【第59話】今日の佳き日
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今話は前半の締めの部分で披露宴の様子をお届けしています。
シロップとアニエスの生家を尋ねてから3週間ほどが過ぎた。
ホールが飾り付けられ、我が家はとても賑やかな、華やかな雰囲気に包まれている。
勤めてくれているメイドたちも気軽に声を掛けてくれるし、厨房のみんなも披露宴に向けた料理の準備でとても楽しそうにしている。
俺と一緒にケーキを作るアイディアを話し合ったり、来賓に振る舞う料理についてメニューや出す順番、どんなデザートがいいかなど話し合っていると時間を忘れてしまう。
スの国で大量に仕入れていた柑橘類もここぞとばかりに使ってもらうことにした。
マーマレードにしてもらったところ、とても美味しくてパンに乗せてフィアのところまで持って行ってやった。
「ん~、美味しいです!」
シロップもアニエスも一緒に居るだろうと思って、一口サイズのトーストにマーマレードをトッピングした試食サイズを6個、お皿に乗せて配達してみたのだが、三人にも大好評だった。
「甘さ、酸っぱさと、ほのかな苦みがトーストにとてもあってますよね。」
「うん。これがソウタさんの世界の味なんですか?」
「イチゴやリンゴでもできるんだ。どれも子供から大人まで好きな人は多いな。デザートなんかにも使う事が多いからさ、披露宴のデザートにどうかって調理師の人達と話してたんだ。」
「ソウタさん、これを使ったデザート、とっても楽しみです。」
そう言っているフィアも含めて嫁さんたちは披露宴当日に着るドレスを作ってもらい、袖を通しているところだったのだ。
フィアのドレスは白を基調にパールを練り込んだという生地をふんだんに使い、肩と背中は完全に露出しているのに清楚と言うか柔らかい雰囲気の出ている綺麗なドレスだ。
シロップのドレスも白を基調にしているのは変わらないが、銀糸と桃色に染められたかがり糸を使ったレースやフリルがあしらわれ、可愛さも表現されているドレスだ。
アニエスのは白に薄い黄色と金糸が用いられた生地が効果的に使われ、肩の意匠とか腰回りの飾り付けが舞踏会に参加する姫様のようだ。
「三人ともとびきりに綺麗だな。」
「そうでしょう?惚れ直しちゃいましたか!」
「ああ、シロップの言うとおりだ。ものすごく惚れ直した!」
「やりましたね、フィアちゃんシロップちゃん。改めてハートを鷲掴みです。」
三人でキャイキャイと出来栄えに満足し、明日の披露宴が楽しみになってきた。
招待状の発送も怠りなく済んで、明日は少しばかりの特に懇意にしている貴族様とシロップ、アニエスのご両親などが出席されて、屋敷のみんなに祝ってもらう予定だった。
サプライズゲストなんかも用意するつもりもなかったのだが、親王陛下からクレームが入ってきた。
お妃様がフィアの結婚式にどうしても出席したいと初めての駄々をこねておられると伺った。
結果的に陛下御自身も参加することとなり、一気にハードルが上がってしまったように思う。陛下は俺の屋敷のメイドたちが気になってしょうがないという困ったちゃんな上に、お妃様はフィアのことがとっても大好きだ。
お蔭で明日の披露宴には国のトップが列席されることになってしまっている。
アンニさんなどはもう、狼狽えてしまい、可哀想なほどに準備に忙しそうだ。
ユンカーさんはごく私的な貴族の披露宴であり、たっての希望でお忍びのような扱いで陛下が参加されるので、特別なことはしなくていいと言ってくれているのだが、アンニさんにとってはそうもいかないらしい。
それぞれがそれぞれに準備に時間を割き、夜も更けるまで大騒ぎが続いていた。
俺はと言うと特に準備も必要なかったし、”お館様”という立場上は自分が進んで色々とするわけにもいかなかったから「みんなよろしく!」で片づけて部屋に引っ込んでしまった。
「任せといて!」という頼もしいメイドの皆さんにお任せして俺は何をしているかといえば。
「んんん!あん。」
フィアの食事中だったりする。
明日もフィアにはツヤッツヤでいてもらわないといけないからな。
翌日の朝は、驚いたことに俺が目覚めると同時にフィアも起き出して来て、自ら衣服を着こんでいた。申し合わせてあったのかシロップとアニエスは今朝はこなかった。
