【第54話】まほろば
今話もお読みいただき、ありがとうございます。
サブタイトルにあるようにしみじみとした会話が中心の、まだ若い家族が日ごろ交わす会話を中心にしています。
翌日からの三日間は晴天に恵まれたこともあり、脱兎の勢いで北行を続けた。
休みも碌にとらずに走り、馬たちの様子を見ながらひたすら北を目指した。「馬車馬のように」なんていうが、俺たちの大切な家族である馬たちは使い潰すわけにはいかないのだ。
生活車両と資材車両は四頭立てで、俺の馬車は二頭立て。
当然重量の異なる馬車であるから必要に応じた馬力の付加は当たり前で、本当なら四頭立てでも少し不安があるくらいなのだ。
俺たちの馬車は移動中は四人が乗るだけで、シロップとアニエスの私物などはすべて生活車両の方にあり、実は二頭でも余裕がある。
しかし、資材車両はレネゲイドの予備部品や工具類が満載してあり、かなり重いのだ。
6頭立てでも本来なら心許ないくらいのはずだが、魔石の一つである「浮遊石」によって車重軽減の魔法が効いており、生活車両よりも若干軽いくらいの重さになっている。
生活車両も同じように浮遊石が組み込まれており、車重の軽減効果がある。
浮遊石は魔力の充填によって自身とその周囲の重量を浮力によって軽減しようとする効果があり、資材車両には20kgの漬物石ぐらいの大きさの魔石が。
生活車両にはソフトボールぐらいの大きさの魔石が車体中央に組み込まれている。
これらの魔石は魔石師なる魔導技師たちにより作製されたもので、製法は国家の秘匿事項となっているうえに魔導技師は技量のいかんに捕らわれず国に囲い込まれている。
爆裂魔石などの自然災害級の誰にでも扱える兵器開発が可能な魔導技師を野放しにはできないのだろう。
故に魔石は一般的に流通はしないし、裏世界にもそう多くは流れていない。
製作者本人の識別コードのような刻印がなければ作動することも叶わないし、溜め込んだ魔力を放出しながら効果を発現し、効力が切れると魔力を充填しなければならないのだがその際も製作者の識別コードがない物は魔力の充填ができない。
そのため、不正な流通がほぼ不可能であり、製作者側も非常に神経質になっているのだろう。
ここまでの道中で資材車両には4回の、生活車両には1回の魔力補充を行っているが、通常の魔石の充填可能回数は所謂製造品質に左右される。
名工と称されるような魔石師の作ったものは数百回の充填でも効果は失われず、末永く使用することができるが、腕を磨く途上にある魔石師の物だと下手をすると10回ほどで使い物にならなくなるものもある。
純度や籠められた魔法回路の複雑さ、全体の大きさに特徴を捉えた魔石ごとの最適化された用途などによってピンからキリまで実に様々な魔石がある。
資材車両に搭載されている魔石はトウトでも右に出る者がいないと謳われた稀代の名工によるもので、ほぼ半永久的に効果が期待できるとのことだった。
しかし、軽減しなければならない重量が元々大きいうえにこの数日でかなり負担を掛けたのだろうか魔力の消費が激しいのだ。
毎日昼頃には資材車両の馬たちが苦しがるようになり、昼休憩も兼ねて魔力の補充を行わなければならない。馬たちに十分な休憩も取らせ、また一昼夜走ると魔力が切れる。
さすがにおかしいのではと訝しむ俺たちだったが、魔石のことなど判るハズもない俺たちでは原因を明らかにすることはできなかった。
ただ、俺やフィアにも変化があり、一晩で疲れがとり切れなくなってきていた。
「フィア、ここ数日体がだるくないか?」
「ソウタさんもですか?他の方たちには影響がない様なので私だけが調子を崩しているのかと思っていました。」
「魔法力の高い者に影響が出てるんだろうか?」
「おれたちゃぁ、特にどうと言うことはないな。大丈夫なのか?」
シゲさんたちの心配ももっともだ。ダメージディーラーの俺たちが凹んでいてはこのパーティーの被害がことさら心配になると言うモノだ。
決定的に不調を被るようなことになればさすがに進むのを諦め、解決を図ろうと思うのだが、急ぎな上に少し体調がすぐれない程度なのだ。
