【第62話】ユイ
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俺が醜態をさらした晩。
痛みから解放されたフィアは生まれたばかりの子を抱き、すでに母親の顔を見せていた。
よく「聖母のような」なんて言うらしいが、その言葉の意味が良く判る。首が座っていないどころかグンニャリとした赤ん坊を産着で包み、誰にも教わっていないだろうに、壊れそうな赤ん坊を上手に胸に抱きしめていた。
「ソウタさん。私、お母さんになれましたか?」
そう言ってさっきまで苦しんでいたのが嘘のように穏やかな表情を浮かべ、フィアは自分の産んだ子供を大切そうに抱っこしているのが俺にとっては不思議でしょうがない。
その子供はと言うと、ムニャムニャと小さな口を盛んに動かしながら独り言を言うようにしている。
二人を見ているのも非常に楽しく、飽きも来ないのだがいつまでもこのままではフィアの睡眠時間。というよりも体を休める暇もない。
隣の部屋で診察の後始末をしている看護師さんに言葉を掛け、「先生は?」と聞くともう自宅に引き上げたという。それじゃ、この後どうしたらいいか判らないというと、お母さんからお乳を頂いたら眠るでしょうと言われた。
いや、そうじゃなくて全体的に工程を知りたかったのだが、このままでは朝までフィアと俺たちの子を眺めていることになりそうだったから聞いたつもりだったのだが。
よくある新生児用のベットに寝かせたらフィアも休んでいいとか、俺としてはフィアを休ませるためにどうしたら良いのかを聞いたつもりだったのだが、あるがままが一番ですと言い切られてしまった。
なんか放り出されたような気分でフィアのベットに戻ると、フィアは自ら赤ん坊に自分の乳を飲ませていた。その姿を見ているのもまた心休まる光景ではあったのだが、俺の疑問は解消されはしなかった。
「ソウタさん。私、自分がこんな風に生れて来てそれから17年も経っていたんだと改めて知ることができたように思います。」
「うん?」
「ソウタさんが慌てたり、駆けまわったりするのをとっても温かく感じましたよ。私の両親もきっとこんな風に大騒ぎだったのかなって。
それが何だか有難かったり、楽しかったり。でも、産むときの辛さはとんでもなかったです。」
「俺もな、ずっと謝り続けていたよ。フィアがこんなに辛いなんて思わないじゃないか。余程悪いことをしたって何度も謝ったよ。でもな、産まれてみて判ったんだけどさ、お母さんてすごいよな?」
「それでは、私たちも失礼いたします。この度はおめでとうございます。」
それだけ言って看護師のみんなも引き上げて行った。
看護師の皆さんもこの国貴族の住まうエリアに自室を持っているそうで、玄関まで見送りに出ると歩いて帰って行ってしまった。
先生も男性の医師と、今回のような場合に備えて女性の医師が控えているそうだ。
それらの医療従事者は貴族街に入る際に厳重な審査を受け、数々の領地貴族や国貴族の縁故に保障されてようやくに貴族街へ勤務するのだという。
それほどまでにしても、貴族相手、その家令やメイドなどを診療し、治療するのは大変な立身出世につながるのだと聞いた。今回お世話になった女性の医師も歳は若くはないが、幾人もの貴族様たちの推薦を受けてここで勤務してからもう8年になるのだという事だ。
お妃様からも太鼓判を頂いていたので安心していたのだが、いざ出産となった時のあの落ち着きよう。
狼狽える俺だけがバカみたかった。
時計を見ると夜も完全に更けて針は2時半ごろを指している。
医師を呼んだのが10時半ごろで、赤ん坊が生まれたのは1時間ほど前だから、フィアは3時間も4時間も痛みに耐え、この赤子を産んでくれたのだと判る。
あ、日が変わっているという事は11月2日じゃないか。
「フィア。」
俺はフィアの隣に腰を下ろし、一心不乱に乳を吸う俺たちの子供に目を落としながら声を掛ける。
「はい?どうかしましたか。」
赤ん坊から目を離すことなくおっぱいが飲みやすいように頭を支えながら聞いてくれている。
「今日はフィアと俺たちの子の誕生日だ。二人が同じ誕生日だなんてなんだか不思議じゃないか?」
朗らかに、本当に優しそうな笑顔でもって答えてくれた。
「そう言えばそうですね。私とこの子は同じ日に誕生日を迎えるのですね。これって不思議です。毎年、毎年この子と私は一緒の日に誕生日を迎え、ソウタさんに祝ってもらえるのでしょう。この子にとってもいい日に出てきてくれました。ありがとう。」
