【第64話】己が責任と小太刀
いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。
お蔭さまで19,000PV越えです。20,000でシロップとアニエスの初夜なんか読みたくなりますよね?ね?
日本では3月ごろに当たるか?
朝晩は当然まだ寒いのだが、今日は放射冷却現象かとびきり寒く感じる。
雲一つない夜明けに眠そうな陽が上り、ようやく少しばかりの暖かさが地上に届き始めているようだ。
そうなると俺たちの布団の中は密度がいやが上にも高くなる。
俺の上にフィアが乗って、左隣にはシロップ。右隣にはアニエスが抱き付くようにくっついて休んでいる。我が子はどこにいるかと言うとフィアと俺の間に潜り込むように入り込み、ぬくぬくとしているようだ。
朝になると布団の中に入って丸まっているネコのようなものだろうか。
毎朝俺が一番最初に目覚め、シロップとアニエスが起きだして、最後にフィアを起きていなくても着替えさせるのが習慣になっていたのだが、ユイが頻繁におっぱいを欲しがり、そのたびにフィアが目を覚ますものだから、その都度に俺も目が覚める。
凄いなぁと思うのは布団から全く顔も出さずにフィアはどうやっているのか判らないがユイに乳をやり、ユイが眠るとフィアも眠る。俺がそれに感動を覚えていると寝そびれて毎朝に目が覚める順番が入れ替わろうとしているのだ。
フィアがユイと共に目覚め、シロップとアニエスが目を覚ます。周りが騒がしくなってようやく俺が目を覚ますという俺としては大変不本意な結果になっているのである。
「それはソウタさんがユイのおっぱいの度に起きて、私が寝てもまだ起きているからですよ。」
まあ言われる通りなのだが、そう言いつつ真っ先に目が開くフィアに本当の母親を見た気分だ。
小さいころの子供はそれこそ2時間おきくらいに授乳が必要だと聞いたことがあるが、全くその通りでどうしてフィアが寝不足になっていないのか不思議でしょうがない。
「お母さんですから。」
そう一言でくくられても全く納得がいかないのだが。夕べ何度起きたかをフィアは覚えていないという。もしかして無意識でユイにおっぱいを与えているのだろうか。
オートマチックに授乳できるとかロボットみたいだと言うと、「そんな訳ないじゃないですか。」と笑われてしまった。レネゲイドと比べてもね。
今朝もそうして不本意な朝を迎え、みんなに着替えを手伝ってもらいながら起床する。
特に昨夜は遅くまでみんなで出立の準備をしていたはずなのだが、それでも俺が最後に起床したことは遺憾の念を覚えずにはいられない。
いや、もしかするとフィアやシロップ、アニエスは遠足の日にだけ早起きするタイプかもしれない。と、言ってみたら全員から半眼で睨まれ、「ソウタさんがネボスケなだけです。」と言い切られてしまった。
クエストに出発する日は朝食の食堂でも少しばかりささやかなイベントが開かれている。
ここ最近のことだが、出かける日の朝はなんだかイクオ君の周りのメイド密度が高い傾向にあるのだ。
家令に付いていないメイドが屋敷にはアンニさんを除くと57名。
その中に新規採用のメイドさんが20名強いる。
今年19歳になるイクオ君は少し低い身長を気にしてはいるが、中性的な顔立ちと身長が幸いして同じような年齢の女子人気が異常に高い。
今朝もイクオ君の周りには15人以上のメイドさんが集まっており、着ている物や髪形に、旅の準備の忘れ物の確認など甲斐甲斐しく世話を焼こうとしている。中にはただ眺めるだけで幸せだと胸の前で両手を組み、ハート形になった目でイクオ君を愛でているメイドも数人おり、俺としては見ているだけでも結構楽しい。
俺がシロップやアニエスにチヤホヤされてもイクオ君の周りが騒がしいので、安心して甘えられる。格好のカモフラージュという訳だ。
実際、シロップやアニエスは俺の嫁なのでチヤホヤされようが構わないのだが、それを肴にしようという年長者もいるので俺的には歓迎できる。
メイドの中からイクオ君のお嫁さんが決まったってメデタイだけだし、ヤマノベ家としては何の問題もないからね。
唯一の問題と言えば元々のイクオ君付のメイドさんが面白くないという事だろうか。
ミリエムさん(18)とアーシェさん(19)は普段こそイクオ君にべったりとくっ付いているわけだが、旅に出る朝のたびに最近はこのような状態になるため、気が気ではないようだ。
二人ともイクオ君に対しては『側付き+恋愛感情』がアリアリで見ていても微笑ましいうえに年齢的におかしくもないので、どちらか或いは両方とくっ付いてくれても全く構わない。
