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Contractor with blood(血との契約者)  作者: 小西敬
成り上がり貴族の章
57/161

【第57話】帰還

いつもご一読いただきましてありがとうございます。

おかげさまで累計14,000PVを超えております。こんごとも頑張りたいと思います。

また、ブクマ登録も増えておりまして、感謝しております。

 次元断層の中はカニさんが満員御礼になっております。

 ウニさんも溢れかえっておりまして、さながら通勤時間帯の山手線か京浜東北線?はたまた埼京線と言った具合になっておりますが、みなさん元気にしておられます。

 活魚の店で仕入れたカニとウニはまだ元気いっぱいの状態でカニが90杯と、ウニが300個ほど。

 親王陛下には内緒ではあるが、セントラルキャッスルに納めたものよりはるかに上等なカニとウニを確保していたのである。本当に内緒にしなければいけない。


 エイゾに入るときに味わった青函トンネルの障壁だが、あれは執事さんに聞くと1Wayの障壁であり、帰りの道中には影響はないはずだと聞かされた。

 目的はやはり地続きの街道から魔法使いが侵入することを防ぐものであり、まさか障壁を越えてなお平気な奴がいるとは思わなかったそうだ。

 フィアはともかく、俺の魔力の量はあの障壁でぎ切ることは不可能だ。

 実際、失われた魔力量は回復量も併せて考えると四分の一程度だったのだから。

 さして痛くもない。

 往路なのか復路なのかどうやって判断するのか知らないが、確かに帰りにはフィアも俺も気分も悪くならなかったし、魔力を阻害されることもなかった。

 このシステムの仕組みが知りたい。


 帰路にはナッサウ家の妨害が全くと言っていいほどなかったのは不思議だ。

 諦めた訳ではあるまいに、トウトにたどり着くまで結局警戒する手間暇だけが無駄になった。

 また、掌を返したようにダイハンやアイチの領主から返納金が発生し、その他の領主からも返納の申し出が殺到した。

 陛下はその返納金を受け取らず、本来使うべきところへ投資するように厳命した。

 また、併せて投資の使途についてはいつ俺たちが監査に訪れてもいいように、説明がつくようにしておくことを厳命していたのだ。

 エイゾの領主が爆死し、何故そうなったのか微に入り細に入り監査報告書によって全国の領主に対し、報告されたのだった。

 この際にぼかして伝えられたナッサウ家の関与についても実に詳細な報告書が各領主から上がってきたのだった。

 もはや、巻き添えはご免だとばかりにナッサウ家の誰がどうしたという事実の数々が溢れんばかりに報告されてきたのだ。

 俺としては、セイトの解放の光もナッサウ家を後ろ盾に活動していられたことを知ることができ、資金源を断つ見込みが付いたことが収穫であった。

 国貴族の砦に入り、我が家に帰りついたのは青函トンネルをくぐってから3週間後のことではあったが、全員が疲れも見せず帰宅できたことはとても嬉しいことだ。

 一応は陛下にも帰還の報告をし、詳報は後日という事になったのだが、その準備に結局は数日を忙しく費やすことになる。

 資料をまとめ、報告を行うと陛下は俺とフィアに深く頭を下げられた。

 「私の目が届かないばかりに不埒な考えを持ってしまう者のなんと多いことか。これは私の不徳の致すところだと反省をしておる。

 しかしながら、私のような若輩者は国に暮らす民たちの信用を勝ち得るまでにはまだまだ時間がかかるのだろうと思うのだ。ヤマノベ公爵殿、自分の力のなさを痛感するもそれを補う術はないのが実情だ。

 どうか、私の目となり耳となって不徳を知り、正しく道を戻すことにご協力を頂けないだろうか。」

 お妃様はフィアを連れて脇に下がってしまわれており、二人で仲良くお茶をしているらしい。

 「陛下、カニは召し上がられましたか?」

 「うん?もちろん大変おいしく頂いたよ。でもそれが?」

 「私たちは諸国へ出向き、様々な人と出会い、色々なことを知り、旨いものを口に入れてその料理人に学ぶべきことも実は多かったりするのです。

 陛下の知識の及ぶ限り、どなたから聞いたかは別に旨いものをお知りでしたら、教えてくださいますか。その場へ赴き、味を確かめ、陛下に献上させていただきます。そのついでに煩わしいことが有っても目をつむりましょう。