感謝の言葉を我が子に伝えるフィアは、赤ん坊を抱いたまま俺に寄り掛かってきてくれた。
「フィア、18歳の誕生日おめでとう。それでな、俺を父親にしてくれて感謝しているよ。これから。俺たちはこれからだから、親子三人でまずはしっかりと生きていこうな。」
「はい、もちろんです。」
「それでな、もし良かったらなんだけど、今言うのも変だとは思うんだが、この子は一人っ子じゃない方がいいなと思うんだ。厭じゃなければで良いんだけどいつか妹を産んでくれるかな?」
クスクスとフィアが笑う。
「ソウタさんが必要と思うなら何人でも。またソウタさんに可愛がってもらうにはまだ少しかかりますが私、しっかり愛されてますからきっと、すぐにできますよ?」
「そ、そうだな。それにシロップやアニエスもお母さんになるかもしれないし、賑やかになるといいな。」
そうですね!と満面の笑みで相槌を打ってくれる。
「私ばっかりじゃなく、シロップちゃんもアニエスちゃんも可愛がってくださいよ?」
「俺の居た世界じゃ、愛する妻が三人もいるなんて犯罪だったんだがな。」
「そうなんですか?」
「ああ、重婚と言ってな、旦那一人に妻は一人と言う決め事があったんだ。よその国ではたくさんの奥さんが認められる国もあったんだが、俺の生まれた国は妻は一人と決まっていたんだよ。
戦のない世界だったから、男女比も割と安定していたし、そう習ってきていたから今の自分の状況がホントに信じられない時があるよ。」
それからもたくさんのことを話し合って、笑いながら、感心しながら様々なことを言ったり、聞いたりして過ごした。
ふと気が付くと赤ん坊はスヤスヤと気持ちよさそうに眠っており、フィアはマタニティードレスを直していた。
「私のオムネ、ソウタさんだけのモノじゃなくなっちゃいました。」
「うん。でも、こんな奪われ方だったらちょっとしか悔しくないよ?」
「ふふ、正直なんですね。もっと強がって”いいんだよ。”とか言われるかと思いました。」
「それはないな。これまでずっと俺のモノだったんだから暫く貸してやるだけだよ。元々は俺んだ!」
この瞬間が楽しくてしょうがない。二人ともそんな気分を共有し、笑いあった。
「それでソウタさん?この子の名前はどうしますか。」
「ユイだ。」
聞いたフィアは天井を見るようにしながら、語感を確かめている。
「ユイ=ヤマノベですか?フィア=ヤマノベと語感が似ています。狙って付けましたか?」
「そうじゃないけどな。」
「どんな意味があるんですか?」
「大した意味なんてないんだ。俺のいた世界で”むすぶ”と言う意味がある言葉にユイというのがあってね、文字にすると”結”と書くんだよ。人と人をつなぐ、自分と幸せをつなぐ。
周りに居る大切な人と自分を結ぶという意味を込めてみたんだ。どうかな?」
嬉しそうに頷き、コトンと俺の肩に自分の頭を預けてくれた。
「そんな大きな意味があったなんて素敵ですね。この子はユイと言います。生まれた時から色々な人を結びつけて、幸せをどこにも行かないように私たちと結んでくれそうです。良い名前をありがとうございます。」
あ!と、思いついたように俺の顔を見ながら思いついたことを聞かせてくれる。
「ソウタさん、長生きしてくれますか?」
どういうことだ?と疑問を表情に首をかしげて先を促す。
「この子、サキュバスなんです。お忘れかもしれませんが、私たちの手元で育てられるのは15歳の誕生日までですから、それまでにソウタさんが許せるような相手を見つけてあげなくちゃいけません。」
「ええ!?今それを言うのかよ。俺、そんなのムリだよ。」
「ふふふ、言ってることは分かりますが、ソウタさんではこの子に生きる糧を与えることはできませんから、イヤでも探してもらわなければなりません。
言っておきますけどシロップちゃんやアニエスちゃんに男の子が生まれてもソウタさんの子供じゃダメですからね。」
「フィア、俺を苦しめて楽しいか?」
「そんな訳ありません。でも、サキュバスと言うのはそう言う種族ですから、正しく理解していてくださいね。親の血筋では子を育てることはできないのが今までに確認されています。」
どんよりとした気分にさせられたよ。
まだ、俺たちの子が生まれて一日だって経っていないのに。
翌日からはたくさんの人達が見舞いだ、祝いだと引切り無しに訪れ、その対応だけでえらく大変になってしまった。
お妃様は陛下さえおいてきてしまい、フィアの側を占拠してしまっている。
