【第70話】睦月(むつき)
いつもお読みくださって、ありがとうございます。
家族で過ごす何にもない一日の話です。
すっかり落ち着いたソウタがジジ臭いです。
フィアと俺はマサカ?と言うような出来事を昼間に体験したわけだが、これに関しては思うところがいっぱいある。
いつも「あなた」と俺のことを呼ぶアニエスのご先祖が命を籠めて打ったという魔剣如月。
妙齢の美女と言うイメージが全員の頭の中に出来上がっていたのだ。
しかし、実際に如月が実体化した女性はどう見てもせいぜいが15歳になるかと言う幼女だった。
俺は20歳代後半のお姉さまだったらという勝手な妄想が出来上がっていたし、フィアやシロップもずっとお姉さんなのだろうと想像していた。
アニエスでさえも大人っぽい喋りから二十歳を過ぎた女性が現れるだろうと想像していたという。
シロップとアニエスはまだ如月が実体化した姿を見てはいないが、俺たちの話を聞きそれでも信じられないという表情をしていた。
「だって、あんなに。アンニさんよりお姉さんのようでしたよね?」
シロップがそう言うのは仕方がない。
もう実際に会ってもらうしかないという気持ちと、今後を話し合うためにもと如月に実体化を促した。
〔そうね、顔を見ながら話し合うのが一番いいわよね。〕
瞬時に紫の光に包まれ、やはり15歳ほどの可愛い女の子が現れた。
「うそ!?」
「ええ?こんなに可愛いの!」
フィアとシロップが身長150cmほど。アニエスが160cmほどであるのに対し、如月は140cmにギリギリ届いていないような感じだった。
「きゃーらじ!」
ギリで如月と聞こえなくもないユイの呼びかけに如月は微笑んで答えた。
フィアに抱かれたユイが伸びあがるように如月の元に行きたがり、両手を差し出して抱っこをせがんでいる。仕方ないとばかりにフィアは如月にユイを差し出すが、如月はそれを受け取るのに躊躇いがあるようだ。さっき、髪を引っ張られたからな。
「如月、抱いていると髪を掴まれても痛みはないよ。引っ張れないからな。」
俺を見た如月はイマイチ信じられないという表情ながらも抱くのは嫌でないらしく、おずおずとユイに対して手を差し出した。
飛び移るようにユイが如月に抱き付き、幸せそうな顔をしている。
「きゃーらじ、きゃーーーーらじぃ!」
もう、それは明らかに「きさらぎ」と言っているようだ。
嗚呼、できれば初めての言葉らしい言葉はパパかママにして欲しかったのだが。
贅沢は言いたかないが、せめてママと言ってみて欲しかった。
うるうると潤んでくる両の目をフィアに向けると、哀れみに満ちた表情で俺を慰めてくれる。
「ユイの初めての言葉はパパにして欲しかったですね。」
「俺はママにして欲しかったのだが、残念だよ。」
「次の子に望みを託してみてはいかがでしょう?如月さんの子供がソウタさんをパパと呼んでくれますから。」
いや、誰の子でも俺のことはいずれパパと呼ぶってば。
肝心なのは生んだ母親を最初にママと呼べって言いたかったことなんだが、ユイにとってのストライクは如月だったという事実が実に心外である。
満足そうなユイはやっぱり如月の髪を掴んでいるが引き代がないことで如月は痛がっては居なかった。ユイを抱いて意外なことに満足そうに微笑んでいるようだ。
如月の表情を見てとても満足そうな表情のフィアが言う。
「如月さん、早めにご自分のお子さんを産んだ方が良さそうですね?それと、ソウタさん。
ユイだけでは子供の数が足りないようです。シロップちゃんとアニエスちゃんにも早めに子供を産んでほしいと思いませんか?」
うん。子供を抱いて満足そうにする女性が多すぎるからな。取り合いになってとまではいかないが、お妃様に始まり妻たちに屋敷のメイドたち。男性で言うなら陛下とユンカーさんに馬番や調理師たちだろうか。