当の本人はと言えば、所謂朴念仁と言う奴で、この状況を鬱陶しく感じている節もある。それなら態度を明確にしたらどうかとアドバイス的なことをしたこともあったのだが、暖簾に腕押しという芳しくない結果に終わった。
そもそもミリエムとアーシェの気持ちにさえ気づいていないのだから、もしかすると重度の障害を患っている可能性もある。
シロップやアニエスは二人のメイドに「積極性が足りない」と檄を飛ばしているらしいが、お前たちのように迫り来ると人によっては返って引いてしまうかもしれない。
遠回しに苦言を呈したつもりだったのに、「ソウタさんはお厭でしたか?」と問い詰められるとNoとしか答えられず、そうすると「やっぱりもっと推していかないと」となる。
大和じゃないんだから「大和型一番艦、ヤマト、推してまいります。」とか46センチ三連装砲に睨まれた駆逐艦だよ。
肉食系の俺の嫁ズはあまり参考にならず、草食系と言うより単一細胞による自家分裂増殖イクオ菌は、繁殖には多大なハードルを超えるための進化が強要されるらしい。
冗談はさておき、我が家のメイドさんたちと家令の皆様方の様子を探ると、ほぼ無罪と言うか、甲斐性なしというか。こんなに男衆がいるにも関わらず、良さそうな雰囲気になっているのはシゲさんとシノブさんぐらいだろうか。
二人を見ているとヘルパーさんが介護に来ているようにも見えなくもないが、実に仲睦じいのが驚きだ。
常に二人で協力しながら日常生活を送っており、もう一方の相方と言うべきサクラさんをほぼ、置いてきぼりにしているようだ。
サクラさん(28)も、才媛と謳われるいいところのお嬢さんらしいのだが、シノブさん(25)と比べると若干その出自を鼻にかけている節もある。
バツイチとはいえスタッフのリーダーを長く務めただけはあり、覇気のあるシゲさんとは波長が合うようで、聞こえてきた噂ではもう夜を共にする仲なのではないかという事だ。
実に結構である。
暴力的なあのオムネは大和型二番艦ムサシと言っても過言ではない。
一番艦ヤマトはうちの『シロップ+アニエス』だ。オムネのサイズではなく、その気性と言うか獣化した性欲の方だろう。
二番艦ムサシは正統なる巨峰だ。いや、巨砲だ。いくつあるのか知らないが、そのサイズは正に暴力だ。
俺の嫁たちは全員が美乳であり体格に応じた過不足ないサイズなのに対し、シノブさんはフィアが20センチ砲であるならば、フィアの身長と変わらない150センチサイズに弩級戦艦の46センチ二連装砲を装備している主力戦艦級だ。
フィアによると「あれは桃源郷です。」とのことだ。
巨乳絶対派ではないため、我が家の平和に影響はないが、シゲさんもやるものである。
その他はと見てみるとまだまだこれからのようで、メイドさんと良い関係を築いていって欲しいものである。
朝食の後、一時間もしたころには馬車の準備も整い俺たちは久しぶりのトサンにめがけて3両の馬車を繰り出した。
今回の俺たちの馬車は新しい相棒を得ての初めての旅となる。
ウィングと旦那のペアと比べてどうだろうか。
国道17号線を北上し、18号線を西進した後国道8号線に出て更に西に進むルートになる。
都合5日ほどの道程と目論んではいるが、山岳地帯の様子も見ておきたい。
本日は順調ながらもクマガヤかと思ったらクマタニまで進み、キャンプとなった。
小春日和のいい天気の中、邪魔するものもなく都心部から山間部へと景色が移り変わり、空気も美味しくなったような気がする。
新しい馬たちも我が家の馬番たちの完璧な教育によってとても人懐っこい、愛嬌のある馬たちだ。牝馬はユイが大好きで、牡の方は嫁たち全員が大好きな奴らだった。
ユイが牝馬に近づくと過保護なほどに自分の側に置きたがり、誰かが抱っこしてもその袖や裾を噛んで離そうとしない。
どうしてか俺だけが例外で、俺がユイを抱くと羨まし気な視線で眺めるだけに留まるのだ。
牡馬は嫁たちが近づくと必ず嫁の尻に長い顔を押し付ける。
馬の頭突きのようになり、嫁たちには不評のようである。面白いのはやはり俺には無条件服従のようで、俺が要るときは決して嫁の尻に触ろうとはしない。一度だけ条件反射のようにシロップの尻に鼻先を押し付けた時に前のめりに倒れたシロップを俺が受け止め、睨んでから俺とは目を合わせようとしなくなってしまった。それよりも変な汗を流すようになったのが気になる。
サクラ肉は嫌いではないが、今食べたいとは思ってないよ?