「フィア?今朝はみんなどうしたんだ。」
「はい、今朝はみんな準備がありますからね。私もこの後でお化粧したりしないといけませんから時間がないのですよ?」
三人にとって今日はとても大事な日になるという。
俺にとってもけじめをつける日になるので、大事なことには変わりはないのだが、彼女たちには殊更に特別であるらしい。
キョウコさんとアリスさんがそうこう言っているうちにフィアを連れ去って行ってしまった。
俺はアンニさんに連れられて食堂へと赴き、調理室が戦争状態になっていることに驚きつつも朝食を食べさせてもらった。
お館様と言えど、二人しかいない調理師の迷惑にならないようにと食べ終わった食器を自ら洗い、自室に戻ると髭剃りで顔をあたり、髪を梳いて着替えを始めた。
午前10時ごろになるとシロップの両親やアニエスの両親が到着し、控室に入ってもらうことになった。
出迎えは本人たちもしたかったらしいが、ドレスアップの最中に出歩かれても興醒めだろう。
俺が出迎えに出て、またシロップのお父さんが土下座しそうになった。
慌ててそれを防ぎ、お母さんと二人で引きずるように控室へ招き入れた。
アニエスのお母さんは溢れんばかりにすれ違うメイドたちが「お館様どいて!」なんて言いながら準備で走り回っているのを見て仰天している。
「あの、こちらのメイドたちは皆さんこんな物言いですの?」
「ああ、驚かせましたか。我が家のメイドや馬番、調理師の皆さんはしっかりしてますからね、俺なんて叱られてばっかりですよ。」
笑いながら頭を掻き、メイドに来客用の椅子をついでに持たされている様子をみて何度も驚いていた。
「メイドたちにこんな風にさせてますとね、それぞれが色々と自分の考えを持つようになるんですよ。自分の仕事は何だろう?とか、今は何を優先すべきか?とかね。
彼女たちが自ら考え、自ら行動を起こすからこそお仕着せでない責任感が育ってます。親王陛下などはそれを不思議がってしょっちゅうおいでになるんですよ。」
「そ、そうなのですか?私にはこちらのメイドたちの目の色が違うことは分かりますが、ソウタさんに対してあのような態度を振るうなど驚きの連続です。」
「どこの屋敷でも同じようにしていいという訳ではないでしょう。それでも、俺はこのやり方が気に入ってます。俺が雇って使っているメイドや調理師ではなくて、全員が”家族”だといつも言ってます。他の屋敷の貴族連中からは色々と言われますが、私がしっかりと務めを果たせば私のやり方に口を出せませんからね。
それが羨ましいと言ってくださる陛下がいらっしゃって、公言してくださるから私がこうしていても許されているような物ですよ。」
「そうなんじゃよ、ヤマノベ公爵にはどのようにしてこんなにも素晴らしいメイドたちを育てたものかと問うても、問うても”秘密”としか申さん。奥方からも申してくれぬかの?
私にも秘密を明かしてくれるようにと。」
「へ、陛下?いつからいらっしゃったのですか?」
「へいか?親王陛下でいらっしゃいますか?」
アニエスのご両親は飛び上がるように驚き、そのまま床にひれ伏してしまった。
「ヤマノベ公爵、こちらはどなたの親御さんかの?」
「はい、アニエスのご両親ですよ。シロップのご両親はすでに控室に着いておられます。といいますか、陛下。何度も申し上げておりますが、近いからと言って護衛もつけずにお越しになるのは感心できません。
お妃様はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、アマーリエはとうの昔にフィア殿のところじゃよ。どうしても贈りたかった首飾りがあるとかでのう。私などアマーリエの護衛みたいなものじゃよ。」
そういいながら、陛下自らがひざを折り、アニエスのお父さんに挨拶をする。
「アニエス殿のお父上、お顔を上げてくださらぬか。私はそのようにしていただくほどの者ではない。共にヤマノベ公爵を認めた者同士ではないか。控えの間までご一緒しようではないか。公爵も準備に忙しいはずじゃからの。」
「そ、そんな恐れ多い。親王陛下に於かれましては私共の様な下々と言葉を交わされるなどあってはいけないことです。」