なにか結界のようなものか魔術による阻害なのだろうが、このぐらいであれば正体を突き止めるまでもない。
海底トンネルの進入口にたどり着くころには半日に一度の魔力補充が必要な頻度にまでなっており、俺自身の消耗も激しい。
「ソウタ、少し休め。この状態で万が一接敵があった場合に取り返しがつかねぇ気がしてならん。」
「そ、そうですね。ちょっと甘く見積もっていたかもしれません。」
シゲさんによる強制的な休憩となり、まだ午前中ではあったがお茶休憩となる。
フィアも意外に辛そうで見てるだけでしんどそうにしているのが判る。救いはそのほかのみんなが元気でいることで、シロップやアニエスも一生懸命に働いており、見ているだけで心が休まる。アニエスが俺とフィアに冷たく絞った手拭きをくれて、額の油汗を拭う。
俺たち二人だけがまだ寒いはずのこの季節に汗を掻いているのだ。
どうにかフィアの首筋なんかも拭ってやり、人心地ついた。
「どうしたんだろうな。」
魔力的な流れも感じられず、正体のしれない魔法阻害の手段に不安が首をもたげる。
これ以上酷くなると正直、何があっても対処できないような気がするのだ。そうしたときに限って敵が襲うのではないかと心配が尽きなくなる。
少しばかり回復しても馬車の魔石に魔力補充をすればまた、辛いことになる。
かなり危ない状況かもしれない。
これがエイゾの守りとなっているのかナッサウ家の陰謀の一つなのか判らない上に対抗手段もまだ、皆目見当が付かない。
二時間ほどの休憩の後、馬車を走らせはじめ、いよいよ青函トンネルへと入って行った。
両側に魔力灯が灯されており、この中では魔力が途切れることはなさそうだった。
俺たちの体調も回復しているようで、フィアにも口数が増えて調子が戻っていることが見て取れる。
あの辺り一帯はどういう力が働いていたのだろうか。
通常の魔力量しかない魔法使いであれば、身動きも取れなくなっていたことだろう。
緩やかに下る幅広の通路を快調に飛ばし、勾配が無くなるとしばらくは魔力灯の数も減り、高速道路のトンネルを走っているようだ。また、トンネルを抜けるころには灯りの数も増えるのだろう。
何時間こうして薄暗いトンネルを走っているのか判らなくなりそうなころに、登り勾配になってきたことが判った。
「登り切ったらエイゾに入りますね。」
後ろの馬車のメンバーにそう言葉を投げると、全員が前を指さして口をパクパクと開いている。
何をやっているのかと正面に向き直ると、トンネルの出口の向こうに鉄道用の架線が続いており、複線になった鉄道用の軌道が見えたのだ。所謂線路だ!何年も見なかった線路。
コンクリートの枕木に広軌(レール幅1,435mm)のレールがしっかりと見えた。
なんで?と言う疑問と時を同じくして隣の軌道に振動が伝わり始め、警笛が響き渡る。
「みんな危ないから寄ってください!」
轟音と共に列車がやって来る。そんな馬鹿な!H5系北海道新幹線「はやぶさ」が真正面から恐ろしい速度で突入してくる。
トンネル内が轟音で俺たちの叫び声や馬の嘶きまでかき消され、命の危険さえ感じたその瞬間、静寂が訪れた。
そう、目の前まで迫って来ていた「はやぶさ」がトンネルに突入すると同時に消えてなくなったのだ。
「い、今のはなんじゃ!?」
「H5系新型の新幹線ですね。」
「ソウタ?何を言ってるんだ。」
「俺のいた世界で今度、このトンネルを走ることになっている電気で動く乗り物です。730人の乗客を乗せて時速320㎞と言う途方もない速さでお客を遠くまで運ぶものです。」
「それが何でこの世界を走っているというんじゃ?」
「判りませんが、トンネルの出口が本来の場所と違う世界につながっていたのかもしれません。見てください。今は路面は舗装されているだけで、頭の上には電気を流すような線は見当たりません。
先ほどは鉄骨で作られた電線を支持する架柱が並んでいましたが今はありません。もう元に戻っているとは思いますが、注意して進みましょう。」
「ああ、みんな!周囲に変わったことがないか注意してるんだぞ。」