トウトを流れるアラカワの河川敷に広大な公園が整備されており、管理事務所に尋ねたところ芝を痛めなければどこでキャンプしてもいいと許可を貰った。正確には冒険者カードで無理矢理ねじ込んだ。こう言うところで公爵の立場を用いなければ俺自身使いどころがないから。ちょっと安い公爵の札だな。
みんなで夕食の準備を進めつつ、レネゲイドを召喚すると早速レネゲイドから報告があった。
「マスター、北東の方向より40名の集団がこちらに来ているようです。その行動パターンから盗賊の類と類推できます。」
「あらら、まだ夕食の準備もできてないのにな。フィア、シロップ、アニエス、ちょっと出かけてくるよ。」
「はい、でも無茶しないでくださいね。」
いい笑顔で三人が送り出してくれる。レネゲイドはここの護衛に置いていく事にして、二人(如月と俺)で盗賊の相手をするつもりだ。
〔あなた、一人で全部やっつけるつもりなの?〕
いや、あなたって。グッとくるじゃないか。
〔あらん、私の旦那様は意外に大人の色気もいける口なのね。フィアちゃんやシロップちゃんをみてるとそっちが好きなのかと思ってたわ。〕
どうしてアニエスを外したんだ?
〔あの子はどちらかと言うとお姫様って感じじゃない?〕
ほう?良く判るな。
〔うん。ベットでもスマートに愛されることに拘ってるじゃない?〕
はははは、本当に良く判ってるな。如月はいい女じゃないか。
〔あら、ようやく気付いたの?いつまでも私を成長させないときっと後悔するわよ。〕
おお!?この旅でどのくらい経験を積むことができるか真剣に頑張ってみるよ。
そうこう言ってるうちに敵さんの斥候に見つかっていたようで、弓隊に囲まれているらしい。
四方からボルトが迫り、障壁で防ごうとしたのだが、如月に止められる。
〔だめよ、切り伏せなければ経験にはならないわ。〕
言われるままに命中コースのボルトを集中的に切り飛ばし、叩き落とし、初撃を防いだ。
二手目は投擲によるクナイ。複数のボルトに紛れ死角から狙うように短い投擲用の刃が飛んでくる。
ニクイ演出なのは刀身が黒染めになっており、日の落ちた暗闇に上手く紛れ込ませている。俺がレベル10でなければ効果があったのかもしれないな。
夜でも光学増幅され、闇夜も昼間のように見える俺には全然意味がないが。
目視で一番端に居る盗賊を探し、脳内に浮かぶレーダー画面からマーキングしてテレポートしてやる。
不意に隣に現れた気配に一瞬、竦むように足を止めた盗賊に自白魔法を掛ける。
「フォーセスコンフェッシオン!」
ぐったりと倒れ込んだ男を引き起こすと意外に若い。年のころで言うと15歳に届いていないようだ。
「お前たちは何のために俺たちお襲おうとしている。」
「俺たちはこの領地で前の領主に仕えていたが、先のエイゾの領主交代で急にこの領地でも領主が変わったんだ。
家令として懸命にやっていたつもりだが領主のやっていた不正が発覚しておまんまの食い上げさ。
もう、旅の連中を襲うしかないんだよ。」
そうした連中がいるだろうことは判っていた。ごく一部の者たちが働いた不正によって摂り潰された貴族家も多々あったのだ。
そうした家令の中には疑いもせずにいた者たちもいたであろう。
しかし、知らなかったでは済まされないことがあることも事実。
こいつ本人が知る術はなかったかもしれないが、その親であったり兄であったりと言った年長者はその限りではなかったはずなのだ。
自白魔法を解除し、朦朧としている若い奴に強い口調で言って聞かせた。
「いいか、不正を働くものとは一人でやっていることは少ない。お前の歳ではその全部を知ることは不可能だろうが、近しい者の中には知っておりながらその事実に目をつぶっていたり加担していた者がいるのだ。
