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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
成り上がり貴族の章
65/161

【第65話】憑き物

今話もお読みいただき、ありがとうございます。

少し短いのですが、切りの良いところでという事でUPです。

ブクマ増えました。ここ数日に登録していただけました方には新たによろしくお願いいたします。ありがとうございます。

これまで読んでくださっている皆様方にも改めまして、ありがとうございます。

 俺の家族以外に言ったところで信じてもらえそうにない一夜が明け、朝食の時俺たちは言葉少なに過ごしていた。

 「ソウタ、どうしたんだ?調子でも悪くしてるのか。」

 「いや、そうじゃないんですが夕べ不思議なことがあって俺たちの中でまだ消化できてないんですよ。いずれ相談するにしても今はまだ説明できませんよ。」

 「シロップとアニエスが子でも産んだかよ?」

 言いぐさってもんがあるだろう。

 なんでいきなり二人が出産なんだって話だ。二人ともビックリしてるじゃないですか。


 探りを入れるようなみんなからの質問をはぐらかし、出発の準備を整える。

 クマタニを出発しこの日は少し春めいてきた麗らかな山中を全く何事もないままにコウザキで西に折れ、少し先まで進んだ。

 日本で言うところの軽井沢を過ぎ、その西側の小諸こもろ

 ここまで来たころには日も傾きかけていた。

 今日は誰が襲ってくるでなし、如月の出番も全くなかった。

 昼は争奪戦にならないほどの唐揚げとご飯にサラダやすり身の天婦羅、薄く味をつけたパスタなどを一皿に盛り付け、ホッとしてモット食べたくなるような「唐揚げ弁当」のようにしてみたのだが、ものすごく喜ばれた。

 争奪戦は唐揚げオンリーを己が限界まで詰め込んで楽しいのだが、今日のそれは色々な食材とともに楽しんで、中でも特に唐揚げが印象に残るという嗜好だった。

 あと少し唐揚げが食べたいと思わせるところで無くなってしまうのがミソだ。

 ところが唐揚げだけ食べますか?と聞くともういらないという。

 日本のテイクアウト弁当の唐揚げ弁当がどんな工夫を凝らされた他のメニューより、結局一番人気を譲りようもない理由がこれなのだと言える。

 日本での職業柄、そうした裏事情にも精通している自分としてはしてやったりである。

 また作ってあげますと約束すると、シロップやアニエスもとても満足そうだった。

 フィアだけが不満顔だったんだが、串にたくさん刺したかったのだと。

 それはもう、味とかバランスとかどうでもいいんじゃないか?ガッカリですわ。

 夕食は俺の担当ではなかったが、野菜の旨みがふんだんに楽しめる美味しい鍋だった。

 使われた食材に旨みの凝集された干した肉を戻したモノが使われていたのだが、来る途中で通り過ぎた軽井沢で茶屋に寄った際に買ったサクラ肉のジャーキーらしい。

 誰もそれが馬の肉だとは知らなかったようで、聞いた何人かは改めてその旨みに感動していた。

 ほとんどのメンバーは何となく馬車から外されて自由になった家族の方を憐れみと共に見ていたのだが。そこは割り切った方がいいと思います。

 明日の工程を確認しているときにレネゲイドが忠告をしてくれた。

 「マスター、東側から三人が接近しています。歩行速度や経路から旅人と思われますが、一応注意してください。魔力量・戦闘力としての気力については突出してはいないようです。」

