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【第7話】冒険者

時系列の矛盾が文末の方にあったので8月7日に修正しました。

 「とぉいやー!」

 俺のバスタードソードを袈裟懸けに振るい、コボルトの首を飛ばす。

 「グゲア?」


コウリョウの町へ戻り、冒険者ギルドでフィアの冒険者登録を行った。

 ギルドの受付から、個別面談スペースへと移り毎回どこで聞いても同じ冒険者の心構えを聞く。

 俺が聞いてもしょうがないと思うのだが、本来聞かなければならないフィアがよだれを垂らして担当官の話を聞いてもいない。 

 15歳の少女にギルドの成り立ちや冒険者通しの相互扶助、モンスターとの駆け引きなんて言ってみたところで馬の耳に念仏だろうに。

 真面目な顔で話し続ける担当官の労力を思えばせめて俺だけでも聞いていないまでも相槌ぐらいはサービスの範疇だ。

 毎夜毎夜にフィアに絞りつくされる俺だが、昨夜は特別に激しかったと言っておこう。

 冒険者になれる喜びとパーティー名に自分のスタイルを反映したことによって、天井を突破した状態のフィアのサービスが炸裂した。

 危うく俺が燃え尽きてしまう処だった。


 「フィア様は本日より冒険者となりましたが、過去の戦績を踏まえてEランクスタートとなります。ソウタ様はこれまで通りCランク冒険者として、パーティー“ウィンドソード”のリーダーを新たに努めていただきます。」

 「了解した。フィアに実績がないながらにもEランクの裁量はありがたいことです。しかし、実績というのはどのように示せばいいのだろうか?」

 フィアがEランクスタートになったのは所謂いわゆるコネである。

 俺がすでにCランクであったことと、貴族縁の者であったためにこれに配慮した結果であったのだが、Eランクにふさわしい成果を残さなければギルドカードを発行できないというのである。

 俺はFランクスタートで良いといったのだが、フィアがどうしてもEランクからのスタートを希望したのである。

 にも関わらず、寝てやがるのはどうした所業だろうか。

 「コウリョウの二子山はモンスターの被害が多いことで有名でございます。討伐依頼も数多あまたあり、選り取りでございます故にEランクの場合はコボルトの30匹以上の討伐かゴブリンの10匹以上の討伐をフィア様にお願いいたします。」

 コウリョウの港町から町の中心への物資の陸揚げはこの二子山を迂回するルートでしか存在しない。

 はるか昔には二子山を越えるルートもあったのだが、ここ数十年は山越えルートが閉ざされているという。

 聞いた話ではキングオークが発生し、魔物たちを仕切っているとか人族の魔法使いが魔物たちを統べているなどまことしやかに囁かれているのである。

 コウリョウの冒険者たちはひたすらに二子山の魔物討伐に腐心しているのだが、町人や商売人が山を越えようとして生きて帰った者はいないそうだ。

 標高はせいぜいが150メートルにも届こうかという丘陵にも近いものだが、その裾野は広く、コウリョウの町と港湾地区とを南北に完全に隔てさせている。

 フセモクという港町から直線距離ではわずか4キロ。しかし荷馬車によるルートはこれを東回りに迂回して20キロメートル。西回りに迂回するとセキセンに迫るほどに迂回しなければならず、おおよその商人はセキセンへと流れてしまう。

 こうした地理的背景を跳ね返すコウリョウの存在意義は単衣ひとえに鉄鋼業である。

 銅や錫の鋳造から始まり、黒鋼やミスリルの鍛造技術、オリハルコンの加工までこの町に多く集っているドワーフたちが研鑽と切磋琢磨を怠ることなく続けてきた成果である。

 しかし、そうであるならば港湾地区とこの中心地は安全に物資の流通が保障されてこその発展が望めるというものであろうか。

 トサンでもマウントティーから下るモンスターたちに引けを取らない数と種類を誇る二子山のモンスターの出現率はコウリョウの発展の足かせになっているのだろう。

 少しでも多くのモンスターを狩り、商業ルートの復活を目指そうというものである。

 「わかった。だが、パーティーとして討伐に挑む場合のフィアの成果についてはどのように証明したらいいだろうか。」

 「そう、難しく考えないでください。ギルドカードに討伐証明が残りますし、このように若い冒険者が年長の冒険者の支援を受けることは珍しいことではありませんので、ウィンドソードとしての成果とフィア様の成果が満たされるようにリーダーの采配があれば十分でございます。」