フィアと楽し気に語り合っておられ、横になる失礼を許してほしいと先に申し出ておいたのだが、そんなことを気にするような仲ではありません。と言い切られてしまった。
少し歳は離れているのだが、お妃様にはフィアが無二の親友と言った風に思っておられるようで、そのフィアが生んだと言う子が可愛くてしょうがないのだと仰る。
お妃様ご自身には未だにお子が居られず、寂しい思いをしておいでなのだと伺ったことがある。
これは陛下から聞いたことで、陛下がお妃様と出会われたのも割と遅く、当時34歳の陛下に22歳のお妃様を紹介されたのもユンカーさんだったという事だった。
惹かれあうように互いの距離を縮めて、その翌年には婚姻となったそうであるが、それから8年、未だにご懐妊の知らせはないのだという。
そうなると紹介した手前、ユンカーさんの立場も非常に辛く、陛下が重用しておられることで辛うじて首もつながっているが、世継ぎを望む声からお妃様も度々は辛い目に遭われているらしいのだ。
そうしたことがお妃様の負担にならないようにと陛下も心を砕いておられるのだが、一昨年には陛下の弟君が謀殺により命を散らされ、更に世継ぎをと望むプレッシャーが重いものとなっているのだという。
陛下の弟君に付いてだが、いままで良く知らなかった。
俺たちのように世をめぐる中で陛下の目となり、耳となっていたが何かで亡くなったとしか聞いていなかった。
陛下より四つお若い弟君は万が一にも世継ぎができてしまわないようにと嫁を取ることもせずに、執政の舞台にも立たず、あくまでも陛下の耳であり、目であることに勤められたという。
陛下御自身は弟君にいつ嫁が付いてもいいようにといま俺たちが暮らしている屋敷を建てたそうである。結果、弟君に子ができれば今の座を譲ってもいいとさえ考えていたそうだ。
それでお妃様もプレッシャーから逃れられると。
二人で慎ましく暮らすのでも良かったと仰られていた。
そのお言葉からわかるように、お妃様に深い愛情を抱いておられることが判る。
それでも弟君は嫁を取ろうとはしなかったそうだ。諸国を走り回り、各地で地元に暮らす人たちと距離を詰め、正しい治世が行われていることを確認して回っていたそうだ。
6年が経ったころから報告に上がってくる情報の中に大規模な謀反の可能性を捕まえたことが記されるようになったと言う。
その核心を得るためにと危ない橋をも渡っているらしく、陛下も気がかりではあったそうだ。しかし、正確を期するためにと報告の中にはどこの貴族が対象になっているかを記載してこなかった。
事が事だけに冤罪を産むと取り返しがつかないというのもあるからだろうが、それが仇となってしまったらしい。
物言わぬ遺体となって館に戻った弟君はどこで誰に殺められたのかもわからなかった。
自室を検められたが、調査に関する資料も残されてはいなかったという事だった。
これについては今にして思えばナッサウ家の手の者によって回収されてしまっていたのだろうとわかる。
それからの暫くはお妃様は床に伏せられ、俺たちが叙任される少し前にようやく公の場に出てこられるようになったのだと言う。
ご婚礼から数年は子を望むような声は大きくはなかったと言うが、4年経ち5年経つとそうも言ってはいられないようになり、医師を呼んだりしたそうだ。
それでも良い報告が聞かれることはなく、お妃様も30歳を迎えられている昨今では養子をと望む声も出始めているらしい。
こうした内向きの事情を知ると色々なことが大変だなと同情を禁じ得ない。
まだ早いと思っていたフィアにはあっさりと子供が授かってしまって、お妃様を見る目も俺の中では自然と哀れみが混じることを禁じることができないでいた。
ただ、フィアの子を抱く姿を見る限りはやはり聖母のようであり、自らの子が欲しくないわけはないだろう。
昼頃までいらしたお妃様はフィアと話す時間を惜しむように帰って行かれたが、あの調子だとまたやって来そうな感じだった。
「フィア、お妃様とずっと話していたが、疲れたりしていないか。」
「はい、それは大丈夫ですがユイを見て随分と羨ましがっておいででした。自分には子ができないので城に居るのが辛い時もあると仰っておられ、なんだかお可哀想でした。
ソウタさんの力で何とかすることはできませんか?」
「おいおい、それは無茶な話だよ。魔法でそんな都合のいい様な・・・?」
魔法じゃなくてもいいのかな。
「ちょっと、城に行ってくる。陛下に相談してみるよ。」
「やっぱり私のソウタさんです。行ってらしてください。」
明るい表情でニコニコと微笑んでくれる。