 全員でレネゲイドの忠告を聞き、さりげなく警戒態勢を取る。

 ほとんど間をおかず、俺たちがキャンプを張った通りから脇に逸れた場所へ三人の男女がやってきた。

 「すみません、お寛ぎのところ申し訳ありませんが、表の通りを西に向かうとアズミノには行けますでしょうか?」

 尋ねられたのは先の方の街の名前だった。

 観察すると両親とその娘と言った家族連れのように見える三人だ。

 「二つ先の街、ウエダで北へ行かずにさらに西に向かうといいでしょう。」

 地図を見ながらそう答えると、父親はとても丁寧に礼をしてくれた。

 俺が見せた地図を一緒に覗き込み、納得の表情だ。

 旅の疲れか母親と娘は口も開かず、じっと下を見るように俯いている。楽しそうでない雰囲気がどういった旅なのかと疑問に思わせたものだ。

 「そちらはご家族でいらっしゃいますか?」

 「はい。娘に祈祷を受けさせるためにアズミノへ参ろうとしております。」

 面白い理由を聞いた。

 「それは大変ですね。祈祷をという事で?お身体の都合でも悪くされましたか。」

 「ええ、まぁ、そのようなものです。」

 理由については語りたくないようで、言葉を濁すような返事であった。

 こういう時にこそ、民の言葉を聞き、困っていることを吸い上げるべきだろう。

 「何やら込み入ったご様子ではありますが、私どものところへお寄りになられたのも何かの縁かもしれません。よろしければ少しだけ休憩されてはいかがですか。」

 そう言って予備の椅子を出して三人にも紅茶を振る舞った。父親は恐縮しながらもそれを飲み、良いお茶だと喜んでくれた。

 しかし、母親と娘は口をつけようともせずにだんまりを続けている。鑑定眼で様子を探ると面白いことが判る。娘には何かが憑いているようだ。

 漠然としたエネルギーが娘の周囲を漂い、寄る者を排斥しようという気配が漂い出ている。取り憑いた依代を奪われまいとする何かがいるようだ。

 「ご両親に伺いたい。私はこう言う者でこの国の仕事をしているのです。」

 父親に冒険者カードを見せると、ただでは済まない身分であるという事を理解してもらえたようで、妻と娘を置いたまま地面に片膝をついた。

 「気安くお声などお掛けしてしまい、大変申し訳ございません。お気を悪くなされませんよう御慈悲を頂けますか?」

 アニエスとシロップがすぐに父親を立たせ、再び椅子に腰かけさせた。

 フィアが微笑みながら気安い口調で父親に語り掛ける。

 「おとうさん、そのように畏まらないでください。陛下の御前ではありませんよ?私たちは旅をしてみなさんと触れ合い、困ったことなどをお聞きしながらより良いようにするように陛下より賜っております。

 さっきのようにされてはお話が聞けませんから、お気楽になさってくださいね。」

 それでもいきなり楽にもできないだろうから、一方的にこちらから話を誘導する。

 「先ほど祈祷と言われましたが、娘さんには確かに何かが憑き纏っておりますね。ヒントを頂ければお力になれるように思います。

 祈祷と言ってもただではないのでしょう?もし、私たちが役に立てばここで帰ることもできますよ。」

 「そんな!?本当にその様なことが可能なのですか?」

 まぁ、それは話を聞いてからだが、オカルトの分野は大概が人為的な仕込みの場合も多く、それに気が付いていない人たちがいいお客さんになっている場合が殆どだからな。

 「まずは経緯いきさつなど聞かせてもらっても宜しいでしょうか。」

 ここまでで母親の方が一度だけこちらを見た。信じられないという心の声が聞こえるような表情をしていたが、色々な祈祷師などに相談し、芳しくない結果が多かったのだろう。

 「昨年、15歳の誕生日を迎えたころより、娘の体に痣や瘤のような物が出来始めまして、医者に診せましても原因が分からず、成人しても嫁の貰い手が付きません。それからも瘤が増えてさらに日常の生活にも困る有様なのです。

 色々な伝手を頼っても見たのですが、お金を取られて治療も進まずと言った祈祷師ばかりで私の代で身代しんだいが傾きそうなのです。ほとほと困り果てておりましたところアズミノにあります金毘羅のお山にお力を持った先生がいらっしゃるとお聞きし、最後の頼みと縋るための旅をしているところでございます。」

