【第47話】ツクバ魔法科学省
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
戦闘シーンが書ききれませんで、二部構成になりそうです。
翌日の朝にシロップとアニエスはキッチリと役目を果たしに来てくれた。
「ほらフィア、二人が来てるんだから目を覚まさないか。」
ぐでんと力なく垂れさがっているフィアを俺が脇に手を回してぶら下げると、アニエスが片足ずつ持ち上げてパンツを通す。シロップが引き上げてパンツが所定の位置へ。
今度は俺が屈んでフィアの腰を支える。二人がフィアの腕を上手にさばいてブラの肩ひもを両手に通し、アニエスが昨夜俺が外したブラのホックを止めるとシロップが昨夜俺が揉みしだいたオムネの収まりを治してくれる。
バンザイさせて丈の短いシャツを着せ、ベージュの伸縮素材でできたデニムパンツを三人で協力して履かせた。同じ素材でできているジャケットを着せてどうにか人前に出せる状態に仕上がった。目が開いてないけど。
「いや、実際ふたりがいてくれて助かるよ。出会ったころはこんなじゃなかったんだけどさ、段々ひどくなってる気がするよ。」
「それだけ気が許せるようになったという事ではないのですか?」
「そうです。気を張る必要がない時はゆっくりと寝られると思いますよ。私たちもお休みの日はたっぷりと寝坊しますから。」
きっと二人の言う通りなのだろう。
そうこうして朝食の準備が始まり、ゆらゆらと揺れながらフィアがサラダの葉野菜をむしっている。普通、剥くことはあっても毟るのは初めて見たぞ。
全員で朝食を食べながら、今後の予定を確認していく。
情報の共有は安全の基本だからな。
「今日の午後にはツクバに入ります。学園都市は広範に登りますので、まずは魔法科学省に直に尋ねていこうと思いますが、いかがでしょうか。」
「それがいいと思います。まずは直接訪ねて、魔法科学省の感触を確かめたいですね。」
イクオ君の意見ももっともだ。
キヨシゲさんは別の意見があるようだ。
「私は少し距離を置いて周りを見てみる方が良いのではないかと思います。学園都市内にどのような風聞が伝わっているのかを知りたいと思います。
ここは二手に分かれるのも良いのではないでしょうか。
ソウタ殿は公爵の肩書を活かして正面から。私は周辺を調べますよ。これらを持ち寄るとまた、別の事実が見えてくるかもしれません。」
この意見も良案のように思う。
一度に全員で押しかけても警戒させるかもしれないし、今のところ危険なこともないだろう。
「キヨシゲさん。その手で行きましょう。学園都市での聞き込みはキヨシゲさんとハルシゲさんを中心にキヨシゲさんにはサチさんとコウレイさん、チズルさんが付いてください。
ハルシゲさんにはタケヨシさんとシノさんアオイさんイクオ君が付いてくれますか。
俺とフィア、シゲさんとチカゲさんにシロップとアニエスで魔法科学省に行きます。
周辺での聞き込みは年齢に幅を持たせてもらえますか?学生だけではなく、周辺の店舗や宿なんかも話を聞いてみてもらえますか。」
こうして3班体制で現状把握に臨むこととなった。
「みんな、これからやることはまだ何にも分かっていないことなんで、危険の大きさも判りません。どこに危害を加える存在があるかも判りませんので、細心の注意を払って行動しましょう。
それと調査は遅くても日が落ちる前に終えましょう。日暮れにはここに戻って下さい。
考えたくはありませんが、万が一何かが起こった場合は護衛隊の誰かが戻ってきてください。害意のある集団の中から素人は脱出なんてできません。
ここは少人数でどうにかしようとせず、戦闘職が他へ連絡を取れるようにしてください。
では、お願いします。」
俺たちのブリーフィングが終わり、全員で速やかに片づけを行った。
俺の馬車に店員オーバー気味に6人が。
生活用の馬車にキヨシゲさんら4人。資材用馬車にハルシゲさんら5人が分乗し、手分けすることになった。
