【第60話】変調
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
たくさんの方の目に留まるようになり、励みになります。
セイシンから船に揺られ4時間弱の船旅となる。
まだ肌に突き刺さるような風が強く頬に当たるが、晴天に恵まれているので俺たちはデッキに出ている。
フィアとシロップは俺を風よけにしており、アニエスは俺の左腕に絡みついているのだが、左腕が幸せなことになっている。
二人を背中にくっつけ、左腕が柔らかいアニエスのオムネでフヨフヨとした感触を楽しんでいるのだが、背中も少しだけフヨフヨして幸せだ。
なんか、結果的に俺だけが温かい。
セイシンでフェリーに乗る10日前、陛下より呼び出され、フィアと共にセントラルキャッスルへ伺うと、封蝋で閉じられた親書をお預かりした。
エイゾの陸軍あての親書で、陸軍幕僚長というお方へのメッセージだという事だった。
陸幕長と言う呼称は現代の陸上自衛隊でも同じだなと思いながらも、中身について聞くわけにもいかず、カニとウニの話題になった。
「今回の旅でもカニとウニはご所望でしょうか?」
もちろん多分に嫌味を含んだものであったが、陛下はそれをお断りになられた。
「いや、先に十分に頂いたので今回はそのような気遣いは無用です。新婚旅行のつもりでエイゾへの旅を楽しんでいただければよろしいでしょう。
旅の資金は十分に用意しておきましたので、色々と見聞を広めてきてください。」
なんか優しくされると裏があるような気がして鵜呑みにできないのは俺自身が卑しいからなのだろうかと勘ぐってしまう。
隣のフィアを見るとやはり疑っているようで、不信感に溢れた目で陛下を見ている。
「お、奥方様?その目で見るのはおやめいただけますか?私が悪いことをしているような気分になるのですが。」
「申し訳ございません。思うところがある訳ではありません。ただ、額面通りに受け取ることが何やら損をしてしまうような気がしただけなのです。」
「いえ、ですからそれが私に対する不信につながっているのではと申し上げているのですが。」
「いえいえ、その様なことは決して思っていても口には出しません。」
「・・・ヤマノベ公爵殿、奥方様はかなり被害妄想がお強いようです。助けてはくださいませんか。」
「フィア、親王陛下はご厚意で簡単な仕事をお任せくださったんだよ。万が一にも面倒事になるハズがないじゃないか。その様な時には必ず前もってお教えくださるよ。
何もおっしゃらないのだから、親書を届けて私たちは美味しい物をエイゾで堪能するのが仕事のはずだ。
今までに親王陛下が私たちに内緒で面倒事を持ってくるなんてことが一度でもあったかい?そう、ないだろう。ある筈がないよな、この国の陛下がまさか親書に面倒事をしたためてそれを本人に持たせて飛んで火にいる夏の虫なんてことはないから安心するといいよ。
そうですよね陛下?」
「・・・・・・公爵らがいかように私のことを思っておいでか良く判ったよ。」
「何を仰いますか、これほどにお慕い申し上げているというのに心外です。なぁ、フィア?」
「はい、陛下のお言葉はいつも信用しておりますので、ご安心ください。たとえ毎回裏切られてもそれは単なる偶然で私どもの不徳が招いたことだと考えております。」
「・・・・・・泣いてもいいかな?」
フィア、後でいっぱい撫でてあげよう。
「陛下、冗談はこのくらいにいたしまして、この親書、本当に厄介ごとでは?」
「ヤマノベ公爵、その親書を開封してくれないか。」
まさかやっぱりという事か!?