 形式的にフィアの討伐数が依頼分をカウントできれば十分という優しい仕様であった。


 麓から二子山に入り込んだ俺たちは、中央西寄りより正面突破を図るような形でモンスターを蹴散らしていった。

 フィアには後詰、後衛を任せることにした。

 低地に表れるコボルトなど、フィアにすればゴミのようなものだ。

 そんなレベルのモンスターにフィアの体力を消耗させるわけにはいかない。

 狙うならば少なくともキングオーク。

 人族が加担しているならそいつをこそ仕留めたい。

 そういう目論見もあって俺たちは・・・俺はすでにコボルトやらオークやらを数えるのも億劫になるほど屠り、息も上がるほどだ。

 フィアも中腹に至るころにはオークの出現率が高くなったことから戦闘に参加している。

 相変わらず見事というよりない剣戟である。

 8匹のオークに囲まれそれぞれのオークが手にしている粗末なこん棒や岩斧が振り下ろされた時も、一番近いオークの懐に潜り込みざまに脇腹を切り上げ、背中側へ抜けると同時に隣のオークの背後から首に大剣を叩き込み、頭部が切り飛ばされた。

 3匹目、4匹目と手や足が欠損し、8匹目のオークが絶命するまでに1分とかかっただろうか?

 背丈と変わらない長さ、150㎝を超える厚みのある刀身が軌跡しか見えない速度で振るわれれば、立派な体格を誇るオークでも藁束でも切り飛ばすように解体されていった。

 頂上までもういくらもないところまで登ってきたが、オークを超えるようなモンスターは出現しなかった。

 面積だけは広い山であるから、そう簡単にボスに遭遇するとは限らないとはいえ、接敵したモンスターの種類が少ないのも気になる。

 山頂は少し開けた感じの展望台のようになっており、モンスターが跳梁跋扈する前は花見の時期などには町の人たちがたくさん訪れ、賑わっていたと聞いた。

 今は見渡す限り誰もおらず、閑散としたものだ。

 いや、気配はある。

 フィアは俺の背後で背中合わせで死角のないように大剣を構え、奇襲を警戒しているようだ。

 朗々とした声がかすかに聞こえる。

 「フィア、魔法詠唱が聞こえる。ゴブリンシャーマンかもしれんな。火属性か土属性の魔法を警戒しよう。」

 「わかりました。」

 大気に張り詰める魔素の充実具合からすると、風属性の可能性もあるのだがゴブリンの中でも上位種であるゴブリンシャーマンは風魔法を得意とはしていない。

 大抵の場合は土槍や火矢による攻撃が一般的で、相当に長い時間を経た熟練のゴブリンでもなければその他の属性魔法や上位魔法を使用することはない。

 「随分詠唱が長いな。」

 そう呟いた時だった。

 フィアの正面、俺の背後から火矢が襲い掛かってきた。

 そして俺の正面からも。

 詠唱が長いのではなく、何人もの詠唱が続いていたようだった。

 背後からの矢は10本ほど。正面からの矢も10本を超えない程度だった。

 しかし、迂闊に回避すると互いの背後から来た矢が死角になっている。

 迎撃するしかない俺たちは剣を構えなおし、脅威度の高い矢から切り上げるように、切り下すように5本ほどを迎え撃った。

 互いの正面の矢だけを迎撃したところで、足元が動き出した。

 「フィア!飛ぶぞ。」

 言うやフィアの姿はその場から掻き消え、俺も3メートルほど前へ飛んだ。

 瞬間、俺たちのいた場所には土槍が数十も地面から突き出るように轟音と共に現れた。

 俺たちはまだ、敵のモンスターを確認していないというのに守勢に回ってしまっている。

 「フィア、魔法を放っている奴が見えるか?」

 「いえ、こちらからは確認できません。」