 「良く判りました。私が試してみても構いませんか?お金などは必要ありませんので気楽になさってください。」

 「そ、そう言われましても・・・」

 ただの冒険者がいきなり言い出すことではないのはしょうがないことだ。

 「失礼。」とだけ言い、娘さんの様子を探る。この時、少しばかり聖魔法のヒーリングを発動しながら手をかざしてみたのだが、面白い反応を示す。

 娘は嫌がるように聖魔法の光から逃れようとするのだが、母親も同じように顔を背けようとしている。

 父親は俺の体が薄く光ったことでただならぬ気配を感じているようだ。大人しく俺のやることを見守るようにしている。

 俺の興味は娘ではなく母親に向いているのだが。

 今度は母親を鑑定眼で見てみる。取得スキルなどを確かめていると呪魔法を使用できるようだ。しかも現在も発動中だ。

 「お母さん、その魔法を一度止めてもらってもいいですか?」

 俺の言葉を聞いた母親は驚愕の表情で俺を見た。暴かれたことが信じられないという顔をしているのはしょうがないが、判ってしまったからには無視するわけにもいかない。

 「私の力で強制的に呪魔法をへし折ることもできますがどうしましょうか。」

 低い声で伝えると怯えるような表情と共に母親の行使する魔法が止まった。

 「どういうことですか?」

 「今はお伝えできません。もうしばらく待っていてください。」

 狼狽えて自分の妻を見る父親を置き去りにもう一度娘を見ると母親の魔法から解放されたことによって取り憑いている者が表面化しようとしている。

 「フィア、剣に聖魔法を載せておいてくれ。万が一の時には娘さんから出たモノを切ってもらう。」

 「判りました。少し待ってください。」

 俺たちの馬車へ駆けだしたフィアを見送り、娘の様子に注意を向け続けた。

 すでにみんなにも表面化し始めた邪悪な気配が見えるようになってきている。シロップやアニエスを護衛班の後ろに下がらせ、障壁の準備を始める。

 「お父さんは船主でしょうかね。」

 「どうしてそれを?」

 「憑いているのは宮比羅クビラを裏返して作った呪いのようです。宮比羅は水の守護を司る神で、船乗りが主に信仰する水運の神でしょう。裏返しは信仰を汚すことで買った怒りを呪詛として成立させたものです。

 お母さんが呪魔法を使用していたのは呪詛返しを行う事で宮比羅の呪を閉じ込めるためだったのでしょう。」

 これも母の愛なのかもしれないが、旦那にくらい相談すればよかったのにと思わずにはいられない。

 すでに時間が経ったことで相当に凝り固まった呪いとなっており、簡単には行かないだろうことが予想される。

 フィアが身長ほどもある大剣を白い光に包ませて準備が整った。

 「フィア、今から娘さんに付いているものを引っぺがす。俺は娘さんに別の憑き物が入らないように守らなければならないから、確実に剥がれた方を切ってくれ。」

 「任せてください。」

 剣が自由に振れる距離を確保し、どの方向にも飛び出せるようにつま先を立てている。

 俺は娘を取り囲むように巡らせていたヒーリングの力を飛躍的に増大させていく。

 俺の体はすでに白く光っており、それを見つめる両親の驚きに満ちた表情もその光を浴びて眩しく見える。

 ただのヒールを解呪に切り替え、根こそぎ掘り出すように娘の体に潜り込ませる。

 暴れるように苦しみだす娘だったが、それも僅かのこと。

 母親の魔力で、ある程度抑えられていたような憑き物など俺の聖魔法の前では業火に焼かれる藁のような物で、依代に留まっていては娘ごと焼かれるとでも思ったか大慌てで逃げようと娘の体から離れた。