 陛下のご威光が届くその先に陛下のご意志を届けるのは私たちの役目ではないでしょうか。そのお蔭をもって私どもは旨いものを堪能し、旅路にて出会いと発見を繰り返すのです。

 それは陛下の御心に沿うようであれば私たちにも幸いでありますし、そうでなければ平穏無事であったという事です。いかがですか?」

 「その方は我が弟のようなことを言うのだな。私の弟は見聞を広め、不正を正し、隅々までの民草の懊悩おうのうを知ることは領主のまことしやかな甘言を聞くその数万倍の意義があると申しておった。」

 「ええ、弟君の仰られることは陛下の知るべき真意とも言えると思います。

 田畑を耕す者、牛を育てる者、便利なものを売り歩く者、家を建てる技を持つ者は怠惰に過ごし惰眠を貪る貴族と比べるまでもなく才覚に優れ、英知に富み、セイトに蔓延る解放の光のように寄生し、奪い、騙す者より教わるべきものが多いのでございます。」

 「解放の光か。たしかセイトの昔の都を支えた陰陽師の成れの果てと聞く。そなたの故郷にもその害が及んでおるそうだな。」

 「はい。しかしながらナッサウ家の後ろ盾を奪うことができますれば瓦解させることも容易と思われます。陛下にご心労をお掛けするような事案ではございません。」

 「ナッサウ家か。かの公爵家はヤマノベ公爵殿がエイゾで粛清を行ってからと言うモノ、非常に激しく動きがあるようじゃぞ。

 現党首は既に退けられ、父上の妹御も首級を打たれておる。先代の降嫁先とはいえ、今となっては詮のないことになっておる。公爵の位は返上させた。

 自浄作用を妨げぬようにと、当代二人の首を差し出させ御位もないことにさせたのだが、いかがいたしたものか。」

 「貴族年鑑から廃していただけますか。」

 「なにもそこまで?」

 「いえ、当代だけにとどまらず、次代にも嫌疑がないわけではございません。さらに申し上げれば家令の入れ知恵という事も考えられ、踊らされた当代のみが首を晒したという事も否定はできないのです。後顧の憂いを絶つという意味と獅子身中の虫を飼うことのないように言う意味で持ちましてお家摂り潰しが最善と進言いたします。」

 「なるほどの。公爵の仰る意味について考察の必要があるの。相分かった。元となる部分については公爵の言うようにしよう。」

 「ありがとうございます。」

 こうした経緯いきさつがあり、驚天動地ではあったかもしれないがナッサウ家は摂り潰しという事になった。

 家令を始め屋敷に仕える全ての知識階級においては厳重なる取り調べが行われ、血族の中からも数名の不穏分子を排除されたのだった。

 当代は傀儡かいらいの事実を知らぬまま、自分の考えで行った政策であったと信じたまま首を落とされた。しかし、実態は少し離れた縁戚に操られ、踊り、狂っていたことを知らなかったのだ。

 知らなかったことは当然罪であるので、首を落とされて文句もないだろう。

 貴族年鑑の札を削られ、過去の栄華さえも記録から抹消され、再起の道も絶たれた。

 身から出た錆とはよく言ったもので、血縁から家令、家臣のすべてに再起の目を摘み取られたのだ。これによって解放の光の資金源も絶たれ、寄生する貴族家の権威の及ぶ範囲も制限された。

 内定作業が事細かに行われ、毛ほどの関与さえも認められた貴族家、商家、豪農なども血祭りにあげられた。爵位も屋号もたなも耕作地の全ても解放の光の臭いさえ残さぬように取り上げられ、摂り潰された。

 徹底的に身ぐるみを剥がされることになったテロ組織は手足をもがれ、一口の飲み水も取り上げられ、寝具に身を横たえることさえ罰せられた。今代の親王陛下は永劫の繁栄に必要と思われる全ての手を打つと申され、不正や疑惑のある全ての者たちに苛烈な責任を取らせたのだった。

 一部ではやりすぎを批判する声もあったが、それを口にする必要のある者などこの国に必要ないとばかりに断罪されていった。

 ノブレス・オブリュージュ。高貴なる者の責任を果たせない者に生きる資格などないとハッキリと口にした陛下のお蔭で首と体が二度と一緒にならなくなった貴族が多数出てきたのに対し、陛下の考えをよく理解した執政官や家令、執事なども多く頭角を現してきたのだ。