「よろしいので?」
「ああ、構わないよ。やっぱり家臣に内緒で用向きをお願いするのはフェアじゃないようだ。いずれ本当に信用を失いかねないからな。そうなったら私はもう、取り戻すことのできない大事なものを失ってしまうような気がするのでな。」
そう言い、俺から親書を受け取り、本当に封蝋を剥がしてしまわれた。
一通の書簡を取り出し、俺に広げて見せてくれた。
ちょっとやりすぎたかな?と思わないでもなかったのだが、この仰り様はやはり面倒事だったらしい。
拝見させていただいた書簡には次のように書かれていた。
クラウス・フォン・ビューロー公爵
この親書を携えし者はソウタ=ヤマノベ公爵である。
ヤマノベ公爵は空軍総司令および海軍司令長官の最も信の厚い貴族であり、私がその技量に惚れこみ公爵を受けていただいた誉れある者である。
空軍においては龍騎兵と心を通じ合わせ、海軍においては数々なる新機軸をもたらし、アイアメリカを跳ね除けて見せた。
この国を取り巻く海洋に於いて堅い守りの盾と何物をも打ち破る矛を齎してくれた。
列強各国をおよそ20年引き離した海洋戦略は今後とも揺るぎのない我が国の繁栄を約束してくれるだろう。
敵の飛龍1600を一撃で消滅せしめた。信じられようか、アイアメリカの国力も侮るべきではないがヤマノベ公爵のもたらした科学に裏付けられた力は、戦艦の号砲一発で1600の飛龍を討つのではなく消滅させてしまったのだ。
この力を持って、アイアメリカを追い払い和睦まで結ばせてくれたのだ。
不可侵条約が締結され、一方的に蹂躙されるはずだった我が国は完全優位の上でアイアメリカに謝罪させ、神国へ近づかないことを約束させることができたのだ。
陸軍にも配備されておろうが昂暉も侯爵が開発したものだし、聖銀の巨人を駆りクノエの地を平定せしめたことも大きな功績と言えるだろう。
この者をもってすれば陸軍も今よりさらに一つ抜きんでた進化を遂げられようぞ。
エイゾの地にありローレシアからの脅威に睨みを利かせる卿らにとってより良い物がもたらされることは約束できる。よく相談し、色々と学ばせてもらうのが良いだろう。
若いからと侮るではないぞ。
公爵らの慧眼はそこらの幕僚では遠く及ばん。真摯に本気で取り組んでくれることを期待する。
また、最大限の便宜を図ってやってほしい。なにしろ新婚なのでな。
これが所謂「褒め殺し」と言う奴だな。
その昔のサラリーマンがこれで使い潰されたという話を聞いた覚えがある。
ブラック企業とは最近の流行で名前が付いただけで、元々陛下のようにナチュラルに無体を強いるような人たちが管理職になったりするから使われる者が倒れてしまうのだろう。
いつか、意趣返しが必要だろうと心に誓い、メモしておこう。
「これを拝見しますに、エイゾの陸軍はローレシアからの侵略を防衛するに苦労しておられるのですか?」
俺の隣で書簡を読み込んでいるフィアが可愛いが、陛下の御前で撫でるわけにもいかず我慢がしんどいな。
「どうやらその様である。ビューロー公爵は勇猛果敢で知られる名将であるが、ローレシアの陸軍機動部隊にカラフトで辛酸をなめさせられ、南カラフトから一時撤退を余儀なくされておるのだ。我が国の領土が侵略されたままになっており、ビューロー公爵は辛い立場におられるのだ。
ヤマノベ公爵殿、彼の地へと赴き、ビューロー公爵の助けとなってやってはくれまいか?」
そう言った陛下は俺たちに向かって深く頭を垂れられた。
そう言う事ならばなんとかお役に立ちたい。
樺太が神国の領土であったとは知らなかったが、この世界では樺太の南側は神国の領土であるというのなら、取り戻したいであろう。
「親王陛下、謹んでご下命の件お受けいたします。」
「おお?そうか、またも迷惑をかけるがどうかよろしくお願いする。」
「最初からそのように仰っていただければ断りもしませんのに。」
バツの悪そうな陛下も面白いものだが、面倒事は面倒だと最初から言ってほしいものだ。
そして今俺たちは青函フェリーの上に居るという訳だ。
さすがにこれ以上は風に当たっていられないと船室に戻ることにしたんだが、他のメンバーが見当たらないことに気づいた。
さっきまでは確かにめいめいに水平線を眺めたり水面に飛ぶイルカを楽しんだりしていたはずなのだが。
震えながら船室に引き上げると雑魚寝の二等船室にみんな戻ってきていた。
長旅でもないのでこうして一つ所に集まって旅費の節約をしているのだ。が、一人足りない。