調理師たちは職権を乱用し、離乳食を作ってはユイにご馳走しているが、フィアを隣に置いて自分たちでユイを抱き、それぞれが子育てに奔走したころを思い出しながらいい笑顔で腹いっぱいに食べさせ、背中を優しくトントンしてげっぷをさせる。
見事な手際にフィアと一緒に驚くよりないが、ユイの満足そうな顔を見ると長年の経験を積んだ彼らにも敬意を表すよりない。
しかしだ。
今はそこが問題ではなく、実体化した如月が幼すぎてその、できるのか?という事である。
年齢だけならば1000歳を超えるのだろうが、その容姿は15歳に満たない。
本人が望んでいるのだから、子孫繁栄に積極的なのはありがたいがフィアと初めてのベットを共にした時よりもさらに犯罪臭がぬぐえない。
低い背丈にくりくりとした大きな瞳のおませさんと言った如月はやはり緩いウェーブの紫の髪を豊かになびかせており、ひと房はユイが掴んでいるものの妖精のようなその姿は手を出しにくい雰囲気がある。
しかし、その柔らかな雰囲気をぶち壊したのはシロップだった。
「その姿、完璧に私の存在が脅かされようとしています!幼女ポジは私のモノだったのに如月ちゃんが、如月ちゃんが”おまわりさん、こっちです。”です!」
おい?
シロップさんや。あなたもう17歳でしょうが。幼女では既にないと思うのです。
俺の私室がいつも以上に混沌としてしまい、誰か何とかしてくれと言う騒がしい状況になって、いつものようならぶらぶな雰囲気に程遠いのだが。
シロップ、その禁句はどこで覚えたんだ。
お巡りさんはこっちに居ないしな。
夜も随分と更け、ユイが眠ってしまったことで、ひとしきりの騒がしさは収まってくれた。
「如月、実体化したはいいがその身体で子供を作ることはできるのか?」
「当たり前よ。もう、1000年もこの瞬間を待っていたの。あなただったらきっと、良い子を授かることができるわ。見た目なんてどうでもいいのよ、気にしないで子種をちょうだいな。」
フィアにユイを返し、俺に抱き付いてくる。その様子は本当に幼さを残した女性のようでもあり、歳を経た大人のようでもあり、なんとも不思議な気分にさせられる。
如月を抱き寄せ、その細い腰を捕まえて抱きしめると確かに芯があるような強さも併せて感じられた。
シロップは柔軟な感じを受け、強く抱きしめてもぴったりと吸い付くような感触があり、いつもしっかりと抱きしめてしまうような俺に合わせてくれる懐の深さを感じることができる。
アニエスは些細なことで傷つけてしまうような繊細な感じを受けるが、実はとても抱き心地がいい。俺の腕の中に容易に包み込んでしまうような庇護欲を掻き立てるような弱さとそれを受け入れてしまう儚さがある。守ってあげたいと思わされてしまう姫なのだ。
フィアは常にアグレッシブで性欲と言うモノに一番素直な感じがする。俺と一緒に気持ちよくさえなれればそれが一番気持ちいいと、公言するほどに素直な感情を伝えてくる。
抱きしめると確かな手ごたえがあり嬉しくなるのだが、それは固いという表現ではなくフィアを感じるという実感が跳ね返ってくるとでも言えばいいのだろうか。俺はこの数年、毎晩この感覚を享受している。
そのどれとも違うのが如月だった。
飛び込んできた如月は小ささとホッコリとする柔らかさ、線の細い華奢な幼さと大人の大胆さが合わさっており、少しばかりの情熱的な気性と相まって蠱惑的と言う表現が一番合っているのかもしれない。
ベットの上がかなり密度の高い感じになっているが、小さな背丈からは想像を裏切るようなオムネとくびれた腰。女性らしいラインを描くお尻が魅力的だった。
夢中になって愛撫すると素直に快感に身を任せてくれる。どこを愛しても素直な喜びとなって帰ってくる反応は今までにない興奮を誘ってくる。
