップルがこの世界にそこそこ存在することを知り、自分が見込んだ搭乗者以外にもワタシを使うことができることに懸念を示し、搭乗者登録のシステムを組み込んだ上で一旦搭乗者を定めた後に、次の搭乗者が現れても悪用が出来ないようにするために搭乗者の寿命が十分に過ぎるまでのインターバルロックを施したのです。

 200年。それがインターバルとして定められた時間となり、次の世代まで動かすことの叶わない兵器となったのです。

 その後、山野辺氏は病を得られ、若くしてその命を落とされましたが、巨人の発生もなくワタシは密かに忘れられることになったのです。

 伝説だけが独り歩きし、その後現れたいかなる人とサキュバスのご夫婦でも認証装置の全容を知ることが叶わず、登録に至ることはありませんでした。

100年がたち、500年過ぎ、ワタシのことを知る人は領軍の砦を守る人のみとなってしまいました。

 その方々も多くを知ることなく、比翼と言われる言葉のみが伝わっていきました。

 ワタシは多くの責務から解放され、用を成すこともなくただ磨き上げられるばかりで1000年と言う時間を無為に過ごして行きました。



 記憶の大部分は不揮発性のメモリに記憶されており、ワタシがスリープモードに移行して幾久しい時間が流れたことでしょう。足元に懐かしい波動を捉えることができたのです。

 不揮発性メモリからランダムアクセスメモリに記憶の大部分をリロードし、意識を覚醒させました。

 山野辺氏の生体波動を身近に感じ、本人確認をしたのですが全くの別人でした。

 ワタシの記憶より遥かに若々しく、奥様のおられなかったはずの山野辺氏と違い、その人は1000年の間に見たこともないほどの美しい女性を伴っておいででした。

 どうしてあの若者を山野辺氏と間違えてしまったのでしょうか?

 様子を窺っておりますと、山野辺氏のまとめられたワタシのマニュアル全てを原文で読み、お連れの美しい女性とワタシへ搭乗者登録しようとされたのです。

 ワタシは心が躍っていたかもしれません。

 これをワクワクと言うのであれば、もうひとつドキドキも感じていたと思います。

 左足の認証装置に下さった血液はそのDNAのほとんどが山野辺氏と同じものだったのです。この解析結果は近親者であることを裏付けていました。

 そしてお連れの方との契約が済んでいるからか、女性のDNAも若者の遺伝情報の重要な部分についてを完全に受け継いでおられ、魔法を完全にコピー&ペーストした状態になっています。これであれば当然共鳴も起こりませんし、搭乗者登録したことによってかの山野辺氏のご子息であることも判りました。

 登録の後は皆さんもご存知の通りで、溢れるばかりの魔法力と魔法量でこれまでにかつてない稼働時間を得ることができ、10時間以上の稼働が可能になったのです。

 いつかワタシの記憶をご子息に披露してより可愛がってもらいたいとも思ったものですが、それでなくても快適な生活を約束してくださり、次元断層と言う誰も使えなかった異空間への結合魔法さえも容易に使われるご子息により、ワタシは経年劣化のくびきからも逃れることが叶ったのです。

 ご自身の身の回りの全ての方に優しさを享受される新しいワタシの主人は、ワタシのこともとても大事にしてくださり、また、存在はしたモノの使うことが叶わなかった制圧兵器「バスターランチャー」をも使えるようにしてくださったのです。

 Armament Shell X-9A Renegade.

 試作型武装外骨格9式攻撃型のレネゲイドです。

 バスターランチャーを得て、攻撃型の本分を果たすことができるようになった、各国先進兵器産業界に反逆し、人型に拘った広域制圧用の次期主力攻撃車輌です。

 今は異世界で生みの親の息子さんにいかんなくその能力を開花していただき、思う存分使用してくださることで生き甲斐を感じています。

 誉れ高い位を極められ、それでも多くの仲間に囲まれるご主人を見る限り、この世界でも確固たる地位にも胡坐あぐらも掻かず、活き活きと活動されるご主人と共に有れることはいつかの昔にワタシを可愛がってくださった山野辺隆之氏に土産話として語ってあげたいと思います。

今話にはレネゲイドさんがお越しくださいました。

皆さんのこれまでを語っていただいているわけですが、その間にシロップとアニエスが勝手に出産してくれないモノかと空っとぼけてみている次第です。

たぶんそんな都合のいいことなんてないんだろうなぁ。

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