 瞬時のことだった。

 ゾロリと表現するのが正しい、一目でワニと判る水性の魔物が娘の襟首から抜け出ると同時にどこへも向かう前にフィアに水平に叩き切られた。

 ナマス切りとでも言えばいいのかアゴから入った長大な刃は腹を割り、尻尾までを容赦なく上下に切り開いていった。

 聖の力を帯びた白い刃に分かたれたそれは轟然と音を立て真っ白な炎に包まれて僅か数秒で燃え尽きてしまった。

 俺もフィアも全く息も乱れていない。このくらいの短時間であれば全力でも良かったな。

 娘は気を失っており、仰向けに倒れ伏していたが駆け寄った母親が娘の体を検めていた。

 「ない!痣も瘤もありません!ああ、良かった。」

 娘の体を掻き抱き、嗚咽を漏らすように泣き始めた母親を娘ごと抱きしめて父親も号泣していた。

 暖かい家族愛を黙って見守り、落ち着くのを待つ間、フィアの頭を撫でてユイを抱っこして遊んでいると、髪を引っ張られている俺の足元に父親がしがみついてきた。

 頭が突っ張っているままに俯くと涙で見られない顔になった父親が感謝しているのか泣いているのかハッキリしないが、笑ってしまうほどに喚いている。

 「あ、ありごあえうtyfほあいえhf!」

 「ええ、良かったですね。これで大丈夫みたいですよ。」

 「ソウタさん、夜道をお返しするのは危険ではありませんか?」

 アニエスが言い出し、サチさんたちもやめた方がいいという。

 「私たちはソウタさんと休めばいいですし、空いたベットを使ってもらってはいかがでしょうか?」

 シロップがそう言ってくれたこともあり、俺たちの勧めで親子を泊めることにした。

 恐縮しながらも衰弱した娘を連れて帰る自信がなかったのだろう両親は何度も感謝の言葉をみんなに言いながら一つの部屋に寄り添うように入っていった。

 三人で寝られるのか?その狭い個室に。

 手を貸したついでにと、リジェネレーションで体力と魔力を全回復しておいたのでこれから余計なものが取り憑いたりもできまい。

 俺たちはいつものように仲良く5人で惰眠を貪り、少し早めに起床時間を迎えた。

 ユイが目を覚まし、フィアが起き、シロップとアニエスが俺を起こす。

 身支度を整えて馬車の表に出ると、両親に付き添われ娘も俺たちが起きるのを待っていたようだ。

 父親の方が進み出て、俺に臣下の礼を取ると母親と娘が両ひざをついて深く頭を垂れた。

 「ヤマノベ公爵様、昨夜より数々のお手数をおかけいただきまして感謝の言葉もありません。ご覧の通り娘もすっかり回復したようでございます。それで私ども、昨夜考えましたのですが、ヤマノベ様の奥様方に比べますと器量では劣るかもしれませんが、私の娘も端女としてでもお側に置いてやってはいただけませんでしょうか。」

 せっかく呪から解放されたというのになんでまたそんな選択をするかな。

 「お父さん、私たちは見返りを求めてやっているわけではありませんよ?長く不自由をされてようやくにもそのご苦労から解放されたのですよ。娘さんの奪われた時間を取り戻して差し上げてはいかがですか?」

 驚いた顔で俺たちを見る。

 「あの?お礼はいらないと?」

 「ええ。何もいりませんが?それでは困りますか?」

 「いえ、困るという事はございませんが本当に?」

 「朝食をご一緒しませんか?」

 横からフィアが口を挟む。

 「は?」

 面白い。鳩が豆鉄砲を食ったようで口が開いているよ。

 ウチのみんなが起きだしてきたようで、騒がしくなってきた。いつもの朝の始まりである。

 「ソウタ!またカッコつけてねぇでさっさと準備しねぇか。」

 「ほら、みんな叱られちゃいますよ。ご飯を食べに行きましょうか。」

 シロップやアニエスに促され、三人も訳が分からないと言った風にしていたが、立ち上がり俺たちと同じテーブルに向かった。

 互いの身の上を紹介したりしながら朝食を食べ、お互いが反対向きに進むことになるからと別れを告げるころになって三人はレネゲイドに驚いた。

 「な、なんですかこれは!?」

 「ああ、私たちの守護神とでも申しましょうか。夕べもこれが皆さんを発見してくれましたので、私たちは驚くことなくお迎えできたのです。」

 「マスター、私は歩哨に立っていただけです。報告は致しましたが、マスターは最初から驚いてはいらっしゃいませんでしたよ。」

 「しゃべりましたよ?」

 「ええ、それはもう。良くしゃべってくれますから寂しくはありません。」

 「マスター、いい加減な間違った情報は誤解を生みます。訂正を求めます。」

 「はははは、また叱られてしまいました。公爵になってから良く叱られるんですよ。ここに居るみんなは遠慮がありませんからね。」

 「はい。遠慮したことはないですね。」

 フィア、もうちょっと持ち上げてくれると嬉しかったんだがな。

 三人に手を振って別れを告げ、俺たちの馬車は北に向かって歩みを進めた。

 あの親子も家へ帰る足取りは軽そうだったし、良かったと思える。

 「ソウタさん、五人目のチャンスだったのになぜ断ったのですか?」

 「フィア、前にもいったが俺にはハーレム願望なんてないんだよ。そんな器用な事できる気がしないよ。」

 「あら?私たちはどうなってしまいますか?」

 「シロップもアニエスも俺の妻だろうに。頼むから変なことは言い出さないでくれ。」

 「ぷう。もっとソウタさんと楽しい話がしたいです。」

 俺はちっとも楽しくないよ。

 シロップの膨らんだ頬を両手で包んで空気を抜いてやった。

 それだけでホニャンとした表情になっているのがチョロイ。

 今日中に何事もなければノシリまで行けるだろうか。

 結構大きな湖もあるところだし、ほとりでキャンプできればこの好天だからこその夕焼けが拝めるかもしれない。

 そんなことを話しながら馬車を進める。

次回分ぐらいには20,000PVを超えてるかもしれません。

そうなった時にこその内容でお届けできますように、応援ください。

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