 ええい、腹立たしい。

 反撃の機会を見いだせないまま、土槍から逃げ回り、火矢を撃ち落し、良い的になってしまっている。

 「フィア、俺の側に。こちらも魔法で迎撃する。」

 風と共にフィアが現れ、俺の正面を守ってくれる。

 「範囲固定。倍率10、サンダー!」

 この時ばかりは無詠唱がありがたい。

 風属性の上位魔法、サンダーを広場より一回り大きい範囲に設定し、叩き込む雷撃の数を10倍に増やす。

 撃ち漏らしがあっても僅かだろう。

 にわかに黒雲が沸き立ち、パリパリと放電が始まった。

 ドーンと言う大気を割る轟音と共に天から地へと無数の落雷が起こり、空気がイオン化している。


 耳が聞こえなくなるほどの轟音から一転、静寂に包まれた広場に土槍も火矢も襲ってはこない。

 警戒体制のまま、広場の周辺を確認してみると、最初の予想通りにゴブリンシャーマンが数体、高電圧の落雷に打たれ消炭になっていた。

 正確には大電流による発火現象だったのかもしれないが、生命反応のあるモンスターはいなかった。

 「それでもあれだな。ボスらしいのは居なかったよな。」

 「ソウタさんの魔法攻撃の効果範囲は素晴らしいですね。これだけの範囲を一度に攻撃したとなると、ボスが居てももう生きてはいないのではないでしょうか?」

 「その割には手応えというか、曖昧な感じなんだよな。」

 ここまででフィアはコボルトを12匹、オークを28匹、ゴブリンを20匹叩き切った。

 俺はコボルトは37匹、オークを11匹、ゴブリンとゴブリンシャーマンを45匹だ。

 その内のゴブリンシャーマン25匹はサンダーで焦がしたものだが、この程度の魔物の領域でゴブリンシャーマンが25匹もいたとなると、少し異常と言える。

 ゴブリンシャーマンは長く生きた過程で魔法を行使するようになったゴブリンなのだが、これだけの数をそろえているとなると、他にも組織立った連中がいるような気がする。

 今の戦闘でMPが心許ない。

 「フィア、討伐数はもう十分だから、ギルドに戻ることにしよう。俺のMPもそう残っていないので心配だ。」

 「わかりました。」

 しかし、ドロップしているアイテムを拾いながら帰るとか苦行だな。

 数が数だけに来た道を戻れば回収はできるのだろうが、解体の作業が面倒でうんざりだ。


 数時間をかけて二子山を下り、ギルドに戻った俺たちだったが、ギルド職員はフィアと俺の討伐記録を見て顔を引き攣らせていた。

 「あのぅ、私はフィア様がオークを10匹ほど討伐できればとお話ししたはずですが、この数はなんでしょうか?」

 「それは、そうなんだが中腹あたりからモンスターの密度が高くなってな、頂上にはゴブリンシャーマンの団体がいるし一往復でこんなことになったんだ。すまない。」

 「ごめんなさい。です。」

 「いやいや、謝っていただくことではないのですが、お二人のパーティーなのですからけして無理をしないようにとご忠告させていただいているのです。数の暴力というのは、どのようなベテランの冒険者でも越えられない場合があるのです。」

 三国志の中でもそう言った人がいたよな。

 実際、囲まれた時に魔法攻撃ではなくオークやゴブリンが押し寄せたりすれば力で押された可能性もある。

 「ソウタ様は頂上まで登られたという事でしたが、どのような様子だったでしょうか。定かでない話ではオークキングがいるとか言う者もおりますが。」

 「そうしたモンスターは確認できなかった。ただ、統率のとれた感じはあったな。並のモンスターだけであればまちまちに襲われたりするんだろうが、違和感は相当にあったと思うよ。」