されるがままとも違うが、俺の自由にさせてくれる如月との睦み事は三人と一切かぶらない楽しみ方をさせてくれるものだった。
1000年を経ての初体験だったろうに、まるでそんな様子も見せずに如月は純粋に楽しんだようだった。
それを見ていた嫁たちにも感じ入る何かがあったのか、それぞれが今まで通りの愛し合い方に気合をプラスしていた。
俺としてはもう、何も言う事がない嬉しい一晩だった。
皆が満足するころには如月は剣の姿に戻っており、話しかけても返事は無かった。
せっかく微睡んでいるものを起こしても失礼だったし、飾り棚にそっと立てかけると今日までと違う充実感を漂わせている。その様子にくすりと笑ってしまったが、声に出すと他の嫁たちも起こしてしまうかもしれない。
ちゃんと四人の嫁と夜を楽しむことができてやっぱり幸せを感じてしまうな。
フィアと一緒に敵に向かうときもあれば、如月が俺を守ってくれる時もある。
戦いを終えるとシロップとアニエスが癒してくれて、ユイが俺を和ませるのだ。
家族がいる実感を身にしみて感じている俺は、日本に居たら味わうことのなかった幸せを感じながら眠りについた。
翌朝、ゆっくりとした時間に目を覚ました俺は、上に乗っかっているフィアの体温を感じ、挟まっているユイの涎を感じ、左腕に絡まるシロップの体温と右腕に押し付けられるアニエスの胸の感触に、たくさんの幸せを感じながら目を覚ましたのだが、いつもと違う気配にベットサイドに視線を送ってみた。
一番早くに目を覚ましていたのだろう如月がソファーに腰掛け、その腕の中に見たことのない赤ん坊を抱いて、おっぱいを飲ませているところだった。
「っ!?如月?その子は??」
「あら、おはよう。」
如月は何の疑問も無いようで、俺に朝の挨拶を微笑みながらくれた。
二の句の告げない俺に不思議なものでも見るように如月が首をかしげる。
「あなた、どうしたの?」
「そ、その子なんだが。」
「あら、あなたの子じゃない。昨夜のことを忘れたの。」
忘れるわけがない。
楽しかったことも、如月の甘える仕草も全部覚えてる。そうじゃなくて契りを結んだのは昨夜のことで、目が覚めると子が生まれているとかスマホのアプリでもそんな急展開無いわ。
「昨夜のことは忘れるはずがない。しかしだな、昨夜の今朝で如月が子を産むとか思わないだろう?」
「そう?私はあなたの剣よ。愛情を注いでくれたらその結晶が実る。でも剣である限りはいつでもあなたの身を守ることが最優先よ。だから魔剣に妊娠期間なんてないわ。知らなかったの?」
「いや、知るわけがない。ところで昨夜は出産に関して大変じゃなかったのか?言ってくれたらずっと側で付き添ったのに。」
「大丈夫よ。フィアちゃんたちのように辛い苦しみもないから安心して頂戴。」
それならいいのか?
「如月、それでも今度からはそう言うのは無しにしてくれないか?契りを結んでそれきりと言うのはどうにも腑に落ちないよ。
剣の姿のままだったとしても何でもいいから、一人でと言うのは止めてくれ。俺のいるところで産んでくれないかな。」
「・・・あなたがそう言うなら今度からはちゃんと言うけど、ホントに一瞬なのよ?私も痛くもないし、心配するような暇なんてないわよ?」
「それでも、それでも俺の側で産んでくれ。」
念を押されたことで如月は頬を赤らめた。自分にとってなんでもないことだったらしいが、俺にとっては残念なことだったのだ。
それが伝わったのだろう、恥ずかし気に同意してくれた。
「あ、あの、ありがとう。」
「うん。」
「でね、あなたにこの子の名前を付けて欲しいのだけれど。」
「睦月だ。」
「え?もう決めちゃったの。」
「ああ、俺に相談もなく産んじゃって、もう。今は年の始まりの月だ。俺のいた日本では睦月っていうんだが、みんなを守る船たちの睦月の仲間たちは素晴らしいものだった。