 これを狙ってやったこととはいえ、陛下の望み通りに切磋琢磨する若者たちや、経験に優れる家老たちが凌ぎを削るようになって昨日までとは大きく様変わりをし始めていた。


 陛下との会談の前、屋敷に戻った直後からアンニさんに事の次第を報告していた。

 「シロップとアニエスは俺の嫁にすることになった。すでにちぎりは済ませたので今後どうしたらいい?」

 率直に、ストレートに聞いてみたのだ。

 だって、他に言いようなんてないよ。

 「そうでしたか。まぁ、お館様であればいずれそうなるとは思ってはおりましたが、随分と早いお手付きでございますね。」

 「それほどでもない。」

 「褒めてはおりません。その勢いで参りますとキョウコやアリスも輿入れしなければならないのですか?」

 何を言ってるんだこの人は?

 「そんなことは考えてないぞ。彼女たちはこの屋敷の大事なメイドだ。シロップとアニエスは屋敷ではなく、俺のためのメイドにしたい、それだけだ。これ以上の嫁は必要ない。」

 「でしたら、お館様自らが二人の生家を尋ねられ、その旨を通達しなければなりませんね。それにいやはございませんが、親御さんたちには二人の身の上が今後は違う事になったと知らしめる必要があるのです。」

 なるほど。

 許可を求める必要はないが、嫁に貰った報告はする必要があるのだな。

 「良く判りましたよ。早速、二人の生家を尋ねる段取りを組むとしましょう。なにか手土産は必要ですか?」

 「そうですね。これまでの慣習では彼女たちが輿入れに必要な準備にかかる費用を予め届けることぐらいでしょうか。

 それと、この屋敷で披露宴を行わなければなりません。”処顕ところあらわし”と申しまして、二人が屋敷内での地位をたがえたことを全員に周知する目的があります。」

 「うん。判った。子細しさいは知らないことばかりだが、アンニさんに教えてもらうよ。」

 「承りました。あの子たちは良い旦那様に嫁ぐことになりましたね。」

 「それが間違いでなかったと言ってもらえるように勤めていくよ。しかし、これ以上は嫁を取らないから今回限りとわかるようにして披露宴をしたいな。」

 「承知しました。そのように準備いたしましょう。すこしばかり贅沢にするのがいいでしょう。」

 「ありがとう、やはりアンニさんには頼りっぱなしだな。」

 「いいんですよ。私も勤め甲斐があると言うものです。お館様にもまだまだ陛下のために、この国のためにお仕事をしていただかないといけませんから。」

 「そうだ、フィアにもその時にドレスなり着せたいのだがいいだろうか。」

 「フィア様は式を挙げてはいらっしゃらないのですか?」

 「そうなんだよな。契約を交わしたきりで可哀想なことをしているんだよ。」

 「それはもったいないですね。では、三名を娶るという事で式をいたしましょう。」

 頼むとだけ言い、アンニさんには深く頭を下げておいた。


 屋敷では今、シロップとアニエスが俺の嫁になることが決まり、ちょっとした騒ぎとなっている。

 今回の旅で更に俺たちに対する評価が改められ、各地の領主が散々に入れ替わったこともあって、貴族街にあっても特別な存在となりつつあった。

 俺たちがそれを狙ってしたことではないが、陛下の希望する成果が殊の外ことのほか顕著に表れたこと。不正を働いたものが正しく処罰されたこと。次世代の目を育んだことなどが伝わって、国を司る貴族の方々にも良い評価を頂くことができた。


 帰還を成してから3週間の後、俺たちはトチノキへと向かう。

 ここはシロップの生家がある場所で、ご両親に挨拶をするために訪れたのだ。

 支度金は約1億円相当の金貨。

 この後に訪れるアニエスの生家があるギーフへも同じだけを持っていくつもりだ。

 俺たちの馬車だけで四人旅を楽しんでいる。とはいうものの、トチノキは馬車で一日しかかからないので、野宿もせずに夕刻にはシロップの生家にたどり着いた。

 広大な農地を営む両親は、45歳になるお父様と42歳のお母様が開いた畑をさらに拡大している。28歳の長男と25歳の次男が手伝いに入り、小麦を主力に四季の野菜も育てている豪農と言える。

 「おかぁさーん、ただいまぁ。」

 俺たちの前に立ち、結構大きな母屋の玄関からシロップが駆け込んでいった。

 「あら?あなたどうしたの!?」

 奥の方で大きな声で話す親子の声が聞こえる。

 「私、公爵様のお嫁さんになることになったの。」

 「まぁ、この子は何を言い出すの?お父さん、シロップがバカなことを言い出しましたよ。」

 信じられていないのかよ?