登城し、控えの間で陛下とユンカーさんの三人で見えた。
「ヤマノベ公爵、此度は真にめでたいことで良かった。アマーリエが迷惑を掛けてはいないだろうか。」
「そのことでご相談に上がりました。しかし、ちょっと憚られる内容でして、このように人払いしていただいております。」
「うむ。迷惑をかけておるようであれば控えさせるが?」
「いえ、そうではありません。まだ動けないフィアの話し相手になっていただき、お越しになる件については感謝しております。」
「では?」
「お気を悪くなさらないでいただきたいのですが、この場にユンカーさんもお呼びしたのはお妃様の出自に付いてとお体の具合に付いて伺うためです。」
「私に伺いたいこととは?」
「陛下、このまま話を進めて構いませんか?できればお世継ぎが授かりますように話を持っていきたいのですが、不愉快なようであればお勧めは致しません。」
「いや、構わん。アマーリエがフィア殿に心の内を吐露しているのであればもう、そなたは私たちにとっても他人ではないかもしれん。ユンカーにとっても良い話であれば私も助かると言うモノだ。」
「では、ユンカーさん、お妃様はその系譜に不妊でお悩みの方はいらっしゃったでしょうか。」
「いえ、生家とその系譜でそのような者はおりませんでした。ですから陛下にご紹介もできたのです。ロイス家は多産系とは申しませんが、今でも伯爵家としてトウトの領地貴族としてゆるぎない地位を守っております。
アマーリエ様は当代伯爵の二女としてお生まれになっておられ、長女も三女も嫁ぎ先で幾人もの子をもうけていらっしゃいます。」
「次にこの城に今現在ナッサウ家と関わりのある者はいますでしょうか。」
「それは世からはなそう。今現在このセントラルキャッスルにはその係累と関わりのある傍流も含めて一切の関係者はおらぬ。廃嫡を決めた段階で後ろ盾のない者たちを継続して城に入れるわけにはいかぬのでな。それが?」
「いえ、現在は安心できるようですが、厨子や食材に触れる機会がある者たちにその係累が携わっているとすると良からぬ物が口に入る可能性もあるので、聞いたまでです。」
「毒が混じっている食事を続けたという事か?」
「毒ではないでしょう。お子が授かりにくいように食事で調整することもできるのでそうしたものを積極的に食事に出していたかもしれません。」
「それより、私が男として欠陥があるという事は考えられないかな?もう、アマーリエだけに責任を負わせるようなことはしたくないのだが。」
「陛下のお気持ちは分かります。あと一手お願いしたいと思います。これには詳細に体温を測る必要があるのですが、可能でしょうか?」
基礎体温を測り続けることでお妃様が妊娠しやすい日を特定する方法について説明する。これには僅かの体温の上下を測ることができる敏感な体温計が必要になる。
「ツクバで微小な温度変化を記録する装置を用いて実験を行っている研究室があったと記憶しています。問い合わせてみましょう。」
今回の件についてはユンカーさんも真剣だ。
「陛下、当然ではありますが、お妃様の協力も必要不可欠です。また、周辺から余計なプレッシャーがないように保護していただく必要もございます。
私が提案しますのは陛下さえよろしければ我が家にお妃様がおいでになり、こうした手立ての中で陛下と愛を育んでいただく方がよろしいのではないかと思っております。
フィアもおりますからお妃様が寂しくされることもありませんし、陛下にはご足労をお掛けしますが毎日お顔を見せていただければ心強くあられることと思います。
ひとつ、真剣に取り組んでみませんか?」
「公爵、なぜそこまでしてくれようとしておるのだ?」
「私もそれが知りとうございます。私共にばかり益がございますが、公爵にはご面倒ばかりではありませんか?」
まぁ、ただこれだけの手間を取る必要と言うのは実利的には何もない。
おかしな話であろうとは自分でもわかってる。それでも今日いらしたお妃様を見てしまうとね。
「フィアに頼まれました。俺の力でならばなんとかなるのではないかと。そんな都合のよい魔法はありませんし、最初は難しいだろうと思っていたのですが、向こうの世界でも子供が授からずに長く苦しむ人は多く居ましたし、治療による方法も確立されつつはありましたが、この世界では難しすぎます。
しかし、民間療法では少しでも可能性を上げる手段がたくさんありましたし、これならばこの世界でも挑戦する価値はあると思うのです。