「ハルシゲさんは?」
「おやかたさまぁ、それ聞いちゃう?」
ああ、トイレで死んでるのか。
クノエから駆逐艦で渡るほんの僅かの時間もトイレに居たものな。
船酔いは乗ってる間中続くし、降りてもしばらくは目が回るから可哀想なことをしてしまったな。
何故船に乗ったかと言うと、例のトンネルを使うとまたフィアと俺が凹んでしまうからなんだが、船に乗るとハルシゲさんが凹んでしまうというこのジレンマはエイゾとの相性の悪さとしか言えないかもしれないね。
「そっとしておいてあげましょう。辛い思いをさせちゃいましたね。」
「いや、そりゃそうかも知れねぇがトンネルであれだけ消耗するとなると、イザというときが怖いからな。こっちの方がいいだろうさ。」
「僕たちには判りませんが、可哀想ですね。」
イクオ君はこのくらいの船旅は平気らしい。
どうにかハコタチに着いたころには日も傾き始め、やはりエイゾの肌寒さは格別だと思わせる。
目的地はキョクセンと言い、フダホロよりさらに北へと進まなければならない。
日本では旭川駐屯地があるところだと予想していたのだが、地図で見る限り間違いないようだ。
今日はハルシゲさんの回復を待つためにハコタチで一泊するつもりだったので、夜景の楽しめる宿を訪れた。
宿で出迎えてくれたご主人が「ギャー」と叫んだのは解せないが、挨拶だけはしとかないとと「また来ちゃった。」と頭を掻きながら言ってみた。
「公爵様、次は秋にお越しになるのでは?まだ春にもなっておりませんが?」
「だって用事があったんだもの、仕方ないじゃないですか。一晩泊めてください!」
日の暮れる前に宿に入り、ハルシゲさんには早速風呂に入ってもらった。
どうやら人心地着いて復活したようで「はらへった~」などと元気な様子だ。
俺たちもみんな風呂に入り十分に温まったところで夕食となった。
「本当にうちなんかで召し上がるので?」
何度も訪ねる者だから、酒瓶を取り出しニマッと笑ってみせる。
ご主人はフルフルと左右に顔を小刻みに揺らしながら厨房へと逃げていってしまった。
せっかく、ほろ酔いまでで止めておこうと思ったのに。
出された夕食は石狩鍋で、味噌仕立ての昆布と魚の骨やアラで出汁を取ったスープに豆腐や野菜がふんだんに煮込まれて食べ応えのある漁師鍋だった。
山椒の実を挽いたものを掛けて食べるのが美味しかった。
三人に一つの鍋が用意され、それぞれに鍋をつついて楽しんだ。俺の鍋だけ四人でつついたが、それはまあデフォルトの仕様だから。
イクオ君とハルシゲさんの二人で一つの鍋を完食し、わんこ蕎麦以来の健啖家ぶりを発揮していたようだ。俺たちは食材を追加してもらい四人でお腹いっぱいになることができた。
最後に雑炊が食べたくてご飯と卵を追加させてもらったが、みんなも美味しそうに見えたのか最後に同じようにして締めを味わっていた。
本当にエイゾって何を食べても食べ過ぎてしまう。
また、四組の布団のうち一組だけが散々に乱れた状態になり翌朝を迎えた。
「今度こそ秋に来ますね。」
フィアにそう挨拶された主人は丁寧なお辞儀をして送り出してくれた。
馬車はゆるゆると進み、今日のうちにフダホロを超えることができた。先に来たときはここで藻岩山を吹き飛ばしたような気がしたが、あまり見ないようにしていたのに、後ろの馬車から感嘆の声が聞こえてきた。
「うぉー山が一個なくなってるよ。って、その向こうもなくなってるんじゃないか?」
タケヨシさん忘れようとしていることを言わないで。
反対側の景色を見ながら通り過ぎるしかなかった。
この日は石狩川が海に向かって北に折れる場所、エベツでキャンプを張った。
毎夜、特別に冷え込む日が続き、シロップもアニエスも毎晩俺たちと一緒に布団にくるまりにやって来る。
全方位が幸せで俺なんか毎晩暖かいのだが、みんなに聞いても寄り添う温かさが良くてやめられないという。
このぐらいの子たちはみんな俺より少し体温が高くて、俺だけが恩恵を享受しているような気がしてならないのだが、四人も布団に入ればポカポカとやはり暖かい。
次の日は曇天でより寒さが厳しかった。
生活車両の厨房で調理した朝ごはんを横にあるダイニングで頂いたが、15人いるとさすがに容量ギリギリかなと思う。元々この車両は15人乗りとして設計されているが天気が悪くて中で過ごすとなると少し狭いようだ。
空き部屋はあるものの、この旅団はやはりこの人数が適性値なのかもしれないと思う。