 「ごめん下さい。」

 「あら?はいはい、ただいま。」

 エプロンが絶対に似合うと言えるすっきりとした装いの小奇麗なお母さんが玄関にやって来てくれた。

 「どちら様でいらっしゃいますか?」

 「トウトにて親王陛下の手足となっておりますヤマノベと申します。この度はこちらの娘さんのシロップさんを私の嫁として頂くことになりましたのでご挨拶に参りました。」

 「は?ヤマノベ様?ほ、本当にうちの娘を嫁になさるのですか?」

 「ええ、生憎とシロップも含めて三人になりますが、既に仲良く暮らしております。」

 「は、はは、そ、そんな・・・ははははは。あなたぁー!」

 お母さんが壊れてしまった。

 奥の方でシロップを叱っていたお父さんにお母さんが怒声を浴びせる。

 それからはひどい騒ぎになってしまい、近所に住むという親類縁者をも巻き込んで数時間騒ぎが収まらなかった。


 「そ、それで私どもはどのような罰を受けるのでしょうか?」

 土間に降りて、ひたすらに土下座するお父さんの言葉がこれである。

 「あの、お父さん。何を仰っているのですか?」

 「へ?シロップがどのような粗相を?」

 「いや、落ち着いていただけますか。我がヤマノベ公爵家の奥方としてシロップを輿入れさせますので、そのご挨拶に伺いました。

 披露宴の席にご両親を招待させていただきますので、こちらの支度金でご準備なさってください。日取りなどは後日別の者が案内に参りますので、よろしくお願いいたします。」

 俺も最敬礼のつもりで頭を下げ、お父さんの様子を窺った。

 「それはその、本当にホントのことなのでしょうか?」

 「私の身分はこちらで。」

 冒険者カードを手に渡してあげる。

 しげしげと表と裏を眺め、どういったものかを理解していただけた。

 「公爵様、本当にシロップのような者でよろしかったのでしょうか?」

 「そろそろ土下座はおやめいただけませんか?私がお願いに上がっておりますので、その様な態度はあまりよろしくないのです。」

 「お父さん、ソウタさんはここらの領主様とは違うんだよ。全然偉いのにぜんぜん偉そうじゃないの。私にも叱られてばっかりなんだよ?」

 「シロップ、恥ずかしいからあんまり本当のことは言わないでくれよ。」

 公爵に気安く話しかける自分の娘に開いた口が閉まらないという表情でご両親が俺たちを見ている。

 事が冗談ではないという事が判ってもらえ、支度金を見てお母さんが気を失ってしまったが、優しい両親に恵まれたシロップがまっすぐに育った理由は良く判った。

 披露宴に来てくれることを約束し、短い時間ではあったがおいとますることになった。

 玄関先でシロップにお母さんが一生懸命に語り掛けている。

 「とにかく、失礼があっちゃだめよ。早く孫の顔を見せてね。」

 「ま、まだ早いってば!フィアちゃんが一番じゃなきゃいけないんだよ。その次は私だから、待っててね。」

 「シロップちゃん、負けませんからね。」

 おお!?アニエスの宣戦布告だ。

 と言うよりも、フィアよ、早く子供を作らないと後がつかえているらしいよ。

 ホッコリとした気分になり、ギーフへの旅を続けることにした。

 シロップの実家に泊まっても良かったのだが、親戚がうるさすぎて落ち着けないとシロップ自身が脱出を図ってしまったのだが、すぐ近くのシカヌマと言う町まで西に進み、キャンプを張った。