その不正で得た金は田畑を開き、熱い炉に向かい、宿で旅人を労わった者たちの得た対価だったのだぞ?僅か2%とはいえそれを供出した者たちに対し申し訳が立たないとは思わなかったのか。さらには旅人を襲い食べる物を得るだと?笑止千万だな。
俺にとってお前ら40人にはまるで生きる価値を感じないな。どうだ?お前ら全員で一度に死んで見るか。」
俺が自白魔法を掛けているうちに他の奴らも俺の存在に気が付いていたようで、包囲網が迅速に出来上がっていた。
それが判っていたので、他の者たちにも聞こえるように語って聞かせた。
しばらくの沈黙の後、ボルトが俺に向かって放たれた。
その者を視界にとらえ、テレポートで目の前に飛んでやると、驚愕の表情で俺を見る。
キン!と言う澄んだ音と共に如月を抜き放ち、まっすぐ垂直に唐竹割りを見舞った。
紫色の光を吸い込むようにその身に受けた男は、右足が利き足だったらしく、左半身から崩れて右半身に倒れ掛かるように頽れた。
「な!?なんだあの剣は?」
「魔剣だよ。如月と言う。お前たちの中に魔剣を使う者はいるか?普通の剣では受けることもできないぞ。」
言ってる側からボルトが来る。
それも如月を薙ぐことで上下に割って見せた。
「それとな、お前たちも夜目が聞くようだが、俺には昼間のように見えている。レベル10の冒険者を相手に一人として生きて帰れるなどと思うなよ。」
「うわぁあああああ!」
捨て鉢な剣戟だった。ひゅん!と言う風切り音が鳴ったと同時に上半身を置いて下半身だけが俺の横を通り過ぎて行った。数歩通り過ぎたところで内臓が腹圧で押し出され、それらをぶち撒けながらさらに数歩進み、倒れた。
寸止めした如月の上に上半身がバランスを保っていたが、見開かれた双眸にはもう何も映り込んではいなかった。
「ば、化け物だ!」そう叫んだ誰かが闇雲にボルトを放つ。恐怖の連鎖がそうさせるのか互いに討ちあうボルトに射抜かれ、相当の数の同士討ちが起こった。
〔あらあら、それじゃ経験値稼ぎにはならないわね。〕
あくまでも冷徹で愛おしい俺の女は次の得物を定めようとしている。
俺にもそれが判り、更には自分たちの責任を放り投げ、他人に当たり散らす輩を許す気持ちはなかったし、若かろうと幼かろうと関係はなかった。
すでにその身でもって幾人かの旅人を襲ったことだろう。良心の有無も関係ない。
今この場に居たからにはこれからもこんなことをするだろうし。
であれば俺の引いた引き金だ。責任を持ってこの刃で調伏するまでだろうさ。
狂乱状態の中、紫の軌跡で四肢が舞い、赤黒い光が敵の刃を跳ね返していた。
10分とかからず静寂が戻り、全員が輪廻の輪の中へと帰って行ったのだろう。
すぐそばの小川で顔や手足を洗い、上着もざぶざぶと水に漬けて返り血を洗い落とした。
血の臭いをつけたままでユイの側に帰りたくなかったからだ。
全く乾いていない上着を着なおし、歩いてみんなの元へと戻るとシロップとアニエスが俺の顔を見るなり抱き付いてきた。
フィアは優し気に微笑んだままユイを抱いて近づいて来て、俺の頬を撫でるようにした。
「ソウタさん、辛かったら言ってくださいね。」
そう言うと俺の頬にキスしてくれた。そんな難しい顔をしていただろうか。
腕の中で泣いている二人の頭を撫で、他のみんなにも事情を話した。そして俺自身の気持ちも伝えるとシゲさんにまた拳骨を落とされた。
「これからはサチなり、コウレイやタケヨシを連れて行け。何でも一人でやろうとするんじゃねぇ。」
それだけ言って俺を夕食の準備の整ったテーブルに無理矢理座らせた。
気を使わせたようで悪いと謝ると、フィアとユイに頭を撫でられた。まぁ、ユイのは髪を引っ張っているだけだろうがそれでも気が晴れた思いだ。