俺たちの馬車は魔法科学省の建物を目指し、街道をゆっくりと進んでいる。
別部隊はそれぞれに違う場所を目指し、別れた後だ。
魔法科学省は公爵が住まうにしては城ではなく、近代的な研究施設としての機能が優先されているようでオフィスビルのような外観をしている。
建物の正面には車宿りがあるが、大きなものではなく俺たちの馬車でちょうどと言ったほどだ。
先触れも出していないので迎えなどあろうはずもないのだが、人の気配さえ感じられないのはどういう訳だろうか。
俺とフィアの後ろにメイド二人が、その後ろにシゲさんとチカゲさんが並び、扉を押し開き中へと入る。やはり、中はシンと静まり返り、人の気配が感じられなかった。
キョロキョロと左右を確かめながらホールを通り過ぎ、さらに奥へと進もうとしたところ声が掛けられた。
「どちらさまでしょうか。」
全員で左に伸びる通路を見ると、白衣を纏った不健康そうな痩身の女性が立っていた。
「うん?」
目に見える彼女は研究員なのか、博士みたいな人なのか判らないがスラックスにブラウスと言う装いに白衣を纏っているいかにもな研究者だが、俺の目には別の女性がダブって見えている。
黒い燕尾服のような上着で黒のレオタードのような煽情的な衣装しか纏っていない痩身の体を隠している女性だ。
ダブっていないのは不健康そうな肌艶を失った綺麗な顔と、透けて見えなくしているのだろう蝙蝠のような翼だ。
フィアがそちらに向かい歩き出そうとしたので、肩をつかんで止める。
「どうしましたか?」
俺の表情から何かを感じたのか、疑問を投げかけたフィアがもう一度白衣の女性を見やる。
「わからないか?あいつはサキュバスか吸血鬼だ。」
「え!?」
俺の周りに居る全員が息を飲んだ。
サキュバスはフィアのように血の契約を済ませていない個体については恐れるには値しない。しかし、翼がある時点で契約済みの個体かもしれない。そうなると少なくともレベル10の魔法は使うだろう。
契約主がどれほどの魔法を修めているかによってサキュバスの魔法の種類も決まる。
そう言った観点からすると、フィアの戦闘力は破格のモノがある。
地水火風の四大自然魔法と、光闇聖呪純の五大精霊魔法、それらを混合させる神聖魔法をレベル10で俺からコピーして取得している。一般的に知られているほぼすべての魔法を最大の威力で使えるのだから、近衛騎士団でも神殿騎士団でも大隊レベルでフィア一人に敵わないだろう。
そうした意味では相手の契約主の力量に依存される訳だが、フィアほどではないだろう。
吸血鬼の場合は強大な生命力から契約後のサキュバスのように髪の毛一本からでも再生してしまう不死性と、その体格から想像もできないような剛力を発揮する。
闇魔法と呪魔法に優れ、最大の特徴は吸血だ。
俊敏且つ強力な肉体を活かして相手を吸血し、自分の眷属として利用することも血袋として干せるまで血液を吸い取り殺してしまう事もある。
眷属化されたらリミッターの外れた狂戦士として吸血鬼に従い、例え骨格が折れようとも立ち止まることがないという。元に戻すことができないという恐ろしい呪いだ。
いずれにしても厄介そうな相手ではある。
「どちらさまでしょうか。」
再びの問いかけに、ひとまずは当り障りのない返答を返して反応を見る。
「突然に尋ねまして申し訳ない。私はソウタ=ヤマノベと言うトウトの貴族です。エルンスト=シュヴァーベン公爵様に親王陛下より言伝を預かっております。
公爵様はどちらにいらっしゃいますでしょうか。」
「わざわざお越しいただきまして恐縮です。公爵様は研究室に長く籠られております。食事さえも中で摂られておられる有様でして、私どももお身体の心配をしておる次第です。」
「何と言う事でしょうね。お手間を取らせまして申し訳ないのですがお口添えいただけますでしょうか。
何分親王陛下よりのお言葉ですので、直接にお伝えしなければなりません。」
「承知いたしました。では、公爵様のお部屋までご案内いたしますのでこちらにどうぞ。」