全員で周りを確かめながら馬車を最徐行で進ませるが、トンネルの出口で一度停車し、フィアと俺だけでその先を確かめる。
「どうやら大丈夫そうだな。」
「はい、道の様子が変わっているようには見えませんね。」
「さっきはどうなることかと思ったぜ。」
「え?私はてっきりソウタさんが元の世界へ帰れるチャンスだったと思ったのですが。」
フィアを軽くにらみ、驚いた顔をしたフィアのおでこをちょんと突いてやる。
「フィアのいるところが俺の帰るところだと言ったはずだが?」
俺の腕をキュッと掴んだフィアが満面に花の咲くような笑顔を浮かべ、笑った。
「そうでした。まだまだお嫁さんもいますから、勝手に帰られては困ります。」
「だろう?」
短い言葉を交わし、後ろに向かって「おいで」のサインを出す。
急いで馬車に戻り、発進させると次々と馬車がトンネルを抜け出した。周囲を警戒しつつ馬車を進めるとやはり普通の街道が続く風景になっており、全員が一応の安堵と共にため息を漏らした。
間もなく神国最大の一つ国であるエイゾの国境の関所が目の前に立ちはだかる。
「止まれ!身分を証明するモノを持っているか?」
「お勤めご苦労様です。冒険者カードがあります。お確かめください。」
俺は首から下げている冒険者カード(ミスリル製メダル封入)を衛兵に手渡した。
「こ、これは失礼をいたしました。皆々様はヤマノベ公爵様の家令の方々でよろしいでしょうか?」
「もちろんです。念のためにお調べになりますか?」
「とんでもございません。ご無礼を平にご容赦ください。まさか公爵様が冒険者のようなお姿でおいでになるとは思いもよりませんで。」
「お気遣いなく。お役目ですからそれで正しいのです。不快には思っておりませんのでどうか、お仕事に戻られてください。私どもは通っても?」
「はっ!道中お気を付けください。」
立式の臣下の礼を摂り、駆けて兵舎へと衛兵が戻って行った。
俺たちは馬車に乗り込み、進ませる。
後ろの居室になっている箱馬車からシロップが顔をのぞかせる。
「いつ見てもソウタさんの立ち居振る舞いは立派です。さすが私たちのお館様です。」
「家族で居る時は”お館様”は止めてくれよ。」
「だって~、カッコいいんですもの。」
その後ろから覗いていたアニエスもうんうんと大きくうなずいていた。
「二人に褒められると照れるだろう?」
「あの、あの、私だっていつもカッコいいと思ってるんですが?」
「フィア、大丈夫だ。それはフィアの顔を見たらわかるよ。ありがとうな。」
ワシワシと髪を撫でると目を閉じて感触を楽しんでいる。
私も、私もと、シロップやアニエスも催促してくる。順に二人にも優しく髪を撫でてあげるとアニエスが不満そうにする。
「なんでワシワシしてくれないんですか!」
俺も微笑んでから、アニエスの髪をワシワシとかき混ぜ、次いでシロップの髪もかき混ぜてやる。みんな平等に構ってあげないとね。
三人が十分に満足してくれた頃に街道が少し広くなり、馬車の止められるスペースを備えた茶屋などが数件立ち並んでいる場所へとたどり着いた。
俺は中でも店先にいくつもの腰掛を出している茶屋へ馬車を止めた。
「ちょっとここで休憩しよう。」
「ちょっと甘いものがほしいです。」
フィアがそう言うとシロップもアニエスも目をキラキラさせて同意している。
後ろの馬車も続き、みんなが降りてきた。
それぞれが甘いものを注文し、ほうじ茶と一緒に楽しんで人心地ついてから先ほどの件について話し合っている。
「あれって、おやかたさまぁの世界の乗りものだったんでしょ?大きくて速いのに驚いたよ。」
「それもそうではあるが、なぜあのようなことが起こったのでしょうな。」
ちょっと説明のつかないことだし、旨くは説明できないのだがこう言う事ではないか。
「ツカルで魔力異常があったでしょう。あれが原因ではないでしょうか。本来の目的としては本土からエイゾに魔法使いや魔術師が陸伝いに侵入するのを防止するための一種の結界のような役割があったのだと思いますが、俺やフィアの魔力量が多すぎて本来の役目を果たしきれなかったのではないかと。