 ギルド職員が考え込んでしまった。

 「二子山は頂上が文字通り二つありまして、今回ウィンドソードのお二人が登られた方ではなく、南東側の方にでも統率するモンスターがいるのでしょうかね。」

 「そうだとしても、俺たちにはこれ以上ここに留まる予定もないので勘弁してもらいたいのだが。」

 それでなくとも、セキセンの境界門から一度戻ってきているわけだし、クノエまでの旅はまだ始まったばかりだからここで時間を使うのは避けたいところだ。

 「もちろんです。お二人を引き留めようというつもりはございません。討伐のノルマも十分ですのでフィア様のEランクも問題なく認められます。」

 どうやら旅の続きに戻ることができるようで何よりだ。

 「どうぞ、こちらがフィア様の正式な冒険者カードです。先ほどの討伐記録も転写が終わっておりますのでご安心ください。」

 ギルド職員からフィアに正式な冒険者カードが手渡され、これでどこへ行っても一人前の冒険者として扱ってもらえるだろう。

 フィアも受け取ったカードを大事そうに胸に抱えては持ち上げて眺め、また胸にしまう。を繰り返している。ちょっと笑ってしまった。

 「フィア、今日はもう日も落ちている。町で宿を探すぞ。」

 「はい、参りましょう。」

 世話になったギルド職員に礼を告げ、ギルドを出ると完全に日は落ちており、町のどの路地にも魔法による照明が灯っていた。

 西に向かう街道沿いの旅籠はたごを覗いて回るのだが、安宿に空きがないようで宿のランクが無駄に上がってしまった。

 ダブルベットのある部屋をようやく取ることができ、荷物を置いた俺たちは夕飯を取るために町に出ようとした。が、フィアが開けた扉は入り口ではなく浴室の扉だったようだ。

 喜色満面でこちらを振り返ったフィアは、この部屋をいたく気に入ったようである。

 「あとで入浴が楽しみです。」

 そう言い、静かに浴室のドアを閉めたフィアは、俺の側に寄ってきたと思えば腕を抱えてくっついてくる。

 「お風呂で一回。お布団で一回。」によによとしたおかしな顔をしたフィアが聞き取れるギリギリの声でとんでもないことを口走る。

 「・・・先にメシにしよう。」

 ため息とともに、フィアを貼り付けたまま俺は部屋を出るのだった。


 宿にも食堂はあったのだが、がっつりと食べたい気分だったため外の店に行くことにした。

 酒場のような店が圧倒的に多いのだが、フィアが全く酒を飲まない上に酔客に近寄られるのが嫌なようで、なるべく酒場は避けるようにしている。

 俺もどうしても酒が飲みたいという訳ではないので食堂で出してくれるエールでも十分に満足している。

 本当はエールのエグイのど越しは苦手だったのだが、フィアと食事をするようになってからは食堂で一杯のエールが日課になりつつあり、苦手意識も薄らいできたようだ。

 酒場であれば多種のアルコールにつまみからがっつりとした食事まで楽しめるのだが、前の世界での未成年のような少女を連れて行ってもろくなことがないことは十分承知している。