ますます恐縮し、小さくなっているお父様には困った。
ガクブルしている様子はもう、可哀想としか言いようがない状態だ。
俺もお父様を起こすように身を屈ませ、その手を取り促しながら立たせた。
「お父様、お預かりしました如月、見事その役目を果たしてございます。陛下にもそのお話をお聞かせしたく、私どもと一緒に控えまで参りましょう。」
「ヤマノベ様、如月が?お聞かせいただけるのですか。」
ようやくにも顔色に精気が戻り、足にも力が入ってきた。
「ほう、面白そうな話じゃの。如月とやら私にも見せてもらえるのであろうな?」
「ええ、構いませんとも。お父様にお預かりした魔剣の武勇伝をお聞かせいたしましょう。」
アニエスのご両親となんでか陛下を交えて控室へと赴くと、なんとなく予想はしていたが、シロップのご両親が陛下を紹介すると床に突っ伏してしまった。
やると思った。
どうにかこうにかシロップのご両親を再起動し、セーフモードではあるが最低限の機能回復までしてから魔剣の話をしてあげた。
ブルーバックになったら救急車でも呼ばなきゃいけないところだった。
陛下やシロップのご両親に魔剣を持たせ、それぞれが鞘から抜こうと試みたものの、やはり如月はゴネてまったくその刀身を現そうとはしなかった。
話を聞き、満足していたのはアニエスのお父様だけで、戦いの様子に大興奮だった。
俺が如月を持ち、柄を握るとやはりキンと言う甲高い音と共に鞘が抜け、妖艶としか言いようのない刀身を現した。
「おお!?これが魔剣如月というか?確かに吸い寄せられるような妖気を感じる。」
「これが魔剣と言うモノですか、陛下のおっしゃられる通りです。刃が濡れて光っているようですね。」
「いつ見ても惚れ惚れとします。先祖伝来の宝剣でありながら幾世代もの先祖がこの表情を見たいがために研鑽をつみましたが、ついぞ見ることの叶わなかった刀でした。アニエスが良い婿殿を迎え、誠1000年ぶりにその姿をここに見せてくれましたのです。」
「おお!そのような謂れのあるモノだったのですか。さすがヤマノベ公爵であるな。魔剣さえも虜にする懐の深さ、色欲に塗れるばかりでないということではないか。」
「陛下、恐れながらその言い様はないのではないでしょうか。フィアもシロップもアニエスも私との縁を喜んでくれているのです。一人として不幸にしないためにも増々を持って神国に貢献しなければと誓いも新たにしようかと言うところでしたが、陛下からのあまりのお言葉。
今後の身の振り方に影響がどのように出てくるか、本当に不安でなりません。トサンやシンカタでは旨い米がとれますし、サンケイでは特上の牛が賞味できるとか。津々浦々に旨いモノがありますが、ヤマノベ家とシロップのご両親。アニエスのご両親でそれを確かめ、陛下には報告書でご満足いただくことになりそうです。
紙でお届けする方が楽でよろしいでしょう。」
「こ、公爵!それはあまりにも無体。」
「そうですか?私は大事にする人はとても大事にしなければと常に心に留め置いておりますが?」
「わかった!判ったから。降参である。私が一番悪かったと認めるから、報告書で報告するのは止めてくれまいか。生殺しは勘弁してほしいのである。」
陛下を出汁に和やかな時間を過ごしているうちに嫁たちの準備と会場の準備が整ったそうだ。
陛下とお妃様を主賓に、シロップとアニエスのご両親。空軍のノーア公爵に海軍のイソウロク公爵、我が家のすべてのみんなが参加者となって祝ってくれることになっている。
来賓が席に着くと俺が入場となる。
ホールの後ろの扉から入場すると、セントラルキャッスルから派遣していただいた楽師たちが荘厳なメロディーを奏で始める。
実はこの曲、エルガーの「威風堂々」と言う曲で、こちらの世界には当然ないのだが、俺のたってのお願いで耳コピで演奏してもらっているのである。
楽師の方々にはとても気に入ってもらえ、これから城内の催しでも使用していいかと逆にお願いされたほどだ。
曲の冒頭部分で俺が颯爽と入場したらカッコいいかなと目論んだのだが、曲のグレードの方が上だったかもしれない。
そして有名なフレーズの部分で嫁たちが一度に入場してくる。