誰かに嫁や婿が付いたらもう一両この生活車両が必要になりそうだ。まぁ、そうなったら資材車両の中にあるレネゲイドのパーツなんかは次元断層に全部仕舞うといいかもしれない。
寒い中、御者席を引いたのはイクオ君とキヨシゲさんだ。俺の馬車は俺が御者で決まってるから頑張ってもらうしかないな。
幸いに雨や雪が降っていないので寒いのだけ我慢すれば何とかなる。夕方に熱い風呂に入れると信じてひた走った。
トツガワまで来たところで日が沈むころとなり、石狩川の支流になる空知川の公園のような場所にキャンプした。
三人で風呂に飛び込み、疲れを取る。
冷えてしまった体を温め、その間に作ってもらった夕食を頂いた。
たくさんの野菜を煮込んだ鍋はこの時期にこの場所で食べるのがやっぱりいいかもしれない。
「フィア、体の調子でも悪いのか?あまり食べてないみたいだけど。」
「そう言う訳ではないのですが、少し食欲がないみたいです。でも大丈夫です。こっちの食事は本来の食事ではありませんから。」
「ああ、そうならいいんだけどちょっとでもおかしかったら言うんだぞ。」
「はい。判ってます。」
それからシロップとアニエスと三人で風呂に入りに行ったが、アニエスが慌てて帰ってきた。
「ソウタさん、大変です!フィアちゃんがお風呂で倒れました。」
「は?フィアは大丈夫なのか!」
アニエスを置き去りにして風呂に走るとチズルさんとアオイさんが介抱してくれている。
シロップも動揺しているようでオロオロとするばかりだ。
「フィア!」
「ああ、お館様。ちょっと湯あたりしたみたいね。大丈夫よ怪我もしてないし。」
アオイさんの見立てでそう心配はないらしい。
「シロップ、お前も着替えて。風邪をひいてしまう。」
タオルだけで狼狽えていたシロップにも指示を出し、その後に馬車に来てくれるようにお願いした。
フィアには俺が服を着せ、抱いたまま馬車へと戻った。
意識はあるようだが虚ろな表情をしている。
部屋に運び入れ、アニエスに手伝ってもらって夜着に着替えさせた。それから布団に入れ脈や体温を確かめる。
脈はまだ速いが特別異常と言うほどでもない。体温も風呂上がりだから少し高めだが風邪をひいたようでもないようだ。何だかわからないが大事はないようだった。
「フィアちゃんどうしたんでしょうか。湯船で急に気分が悪くなったんです。」
風呂の片づけをしてきたというシロップにも礼を言い、シロップとアニエスも布団に入らせた。
俺は椅子をベットに寄せ、フィアの様子を見る。
今夜はシロップを真ん中に、向こう側にアニエスを寝かせ、こちらにフィアを寝かせた。
もう一度体温を確かめたが、正常に戻っていると思う。脈も正常な範囲内だろう。
こんな小さな体だったのかと改めてフィアを見ると思わされてしまう。細い首筋、細い肩。
こんなだったかと思わせるほどに小さな掌。
「ソウタさん、休まなくていいのですか。」
アニエスの声だ。
「やっぱりフィアちゃんが心配ですよね。」
シロップも起きているようだ。
「これがアニエスでもシロップでも一緒だ。俺の大事な嫁に何かあれば心配しないはずがないだろう?フィアの場合は契約してるから俺より早く死ぬことはないからな、それだけは心配しないで済むんだが、原因が分からないと怖いよな。」
「昼間は何ともなかったんですけどね。でも、時々ぼうっとしていることが最近多い様な気がします。」
「アニエスはよく見てるな。」
「いえ、気が付いたのはシロップです。」
「いつからだ?」
「えっと、ここ5日間ほどでしょうか。最初は自分も気が付いてなかったみたいで、ご飯の準備の時とかに手が止まったりしてたんですよ。
たびたびそんなことがあって、自分でもおかしいって言ってました。敵が来たりしていないですからソウタさんが気が付くこともなかったかもしれませんね。
昼間は私たち、ずっと三人でいますから。」
「シロップもアニエスも聞いてくれ。これからもフィアがこの調子だったら戦闘に出すわけにはいかないかもしれない。戦うようなことがあった場合には俺と護衛班で対処するからフィアの面倒を頼むよ。
絶対に戦闘に参加させないようにしてほしいんだ。」
判ってる。怪我をしたって、どうなったってフィアが死ぬようなことはない。
それでも血が流れていいはずがないし、不覚を取って誰かに敵の刃が届くことになるかもしれない。そうならないためにも最初から外すべきだろう。