 家族が喜んでくれたこともあり、シロップは上機嫌だった。

 「ソウタさん。」

 「ん?どうした。」

 「私、本当にソウタさんのお嫁さんになっても良かったのですか?」

 「どうしてそう思う。俺は良かったと思っているが。」

 「私もそこはちゃんと聞いておきたいです。フィアちゃんに勧められて、ソウタさんにこんなにも簡単に受け入れてもらえて、時々、何かの間違いじゃなかったのかと思う時があるんです。」

 「ソウタさん、心して説得してくださいよ。私の大事な二人なんですからね。」

 それじゃ、フィアに嫁入りするみたいじゃないか。

 まあ、実際そうだとしても俺たち四人の関係に変わりわないんだろうけどね。

 「シロップ、アニエス。俺が二人の勤める屋敷の主人になってからまだ全然日が浅くて実感が沸いていないのかもしれないが、二人は他のメイドと比べても十分に真剣さが伝わってくるよ。

 その結果、最初はビックリしたがそれほどにフィアのことや俺のことをちゃんと見ているってことだ。俺も二人の働きはちゃんと見ている。他の誰にも負けない仕事をしてるのも知っているよ。

 それならば、フィアがこんなにも喜んでくれているんだしと最初は思ったんだ。

 きっと、二人にしても飛び込んでくるのに相当に大変な思いをしただろう。それでも慕ってくれる二人を見ているとね、段々に可愛くなってくるんだよ。

 俺やフィアと一緒に居ると危険なことや大変なことも身近に起こるし、これまでにもそうだっただろう?それでも甲斐甲斐しく俺たちやシゲさんたちの世話を焼いてくれる二人を手放すなんてできないよ。

 ずっと、側に置いておきたいと思うんだ。

 今はフィアに喜んでもらうためじゃなく、俺が側に居て欲しいから嫁になってほしいと思ってる。

 それじゃまだ足りないかな?」

 「ふわぁ、嬉しいです。」

 「はい。とてもうれしいです。これからもよろしくお願いしますね。」

 「うん、末永く頼むよ。仲良くやろうな。」

 「私もこれからもよろしくお願いしますね。」

 おっと、俺は料理の途中なんだった。

 次元断層から取り出された揚げ油のなみなみと入った鍋は少し温度が上がりすぎたかもしれない。

 注意深く火の加減を調節し、野外にも拘らず唐揚げを揚げ始める。

 その様子を見た女子三人は、歓喜の声を上げる。

 「唐揚げですね!やったぁ。」

 「シロップ、サラダを急いで準備しましょう。揚げ物は先に野菜を食べてからです!」

 「私も手伝います。」

 飯盒の火加減を見ていたフィアはシロップとアニエスのサラダづくりに参戦し、一家で作る初めての野外料理が準備されていった。

 俺のいただきますで食事が始まり、四人で楽しく夕食を頂いた。

 三人の楽し気な食事風景を見ていると、元の世界では多分想像もつかなかったこの現実が俺の心を癒してくれる。

 食材を仕入れて卸す仕事は楽しかったが、プライベートに潤いなどなかった。

 朝から駆けまわり、契約した調理主の満足する食材を提供する。農場主の丹精込めた作物が丁寧に調理され、お客が喜ぶ。中々に満足のいく仕事だった。

 それでも今と比べると多くのことが違っている。

 仲良くしてくれるとびきり可愛い嫁たち。尽きることのない魔力で無双するチート能力。親爺の残した近代兵器を用いてあらゆる敵をなぎ倒す力。史実を参考にこの世界を変えて行く充足感。そして今の地位。使い切れないほどの財力に有能なメイドたちを抱える貴族となり、自分の思うがままに生きることを楽しんでいる。

 陛下の覚えもめでたく、何の不満もないが、そうである以上これが栄華の極みだとすると残るのは没落だけだ。

 そうならないためにも、守るものは守り、より積極的に行動していこうと思わずにはいられない。常に自分に責任を持って目を曇らせないように。

 火の始末を済ませ、レネゲイドに夜警を任せると三人を抱えて責任を果たすことにした。

 だって、夫婦水入らずなんだもん。


 翌日からも西へ向かう旅は続き、途中の名所旧跡の類を片端からのぞき、地のものを食べて温泉を頂いたり、土産物屋で散財したり。

 心を癒す旅を堪能した。

 それから三泊の野宿を楽しみながら、ギーフへとたどり着くことができた。

 この辺へ来るとこれまでであれば例の解放の光がどういう訳だか湧いて出て、ブンブンと蝿か蚊のようにうざかった。ところが資金源が絶たれたためか、国家公認の犯罪組織となり下がったことを親王陛下より公表されたためか、大部分の構成員に手配がかかり、一転追われるだけの身の上になったからか、トンと音沙汰がなくなった。