中でも二番目に生まれるはずだった姉妹艦は如月と言って、睦月よりも先に生まれちゃったんだよ。
睦月型一番艦”睦月”は一番最初に生まれたんじゃなく、如月の次にこの世に生まれたんだ。だから如月の次にやって来た俺の子は睦月だ。」
「ありがとう!ちゃんと意味のある名前を貰えたのね。」
「おはようございます。睦月ちゃんですか。ユイと仲良くしてほしいです。」
ユイはすでに睦月をロックオンしており、その目は爛々と輝いていた。
フィアも起きだし、早速目の前に居る如月と睦月に興味があるようだ。
しかし、この順応力は何だろうか。目が覚めたら如月が子供を産んでいたというのに不思議がる様子もない。
「うわぁ、その子はどうしたんですか?」
多分シロップの反応が正常の範囲内なのではないだろうか。
「ええ?だってソウタさんが、いえ、まさか一晩で生まれるなんて、私たちの存在価値が・・・シロップちゃん、不味いなんてものではないかもです。」
アニエス。俺が何だって?隠語にしてしまうのは感心しないぞ。
「アニエス、子供は天からの授かりものだ。早くていいとか遅くてダメとかそんなことは全くない。魔剣の体質は人とは違うってだけだろう?不味いことは何にもないからやめてくれないか。」
「ええと?ごめんなさい。焦ってはないですけど、やっぱり欲しいものは欲しいですよ?おかしいですか??」
「おかしくはない。ただ、焦っても仕方ないし、出来た時がめでたい時だからね。それと幸せとは別の話だろう?」
「そうですよ。アニエスちゃんはソウタさんと一緒に居るだけで幸せって言っていたじゃないですか。」
それはシロップもだろうに。聞いたことがあるぞ。
二人の髪を撫で、くしゃりとかき混ぜてやった。
それで満足したのか二人は布団から抜け出すとベットを降り、如月の元へと集まって行った。
フィアはどうして二度寝してるのか?
朝食に食堂へと集まると全員の視線がこちらへと集まった。
「お館様、そちらの女性とお子はどのような方なのでしょうか。」
そっか、やはり俺たちはこうした変化に慣れすぎているようだ。
「紹介が遅れましたね。母親は昨日まで俺が佩刀していた魔剣の如月です。エンシェントドラゴンを討ったことで経験値が向上しまして人の姿になれるようになりました。
フィアたちと話し合った結果、四番目の妻という事になりましたのでよろしくお願いいたします。」
「・・・・・・」
「あれ?俺変なこと言いました?」
「そう言う訳ではありませんが、それを俄かに信じろと言われましてもお話が突飛過ぎまして。」
「そ、そうですよね。如月、ここで剣に戻ってもらってもいいか。」
「ええ、その方が話も早いものね。こんなところではありますが、皆さん失礼します。」
一瞬の紫の閃光と共に俺の手に柄が飛び込み、ずっしりとしたいつもの魔剣が俺から魔力を吸い上げてその刀身に色鮮やかな紫の灯りを纏わせる。
「す、すごいモノですね。本当に魔剣と言うのは不思議な存在です。」
アンニさんにも目の前で起こった変化は柔軟に対応できるようで、もう一度閃光と共に現れた幼い姿の如月に自己紹介をしている。
「このお屋敷のメイド長を務めておりますアンニと申します。如月様、これからもよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。突然のことでご迷惑をお掛けしますわ。家族のみんなとはずっと会話ができていましたので厚かましくもあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。」
「如月が抱いているのは昨夜生まれた俺の娘で睦月と言います。魔剣は妊娠期間がないそうで、その、昨夜一夜を共にしましたら今朝にはこうして生まれておりました。」
「はぁ、そうでしたか。あの、おめでとうございます?」
なんで疑問形?