明日はみんなとそれを相談しておくべきだろう。
フィアの様子も落ち着いている。
「二人とも、休んでくれるか。」
「はい、でもソウタさんは?」
「俺はここでいい。シロップもアニエスも疲れを残さないようにな。」
フィアを乗り越えてシロップとキスを交わす。その向こうに身を伸ばし、アニエスともキスを交わした。
二人は今日のところはそれで満足して寝てくれるようだ。
改めてフィアの顔を見ると良く休んでいるようだったが、いつもと態勢が違うせいか眉間にしわが寄っている。それも可愛いのだが、細い眉の間を指で揉んでやると表情が和らいだ。そのまま俺の手を捕まえ、布団の中に連れて行かれてしまった。
片手で安眠できるならまぁ、安いものだ。
翌朝、椅子に掛けたまま寝ていた俺をフィアがつついて起こす。
「ソウタさん、ソウタさん。起きてください、朝ですよ。」
「う~ん?フィア?大丈夫なのか。」
「はい。良く寝ましたからね。すっきりです。」
シロップもアニエスもすでに目を開けてはいるが、手前にフィアがいたせいでベットから出られなかったようだ。
「おはようございます。ソウタさん大丈夫ですか?」
シロップとアニエスも俺の心配をしてくれたが、一晩起きていたわけでもないし、大したことはない。
それよりもフィアの調子が戻っているようで心底ほっとした。でも、様子は見ていないといけないかもしれない。
「フィア、ここ最近ぼうっとしてたって?そう言うのはちゃんと相談してくれな。」
「ええっと、自分でも良く判らなくて相談のしようがなかったんです。でもごめんなさい。結局みんなに迷惑をかけてしまいました。」
「そんなこといいんです。フィアちゃんだって体調の変化はありますよ。代わりに私たちがおかしい時には手伝ってくださいね。」
「はい、もちろんです。」
今日はどうやら平常運転のようだ。
朝食の席でみんなからも様子を聞かれたが、大丈夫だとフィアは答えていた。
「みんな聞いてくれますか。フィアはこういってはいますが、少し様子を見たいと思います。」
「え?私大丈夫ですよ。」
「うん。今見てる限り心配はなさそうだよ。でも昨夜の今日だからな、一応は大事を取っておかないと俺が心配で落ち着かない。」
「心配しすぎですってば。」
アオイさんやチズルさんの勧めもあり、今日は様子を見るという事で落ち着けてもらった。
「病人じゃないのに。」
フィア自身は不満顔だが、俺は一つ気が付いていることを黙っていた。
夕べフィアを抱いていない。つまりはエネルギーを補充していないはずなのだがそのことをフィアはおくびにも出さない。クノエで戦闘が続いた時には一晩に何度も出撃があったりしてたまたま補給できない時があったが、翌日の朝には随分とやつれて見えたモノだったのだ。
今はと見ると、全く平気なようで逆にそれが不安を煽る。
思い過ごしであればいいのだが。
出発の準備を整え、俺の馬車の中を温めた状態で進むことにした。
フィアはまだ大丈夫だと言い張るが、側にシロップとアニエスに居てもらい、様子を見させた。
キョクセンまではここからならば半日の距離だし、滅多なこともないだろうと思うが気配察知を最大範囲にまで伸ばして警戒を続けていた。
キョクセンの陸軍駐屯地にまでたどり着いたが、何もなくてよかった。
門を守る衛兵に冒険者カードを見せると、臣下の礼を受け、待つように言われた。
大して待つこともなく門が開かれ、中へと通された。
半円型のドーム状の建物が並ぶ。どれも迷彩色に塗り分けられ物々しい雰囲気が漂っているが、よく見ると風呂の施設であったり理容施設であったりと戦うためだけの施設でもないようである。
兵舎も士官用の施設も全部が統一された大きさで作られているのはこうした施設の効率化を追求した結果だろうか。
そんなことを考えながら馬車を徒歩ぐらいの速さで進めていたが、案内に先を歩いていた衛兵が馬車を止めるように身振りで示してきた。
俺が馬車から降り、幕僚長への目通りをすることにしたが、衛兵は速やかに取次ぎを行ってくれ、他と区別のつかない建物へ入ることになった。
扉は二枚。一枚目は外との出入りをするために。中に入るとすぐにもう一枚の扉が目前に迫り、それを奥へ開けると暖かな部屋になっていた。
風除室のような役割なのだろう。
応接セットが置かれた明るい部屋へ招かれ、正面に座っているごつい男に迎えられた。
「ヤマノベ公爵様と伺った。」