 嬉しいことではあるが、俺の手で捻り潰すつもりでいただけに、少し残念でもある。

 セイトの都ごと地図から消し飛ばすつもりでいたので、それを聞いた陛下より様々な手段が先行して手配されたのだった。

 「そなたが言うと全く冗談ではなくなってしまうではないか。」と、冗談ではなかったのでそう言われてもと反論したものだった。「くれぐれも早まるでない。」と。失礼にもほどがある。

 一射撃で仕留めるつもりだったから、冷静だったのに。

 琵琶湖が今の3倍くらいの大きさになるだけじゃないか。と言ったらこめかみを揉んでいらしたのが解せない。

 京都が古都であり、風情溢れる観光名所で歴史遺産なのは俺の居た世界であって、今いる世界では都全てが犯罪者かも知れなかったのにな。

 アニエスの生家は刀匠と言われる名家で、ギーフと言うより神国でも有名な刀鍛冶、包丁職人が住まうというセキという城下町であった。

 今では人口が9万人に達し、アイチが近いことから商業都市として栄え、立派な街となっている。

 そんな繁華街などが集まる中心地にアニエスの実家があった。

 「ただいま戻りました!」

 工房と居住区が一体となった相当に大きな屋敷が目の前にあり、通りから入るくぐり門が格式と歴史を物語っているようだった。

 何となくだが、俺たちのような若造がたとえ貴族でも門前払いされそうな、頑固一徹な匠の世界に生きる職人なのではないかと、少し身構える部分がある。

 「はい。今参ります。」

 奥から落ち着いた雰囲気のある女性の返礼があった。

 数瞬の後、割烹着を着た年のころで50歳前後と思われる人が玄関に現れた。

 「お嬢様?いかがされましたのでしょう。・・・そちらにいらっしゃる殿方はどちら様でいらっしゃいますか?」

 「こちらはヤマノベ公爵様です。」

 「は!?公爵様で?それはまたどのような用向きでいらっしゃいますか?」

 すぐにも膝を折り、女性らしい控え方をされた。

 「私は親王陛下に仕えますソウタ=ヤマノベと申します。この度、こちらのアニエスさんを嫁に迎えることになりましたのでその挨拶に伺いました。」

 「はい?うちのお嬢様を嫁にと申されましたか?」

 「ええ、その様に言いました。」

 少しお待ちください。と言い置いて慌てふためくように二回ほど廊下で転びながら走って奥へと入っていった。」


 奥の方でザワザワとした気配があるが、俺たちは玄関先で放置されたままだ。

 5分経ち、10分をとうに過ぎたころにようやく一人の厳めしい雰囲気を醸し出している男性がやって来たのだった。

 俺を頭の先からつま先まで舐めるように睨みつけ、それからアニエスを睨みつけた。

 「アニエス。お前は貴族家に奉公に上がったはずだが、これはどういう経緯いきさつなんだ。」

 「お父様、私はこちらのヤマノベ公爵様のお屋敷に仕え、公爵様の身の周りをお世話する仕事を得ました。ヤマノベ公爵様は親王陛下の唯一無二の信頼を得て、数々の無理難題を解決して参られました。