荘厳な曲に導かれるように入場する三人の嫁たちはもう、この世の者ではないように美しかった。オーケストラに背中を押されるみんなが神格化したような気分だったよ。
俺の元にまでやって来てくれた三人が俺と一緒に来賓に向かうと同時に天井付近から紙吹雪が舞い散り始め、曲はクライマックスへと高まりを見せ、自然と陛下を始め参列してくれたみんなが起立してしまった。
最後の大砲の発射だけは割愛させてもらったけど。
最初はソコも再現したんだけど聞くたびにシロップが飛び上がってビックリするのでやめたのだった。
続いてはワーグナーの「婚礼の合唱」、トドメはメンデルスゾーンの「結婚行進曲」だ。
わざわざ来ていただいた国貴族の教会の司祭様が婚礼の合唱に耳を傾け、結婚行進曲に身を揺らされながら聞き惚れておられた。
嫁たちも曲に耳を傾け、結婚式らしいメロディーに胸を熱くしていたようだ。
フィアに「いい曲だろう?」と聞くとうっとりとしながら「はい。」とだけ答えてくれた。
陛下もお妃様もこんな曲があるのかと目を閉じ、聞き漏らすまいとしているようだった。
今後、流行ってくれればいいなと思う。
後で聞いた話だが、お妃様がもう一度結婚式をやり直したいと仰ったとか。慌てた親王陛下は「もう一度?」と確かめられたそうだ。それに対し、お妃様が「どうでしょうか。」とえらく含みを持たせた返事をなさったとかで、フィアと城に呼ばれて厳重抗議されてしまった。
その時フィアは「もう一度指輪を贈られたら?」と進言したが、次の機会に遊びに伺ったところ、新しい指輪を頂いたのだとお妃様が喜んでいらっしゃったそうで、こちらのご夫婦にも良かったと言う事になるのだろうか。
司祭様より「健やかなるときも病める時も・・・」の言葉があり、あっちと一緒なんだなぁという感想を抱きながら「誓います。」を三度言い、それぞれに新しく用意した結婚指輪をはめて誓いの口づけを交わした。
列席のみんなから祝福の言葉を貰い、楽しい雰囲気で結婚をどこの神だか知らないがに報告することができた。
それから食事の準備が始まり、全ての貴族が興味を持って機会があれば食したいという我が屋敷の料理の数々に舌鼓を打ってもらった。
メイドのみんなも交代で給仕を行いながら、全ての料理を全員が食べられるように計らったスケジュールが功を奏し、給仕に立つメイドのモチベーションも気力も十分だった。
このローテーションを作るのにアンニさんと俺は式次第を完璧に作り込み、食事の段取りとメイドの振舞の全てをシミュレーションしたものだ。
お蔭で全てのメイドが全部の料理を一緒に食べられて且つ、十分なホスピタリティーを発揮することもできたのだった。これが家族で作り上げた成果であり、そのローテーションやオペレーションを陛下がずっとご覧になっていたのも面白かった。
よほど我が家のメイドたちが気になるらしく、お妃様にメイドを目で追う陛下が何度も小突かれていたのが印象的だ。その都度に言い訳ではないが、どこに注目するべきかどこが感心したかなどを報告しているらしい。
BGMはスメタナの「モルダウ(わが祖国)」やビバルディの四季から「春」、ホルストの「惑星―木星」など有名な奴ばかりを小音量で流してもらっている。
いい雰囲気の中で食事が進み、危うく唐揚げ戦争が勃発しそうになったのは俺の采配ミスかもしれない。
酢飯を使った海産を載せる「寿司」ではみんなが不思議そうに頬張り、ほとんどの人が病みつきになっていた。
厨房ではお替わりが舞い込み、握る手間から僅かばかり混乱が見られたようだ。
次の仕込みが遅れそうだとみて取った俺は、嫁たちに「手伝ってくる。」と言い置いて厨房へ支援に入った。
「お、お館様?何してるんですか!」
調理師に呆れられながら握りを始めた。「こっちは俺がやります。次の料理を急いで!」それだけ伝え、背に腹は代えられないと調理師の一人はナポリタンを。もう一人はカブや湯葉で茹で物を仕上げていた。出汁で取った餡かけに柚子の削りかけを振りかけ、たまらない出来栄えだ。
いつの間にか居なくなった俺のことなど誰も気が付いていないようだったが、寿司のお替わりを配膳してきたのが俺で、それを見てみんなびっくりしていた。
「お、お館様?なんでこんなところに?」
「いや、シノブさんがお替わりって言うから。」
げほっ、げほげほ!