 旅の途中であるから、毎度食事処があるわけでもないので、そんな時にはテイクアウトで済ます時もホテルの食堂で済ます時もある。

 ここ数日はうまいこと食堂を見つけられ、事なきを得ているが、町を出て最初の宿場では大変だったものである。


 「いよう!かわいい子を連れてんじゃねぇかよ。」

 数日前、最初の宿場町の酒場に足を運んだ時の誰だかもわからない酔客のセリフである。

 少し怯えたような表情のフィアをのぞき込むようにしたこの酔っぱらいは、フィアの赤い双眸からサキュバスであることが判ったようで、途端に下卑た表情を見せた。

 「ほほほほぅ。この嬢ちゃんサキュバスじゃねぇか?ちょっと俺にもいい思いをさせてくれよ?」

 「すまない、こいつはこんな場所には慣れていないんだ。申し訳ないがまた今度にしてもらえないだろうか?」

 席にも着かないうちから絡まれ、酔客を躱そうかとしたのだが、酔っぱらいは俺たちが店の奥へ向かおうとしたところに通り過ぎざまにフィアの腕をつかんできた。

 「あっ」

 「いいからこっちにこいよ。」

 完全に俺を無視してやがる。

 フィアの痛そうな顔を見た瞬間、咄嗟にその酔っぱらいの腕をつかみ返し、自分でも予想外の握力を加えてしまった。

 「うぉ?痛てえじゃねぇかよ!」

 そう言いながらもフィアを放そうとしない手をこちらも更に握りこんでいく。

 相手も冒険者らしい風貌で逞しい腕をしているが、こちらも魔法による魔力付与で握力を増大しているので、このぐらいの腕を握りつぶすのは大したことではない。

 「ぐぅヲヲヲウォ」

 酔っぱらいの顔を脂汗が伝う。

 あと少しで多分折れるだろうというところで、この阿呆の連れの男たちが3人、俺たちを取り囲むように立ち上がって詰め寄る。

 「兄ちゃんよぉ。そのへんにしといてくれねぇかい?」

 「どういう意味だ?そちらはそちらで大人しくしてくれるという事でいいか?」

 俺の目つきは大分剣呑なことになっていただろうか。

 しかし、この3人もすでに十分やる気のある目つきになっていたのだが、挑発の意味も込めて低い声で確認した。

 その間も握り込んだ手は一切緩めず、握力計があればすでに200kgを超えていることが判ったのだが、ベキリという何かが粉砕した音と血の気を失って口から泡を吹いている最初の男の表情から推測するより外にない。

 席を立ちあがった3人もこれを見て戦意喪失となったようで、もうちょっとだけ念を押しておくことにした。

 「まだ騒ぐようならお前たち全員、この場で燃やしてやってもいいが?」

 「てめぇ、魔法使いか。」

 完全に意識を失った最初の男を引きずるように3人は店を出ていった。

 「お客さん、騒動は困るんだがねぇ。それとさっきの連中も流れの冒険者らしいから次に会うことがあるかは判んねぇが、気を付けた方がいいぜ。」

 そう忠告され、取り敢えず全員の顔を忘れないように記憶することにした。

 「わりぃんだが、あいつら支払いをしてないんだ。おめぇさんたちの食事と一緒に払ってもらうからな。」

 とどめを刺されたのは俺の方だった。

 「わたしのためにすみません。」

 怯えた表情はまだそのままだが、俯いたフィアは泣きそうになるのを堪え俺に謝罪を伝える。

 「フィア、なぜおまえが謝るんだ?「でも、私のせいで」違うだろ?俺のフィアにちょっかいを掛ければああなるのは当たり前だ。俯いてないでこっちを見てごらん。」

 恐る恐る顔を上げるフィアだが、俺はフィアに笑いかけてやる。

 「さあ、食事をして宿に戻ろうな。」

 話題をそらしたのが良かったのか、フィアも緊張がほぐれたような表情になった。


 何かの肉を串で焼いたものを山と積み、生野菜と揚げた芋をつまみながら、エールを流し込んだ。

 エールが初めて旨いと思えた瞬間だった。


 宿に戻るころにはフィアもすっかり機嫌が直り、自分が食べておいしかった今日の食事を一生懸命語っている。

 俺との関係を少しづつ築いていければいいだろう。

 焦ることはない。

 外見からその種族の特徴が知れるのは仕方のないことだが、これからはフィアの立場を俺自身ももう少し理解し、考えながら行動しなければならないだろう。

 俺にも反省が必要だったのだ。




 ここ数日の経験を活かせているだろうか。

 今日の食事についてフィアはいつものように感想を述べる。

 どんな風に美味しかったのか、今度はどんなものを食べてみたいか。

 そして、今日の部屋にあった風呂がどのようなものだったか、自分の思ったことを考え、考え、しながら拙い語彙ごいを操り、俺に伝えようとしてくるのだ。

 すぐに俺の後ろを歩こうとしていたフィアだったが、こうして語り掛ける時は俺の真横を歩き、俺を見ながら喋るようになった。

 少しずつ遠慮めいたものが取れ、俺たちの関係や距離が近づいているのかもしれない。

 そう言えば、僅か数日ではあるが、俺もすっかりフィアを受け入れており、先だってあったあの出来事の時には少しばかり驚きを覚えたものだった。

 僅かばかりの距離を歩き、宿に戻った俺たちは部屋に入り、荷物を整えてから風呂に入ることにしたのだが、この辺りでは珍しい猫足の陶器でできた随分と大きな浴槽がしつらえられた浴室だった。


 うん。風呂の中でするのはとてもいいものだった。

 ベットに入ってからのフィアもやっぱりいいものだったとだけ言っておこう。



相変わらずストックのない状況で書き終わりに投稿とか、無謀っすかね。

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