 そうした時間を経てお仕えする間にお心を通わせていただける機会を得、このたび正式に嫁として迎え入れていただけることが決まりましたのです。」

 「そうか。では公爵様。今更決まったことに口を挟むつもりもない。このような娘で良ければ末永く可愛がってやっていただきたい。

 しかし、私自身は心の中でそれを良しとしてはいないかもしれません。」

 「お父様?何を言っていらっしゃるのですか?」

 「お前には関係ない。公爵様、この娘が惚れるのですからお人柄に問題はありますまい。その武技、技量のみを問いたいのですがお時間を頂戴してよろしいか?」

 「そんな失礼な!お父様おやめください。」

 「いい、アニエス。俺はアニエスを貰うために自分を認めてもらう自信がある。大丈夫だから任せなさい。」

 ほう?とアニエスのお父様は片眉を上げた。

 「では、こちらに。」

 そう言い置いて奥に入るかと思いきや、草履ぞうりを引っ掛け俺を誘って屋敷の裏手へと歩いていった。

 アニエスにシロップとフィアを任せ、二人で板貼りの剣道場のような場所へと入った。

 中央に座るように勧められ、板の間に胡坐あぐらをかく。

 「失礼」とだけ言い置いてお父様は神棚のような場所に祀られていた一振りの刀を神棚への最敬礼の後に手に取ってきた。

 「これは?」

 「はい、これは我が家に伝わる宝刀のうちの一振り、”魔剣如月きさらぎ”といいます。先祖伝来の品ではありますが、何代目の当主が打ったものかも判りません。

 手に取ることかなわず、鞘から抜くこと敵わず。そう言われ過去の刀匠たち、先代たちがこの宝刀を鞘から抜き、あらためようとしましたが未だかつてこの刀を鞘から抜いたものはおりません。

 親王陛下の懐刀ふところがたなと言われる公爵様に世界を掴むほどの力量があり、この刀に認められれば私は心よりのアニエスの嫁入りに祝福を与えられると思います。

 いかがでしょうか?」

 どうやら底意地の悪いという人ではないようだが、先祖代々刀鍛冶でありながら伝来の品なのに見られないという品物を擦り付け、試そうという事らしい。

 「結構ですね。私も興味がわいてきました。」

 ニヤニヤとわざと不敵な笑みを浮かべ、お父様からその刀を預からせてもらった。

 手に取ると意外と重い。少し反りのある日本刀らしいシルエットを鞘に隠し、柄とつばのこしらえがシンプルなことを見過ごしてしまいそうなほどの霊的なオーラをその身に纏わせているようだ。

 無心に刀を調べていくと、鞘に収まってなお隠し切れない霊力があふれ出しており、盛んに何かを訴えようとしているように感じた。

 〔あなたは不思議な方のようですね。〕

 ん?本当に剣が喋るのか?

 〔それは不思議なことでして?八百万やおよろずに神が宿る国ですよ?刀にだって人格がありましょうとも。〕

 それもそうか。それで、如月と言ったかな。本当に鞘から抜くことができないほどに恥ずかしがり屋さんなのかい?

 〔はっ、まさか。私を手に取るにはつたない者ばかりでしたから、ちょっと意地悪しただけですよ。私は所謂いわゆる魔剣ですからね。所有者が柄を握るたびにその魔力を頂いてあらゆるものを切り裂くのです。

 存分に振るえそうもない者に抜かれて傷でもついたらどうしますか。〕

 ははは、正直なお嬢さんだな。俺ではまだ足りないかその身体で確かめてみないか?

 〔お、お嬢さんですって?そんな風に呼ばれたのは初めてね。いいわ、試してみてあげる。こうして言葉を交わせるだけでも実はたいしたものなのよ。私を手に取ってみて。〕

 ひとつ深呼吸をしてからつかに手を掛け、鞘に仕舞われたままの如月をそのまま両手で支え、構えを取る。

 お父様は一言も発せず、真剣な表情で俺の一挙手を見逃すまいと睨みつけていた。

 〔ああ、この感じ初めてね。後から後から優しく押し寄せる気持ちの籠った霊力だわ。

 あなた、私のモノにならない?自在に振るわせてあげるわ。〕

 うん、とても魅力的なお誘いだな。しかし如月、私には3人もの守りたい嫁がいるんだ。

 みなと一緒と言うならいざ知らず、お前だけのものとなるわけにはいかないな。

 〔あら、いけずね。いいわ、貴方ならきっと私も退屈しないでしょう。私は四人目の嫁で良いわよ?〕

 キン!という何かが弾け飛ぶような響と共に鞘の鯉口こいくちの部分から切羽、はばきと刀身が覗き始め、棟のギラッとした閃きの末に鞘が勝手に抜け落ちた。

 「なんと!」

 お父様の言葉と同時にヌラッと光が纏いつくような刀身がその身を晒した。

 俺からグングンと魔力を吸い上げる如月は徐々に濡れたような表情を輝かせ、濃い紫の光と黒に近い赤色の光を刃金はのかね棟金むねかねに纏い、全長700mmほどの光剣となった。