とんでもないことをしたとシノブさんがむせ返る。
それで気が付いたとばかりにメイドたちから悲鳴が上がる。
それを笑いながら手で諫め、食べてていいよと伝えるとアンニさんは深く頭を下げていたが、食べていなさいというといい笑顔で微笑んでおいた。
それからもお替わり専門部隊として寿司にカラアゲにと造りに作って配り歩いた。
陛下などはそれも参考になると「うむむ」なんて言ってる。いや、ご自分でできないでしょうに。
いよいよデザートまで進んでくると俺も席に戻ることができた。
ここで登場するのはチョコレートパフェとフルーツパフェだ。
渾身の作品である。チョコはビタースイートな苦みを活かしたやつとなっており、陛下や公爵様に。フルーツパフェはヨーグルトやコーンフレークなども積層された本格派にバニラアイスで蓋をするようにして、例のマーマレードがトッピングされている。
ノーア公爵様やイソウロク公爵様には食べたことのない味わいを気に入っていただけ、陛下も驚きと共に堪能しておられた。
「このお屋敷はいつ来ても驚きに溢れているようだ。活発で魅力にあふれるメイドたち、食せば忘れられなくなる食事の数々、どこにあったのかと思わせる良曲の耳障りの良いこと。無い物ねだりと言われればそれまでだが、我が城にはこのような全てが充実した居心地の良さはない。
ヤマノベ公爵に伺っても教えてくれぬしの。ノーア公爵もイソウロク公爵もこの屋敷は良いところだとは思わぬか?」
「そうですな。ヤマノベ公爵は叙任前に空軍基地を訪れられた時も周り中の兵とあっという間に輪を築き、互いに高め合っておったようです。基地司令としては羨ましい限りでしたな。」
「ほう、ノーア公爵もそうでしたか。ゴの海軍司令部にいらっしゃったときもそうでしたな。文官武官より現場の研究者をより大事にしてですな、駆逐艦から戦艦まで引っ掻き回されましたよ。それでいて技術者たちは目の色を変えて邁進し、自分の手を油で汚し、寝食も忘れて作業者とソナーや航空機を作っておられましてな。
技術将校など知らぬうちに心酔してしまい、大佐が飯を炊き、中佐が旋盤で金属を加工しておりました。愉快すぎて目が離せませんでしたよ。」
「私は彼を手元に置けることができたことがもしかすると一番の僥倖だったかもしれぬな。あれほどの逸材を国の宝とせねば死んだ弟にも顔向けもできぬわ。」
「左様でしょうとも。近い将来には陸軍にも革命が起こるかもしれませぬぞ。」
「おお?それもそうじゃな。我が海軍にもノーア公爵の空軍にも起こった革命が陸軍にもですかの。陛下、これは楽しみが増えました。私はずっと奴を見ていきたい。」
「私もですよ。我が空軍と海軍が目を覚ましたように陸軍にも何が起こるのか初めから見ておりたいものですな。」
「私もそう思います。それでいて彼の行動原理は至極単純。私や国民のためなんて全くどうでもいいんですよ。この屋敷に住まうメイド、調理師、馬番、そして自分の仲間たちと妻たち。その身が安全であればそれがすべてなんです。
私も含めてそんな清廉でいられるでしょうかね。聖銀の巨人は国を吹き飛ばす力を持ち、自身も全魔法を最高出力で使用できるというのに守りたいものは家族の安全。力は家族のため。魔法も家族のため。
一番やりたいことは旅して旨いものを食べること。
私は彼に惚れてしまっているのかもしれません。彼の成長から目が離せません。」
「陛下、私はヤマノベ公爵もその人となりには尊敬をしてやみませんが、やはり公爵夫人が好きです。あの方は自分がサキュバスであることを恥じておりながら、サキュバスであることを自信をもって認めておいでなのですよ。
それもヤマノベ公爵が居てのことでしょう。かのお方は種族に優劣があるという考えを全くされず、困っていれば種族など意にも介さずに全ての人を助けてしまうそうです。
フィアさんはそれで公爵様のお心が傷つき、苦しむ様を何度も見られ同じように苦しまれたそうです。それでもご覧のように仲の睦まじいこと。新しく加わった二人もそうです。
公爵があのようなお人柄だからこそ損も得も取らずに人が集まるのでしょうね。
陛下が羨んで仕方のないメイドたちも良くご覧になられれば判りますよ。常に自分の責任を意識して、やるべきことを知っています。それらを統率し、分け隔てなく完全に平等になるように努力しているのが公爵様です。その努力を見ているからたとえそうではなかったとしてもその次に取り返してくれるだろうという信頼があります。
きっと、それにもちゃんと答えてみせるのでしょう。