残った魔力がトンネルの中に満ちたことでなんらかの形で異世界とつながったのかもしれません。」
「ソウタ殿は元の世界へお戻りになる良い機会ではなっかたのでは?」
「いいえ、それは違います。俺の場合はフィアがいてシロップがいて、アニエスのいるところが俺のいる場所です。守るものが何であるか?どこにいるか?それが重要なことであって、自分がどこにいるかは問題ではないんですよ。」
「そうでしたな。公爵様の生活の基盤はこの世界にあるのでしたね。」
「はい。ソウタさんは私たちを置いていったりはしないそうですからそんな心配はいりません。」
シロップもアニエスもそれを聞いて安堵の表情を浮かべている。
キヨシゲさんの「良い機会」を聞いて俺の表情を探るように見ていたのだ。
フィアの断言にも似た話を聞いて安心できたのだろう。ってか、アニエスが泣きそうになっているのが心に刺さるんですけど。
アニエスの髪をクシャッと撫でると、本当に安心したようだった。
最初の監査を行う場所ハコタチまでそう遠くもないが、今日中にたどり着くのも難しそうで、雄大な牧場にキャンプを張る許可を貰い、夕食の準備を始めた。
牧場主が肉を買ってくれないかと持ち掛けてきたので、遠慮なく買わせてもらうことにしたのだが、放牧されている牛を見るとあまり栄養状態が良くないのかとても痩せた牛ばかりだった。
「ご主人、牛たちにあまり元気がないように見えますが?」
「やっぱりそう見えるかい?いや、牧草の生育が悪い土地でね。本来なら後ろに見えるトサンの山から雪解け水が豊富に流れてくるはずなんだが、水力発電設備とか言うのができてから水が十分に来なくなっちまってよ。」
「トサンですか?」
まあ、あれだな。銀座が日本中にあったようなものだろう。
「イクオ君、監査資料を見てくれる?そんな発電設備なんてあったかな?」
「ちょっと待ってください。」
ユンカーさんから送られてきた方の資料を調べると確かにあった。
総発電量は非常に小さいもので、どちらかと言うとダムのモデルケースとして作られた実験施設のようなものらしい。
それでも立派なアーチ形のダムになっているようで、大きな河川に建築する前に試験的に用意した物だろう。
糊口をしのぐためにもと、牧場主から大量の肉を買い取り早速タレに漬け込んで下味をつける。炭を熾し、大きな焼き網を載せるとバーベキューの準備が完了した。
野菜や肉を各自が焼いて食べ、少しのお酒もふるまって楽しく夕食を済ませた。
生シイタケやトウモロコシが焼けてくると醤油と相性ばっちりで、酒にも良くあった。
肉も悪くはなく、若干脂の乗りが足りないが焼いて食べる分には申し分なかった。
焚火だけは残し、食後に火を囲むように腰かけて明日の話をする。
「ハコタチへ行く前に今日話に出た発電所を見ておきたいですね。資料によると実験施設のようで、インフラの役には立ってはいないのでしょうが手元の資料と見比べる練習もしておきたいです。」
「近いようだし良いんじゃねぇか?」
フダホロの貴族が作った資料は結構詳細な説明が加えられており、どれだけの投資を行い、何を目的としていたかなどもまとめられている。
資料は確かに立派な仕上がりとなっているが、現物がそれと一致しているのかは見るまでは分からない。手近の小規模施設で肩慣らしという訳だ。
資料を回し読みし、全員で大体のところを頭に入れてから就寝となった。
今日はシロップもアニエスも同じベットにやって来て、一緒に寝ることになるようだ。
海峡を越えてエイゾはまだ春は遠い様なので温かくしようじゃないか。
やたらと甘える二人にどうしたのかと聞くと、トンネル騒ぎで俺がいつか居なくなる可能性に思い至ったらしく、心配でたまらないというのだ。
そんな無責任に見えるかと問えばシロップは首を横に振る。
「ん。そうじゃんん。ないんですけ・・ど、やん。別の場所で生まれた人だって、んん。き、聞いたから、ああん!」
息も絶え絶えにシロップが説明してくれた。黙って聞いてあげるべきなんだがシロップを愛している途中だったので、しょうがなかったのだ。