「ソウタ殿。我々がいつも正しいとは思いませんが、エイゾで行ったことは今のこの国を正しく導くためには間違ってはいなかった。いつか我々が追われ討たれる日が来るとしたら皆一緒に討たれましょう。ヴァルハラに逝ってから反省会をしようじゃありませんか。」
キヨシゲさんに言われるとそうかなと思わせられる。
素直な気持ちで「はい。」と返事をすることができた。それでこの一件は終わりと言うことになり、賑やかに食事が始まった。
明日の工程を確認し、出発時間なども申し合わせてからレネゲイドに歩哨を頼み、それぞれが寝床へと引き上げた。
俺たちの馬車に戻り、腰から如月を抜くといつもなら立てたまま刀剣類を仕舞っておく飾り棚に倒れないように飾るのだが、今夜に限って飾り棚に立てたとたんにキンという鞘から抜ける音と共に濡れた刀身が顕わになった。
「ど、どうしたんだ?」
「ソウタさん、どうしましたか?」
アニエスには如月が俺の背中に隠れて見えなかったようだが、鞘から抜ける音が聞こえたようだ。
「どうしたわけか如月が鞘から出たがっているようだ。」
「そんなことがあるのでしょうか。」
ヒョイと俺の背中に手を突き、如月を覗き込むように見ている。
「本当ですね。」
〔だって私ばかりここで見てるだけなのよ?〕
「「え?」」俺とアニエスの声が被る。
いま如月はハッキリと言葉を発した。
「誰ですか?」
シロップにも聞こえたようだ。フィアもユイもこっちを凝視している。
「みんなにも聞こえたのか?」
ベットの上の三人もユイを除いて頷いた。
飾り棚から鞘を持って如月を引き寄せる。アニエスに離れるように言って鞘から如月を抜いた。
〔今日は随分とたくさん切ったわ。みんなお風呂に入ったのでしょう?私も身を拭うくらいはして欲しいわね。〕
「ソウタさん、その剣はなぜ喋っているのですか?いつからソウタさんとおしゃべりしていたのですか。」
そんな厳しい目で見ないでいただきたい。別に浮気がばれたとかではないだろうに。
フィアの目は完全に浮気男の証拠を握った目だ。
〔あら、そんなの最初からよ。四番目の妻として旦那様の身を守るのが私の仕事よね。〕
「・・・」おい?
「ソウタさん、如月さんは四番目の妻と言いましたか?」
「・・・」イイマシタネ。
〔そうよぉ。よろしくねぇ。〕
「・・・」お願いだから黙っててくれないかな。
「如月さんのお世話が終わったらベットに上がってきてください。」
「・・・」こわひ。ベットがこんなに遠くに感じたのは初めてかもしれない。
吸湿性の高い紙で如月の刀身を拭い、薄く油を引いてもう一度紙で拭う。表面に防錆用にさらに薄く油を引いてまた乾拭きすると刀身に曇りのない艶が生まれた。
〔旦那様、ありがとう。気持ちよかったわ。〕
「ああ、それは良かった。今日は助かったよありがとうな。」
〔いいのよ、今日は随分と成長した気がするわね。また明日もがんばりましょう。〕
もう一度曇りのないことを確認してから鞘に仕舞うと今度は抜けることなく飾り棚に収まった。
刀の整備用の道具を片付け、ベットに戻ろうとするとシロップが自分の隣をパンパンと軽くたたいて早く来いと言う仕草をする。
「はい、お邪魔します。」
なんか本当に怖いのですが。
「ソウタさん、あの魔剣は何ですか?」
「如月と言う1000年前のアニエスの実家で作られた剣ですが。」
「そんなことは分かってます。どうして会話ができるのですかという事をお聞きしています。」
フィアさん、ちょっと怖すぎるのです。
「さぁ?最初に手にする前から話しかけてきていたんだが、みんなには聞こえなかったんだよ。俺がそう言ったらその時信じてくれた?」
「はい、ソウタさんが嘘をついているのは見たことが有りませんから。」