手招きされて、俺たちはこの女性のあとに付いていく。
ホールと廊下はリノリウムのような艶やかな表面をした素材でできていたが、途中から木の柱や漆喰のような塗り壁に板貼りの廊下に変わり、温かみを感じさせる空間になった。
多分、公爵の私邸に当たるエリアに入ったのだろう。
「こちらでお待ちください。ただいま公爵様にお伝えしてまいります。」
俺たちを部屋に置いて得体のしれない女性が出ていった。
しかし、私邸でありながらメイドもいない。当たり前とは言わないが、来客があればお茶の一つも出すだろうし、他に用件がないかとメイドが側に控えるものだ。
それが、あの女性が出ていったきり、また人気のない空間が訪れた。
「ソウタさん、あの女性、サキュバスではないと思います。同族であれば特徴的な部分で共感できるものがあると思うのですが、そうしたものが感じられませんでした。」
「フィアちゃんの言葉通りだとすると吸血鬼ってことになるのか。この人気のない建物、中にいた連中はもう、最悪はどこかで干からびてんじゃねぇだろうな。」
「本当ですか?でもなんでそんなことになったのでしょう?」
チカゲさんが不安そうに自分で自分を抱きしめるようにしている。
「怖い。」
シロップが呟き、アニエスと手を取り合っている。
判らないことは多いが、俺とフィアはソファーに腰を下ろした。向かい側にシゲさんとチカゲさんが座り、シロップとアニエスは俺たちの後ろに立ってくっつくようにしている。
その時、突然に入り口が開けられ、メイド二人は飛び上がって驚いていた。
「遠路はるばる申し訳ないですな。私がエルンストです。ヤマノベ公爵様、よろしく頼みます。」
部屋に入るなり自己紹介を始め、上座のソファーへと歩んでいく。
後に続いて先ほどの女性が部屋に入り、入り口を閉めた。
正体の分からない違和感が公爵から感じられる。歩く姿に言いようのない違和感があるのだ。
観察していると上半身の動きと下半身の歩行がちぐはぐな様に感じるのだが、今指摘することでもないだろう。
垂直に沈み込むようにソファーに掛けると、隣に控えるように立つ先ほどの女性を紹介してくれた。
「この女性はギーゼラと申しまして、主任研究員をしております。また、私の秘書でもありまして色々と助けてもらっております。
ヤマノベ公爵様、本日は親王陛下のお言葉をお伝えいただけるとのことですが、陛下はどのような用件を?」
蒼白な顔色、焦点の定まらない瞳、滑舌の悪さ。体温が感じられないのだが浮かぶのは”傀儡”と言う言葉。
もはや疑うべくもない死人だ。
「親王陛下は公爵様の身に万が一がなかったか確かめて欲しいとおっしゃいました。このふた月の間、大変ご心痛を抱えられ、旧知である公爵様をご心配なさっておられました。
様々な可能性を考慮され、私を頼みとされ、お遣わしになったのでございます。」
「そうでしたか。ここしばらく研究に身を捧げておりました故に要らぬ誤解を招いてしまったようです。ところでヤマノベ公爵様はどのようなお役目をなさっておられるのでしょうか。」
「新任の身ではございますが、断罪の任を賜っております。貴族に仇なす者、国の繁栄を脅かす者、私の仕事の邪魔となる者、そして無辜の国民に対し危害を加えるものなどをこの世から削除して回るのが務めでございます。」
公爵ではなく、ギーゼラの顔を見ながら話した。
動揺を隠せないその瞳は宙を彷徨い、一点を見ることなくせわしなく動き続けている。
「本日は公爵様がご無事であることが確認できましたので、これで失礼させていただきます。研究も大事なものでありましょうが、お身体もご自愛ください。」
「・・・」
人形の操り主がこれほど動揺しているようでは人形も上手くしゃべることができないのだろう。
「それとギーゼラ殿、明後日ごろもう一度参ります。公爵様の研究などについてお話をお聞かせください。親王陛下への報告に使わせていただきたいと思います。