「祝ってもらえてうれしいです。アンニさん、皆さんありがとう。」
ふと疑問がわき、そのまま如月に質問をする。
「そう言えば如月、睦月は剣の姿にはならないのか?」
「まだ無理だと思うわ。実体化と剣の姿への変化は自分の意思で行うものだから2歳、3歳ころまでは無理じゃないかしら。」
新情報だ。しばらくは睦月はこのまま育っていくらしい。
「じゃぁ、もう一つ。その間は如月もこのままで過ごすことは可能なのかな?」
「ええ、貴方が望むならこのままでも平気よ。その方がいいかしら?」
「そりゃそうだろ?子の側に母親がいないのは困るよ。旅の最中なんかは戦闘の時だけ剣の姿で協力してくれたらいいから、不都合がないならそのままでいてくれないかな。」
「それで今日の予定なんだが、特別なことはありますか?」
朝食を口に運びながらアンニさんに問いかけると、手元の手帳を一瞥だけして答えをくれる。
「いいえ、本日はどなたともお約束はございません。御用がおありですか?」
「いや、近場なんだ。マーケットまでユイや睦月の買い物をしに行きたいんだよ。如月の衣装も欲しいしね。」
「あら?嬉しいわ。シロップちゃんやアニエスちゃんも行くのよね。」
「はい、私たちもご一緒します。」
「それでしたら子爵様より用意いただきました登城用の馬車をお使いになってはいかがですか?」
俺たちのヤマノベ家の紋章になっているサキュバスの翼、聖銀の巨人と一緒に描かれている箱馬車は俺とフィアが旅した時の物がモチーフになっているが、シロップやアニエスに加えユイができたおかげで手狭になっている。
ここに如月と睦月が実体化したままで乗り込めば、満員御礼となるだろう。
そうでなくても幾多の戦闘を潜り抜けた馬車は質実剛健ではあるが、城へ上るには少し見栄えが悪かったのだ。
俺やフィアは全く気にもしていなかったのだが、ユンカーさんがえらく気にしており他の貴族方のような馬車も持たれては?と仄めかされていたのだった。
フィアも俺も気にしない性格が災いし、そのうちにとはぐらかしているうちにユンカーさんが俺たちの為にと新しい馬車を用意してくださった。
華美ではないが上品な仕立てになっており、普段の旅にも備えが行き届いた大型の馬車だったのだ。
これはユンカーさんからお妃様のご懐妊のお礼にと贈られることになり、大丈夫なのかと値段のことを気にしたのだが、ユンカーさんがただ人ではなく子爵様であることを聞かされ驚いたものだった。
「このぐらい、感謝の気持ちとして都合させてはいただけませんか。」
そう仰られ、ありがたく頂戴したのだ。
馬車の後部から乗降するようにできており、入ってすぐには団欒のためと来客を見越した設えの良い応接具などが作り付けとなっている。扉を隔てて寝室になっていて、執務も取れる机とこれからのことを見越したような大型のベットが空間の妙とも言うべき設計で配置されている。
大量のドレスなどを持ち込んでも平気なクローゼットや衣装タンスにユイや睦月の育児に必要なものをいくらでも仕舞って置ける物入れもある。この寝室を中心に御者席側にも広い空間があり、応接以外のことに使えると妻たちには好評だ。
そこから御者席に上がれるようになっており、俺としてはこの仕様が一番気に入っている。何せ便利だからな。
大きさも15人が暮らせる生活車両の半分はゆうに超え、前のモノと比べて随分と大きくなったものだ。それでも名だたる名工の手による浮遊魔石が入っているおかげか、二頭で十分引ける重量しかない。
ゆっくりと準備を済ませ、家族全員で馬車へと乗り込んだ。
白い馬二頭に引かれ出発した馬車は如月にも好評だった。
「いいわね、この馬車。外の仕上がりも立派だし公爵様の乗る馬車らしいじゃない。」
「街中はいいんだけどな。外に出るといかにも貴族様が乗ってますって感じでちょっとイヤなんだよな。」
「あらそう?派手じゃないし良いと思うんだけれど。」
「如月がそう言うならいいか。シロップもアニエスもすごい喜んでる。フィアと俺だけがちょっと恥ずかしい様な気がしてるんだよ。」
でも、この馬車の快適さは一度経験してしまうと前の馬車には戻れないな。