「ごめん、俺は自分の妄想かと最初は思ったくらいなんだよ。それで言いそびれてしまって今のようになってる。
魔剣と浮気とかそう言うんじゃないから誤解しないでほしいんだがな。
如月も四番目で良いというし、それじゃあ問題も無いかと後回しにしていたのは事実だ。本当に申し訳ない。」
三人の妻たちはお互いに顔を見合わせてからアニエスが代表して言葉をくれた。
「私の家に代々に渡って伝わっていた魔剣ですが、まさかソウタさんを主と認め、四番目の妻とか言い出すとかは思いもしませんでした。しかし、如月がそう言うのですからそれはそれで間違いないでしょう。
私たちもその言葉を聞きましたので、如月が四番目という事を認めようと思います。それで如月は妻としてソウタさんを守るのがお仕事という事でいいのですね?」
まぁ、本人がそう言うのだし、間違いないとは思う。
それでも少しばかりの疑念があることを口に出してみた。
「みんなの理解していることで間違いはないんだけど、もう一つ気になることが有ってね、今日のように如月を使うと如月の経験値が積み上げられるらしいんだ。
それで成長するから楽しみにしててって言われたんだよな。」
「楽しみですか?」
フィアが疑問を口にする。
シロップはもう一度如月に視線を送り、それから俺を見て首をかしげる。可愛い。
「いくら成長すると言っても魔剣が人に変わるとかないですよね?」
踏み込んだ意見をアニエスがくれるんだが、それは俺と同じことを考えているという事だ。
「人になれたらソウタさんの子を産むことができるんでしょうかね。そうでなければお嫁さんとは認める訳にはいきませんから。」
意外に厳しい意見をくれるのはフィアだ。
〔大丈夫よ。私が魔剣の成長レベルを超えた時にみんなと一緒になれるから。〕
「ほ、本当なの?」
シロップは自分の立場が脅かされるとでも思っているのか、驚愕の表情で魔剣と会話している。ちょっと摩訶不思議ワールドな二人だ。
如月はいつかみんなと同じになれると言った。
それは人として子を成せるという事なのだろうか?その子は剣なの?人なの?
「如月、お前が人になったとして俺は剣を失うのか?」
〔そんなわけないでしょう?あなたは私の主人で私を使って全ての敵を討つわ。あなたが私を妊娠させてくれれば日本刀の小太刀を得られるの。
それはあなたの娘でやはり、あなたを守るわ。家族で立ちはだかる全ての障害を断ち切ることができるようになるのよ。そこの三人を守るためにもそうしてほしいわね。」
鞘の中からなんとも不思議なことを言う。
人でなく、剣でもない。
しかし俺と子を成し、俺たちを守るために戦えるという。その子も俺たちの為に小太刀として役に立ってくれるという。
「なんでもいいじゃないですか。如月さんは今は魔剣の姿しか持ってませんが、ソウタさんのお嫁さんになって赤ん坊も産めるんでしょう?その子もソウタさんのためになるのであれば結局良かったんじゃないですか?」
なんだかシロップが真理めいたことを言ってる。
「じゃぁ、その時を楽しみにしておきましょう。」
「そうですね。でも家宝と言われた剣がこんなに饒舌で情熱的な性格だとは知りませんでした。」
フィアとアニエスももう、納得するしかないと諦めたようだ。
そうだよな、客観的に見ておかしな風にしか見えない。それでもコミュニケーションが成立するんだから仲間であるなら仲良くしてもらいたいものだ。
〔さぁ、相互理解も深まったところでシロップちゃんとアニエスちゃんに小太刀を産んでもらわないといけないわよ?〕
小太刀ばっかりできてもイヤなんですけど。
あ?横浜でフィアのチャイナ服買い忘れているんでした。
どこかでこの話を回収しないと。ほかにこぼしてきた話ってないですかね?