フィアはシロップの髪を撫でながら優しい笑みを浮かべている。
「シロップちゃんもアニエスちゃんもまだソウタさんと長く居るわけではないですからね。きっとあんなことが有れば不安にだってなりますよ。」
それを聞いてアニエスは俯せで肘をつき、俺とシロップの向こう側に居るフィアに意見する。シロップは俺と一つになっていてそれどころではない。
「フィアちゃんは心配になったりしないのですか?ソウタさんはこの世界の生まれではなくて、別の世界に暮らしがあったでしょう?それが懐かしくなったりするかもしれないじゃない?」
「う~ん、3年一緒に暮らして思ったのですが、ソウタさんは全くそんなこと考えてもいないと思いますよ。聞けばあちらの世界のことも何だって教えてくれますが、いつも一番に考えてくださっているのは私たちのことでした。
契約の時には必ずヴァルハラまで連れて行ってくれると約束してくれましたしね。
子供ができても嫁にはやらないんだって言ってたくらいですから、こちらの世界で死ぬまで私たちと一緒に居てくれますよ。」
「ずっと一緒に居られればそんなこともわかるようになってくるんですね。そんな時間を過ごせたフィアちゃんが羨ましいですよ。」
俺を挟んで俺のことを語り合っているのを俺が黙って聞いているというのはものすごく滑稽なものがある。
シロップは盛大に駆け上ってイってしまって、お休み中だ。
「なあ、次はアニエスの番でいいのかな?」
「え?ふゃ、ちょっと待ってください。ってなんで登ってくるんですか?」
いつかフィアにやったように、俯せのアニエスの背中にのそのそと這い上ると、背面からアニエスのオムネを蹂躙する。
最後は顔を見ながらじゃないと嫌だと泣くので向かい合って愛し合ったが、正面からキスされるともう我慢できずに登り詰めてしまった。びっくりだ。
二人を休ませ、フィアに目で合図をすると華のように微笑んでくれる。
「待たせたな。」
「いえ、二人もすっかりソウタさんのお嫁さんらしくなりましたね。こうして一緒に居て恥ずかしがらなくなりましたし、可愛いですよね。」
「うん、まぁそうなんだが、心配させちゃったみたいだったね。フィアが言ったので満点の解答なんだが、いずれ判ってくれるよね?」
「はい、私も最初は随分心配しましたから。」
「へぇ?それは初耳だぞ。そんな素ぶりなんてあったかな?」
「どうでしたかね?もう覚えてません。でも私、やっぱり契約してもらって良かったって思いますよ。それだけでどれだけの安心を貰ったか判りません。」
可愛いことを言いながらしがみついてくるフィアをたくさん、ゆっくりと可愛がった。
フィアも俺の上で休んでしまい、俺も寝るころになってふと思いついたが、シロップとアニエスにも指輪を用意してあげないとな。
こうした少しずつの心配りが二人の安心につながってくれるといいのだが。
思いついた今のうちにと、フィアをのっけたままゴソゴソと土魔法を発動してクレイを生成し、すっかり眠っているシロップとアニエスの左手薬指の型取りをしておいた。
後で採寸するのが簡単だからね。
よほど気を付けてやっていたのだが、シロップが「ふふふふふ」と嬉しそうに笑った。
こっちがギョッとなってしまったが、寝言のようだ。
驚かせないでくれよ。そう思うとちょっとおかしさがこみ上げてくる。
シロップの前髪を整えて髪を撫でるとニマニマと表情が崩れ始めている。
「起きてるな?」
「だって、手を取られたり冷たい粘土を押し付けたりされたら目が開きます。嬉しくて我慢できませんでした。」
「結婚指輪は帰ってからじゃないと作れないからな。二人に似合うヤツを用意するよ、楽しみにしててくれ。」
「はい、ありがとうございます。今夜は手を握って下さい、さっきの粘土で冷えちゃいました。」
「そりゃ、ごめんな。しっかりつないで寝ようか。」
「はい。」
もう、10年くらい砂糖買わなくてもいいかも。
いつかシロップとアニエスの初めて物語を書いてみたいです。なんかもう、堂々としちゃってますもんね。