さあ、みんな公爵様の研究の邪魔になるといけない。」
急かすようにみんなを立たせ、来た道を戻るように玄関へと出てきた。
かろうじてギーゼラもついてきて、見送ろうとしているようだが、額に流れる汗が半端ない。
「どうされましたか。お身体のご都合が悪いようでしたらこちらで結構ですので、お休みになって下さい。
あ、そうそう、私どものメイドが公爵様のメイドと仲が良いそうですので、遠くまで参りましたついでです。明後日、会わせてやっていただければ幸いですと公爵様にお伝えください。」
「生きていればですがね。」最後にそう聞こえるかどうかの小さな声で呟いてやった。
「あの、わ、わたくし気分がすぐれませんのでこちらで失礼させていただきます。」
軽い会釈だけしてギーゼラはこけつまろびつ奥へと走り去っていった。
「ソウタよ。ありゃぁ、単独犯かな。」
「そのようですね。」
「ソウタさんはなぜ、今断罪を行わなかったのでしょうか?」
「チカゲさん、単独犯とまだ断定できないからね。聞き込みに行ってるみんなの話も聞いてからでもいいだろう。大丈夫。逃がしはしないから。」
「ソウタさん、お腹がすきませんか?」
「奥様・・・」
「奥様、なんか色々と台無しです。」
「うへ?」
学園都市内を馬車で見学して回ることにした。
魔法科学省だけがあの吸血鬼の餌食になったのか、周辺の学生にまでその被害が及んでいるのか知りたかったことと、もし戦闘になった際の地理的な不利を埋めるために周辺地形を確認したかったためだ。
レネゲイドを使うことはないだろうが、そうなったときでも展開できる場所。戦闘が可能な場所などを知っておくほうが焦りなく戦える。
聳え立つ魔法科学省の建物を中心に学園都市はゆったりと放射状に学舎が点在する広大な敷地になっている。
一つの都市がまるまるこの中に入ってしまっている。
研究や実験に使われる建物、初級の魔法師たちまたは錬金術師を目指す者たちが黒板に向かって知識を吸収する教室棟。学生や職員の腹を満たすための様々な学食に外来者がくつろげる宿などもある。
変わったところでは銭湯や理髪店、魔石や希少金属などを扱う魔道具店などたくさんの施設が点在している。
昼を過ぎたころ合いの今、食事のできる店から満足げな学生たちや職員が教室や職場に戻るために通りを歩いている様子がうかがえる。
大学生だったころを思い出す風景に思わず頬が緩む。
「フィア、何を食べようか。」
「お肉ですね。」
周辺施設では吸血鬼の被害も出ていないのか明るい表情の人達を多く見かける。
そこだけは少しばかりの安堵を得ることができた。
しかし、魔法科学省の中で無事でいる人は多分いないだろう。
公爵でさえも眷属化されていなかった。死体を傀儡魔法で操っている位だから従業員も私邸のメイドや家令たちもすでに死んでいるのだろうと思う。
どのような理由でこんなことになったのかは判らないが、ギーゼラに聞けば答えてくれるだろうか。
飲食店の集まった通りを見つけ、馬車でゆっくりと通りながらどのような店があるのか見て回るのもフィアやシロップ、アニエスには好評だ。チカゲさんもキョロキョロと各店舗を眺めて四人で相談し合っている。
歳の近いので固めておいて正解だった。彼女たちは非戦闘員と言う意味でも俺たちの近くにいてくれた方が守りやすいし、と考えたわけだ。
「ソウタさん!あのお店にしましょう。」
「おう。」
ビシッと指さされた先の店は赤と黄色と白と黒と様々な配色によってハッキリとケバイ看板がいかにもだ。
”華式焼肉”と書いてある。
排煙ダクトからもうもうと焼肉の煙が輩出され、たれと肉の焼ける香りが辺り一面に充満しているようだ。
そしてこの香りにつられて煙に集まってきたのは俺たちだけではなかったらしい。
「おーい!」
あれは生活用の馬車だ。キヨシゲさんの班だろう。
手を振っているのはチズルさんだ。
「この匂いはかなり凶悪ですな、随分向こうからおいしそうな匂いが届いていたのですよ。」
キヨシゲさんたちも辛抱できなかったそうだ。