行き届いた設計が秀逸と言わざるを得ない。限られた空間を上手く使い、収納や寝台を広くとる工夫に前側の家族でくつろげる空間もいう事がない。
今は暖魔石が置かれ、そこで妻たちが紅茶を飲んでいる。外も良く見えるようになっており、開放的な造りなのだが見事に平滑なガラスが嵌め込まれ外気が入り込まない。
御者席側は俺が常時発動しているデストロイウォールもあって、この空間は非常に居心地がいいだろう。
俺は御者席で寒風に曝されているわけだが。
ようやく慣れた道を20分ほど掛けて下ると国貴族街の正門までやってきた。
御者席の上に雨よけとしてせり出している庇の部分も家紋が金のレリーフで作られており、戦艦大和の鼻先のようになっているのが恥ずかしい。
それ以外には装飾など何もなく、ユンカーさんのセンスの良さが光っているわけだが、それでも艶のある漆で仕上げられた外装から身分が知れると言うモノだ。
正門を左に折れると間もなく、いつも通うマーケットに着く。
車宿りに馬車を止めると、馬の世話をする下働きらしい子供たちがやって来て、馬の世話を始めるが、我が家の馬車が来ると誰が世話をするかでよくケンカをしている。
チップがいいのと良くマーケットで買った菓子などを分け与えるからだろうか。
ここしばらくはケンカが派手になってきたためにいつも同じ子供に世話を任せるようにしている。12歳くらいの鳶色の髪を三つ編みにし、背中まで伸ばしている快活な女の子が我が家の御指名を一手に引き受け、周囲から一目置かれているそうだ。
この子が可愛いからそうしているという訳ではなく、馬に対する真剣な世話の仕方や思いやりの感じられる態度が気に入っているのだ。
シロップやアニエスもそしてフィアもこの子をたいそう可愛がっており、俺がいなくてもこの子を指名しているそうだ。
今日も鳶色の髪の子を指名し、馬車を任せたのだが俺たちの馬車が変わっていることに驚いていたようだった。
「公爵様、新しい馬車にされたのですね。」
「ああ、家族が増えてね、前のじゃ狭くなっちゃったんだよ。大きくてすまないがよろしくお願いするよ。」
「はい。お任せください。」
俺からチップを受け取り、深くお辞儀するとすぐにも馬の世話に掛かろうとする。
ウィングと旦那もそうだったが、白二頭もこの子の世話が気に入っているようで嘶きながら歓迎しているようだ。
睦月は如月が。ユイはフィアが抱いて店に入っていった。
今日はシロップとアニエスにも普段着るための服をいくつか買うように許可を出したので、全員が物欲モード全開になっている。
俺はいつもの紅茶さえ手に入れば他には要らないのでフィアや如月の後をついて回った。
如月はまだ人の姿で城へ行ったことは無いし、最近はシロップやアニエスも城へ行くのでメイド服ばかり着せるわけにはいかなくなってきているのだ。
本人たちはそれでいいというか、その方が楽だというのだが、フィアと一緒に行くのにメイドの格好で付いていかれるとお妃様が気を使われるのだ。メイドの姿をした者が友人とは周囲の目を気にしなければならない場所でいう訳にはいかないからね。
妻たちのほとんどが今日は衣装を見に来ているので店構えの前半分はほぼ素通りした。
食料品や日用生活雑貨などは目もくれずに奥の衣料品関連のコーナーへと飛び込み、それぞれの身に合うドレスや略式の正装などを見繕っていた。
俺はユイと睦月を抱え、妻たちが思う存分に品定めしているのをひたすら待った。
店員がよく心得たもので、俺の側に黙って椅子を置いていってくれた。小さなテーブルと俺が座るための椅子ができて、テーブルの上にはいつも俺が買っていっている紅茶も湯気を立てている。
たまには散財するのもいいだろうと思う。
ただ、膝の上に娘が二人おり、手を離すことができないのだが。
そのうち美味しそうな湯気を立てる紅茶も冷めてしまうだろう。
しかし、仲良く俺の膝の上で過ごすユイと睦月を見て過ごすのも悪くはない。二人とも独り言のような会話のような話を続けているのがとても和ませるじゃないか。
神国では高速鉄道網の整備も開始されて、沢山の人の経済が回り始めております。海軍も第3航空戦隊まで正規空母の配備が進んでおり、確かな守りもできつつあるようです。
平和を享受しているソウタに新たなクエストが?