「はい。お初にお目にかかります。トウトより陛下の親書を預かって参りましたソウタ=ヤマノベと申します。」
「おお!陛下よりの親書を?わざわざ遠いところまで来ていただいて恐縮ですな。私がクラウス・フォン・ビューローです。」
互いに自己紹介を交わし、わざわざ席を立って握手を求めてくれたことから取り付きにくい人でもないようだ。
「外のお仲間をこちらに招かれてはどうでしょう。それからゆっくりと親書を拝見したい。」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。遠慮なくそうさせていただけると助かります。」
戸口で聞いていた衛兵は俺と目が合ってから外へ仲間を迎えに行ってくれた。
ぞろぞろと全員が中に入ると、応接セットだけでは足りない腰かけを折り畳みの椅子を持ってきてくれて補ってくれる。
気の利く衛兵がいてくれて助かる。
応接セットは上座にビューロー公爵がかけ、向かいに俺とフィアが座る。
俺たちのソファーの後ろにシロップとアニエスが立ったまま控え、他の仲間たちは折り畳みの椅子に座る形になった。
「改めまして自己紹介をいたします。私が若輩ではありますがヤマノベ家の当主でございます。こちらが私の妻でフィアと言います。後ろに立つメイドも両方が私の妻です。
そしてここに居るメンバーが私の家令であり、聖銀の巨人の整備などをやってくれています。」
「そうですか。あらためて遠路はるばる来ていただいて感謝いたします。私がクラウス・フォン・ビューローであります。この陸軍の幕僚長を務めております。
以後、よろしくお願いいたします。
さてヤマノベ公爵、早速ではありますが陛下よりの親書を拝見出来ますかな。」
俺が懐から取り出した書状を渡すと、封蝋を確かめ、懐から取り出した折り畳み式のナイフで開封した。
少しの時間をかけ、内容を黙読しながら時折こちらに視線を寄こす。
最後まで読んだところで大きく息を吐き、書簡を再び折りたたみ封筒に仕舞った。
「ヤマノベ公爵はこの内容は?」
「はい、陛下より直に伺っております。しかしながら私どもがどのようなお役に立てるかまではさすがに判りかねます。
ビューロー公爵にお伺いするよりないのですが。」
「それはそうですな。しかし、公爵はそのお若さで数々の功績を残されて大したものですな。噂には聞いておりましたが、迷い人と言うのがその功績の一助なのでしょうかな。」
「ええ、こちらに来る前に向こうで学んだことや、興味があって見聞きしたことが助けになっているという事は否定できません。ただ、ビューロー公爵がおっしゃいますように若輩ゆえに何もかもに精通しているわけでもありませんし、陛下のご期待の全てにお応えできるわけでもないと思うのです。
そこは先達の皆様方にご指導いただくよりないでしょう。」
「なるほど、思い上がるような者であれば一つ懲らしめてとも思わないではなかったが、公爵はよく弁えていらっしゃるのですね。これは逆にこちらが教えていただくことも多いかもしれません。
なに、血の気の多いのばかりでしてな、公爵が物をよく理解されている方で安心いたしました。
歓迎しましょう。それで何かお助けいただけるようならば、遠慮なく聞かせてください。それを一緒に考えてみましょう。」
とにかく旅の疲れを落とすようにと兵舎の一つに案内されることになった。
もう一度ビューロー公爵と固い握手を交わし、退出しようというときだった。
ソファーから立ち上がったフィアがそのまま膝をついてしまった。
ドサという音と共に気を失ったフィアがソファーにもたれこんでしまった。
「フィア!どうした。」
「衛生兵!」
ビューロー公爵の一喝で衛兵が部屋に飛び込んできて、様子を確認すると30秒もしないうちに白衣を羽織っている兵士が二人、担架を持ってやってきた。
「公爵の奥方が体調を崩された。至急医師を手配し、診察に当たれ。一刻の猶予もないぞ!担当医師は女医を選べ。急げ!」
「は!了解しました。」
それだけ言うとフィアのバイタルを取り、担架に手際よく乗せると運び去ろうとする。
「公爵、奥方に着いていくがよい。他のメンバーはこちらで責任を持って部屋まで案内させる!」
「感謝します。」
そういい、俺は担架について施設の外へと走り出る。
なんだかモヤモヤしたところで切れてしまいました。
続きは明日以降で白紙からです。お待たせしないように頑張りますので、少しお待ちください。