さっき、メイドのお替わりの料理を公爵が運んできたのを見ましたか?それを見たメイドが咽るほどにびっくりしていましたが、メイド長と公爵は目だけで会話をしていました。
それですべてが伝わっているのでしょうね。そしてそうしたことが許されるように計らわれているのでしょう。
彼女たちは全幅の信頼を寄せています。
ですから公爵様もやりたいようにできているのでしょう。」
俺の席から見てあの辺りが非常に不穏だ。
陛下と言い、海軍、空軍の公爵様と言い、お妃様と言い、会話を交わしながら辺りを見回している。
失礼などはないはずなのだが、居心地が悪すぎる。
ふと目が合ったお妃さまなど、花のような笑顔をお見せになっておられる。
こっちが照れてしまうじゃないか。
食後にコーヒーと紅茶、緑茶にほうじ茶と口直しを選べるようにしたワゴンを押すメイドたちが各席を巡っている。
陛下が席を立たれ、俺たちの側へとやって来て参加者の方へと向き直った。
それを見た楽師が音量を下げながら曲をフェードアウトさせた。
静かになってから徐に口を開かれた。
「本日はかくもめでたい席に呼ばれ、幸せな時間を分かち合えてとても嬉しく思う。ヤマノベ公爵はこれからも神国の発展に欠くことのできない働きを見せてくれることだろう。
シロップ殿のご両親、アニエス殿のご両親、フィア殿とヤマノベ公爵殿はこれまでにもこの国を助けること幾度、そしてシロップ殿とアニエス殿を加えてさらにこの国を安らかなるように助けてくれることだろう。
良い婿殿を射止められたものだ。
そしてヤマノベ家に属する皆にも最大限の感謝を述べる。みなで支え、盛り立てて欲しいものだと切に願うものである。
本日は、私の友の婚姻の席に共にできたことを誇らしく思う。ありがとう。」
割れんばかりの拍手が起こり、披露宴も幕となった。
時間をおかず陛下や公爵様方が退席され、城へと向かわれた。
残ったのはシロップの両親とアニエスの両親だ。今日はここに泊まってくれるそうなので、それぞれが家族水入らずで過ごすといいだろう。
陛下らを見送りに出ると、陛下から握手を求められた。
「私はヤマノベ公爵とフィア殿に知り合えたことで生涯の運の大部分を使ってしまったかもしれん。これからも良く助けてくれるようにお願いするよ。」
「陛下、もったいないお言葉。言われるまでもなく我が家族のためにも神国がよりよくあるために尽力させていただきます。
本日はご足労を頂き、誠にありがとうございます。」
「いや、よいのだ。」
それではと挨拶を交わし、陛下はお妃様を伴ってすぐそこではあるが城へと帰って行かれた。
ノーア公爵もイソウロク公爵も同じように城へと帰って行かれたのでこれから大事な打ち合わせなどもあるだろう。
妻たちは化粧を落として楽になりたいだろうし、メイドたちも披露宴の会場を片付けるためにまだ忙しくしている。
彼女たちに礼を言い、手伝い始めると今日の感想などをたくさん聞かせてくれた。
「結婚式に曲があるといいよね~。」
「私が結婚する時にもこんな風にできるといいのになぁ。」
食器を集めて回っているとそんなことを言われる。
「ああ、いいよみんなの結婚式もここでやったらいいよ。旨いものを散々作ってあげるからその時は遠慮しないで言うんだよ。」
「きゃー!本当ですか?」
「絶対ですよ。私の式にも出てくださいますよね。」
「うん。任せといてくれよ。」
にぎやかに話が弾み、片付けが誰にも苦ではなくなっていたようだ。
「メイドと一緒にご本人の結婚式の片づけをしているお館様と言うのは前代未聞でしたわね。しかし、お館様を”友”と仰られました陛下のお気持ちもわかります。これからもみんなのためによろしくお願いいたします。」
アンニさんから改めてお願いされたが、それについては問題ない。
「アンニさんの結婚式もここでやってくれるよね?」
「な!何を仰るのですか?」
「え?いやなの。」
「そ、そ、そうではありませんが、いつになるやら判らないことまでお約束できません。」
真っ赤になってそっぽ向いているのも返って可愛い。
「待ってますから。」
そう言って洗い場へと俺は引っ込んだ。
数百枚の皿を洗い倒し、調理師の二人にも礼を言った。
結構いい式になったなとグラスやカップを洗いながら笑わずにはいられなかった。
お嫁さんたち側からの視点は別の機会に出もお届けします。
シロップとアニエスの初めての晩がまだかけてませんね。そっちも気になるという読者様がいらっしゃれば(需要があれば)がんばります。