二班が同着となったのだから、いずれもう一班もやって来るかもしれないなんて言いながら店の暖簾をくぐった。
学生たちの食事の時間が終わったためか、いくつもテーブルが空いておりハルシゲさんたちが追い付いても大丈夫そうだ。
肉の注文は女性に任せ、男性陣は「白飯!」とだけ指定してそれぞれの情報収集の結果を交換し始めた。
女性陣はまったく仕事の話には参加せず、メイド二人も含めてメニューに夢中になっている。すでに手元にドリンクが届いており、したたかさに驚くばかりである。
「おくれたー!」
アオイさんがシノさんの手を引きながら店に飛び込んできたのだった。
夕方に集合の予定だったのだが、昼過ぎには集合となってしまっていた。
目の前で炭火が燃え、金網の上に置かれた様々な部位の焼き肉が煙と炎と香りを思う存分に漂わせており、全員の目が金網に集中しているのもうなずける。
焼けたお肉をほおばるフィアを見ていると幸せな気分になってくる。男性が空いた網に肉を載せ、焦げないように返しながら様子を見る。焼けた端から女性がつまんでいき、白ご飯と肉を美味しそうに食べる。
しばらくそんな状態が続き、女性の食事がデザートに移るとようやく男性陣の食事の時間となった。
楽しい時間も満腹を迎えると自然と仕事の話になった。
「魔法科学省の従業員が暮らす宿舎や貸室、宿でやはり帰ってこないという事が起こっているようだ。」
ハルシゲさんは従業員の住まいを訪ねて回っていたらしい。
キヨシゲさんの班はマーケットや飲食店を虱潰しに聞きこんでいたそうで、貴族様方が最近来なくなったという意見を多く回収していた。
まとめるとこうだ。
魔法科学省に務める職員や貴族がここ最近宿に帰っていなかったり、買い物に来ていない。
その他の職員や学生に特に変わりはない。
いつもの学生がいつもの時間にやって来てくれるという話が大部分を占めていることから、魔法科学省に限って吸血鬼の被害が出ているのだろう。それもいつまで楽観視できるかは判らないが。
断罪の役目を負った俺が来ており、あの吸血鬼は俺たちが不審に思っていることもわかっている。このまま逃げるか、開き直って被害を拡大させるか。追い詰められた吸血鬼が何をするかは判らない。
最後にキヨシゲさんの班とハルシゲさんの班の全員に魔法科学省を尋ねた様子とやり取りなんかを聞いてもらった。
「ほほう、吸血鬼でしたか。」
「ちょっと厄介な感じになってきたようだな。」
お二人の感想は淡々としたものだったが、護衛隊のみんなの意見は違うようだ。
「その吸血鬼はよく襲い掛かってこなかったものですね。普通吸血鬼にとって人間と言うのはいつでも血を吸っていい血袋としか見えていないものです。ソウタさんが貴族であっても構わないのが吸血鬼ですし、人間が魔法使いでも魔法耐性の特別高い吸血鬼と言う種族はあまり恐れないものです。」
「そうだな、今までの経験からすると大抵の場合はいきなり襲い掛かって好きなだけ血を吸って、満足したらポイってのが多かったからな。」
「シマバラであった吸血鬼騒ぎの時は俺の仲間もやられた。全身の骨が折られて一滴の血液も残っていなかったからな。」
「そんなものですか。その時はどのようにして退けたのですか?」
「いや、吸血鬼が満足したら居なくなっただけだった。太陽の光に弱いとか銀が苦手だとか、大蒜が嫌いだとかは迷信の類だったよ。何にも効果がなかったのを覚えてる。」
聞きしに勝る厄介さだ。
「魔法耐性も高いという事ですが、俺たちの魔法でもダメですかね?」
「どうだろうな。二人の魔法がレベル10だからそれで効果がないとなればもう、誰にも吸血鬼を止めることができないって事になるぞ。」
四大属性魔法は多分効果がなさそうだ。
五大精霊魔法ではどうだろうか。吸血鬼が使うのは主に闇と呪だ。
カウンターマジックも闇と呪から選べば相殺効果も期待できるのではないだろうか。
でも、だったらどうしてあんなにも動揺していたのだろうか?