 〔いいわ。とてもいいわよ。ああ、1000年ぶりのこの世で見たのが色男で良かったわ。〕

 そりゃ、お眼鏡にかなったようで何よりだよ。

 「こ、公爵殿。この刀鍛冶に如月を良く見せてはいただけませんか。」

 感動に打ち震えるというのはお父様のような状態を言うのだろう。双眸から零れる涙は感涙。両手は鉄を鍛える鎚によって節くれだち、仕事をしている手だが、それも今はただ震えている。

 〔いやだわこの子、そんなに見られたら恥ずかしいじゃない。〕

 「お父様、そんなに見つめると恥ずかしいと言ってますよ?」

 笑いながらそう言うと、チラとこちらに視線を寄こし、お父様も恥ずかしかったのかもう一度刀身に視線を落としてから俺を見据えた。

 「公爵様、感服いたしました。その刀はこのままお持ちになって下さい。如月が公爵様をお守りすれば、ひいてはアニエスの幸せを守ることになりましょう。どうか、この如月とアニエスをお守りくださいますか。」

 「お父様、お手をお上げください。過分な気遣いは無用です。それとアニエスの披露宴にはお越しいただけますよね。」

 「も、もちろんでございます。妻共々せ参じるつもりでございます。」

 平伏から土下座に変わりそうな勢いだ。

 〔へぇ、あなた貴族なの?公爵って言ったわね。やるじゃない。〕

 ああ、ソウタ=ヤマノベと言う。如月、よろしく頼むな。

 〔ええ、こちらこそ。これは楽しめそうね。魔力も私の容量をはるかに上回っているわね。これは長く一緒に居られそうよ。ちょっと本当に私を離しちゃダメなんだからね。これでも嫉妬しっと深いんだから。〕

 お?おう。しかし寝所には連れ込めないぞ?その身体じゃ俺の腕や足が何本あっても足りない。

 〔ふふふ、そうね。いずれ大丈夫よ。あなたと共に経験を積めば私も成長するの。きっと気に入ってくれるわ。〕

 意味が分からないが、楽しみにしておこう。

 〔ふふ、それがいいわね。〕


 お父様から合格以上の合格を貰い、如月を堪能したお父様は俺にまとわりつくように付いてくる。

 男のツンデレなんて勘弁してもらいたい。

 客間に待たされていた三人は、お母様と言う方と団欒だんらんを楽しんでいたが、アニエスは二人きりで姿を消した俺たちが気になって仕方なかったらしい。

 客間に現れた俺を認めると、バッと立ち上がり近づこうとしたのだが、俺の持つ如月に頬摺ほほずりしそうなほどにくっついているお父様に逆に引いてしまった。

 「お、お父様?何をなさっているのですか!?」

 「うむ、気にするでない。私は公爵様に如月を託し、別れを惜しんでおるのだ。」

 「私がお嫁に行くんですよ?」

 「うむ、それはめでたいからよいのだ。」

 「なんですかそれ?」

 「如月までが公爵様を気に入ってしまって、付いていくというのでな。こんな悲しい話があろうか?」

 「アニエス、あの人は刀匠であってご先祖が作ったという”抜かずの魔剣”を抜かれてしまったのが悔しいのでしょう。そしてまた、公爵様の懐の深さに心酔しているのでしょうよ。

 アニエスの旦那様になるお方が如月の所有者になるというのはとても感慨深いモノがあります。幾久しく、幾代もの間アニエスとその子たちを守ってくれるでしょう。今日はとても晴れがましい日だわ。」

 お母様はとても喜んでくれているようで、俺としてもとてもありがたい。

 また、落ち着いた雰囲気のお母様は今も俺を離そうとしないお父様と比べてもとても頼りになりそうである。

 ちょっと、お父さん、いい加減離れて欲しいのですが。

 正直気持ち悪いです。

 ぷうっと膨らむ頬を隠さないアニエスの頭を撫でながら、お父様に困った顔を向ける。

 シロップとフィアは楽しそうにその様子を眺めているようだが、嫁が四人になったことを少し、言い出しづらい。

 どのタイミングで切り出そうかと、内心では俺だけが穏やかでなかったのだ。

意志を持ち喋る魔剣。ロマンです。

如月の活躍は次回でしょうか。

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