そして何よりやってみようと思わせたのはフィアと俺の子を抱くお妃様を見たからです。
お妃様は慈愛に満ちた表情で私たちの子を随分と長くお抱きになっていらっしゃったのです。陛下もあのお姿をご覧になっていらっしゃればためらうことは無いでしょう。」
控室の中が静寂に包まれた。
それからどれだけの時間が過ぎたことだろうか、陛下はソファーから立ち上がり俺の前に歩み寄ってきた。
「ヤマノベ公爵、こんなことをお願いするのはどれだけおかしなことかは知れないが、アマーリエをよろしく頼む。必要なものはユンカーを通して手配してくれ。
幾ら掛かってもいい。どうか私たちの為によろしく頼む。この通りだ。」
ユンカーさんと俺は深く驚いた。
陛下が俺の前で土下座をされたのだ。
俺はその手を取り、陛下を起こす。
「なりません。人の目がないところでもそれはなりません。まして私が言い出したことです。」
「しかし・・・」
「陛下、お互い愛した女には頭が上がりませんよね。全てをなげうってもどうにかしたいとお思いのそのお気持ち、私にも良く理解できます。ですから上手くいくまでお気を確かにお持ちになって下さい。」
「そうだな。私にはアマーリエさえ幸せでいてくれたらいいという本音と、この国を背負う責務があり、どちらもを選び取ることができずにいたかもしれない。
毎日お邪魔して構わないのか?」
「毎日僅かの時間で構いません、必ずいらしてください。それがお妃様の心の支えになりますから。」
その日の晩、屋敷に戻った俺は屋敷の全員を食堂に集め、城で話し合ったことをその場で聞かせた。
最初はどうしてそのような面倒事をしようとするのかという意見もあった。
受け入れ態勢を組んで、ケアしながら上手くいくかもわからないことを俺の責任で始めるのだから、リスクも多分にある。
ただ、フィアと思い付きで始めたような物だが城を取り巻く情勢や陛下を始めとした一部の方の立たされている現状を思うに、今後いまの体制を維持するためにも手をこまねくことが良くないことだと知ってもらうしかなかった。
そこに俺たちの子を抱いたフィアが入って来て、みんなに頭を下げた。
「私、皆さんのおかげでこうして幸せの中にいます。でも、お妃様は城に居てひと時の安心を得ることもできずに気遣いを続けてばかりなんです。
それじゃ子供なんてできるはずもありません。
この子はソウタさんによってユイと名付けてもらいました。日本では結ぶという意味があるそうです。人を結び、幸せを結ぶんだそうです。
お妃様と陛下が結びつきを強くされ、お子が授かれば私たちの世代は今の陛下に守られ、ソウタさんがお館様として、公爵として私たちの暮らしを守って下さいます。
次の世代にも希望がつながっていくんです。
みなさん、手伝ってください。よろしくお願いします。」
ダアダアと何が楽しいのか、ユイはフィアの髪を引っ張って喜んでいる。
俺もフィアの隣に並び、みんなに頭を下げた。
その時、ユイは何を思ったのか俺の髪も引っ張り、キャッキャと騒ぎ始めた。
それを見たメイドたちは互いに何ができるか相談を始め、どこの部屋を使っていただくか、食事は?陛下がいらしたときにはと次々と対応や役割を決め始めた。
「お館様、それは私たちの暮らしを守ることになるんですよね。」
「あ?ああ、その通りだよ。」
質問したメイドはサムズアップして答えた。
別のメイドは「じゃあ、任しといてよ。」と答えてくれた。
フィアと共にユイに背中を押してもらったような気がする。
ユイはまだ俺の髪だけ引っ張っている。
翌日、お妃様が長期滞在を目的として我が家にやってこられた。
やったことと言えば規則正しい生活を送らせること、決まった時間に体温を測ること。
楽しく過ごすこと。
陛下と毎日キスをすること。
陛下に出した合図で愛し合ってもらうこと。
それだけだ。日中はフィアやメイドたちと楽しく過ごしていたし、俺の作る食事なども喜んで食べてくれた。
そして僅か3か月後にお妃様にもコウノトリがやって来たらしく、我が屋敷でささやかなパーティーが行われた。
パーティーの最中にいらした陛下が我が家のメイドたちにおめでとうコールされ、キョトンとした表情の後、「アマーリエ!愛してる―――」と叫んだのはヤマノベ家だけの秘密だ。
屋敷の入り口でユンカーさんが号泣していたのはアンニさんだけの秘密だろう。
投稿ペースが週一くらいになりそうです。
毎年2月は結構仕事が忙しくて、大変です。でも、週一以上には空けませんからと、自分にプレッシャー掛けときます。