気になることが多すぎて纏まらないな。
「でも、今夜だな。」
「ん?シゲさんどういうことですか?」
「おめぇさんが追い詰めちまったからな。逃げるなり襲うなりするんなら今夜だろうなって思わねぇか?」
「う~ん、じゃぁ今夜はそのつもりで警戒しましょうか。」
昼食後に再び三班体制で聞き込みを行った後、昨日の野営地に戻ってきた。
今のところ気配察知にかかるような者はいないがシゲさんの言うように今夜には襲撃があるかもしれない。
吸血鬼が逃げることも考慮してレネゲイドを歩哨に立たせ、ピンポイントで魔法科学省の熱源反応を監視している。
どこに行かれようとも大丈夫だろう。
と言うか、この時点で熱源反応が一つしかないのが決定的だな。
どうして吸血鬼はこうして人の命を奪うのだろうか。
サキュバスもそうか。
フィアと一緒になって判ったことだが、この世界は色々なことが向こうで読んだ小説やマンガとは違う。もっと現実的と言うか人の命が軽いというか、本で読んだ通りなのかもしれないが目の前で人が死んだり、見たこともない様な魔物が襲いきたり、それを俺自身が魔法で仕留めたり。
フィアも毎晩俺と過ごさなければ死んでしまう。
吸血鬼にとっても血を吸わなければ生きていけないのだろうな。
そしてそれは俺たちにとっては困ったことなのだと判る。判るが、どこかで納得できていない自分がいることも判る。
この世界ではそう言うモノなんだと割り切ろうとしているんだが。
レネゲイドから感応波通信が来る。
吸血鬼が動いた。
こちらに来るようだ。
やはり決着が必要なのだろうか。
まっすぐ飛来する吸血鬼はものすごい速度でやって来る。低空飛行で音速に近い速度が出ているようだ。
「全員起きろ!戦闘準備!」
一気に慌ただしくなる。
フィアでさえも飛び起きてきた。素っ裸からの準備だからか、一番時間がかかっているようだったが、それでも一分と経っていない。
非戦闘員を馬車に匿い、護衛班とフィアに俺。5人で迎え撃つ体制だ。
死角を突いてくるかとも思ったが、正面から来るようだ。
間もなく接敵する。
正面から砂埃を舞い上げ、地面すれすれにやって来る吸血鬼は俺たちを正面に捕えるとそのまま突っ込んでくる。
俺は障壁を正面に立てた。
「デストロイウォール!」
ガイン!と大きな衝撃音が発生し、吸血鬼はもんどりを打って倒れる。
「ちっ!くそう。」
悪態をつきながら起き上がると仄暗い赤い色に光る双眸をこちらに向ける。
「お前たちさえ来なければ!」
「来なければなんだ!もっとたくさんの人を吸血できたとでもいうのか?」
「ああそうさ。私たち吸血鬼にとって殺しても殺しても沸いてくる人など単なる餌だろうに。そこのサキュバスにしたってそうだろうに。
毎晩お前たちに可愛がってもらっているんだろ?何人喰ってる?お前とお前とお前もか?」
「そ、そんなことありません。私はソウタさんに契約していただいています。あなた方のように誰かを殺すなんてことはしてません。」
「そうかよ!じゃぁ、こいつを殺せばお前も私と似たようなものだろ?やってやるよ!」
「だまれ!」
俺の一言で場が凍る。
「フィアのことをお前は何と言った。俺の妻をお前と同じように言うんじゃない。」
湧き上がる怒りの感情が吸血鬼を睨みつける。
俺はこの吸血鬼を許せそうにない。
「は!?お前の妻か?お前がどれほどのものかは知らないが断罪を担うほどだからそれなりには使えるんだろうが、お前たちの力では私には及ばないだろうよ。力尽きたところで一滴残さずに血を吸ってやるよ。サキュバスは生かしておいてやろう。末期が楽しみだよ。」
「やってみろよ。」
「そうさせてもらう。」
グッと体重を下げ、瞬時に視界から消える。
俺の胸倉に恐ろしいほどの圧力が襲ってきた。
「グ!」
真正面からの特攻じみた突撃から繰り出される正拳突き。見えなかった。
真後ろに吹き飛ばされ、数メートルは転がった。早い!
勢いをそのままに後転から起き上がった。
やばいなこれ。
メイドちゃんズにとっては生まれて初めて見る魔法と戦闘。お館様はかっこよく吸血鬼に立ち向かえるのでしょうか。




